4弾・12話 ザジオーラとの対決


 廃墟となったアンブロゥ生体研究所の地下室で人工のスピアリーや小型の合成獣と接触した稜加とデコリであったが、有能や生物学者であるにも関わらず凶暴な合成獣を生み出して人工のスピアリーを造り出す為に自然体のスピアリーを捕まえてきたなどの罪で投獄されたザジオーラ=ドローニの出現により、誰もが大ピンチに陥っていた。

「ねぇ、わたしの居場所ってどういう意味かな……」

立ちすくんでいるデコリが稜加に訊いてくる。

「そう言われても……」

しかしヘルバウがザジオーラに向かって叫んできた。

「おい、おれらはもうお前には従わねぇぞ! 大人しく牢屋に戻りやがれ!」

 ヘルバウの態度を見てザジオーラは眉を引きつらせて、きつい口調でヘルバウに言い返してきた。

「牢屋に戻れ、ですって? わたしが生み出した生き物のくせに生意気な」

 ザジオーラはそう言って懐から一本の細い棒を出した。稜加はてっきり凶器と思って防御のマナピース〈ディフェンス・レベル1〉を取り出してスターターにはめ込もうとした。ところが違っていた。

「わあああっ」

 ヘルバウら人工精霊や合成獣たちが突然苦しみだしたのだった。

「どうしたの?」

 デコリがみんなに尋ねると人工精霊たちや合成獣たちは稜加とデコリを取り囲んできたのだ。

「急に苦しみだしたと思ったら、わたしと稜加に敵意のこもった視線を向けてくるなんて……」

「デコリ、みんなは操られたのよ。あの人が持っている笛によって」

 稜加がデコリに教えてくる。確かにザジオーラは銀色の棒を咥えていた。棒が銀色だったので稜加は最初それを刃物状の凶器だと思って防御のマナピースを取り出した。ところがザジオーラが口に咥えたのを目にしてそれが笛で、しかも人間や自然精霊には通用せず人工生命になら通用する周波数を出してくるのだと伝えたのだった。

 ヘルバウら人工精霊や小型の合成獣らはザジオーラの出す笛の音色によって稜加とデコリに飛びかかってきた。

「わあああっ」

ザジオーラは稜加とデコリが人工生命の群れに襲われたのを目にして今も尚、笛を吹き続けていた。

(くくく。この数ならガラシャ女王を倒した救済者も歯が立たないだろう)

 そう思っていた時だった。人工生命の群れから白と虹色が混ざった光が出てきて、人工精霊や合成獣がはじけ飛んだのだった。

「ギャウッ!!」

「な、何なの!?」

 ザジオーラも突然のことに思わず笛を口から離してしまうも、人工生命が群がっていた場所から救済者のマナピースでデコリと融合した稜加が立っていたのだ。

天然パーマの髪はパステルピンクのセミロングになり、両サイドに水色のリボンがついた白いヘッドギア、白い肩出しとミニスカートのワンピースにはパステルピンクの胸リボンとブルーの背中リボンベルトがついており、グローブとブーツはパステルピンクで、ブルーのリボンが巻かれていた。左手首にはスターターが変化した六角形の腕輪の姿で。

 稜加はザジオーラに操られたヘルバウたちを止める為とはいえ、どうしようか迷っていた。

(ザジオーラの笛を奪うか壊すかしないとヘルバウたちが可哀そうだ! だけど何のマナピースを使えばいいんだ?)

 さっきの衝撃で吹き飛ばされた人工生命たちが立ち直って稜加に敵意を向けていた。稜加の手元には鋼属性の〈まきびし〉や樹属性の〈バインアップ〉などの攻撃向けマナピースがあるけれど、それがかえって難しかった。

(あれ? 確か周波数って何らかの拍子で変化して無効になるんだったかな?)

 稜加は理科の受験勉強の時に学んだ知識が浮き上がってきて、青い水属性のマナピースを取り出して、左手首のスターターブレスレットにはめ込んだ。

「ウォータースプラッシュ、セット!」

 稜加が出したのは流水を出すマナピースだった。すると稜加たちのいる部屋に

巨大な水の塊が出てきたと思いきや、水は卵を割ったかのように流れてきて盛大な音と共に研究所の地下室はプールのようになった。

(しまった!!)

 ザジオーラは稜加の大胆な行動には予測できず、また人工生命たちも笛の音による洗脳が解けてザジオーラに敵意の視線を向けてきた。稜加もザジオーラも人工生命も立ち泳ぎの態勢で、ザジオーラは再び笛を吹いて人工生命たちを操ろうとしたが吹いても出るのは水気ばかりである。

「しまった。笛が濡れては使えない……!」

 更にザジオーラの足元に何かが巻き付いたかと思って水面を見てみると、稜加が腕のリボンを伸ばして泳いで逃げられないように拘束したのだった。

「捕まえた! 次はこれ!」

 そう言うと稜加は風属性のマナピース〈ドライエアー〉をブレスレットにはめ込んで地下室に溜まった水を蒸発させていった。水面は少しずつ下がっていき、水で濡れた体も乾いていって、水が尽きるとザジオーラは足首を縛られた状態で床に着いたのだった。


 その頃外ではサヴェリオとメイティス、憲兵の一人が迷路のようなアンブロゥの街を潜り抜けて稜加より一時間遅れでアンブロゥ生体ラボに着いたのだった。彼らも壁の孔をくぐって中に入り、更に地下室の空気柵から今の季節には合わない乾いた温かい空気が流れているのに気づくとサヴェリオはやっぱり稜加は生体ラボにいたのだと悟ったのだった。


