6弾・15話  花婿試験の行く末


 最初の花婿試験の勝負は学力対決で、司会の青年が読み上げる問題を早く正しく答えた方を勝ちとしていた。

「レザーリンド王国建国前、この土地は何と呼ばれていた?」

「元素記号Fe。この金属の名前は?」

「『一度やけどをしたら冷たい水を見ても恐れる』。このことわざの意味は?」

という風に次々に問題が出てきた。ドナウズとギラルドはフリップボードに答えを書いて、正解を当てるか不正解を出したりとしてきた。

「最後の十一問目! ペルト帝国、テレシコフ十世は今のペルト帝国でもおなじみの祝日、何の日を設立した?」

 その様子を広場に来ている一般人ややぐらから見ているイルゼーラたちが最後の十一問目はどっちかとハラハラしていた。

「大丈夫よ。うちのお姉ちゃんの受け売りなんだから」

 パーシーが三日間で姉のウルスラから勉強を教わったギラルドだから問題ない、とドヤ顔していた。ドナウズはフリップボードに「労働王の記念日」と書き、ギラルドは「コザック(農民兵)の祝日」と書いた。

(答えはどっちだ?)

 稜加も他の面々も胸を高鳴らした。司会の青年が正解を発表する。

「正解は……ドナウズ=ジェルダート!! テレシコフ十世は別名・労働王といわれ、最初に一般人と共に働いた十月七日を記念日にしたんです。コザックの祝日は九月十七日なんですよね〜。学力対決の勝者はドナウズ=ジェルダート!!」

 ドナウズはフフン、としてギラルドは片手で額を叩いて静かに悔しがった。

 二番目は射撃対決で広場に二つの的が立てられ、ドナウズとギラルドは耳栓をし、兵士が持ってきた小型ライフルを持って的を狙う。

 ターン、ターンという音が鳴り響き、ドナウズは中心の百点に一発、中心の周りの外の五十点を十字状に撃ち、二回り外の十点には一つもなかった。

 ギラルドは中心をくまなく撃った為に的の中心が大きく風穴を空けて、硝煙が太く揺れていた。射撃対決はドナウズ三百点、ギラルド五百点でギラルドが勝った。

 三番目がマナー対決で椅子に座ったドナウズとギラルドの前に一杯のスープの器が運ばれ、二人とも匙を使って音を立てずに飲み、一度パンや果物を手で触った後に使うフィンガーボールも急かさずに洗った。

 ところがギラルドは相手から物を受け取った時に使うあいさつの言葉を間違えた為に、マナー対決はドナウズの勝ちとなった。ギラルドは謙譲語と尊敬語を間違えてしまったのだった。

 四番目は武術対決でギラルドもドナウズも拳を交えて挑み合った。一たんはギラルドが押されてしまうも、隙を突いてドナウズを肘鉄で仰向けて倒したのだった。

 五番目はピアノ演奏で王兵数人がピアノより小さい台車に乗せたチェンバロを引いて、『レザーリンド交響曲』を演奏した。ところが中盤でギラルドが演奏中、突然音が切れてしまいギラルドは全部演奏できないままドナウズの勝ちとなってしまった。

 六番目は剣術対決で二人とも、兵士の練習用に使う模造刀でどちらかが倒れるまで戦い合うものだった。

「おれはドナウズさんに九千ダラス賭けるな」

「だったら、わたくしはギラルドくんに八五〇〇ダラスを賭けましょう」

 観客の中には二人の勝負を競馬のように賭ける者もいた。

「試合開始!!」

 進行役の青年名の合図で、ギラルドとドナウズの剣術試合が始まった。

「は、始まりましたぁ。剣でのぶつかり合いがぁ」

 気弱なフォントがハラハラしながら二人の様子を見つめる。

「あれは斬れない剣なの。ケガをしても擦り傷程度だから」

 パーシーがフォントをなだめる。

「ギラルド―ッ! 絶対勝てよーッ!!」

 やぐらにいる精霊たちがギラルドを応援する。やぐらの頂にいるイルゼーラはギラルドとドナウズの剣試合を見守りつつ、イルゼーラの傍らにいる精霊アレサナが難しい顔つきをする。

