3弾・10話 悪霊の長デルフ


〈霊界の口〉の地下四〇メートルで再び精霊との合体で姿を変えた五人の救済者は悪霊の長デルフとの戦いを始めた。

「みんな、相手は肉体のない悪霊よ。物理攻撃では効かないわ。上手く戦って!」

 アレサナと融合したイルゼーラが他の四人に伝える。イルゼーラは髪の色が金髪から虹色がかったミルキーホワイトになり、白と淡い紫のヘッドギア、同じ色のミニスカート型のスーツに腕と脚は長めの淡い紫のグローブとブーツをまとって、左手首には銀色の腕輪がはめられていた。

「そんなこと言われても……」

 ウッダルトと合体したジーナは髪の毛が黄緑色の木の葉を連ねたような三つ編みポニーテールに変化し、頭部には細木を編んだようなヘッドギア、胴体は樹皮のような色と模様のコンビネゾン風の衣装に焦げ茶色のグローブとブーツに緑色の木の葉型の飾りが散りばめられた姿で、考えるのが苦手な彼女は口を尖らせる。

「四の五の言わず兎に角やれってことだ! こっちはマナピースが豊富なんだぞ!」

 ラッションと合体したエドマンドが叫ぶ。エドマンドはヘッドギアと胸の装甲とグローブとブーツは赤く、体中に黄色い鎌状の突起が施された姿である。

「お化け退治流行ったことないけど、やらないよりはまし!」

 フォントと合体したパーシーが叫ぶ。フォントと合体したパーシーは透明なバイザーのついた黄色いヘッドギア、流水を思わせるシースルーの大きな襟、黄色いビスチェとパフスリーブ、流水型の巻きスカート、両腕は藍色のアームカバー、足元は黄色いレッグウォーマーと藍色のTストラップパンプス。

「デルフを倒して冴草くんを取り戻す!!」

 デコリと合体した稜加が戦闘開始の態勢に入る。パステルピンクのセミロングになり、両サイドに水色のリボンがついた白いヘッドギア、白い肩出しとミニスカートのワンピースにはパステルピンクの胸リボンとブルーの背中リボンベルトがついており、グローブとブーツはパステルピンクで、ブルーのリボンが巻かれた姿だ。

「ゆけ、我が僕(しもべ)たちよ」

 デルフが次々に悪霊を呼び出してきて、赤や白や青などの悪霊たちが救済者たちに向かってくる。

「ハイブライト、ディフェンス・レベル2、セット!」

 イルゼーラはスターターが変化した左手首のブレスにマナピースを二つはめ込んで、激しい光を放つ盾が出てきて、光の眩しさに悪霊が怯んで消滅する。

「霊魂だから光に弱いのかな。だったらこれは効くかな?」

 そう言ってジーナは黄色のマナピースと緑のマナピースを左腕のブレスレットにはめ込む。

「エレキテルラン、リーフスパイラル、セット!」

 するとジーナは無数の木の葉が現れて更に木の葉が電気を帯びて、悪霊に向けて旋風状に向かって放たれる。

「ギャアア!!」

電気の木の葉を受けた悪霊たちが次々に消滅していく。

「クロスウィンド、ファイアダスト、セット!」

 エドマンドが桃色のマナピースと赤いマナピースをブレスレットにはめ込んで、交差する炎が悪霊に向かってきて断末魔を上げて悪霊が消滅していく。

「ウォータースプラッシュ、エレキテルボルト、セット!」

 パーシーが青い強力なマナピースをブレスレットにはめ込んで、電撃を帯びた水飛沫が悪霊を感電させて消滅していく。

「わたしは……どうしよう。物理攻撃は効かないって言ってたけど……」

 稜加がどのマナピースにすればいいかまごついていると、光の爆ぜりが稜加に近づく悪霊たちをのみ込んで消滅させた。イルゼーラだった。

「稜加、あなたはみんなをサポートをしてあげて。そっちの方が上手くいくでしょう」

「わ、わかった」

 イルゼーラに促されて稜加は他の面々のバックアップをすることになった。


 一方で地上ではマルクスとサヴェリオの剣と剣のぶつけ合いが起きており、マルクスはぶっきらぼうながらも力のこもった剣を振り回していた。サヴェリオは王族仕えの兵士で武術の訓練を受けているとはいえ、自分より体格のあるマルクスに苦戦していた。

(くそっ、一体どうしたら……)

 サヴェリオは反旗を翻してきたマルクスを止めるには地形を利用して相手の隙を突いて反撃しようと考えた。周囲には大小の岩、枯れ木が数本、それから段差。

 マルクスが両手で剣を持って突進してくるとサヴェリオは一瞬の隙を突いて、枯れ木の一本の背後に回ってまた枯れ木の根元がひどく歪んでいたのを利用して木を足で押し倒した。

 すると枯れ木が勢いよく倒れて、ズゥゥゥンと土煙を上げながらマルクスは枯れ木の下敷きに挟まれたのだった。

「う……くそ……」

 それからサヴェリオは素早く予備のロープを使ってマルクスの足首を拘束したのだった。


〈霊界の口〉の地下では救済者たちがマナピースを駆使しながら次々に出てくる悪霊たちを消していき、一人だけ非エルザミーナ人の稜加は防御や仲間の強化といった後方支援を行(おこな)っていた。

