八月九日。今日は保波高校の登校日。夏休みでもクラブが休みの生徒は九月一日の新学期前に唯一学校に顔を見せる日である。 安里と比美歌も郁子もバスに乗ってオリーブグリーンの制服を着た生徒が集まる保波高校に足を入れる。 「おはよー」 「久しぶりー」 生徒たちはあいさつする中、安里たちも上履きに履き替えて一年四組の教室へ向かう。 「みなさん、お久しぶりです」 深沢修が教室に入ってきた生徒に声をかける中、安里たちも三週間ぶりに会った深沢くんを目にしてあいさつする。 「深沢くん、久しぶり。夏休みは宿題の他に塾にも通っているの?」 安里が深沢くんに訊いてくると、深沢くんは軽く返事をする。 「ええ。英語塾の他にも予備校の夏期講習にも通っていまして。気が早いと思われるようですが、ぼくは東京の名門大学を志してましてねぇ」 「高校一年で大学進学をもう考えているのかぁ」 郁子が深沢くんの夏休みの生活と今後の目標を聞いて感心する。 「真魚瀬さんも日本に来る前はギリシアの大学に飛び級してたでしょう? 大学生活はどんなんでしたか?」 「え……」 安里は深沢くんに訊かれて一瞬黙る。安里は確かにミスティシアのマリーノ王国内の大学で飛び級していたが、勉学の方はともかく他の妖精との関係はまちまちだった。 「そ、それは……」 安里が戸惑っているとチャイムが鳴って全員席に着く。席に着いた時は安里は後方の席にいる神奈くんに目を向ける。 (神奈くん、一週間ぶりに会うな……) 先週安里は祭りの日に神奈くんの財布を届けたお礼として、保波駅のカフェで二人で過ごした。更に神奈くんの幼なじみである鈴村史絵が三年ぶりに日本に帰ってきた後の転校先についても話してもらったのだった。 教室の前扉が開いて担任の江口吉夫先生が入ってくる。 「起立、礼、おはようございます」 登校日は一時間で終わった。夏休みの登校日は先生が生徒の今の状態を確かめて残りの夏休みについての注意事項を述べることだけなので、これからクラブ活動に参加する生徒以外は帰宅した。 安里が比美歌と郁子と共に昇降口へ向かおうとすると、職員室から一人の女子生徒が出ていくのを目にした。オリーブグリーンの制服ではなく、水色のブラウスと青い巻きスカートの私服で高めの背に額出しのショートヘアの女の子である。 「あ、あなたは……」 安里は女の子を見て口に出す。 「この子、安里ちゃんの知り合い?」 郁子が安里に尋ねてくると、女の子は比美歌と郁子に愛想よくあいさつする。 「初めまして。わたしは秋になったらここに転入する予定の鈴村史絵っていいます。今日はこの学校の登校日ということで見学に来ました。ここの学校に通うかはあくまで予定なので」 「は、初めまして……」 比美歌と郁子は史絵の愛想の良さを大げさすぎないかと思いつつもあいさつする。史絵は安里を目にすると、(安里から見て)作り笑いをして声をかけてくる。 「久しぶりね、真魚瀬さん。お祭りの日以来ね。神奈くんに親切してあげてくれてありがとう。それじゃあね」 そう言って史絵は踵を返して職員用昇降口へ向かっていった。 「あのー、鈴村さんと神奈くんってどういう関係?」 史絵が去った後、安里は郁子から訊かれる。 「小学校が同じの……幼なじみで、中学生の時は台湾に引越ししてたって……。先週偶然出会った神奈くんから聞かせてくれた」 「ああ、幼なじみなのね。神奈くんの」 安里の話を聞いて比美歌が納得する。その後はバスが来るまで高校前のバス停で待機していた。安里たちの他にバスに乗って帰ろうとする保波高校の生徒は十人程いた。 「安里ちゃん、郁ちゃん。昨日ね、新人歌手のオーディションの一次審査の書類選考に合格したの!」 比美歌が郁子と安里に言うと、郁子はそれを喜んだ。 「えっ、本当!? 良かったじゃん!」 