5弾・11話 クーレー奪還


 マサカハサラの本拠地の長の間ではタマームファーイズとカウィキテフとアーキルラースが大型モニターから安里たち四人が来たのを見てほくそ笑む。

「ふふふ、来たか妖精たちよ。中に入れてやれ。これから始まるショーのために」

 タマームファーイズは門の管理をしている小男たちに命令を下す。安里たちの目の前で門がゴゴゴ……と上に開き、安里は三人に向かって言う。

「みんな、もう後戻りはできないよ。クーレーやマサカハサラに捕まった生命を解放する」

 安里の言葉に従って比美歌、炎寿、法代がうなずく。四人はマサカハサラの本拠地の入り口に突入していった。マサカハサラの基地内は暗い茶色の壁に赤茶色の床、天井は灰色で三十メートルおきの鳥籠状の電灯が薄暗い中を照らしていた。中は複雑ではないものの、階段や渡り廊下があり、中近東の大富豪の屋敷のようだった。

 一度階段を昇り渡り廊下を渡った所の下にその部屋の内部が縞目状から様子を伺うことが出来た。渡り廊下の下の部屋は巨大な透明のカプセルに水色の液体が入っており、それがハヤワーンを生み出す装置で、また一度に五人の小男ホムンクルスが出来る鋳型があり、その鋳型の穴の中に小男の素となる原料がちゅぶでつながれていた。法代はこの養鶏に一度は引くも急いでいった。

 渡り廊下を出るとそこはコレクションルームで、中には透明な板状の檻の中に動物や植物、鉱物入りの檻があり、それがシフゾウだったり、恐竜の子供の化石、その花には稀にしか出ない色の南国の植物と並べられており、空きの四つの檻には『ミスティシアの妖精英雄』のプレートが刻まれていた。

「マサカハサラめ。わたしたちを入れるための檻も造っていたとは。悪趣味な奴らめ」

 炎寿が憎々しげに言うと、法代がクーレーは四ヶ月もここに閉じ込められていたことを知ると、囚われの身の者の気持ちを察した。

(クーレー、わたしたちが助けてあげるから、今はまだ待ってて)

 クーレーから渡された青い半透明の指輪のある手を空いている左手で握った。四人は再びタマームファーイズのいる場所へ走り出し、コレクションルームから通路、金色の派手そうな扉を勢いよく開けて、中へ入っていったのだった。

 巨大モニターのある壁、柱も床も天井に金色の細部があり、床一面に赤いじゅうたん、一段高いスペースには天蓋と座椅子があり、そこにタマームファーイズがいて、両脇にはカウィキテフとアーキルラースが立っており、モニターと反対側の壁には鎖で縛られたクーレーがいた。

「クーレー、そこにいたのね」

法代がクーレーの無事を目にして胸をなでおろす。安里と炎寿と比美歌はマサカハサラの上層部に視線を向ける。

「よく来たな、妖精たちよ。お前たちがここまでやってくるとはな」

 タマームファーイズがせせら笑う。

「いくらこの世の珍しい生命をそのまま保っておきたいなんて間違っているわ」

 安里がタマームファーイズたちに言う。

「長(カリフ)は美しいものや形が整ったものは歪ませたり色褪せたりさせたくないから、永く保っておきたいとおっしゃっているのだ。お前たちだっていつかは老いて色褪せていく。極彩色の花がしぼんで茶色くなるようにな」

 カウィキテフが長の意見は正しいかというように告げてくる。

「それだと、わたしたちは家族と一緒に過ごしたり、友達のいる所へ行けないし、何より恋人のそばへいられない。歳をとってしまっても、自分で動いて自分で探して自分でやりたいことややらないといけない問題をやった方がいい!」

