「これでよし」 真魚瀬安里(まなせ・あんり)は学校の制服を着て、茶色のウェーブセミロングの髪を二つの三つ編みにすると、ピンクのマドラスチェックのショルダーバッグを持って自分の部屋からダイニングキッチンに向かっていった。 「おはよう」 ダイニングキッチンでは食卓の上に出来たてのベーコンエッグと付け合せの野菜、皮をむいたりんごと白ご飯とグラスの緑茶が置かれており、安里と同じ制服を着た従姉妹の朱堂炎寿(すどう・えんじゅ)と真魚瀬家の母・潮が食卓についていた。 「今日から学校かぁ。登校日以来とはいえ、みんなに会うのは久しぶり」 安里はご飯を一口頬張る。 「でも良かったですね、二人とも同じ高校に行くことができて」 潮夫人が安里と炎寿に言った。 「だけど、わたしが真魚瀬家に来たことで、引越しする羽目になって通学の距離も伸びてしまったし……」 炎寿は申し訳なさそうに言った。炎寿が来る前は真魚瀬家の住人は保波市磯貝五丁目にある『メゾン磯貝』に住んでいた。『メゾン磯貝』は三階建ての低層マンションで真魚瀬家は八ヶ月間そこで生活していた。また安里が通っている保波高校もバスで十分という距離だった。今住んでいるのは保波市磯貝四丁目の七階建てマンション『ベルジュール磯貝』の四〇三号室で、ここから保波高校までバスで一七分だった。 「ごちそうさま」 安里と炎寿は朝食を食べ終えると食器を流しへ運び、安里はショルダーバッグ、炎寿は赤と黒の3ウェイバッグをリュックにして背負い出かけていった。 「行ってらっしゃい」 潮夫人は二人の姿を見送ってから自分の食器を片付けて、安里と炎寿より先に出勤していった父・濱吉の文の食器も洗って、更に洗濯機もないため安里と炎寿の服やタオルなどを防水性の大きなバッグの中に入れてマンション近くのコインランドリーへ行った。 九月最初の日、この日は夏の残暑がかすかにあり、空は青空に白い雲が多く覆われて晴れのち曇りであった。安里と炎寿はマンションを出て、屋根や造りの異なる家々の住宅街を出て、道路が二車線になっているバス停に向かっていった。バス停にはネクタイ付きシャツにスラックス姿のサラリーマンや私服の女子大生などの乗客が五、六人待機しており、安里と炎寿も後尾に並んだ。 五分経って白と青いラインの車体のバスが南の方から走ってきて、安里と炎寿は他の乗客と共に乗り込んだ。席は満席でサラリーマンや遠出する老人の他にも安里と炎寿と同じオリーブグリーンの制服を着た高校生が十人近く乗っていた。男子は白い半袖シャツにオリーブグリーンのスラックス、女子は白いセーラーシャツにオリーブグリーンの金ボタンベストに芥子色のボックスプリーツスカート。 二人がけの席に座っている女子高生が安里と炎寿に話しかける。一人はレイヤーショートで茶色のデイパック、もう一人は丸顔のボブカットで白いデイパック。 「おはよう、安里ちゃん、炎寿ちゃん」 「ああ、おはよう、比美歌ちゃん、郁子ちゃん」 安里と同じ一年四組の宇多川比美歌(うたがわ・ひみか)と田所郁子(たどころ・いくこ)であった。 「おはよう」 炎寿も比美歌と郁子にあいさつをする。郁子は炎寿を見て、炎寿も保波高校の制服を着ているのを目にして訊いてきた。 「へぇ、朱堂さんも保波高校に通うことになったんだ」 郁子に訊かれてきたので、炎寿はこう答える。 「あ、ああ。従姉妹と同じ学校の方が馴染むと思ってな……」 バスは住宅街や低層ビル街の中を走っていき、いくつかの商店と住宅地が真向かいの保波高校に着くと、安里たちは他の保波高校の生徒たちと共に下車した。 保波高校は三階建ての第一校舎と二階建ての第二校舎、体育館と工程のある学校で安里と比美歌と郁子が通い、炎寿が通う学校であった。 