4弾・1話 アザラシの少年クーレー


 空の色は夏と違って薄くなり、太陽が照っていても空気が冷たくなる季節。

 日本の大方は寒気に見舞われ、街路樹や庭木の木の葉は散り、芝生も茶色に染まり、街中では人々がコートやマフラー、手袋を身に着けている。

 保波(ほなみ)市の町中にあるファーストフード店で、四人の女子高生が大勢の客が集まる中で、町の景色が見える四人席に座って、しゃべり合っていた。

「あ〜、やっと期末試験が終わったよ」

 ボブカットに丸顔、オレンジ色のニットワンピース姿の田所郁子(たどころ・いくこ)が目玉焼き入りBLTをかじりながら言った。

「わたしとしては数学や社会より、家庭科の方が戸惑ったな」

 セミロングのウェーブヘアにヘンリーネックのトップスとハイネックインナーラップスカートの服装の真魚瀬安里(まなせ・あんり)がチキンナゲットをバーベキューソースにつけながら返事をする。

「だけど安里が試験のヤマを当ててくれたおかげで、何とかなったがな」

 ストレートの髪を一つに束ねて肩にかけて白い横線の入った黒いニットにカーゴパンツ姿の朱堂炎寿(すどう・えんじゅ)がホットドッグにかぶりつく。

「わたしの学校の期末試験は国数英社理だけだった」

 ショートレイヤーにタートルネックインナーと白いジャンパースカートの宇多川比美歌(うたがわ・ひみか)が今の学校での試験内容を話す。

「え〜、比美歌ちゃんの学校、期末でも五教科だけでいいな」

「安里、比美歌の学校は芸能学校だから、テストの教科も少なくて当たり前かと」

 炎寿が安里に促した。比美歌は十一月の半ばまでは安里たちと同じ千葉県立保波高校に通っていた。だが秋の文化祭で他のクラスの出し物であるアマチュアバンドのボーカルがケガをして出られなくなったため、比美歌が代理ボーカルとなり、この時保波高校に来ていた音楽プロデューサーの玉城五夢(たましろ・いつむ)氏によって歌手のスカウトを受け、来年春の歌手デビューのために綿石町(きぬいしちょう)にある浄美(きよみ)アートアカデミーに転校したのだった。

「あ、そうだ。みんな、この事件知ってる?」

 郁子がスマートフォンを出して、画面に映った事件記事を安里たちに見せる。

「んー、何々。大英動物園で保護飼育させていたシフゾウ一頭(オス)が盗まれる?」

 炎寿が事件内容を目に通して呟く。

「うん。この二ヶ月の間に、世界各地の珍しい動植物が盗まれている、って事件。だけど、盗んだのはどこの誰だかわからない。国際警察やFBIもお手上げだって」

 郁子の話を聞いて、安里と炎寿と比美歌は顔を見合わせる。実は彼女たちは水の妖精の勇士、アクアティックファイターで、安里と炎寿は妖精界ミスティシアの東の海にあるマリーノ王国の出身であるが、比美歌は亡くなった母がマリーノ王国の妖精で、彼女たちは二つの世界のどちらかに出現する悪と戦うために現れるという予言を受けていた。

 実質、安里たちは最初にマリーノ王国を乗っ取ったドレッダー海賊団を撃ち破り、夏から晩秋にかけて古代物の付喪神集団のヨミガクレを撃ち破った。世界各地の珍生物を奪う輩とは人間なのかそうでない者か、安里たちもわからずじまいで、また関わるかどうかもわからなかった。


 安里たちのいるハンバーガー店から少し離れた青い鉄橋、瑠璃大橋の欠けられた大川の土手では、背中まである黒髪の少女が二人の友人と共にバドミントンをしていた。大川の土手の木は冬の今は葉も散っていて枝だけの状態になっており、土手の芝生も薄茶色に変わっていた。風邪も冷たいが緩やかで過ごしやすかったため、青空の下で遊んでいた。