 安里の言葉を聞いて比美歌も炎寿も法代も同感する。

「わたしだって歌手の夢が叶ったんだもの。亡くなったお母さんに申し訳なくなるよ」

「人間であれ、妖精であれ、いつまでも同じ場所にいられるということではないがな」

「クーレーはやっとお父さんと出会えたんだ。マサカハサラに捕まって、どんなに寂しかったか……」

 タマームファーイズたちはアクアティックファイターの台詞を聞いて沈黙してから、長のタマームファーイズが立ち上がる。

「そうか。お前たちのような自然生命体は我々ホムンクルスと合わないということか……」

 安里たちもチャームを武器に変えて、法代に言う。

「法代ちゃんはクーレーと囚われの生き物を助けにいって。幹部たちはわたしと炎寿と比美歌ちゃんが引き受ける」

「は、はい」

 安里に促されて法代はクーレーの所へ向かっていった。

 カウィキテフは比美歌と戦うこととなり、カウィキテフは武器である大型のヌンチャクを出してきて比美歌に振るってくる。相手のヌンチャクが振り下ろされると比美歌はフルートステッキで防いで。口から超音波攻撃セイレーン=フォルテシモウェーブを放ち、カウィキテフを後方の柱に飛ばした。

 炎寿はアーキルラースと対決し、アーキルラースは大型のメスと鉗子を持って炎寿と戦い合い、炎寿も剣でメスとぶつけ合い盾で鉗子に貫かれまいとした。アーキルラースはメスに電流が出る仕掛けを施しており、メスから電流を出すと剣が通電して炎寿は感電する。

「ぐがっ」

 感電したはずみで炎寿は武器を床に落としてしまい、炎寿は跪いてしまう。アーキルラースは今だ、と炎寿にメスを向けてきた。しかし炎寿はしびれつつも、盾を拾ってアーキルラースに投げつけて、アーキルラースのメスと盾が貫通してしまう。ならばとアーキルラースは鉗子を炎寿に向けてくるが、炎寿は爆炎を発動させるバイパー=ヒートエクスプロードを出して、朱色の炎がアーキルラースを?み込んだ。

 安里はタマームファーイズに水の楔、マーメイド=アクアウェッジを発動させて水の楔がタマームファーイズに向けられてくる。タマームファーイズは腰に差してある太刀を三日月状に振るって水の楔をかき消した。水の楔は床に落ちてカーペットにシミを作らせる。

(やっぱりホムンクルスだからか体力が普通の人間と違うんだわ)

 安里はそう悟ると特殊技で向かってきてもマサカハサラの上層部に勝る筈がないと察して、三又槍の矛先をタマームファーイズに向けてきた。タマームファーイズは太刀で安里の矛先を受け止め、刃先同士がぶつかり合った音が鳴り響く。

「ウィーデッィッシュ=スーパーラッシュ!!」

 法代はフレイルを力強く振るう技を出してクーレーの体の鎖を叩きつけ、やがて鎖が千切れてクーレーは束縛から解放された。

「大丈夫?」

 法代はクーレーの体を直して尋ねてくる。

「うん、平気。だけどぼくの他にも捕まった動物たちがいるんだ……」

「わかってる。行こう」

 法代とクーレーは急いでコレクションルームへ戻り、マサカハサラに囚われた動物たちを助けるためにかけていった。

 カウィキテフは比美歌によって後方に飛ばされるも、ヌンチャクを振り回して比美歌にぶつけようとしてきた。比美歌は攻撃を受けまいと上下左右に避けて、音符型エネルギーの攻撃、セイレーン=ビューティーサウンドを出して比美歌の攻撃がカウィキテフの右目に当たった。

「ぐっ……」

しかしホムンクルスは再生力があるため、すぐに目が見えるようになり、カウィキテフが視線を上に向けると比美歌が背の翼を使って跳躍し、フルートステッキの先をト音記号になぞって白い光の波動が発せられた。

「セイレーン=クリアパッション!!」

 カウィキテフは比美歌の攻撃を受け光の波動を浴びると、両眼が眩しさのあまり傷んでしまい、その上光の強さで体が耐え切れず灰になってしまった。

 炎寿の出した爆炎を受けたアーキルラースは体に煤がついて髪が焦げて肌が焼けるも、再生力で瞬時に元通りになり、炎寿に無数の杭のような針を向けてきた。杭の針が炎寿の方に放たれ、炎寿は盾で防ぐも針の一本が盾を貫通して炎寿の腕に刺さって血が滴る。アーキルラースは再び電気メスと鉗子を持って炎寿に向かってくるも、炎寿は剣に炎を込めて炎の渦をアーキルラースの上の方へ向けて円状に振るい、炎がアーキルラースを包んだ。

