エルザミーナ世界の南西にあるエヌマヌル大陸の最西端国の港町から東にある大陸ウォルカンへ向かう一艘の船が海域を進んでいた。 その船は移動客船で一度に百人が乗れる程の大きさで、戦隊には青いバショウカジキの絵が描かれていることから、〈オセアン・シュバリエ(海洋の騎士)号〉の名称であった。 オセアン・シュバリエ号は船長を含めた航海士七人、船を動かす水のマナブロックの管理をする機関士二人、料理長や客室清掃員などの従業員十人、それから今回の船客スピアリーと呼ばれる精霊も入れて五十人が乗船していた。 オセアン・シュバリエ号は造船三十年目と古めで船内に塗装剥がれや扉のガタつきもあったが、一度も事故に遭ったことがないのが功績であった。 客も新婚旅行の若夫婦やウォルカン大陸にある国に出張することになった商人、逆にエヌマヌル大陸での出張が終わってウォルカン大陸の国に帰る人と様々であった。 客室もベッドが四つある上バスルームやトイレやドレッサーやクローゼットのあるスイートルームが一番高く、他の客と一緒に寝る大部屋が一番安かった。大部屋は戦隊の中部にあって、金属製ベッドが何十台も設けられていた。それでも朝昼夜の食事は誰もが大広間でバイキング形式を食べられることになっていた。 オセアン・シュバリエ号の出港から三日目。あと一日でウォルカン大陸の東側にある国の港に着く頃だった。従業員は客室や廊下などの清掃、客が使ったシーツなどの寝具を水のマナピースで動く洗濯機入れて洗濯して乾燥を持つ炎のマナピースで乾かし、航海士は操縦席で時間ごとの見張りや船内巡回、料理長や調理師は皿洗いや次の食事の準備に大忙し。 その間客たちは船内に設けられた温水プールやビリヤード、室内ゴルフやボウリング、カラオケ、映画シアターの娯楽で暇も持て余し、そうでなくても出張中の仕事や勉学、客同士の談話をして過ごす。 客の一人である観光地ルポライターの女性がいつもパートナーのスピアリーと一緒にいる青年に声をかけてきた。 「ねぇ、君はいっつもスピアリーと過ごしているけど、他の人と話し合ったりしないの? わたしは取材の為にこの船の従業員さんや機関士さんと話をしているけど」 ルポライターの女性、やや高めの背に中間肌、標準体型、エヌマヌル大陸人に多い縮れ毛は朱色。眼は半月型の赤褐色で面長の顔にそばかす。服装は青いカットソーと白いバギーパンツ、足は黒いフラットシューズ。 スピアリーと常にいる青年は女性よりもわずかに上の背丈に細身の筋肉質、短いカーキ色のぼさ毛、眼はアーモンド形のオレンジブラウン、肌は浅黒く鼻が高くて口は三日月型、田舎者らしく赤い羊毛のフェルトのベストに麻の編み紐シャツ、ベージュのガウチョパンツ、足元は牛革のハイカット編み上げ靴、背中には古着の端切れをつなぎ合わせた色も柄もごちゃ混ぜなナップザック。 パートナーの精霊は灰色の煙のような髪とシースルーに灰色の服のレイヤード、三等身で身の丈三十センチ、青年と同じアーモンド型の赤茶色の眼。 「おれはねぇ、花嫁を探しに行くんですよ。おれの花嫁はお姫様か女王様。それがおれの小さい頃からの運命でね」 ザザーン、と濃紺の海が白い波を立てて、潮風が吹いて海鳥の鳴き声が響き渡っていた。 空は晴れていたが白っぽくなっていて、これから青年の運命を染めていく無地の白布の如くだった。 |
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