比美歌と郁子の会話を聞いて、安里がきょとんとなる。 「オーディション? 何それ?」 「ああ、そっか。安里ちゃんは知らなかったんだよね。わたし中学校を卒業してからすぐに歌手のオーディションに参加したんだ。高校に入る前の春休みの時は二次審査で漏れちゃって。今度のは二度目。 一次の書類選考に受かったから、二次と最終審査は今度の日曜日に東京の新宿にある文化会館で行われるから来て下さい、って報せ」 比美歌は安里に自分が受けるオーディションの内容を話す。 「それで、最終審査に合格したらどうするの」 「そりゃあ当然、歌手デビューだよ。あ、デビューが決まらなくても賞金と盾が贈られるし。だけどね、今度のオーディションには、わたしの尊敬する歌手MOEが特別審査員として来てくれるから張り切っているの」 「ああ、言ってたね……」 安里は比美歌は歌手になりたがっていて、人気歌手のMOEにに憧れていることを思い出した。 「それでね、安里ちゃんと郁ちゃんにオーディションの付き添いをしてもらいたいんだけど、頼める?」 比美歌に言われて、安里と郁子は答える。 「うん、いいよ。付き合ってあげる」 「比美歌ちゃんが言うんならねー……」 郁子は承知して、安里は頼まれたらやろうと決めて、比美歌のオーディションの付き添いをすることにした。 地下数百メートルの中にあるヨミガクレの拠点。タケモリ、モリタテ、サキヨミ、マジカケの四幹部はアクアマンファイターに何度も敗れていることに女王からの叱責を恐れていた。 「我々が地上侵略を始めてからかれこれ一ヶ月――。アクアティックファイターに邪魔されるとは、何という失態……」 四つの白い仕切りの中にいる女王が苛立った声を出しつつも怒りをこらえる。 「も、申し訳ございません……」 前回出撃していたマジカケが深々と頭(こうべ)を垂らして女王に詫びる。 「どんなヤドリマを出しても、彼奴らは必ず倒してしまうのです、はい」 サキヨミが言い訳をする。 「……アクアティックファイターじゃ三人といっておったな、タケモリ?」 女王がタケモリに尋ねてくる。 「どうせなら一人くらい欠けていても、何の問題はなかろう。いや戦力は一人いない方がそれなりの好機だろう」 女王の案を聞いて幹部たちは納得する。三人まとめて倒すのは無理だが、一人でも戦力がなければ好機が見えてくるということだ」 八月も半ばに入った日曜日。この日は晴天で、日差しも強く、道路からは陽炎が揺れており、人々は半袖やノースリーブ、帽子を身につけている者が多い。 比美歌のオーディションの付き添いとして安里と郁子は保波駅から電車を乗り継いで新宿にやってきた。ホームや-駅構内、駅を出入りする人々は保波市と違って何倍もいて、柄入りや明るい色の服をまとっている少年少女や若者、婦人を目にすることが多かった。 「東京なんて初めてだから人の多さに滅入っちゃうよ」 人間界に来てから日本国の首都・東京の都市に足を踏み入れることのなかった安里はテレビや雑誌の写真でしか目にしたことのない様子に目を回した。 「安里ちゃん、今日まで東京に行ったことがなかったんて、意外ね〜」 郁子が東京は今回が初めての安里の様子を見て呟く。本当は法代も連れて行きたかったのだが、法代は小学校の同級生と自由研究のため、佐倉市の見学に行っていた。 「まぁ、仕方ないよ。法代ちゃんにも都合ってのがあるし」 比美歌が安里と郁子に言った。 「といってもオーディションは午後一時半から始まるから昼食も兼ねて休みましょ」 比美歌が安里と郁子に言った。駅のホームを出ると高さや外観、色や構造内の異なるビルが並び、道を行く人々は老若男女問わずがおしゃれであり、道路には緑の葉をつけた街路樹と黒い支柱の該当が規則よく並び、道も金属の柵を設けられた歩道と自動車の走る道路に分かれていた。 