「バイパー=フレイムパージング!!」

 アーキルラースは炎寿が出した炎に包まれ、断末魔を上げてやがて消し炭のようになり、体がバラバラになってしまった。

「流石のホムンクルスも体が燃えすぎるともたないのか……」

 炎寿は血の滴る左腕を押さえながらアーキルラースの最後を見て言った。

 タマームファーイズはカウィキテフとアーキルラースが倒されるのを目にすると、目を大きくして安里が声をかけてくる。

「幹部は全員いなくなったわ。堪忍するの?」

 それを訊かれてタマームファーイズは笑いだしてきた。

「くくくっ……、ははははは! 何を言っている? 我はホムンクルスだ。また賢者や武人の遺伝子を集めて新しい部下を誕生させるわ! どうせなら、お前たちの能力を基礎としたホムンクルスを造った方が良さそうだな。そっちの方が合理がいい」

 タマームファーイズの台詞を聞いて安里は憤りを感じさせた。珍しい生命を捕らえて閉じこめたり、新しい部下はまた造ればいいという勝手さに……。

 

 コレクションルームではクーレーと法代がマサカハサラに捕らえられた獣や鳥や虫を出そうとしている中、ヤタガラスのハヤワーンが壁と明り取りの窓を突き破って出現してきた。クーレーは他の生物が閉じ込められている檻の後ろに隠れ、法代はヤタガラスのハヤワーンと戦う。

 ヤタガラスのハヤワーンは三つの眼と三本の脚、通常のカラスよりも軽く十倍はある体で法代はウィーディッシュ=エナジーバインドを出して海藻の綱でヤタガラスのハヤワーンを縛るも、ハヤワーンは嘴と蹴爪で海藻の綱を引き裂いてしまい、鋭い嘴が法代に向けられてきて法代は転がって避け、嘴の当たった床に亀裂が入った。

 法代はのその場面に怯むもフレイルを伸ばしてハヤワーンにフレイルの先端を叩きつけたり、永く伸ばして足首を全部束ねて蹴爪で掴まれたりしないようにするも、ハヤワーンが飛んで法代を持ち上げて法代は宙づり状態になってしまう。

「はわっ。だけど今のうちに至近攻撃を……」

 法代は左手でフレイルの柄を持ち右手で技を発動させようとしたが、ハヤワーンの嘴が狙ってきたので法代はエメラルド色の光の盾、ウィーディッシュ=エナジーウォールを出して防いだ。その拍子でハヤワーンの嘴の先が曲がり、ハヤワーンは怒って暴れだして法代は宙吊りで振り回されてフレイルがほどけて床に落下してしまう。幸い床に叩きつけられる前にエナジーバリアで衝撃を防いだので骨が折れずに済んだ。ふと法代は隠れている筈のクーレーの姿がないことに気づく。

(どこいった?)

知らない間に量産型ホムンクルスの小男に捕まってしまったのだろうか。するとハヤワーンが真ん中の蹴爪で法代を裂こうとしてきた。法代はエナジーバインドとエナジーウォールを出して二重の防御をした。

(クーレー、いつの間にか見失なっちゃった……。秋水さんに何て言えば……)

 思わず弱気になってしまったが、クーレーが捕まった時からマサカハサラと戦い続けてきた期間は無駄ではなかった。マサカハサラより"上の悪"に立ち向かうための<進化の装具>は見つかった。クーレーの父親も見つかった。クーレーの囚われ先もわかった。

「わたしは、ここで、負ける訳には、いかないんだーっ!!」

 法代がそう叫んだ時だった。法代が以前見つけたブローチの<進化の装具>が激しい光を出してきて、エメラルド色の光がハヤワーンの全眼を目くらませた。

「ギャワァァァッ!!」

 ハヤワーンは激光で三つの眼が見えなくなり、コントロールが効かなくなって床に落下し、ズシーンと振動でコレクションルームの檻が揺れて檻の透明な板が消えて、マサカハサラが世界各地で奪ってきた動物や植物、化石などの鉱物が出てくる。