「いくらここが〈霊界の口〉だからって、数多過ぎ!!」

 ジーナが愚痴をこぼすと、パーシーがイルゼーラに言ってきた。

「ね〜、そろそろ聖水カプセルを使いましょうよ〜」

「わたしだってそうしたけれど、数が決まっているのよ」

 折角みんなで材料を集めて作った聖水カプセルを使うのは後先考えないといけなかった。エドマンドがエレキテルランとスピードブーメランのマナピースを合わせた電気のブーメランで悪霊たちを攻撃していた。その時、稜加は思いついた。鋼属性の〈アイアンエッジ〉と無属性の〈ソード〉をブレスレットにはめ込んで、稜加の目の前に鉄の刀身の剣が出現する。

「稜加? 悪霊に物理攻撃は効かないのよ?」

 イルゼーラが剣を出してきた稜加に言うと、稜加は聖水カプセルを手で握りつぶして剣に聖水を滴らせる。その時デルフが召喚した悪霊の群れが稜加に向かってきて、稜加は剣を一振りして聖水のついた剣で斬られた悪霊たちは断末魔を上げてシュウウ、と硝煙を出して消えていったのだった。

「そうか。聖水と物理攻撃を合わせればいいのね!」

 稜加の案を見てイルゼーラが納得する。他の救済者も稜加を真似て、物理攻撃のマナピースと聖水のカプセルを使って悪霊の群れを倒していった。

 それから稜加は悪霊の長、デルフと対峙する。

「冴草くんを返して」

「フフフ、いい度胸だ。だが生贄がなくなれば我らは実体を持つことが出来ぬ」

 デルフがほくそ笑むと稜加が言ってくる。

「なら、わたしに憑りついて」

「えっ!?」

 稜加と合体しているデコリ、アレサナとイルゼーラが稜加の判断に口をそろえる。

「り、稜加。そんなことしたら稜加が……」

「やめて。稜加が犠牲になるなんて……」

 デコリとイルゼーラは狼狽えるが、稜加は頑としてやめなかった。稜加の体が一瞬白く光ってデコリとの合体を解除し、デコリは地面に放り出される。

「フフフ、もう後には引けないぞ」

 デルフが稜加に向かって迫りくる。

「り、稜加!!」

 イルゼーラ、デコリ、他の面々がデルフに憑りつかれようとする稜加に向かって叫んだ。稜加は苦しんで跪いて左手で胸を押えた。

「うぐぐ……」

 その時だった。稜加の体が一瞬かげったかと思うと、稜加からデルフが出てきて断末魔を上げたのだった。

「ぎゃああああー!!」

 デルフは白い硝煙を出しながら強風で霧が払われたように消えていった。稜加はうつ伏せに倒れ、デコリが駆け寄ってくる。

「稜加!」

 デルフが消滅すると他の悪霊たちも岩壁や天井や地面の隙間に逃げて隠れていったのだった。稜加は幸い体も心も無事で、こう言ったのだった。

「実はみんなのサポートをしながらもしかして、と聖水カプセルを口に含んでいたんだよね」

 稜加は体内に聖水を取り込んだことでデルフを倒したのだった。


 悪霊の長、デルフが消滅したので、イルゼーラや他の救済者も精霊の合体を解いて、イルゼーラは聖水の霧吹きで冴草くんを囲っている結界に吹きかけたのだった。デルフがいなくなったので結界の効き目もなくなり、シュウッと蒸発する音と共に結界が解かれたのだった。稜加は冴草くんの頸部や手首の脈をとって、ちゃんと動いているとわかると安堵したのだった。 その後は物質を小さくさせる〈スモライズ〉のマナピースで冴草くんを小さくして、デコリが抱えて浮遊した。救済者たちも綱を伝って〈霊界の口〉を脱出したのだった。

 暗かった地下を出ると太陽光が眩しくも射してくると思わず誰もがまぶたを閉ざしてしまうも、地上に出られたことに喜んだのだった。だけどももっと驚いたのは外で待っていたサヴェリオのことであった。

 イルゼーラはサヴェリオからマルクスの話を聞くと、ガラシャに心酔していてガラシャを倒したイルゼーラを密かに恨んでいたことを知った。

「マルクスは眠りのマナピース〈スリーピング〉で眠らせてある。そろそろレザーリンド城へ帰ろう」

 シラム号の一機はサヴェリオ、マルクスが操縦していたもう一機はイルゼーラが操縦してレザーリンド城に帰っていったのだった(イルゼーラも念には念をと飛行艇操縦の訓練を受けていた)。

 イルゼーラの操縦するシラム号の後部座席には冴草くんを寝かせて毛布を掛け、反対側席には稜加とパーシーとデコリとフォントが座っていた。稜加を除く三人は疲れて寝ているのに対し、稜加は冴草くんを取り戻せたことに安らいでいて冴草くんの寝顔を見つめていた。これで冴草くんを家族の元に帰せると。


