1弾・7話 アルヴァ山


「稜加、起きなさい。学校に遅刻するわよ」

 母の声が聞こえたので、稜加は布団から起きだして寝間着から織姫中学校の黒いブレザーと千鳥格子のスカートと赤いリボンタイ付きの白いシャツの制服に着替えて、通学バッグを持って居間へ向かった。そこにはちゃぶ台の上の朝食を食べている父と弟の康志と妹の晶加がいた。

「おはよう、お父さん、康志、晶加。いただきまーす」

 稜加は朝食のアジの開きと白米ご飯と味噌汁を口にし、朝食を食べ終えると康志と晶加を連れて、二人を織姫小学校に送り届けてから、稜加は織姫中学校へと駆け出していった。女子は黒いブレザーと千鳥格子のスカートで、男子は黒地に黄色いラインの詰襟とスラックスの制服。学年の違う生徒たちが校舎に入る中、稜加は三階の三年四組の教室に入り、教室内ではほとんどの生徒がHRが始まるまで参考書を読んでいたり、単語カードで英単語や熟語を暗記していた。

「稜加、おはよー」

「おーっす」

 佳美と玉多くんが稜加にあいさつしてくる。

「おはよう。二人とも、もう来てたんだ」

「まぁ、おれや百坂のような運動部員は秋の県大会で最後だから、朝練も多いんだよ」

「そうか。でもよく受験勉強との両立がはかれるっていうか……」

 稜加が佳美と玉多くんに言うと、チャイムが鳴って生徒たちは自分の席に座り、教室の前扉から担任の大沢伸夫(おおさわのぶお)先生が入ってくる。通称オオノブ先生は三十代前半の理科教師で、三角形の顔に角ばった目つきと七三分けの黒眼鏡に細身の人でこの日は茶色のスーツと青いネクタイを着ていた。

「起立、礼、おはようございます」

 最初の午前中の授業はいつも通りで、この日の四時間目は自習時間を使っての進路指導だった。次の生徒が呼ばれるまで、他の生徒たちは受験勉強の参考書や問題集を開いていた。

「次、一伊達さんよ」

 進路指導に行っていた女子生徒が稜加に呼びかける。

「あ、わかった」

 進路指導は無人教室で行い、稜加は先生と向き合う。

「一伊達、進学先はどうするんだ」

 先生に訊かれて稜加はくちごもる。

「えっと、あの、そのう」

「一伊達はご両親が共働きで弟さんも妹さんも小学生で学校の送迎をしているとはいえ、クラブ活動は参加してないが委員会だけ出ていても、内申点にひびくからな」

 それを聞いて稜加は着が沈む。

「でも、弟妹の世話と掃除とかはわたししか……」

「それが理由で一柳みたいな子を入学させてくれる学校は限られてしまうぞ」

 稜加は呆然となる。だとしたら、自分の未来はどうなってしまうのか――」


「稜加、稜加」

 誰かに呼ばれた声で稜加は目が覚めた。デコリが起こしてくれたのだった。

(ゆ、夢だったのか……。けど、非常にリアルな夢だった……)

 稜加は自分が今エルザミーナの世界にいて、飛行機マルティナ号の中で座席に座った状態で寝ていたことに気づいた。現在マルティナ号はアルヴァ山近くの森の中に停泊させており、周囲には杉やエニシダのような針葉樹が自生し、灰白色の岩場と小川があった。ジーナが作ってくれたひきわり麦と軽く焼いたパンの中に薄切りのチーズとハムが入ったものである。

「稜加、うなされていたけど、怖い夢でも見たの?」

 朝食の最中、デコリが稜加に尋ねてきた。

「うん、まぁ……。わたしのいた世界では中学三年までは義務教育で公立なら入試なしで行けるんだけど、中三になったら自分で進学先の高校を選んで入学するための試験勉強を毎日やらなくちゃいけないんだよ。でもわたしは勉強の他にも弟妹の世話や家事もしなくちゃいけないし……。それが原因で入学できる高校が限られちゃう、って夢でさ……」