「一体どうしたん?」

 フーモックがアレサナに尋ねてみると、アレサナはこう返事をしたのだった。

「ああ。さっきのピアノ演奏……正しくはチェンバロ対決なんだけど、ギラルドが使おうとしていたチェンバロに誰かが近くにいたのよ」

「人間か? スピアリーか?」

「人間よ。痩せていて冴えない風貌だったけど……」

 それを聞いてフーモックはハッとなった。

「ま、まさか、ドナウズ側の……?」

それを聞いてイルゼーラは二精霊の方向に振り向く。

「そ、それって本当なの!?」

一方で広場ではギラルドとドナウズが模造刀でお互いを迫り合っていた。キンッキンッ、と金属音が鳴り響き、観客たちをハラハラさせていた。

「ん?」

 やぐらから見ていたラッションが観客の中に痩せて冴えない風貌の男が、人ごみに潜り込んだのは何かを落として拾おうとしたのだろう、と思った。しかし、そうではなかったのだった。

 痩せた男はギラルド側の範囲に近づくと、隠し持っていた水筒から水をわざと零して、ギラルドが即席の水たまりに足を滑らせた。

「もらったぁっ!!」

 ドナウズが模造刀を下から跳ね上げて、ギラルドの刀を弾いたのだった。

 ドッ、とギラルドは仰向けに倒れ、幸いにも尻もちをついたのでケガをせずに済んだ。

「勝者、ドナウズ!!」

 進行役の青年が判定をし観客が「おおーっ」と声を上げる。

「ぼくの、勝ちだね」

 ギラルドを見てドナウズがほくそえんだ。

(くっそ〜。兄貴や親父やお袋に反対されつつも、ばあちゃんが折角後押ししてくれたっていうのに……。ドナウズに負けたとはいえ、おれの苦手科目を鍛えてくれた恩師にも申し訳がねぇ……)

 ギラルドは悔しさのあまり歯軋りさせた。ところが、やぐらにいた精霊たちが飛び出してきたのだった。

「一体どうして!?」

 イルゼーラは気づいていたけど、稜加や他の面々もパートナー精霊が何故飛び出していったのか、疑問を感じた。

「何だよ、勝負はついただろ。そいつを贔屓するのか?」

 ドナウズが精霊たちに睨みつけると、アレサナはドナウズ側の不正を主張しだしたのだった。

「あなたは不正を起こしました。見てごらんなさい。空は曇天だけれど雨はまだ降ってはいない。にも関わらず、ギラルドの所にだけ水浸しになっていますわ!!」

 他の観客もギラルドの周りが水で濡れているのを確かめる。

「本当だ。でも何で……」

 観客の一人が首をかしげると、アレサナが水のスピアリーであるフォントに目で合図をしてきた。フォントは観客の持っている水筒の水を震動させて、観客の一人が声を上げる。

「うわっぷ」

 それは痩せた冴えない風貌の男で、彼の持っている水筒の水がギラルドの足元の水浸しとつながって、水は痩せた男の水稲の中に入っていったのだった。水は他の観客にかからず生き物のように動いて、痩せた男の水筒に入っていったのだった。