「そーれ」

 長身にポニーテールと合皮革ジャンパーの本多澄子(ほんだ・すみこ)がシャトルをラケットで叩き、緑色のブルゾンの根谷法代(ねや・のりよ)がシャトルを跳ね返そうと走ったが、よろけて横倒れになって、シャトルがてん、と地面に落ちる。

「何やってんの〜。これで六回目だよ」

 丸顔にショートヘアとダウンベストにニットの元木織音(もとき・おりね)が転んだ法代に声をかけた。

「ご、ごめん、ごめん。へへへ......」

 法代はパンツについた土ぼこりを叩きはらいながら、澄子と織音に言った。起き上がった時、自分を呼んでいる声が聞こえて立ち止まる。

「ねぇ、今誰かの呼ぶ声がしなかった?」

 法代は二人の友人に訊くが、「いや」「全然」と答えた。

「次、わたしと澄子がやるから」

 織音に言われて法代はラケットを渡し、さっきの声はかすかだったが、確かに誰かが呼んでいたと思い返した。

 やがて日暮れに近い時になって、法代たちは自分の家に帰ることになった。

「じゃ、また学校でねー」

「バイバーイ」

 澄子と織音と別れた法代は二人の姿が見えなくなると、瑠璃大橋に引き返して、大川の淵に立って自分を呼びかけた声の主がいるとおぼしき川の中に向かって叫んだ。

「さっきわたしを呼ぶ声はここからでしょう? あなたは誰?」

 すると川の水面にブクブクと泡が立ち、そこから灰色の毛並みに黒いまだら模様の一頭の子アザラシが出てきたのだ。

「アザラシ......?」

 法代はアザラシが自分を呼んでいたことに目を丸くするも、法代は父から祖母の遺伝とはいえ、ミスティシアに住む海藻の妖精、ウィーディッシュの血を引いており、水妖精は水棲生物の言葉もわかるようになるのだろうと思った。

「あ、すいません。ちょっと上がっていいですか?」

 アザラシは男とも女とも似つかない声を出しながら、法代に言った。アザラシは前足を使って川べりに這い上がり、何と立ち上がって腹部の中心に割れ目が出てきて、そこから人間の男の子が出てきたのだ!

「あなた......、妖精......!?」

 法代は男の子に尋ねてくる。男の子は色白の肌に大きな黒い眼、髪の毛は短い毛先のはねた青みがかった黒で、体格は平均でミスティシアの物らしいシャツとパンツを着ており、裸足であった。見た目は一三、四歳くらいに見えた。

「ぼくはアザラシの皮を被って水中移動する妖精、ローン族の生まれで名前はクーレー」

 男の子は名乗りを上げると、法代を見つめる。

「ぼくが水の中にいて声を聞いてくれたのは君だけだったよね。君も妖精なんだろう?」

 男の子に訊かれて、法代はハッとなった。その後、落ち着きを払って返事をする。

「うん。わたしは父方のおばあちゃんがウィーディッシュという海藻の妖精で、わたしはおばあちゃんの血を四分の一引いているの」

 法代はクーレーに自分が妖精の血を引く人間だと教えた。

「ウィーディッシュの血を引いているのか、君は......。名前は?」

「根谷法代。根谷は家族姓」

「法代ちゃんか。改めて初めまして」

 クーレーは法代に挨拶した。

「ところで、クーレーはどうして人間界に?」

 法代が訊いてきたので、クーレーは答える。

「お父さんを探しているんだ」

「お父さんを?」

「ぼくのお父さんはマリーノ王国を出たっきり十年前から帰ってこなくなったんだ。お母さんは北の方に行って出稼ぎだし、叔父さんたちと暮らしていた。

 でも最近になって、ぼくはお父さんを探すことに決めた。叔父さんたちには黙って出て言っちゃったけど」

「え、それってマズいんじゃ......」

「でも言ったら絶対に許してくれなさそうだったもん。叔父さんも叔母さんも」

(大胆だなぁ......)

