1弾・9話 最後の仲間は


 イルゼーラとジーナとエドマンドは魔変人形の出現した場所に駆けつけると、小人のような小さな子供たちがストリートの乗用車に乗っかって運転を妨げたり、運河の船の操縦士や乗客を放り投げて運河に投げ込んだり、幼い子供たちを泣かしたりと大混乱になっていた。

「何てこと? 今度の魔変人形は大勢いるの?」

 イルゼーラがストリートの様子を目にすると、建物の陰から一人の女が現れる。女はオリーブ色の長い髪を垂らし、三角形の褐色の眼と色白肌にレザーのタイトワンピースに黄色いまだら模様のジャケットをまとい、化粧も濃いめのアイシャドーや口紅を使っていた。

「よく来たわね、イルゼーラ姫。わたしはヴィヴィシア。陛下がわたしに多くの魔変人形を与えてくださったのよ」

 ガラシャ女王の使いのヴィヴィシアがイルゼーラに伝える。

「一人でこんなに多くの魔変人形を操ってんのかよ」

 エドマンドがヴィヴィシアに尋ねてくると、ヴィヴィシアはフンと笑って白と黒の鎧姿の魔変人形にイルゼーラたちを襲わせた。

「みんな、行くわよ!」

 イルゼーラ、ジーナ、エドマンドはスターターに〈フュージョナル〉のマナピースをはめ込み、精霊と合体して魔変人形の群れに立ち向かう。


 稜加はデコリの案内を受けて走るのに慣れてない足でストリートへ向かっていった。するとイルゼーラたちが精霊と合体した姿で、小さな魔変人形の群れと戦っているのを目にした。イルゼーラは黒耀医石の槍を出して魔変人形を薙ぎ払い、ジーナは種型の弾丸を出す樹属性の〈シードバレット〉を〈ショット・レベル2〉を出して魔変人形を撃っていき、ジーナの攻撃を受けた魔変人形は素体だけの状態になっていった。エドマンドはラッションの能力による素早い動きでストリートにいる人たちを安全な場所に隔離させていた。

「わたしたちもいくよ、デコリ!」

「オッケー」

 稜加も〈フュージョナル〉のマナピースでデコリと合体して、腕のリボンを伸ばして魔変人形を拘束したり、一般人に被害が出ぬように弾き飛ばしたりした。

「まぁ、何て状況なの?」

 稜加とデコリがウォーレス邸から飛び出していったのを目にして、ウルスラがパーシーとフォントを連れて現場を目にした。

「確かに人間と精霊が合体して、変な人形たちと戦っている……」

 パーシーが町の様子を目にし、ヴィヴィシアが姉妹を目にする。

「や、こんな危ない所に出てくるなんて……」

「も、もしかしてあなたの仕業なの?」

 ウルスラがヴィヴィシアに尋ねてくると、ヴィヴィシアはフンと笑うと、姉妹に言っていた。

「そうよ。わたしはガラシャ女王の命令で姫さまを捕らえにきたの。ちょっと荒っぽいけど町中で騒ぎを起こせば、姿を見せると思ってね」

 ヴィヴィシアが答えると、ウルスラが怒りをわななせて叫んだ。

「ひどいわ! いくら女王の命令だからって……!」

と、その時だった。魔変人形の四体が逃げ遅れた親子に飛びつこうとしてきたのだった。幼い息子と母親は立ち尽くしていた。

「危ない!」

 ウルスラが親子を守るために飛び出し、パーシーとフォントがウルスラを目にして叫んだ。魔変人形はウルスラにかかってきて、四肢を押さえつけられて地べたに張りつけられてしまった。

「に、逃げて……」

 ウルスラに言われて親子は逃げ出し、ウルスラは魔変人形が枷になってしまい、身動きできなかった。

「他の人間を助けたことはほめてあげる。だけど、いつまでもつかしら?」

 ヴィヴィシアは魔変人形に押さえつけられているウルスラを目にして言った。

「しまった! ウルスラさんが……」

 ジーナがウルスラの危機を目にして叫ぶ。

「だけど敵がこんなにいるんじゃ……」

 エドマンドが魔変人形を倒しながらこぼすも、稜加がパーシーに向かって叫んできた。

「パーシー、フォント! 合体して!」

 イルゼーラたちはそれを耳にして、パーシーにそれが出来るのかと疑問に感じるも、パーシーは戸惑っていた。

「そんなこと言われても……」

 しかしパーシーは稜加の言葉を思い出した。

「パーシーはパーシーで、ウルスラはウルスラって考えれば気楽になれるよ」

 パーシーは自分は姉の代わりではなく、これは自身の受け持つ運命だと確信して。その時、虹色のマナピースが光りだして、家を出る時にウルスラの懐に入っていたのが飛び出して、パーシーの手元におさまる。そしてパーシーは自分が持つ黄色い縁取りに藍色のスターターを開いて、〈フュージョナル〉のマナピースをはめ込んだ。

