1弾・6話 ジーナ対パファダー


 稜加たちは森の中へ入り、また森に詳しいジーナを先頭にして、木の枝が空を覆いつつも木漏れ日で地面が照らされる中を進んでいった。

「そういやぁ、稜加……だっけ? あんたは異世界から来たって本当か?」

 森の中を移動している途中、ジーナが稜加に尋ねてくる。

「うん。あっちでは中学三年生で、入学志望の高校に入学するための受験生で、学校に通っている他にも両親が共働きだから弟と妹の世話や家事をやっていて」

 稜加はジーナにわかりやすいように説明する。

「ふぅん。稜加も一番上なのか。今通っている学校より上の学校に入るために勉強しながら家事と弟妹の世話をしているなんて立派だよ」

「そ、そうでもないよ。ジーナの方がよっぽど立派だよ。お父さんは亡くなっていて林業で生活を支えているし」

 稜加が謙遜するとイルゼーラがレザーリンド王国での身分による生活を教えてくる。

「稜加、レザーリンド王国では一般民の共働きや一人親の世帯では子供が家事や家の稼業を引き受けていたり、成人してなくても働いている子が結構いるのよ」

「そうだったの? 知らなくてごめん……」

 稜加が誤るとジーナは気にしていなかった。

「いいの。あたしは語学は読み書きや簡単な計算や身近な法律や村での規則だけが精一杯だったのよ。ああ、でも村の大人たちから薬草やキノコの種類や効果による知識はあるのよね」

 ジーナは稜加に自分の学を教えると、ウッダルトが声を上げてきた。

「湖が見えてきたぞ! 湖の真ん中の岩の上にダールとニーナがいる!」

 ウッダルトの言葉に稜加たちが顔を湖へ向けると、湖の真ん中にダールとニーナがおり、拘束はされてはいないものの周囲が湖のため身動きが取れなくなっていた。

 ジーナは弟妹を見つけると、湖のほとりに立つ。ダールとニーナも姉を目にして呼びかける。

「お姉ちゃーん!」

 続いて稜加とイルゼーラとサヴェリオも精霊も出てきて、人質になったダールとニーナが見つかったのに、湖の岸と岩が距離があることに気づくと立ち止まる。

その時、水飛沫と共に魔変人形が現れたのだ。

「ヒャーハハハ! やっぱし来たか。待っていて正解だったぜ!」

 稜加たちのいる岸の反対側の岸からパファダーが姿を見せる。

「ダールとニーナを返して!」

 ジーナがパファダーに訴えるが、パファダーは鼻で笑う。

「弟たちを返してほしくば、魔変人形を倒してみるんだな!」

 パファダーの魔変人形は左足を出して、構の姿勢を取る。

「稜加、わたしたちでやるわよ!」

「わかった」

 稜加とイルゼーラは自分のスターターに〈フュージョナル〉のマナピースをはめ込んで、精霊と合体する。

「フュージョナルスピアリー、セット!!」

 稜加とイルゼーラは白と虹色の光に包まれ、その眩しさにジーナとウッダルトがまぶたを閉ざしてしまうと。光が治まると、デコリと合体した稜加、アレサナと合体したイルゼーラが姿を見せる。

「姫さまと稜加が精霊と合体した……?」

 ジーナとウッダルトが姿を変えた稜加とイルゼーラを見て、目を丸くする。

「救い手となった人間は精霊と合体して、一つの姿になるんだ」

 サヴェリオがジーナに教える。

「じゃあ、あたしとウッダルトも……?」

「〈フュージョナル〉は人間と精霊の気持ちが同調していないと、発動できないんだ」

 それを聞いてジーナとウッダルトは沈黙してしまう。稜加とイルゼーラは自分の持っているマナピースを左手首のブレスレット化したスターターにはめ込み、技を発動させる。

「〈ハントアーチェリー〉、〈エアリーストライク〉、セット!」

 稜加は無属性の弓矢の浮彫の白い半透明のマナピースと桃色の強風の浮彫の風属性マナピースをスターターブレスにはめ込み、ブレスレットから弓矢が出てきて稜加の手の中におさまる。

「〈シャープオブシディアン〉、〈ロングスピア〉、セット!」

 イルゼーラがオレンジ色の大地属性の楔形の浮彫のマナピースと白い無属性の槍の浮彫のマナピースをブレスレットにはめ込んで、ブレスレットから黒い光る鉱石、黒耀石の矛先の槍が出現してイルゼーラの手におさまる。

