6弾・13話  まさかの強敵現る


「それで稜加の家族に、おれとの関係がバレちまったのかよ?」

 レザーリンド城のサロンでサヴェリオは稜加から稜加の家族に自分との交際が知られてしまったことを聞いて、出されたマカロンをかじりながら稜加に訊いてきた。

「うん……。今は何とかなっているけどね」

 稜加は王城のサロンの椅子に座っていて、両肘をテーブルに着けて頭を抱えていた。

「それで親は認めてくれていたってのに、何で落ち込んでいるんだ?」

 トルナーが尋ねてくると、稜加は自分がサヴェリオに嫁ぐかサヴェリオが無辜になってもらうかと答えてきた。

「そんなの早いって。おれは稜加と両想いになれて充分なんだから。それよりも稜加、臨海学校に行っていた時のお土産、ありがとうな。大事にしまっているから」

 サヴェリオは稜加にこう言ってきた。家族や俊岐や佳美へのお土産はお菓子だが、エルザミーナの仲間には色付きガラスの埴輪のキーホルダーであった。

「うん。喜んでくれて、どうも……」

 稜加はサヴェリオからお礼を言われると、デコリが尋ねてくる。

「ああ、そうだ。ギラルドはどうしているの?」

「ギラルドのことか。彼は真面目に国内での任務を受けているよ。もしかすると、このままイルゼーラの婿になるかもな」

 トルナーが割って入ってくる。

「だけどよ。女王が随分前にばらまいた花婿募集のビラを見て王城にやって来た男の人も来城することもあってな……」

 実質ギラルドとイルゼーラが対面するまでに、レザーリンド各地から花婿候補として来城してきた男が訪れていたのだ。

 貴族の爵位持ち、大企業の社長子息、政治家の息子、大学の学長の孫といった権力者もいれば、農家出身や商会の所属や工事現場勤め、はたまた宿無しルンペンや乞食といった男であった。

 イルゼーラの婿候補として城に来たけれど、イルゼーラの選定に漏れた人にはお詫びとして一〇〇グラムの純金を手渡していた。

「だけども、わたしはイルゼーラから大それた仕事を与えられたからな〜」

 稜加は呟いた。それはイルゼーラと花婿の婚礼用の衣服を作ってほしいと頼まれたのだった。服飾科の高校に入学した身とはいえ、ウェディングドレスをいきなり作ることになってしまったのだから。ファッションデザインや造形基礎の授業を受けて作ったのは、普段用のシャツやスカートといった基礎的な服ぐらいだ。

「まぁ、まだ時間があるから縫い方や型紙作りとかはじっくりやったらどうだ? あと歴代の女王や王妃の婚礼衣装を参考にすればいい」

 サヴェリオが言った。

「そうねぇ。わたしの世界じゃ夏休みになっていつでもエルザミーナ二来られるから、縫い方やステッチの練習をするよ」

 稜加は夏休み中のエルザミーナの生活の予定を立てたのだった。それに王城にはマナピースで動く機織り機やミシン、レース編み機や刺繍用のミシンといった裁縫用の道具が揃っていた。

「まずはイルゼーラの体の寸法を測らないとね。わたしより年上だけど成長期だから、体型変わるからな」

 稜加は親友の婚礼衣装を作る為の最初の段階を決めた。


 稜加とデコリがレザーリンド城のサロンで過ごしている頃、レザーリンド王国の南東にあるジェルディ州の中枢辺りにある州都ジェルドーナの町。

 ジェルドーナは代々領主を務めるジェルダート家が治め、ジェルダートの当主が先祖代々金属の造作を学び、生活に役立つ道具の開発と商売を行(おこな)ってきた。

 今のジェルダート当主も金属の造作で地位と名誉を保ち、また息子にも良家の子女を娶ってやろうと考えていた。その後でイルゼーラの花婿募集のビラを見て、どうせなら息子と女王を結婚させておいて、長女に家を継がせようと改めたのだった。

 ジェルダート当主は長身筋肉質、若い頃から眉目秀麗、才色兼備。十代の頃から幼児から老婆までの女性にもてまくりで、国の東にあるキフェルス州の大学学長の娘を妻にした。

 ジェルダート氏に生まれてきたのは三女一男で一人息子は二番目にあたる。息子には幼少期から英才教育を受けさせて、自分や父や先祖のような一族の当主に相応しい男に育ててきた。

