1弾・11話 ガラシャ女王との戦い


「うわ〜、なんか凄いやばいのが出ちゃったよ〜。こんな魔変人形がお城で造られていたなんて」

 パーシーが塔の一つから出現した白い巨人を目にして狼狽える。

「いいえ、あれは〈スモライズ〉の逆の〈ビッガイズ〉よ。あの魔変人形は元から大きいのではなく、巨大化させたのよ」

 イルゼーラは白い巨人を見てみんなに教える。すると巨人からガラシャの声が伝わってくる。

「その通りだ。これはわらわの切り札として造りあげた魔変人形だ。九属性五十種類のマナピースを配合してそれを動力源にしている。止めてみるものなら、止めてみろ」

 ガラシャは巨人の胸部の中におり、そこは空洞でガラシャの後ろには赤黒い支柱状の人工のマナピースが赤い光を発しながら巨人を動かし、ガラシャの手には紺色のスターター、白い無属性の〈ビッガイズ〉のマナピースがはめ込まれていた。城内の人々は巨人の出現に驚き、巨人が出てきた塔の近くにいた兵士たちは安全な場所へ逃げ出し、イルゼーラが稜加たちに言ってきた。

「みんな、これが最後になるわ。ガラシャを止めるわよ」

 稜加もジーナもエドマンドもパーシーも精霊たちが頷く。一同は王間を出て、廊下に飛び出し巨人の出た場所へ向かおうとした。場内を走っている途中、三人の男たちが足止めをしてきた。三人とも黒い上下の服に体格も髪型も異なり、それぞれ長剣、棍棒、ヌンチャクを持っている。

「ガラシャ女王の所には行かせない!」

 男たちは一同を取り押さえようとしてきた。だが、サヴェリオが隠し持っていた剣を出してきて、男たちに刃を向けてくる。

「ここはおれが引き受ける! みんなは行くんだ!」

「え、でも……」

 稜加はサヴェリオを見てためらうが、城の兵士たちが駆けつけてきてくれた。

「姫さま、サヴェリオ殿。今助太刀いたします!」

 兵士たちが槍や剣を持ってガラシャの部下と戦いだす。

「ありがとう、サヴェリオ。みんな!」

 イルゼーラはサヴェリオと兵士たちに礼を言い、再び巨人のいる場所へ走り出し、塔のあった場所の天井や壁が崩れて、大きく孔の空いた場所へようやく着く。

「みんな、行くわよ!」

 イルゼーラのかけ声で稜加たちは〈フュージョナル〉のマナピースをスターターにはめ込んで、虹色の光に包まれて精霊と合体して巨人に立ち向かう。

「これで五人全員そろったか。だが、巨大な魔変人形を止められるかね!」

 ガラシャは操り手の意思を写した〈ソウルコピー〉のマナピースを使い、魔変人形を動かし、巨人の右拳が稜加たちにつきつけられていく。

「みんな、別々の場所に散って!」

 イルゼーラが仲間に指示を出し、巨人の拳が向かってくると、五人は別々の場所にジャンプして離れ、城の三階から落下しそうになると、左手首のブレスレット型スターターに落下の衝撃を防ぐためのマナピースをはめ込んで発動させた。

「〈アップモールソイル〉、セット!」

「〈ウォーターポール〉、〈スパイラルツイスト〉、セット!」

 イルゼーラは土を盛り上げる大地のマナピースを発動させ、真下の土が盛り上がってイルゼーラを受け止める。パーシーが水柱とつむじ風を起こすマナピースを使って、地面から水柱が出てくると、らせん状になって稜加とジーナとエドマンドとパーシーが水の流れに沿って地面に着地する。

「危なかった〜。サンキュー、パーシー」

 稜加はパーシーに礼を言い、パーシーは軽く照れる。イルゼーラは森がった土から降り、ジーナは〈シードバレット〉をエドマンドはブーメランを出す白いマナピース〈ブーメラン・レベル2〉と赤い火のマナピース、〈ファイヤーダスト〉を合わせた炎のブーメランを巨人に向けるが、巨人は片手ではらうように種の弾を防ぎ、炎のブーメランを受けても体の表面が軽く煤がついただけであった。