「あのブレスレットがスターターの役割をしているんだ」

 サヴェリオがジーナ救い手の技の発動を教える。稜加は弓を構えて魔変人形に狙いを定めて風の力をまとった弓矢を向けて放つ。風の矢は魔変人形に飛ばされたが、魔変人形は左手をかざすと風の矢を消してしまった。

「え?」

稜加はこの様子を目にして驚き、稜加が放った矢が目の前に現れて、稜加は危険を察して避けて風の矢が森の木を三本続けて貫き、木の幹に孔が空く。

「い、今のは……」

 稜加がこの様子を見て身震いするも、パファダーが答える。

「ヒャハハハ! おれの魔変人形は超属性だぜ〜。授けられたのはアポーツ、物質移動だ。自分でなければ何でも別の場所に移せるんだぜ〜」

「ちょ、超属性!? てことはわたしの世界でいう超能力のことなの? そんなの手強いよ〜」

 稜加がそれを聞くとふさぎ込んでしまい、イルゼーラが踏み出す。

「そしたら技を移される前に倒せばいいのよ!」

 イルゼーラは黒耀石の槍を魔変人形に向けて、突きつけてきた。魔変人形は普通の人間と違って動きも察知能力も高いため、イルゼーラの攻撃を易々避ける。

「くくく、王女の割には単純な攻撃だな。頭を使うってのは、こういうことをいうんだぜ〜」

 そう言ってパファダーは魔変人形を操るための紺色のスターターに重力を現す上下の浮彫の紫色のマナピースと渦の浮彫の青いマナピースをはめ込んで、魔変人形が手を動かすと湖から渦が出てきて、更に上昇したかと思ったらイルゼーラの方に向かってきて、勢いよくぶつけられた。

「きゃああ!」

「イルゼーラ!」

 サヴェリオと稜加が魔変人形の攻撃を受けたイルゼーラを見て叫ぶ。

「〈グラビティナル〉と〈スクリューウォーター〉の合わせ技……」

 イルゼーラはずぶ濡れになり、黒耀石の槍は折れてしまう。ジーナはさっきの攻撃で湖の水位が半分ほど減ったのを目にすると、今のうちにダールとニーナを助け出そうと湖の中に入っていった。幸い水位はジーナの胸までの深さとなっており、つなぎが濡れるのも構わず、敵が目を放している隙に岩の方へと進んでいった。

「おい、ジーナ。いいのか? 敵に見つかったら、ジーナも危ないぞ」

 ウッダルトがジーナに言うと、ジーナは小声で返事をする。

「今しかないんだよ。 岩に着いたら脱出向けのマナピースを使ってダールとニーナを岸に行かせればいいんだから……」

 魔変人形は稜加とイルゼーラを相手し、二人は手持ちのマナピースで火の玉を出したり、電撃を出す黄色いマナピースで魔変人形に攻撃をしていた。ジーナは湖の中を進み、湖の中は魚や水虫、カエルやイモリが棲んでいて、水草にからまりそうになりつつも、ダールとニーナのいる岩場にたどり着いた。

「あっ、お姉ちゃん」

「助けに来たよ。この〈バインアップ〉と〈セパレーション〉のマナピースで岸に渡してあげる」

 ジーナはつなぎの懐から深緑のスターターを取り出して、地面から出る根っこの浮彫の緑色のマナピースと一つと二つに変える浮彫の白いマナピースをはめ込んで、岩の近くの木から根っこが伸びてきて、ダールとニーナのいる岩の方にからみつき、更に分かれて雲梯状になる。ダールとニーナはパファダーに気づかれないように木の根の雲梯を使って逃げ、ジーナも水から上がって雲梯で逃げようとした所、パファダーに見つかってしまう。

「お前、人質を……」

 ジーナが気づかれたと身動きを止めるも、サヴェリオが岸に着いたダールとニーナを連れていった。

「君も早く岸の方へ!」

「そんなことを言われても、ってああ!」

 パファダーは魔変人形に大きな岩を出す大地属性の〈ロックドロップ〉をジーナの真上に向けて落としてきた。

「姉ちゃーん!」

 ダールとニーナがその危険を見て叫び、ウッダルトが受け止めようとするが、体と岩の大きさに差がありすぎて、岩ごと落下してしまう。

「ジーナ! ウッダルト!」

 稜加とイルゼーラがそれを目にして止めようとマナピースを使おうとしたがどれにしたらいいか慌ててしまい、ジーナももうダメだと思った時だった。ジーナの持っている〈フュージョナル〉のマナピースが白と虹色の光の激しい光を発し、岩が粉々に砕け散った。