 その後の彼らはレザーリンド城で過ごした。イルゼーラとサヴェリオは他の大臣・将校を集めてマルクスの裁判を開いた。マルクスは自分は身分の低い出でガラシャ女王の恩恵によって近衛隊長の座を与えられたのは確かで、またガラシャ政権の時は民を苦しめたりの悪事は犯していなかった。イルゼーラに対する恨みは持っていたがサヴェリオに襲いかかったのとエドマンドと行動していた時に〈霊界の口〉への阻止する為にミムス岩塩を奪おうとした罪で王立監獄で三年間の受刑の判決が定まった。

 ジーナは〈霊界の口〉で見つけた超属性のマナブロックを王都の市井で売って三ヶ月分の一家全体の生活費が出来てホクホクして、エドマンドは超属性のマナブロックをマナピースに加工して仲間に分けてあげた。

 パーシーは学校を休んでいた時のレポートをまとめており、また稜加も冴草くんの意識が戻るまで受験勉強に勤しんだ。

 稜加一行が〈霊界の口〉で一件を終えてから三日後、王城内の医療層で冴草くんが目を覚ましたと聞いて、稜加は飛び上がった。医師の判断では体も頭も心理的外傷も問題ないこと。稜加は冴草くんの服を持って尋ねに行った。

 王城の医療層は壁も床も天井も白く清潔感を保っており、医師は白衣を着ており、看護員も白い体に合う白やパステルカラーの看護服を着ていた。

 患者室は四人部屋と個室があって、冴草くんは個室の一角にいた。稜加はおそるおそる冴草くんに話しかける。

「一伊達さん……。ここ、どこ……?」

 水色の患者服を着て寝具も白く白木のベッドで寝ている冴草くんが稜加に尋ねる。

「ここは……、織姫町より大きな町の病院。冴草くん、急に体調が悪くなって運ばれたんだよ。おうちの人は……、後で来るって」

 稜加は冴草くんにこう告げた。まさか現代日本とは違う世界と言ったらまた気を失うんじゃないかと思って。

「そうなのか? ぼく、長いこと怖い夢、見ていた。でも何か生々しくって……」

 稜加は冴草くんの様子を見て気まずくなった。せめて記憶を消すか変えるかのマナピースがあれば、冴草くんはエルザミーナや悪霊のデルフのことを忘れられるのに。その時、稜加が今着ている現代日本から来た時のカーキ色のワンピースのポケットの中に紫のマナピースが一つ入っていた。〈霊界の口〉で超属性のマナブロックがたくさん見つかったから、とエドマンドがマナピースを作ってくれたのを思い出した。

 浮彫はビックリ(!)の隣に矢印が右向きに付いていてハテナ(?)になっている。マナピース図鑑によれば記憶を改変させる〈メモリロード〉であった。

「冴草くん、着替えてそれから目隠ししてくれない? 病院の先生が言ってたから」

「あ、ああ。わかった」

 稜加は冴草くんがエルザミーナに来た時の現実世界の服に着替え終わるまで患者室を出た。冴草くんの着替えが終わると稜加は黒い細布で目隠しをして更に耳栓をした冴草くんの手を引いて、仲間たちの念を受けて現実世界に戻ることになった。

 みんなはイルゼーラの私室に集まり、稜加と冴草くんとデコリを中心に他の面々が彼らを囲って稜加たち三人を現実世界に戻す為の念を送った。

「稜加、お元気で……」

 稜加のおかげでガラシャ女王から王位を取り戻して親友同士になったイルゼーラが呟いた。

「みんな、ありがとう。さようなら……」

 稜加が仲間に別れを告げるとアレサナがデコリにこう言ってきた。

「今度はわたくしたちの了承を受け取ってから向こうに行かせてあげたのだから、感謝なさい」

「うん。前は黙って行ってごめんね。じゃあね……」

 稜加とデコリと冴草くんは白い光の柱に包まれて、エルザミーナ世界のレザーリンド城を去っていった。


 白い激光による眩しさの感覚がなくなると、稜加は静かにまぶたを開けた。そこは智阪学院の中三クラスの教室で、黒板も机も椅子も他の物も、同じで授業が終わって夕方の時だった。

「帰ってこられた……」

 稜加は辺りを見回すと、近くに冴草くんも倒れているのを確かめる。デコリも稜加の傍らにいて、稜加に話しかける。

「稜加、冴草くんの記憶を変えるの?」

「うん。ずっと覚えていたら、他の人からおかしいと思われるだろうし」

 そう言って稜加はピンクの本型のスターターを開いて、記憶改変のマナピース〈メモリロード〉をはめ込んで、冴草くんの恐怖に対する記憶を消したのだった。スターターから紫の蛍火のような光が出てきて、冴草くんの頭から出てきて黒い煙――恐怖の記憶が吹きかけたように消えたのだった。

「うう……、ここは……?」

 稜加はデコリにスターターに隠れるように促し、稜加も冴草くんの目隠しと耳栓を外して何もなかったような素振りをする。

「一伊達さん、ぼく、どうしたの……?」

 稜加は冴草くんの記憶改変に成功したと一先ず安心したのだった。