安里と比美歌と郁子は昇降口で炎寿と別れた。 「わたしは転校生だから職員室に行く。後で落ち合おう」 安里たちは一年四組の教室へ向かい、引き戸を開けて教室の中に入る。 「おはよー」 教室の中は仲良しの子とおしゃべりし合ってたり、一人で座っていたり、夏休みの宿題を見直していたりと様々だった。 「みなさん、お久しぶりです」 声をかけてきたのは四角眼鏡をかけた学級委員長の深沢修(ふかざわおさむ)だった。 「あ、久しぶり。深沢くんって、夏休みは勉強ばっかりやってたの?」 郁子が深沢くんに尋ねてくると、深沢くんは答える。 「夏休みは宿題の他に塾の夏期講習もありましたが、息抜きとしてプールに行ったり図書館に行ったりとしてましたよ」 クラスの男子や女子は海に行ったのか日焼けで肌が濃くなってたり、背が三、四センチ高くなってたり、以前より痩せていたりと個々だった。 「おはよー」 後ろの引き戸が開いて一人の男子生徒が入ってくる。高めの背に切れ長の目、前髪を垂らした男子生徒だった。 「おはようございます、神奈くん。お久しぶりです」 深沢くんが入ってきた生徒、神奈瑞仁(かんな・みずひと)に声をかけてきた。 「ああ、深沢久しぶり。てか、おれバスケット部員だから週二回は夏休みの学校に来ていたけどよ」 神奈くんはそう言って自分の席に座る。 (神奈くん、最後に会ったのが船立海岸の花火大会の時だったけど、アクアティックファイターのことは覚えているんだろうか) 安里は神奈くんを見てそう思った。 安里と炎寿、比美歌、そして小学校に通っている根谷法代(ねや・のりよ)は水の妖精の勇士アクアティックファイターで、安里は妖精世界ミスティシアにあるマリーノ王国の生まれで、生まれた時からそう予言されていた。 マリーノ王国にドレッダー海賊団が攻め込んできた時、ドレッドハデス船長の術によって安里とお供のブリーゼ・ジザイ以外の住民を人質に取られて安里たちは人間界の日本に亡命して日本国千葉県の保波市で暮らすことになった。 安里が保波市で暮らしてから四ヶ月目に、ドレッダー海賊団が人間界にやってきて安里はマリーノ王国を取り戻す気持ちが高ぶって、アクアティックファイターとして覚醒したのだった。 同級生の宇多川比美歌、花屋の娘の法代、そしてかつては敵だったフェルネこと朱堂炎寿も水の妖精の勇士として覚醒してドレッドハデスを倒してマリーノ王国を取り戻したのだった。 安里は人間界に引き続き生活し、夏休み終わり近くの花火大会で新たなる敵、黄泉隠の怪物、宿魔が出現して戦っているさ中、神奈くんに目撃されたのだった。 安里が神奈くんをチラ見していると、神奈くんが安里に声をかけてきた。 「真魚瀬、おはよう。久しぶり」 神奈くんに話しかけられて安里はドッキリするも気を落ち着かせて返事をする。 「あ、か、神奈くん。おはよう……」 その時、教壇上のスピーカーから校内放送が流れてくる。 『みなさん、体育館で始業式を行いますので教室を出て体育館に集合してください』 教室にいた面々は席を立ち上がって廊下を出て体育館に向かっていった。安里も比美歌と郁子と一緒に体育館へ向かっていた。 体育館では一年生から三年生までの生徒が男女一列ずつ並んで校歌を唄い、校長先生の話と続いていき、校長先生の話が終わると転校生の紹介に入っていた。 体育館のステージの上に二人の女子生徒が立って現れる。一人は長い髪を一括りにして肩にかけ、もう一人は額出しのショートヘアの女の子。 (えっ、あの子……!) 安里はショートヘアの女の子を見てハッとなる。その子は神奈くんの幼なじみの鈴村史絵(すずむら・ふみえ)で、安里はこれまでに二回会ったことがあった。 