 稜加たちはサヴェリオや他の面々と再び接すると、憲兵たちがザジオーラを連行して人工生命たちも建物の外に連れ出され、稜加とデコリはサヴェリオに厳しく注意された。

「勝手なことをしやがって! お前らが見つからなかったらおれはイルゼーラやお前の家族がこの世界にいたら、会わせる顔がなかったんだぞ!」

 稜加とデコリは怒りと不安が混じったサヴェリオの叱責を聞いて怯えながらも、他の人に迷惑をかけてしまったと悪びれていた。

「ごめんね、サヴェリオ。稜加だって悪いって思っているんだよ」

 稜加と合体を解除したデコリがサヴェリオに言った。稜加はうつむいて沈黙していた。

「もういいじゃないの。稜加さんはわざと単独行動をしていた訳でもなかったのだし」

 メイティスがサヴェリオに言った。サヴェリオもメイティスに諭されて稜加の説教をやめた。

「脱獄者が見つかって捕まえられたのはいいけどよ、こいつらどうするんだ?」

 トルナーがサヴェリオに訊いてきた。研究所の地下室にいた人工精霊や合成獣らは稜加とデコリの近くに集まっていた。

「そういやそうだった。後でイルゼーラに何とか相談して、人工精霊たちの今後をどうしようか」

 サヴェリオが頭をかいて呟くと、憲兵の一人が研究所の近くをうろついている女を見つけてきて報告してきた。

「サヴェリオ殿、この建物の門前に不審者がいますが追い返した方がいいでしょうか?」

 それを聞いて脱獄者の別の女かと稜加とデコリは察した。するとメイティスのパートナー精霊であるキラキーナがこう言ってきた。

「ああ。そういやあなたたちは知らないんだったっけ。さっきわたしたちが知り合った人と」


 サヴェリオが稜加とメイティス、精霊たちを連れて生体ラボの門前に出ると、さっき稜加とデコリが退治したザジオーラそっくりの女性が憲兵二人に囲まれて尋問を受けていた。

「あんた本当にザジオーラの身内じゃないんだね?」

「だから名刺を見せたでしょ。身分証明だってこの通り……」

 アリッシア=マリアーネだった。サヴェリオが稜加とデコリに教える。

「アリッシアさんは事件記者だよ。おれもさっきザジオーラと間違えた……」

「ああ、そうなんだ……」

 その時稜加と目が合ったアリッシアが憲兵の男二人を押しのけて稜加とデコリに近づいてきた。

「あの、もしかしてあなたがザジオーラ=ドローニを捕まえた子? 初めまして。わたしは事件記者のアリッシア=マリアーネ」

「は、初めまして……」

 稜加とデコリはアリッシアにあいさつすると彼女からいくつかの質問を受けてサヴェリオとメイティス、他の面々が見つめていた。

「あの、アリッシアさん。ここの研究所にいる人工精霊や合成獣は大人しいのが多いんです。どうか殺処分せずにする方法、ありませんか?」

 稜加はアリッシアに訴えてきた。アリッシアは多少ためらうも稜加の訴えに対する返事を出してきた。

「わたしは事件記者だから人工生命の生殺与奪権はないけれど、事件記事を利用して世の人に訴えてみるわ。人工生命たちもザジオーラの被害者であることをね」

 それを聞いて稜加とデコリは胸を撫で下ろしてアリッシアに礼を言った。

「ありがとうございます」

「ヘルバウたちも何とかなるね」

 アリッシアのおかげで人工生命の生殺与奪は皆生いつしてアンブロゥの町の住民がヘルバウら人工精霊や合成獣の餌やりや健康診断などを交替でやることとなり、また稜加とデコリはサヴェリオとトルナーと一緒に町の外に停めていたシラム号に戻り、メイティスとキラキーナはアンブロゥの住民のはげましボランティアの為に残った。

 稜加一行がシラム号に戻った時には気温が冷たくなっていて空が紫と朱色の西日になっていた。サヴェリオと合流するまでとはいえ、稜加はサヴェリオとメイティスが一緒にいたことにモヤついていた。だけどサヴェリオが失跡してきたのは稜加が勝手なことをしたことよりも、稜加の身の危険を本当に考えていてくれたのだと理解していた。

 シラム号の中に入ると箱形の通信機が激しく鳴っているのを耳にしたサヴェリオは透明な蓋状の画面を起こして通信に出る。

「はい。こちらサヴェリオ=アレスティア」

 蓋の透明板の画面に映ったのはイルゼーラだった。イルゼーラは恐れと不安に満ちた表情をしていた。

『ああ、ようやく出てくれたのね。サヴェリオ、大変よ! 最後の一人の脱獄者が……、アレスティア村にいるっていう情報よ!』

 それを聞いて稜加とデコリもトルナーも同時に声を上げた。

「ええええ!?」

「アレスティア村って……! 父さんは、村のみんなは?」

『わからない。だけど最後の一人がアレスティアの村の駐在の人からの連絡でわかったくらいよ。とにかくアレスティア村に来て! わたしや他のみんなもそっちに向かうから!』

 ここで通信が切れて画面からイルゼーラの顔が消えた。

「最後の一人がアレスティア村にいたなんて……。ジョルフラン州の北にある監獄からどうやって移動したか知らないけれど、行かなきゃ!」

 稜加が初めてエルザミーナの世界に来た時、アレスティア村の住人やサヴェリオの父でイルゼーラの伯父であるアレスティア侯爵からは大変世話になったからだ。

「ああ、そうだな。父さんや村のみんなを守らないと……」

 サヴェリオも父や村人の安否を確かめる為に、また最後の一人の脱獄者を捕まえる為にシラム号を東の方角へ飛行させることにしたのだった。


第4弾・12話 後書きにおけるお詫び

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