 法代はクーレーの決心を聞くと、驚きつつも積極的だと感心した。それからミスティシアと人間界では時間差があり、人間界では一日の所、ミスティシアでは四日というタイムラグが出る。ミスティシアの十年は人間界では二年半前にクーレーの父が行方不明になってしまったと法代は考えた。

「そうだ。わたしのおばあちゃん、それからわたしの友達の妖精のお供にクーレーのお父さんのことを訊いてみるよ。あと、クーレーもわたしか友達に頼んで泊めてあげるよ。野宿は大変そうで今は冬だし......」

「え、いいよ。女の子の家に泊まるなんて......。それに、ぼくたちローンは寒さには強いんだ。今日はこの中で眠るよ。気づかってくれて、ありがとう」

 そう言ってクーレーはアザラシの皮をかぶると、川の中に潜っていった。それから川の中からクーレーの声が聞こえてきた。

「明日もここに来てくれる? 君の、友達の妖精も一緒に」


 十六夜の月が浮かび、こぐま座などの冬の星座が浮かぶ冬の夜空。白い雲は夜の闇で藍色の厚手膜のように見えて、その雲の上には一台の大きな飛行船とも飛行機ともつかない乗り物が飛んでいたのだ。

 大きさは中型の客船ぐらいで、機体の左右にはコウモリのような巨大な翼、船型の機体の上には球体型の屋根がいくつも並ぶ城がそびえ立っていたのだ。

 その城の内部にある長の間と思しき場所に、赤いじゅうたんにクッション、天街付きの座り場所に一人の青年が座っており、間に運ばれたシフゾウの姿を見て、にやついていた。

「ふふふ、大英動物園で保護飼育されていたシフゾウか。なるほど、牛やロバや鹿にも馬にも似ているな」

 青年は呟く。ただシフゾウは特殊なガラスケース型の檻に入れられており、シフゾウはまぶたも口も脚も動かさず、また死んではく製にされた訳でもない状態のままになっていたのだ。

「保管室(コレクションルーム)へ運んでいけ。次の標的を見つける」

「はっ」

 四人の小さな体の男たちが青年の命令に従って、シフゾウを保管室(コレクションルーム)へ運んでいった。小男たちは全員同じ服装で、同じやぶにらみの眼に団子鼻と垂れ下がった口であるが、四つ子ではない。長の間に五人目の小男が入ってきて、報告書を読み上げる。

「長(カリフ)、新しい珍生物の情報が手に入りました」

「ほぉ、その珍生物とは?」

「妖精でございます」

 それを聞いて長の青年は目をパチクリさせ、姿勢を正してきた。

「妖精、だと? まさか本当にいたとはな......。それで、妖精はどこにいるのだ?」

「日本の南関東地方の千葉県の保波という町です」

 小男の報告を聞いて、青年の長(カリフ)は唸る。神話や伝説でお馴染みの妖精がこの世界にいたことに。彼の欲望の念がうずきだす。

(是が非でも、妖精を余のコレクションにして、いつまでも手元に置いてみたいものだな。いや、どうせなら全員妾(ジャリエ)にして、はべらせた方がいいな)

 青年の長は小男に伝える。

「このまま日本に進め。妖精を余の物にするためにな!」

「はっ!」

 そして彼らの空中飛行船機は妖精たちのいる日本へ向かって、夜空をかけていったのだった。


 次の日、法代は貝殻型通信機、シュピーシェルを使って、安里と比美歌と炎寿に昨日瑠璃大橋のある川で、マリーノ王国から来て父親を探している妖精の少年のことを伝えて、瑠璃大橋のある川に来ていた。

 安里たち四人だけでなく、安里に仕える不思議生物のカモメに似たブリーゼ、海亀に似たジザイも来ていた。

「クーレー、クーレー」

 法代は水面に顔を近づけると、妖精の名前を呼んで川の水面に泡が立ち、水の中から灰色の毛並みに黒いまだらのアザラシが現れたのだった。

「え、アザラシ?」

「まぁ、見ていなって」

 比美歌がアザラシを目にして驚くも、炎寿が声をかけてきた。アザラシは前脚のヒレを川べりの淵に這い上がると、胴体の真ん中に割れ目が出てきて、青みがかった黒髪に黒い眼、白い肌にミスティシア産のシャツとパンツ姿の少年が姿を現したのだった。