 稜加の話を聞いて、稜加が向こうの世界では大変なのだと理解していた。

「けどさ、お前はレザーリンド王国の救済のためにエルザミーナに来たんだろう? そういうのは解決するまで忘れたらどうだ。今は仲間を集めて国の災厄を払う方が先だ」

「サヴェリオ……」

 サヴェリオが稜加にぶっきらぼうながらも意見を出し、イルゼーラが言いすぎだというように止めてきた。

「解決まで向こうの世界のことは忘れる……、か。それ考えたら気が楽になった」

「そうか。じゃあ朝食を食べたらアルヴァ山へ行こう!」

 稜加がサヴェリオの案の通りにすると決め、ジーナが張り切った。朝食が終わるとサヴェリオは再びマルティナ号を操縦し、アルヴァ山へと向かっていった。針葉樹と小川のある森を抜けると、山のふもとに切り開かれた平地に、いくつものの石細工の店と家々の並ぶ集落があった。

 マルティナ号は集落の近くの空き地に停泊させ、サヴェリオが〈カモフラマント〉のマナピースで、灰白色の岩の布をかぶせて隠した。

 アルヴァ山の集落は石を四角く切って積み上げた建物、厚手の生地のつなぎやズボンを着た男の人が多く歩き回り、店での仕事は主に女の人たちが担っていた。男の人たちは手押し車やロバが引く荷車に鉄や銅などの鉱物、また赤やオレンジ色のマナピースにする前のマナブロックを積んで運んでいた。

「アルヴァ山のような場所は金属類や鋼と大地属性のマナブロックの採掘が盛んなんだ」

 サヴェリオが山で暮らす人々や名産品のことを稜加とジーナに教える。

「マナブロックは採れる場所によって、属性や効果が違うのですわ。山なら鋼属性や大地属性、水辺や海なら水属性という風に。要するに自然エネルギーの残りかすがマナブロックと化したのですわ」

「自然エネルギーの残りかす……」

 アレサナからマナブロックの発生原理を教えてもらうと、稜加は軽く感心する。すると稜加とイルゼーラとジーナのマナピースが仄かに輝き、〈フュージョナル〉が反応していた。

「この集落に仲間がいる、ってことか」

 ウッダルトがマナピースの反応を見て言った。

「サヴェリオはここにいて。三手に分かれて近くを探しましょう」

 イルゼーラが稜加とジーナに言い、サヴェリオはイルゼーラに従う。

 ジーナは食堂に入っていった。食堂は一度に五十人が入れる大ホールの建物で、数種類のデザート、スープと平皿に乗った生野菜と肉もしくは魚のライスプレートをどれか一つ選んで、食べたら会計台の受付係に注文品を紙に書いて支払う仕組みになっていた。食堂は少年から老人までの男たちが多く、厨房でも女の人たちが調理や皿洗いで騒々しかった。ジーナとウッダルトは他の人の邪魔にならないように歩き回っていたが、マナピースの反応は消えていたので、ここではないと察した。

 イルゼーラはマナピース店に来ており、田舎にも関わらずにアルヴァ山の集落の店は品種が多く、棚に置かれたマナピース入りの石の箱が陳列され、大地属性や鋼属性が多く置かれて安かった。店内には集計係の店員とマナピースを買いに来ていた老若男女の客人がいて、イルゼーラとアレサナはこの中に仲間がいると探したが、マナピースの反応は薄れていた。

「ここじゃないのね。でも、ここしか手に入らないマナピースを買っておこう」

 イルゼーラはマナピースをいくつか買った。


 稜加とデコリは一軒の建物の前に来ていた。灰色とベージュの石を積み上げた建物の出入口にはヴェステ文字で『マナピース研磨場』と薄い石の看板で刻まれていた。

「マナピースの輝きが続いている。ここに仲間がいるんだわ」

 稜加は深呼吸をしてドアを二回ノックする。

「何用だ?」

 ドアの向こうから野太い男の声が聞こえてきた。稜加とデコリはその声にびくつくも、しばし考えてから稜加は答える。

「あ、あのう、わたしたち他所の町から来た者です。け、見学させて下さい」

「稜加、そんなこと言っていいの?」

 デコリが稜加の台詞がわざとらしいと思って突っ込みを入れてきた。

「見学? アポなしで来られえもねぇ……。まぁ、急ぎみたいだし、断わる訳にもいかないしな。入りな」

 すると扉が開いて重厚そうな金属の扉の奥へ入ってみると、頭にはキャップや布をかぶり、エプロンをつけて手袋をはめてマナピースを作っている職人が数人いたのだ。掌大のマナブロックを薄めの板状に切ったり、四角くヤスリで整えたり、彫刻刀で浮彫を削る者もいた。道具は回転させて薄く切る砥石、マナピースを薄く切る機械はケガをしないように設計されており、何より浮彫は若い青年がやっていた。