安里・比美歌・郁子はハンバーガー店で昼食を採り、オーディオ先の新宿文化会館へ向かった。新宿文化会館はビル街の中にあり、右隣が銀行、左隣が金融会社のビル、五階建て灰色のビルで門前に『新宿文化会館ビル』の看板が設置されていた。 中に入ると横長の机に二人の女性が受付を行(おこな)っていた。受付の前には髪型も背丈も異なる十二歳から二十歳までの女の子たちが列を作って並んでいた。 「この人たち、みんなオーディションを受けるの!?」 「かわいくてスタイルの良い人が多いね」 安里がオーディションに来た女の子の数の多さに驚き、郁子も女の子たちの容姿を見て呟く。 「まぁ二次審査を受ける子だけでも三十人は来ているからね。それじゃあね」 比美歌は安里と郁子に言うと列に並ぶ。また付き添いの人は先にオーディション会場の二階ホールの客席で待機するようにと言われたので、安里と郁子は二階のホールへ行った。 ホールはパイプ椅子が四、五十脚並べられ、そこには女の子たちの母や姉、友人といった付き添いが座っていた。安里と郁子は比美歌の活躍が見られるようにと前方の席に座りたかったのだが、前はほとんど埋まっていたので、後方の席に座るしかなかったのだ。 天井も壁も床も白いホールの対には一段高いステージと、オーディション参加者の座るパイプ椅子が三十脚あった。ステージの真上には『第12回シーガルレコード新人歌手オーディション』看板がかかっていた。 午後一時半に近づくにつれ、スーツを着た審査員の紳士が三人、そして長い茶色の髪をアップにしてピンクのフリルトップスに若草色のフレアスカートに白いパンプス姿の若い女性が審査員席に座る。 「あっ、MOEだ。安里ちゃん、あの人が人気歌手のMOEだよ」 「ああ……。あの人が比美歌ちゃんの尊敬しているMOE……」 郁子が安里にMOEのことを教える。そしてオーディション参加者の女の子たちがホールの中に入り、その中に「29」のバッジを付けた白いレース付きのカットソーに花柄のスカートにミュールの女の子、比美歌を目にする。他の女の子も髪型や服装、化粧にもこだわりがある。 オーディション参加者が全員揃うと、審査員席の白髪まじりの髪に資格フレーム眼鏡に紺色のスーツの中年紳士がマイクを持ってあいさつする。 「第12回シーガルレコード新人歌手オーディションのご来場ありがとうございます。わたしはシーガルレコード当社長の鴨志田茂(かもしだしげる)です。今回の審査員は他にも音楽プロデューサーの嘉門達郎(かもんたつろう)さん、関東テレビプロデューサーの飯塚悟(いいづかさとる)さん、そして若い女性の間で大人気の歌手・MOEさんが集まってくださいました」 嘉門達郎は黒い丸サングラスに短く刈った髪と赤いストライプのジャケットと黒いシャツの派手な服装の男性で、飯塚悟は白髪に白ひげと老眼鏡に灰色のスーツの七十前後の老人で、MOEは近くで見ると三角形の顔に丸みの帯びた小高い鼻と細い口唇の女性で東洋風の美人であった。 「それでは二次選考、自由曲を始めます。一番、神奈川県出身、木内茉里奈さん。曲は『Love Call』」 胸に「1」のバッジをつけた木内真理奈と呼ばれた女の子がマイクを持って歌唱する。歌を終えると次の参加者にマイクを渡して、「2」、「3」……と続いていく。 「あと二人です。二九番、宇多川比美歌さん。曲は『Sky high』です」 鴨志田社長に呼ばれて、比美歌はマイクを手に取り、オーディエンスと審査員の前に立つ。 「宇多川比美歌、高校一年生で千葉県出身です。『Sky high』です」 オーディエンス席の後部にいる安里と郁子が比美歌に視線を向ける。ガッツポーズをして「頑張って唄って」という風に。安里と郁子を見て少し怖ばっていた比美歌は気づいて軽く呼吸してから歌を唄う。 