 だけど父子には欠点があった。それは野心が強すぎたことであった。

 どんなに男前でも、頭が良くても、体格のバランスがとれていても、身分が高くても、将来有望でも強欲で傲慢といった欠点がついてくる。

 ジェルダート邸はジェルドーナの町の南にあり、小高い丘の上に建てられており、黄色は縁起が良いからと壁を濃い黄色にし屋根は黄色と映えるダークブラウン、オリエスナなどの南方地域に自生する木花を植えた温室に小型飛行艇七台は停められる程の広さの庭、スポーツ競技用のコートもあるし、寒い時でも泳げる温水プールの小型ドームもある。

 ジェルダート邸の中にある書斎では、当主のジェルダート氏が傘下の工房からの報告書を目に通して改訂版の書類を書いていた。

 書斎は大人四人が横になれる程の広さだが、両壁が本棚で専門書や実用書などの本が収まり、机の背中側に窓と渋緑のカーテン、床は板状のフローリングで床板の上に白黒の市松模様の絨毯が敷かれていた。

 コンコン、とドアのノック音が鳴り、当主は誰だ、と尋ねてくる。

「失礼します。派遣調査員のカルシオです。レザーリンド王城町から戻りました」

「入りたまえ」

 ジェルダート氏に促されて、カルシオと呼ばれた青年が書斎の中に入る。ジェルダート家の派遣調査員は黒いXラインのジャケットに黒いスラックスで、個人によってクロスタイの色が異なる。カルシオは金髪をオールバックにし、クロスタイは青、目は黒いティアドロップのサングラスで隠されていた為、どんな色かは不明。

「噂は本当らしいです。イルゼーラ女王がエヌマヌル大陸のバハト共和国から来たギラルドという青年と婚約するかもしれない、という可能性が流れていました」

 カルシオはイルゼーラ女王の婿候補の身分調査の報告をジェルダート氏に伝えた。

「やれやれ……。女王にわたしの息子を売りつけようとしたら下民、それも異国の小僧に先を越されるとは……」

 ジェルダート氏は傘下の企業の経過報告を読みながら返事をする。

 今のジェルダート当主、アグニシスはココアブラウンの髪を前髪付きのオールバック、目は青緑でどこか怪しげさを思わせ、口には髪と同じ色の髭をたくわえ、えんじ色のガウンに枯草色のシャツとキャメルブラウンのベスト、ツイードの灰色のスラックス、足元は革靴でそれらに合うX型の体型。中年の今でもハンサムだが、野心もその分の度量だった。

「わたしの息子が女王の婿になれば、ジェルダート製金属も拡大化し、長女以外の娘にも高役職の男と結婚させられたのにのう……」

「そのギラルドという青年が不利になるようなことをさせて、排除しますか?」

 カルシオが尋ねてくると、アグニシスは答える。

「いや、それはいい。相手は異国の庶民だ。王侯貴族や高役職の子のような教育や嗜みは学んでいない。実力で負かしてやる」

 アグニシスは口元を軽く上げて笑ったのだった。


 レザーリンド王国の南東ジョルフラン州。ジェルディ州の隣にある町中で一人の少年が二人のならず者を取り押さえたのだった。

「きゅうっ」

 男の一人は長身やせ型に坊主刈りで、もう一人は小太りで角刈りの小男だった。

「空き巣の常習犯、とっちめたぜ!!」

 浅黒い肌にカーキ色の髪とオレンジブラウンの目、その肌の色と反目している白い軍服をまとったバハト人のギラルドである。ジョルフラン派遣部隊の隊長は褐色のひげ面と小太り体型で、実質犯罪者退治は苦手だった。