「一年三組に転入することになった鈴村史絵です、よろしくお願いします」 「一年五組に入ることになった朱堂炎寿です。よろしく」 始業式が終わって教室でHRが終わると、一年四組の教室に炎寿が現れる。 「おーい、安里、比美歌、郁子、一緒に帰ろう」 「うん、いいよ」 安里が炎寿に返事をする。三人は自分の通学バッグを持って教室を出ると、昇降口でばったりと神奈くんと史絵と出くわしたのだ。 「あ、鈴村さん……」 「あら、確か真魚瀬安里さん、だっけ? 花火大会来、お久しぶり」 史絵は自信のこもった笑みを安里に向けてくる。 「鈴村さんも保波高校に入ったんだ……」 「ええ、そうよ。台湾から三年ぶりに帰ってきたのもあって、知り合いのいる高校にいた方が安心できるもの」 史絵は自分が保波高校に入った訳を語る。 「ふぅん、あんたが鈴村史絵か。わたしは朱堂炎寿。安里の従姉妹だ」 炎寿は史絵に自己紹介をする。炎寿のあいさつの仕方を見て史絵は少しイラついた顔つきになる。すると神奈くんが前に出る。 「ああ、君が真魚瀬の従姉妹の朱堂さんか。おれは神奈瑞仁。バスケットボール部員だ。よろしく」 神奈くんは炎寿に愛想よくあいさつすると、史絵が神奈くんの腕を引っ張る。 「ほら瑞仁。こんな所で止まってないで、早くしないと駅に行くバスに遅れちゃうわよ」 「おい。そういうことだから、じゃあな」 そう言って神奈くんは史絵と一緒に校舎を出て行った。 「鈴村さんってさぁ、神奈くんの幼なじみとはいえ、きつい感じがしない?」 帰りのバスの中、他の保波高校の生徒や一般の乗客がいる中で郁子は小声で言った。 「いやぁ、わたしは今日初めて会ったからよく知らないが……」 炎寿は呟く。 「あ、わたしが言っているのは安里ちゃんと比美歌ちゃんだから。登校日の時や花火大会に出会った時はきついとは感じなかったけれど、思ってたより違うな、って」 郁子が言ったのを聞いて安里は返事が思いつかず黙っており、比美歌もまゆを下に向けて軽く唸る。 「あー、確かに。最初の時や花火大会の時はそうでもなかったのに今日会ってみたら気が強そう感が伝わってきたわ」 「あの子絶対に敵を作るタイプだよね。あんな子とは友達になりたくないってか、友達になれる気がしないよ」 普段はのんびりな郁子が史絵についてはっきりと言った。 (敵を作る、か……) 郁子のセリフを聞いて安里は思い出していた。ミスティシアのマリーノ王国に住んでいた時の頃を。安里は幼い頃から勉学や舞踊や礼儀にたけており、八歳の時には十二才、十五歳の時には大学一年生のクラスにいた。そのため安里は同世代の妖精たちから妬まれて独りでいることが多かった。 マリーノ王国がドレッダー海賊団に攻め落とされて人間界に亡命することになって、また高校に通うようになってからは安里は「出来のいい自分に友達なんかできっこない」と思い込んで過ごしてきた。実際はそうでなかったが。 『次は磯貝四丁目。お降りの方はブザーを押してお知らせください』 バスのアナウンスが聞こえてきたので炎寿はブザーを押した。 「そうだったね。安里ちゃん、磯貝四丁目に引っ越したんだっけ」 比美歌が真魚瀬家が五丁目の『メゾン磯貝』から四丁目の『ベルジュール磯貝』に引っ越しして、住所も電話番号も変わったことを思い出した。 バスが磯貝四丁目に停ると、安里と炎寿は降りる支度をする。 「それじゃあね、比美歌ちゃん、郁子ちゃん」 「うん、また明日ね」 安里と炎寿はバスを降りると、屋根も壁の色も違う住宅が並ぶ中を歩いて、七階建てのレンガ色のプレハブ造りのマンション、『ベルジュール磯貝』に到着する。