「どうだい? ここは山奥の田舎だけど、研磨技術は都会の機械化よりは立派だろう、お嬢ちゃん?」

 大きな背に四角い顔に筋肉質な体格の親方が稜加に言ってきた。

「あの、わたし、マナピースの工房の見学は今日が初めてですけど……、マナピースってこういう風に作られているんですね」

 稜加が言うと、浮彫担当の青年の方を目にすると、隠し持っていた虹色のマナピースの輝きが増した。すると浮彫師の青年の胸元が同じ虹色に光りだした。

「ん? 一体何があったんだ?」

 青年がシャツの内側に入れているブロンズ色の真四角のペンダントを取り出して中を開くと、白地に虹色のマナピース〈フュージョナル〉が収められていた。

「や、やっぱしいた! デコリ、イルゼーラたちに伝えて! 仲間が見つかった、って!」

「わかった!」

 稜加が浮彫師の青年が救い手の証のマナピースを持っていたことに思わず声を上げると、親方や職人たちも驚くもデコリは稜加に言われて、イルゼーラたちを呼びにいった。親方たちは何のことかと稜加に訊いてきた。

「ど、どういうことだ、お嬢ちゃん……?」

 浮彫師の青年は彫刻刀でマナピースを削るのを一たん止めて稜加を目にする。


「そうでしたか。イルゼーラ姫さまのお供でしたか」

 親方たちはイルゼーラとジーナとサヴェリオが工房に姿を見せると素性を聞いて納得する。

「ええ、あなたの職人が救い手の証を持っているとデコリから聞いてて……」

 浮彫師の青年は椅子から立ち上がっており、切れ長の瑠璃色の眼でイルゼーラたちを見つめる。厚手の麻布を頭に巻き、同じ素材のエプロンと革の手袋を身につけ、黒いシャツと灰色のワークパンツ、黄色がかった肌に細身ながらも筋肉質の体躯であった。

「エドマンド=フューリーです」

 青年は無表情でイルゼーラたちに自己紹介をする。

「この子はジーナと精霊のウッダルト。こっちの子が稜加と精霊のデコリ。稜加は異世界からやって来た人間よ。エドマンド、あなたはわたしたちと同じこれを持っているでしょう」

 そう言ってイルゼーラはエドマンドに虹色のマナピースを見せる。

「ええ、持っていますけど、それで?」

「わたしたちと共にしてほしいの。レザーリンド王国の災厄を打ち払うために」

 イルゼーラはエドマンドに言った。それを聞いてエドマンドはため息をついてきた。

「そう言われましてもねぇ、ぼくは十三歳で両親を亡くしてから三年間、この工房で働いてきて、慣れてきたのにいきなり姫さまでもこんな言葉を出されても困るってもんですよ」

 エドマンドは悪気はないものの、さらりと答えてきた。エドマンドの台詞を聞いて、親方たちが彼の態度を目にして止めてきた。

「え、エドマンド! たとえ姫さまでも、こんな失礼なことを言うとは何事か! 工房のことはおれたちが何とかするから……」

「でも、ぼくにとって親方や先輩たちが仲間で家族で、感謝もしてるんです。何の前触れもなく王族でも、『仲間になれ』って言われても……」

 エドマンドと親方たちがもめ合っていると、ジーナと稜加は顔を見合わせる。

「うーん、次の仲間なりそうな人、気難しそうね」

「仲間になってほしいんだけど……」

 その時、地を揺るがすような音と人々の叫び声が外から聞こえてきた。

「うわー! 何だ、あれはー!!」

 それを耳にして、イルゼーラたちが気づき、アルヴァ山にも危機が訪れたことを察した。


アルヴァ山の集落では二メートル近い大男が暴れており、その男は茶色の鎧兜に覆われており、男も女も子供も老人もロバも平地の牛よりも大きな山牛も逃げ回りパニックになっていた。

「やっぱり、ガラシャの手先だったのね!」

 現場へかけつけたイルゼーラが男に向かって言ってきた。すると鎧の男のいる場所の近くの建物の陰からもう一人の大男が出てくる。男は大柄でいかり肩で半裸に茶色いシャツと黒いズボンに軍靴姿で、長方形の釣り目に大口で角刈り頭である。

「これは姫さん、大当たり。おれはガラシャ女王の崇拝部隊のダイランだ。そしてこいつはおれの魔変人形。おれはボルカーニとパファダーとは違う」

 そう言ってダイランはほくそ笑み、更に自身の持つ茶色のスターターにマナピースをはめ込んで、魔変人形は両拳を上にあげてから地面を強くたたいて、震動に波動が稜加たちの足元に向かって走ってくる。