「異国人とはいえ、難なく犯罪者を軽く捕まえられるなんて」

「どんな運動神経をしているのかな」

他の派遣兵もギラルドの活躍ぶりを見て囁き合う。

「うち実家が工務店だから、親父の部下の方が向いていそうな気がする」

「わたしがバハト人とかのエヌマヌル大陸の民族だったら、お嫁さんになりたい位よ」

 ギラルドを尊ぶ兵士もいれば、快くないと感じている兵士もいる。

「きっと女王に媚びへつらって女王の婿になろうとしているんじゃないのか」

「女王の婿は大公になるからな。地位と財産目当てさ」

 ギラルドの活躍ぶりに嫉妬する兵士は後で部隊隊長から怒られた。

「ったく、お前ら。新人の有能さに嫉妬している暇があるなら、自分を鍛えたらどうだ? 恥ずかしくないのか?」

 ギラルドの能力の高さと活躍ぶりに妬む兵士は怒られて怯んでしまうも、実質ギラルドに嫌がらせをすることもあった。

 ギラルドの普段着を隠したり、ギラルドの祖国では豚肉食禁止なのに豚肉や豚食品を食べさせようとする、ギラルドに嘘を教えて遅刻に追い込む、といったスケールの小さいものであった。

 だがギラルドはこんな嫌がらせを受けてもめげるどころか、イルゼーラの婿になる為に耐えていたのだった。紛失した普段着はフーモックが王城に残っていたので見つけてくれていたし、豚肉食の強要は城のコックが制してくれていたし、嘘による遅刻は罰のランニング十周や腕立て五十回を受けて許してもらっていた。ギラルドの活躍ぶりを見て妬んで嫌がらせしていた兵士は「何をやっても乗り越えてしまうからつまらない」とやめてしまうのだった。

 またイルゼーラもギラルドが来てくれたおかげで自分が王城の外に赴かなくても、国の各地の報告を知ることが出来て、大臣たちとの会議で問題のある場所の解決策を練ることが出来たのだった。

 ギラルドや他の派遣兵のおかげでイルゼーラは女王としての激務が減って、エルザミーナにやってくる稜加やかつての救済者仲間と過ごすことが出来たのだった。

 また稜加もイルゼーラの婚礼衣装のデザインに悩んでいたのだった。刺繍の仕方やフリル・レースの作り方は王城仕えのお針子から教えてくれたからいいが、色やドレスの形や装飾をどうするかで迷っていたのだった。

 ウェディングドレスといっても一口に複数種あり、プリンセスラインや細長のマーメイドラインやハイウェストのエンプレスラインなどがあるのだから。装飾もフリルが段重ねのティアードやおしゃれじわのドレープなどと沢山である。

 稜加はいくつもののデザイン画を描いて、色やスカートの形、袖や胸元などを変えてみてどれならイルゼーラが喜んでくれるかと考えてみたのだった。もちろん、学校の夏休みの宿題もやって。

 稜加のウェディングドレス作りの決定はまだ当分先なので、イルゼーラの公務の負担減少の為の婿取り問題の方をあててみよう。

 あくる日、イルゼーラ女王の元に一通の封書が届いた。差出人はジェルディ州を治めるジェルダート氏からだった。封蝋がジェルダートの家紋であるGの文字とナイフだった。

 ジェルダート氏の封書を受け取ったイルゼーラは中身を確かめると、思わず言葉を失ったのだった。


拝啓イルゼーラ女王陛下へ


 突然この様なお便りを出して申し訳ございません。あなたがバハト人の若者と婚約するかもしれないという話の件で出させていただきました。

 わたしの息子ドナウズ=ジェルダートは当年二十歳で名大学の一つネルララルゴ大学の工学部在籍で成績優秀、運動神経も高く、七歳の頃から七ヶ国の外国語の資格やバイオリン・ピアノのコンクールの上位三位取得を持ち、容姿端麗で世代問わずの女性から好意を向けられております。

 ただ女王が文化や習慣も違うバハト人の青年を婿にしたら純粋なレザーリンド人の女王とは釣り合わないのではないかと心配なのです。

女王が生まれ育ちも学の差もある異国人の青年を婿にしたら、大変な苦労を背負うのではないかと思い、どうせなら我が息子との婿の試験を受けさせて点数の多い方を婿にすればいいのでは、と思ってこの文書を送りました。

 婿試験の内容と日時と場所は同封の別紙に記しましたので。では早々。


アグニシス=ジェルダート