 それから法代は<進化の装具>から与えられる力でフレイルを長く長く伸ばしてハヤワーンをがんじがらめにした。

「ウィーディッシュ=カタルシスオーラ……」

 がんじがらめにされたハヤワーンを縛っている鎖からエメラルド色の光が発せられた後、法代は詠唱する。

「イクスパンドォォォ!!」

 目がくらむような光がハヤワーンを包み込んで消滅させ、光が治まるとハヤワーンの姿はあとかたもなかった。

法代が<進化の装具>の恩恵でハヤワーンを倒した影響により上の司令室にも響いていた。というのも、ウィーディッシュ=カタルシスオーライクスパンドが強力だったためか、床が崩れて安里たち三人とタマームファーイズも落下してきたのだった。

「うわっ」

 天井の破片と硝煙と共にコレクションルームに落下するも、安里たちもタマームファーイズも上手く着地し、目の前の光景に気づく。それはタマームファーイズが奪った動物たちが全て檻から出ていて、タマームファーイズを睨んでいたのだ。

「身を知りなさい。彼らの自由を奪ったことを……」

 安里が諌めるようにタマームファーイズに言った。タマームファーイズは動物たちに囲まれ身動きが出来なくなる。それと同時にドーン、という音が鳴り出し、何のことかと耳を立てた。炎寿が床に倒れている法代を見つけて、法代の体に息と脈があると知ると安心する。

「さっきの大技を使ったために疲れたのか」

 その時、コレクションルームの扉が開き、クーレーが入ってきた。

「みんな、ここから逃げて。爆薬を仕掛けてきたから」

「ば、爆薬!? なんて物騒で豪胆な……」

 安里たちはクーレーが自分たちが戦っている間に敵の要塞を爆破させる準備をしていたことに仰天するも、比美歌が狼狽える。

「でも、動物たちが……」

 その時だった。安里たち四人の<進化の装具>が各々の色の光を出し、アクアティックファイター四人、クーレー、マサカハサラに捕まっていた動物や植物鉱物を包んで、姿を消したのだった。要塞に取り残されたのはタマームファーイズと数人の小男だけになってしまった。しかも小男は主の命令仕掛けないようになっており、自分たちの意志で動けなかった。だから主を助ける命令が出なければ彼らは動けない。タマームファーイズは司令室に向かおうとしたが爆炎が観通路を塞いでしまい、タマームファーイズも小男たちも爆ぜる炎に見込まれて、マサカハサラの移動城塞はとうとう爆破したのだった。


 気が付くと安里たち妖精やマサカハサラに囚われていた動物たちは舟立海岸の浜辺に立っていたのだ。夕方の海岸は灰色に曇っていたが、雨の心配はなく鉄紺の海と白い網目の波がザンザンと音を立てていたのだ。

「助かった、みたいだな」

 炎寿が呟いた。

「しっかし、わたしたちを助けるためとはいえ、敵の基地を爆破するなんて大したものね」

 安里がクーレーに声をかけてきた。

「すんません。ぼくを捕らえていたマサカハサラに一矢報いるためには、それしか思いつかなかったので……」

 クーレーが安里たちに謝るも、比美歌が呟いた。

「だけどまた<進化の装具>のおかげで瞬間移動だなんて。本当、不思議よね」

 彼女たちの周囲にはマサカハサラに囚われていたシフゾウや三色の羽毛の大型鳥、白いアナコンダなどの珍獣たちがいた。法代はとうと、盛大な技を使ったためか寝ていたのだ。

 その後、保波市や近辺の山の爆破のニュースをテレビで知ったブリーゼとジザイが駆けつけてきて、また警察のパトカーも何台か来て、マサカハサラに囚われていた動物や植物は保護されて、元の持ち主へ返されることになった。

 そして安里たちも普段の姿に戻って自分たちの家へ帰ることになった。クーレーとその父は真魚瀬家にしばらく泊まり、クーレー親子はミスティシアへ帰ることになったのだった。