「紹介するね、この子はローン族のクーレー。ミスティシアから来て、人間界にいるというお父さんを探しているんだって」

 法代は安里たちにクーレーを紹介する。

「初めまして、皆さん。ぼくはクーレー」

 クーレーは頭を下げて安里たちに挨拶する。

「わたしは真魚瀬安里。マリーノ王国ではアンフィリットという名前なんだけどね」

「わたしはフェルネ。人間界では朱堂炎寿だ」

「わたしは宇多川比美歌。お父さんは人間だけど、亡くなったお母さんがマリーノ王国の妖精、セイレーンなの」

「わたしはアンフィリット様の世話係を務めますブリーゼと申します」

「同じくアンフィリット様に仕えるジザイですぞ」

 安里たちはクーレーに自己紹介を終えると、クーレーが安里たちに尋ねてくる。

「あのう、法代ちゃんとお姉さんたちはどういう関係なんですか?」

 それを聞かれて法代はブルゾンから首に提げていたペンダントを取り出して、クーレーに見せる。ペンダントは小ビンの形をしていて、中心には緑色の海藻と波の紋様が描かれている。

「これって、アクアティックファイターの証の......!」

 クーレーはペンダントを目にして口に出す。安里と比美歌と炎寿も小ビン型ペンダントを取り出して見せる。

「うん。わたしたちは水の妖精の勇士、アクアティックファイターなの。安里さんと炎寿さんは純粋な妖精で、比美歌さんはハーフの妖精。わたしだって、今年の四月になるまえで、自分に妖精の血が流れているなんて知らなかったもの」

 法代はクーレーに自分がアクアティックファイターである訳を話した。その時、クーレーの背後から太くて雄々しい声が飛んできた。

「こんな所にいたのか。案外あっさりと見つかるとは好都合だ」

 安里たちのいる場所から五、六十メートル離れた場所に一人の男が立っていたのだ。男は百九十センチ近い背丈に筋骨隆々の体、四角い顔につり上がった眼と大きめの顎、浅黒い肌に褐色の瞳、頭に長い布をまとめた帽子をかぶり、二の腕が剥き出しの黄色と黒の衣装をまとっていた。彼の外見は人間界の中近東域の人間のようだったが、安里たちはこの男に戦慄を走らせていた。

