エピローグ


 栃木県織姫町の中にある織姫中学校。学校は十一時半で終わって、生徒たちがぞろぞろと校舎から出てくる。

 稜加も白い半袖シャツと黒いジャンパースカートの制服姿で、通知表や学校で使う道具の残りを持って帰って学校から歩いて南下十五分の家へ帰宅する。

「明日から夏休みかー……。暑いのはしんどいけど、夏休みの宿題と受験勉強しないとなー……」

 学校の先生も「夏は受験生の黄金期」と言っていた。学校のない時期に受験勉強をどうこなすかが肝心ということである。

 夏の盆地の県は気温が平地の県よりも高くて、アスファルトの道路から陽炎が揺れて太陽が照りつけてきてセミもジリジリ鳴いているけれど、稜加はようやく平屋の一戸建ての我が家にたどり着きシャワーを浴びて普段着を着て、自室のチェストの中にあるピンク色の本型の道具――スターターを取り出し、リボン状の髪の毛の精霊デコリが出てきた。

 デコリが稜加の世界で暮らすようになってから二ヶ月過ぎたあたりでデコリは稜加が学校に連れていかなくても、一人で稜加の自室の中で過ごせるようになったのだった。

 稜加は弟と妹が先に帰ってきていると、昼食のソーミンチャンプルーとシーザーサラダと海藻スープを作ったのだった。クーラーのある居間で過ごしている康志と晶加は稜加の作った昼食に沖縄料理が出てきたことに驚いた。

「うぉっ。ソーミンチャンプルーだ!」

「おいしそー。リョーねーちゃん、今度は沖縄の炊き込みご飯のジューシー作ってぇ」

 妹に後日の昼食のリクエストを頼まれ、稜加はテーブルの前に座る。

「はいはい。いいから食べる。康志、皿洗いよろしくねー」

「ええっ、おれが皿洗いかよ!? リョーねぇがいくら受験生だからって……」

「つべこべ言っていないで食べるよ。冷めたらおいしくなくなるし」

 三姉弟は春学期の終業式の昼食を食べて、デコリも居間とのつながり先の台所の窓の下で小皿に乗せたチャンプルーとサラダとスープを食べていた。

 稜加にとってはいつもとは違う夏休みが始まる。高校進学の受験生だけでなく、精霊デコリと一緒の夏。

 だけどその内容は今後のことで。