「フュージョナル=スピアリー、セット!」

 稜加とイルゼーラとジーナはスターターに〈フュージョナル〉のマナピースをはめ込んで、虹色の光に包まれて精霊と合体して、ダイランの魔変人形が放ってきた攻撃をジャンプで交わした。

「なんだありゃあ? 姫さんたちが精霊と合体するなんて……」

 マナピース工房の親方と職人たちが精霊と合体した稜加たちの姿を目にして驚いて口を出す。エドマンドもそれを見、自分が持っているマナピースとスターターをエプロンから取り出して見つめる。

「〈バブルバレット〉、〈スナイプショット・レベル1〉、セット!」

「〈ファイヤーシュート〉、〈スピードブーメラン〉、セット!」

「〈リーフスパイラル〉、〈セパレーション〉、セット!」

 稜加が泡沫の弾丸と狙い撃ちのマナピースを合わせて掌から泡の弾丸を出し、イルゼーラが火の玉とブーメランのマナピースを合わせて炎のブーメランを投げ、ジーナが木の葉旋風と分裂のマナピースで技を倍増させて魔変人形に攻撃する。泡の弾丸が魔変人形の体に当たり、炎のブーメランが魔変人形の装甲を斬りつけ、木の葉旋風が魔変人形を包み込む。

「そうはいかねぇ」

 ダイランは穴掘りの浮彫のマナピースをスターターにはめ込み、魔変人形は地面に潜り込み、稜加たちの足元から飛び出してなぎ倒してきたのだ。

「きゃああ!」

 稜加たちは三方へ飛ばされる。

「くそ、レア度星四つの〈ディグムーブ〉か。女王の手先とはいえ、レアピースを持っているとは」

 サヴェリオが戦いを目にして言うと、エドマンドに声をかけてくる。

「頼む、イルゼーラたちを助けてくれ! 急に仲間になってくれと言ってきたのには、詫びる。君も精霊と合体が出来るのなら、どうか……」

 サヴェリオはエドマンドに頼んできた。エドマンドも稜加たちと魔変人形の戦いを目にして、ためらうけど、そして、ようやく理解した。「仲間になってくれ」の意味が。その時、エドマンドのスターターから一体の精霊が飛び出してきた。

「一緒に駆け抜けていこうぜ。〈仲間〉を助けにさ」


 稜加たちはレアピースによる穴掘り技を繰り出してくるダイランの魔変人形との戦いに苦闘していた。新しい技や次の攻撃をしかけようとしてきても、ダイランの魔変人形は土の中に入って回避した後に稜加たちの足元に出てくるのだから。おかげで集落の大通りは穴だらけになってしまった。

「もう一回〈リーフスパイラル〉……」

 ジーナがマナピースを腕輪型のスターターにはめ込もうとした時、マナピースに細い亀裂が入り、粉々に砕けてしまった。

「うそっ、マナピースが粉々に!?」

 稜加はそれを目にして仰天し、イルゼーラが教えてくる。

「マナピースは使い続けると寿命が来て散るのよ。ましてやレア度の低いマナピースは寿命が早いのよ。〈フュージョナル〉は特殊だから永続のようだけど」

「ええっ! 知らなかったよ〜」

 その時、稜加の後ろの穴から魔変人形が出現してきて、稜加を捕らえた。イルゼーラとジーナは魔変人形に羽交い締めにされた稜加を目にする。

「へへへ、この娘を助けたかったら、降伏するんですな、イルゼーラ姫」

 ダイランがにやつきながらイルゼーラに尋ねてくる。稜加は両手首をつかまれ、恐怖におののくが声は上げなかった。

(どっ、どうしたら……)

 稜加が困っていると、強風のような衝撃が空中を走ってきて、魔変人形の左肩にぶつかり、魔変人形は稜加を離して稜加は急いで逃げ出す。

「な、何者だ!? この魔変人形の装甲を斬りつけてきたのは?」

 魔変人形の左肩には細い亀裂が入り、ダイランも突然の出来事に仰天する。イルゼーラとジーナの間に一人の人物が現れる。

「あ、あなたは……!」

 イルゼーラはその人物を目にして言う。その人物はヘッドギアと胸の装甲とグローブとブーツは赤く、体中に黄色い鎌状の突起が施されていた。よく見てみるとヘッドギアから出ている灰色の髪と瑠璃色の眼は見覚えがあった。