『ベルジュール磯貝』は一階が駐車場と駐輪場になっており、またエレベーターは車椅子や荷物運搬のため階段を昇って四階まで行って、四〇三号室に着いた。 安里と炎寿は玄関の中に入り、カモメ姿のブリーゼが二人の前に現れる。 「アンフィリット様、フェルネさん、お帰りなさいませ。アンフィリット様にとって久しぶりの学校で、フェルネさんにとっては初めての学校だったからさぞ、慣れないものだったでしょう」 ブリーゼに聞かれて炎寿は思い出す。 「わたしはアンフィリットたちと違って隣の一年五組に転入した。そしたら男子も女子も次々にわたしに質問してきて……」 「ま、まさか本当のことを言っちゃったとか……!?」 安里が血の気を引いて訊いてくると、炎寿はそっけなく答える。 「いや、流石にそれは言わなかった。真魚瀬安里の従姉妹で両親がアフリカに転勤するに伴って日本にいる親戚のもとへやってきたと答えておいた。 あとは得意教科と好きな食べ物……」 「はいはい。手を洗ってうがいをして、着替えておきなさいな。お昼ご飯はもう出来てますよ」 ダイニングキッチンの食卓の上には、ブリーゼが作った五目チャーハンとミニサラダ、ビーフコンソメスープが器に盛られていた。 「はーい」 ブリーゼに言われて安里と炎寿は洗面所へ行ってうがいと手洗いをし、玄関から見て右の部屋に安里、左の部屋に炎寿が入る。二人は制服から普段着に着替えて、ダイニングキッチンに入る。安里は三つ編みをほどいてセミロングウェーブヘアにラベンダーのノースリーブシャツとベージュのペンシルスカート、炎寿はオレンジと朱色のマーブル模様のチュニックにカーキのサブリナパンツの服装。 「いただきまーす」 安里たちはお昼ご飯を食べて腹ごしらえする。食べている中、炎寿がブリーゼに話の続きをしてくる。 「ああ、そうだ。わたしの他にももう一人一年生の転校生が来ていてな。その人は三組に転入してきて、安里たちの同級生の神奈という男子の幼なじみだそうだ」 「フェ、フェルネ……」 安里は炎寿が口にするのを聞いてスプーンを動かす手を止めてしまう。 「神奈くんって確かアンフィリット様が追試の勉強を見てあげていた男の子でしたね。その幼なじみが保波高校に……」 ブリーゼは思い出して安里に訊く。 「うん。初めて鈴村さんと出会ったのは海神神社の祭りの帰り。鈴村さんは小学校卒業してすぐ台湾に引越しして三年ぶりに日本に帰ってきた、って」 安里はブリーゼと炎寿に史絵についての話をわかりやすく述べる。 「わたしとアンフィリットは建前でギリシアから来たことになっているが、史絵は本当に台湾から帰ってきていたのか。幼なじみと言っているが、神奈くんに気があるのだろうな」 炎寿が素で言ったのを聞いて安里は突き刺さったように感じた。 (鈴村さんは本当に神奈くんに気があるんだ。だから学校であんなことを……) 安里は史絵が神奈くんの腕を引っ張ってまで帰ろうとしていた様子を思い出す。 「まぁまぁ、ご飯を食べたら二人でお出かけしてらっしゃいな。折角の午前中授業ですし」 ブリーゼが安里と炎寿に言った。 昼食の後、安里と炎寿は町中を歩いて、三丁目の商店と住宅が混在する合一街へとやって来た。合一街の店はテラスでも食事ができるオープンカフェ、数十年前から続く老舗の和菓子屋、ポプリやタオルなどの小物が売られている雑貨屋と建物の外も中も様々だった。 黒い切り妻屋根にミントグリーンの板壁の二階建て屋根裏付きの花屋、『NEYA(ネヤ)フラワーハウス』である。ナチュラルウッドの看板には緑色の文字で刻まれていた。店の前には白い粒がいくつも咲いたようなカスミ草やオレンジ色のマリーゴールドや八枚の花弁のコスモスなどの花が置かれていた。