空と海の間の水平線 私はそこへ向かおう そこに飛んでいけば 何かが見つかる Go to the Sky high 鳥よりも高く Go to the Sky high 太陽よりも高く 歌が得意な妖精セイレーンの血を引いていて尚且つアクアティックファイターとして覚醒したのか、安里と郁子だけでなく、オーディエンスの人々や審査員、他の参加者の心を震わせた。比美歌が曲を終えると、思わず拍手が鳴った。比美歌が上手かったからなのか歌声に魅了されていたからなのか。最後の一人を終えて最終選考の選抜者が呼び上げられた。 「四番・田沢恵子さん、十七番・井崎由紀江さん、二十二番・小池冴さん、二十九番・宇多川比美歌さん。この四名が最終審査通過者です」 鴨志田社長が最終審査通過者を呼び上げると、拍手がまた鳴った。 「比美歌ちゃんが受かった……!」 「や、やったね……!」 オーディエンス席の安里と郁子も比美歌の合格に身を震わせる。そして最終審査までの二十分休みが設けられて安里と郁子は比美歌のいる控え室にお邪魔する。控え室は鏡のある壁とカウンター、そして更衣室が四つある。二次審査に漏れた子はそのまま帰るか合格者を見るために残ったりと半々だった。 「比美歌ちゃん、最終審査行きおめでとう!」 安里が比美歌に言った。 「あとは合格すればなんだけど……、わたしは生のMOEさんだけでも見られて嬉しいし……」 比美歌は自分の気持ちを二人に伝える。 「何かさぁ、比美歌ちゃんって前のオーディションより上手くなったよね。どんだけ練習してたの?」 郁子が尋ねてきたので、安里と比美歌はギクリとなった。比美歌は亡き母がセイレーンだったため、その遺伝によるものなのだが、あえて言わなかった。 ふと安里と比美歌は外からの怪しい気配を感じ取った。 「きゃあああ!」 「か、怪物よー!!」 会館からそう遠くない草原の公園があり、その公園に来ている男や女や子供の声が聞こえてきた。安里と比美歌は会館の階段の窓から覗くと、公園にはベンチやゴミ箱や外灯がヤドリマとなって公園に来ていた人々の前に現れた。ヤドリマの群れの中に土人形の魔人がいたのだ。 「タケモリノイクサ!」 安里が魔神を見つけて叫ぶ。 「よりによってこんな時に……」 比美歌がためらった。オーディションに最終選考を投げ出してヤドリマと戦うか。それとも安里にヤドリマを委ねて自分はオーディションを受けるか、と。だが比美歌は選んだ。 安里と比美歌はみんなに見られないように階段を降りながらライトチャームを出して祈りを捧げる。 「ライトチャームよ、わたしをアクアティックファイターに変えて!」 それぞれ薄紫と白の光に包まれたかと思うと、光が弾けていつもとは違う姿のアクアティックファイターに変化する。 アクアティックファイターとなった安里と比美歌は会館を出て公園に向かい、ヤドリマの前に姿を現す。 「お前たち、今日は二人だけか? ならいい。一人でもいなければ余裕だ。行け、ヤドリマ」 タケモリはヤドリマに命令し、ヤドリマたちは安里と比美歌に向かってくる。 「マーメイド=アクアスマッシュ!!」 「セイレーン=ビューティーサウンド!!」 安里は空気中の水分を集めて水泡の玉をぶつける攻撃を、比美歌は歌いながら音符型のエネルギー攻撃を放って、ヤドリマに立ち向かう。二人の攻撃がヤドリマの体に付いている呪符が剥がれて、ヤドリマはベンチやゴミ箱や外灯に戻って、ガシャンという金属音が地面に響く。しかし倒せたのは一人につき三体ずつで、あと十二体はいる。それでも安里と比美歌は攻撃を続けて次の三体を倒していく。 次の三組目の処で、安里と比美歌はまだ倒していないヤドリマに体を押さえつけられて、地面にひれ伏してしまう。 「勝負、あったな」 タケモリがほくそ笑んだ。 「もう一人の水の妖精がいないからとて、二人で立ち向かおうとしたのが無理だったんだ。