「あ、あなたは誰!?」

 安里は男の訊くと、男はこう答えた。

「おれはマサカ=ハサラに属するカウィキテフだ。長の命により、この小僧を探していた」

 カウィキテフはクーレーに視線を向けると、クーレーは安里たちの後ろに隠れる。

「ま、まさかクーレーが妖精だってところを見ちゃったの......?」

 法代がおそるおそるカウィキテフに尋ねてくると、カウィキテフは無表情のまま言い続ける。

「この小僧がアザラシの皮を脱ぐのを見た。だとすれば、普通の人間でないのは確かだ」

「クーレーくんに手出しはさせない!」

 比美歌が言うと、カウィキテフは左手の指を弾かせた。すると、大川から水飛沫と共に一匹の巨大な魚が現れたのだ。

「こんな生き物、いつの間に......!?」

 炎寿が巨大魚を目にして立ちつくす。

「うちの科学者が生みだしたハマヤーンだ。倒せるものなら倒してみろ」

 カウィキテフは両腕を汲んでほくそ笑む。

「キシャアアアア」

 カウィキテフが呼びだした巨大魚、ハマヤーンが咆哮を上げる。

「ブリーゼ、ジザイ。クーレーを頼む!」

 炎寿がブリーゼとジザイにクーレーの安全確保を求めた。

「わかりました!」

「さぁ、クーレー殿。こっちですぞ」

 ブリーゼとジザイはクーレーを連れて、瑠璃大橋の下に逃げ込んだ。

「みんな、行くよ! ライトチャームよ、わたしをアクアティックファイターに変えて」

 安里、比美歌、法代、炎寿は懐からライトチャームを出して、祈りを込める。それぞれ、薄紫、純白、緑、真紅の光に包まれて、光が弾けて変身した安里たちが姿を現す。

 安里は髪の毛が深いピンクのロングウェーブに変わり、眼が茶色から紫に変わり、衣装も紫色のフィッシュテールのドレスと編み上げパンプスの姿に変わる。比美歌はオレンジのカールショートと青い眼と音符をあしらった白いタイトドレス背に翼の衣装に変化する。法代は髪の毛が灰茶に変わり、髪型がツインテールになり頭部には緑色の海藻型リボン付きの白いヘアバンド、眼もエメラルドグリーンに変化し、深緑のベアトップワンピースと淡い緑のノースリーブワンピースの重ね衣装、後ろ腰に黒いリボン、海藻型の飾りが付いた薄緑のアームカバー、緑色の足首ベルトパンプスの姿に変化する。炎寿は髪の毛が瑠璃色のハーフアップ、両腕に赤いアームカバー、赤いロングビスチェに黒いひざ下まであるスカートにはスリットが入り、足元は赤いハイヒールパンプスの姿に変わった。

「何てことだ、お前たちも妖精だったとはな! 手土産は多い方がいいに限る。マハマヤーン、こいつらを捕らえろ!!」

 カウィキテフはハマヤーンに命令し、ハマヤーンは尾ひれで水面を叩いてジャンプし、口から青紫のエネルギー弾を乱射してくる。すると法代が両掌を出して、緑色の光の波動の防壁を出す。

「ウィーディッシュ=エナジーバリア!!」

 法代はバリアがハマヤーンの攻撃を防ぎ、炎寿と比美歌が左右に飛び出して、それぞれの技を出して攻撃する。

「バイパー=ヒートエクスプロード!!」

「セイレーン=ビューティサウンド!!」

 炎寿が指を弾かせて爆炎を起こし、比美歌が四分や六分などの音符型エネルギー弾をぶつけてハマヤーンは怯んで水中に落下する。

 そして安里が両手に力を込めて詠唱し、光を帯びた水の竜巻を出して、ハマヤーンに向けて放った。

「悪しき生命よ、この光を導くアンフィリットが清き光で浄化する。

 マーメイド・スプラッシュトルネード!!」

 ハマヤーンは安里の攻撃に押されるも、咆哮を上げて撃ち破った。

「そんなっ。技が破れるなんて......」

 安里はハマヤーンのタフさを目にして立ち止まるも、ハマヤーンが口から青紫の網状エネルギーを出してきて、安里たちを捕獲しようと連射してきた。

「あの網に捕まえらないようにして!」

 安里は仲間たちに指示を出し、比美歌たちも技を使って、ハマヤーンの攻撃を防いだ。網は破れたり弾けたりするも、ハマヤーンは攻撃を止めない。安里はチャームをトラインデントに変えて、網攻撃を避けながら、トラインデントに光の力を込めて、トライデントは薄紫色に輝き、安里はトライデントを持ったままハマヤーンの下あごを貫き、ハマヤーンは「グ、フ......」と唸ってそのまま横倒れして水飛沫の大きな音を立てて、体が縮んで一匹の小さな魚に姿を変えたのだった。

「......ハマヤーンは元は普通の魚? 一体どうなって......」

 炎寿がその様子を目にしていると、傷だらけのブリーゼとジザイがよろめきながら駆け寄ってきた。

「うう......」

「ブリーゼ、ジザイ! 一体何が......?」

 安里が二匹を支え、ブリーゼとジザイは傷つきながらも返事をする。

「アンフィリット様たちが怪物魚と戦っている最中に、クーレーを守っていたら、隙を突かれて......」

「まさか......」

 ジザイの言葉を聞いて法代は視線の先を目にする。すると、カウィキテフと彼の部下らしい二人の小男が小型のヘリコプターに似た乗り物に乗り、更に縄で縛られたクーレーも乗せられているのを目にしたのだった。