「ぼくが相手だ。悪者め」

 声を聞くと、ジーナも気づいた。自身の仲間精霊と合体したエドマンドだった。

「そうか、お前か。魔変人形、こいつを先に倒せ!」

 エドマンドを倒すためダイランはスターターにマナピースをはめ込み、魔変人形の胸が変形して大砲となり、更に炎の包まれた鋼の砲弾が連射される。

「〈キャノン・レベル3〉、〈ファイヤーシュート〉、〈メタルボール〉の合わせ技よ! あれを受けたら大ダメージだわ!」

 イルゼーラが魔変人形の攻撃を見て叫ぶ。炎の鋼弾はエドマンドに向けられて放たれるが、エドマンドはまるで予測したかのように敵の攻撃を高速で交わしたのだった。

「速い! スピードアップのマナピースを使ったのかしら?」

 稜加が高速で魔変人形の技を回避するエドマンドを目にして言った。

「違うさ。これはぼくの仲間精霊、ラッション自身の能力だ! つまり速さでは誰にも負けない、ってことだ!」

 エドマンドが高速で敵の攻撃を交わしながら稜加たちに教える。

「〈ウォータースプラッシュ〉セット!」

「〈スクリューウォーター〉セット!」

 後方では魔変人形が発射した炎の砲弾を食い止めるためにイルゼーラが水飛沫、ジーナが水の渦を出した。炎の砲弾は水を浴びると火が冷えて地面に転がる。

「ふん、スピードだけの奴なんざ、いきなり動きを止められたら即アウトだ。超属性〈グラビティロック〉で……」

 ダイランが重力を操る紫色の超属性のマナピースをスターターにはめ込もうとした時、エドマンドがより速くひったくってしまったのだ。

「へぇ、レア度星四つのマナピースじゃないか。これ、いただくよ」

「あっ、こら! 泥棒! こうなったら力づくで取り返してやる!」

 ダイランは盗られたマナピースを取り返すために、他のマナピースをスターターにはめ込む。その時、空から無数の石の杭が雨のように降ってきたのだ。

「〈レインウォーター〉と〈ロックフォール〉だ。串刺しになれ!」

 流石にこの多さではエドマンドも避けられそうになかった。だが、この時地面から無数の根っこが出てきて、彼の周囲を包み込んで岩の杭が根っこの壁に当たったのだ。ジーナが植物系の〈バインアップ〉、イルゼーラがレア度星三つの無属性の〈ディフェンス・レベル3〉を使ってエドマンドを助けたのだった。

「うっ、くそ。さっき〈グラビティロック〉さえ取り上げられなければ……」

 ダイランはくやしがるも、稜加は〈バインドロック〉を使って腕のリボンを伸ばして魔変人形を拘束し、更にとどめとして〈ライトエクスプロード〉を腕輪のスターターにはめ込んで、光の波動の爆ぜを受けた魔変人形は体が小さくなって、素体姿に縮んで変化したのだった。

「うう、おれまでやられるなんて……」

 魔変人形を失ったダイランは軟弱になってしまい、更に避難していた町の人々からタコ殴りされる制裁を受けたのだった。


 そして戦いの後、エドマンドはイルゼーラたちと共に行動することになったのだった。エドマンドは作業用の服装ではなく、赤いジャケットと灰色のシャツとカーキ色のズボンと黒いブーツで背には厚手のリュックサックの姿で。

「親方、みんな。ありがとうございました」

 旅立の時、エドマンドと精霊ラッションはマナピース工房の親方と先輩たちに別れを告げた。ラッションは赤と黒の体に三等身、黄色い鎌状の飾りが体に着いた精霊で、エドマンドの肩の上に乗っていた。

「いやぁ、堅気のエドマンドが姫さまたちの誘いを断った時はどうしようかと思ったけど……、上手くやれそうでよかったよ。姫さまたち、エドマンドをよろしくお願いしますね」

「ええ。彼のことはわたしたちに任せてください」

 一同はマルティナ号に乗り込み、更に稜加たちの〈フュージョナル〉のマナピースのから町の幻影が映し出される。建物や道はブロック張りで、人々はスーツやフォーマルドレスなどのおしゃれな服装であった。

「この町、知っている。オスカード市だ。数ヶ月に一度だけど、親方たちに連れられて来たことがあるんだ」

 エドマンドが町の幻影を見てみんなに教える。サヴェリオが操縦席に座り、操縦桿を握る。マルティナ号は上昇し、アルヴァ山からオスカード市のある方角へ飛んでいき、親方たちは彼らを見送って手を振っていた。