素直に三人目を呼べば良かったものを……」 「そんなのちっとも問題ないわよ」 安里がヤドリマに押さえられつつも、タケモリに言い返してきた。 「法代ちゃんにだってやるべきことがあるし、わたしたちにもやるべきことがある。どちらかを諦めるのなんて、できないの」 同じく比美歌も言い返す。 「そうよ。わたしたちが法代ちゃんの手を借りたら、法代ちゃんのもう片方の友達を困らせることになるから……」 二人は同時に口をそろえる。 「わたしたちは法代ちゃんの分まで戦う!!」 すると安里と比美歌の体が温かく感じて、新しく使う技が頭の中に浮かんでくる。 「セイレーン=イービルレクイエム!!」 比美歌の口からどんなアクでも沈める音色を発してヤドリマは大人しくなった。 「マーメイド=オーシャンツイスター!!」 安里が掌から渦潮を出してヤドリマを呑み込んで上昇して、ヤドリマと共に上空で弾け散り、いくつものの飛沫が地上に降り注いで、ヤドリマの素となったベンチやゴミ箱や外灯が元あった場所に戻っていった。 「まさか新しい技を使ってきたとは……」 タケモリは姿を消して場から去っていった。 「あっ、そうだ! オーディションの最終審査、まだやってるかな」 比美歌が思い出して安里に言った。 「じゃあ急がなきゃ」 二人は駆け足で公園から会館に戻り、会館近くの路地に着くと普段の姿に戻った。 会場に戻ると最終選考の三人目が歌を唄っている最中だった。幸いオーディションは続いており、比美歌は何とか最終選考の課題曲――MOEの歌である『歌姫のゆううつ』を熱唱した。 音色を奏でよう メロディを響かせよう 歌を唄わない歌姫は決して歌を忘れたわけでない 歌詞を紡ごう リズムを刻もう 歌の終わりは新しい歌なのだから 「それでは発表です。今大会の優勝者は十七番・井崎由紀江さんです!」 十八歳くらいのソバージュヘアの女の子が歓声を上げて、審査員からトロフィーと賞金の祝儀袋を受け取った。二位は二十二番の小池冴で銀の盾、三位は四番の田沢恵子で銅の盾が贈られた。 「そして特別賞として、二十九番・宇比美歌さん」 比美歌も呼ばれて特別賞に入ったことに驚く。特別賞は金の盾とMOEのサイン入りパネルが贈られた。 「よく頑張ったわね。わたしはあなたの今後に期待しているわ……」 MOEから言葉を向けられた比美歌はジーンとなって、目を潤わせる。 「あ、ありがとうございます……!」 比美歌は歌手デビューこそは逃したが、MOEと話をすることができたことに喜んだ。 その日の夜、比美歌はシュピーシェルを通じて法代と通信会話した。 『わたしがクラスメイトと佐倉市に行っていて、安里さんと比美歌さんがオーディションに行っている時にヤドリマが出てきて……。こういう時に現場に行けなくてすいません』 法代が比美歌に謝った。 「ううん、いいのよ。歌手デビューは逃しちゃったけど、MOEと話せたのが嬉しかったし、そのうえ新しい技も使えるようになったのよ」 『え……!!』 それを聞いて法代は言葉を失う。 「ああ、わたしと安里ちゃんが『法代ちゃんの分まで戦う』って思いが新しい技を生み出したのよ。あれも驚きだったわ」 『そんなぁ〜。わたしだけまだ、ってことじゃないですか〜』 法代は自分だけが新しい技を使えるチャンスを逃したことに悔しがる。 「まぁまぁ、次のオーディションこそは付き添ってね。もう遅いから、また。ね」 比美歌はシュピーシェルの通信をここで終わらせた。 そして法代はというと、新しい技を使えるようになった安里と比美歌を羨ましがった。 「わたしも、新しい技が使えるようになるのかな……。でも、いつのこと……?」 |
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