「何!?」

 パファダーもサヴェリオたちも目の当たりの状況に驚いてまぶたを閉ざすも、光が治まるとウッダルトと合体したジーナが湖の岩の上に立っていたのだ。髪の毛は黄緑色の木の葉を連ねたような三つ編みポニーテールに変化し、頭部には細木を編んだようなヘッドギア、胴体は樹皮のような色と模様のコンビネゾン風の衣装に焦げ茶色のグローブとブーツに緑色の木の葉型の飾りが散りばめられていた。そして左手首には銀色の六角形のブレスレット。

「やった! ジーナも精霊と合体できたんだ!」

 稜加がジーナとウッダルトの合体を見て嬉々とする。サヴェリオとダールとニーナもジーナの変化を目にして唸る。

「ね、姉ちゃんがウッダルトと合体したなんて……」

「ああ。これが〈フュージョナル〉のマナピースを持った者の力だ。それに何より超属性の魔変人形に勝てるだろう」

「お前も精霊と合体して姿は変わっても、アポーツの力には敵わないに決まっているだろう?」

 そう言ってパファダーは自分のスターターに〈ロックドロップ〉と白い無属性の大砲の浮彫の〈キャノン・レベル1〉をはめ込み、パファダーの魔変人形は岩を筒状にさせた大砲を持たせ、魔変人形はジーナに岩の砲弾を三連射してくる。

「うえっ! あんなの受けたらひとたまりもないよ!」

 稜加がその様子を目にして怯むが、ウッダルトと合体したジーナは左手首のブレスレットに自分の持っている〈バインアップ〉と盾の浮彫の白いマナピース〈ディフェンス・レベル1〉をはめ込んで、ジーナの前に木の根っこが盾の形をとって岩の砲弾を防ぎ、岩は粉々に砕けた。

「くそっ、大地属性は樹属性には弱いんだった。なんなら、これだ!」

 パファダーはスターターに鋼属性を現す灰色、小さな四つの菱形の浮彫のマナピースと青い雨の浮彫のマナピースをはめ込んで、別の技を発動させる。

「〈まきびし〉と〈レインウォーター〉だ。これを受けたらどうなるか!」

 魔変人形は手を真上に掲げて青と灰色の光が出た後に、ジーナの真上に無数のまきびしの雨が降ってくる。

「ひえええっ」

 ダールとニーナはジーナがまきびしの雨に撃たれるのを怯えて顔を背け、ジーナもまきびしの雨を目にして、静止してしまう。

「ズタズタになれ!」

 パファダーがまきびしの雨が降るのを見てほくそ笑むも、ジーナの周辺に紫色の光波の膜が張られて、まきびしの雨を弾いてジーナは無傷で済んだ。

「間に合った〜」

 稜加が急いで祖母が未使用だった〈サイコバリア〉のマナピースを発動させて、ジーナを助けたのだった。

「お前らまだ動けたのかよ! まぁ、いい。三人まとめて片付けてやるよ!」

 そう言ってパファダーはスターターに赤い火の玉の浮彫、稲光型の黄色い浮彫のマナピースをはめ込んだ。

「〈ファイヤーシュート〉、〈エレキテルラン〉、セット!」

 魔変人形の両手から火柱と黄色い電撃が出てきて、更に魔変人形が自身のアポーツを使って、それぞれジーナ、イルゼーラ、稜加に向けて放たれる。

 ドォン、と森の中で大きな赤と黄色の爆風が起き、湖の東側の木々が折れたりえぐれたりした。サヴェリオはダールとニーナを抱きかかえて攻撃を回避して茂みに隠れ、爆風が治まると稜加たちの姿が見えないことに目を見張る。

「ははは。流石に強めの攻撃となると、救い手でもかわせないか」

 パファダーは先程の攻撃で稜加たちは敵わず倒されたものかと思っていた。その時、湖から三つの水泡が出てきて、稜加とイルゼーラとジーナが出てきて、ジーナは木の葉の浮彫の緑色のマナピースをブレスレットにはめ込んで、発動させる。