「フュージョナル=スピアリー、セット!!」

 パーシーとフォントは虹がかった白い光に包まれて、光が弾けるとフォントと合体したパーシーが姿を見せる。

 透明なバイザーのついた黄色いヘッドギア、流水を思わせるシースルーの大きな襟、黄色いビスチェとパフスリーブ、流水型の巻きスカート、両腕は藍色のアームカバー、足元は黄色いレッグウォーマーと藍色のTストラップパンプス、左手首には六角形の銀のブレスレット。

「やった! 合体できた!!」

 稜加たちはパーシーとフォントが合体に成功したことに歓喜を上げる。

「わたしが救い手だなんて……」

 パーシーも精霊と合体したとはいえ、自分の変化に目を丸くする。

「ふん、いくら精霊との合体に成功したからって実力はどうなの?」

 ヴィヴィシアが魔変人形たちに命令を起こし、魔変人形の群れはパーシーに目がけて襲い掛かってきた。パーシーは左手首のブレスレットにマナピースを二枚はめ込んで、技を発動させる。水属性と風属性である。

「〈ウォーターストライク〉、〈クロスウィンド〉、セット!」

 パーシーの掌から一条の水飛沫が出てきて、更に風が絡みつくように起こし、魔変人形の群れは水竜巻に飲まれて、地面に落下する。

「何てことだ、思っていたより強い……!」

 ヴィヴィシアは魔変人形の群れが一度に倒されると後ずさりする。だが周りをよく見てみると、イルゼーラたちが槍で薙ぎ払ったり、地面から根っこを生やして魔変人形を絡めとったり、大きな網を出す〈トラップネット〉のマナピースで一度に大量の魔変人形を捕らえたりとしていた。

「どうやら多勢に無勢の筈が、かえって墓穴を掘ってしまったようね」

 その声にヴィヴィシアが振り向くと、拘束から解放されたウルスラが稜加に支えられて立っていた。ヴィヴィシアの隙を見て、稜加が手首のリボンを使って魔変人形を縛ってウルスラを助けたのだった。

 魔変人形が全員倒されると、パーシーがヴィヴィシアの前に立ちはだかる。

「これでもまだ立ち向かうっていうの? 降参するの?」

 やがて町の憲兵が駆けつけ来て、ヴィヴィシアを拘束し、幸いなことに町の建物や乗り物の被害もなく、町の人たちも軽いケガで済んだので解決した。


 事件が解決すると、一同はウォーレス邸に戻って、帰ってきた姉妹の両親と祖父にこれまでのいきさつをイルゼーラから聞き、パーシーと精霊フォントは稜加たちの仲間になった。

「そうですか。ウルスラではなく、パーシーが姫さまの仲間だったのですね。では、パーシーをよろしくお願いします」

 四角眼鏡に体の横幅がある姉妹の父のウォーレス氏がイルゼーラ一同に頭を下げる。

「パーシー、皆さんに迷惑をかけないようにね」

 ウルスラと同じ面影の母のウォーレス女子がパーシーに言った。

「はい。パパ、ママ、おじいちゃん。姫さまの言うことはちゃんと聞きます」

 パーシーが両親と祖父に向かって従う。ジーナとエドマンドはパーシーの様子が昨日と違うことに首をかしげる。するとウォーレス老人が言ってきた。

「ふぉふぉ、パーシーは本当は素直で愛想のある子なんじゃよ。パーシー、フォント、気をつけるんじゃぞ」

「はい。行ってきます」

 パーシーはイルゼーラたちと共に出発していき、通っている学校には職業体験の名義で休学することになった。パーシーと共に旅立つ時、一行はマルティナ号のある飛行停泊場まで歩いて向かい、稜加とイルゼーラとデコリとアレサナは仲間がすべてそろったことに確信する。

「これで救い手が全員集まったけれど……、本当に険しくなるのはこれからよ」

 イルゼーラが呟いた。稜加もそれを聞いて、生半可な気持ちでいてはいけないという風にうなずいた。

(国を乗っ取った継母とはいえ、ガラシャ女王はイルゼーラのお父さんを殺した悪者だ。魔変人形を作ったり、イルゼーラを捕らえるために追っ手を放ったりするなんて、ガラシャはおとぎ話の魔女そのものではないだろうか? もしそうだとしたら、イルゼーラや国の人たちはどうするんだろうか?)

 おとぎ話の魔女は魔女裁判にかけられて死刑になったり、天罰を受けて亡くなることが多いからだ。だけどガラシャが真の黒幕に操られていたり、不幸な過去があって悪堕ちしてしまったとしても、ガラシャの罪は許されないと稜加は思った。

 どっちの世界でも困難には逆らえないが、どう立ち向かうかが肝心なのは同じなのだと稜加は悟った。