 また巨人が右拳を振り下ろしてきて、イルゼーラは黒耀石の槍を出す〈オブシディアンスピア〉と灰色の鋼属性の〈アイアンエッジ〉をブレスレットにはめ込んで、イルゼーラの手元に黒耀石の柄に鉄の矛先の槍が出てくる。イルゼーラは槍を持って巨人の拳が向かってくると、拳に刃を斬りつけて後退して避けた。

「そうか、鋼属性のマナピースか。だったら〈スチールエッジ〉と〈レベル3・ソード〉を使おう!」

 イルゼーラの技発動を目にしたエドマンドは自分も鋼属性のマナピースと武器マナピースを発動させて、鋼鉄の幅太の剣を出してきて巨人のすねを傷つけてくる。

「こしゃくな。わらわだって負けてられんぞ!」

 巨人の中にいるガラシャはスターターにマナピースをはめ込み、激流を出す水の〈ハイドロウェーブ〉を巨人の左掌から出し、電撃を出す〈エレキテルボルト〉巨人の右掌から出してきた。エドマンドは激流に押し流され、イルゼーラは巨人が出してきた電撃が刃に通電してしびれてしまう。

「イルゼーラ、しっかり!」

 稜加がしびれたイルゼーラに駆け寄る。

「結構手強いなぁ。どうしたらいいものを」

 パーシーが呟くと、稜加が言った。

「中にいるガラシャを引っ張り出して、魔変人形を動かすマナピースを破壊すればいいんじゃ……」

「でも、どうやって?」

 ジーナが尋ねてくると、いるイルゼーラが体のしびれが取れると、ある案を持ちかけてきた。

「三人が囮になって、一人が巨人の中へ入って、もう一人が中に入る人の手助けをすればいいのよ」

「でも誰が中に……」

 エドマンドがずぶ濡れの姿で訊くと、稜加が受けて出た。

「わたしが魔変人形の中に入って、魔変人形を動かすマナピースを壊す」

「稜加ちゃん、やれるの?」

 パーシーが不安げに尋ねてくると、ジーナとエドマンドも稜加の意見に賛成する。

「稜加に委ねよう。あんたなれやれそうだ、って信じている」

「迷っている暇はない。稜加にやってもらおう」

「決まりね。わたしが稜加の侵入の手助けをするわ」

 イルゼーラが稜加のサポートをすることになり、エドマンドは炎や風を合わせたブーメランを出し、ジーナが種の弾と〈レインフォール〉を合わせた種の雨を降らせ、パーシーが水柱と弓矢を合わせた水をまとった矢を巨人に向けて乱射する。その隙を見て、イルゼーラが巨人の背後から土を盛り上げて稜加と共に登り、黒耀石の鉄槍を出して巨人の背中に突き立てて削って、小人一人なら入れる亀裂を入れた。そして稜加に〈スモライズ〉のマナピースを渡して、稜加は小さくなって巨人の中に入っていった。

「後は、頼んだわよ……」

 イルゼーラは稜加の成功を祈った。


 マナピースを使って小さくなった稜加は巨人の中に入ると、スターターに収めたままなら一時間は続く〈スモライズ〉のマナピースを腕輪から外し、元の大きさに戻る。巨人を操っているガラシャが気配を察して振り向いた。

「貴様、いつの間に?」

「これは破壊させてもらうよ!」

 稜加が破壊力のあるマナピースを出そうとした時、ガラシャが稜加にとっかかってきた。だが稜加は自分にのしかかろうとするガラシャの動きを見て避け、左腕に大地属性の砲丸を出す〈ロックフォール〉と鋼属性で金属のコーティングをする〈スチールラップ〉を出そうとしてきた。