「〈リーフスパイラル〉、セット!」

 ジーナの掌から無数の木の葉が出てきて、らせん状に舞って魔変人形に直撃させた。

「何っ、水の中にいたのか?」

 パファダーは稜加たちがいつの間にか湖の中に隠れていたことに驚くが、魔変人形はジーナの攻撃を受けて倒され、ボルカーニの時と同じように魔変人形は体が縮んで、素体だけの姿になった。

「な、何故だ? おれの攻撃は上手くいってたのに……」

 パファダーが後ずさりすると、イルゼーラが答える。

「あなたの魔変人形は自分以外を移動させる能力があったけれど、わたしたちのいる所ばかり狙っていたのと、湖の隠れ場所があったのが誤算だったようね」

「う、くそ……」

 パファダーはくやしがるが、ジーナの村の隣町の憲兵たちがやって来た。おそらく村の誰かが呼び寄せたのだろう。黒い制服の憲兵たちは森の様子を見てパファダーに声をかけてきた。

「パファダー=パッツィ! 児童誘拐罪および環境有害罪で逮捕する!」

 パファダーは町の憲兵たちに連行され、精霊と合体していた稜加たちも元の姿に戻り、ダールとニーナも助かった。

「姉ちゃん、助けてくれてありがとう」

「かっこよかったよ」

 弟妹から感謝されてジーナは照れる。

「いやぁ、あたしは二人を助けるのに精一杯だったし……」

弟妹からお礼を言われるジーナを見て、ジーナと弟妹は仲がとても良好だと知った。何はともあれ、ジーナはウッダルトと合体して、さらわれたダールとニーナは無事で済んだのだった。


レザーリンド王国の王間では。

「ボルカーニに続いて、パファダーまで敗れるとは」

ガラシャ女王はレザーリンド王国の湖畔の森に送り込んだパファダーがイルゼーラたちにやられた上に憲兵たちに捕まったことを城の兵長から聞いた。

「ボルカーニもパファダーも仕方のない奴だ。このままにしておけ」

ガラシャ女王は兵長に伝える。だがガラシャ女王には彼女につく忠義者がいたので、自分の味方はまだ残っていることに余裕だった。


 稜加たちはダールとニーナを森の周りの村に送った後、ジーナを連れていくことをジーナの母とヴァールとフィーナに告げたのだった。

「姫さま、お気をつけて……」

「姉ちゃんがいなくても、ぼくたちで何とかしていくよ」

「だから、レザーリンド王国の災いを払って帰ってきてね!」

 母と弟たち、それから幾人かの村人が一行と共にするジーナを見送った。ジーナの服装は林業の時のつなぎではなく、稜加が選んでくれた服であった。緑色の糸で唐草模様の刺しゅう入りのベージュのチュニック、深緑のベスト、黒いレギンス、緑の皮のブーティといったこの地の民族風の身なりだった。

「それじゃあ、行ってくるよ」

「みんな、またな!」

 ウッダルトも共に行動し、一行は森の中に隠したマルティナ号の場所へ向かっていった。


 瑠璃色の夜空をマルティナ号は進んでいった。エルザミーナの夜空は煌めく星々と青白い十三夜の月が闇夜を照らしていた。

「うわー、おいしい」

 マルティナ号で稜加たちはジーナの作った料理を食べていた。籠の中には麦パンがあり、キャベツやニンジンなどの根菜と玉ねぎと猪肉のごった煮は香草の効果によって肉の旨味を増させ野生の臭みが減少され、精霊たちも一つの器から食べていた。サヴェリオも操縦席に座りながらイルゼーラが食べさせてくれた。

「ジーナはやっぱりいいお姉さんだよ。亡くなったお父さんに代わって稼ぎ頭になって、料理もできておいしいし」

 稜加がジーナをほめると、ジーナはパンをほおばりながら稜加に言った。

「まぁね。次の仲間の現在地はヴェステ山か。どんな人と精霊がいるんだろう」

 稜加とジーナとイルゼーラの持っているマナピースから出た幻影には、岩山と炭鉱の光景が映し出されていたため、一行はレザーリンド王国の北西にあるアルヴァ山へ向かうことになったのだった。