出入り口近くのレジにいる長い髪を一本の三つ編みにしてエプロンを付けた女性に安里は話しかける。 「こんにちは、根谷さん。法代ちゃん、いますか?」 「ああ、いらっしゃい。安里ちゃん、お引越ししたにも関わらず、ここに来てくれるなんて……。あら、この子は?」 花屋の主人は安里の後ろにいる少女を目にして尋ねてくる。 「この子は従姉妹の朱堂炎寿さんで、今日からわたしと同じ学校に通うことになりました」 「朱堂炎寿です、初めまして……」 炎寿は根谷夫人にあいさつをする。 「安里ちゃんのご親戚の人ね、初めまして。法代ー、安里ちゃんと親戚の人が来たわよー」 根谷夫人は上の階にいる娘の名を呼んで、屋根裏の自分の部屋にいた法代が降りてくる。 「はーい」 法代は長い二の腕まである黒髪にライムグリーンのスモックワンピースを着て、安里と炎寿の前に現れた。 「あ、どうも。安里さん、炎寿さん」 法代は二人にあいさつする。 この後三人は花屋を後にして、合一街より北にある公園へ出かけることにした。 公園は学校より広い敷地にブランコや滑り台などの遊具がある広場、ジョギングしている人が使う陸上トラック、テニスコートやサッカー場もあり、タチバナやツゲやネムなどの木が緑の葉をつけていた。 「炎寿さんは安里さんたちと同じ高校に通うことになったんですね、おめでとうございます」 安里たちは公園内を一通り歩いた後、東屋のベンチで一休みし、法代が炎寿の高校編入祝いの言葉を述べた。 「ああ。クラスは違ってしまったがな」 炎寿は答える。公園の中はスズメやハト、テニスコートで試合をする大学生の声、まだいるセミの声が響く。 「炎寿さんが人間界に来たとなると、ヨミガクレも黙っている訳にもいかないでしょうし」 法代が「ヨミガクレ」と言ったのを聞いて、安里と炎寿はそのことに耳を立てる。 黄泉隠(ヨミガクレ)は幹部たちは古代日本の道具を人間にしたような姿で、無機物を宿魔(ヤドリマ)という怪物に化えて人間界の侵略を企む者たちである。今から二ヶ月前、安里と比美歌と法代は初めてヨミガクレと対面し、以来戦っている。 「法代の言う通り、ヨミガクレはいつどこで何をしてくるかわからないしな」 「そうよね……」 炎寿が安里に言うと、安里も頷いた。これからの展開に油断しないようにと決めて。 地下数百メートル下にある地底洞窟。ここがヨミガクレの本拠地であった。 女王の間は四方を布の仕切りで囲まれ、青白い炎の行灯が照らしていた。 銅鐸に人間の腕と脚を付け目と口もある姿の幹部、鋼守盾(ハガネノモリタテ)は女王に報告していた。 「四人目のアクアティックファイターだと……」 「はい。その女は水の妖精の勇士なのに、炎を使ってきてわたくしが生み出したヤドリマを打ちのめしたのです」 モリタテは女王にフェルネについての情報を伝えた。 「モリタテ、次もお前が行ってこい。次はフェルネという女も倒しておけ」 女王は仕切りから小高い声を出してモリタテに伝える。モリタテは頭(こうべ)を垂れて女王に従う。 「はっ、必ずや……!」 女王の間から去ると、モリタテはしばし考える。まさか自分たちの野望を妨げる妖精が一人増えたことを。 (とはいったものの、どんな道具をヤドリマにすればいいか悩むな。おれは力自慢なのが取り柄だし、だからといって他の奴の協力を得るのも気が気でないし……) モリタテは懐から一枚の紙を取り出す。その紙は黒い地に赤い文字で何か書かれていた。 「いざとなったら、これを使うか……」 |
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