「壊されてたまるか!」

 そう言ってガラシャは懐から護身用の短剣を出してきて、稜加を刺そうとしてきた。稜加は急いで二つのマナピースを発動させ、稜加の前に鋼の膜につつまれた岩の塊が出てきて、更に風圧を起こす〈エアプレス〉をはめ込んで、鋼の弾は空気の圧力によって押し出されて、ガラシャの短剣の刃が当たって折れ、巨人を動かすマナピースの中心に当たって亀裂が入り、巨人を動かすマナピースは亀裂が広がって砕けて、赤黒い人工のマナピースは破壊されて、巨人は動きを静止したのだった。巨人の相手をしていたイルゼーラたちも巨人が止まったのを目にして、稜加が巨人を止めることに成功してジーナとパーシーが喜んだ。

「稜加がマナピースを破壊してくれたんだ!」

「やったぁ!! 信じてたよぉ!!」

 エドマンドも一安心したが、イルゼーラが三人に言った。

「いいえ、魔変人形の中に二人がまだ残っているわ。二人を助けださないと」


「あああ、折角わらわが造ったマナピースが粉々に……」

 巨人の中でガラシャは石ころ大に砕けたマナピースを目にして嘆いた。人工のマナピースは表面は赤黒いが、中は赤や青や黄色などの粒がたくさん入っていた。そして稜加がガラシャに声をかけてきた。

「ガラシャ、もう堪忍してイルゼーラに女王の位を返して、罪を償って」

 それを聞いて、ガラシャは稜加を見て顔をしかめていた。

「お前を一度牢屋に入れたわらわを何故そのように言う? イルゼーラだけでなく、お前もわらわのことを憎んでいるというのに」

「わたしだって、あなたのことはひどいと思っているよ。だけど命を奪ってしまたら、わたしもイルゼーラもあなたと同じになってしまうから」

 稜加は自分なりの意見をガラシャに告げたのだった。

「お前がそう言うのなら……」

 ガラシャが稜加の手を取ろうとした時だった。外から攻撃されていた巨人の魔変人形の体に亀裂が入り、巨人が崩壊した。稜加はガラシャの手をつかもうとしたが、ガラシャは目の前で落下していき、巨大魔変人形も全身バラバラになり、ジーナとエドマンドもパーシーは巨人の破片の下敷きになる前に逃げ出し、稜加は巨人の崩壊に巻き込まれそうになるが、イルゼーラが飛び出してきて稜加を抱きかかえて脱出し、更に波動の防壁のマナピースを出してきて稜加とイルゼーラは落下しながらも、地面に着地したのだった。

 ズゥゥゥン……と大きな震動を立てて、巨人の魔変人形は崩れ落ち、ガラシャも破片の下敷きとなってしまった。

「天罰が下ったのね……。だけど、最後はあっけなさすぎた。やっぱり生きて罪を償ってほしかった」

 稜加がガラシャの最後を目にして呟いた。その後は精霊との合体を解いたところ、サヴェリオと兵士たちが駆けつけてきた。

「サヴェリオ、無事だったのね」

 イルゼーラがサヴェリオの無事を知ると、安心する。兵士たちは巨人の破片と稜加たちと精霊を目にし、更にガラシャの亡骸を発見すると、ひざまづいた。

「ガラシャ女王亡き今、あなたがレザーリンド王国の女王です。レザーリンド王国をロカン王時代のように平和な国にしてください!」


 後日、イルゼーラがレザーリンド王国の女王に就いた時、多くの国民が喜んだ。王都や各地の都市だけでなく、辺境の地や他国にも伝えられ、若き良き女王の誕生を祝った。男も女も子供も老人も精霊も、幸福の騒ぎの中にいた。

 王城の正面の広大なバルコニーから王冠を戴き、金糸の赤いマントと白地に七色の飾り布を使ったドレスをまとったイルゼーラが国民の前に姿を現す。その両脇には同じくドレスの正装の稜加とジーナとパーシー、ドレススーツのエドマンド、他にも白い儀式用の軍服を着た将軍とサヴェリオたち精鋭兵が並んで立っていた。青く晴れわたる空には黄色や緑などの煙が砲台から打ち放たれ、新しい時代の幕開けを表していた。

「イルゼーラ女王、万歳! 救い手たち万歳!!」

 国民はイルゼーラ女王の誕生だけでなく、稜加たち救い手にも感謝の言葉叫んだ。