「クーレー!!」

 すでにヘリコプターは上昇し、クーレーは何とかモゾモゾやって、抜け出すことの出来た左手を出して、何かを投げつけてきた。

「これを持っていて......!」

 クーレーが自分の持ち物らしき物を投げてきたのを目にして、クーレーを追いかけようとしてきた比美歌が突風が吹いてきてまぶたをふさいでヘリコプターを見失ってしまうが、クーレーの投げた物を受け止めたのだった。クーレーを連れて逃げたカウィキテフと部下たちの姿はもう見えなかった。


「見失っちゃったわ、ごめんなさい......」

 地上に戻った比美歌は仲間に告げた。

「わたしたちが不甲斐ないばっかりに......」

 ブリーゼが口惜しがって安里たちに言った。

「ブリーゼさんとジザイさんが悪い訳じゃないよ。ほら、ケガを治さないと」

 法代はウィーディッシュの持つ治癒能力を手からだして、ブリーゼとジザイの傷を治してあげた。

「あの男はマサカ=ハサラに属していると言っていて、妖精であるクーレーをさらっていったが何故なんだろう?」

 炎寿がそのことに首をかしげると、安里は昨日郁子が教えてくれたことを思い出す。

「もしかしてイギリスの大英動物園で保護飼育させていたシフゾウが盗まれたのも、マサカ=ハサラの仕業なんじゃ......」

「え!?」

 それを聞いて一同は声をそろえる。

「もしかしてマサカ=ハサラって珍しい生き物を集める組織ってこと? だけど、クーレーがさらわれたことにも辻褄が合うかも」

 法代が言うと、比美歌はクーレーが投げた物を確かめるために両手を開いた。比美歌の手の上には、銀色の輪に楕円型にカットされた透き通った瑠璃色の宝石がはめ込まれた指輪が乗っかっていた。

「これって、クーレーくんの持ち物よね。宝石がチカチカ光っている」

 比美歌が指輪を目にして言う。

「この宝石はクーレーの命の分身みたいな物で、宝石が光っている時は元気の証拠で、曇っている時は危険を現すものですぞ。クーレーは自分が捕まっても、無事であることを示すために我々に指輪を託したということですな」

 ジザイがクーレーの指輪の特徴について説明していると、法代が安里たちに言った。

「この指輪、わたしに持たせてくれない? クーレーのお父さんが見つかったら、渡そうと思っているの......」

 それを聞いて安里たちは疑問を抱く。

「だけど、クーレーのお父さんが何処にいるかわかるのですか?」

 ブリーゼが尋ねると、法代は答えた。

「わたしだってわからないよ。でも、クーレーのお父さんが見つかったら、マサカ=ハマヤーンに捕まったクーレーを助け出す、って伝えるんだ。あの子は、お父さんがずっと行方不明で、お母さんは出稼ぎに行っていて、叔父さんたちと暮らしていても、ずっと一人だったんだよ? わたしが、いやわたしたちがクーレーを助け出して、お父さんに会わせてあげたい」

 法代がクーレーの指輪の管理の理由を聞いた比美歌が法代に指輪を渡した。

「そう言うのなら法代ちゃんに預けるわ。「だけど、マサカ=ハサラの本拠地が分かったら、四人でクーレーを助けに行きましょう」

 続いて安里と炎寿も進み出る。

「一人でやろうなんて、考えないでよ」

「わたしたちは四人で一つの力なんだ」

 それを聞いて、法代は安堵する。

(クーレー、待っていてね。いつになるかわからないけど、あなたを助け出してあげる!)

 法代はクーレーの指輪を握って、新たな敵であるマサカ=ハサラに立ち向かうために誓ったのだった。