 痩せた男は逃げようとしたが他の男たちに取り押さえられて、フーモックが捕らえた男に尋問する。

「やい、何でこんなことをしたんだ!? 誰にやらされたんだ?」

 フーモックが恐い目つきを向けてきたので、男は思わず声を出したのだった。

「お、おれはドナウズ坊ちゃんが有利になるように、とチェンバロの弦を切ったり剣術試合中に水浸しにして妨害したんだ!」

 すると観客の多くがドナウズを睨みつけてきた。

「さては部下に命じて不正をやっていたのか!」

「卑怯者!」

 ドナウズは他の人々から罵られて蔑まされ、立ち尽くした。その時、にわか亀が降ってきた。

「わぁ、何でこんな時に……」

「急いでやぐらから下りよう!」

 ジーナが文句を言いながらエドマンドが他の面々を促す。幸い兵士が王室のテントが張られていたので、イルゼーラたちはここに入って雨を凌いだ。

「違う。ぼくはズルなんてしてない……」

 観客たちからせっつかられていたドナウズは狼狽えるも、痩せた男が観客たちに言った。

「違います! ドナウズ坊ちゃんの命令ではありません! 全部おれがやったんです!これだけは本当です! 信じてください……」

 だけど観客たちの怒りは納まらなかった。

「主人を庇う必要なんざねぇっ!」

 すると一人の人物が大衆を止めてきた。

「みんな、やめろよ。ドナウズは確かに野心家で嫌味ったらしいけどよ、子分に命じてズルをするような奴じゃねぇ」

 水浸しで足を滑らせるも起き上がれたギラルドだった。

「なぁ、あんた。何でおれが不利になるようなことをしたんだ?」

 痩せた男はギラルドに訊かれると、ひざまづいて頭を垂れてきた。

「も、申し訳ない!! おれがこんなことをしたのは、タギーナさまの為だったんです!!」

「タギーナ?」

 ギラルドが訊くとドナウズが答えてくる。

「ぼくのすぐ下の妹だ。タギーナは賢くて家庭的だが虚弱体質だ。ぼくが女王と結婚すればタギーナがジェルダート家を継ぐ。だけどタギーナはひ弱だから支えてくれる婿が必要だった。けれどタギーナと結婚してくれるような男は現れなかった。そこで卑怯な手を使ってまで、ぼくが有利になる様なことを……」

「は、はい! 坊ちゃんが女王と結婚すれば、タギーナさまも王家の親戚となって王室医師の治療を受けられ、さすればタギーナさまは健康になると……」

にわか雨がだんだんと強くなっていってザー、と音を立てる。ギラルドもドナウズも、テントにいる稜加たちも気づいた。彼はタギーナに好意を持っているのだと。

「わかったよ。だけど、ぼくが大衆に大いなる誤解を持ってしまったのと、お前が不正を起こしたから花婿試験はぼくの負けだ。潔く引くよ」

ドナウズがそう宣言したので、ギラルドもイルゼーラ一行も他の観客もドナウズを見直し、観客の一人が拍手、また拍手と続けてきて、ギラルドがイルゼーラ女王の婿に決まったことを現していた。

 ギラルドの夢が叶った一歩、いや数歩後だった。

 その後でジェルダート卿のお詫びの手紙と結婚式用の指輪が二つ送られてきた。ドナウズの花婿試験で不正を起こしていた男、下男のクラーレをクビにしようとしたが、ドナウズが訴えてきたのでクビにはせず辺境の支部へ送り、またタギーナもクラーレを支える為についていったという内容だった。結婚式用の指輪は当然、新郎新婦用で式の当日まで仕舞ってほしい、と添えてあった。つまりどんな形や素材にしたか待つまでの楽しみにしてくれ、とのことだった。

 ギラルドはどうにかイルゼーラの婿に決まり、婚約期間中は他の王兵たちとの任務の為、レザーリンド中を回っていた。王室以外の仲間も林業やマナピース工房、学業に勤しみ稜加もまた花嫁のドレスデザインや裁縫技術の練習に励みながらレザーリンド王国で過ごしたのち、現代日本栃木県織姫町の自宅に帰っていったのだった。レザーリンド王国では十日ほど過ごしてきたのに対し、日付は翌日の朝六時で夜の十時に出かけていってから九時間しか経っていなかった。


「全く今回でのエルザミーナ滞在は何やかんやで大変だったんだよ」

 朝食の最中、稜加は居間で朝食のポークソーセージと炒り卵をつつきながら両親と弟妹にエルザミーナでの様子を伝えたのだった。

「女王の婿が決まって公務の負担が減るってことだろ? 良かったじゃん」

 康志が味噌汁をすすりながら返事をした。

「しかもお姉ちゃん、女王さまの結婚式のドレスを作るの任されたんだねぇ。どんなん?」

 晶加が炒り卵をほおばる。

「いや、まだ決まっていないんだわ。式も当分先だしね。わたしだって夏休みの宿題やよっちゃんとかの中学の時の女の子との付き合いもあるからなぁ」

 もちろんエルザミーナで恋人や親友との交流もあるが、それはいつでも行けるので問題なかった。

「ところで稜加、八月に入ったら山口県の伯父さんの家へ旅行するんでしょ? 去年は受験生だったし」

 母が尋ねてきたので稜加は手を止める。稜加の傍らのデコリが「山口県? 伯父さん?」と尋ねてくる。

「そういやデコリくんはよく知らなかったな。山口県は知晴の生まれ育った場所で、中国地方の西面にあってだな……」

 父が山口県に住む知晴の兄である伯父夫婦といとこ、存命の祖父母のことをデコリに教えてきた。

「お父さ〜ん、デコリも連れていくけど、伯父さんたちには見せないようにしないと」

 稜加が困りげに言ってきた。だけどエルザミーナとつながっているから、稜加は他の人とは違う幸せを持っているのだ。


〈第五弾・おわり〉