2弾・4話 安里の人間界での夏休み


 保波高校の終業式――。各クラスでは生徒たちが先生から配られた通知表を見て落ち込んだり顔を安心させたりさせていた。

 安里のクラスの一年四組でも、通知表が配られ、どの教科が良くてどの強化が悪いか見ていた。

「うーん、どうもこれがなー……」

 安里は自分の通知表を見て呟いた。通知表はAが多く、Bは地理と体育と歴史、家庭科だけがCという評価だった。内申点の方は「帰国して間もないとはいえ数人の同級生と仲良くやっている。授業も挨拶もきちんとやっている」と書かれていた。

 生徒全員の通知表配りが終わると、担任の江口吉夫先生が夏休みの生活についての注意事項を述べる。

「明日から夏休みに入るが、規則正しく生活すること。ジュースなどの冷たい物の摂り過ぎや食中毒に注意すること。海や山や町中の事故に気をつけること。夏休みの宿題は必ずやり遂げること。以上を持ってHRを終わらせる」

 HRが終わると、生徒たちは歩いたり自転車に乗ったりバスや電車に乗って帰宅する。

 保波高校の生徒が乗車するバスで、比美歌は安里に尋ねてくる。

「安里ちゃん、夏休みどこかお出かけするの?」

「うーん、そういうのはまだ……」

「わたしは八月になったらシンガポールに旅行するんだ」

「シンガポール? いいなぁ、郁ちゃんは家がデザイン事務所でお金持ちで」

「へ、へぇー」

 郁子が言うと、比美歌は羨ましがり、安里は軽く返事をする。安里はシンガポールは図書館の資料でしか知らず、実際シンガポールに旅行する郁子についてはどうしたものかと思った。

 磯貝五丁目に着くと、安里は比美歌と郁子と別れて『メゾン磯貝』に帰宅する。

「ただいまー」

 家に帰るとブリーゼが人間姿になって昼食の冷やし中華を作っていた。

「ルミエーラ様、お帰りなさいませ。外は暑かったでしょう。シャワーでも浴びてくださいな」

 安里は自分の部屋へ行って普段用のパフスリーブのワンピースと替えの下着を出して脱衣所で制服を脱いでシャワーを浴びてワンピースに着替える。髪も三つ編みをほどいて茶色のセミロングウェーブにする。

 冷やし中華が出来上がるとブリーゼはカモメの姿に戻り、安里と一緒に昼食を食べた。

「明日から夏休みなんだけど、勉強以外の予定をどうしようかと」

「比美歌ちゃんや法代ちゃんと遊ぶことだってできるでしょうよ。人間界の数日を使ってミスティシアのご両親に会いに行くのも良いではないですか」

「お父様とお母様に会いに行くねぇ……」

 安里はミスティシアのマリーノ王国にいる父や母、そして養子に迎えたフェルネに会いに行く案を聞いて思い浮かべる。父や母、フェルネは安里の里帰りに喜んでくれるだろう。だけど、安里と同世代の妖精たちは自分のことを快く思っていないと考えて答えた。

「そりゃあ、会いたいよ。でも、人間界で過ごすよ夏休みは」

「まぁ、ムース伯爵たちはいつでもいい、とおっしゃってましたから」

 ブリーゼは嘴を使ってカニカマをついばんで食べた。

 安里は昼食を食べ終えると、自分の部屋に戻り通学用のショルダーバッグから夏休みの予定表と宿題の一覧を目に通す。学校から出された宿題は漢字と数学と英語の問題集、読書感想文は五つの課題の内から一つ選ぶものとなっており、後は自由研究のレポートであった。

 安里は問題集と感想文は何とかなるからいいとして、自由研究のレポートはこれから題材を考えてから書くことにした。

 夏に入ってから真魚瀬家の生活は変わり、冷暖房機は居間でしか使えないため、ダイニングキッチンと安里の部屋に扇風機を置いた。また窓は網戸にしており、ベランダとベッド近くの窓はカーテンが風で揺れていた。


 夏休みに入って五日目。安里は朝食後の午前と夕方を勉強の時間に当てて、昼食後の最も暑い時間帯は図書館や駅中のビルで過ごした。図書館に行けばまだ読んでいない本を読了して知識にして、駅中ビルでは服屋や靴屋でウィンドーショッピングした。図書館や駅中ビルでの涼みを終わらせるとアイスクリームやジュースを買って喉を潤した。

 安里が駅中ビルを出て街中を歩いていると、ビル街と住宅街の間にあるファミリーレストラン『ジョルジュ=イタリアン』から比美歌が出てきたのを目にする。

「あっ、比美歌ちゃん。何でここに?」

「あ、安里ちゃん。久しぶりー。わたし、ここでアルバイトしているの」

 比美歌が安里に返事をする。

「アルバイト? 何か欲しいものでもあるの?」

「ううん。夏休みの間だけ勉強以外のことをやりたかったから。週三回のお昼時だけ通っているの」

「そういや、比美歌ちゃん。一六歳になってたんだよね」

 安里は思い出す。保波高校はアルバイトは許可されているが原則として一六歳以上と決まっており、比美歌は林間学校の前に誕生日を迎えて一六歳になっていた。一方で安里は人間界では一月一二日が誕生日であるためまだ一五歳であった。まぁ、安里のお小遣いはブリーゼとジザイが人間界に来た時に宝石を売ったお金がまだ残っていたので困らなかったが。

「そうだ、安里ちゃん。来週の火曜日にプールに行かない?」

「プール?」

 比美歌が安里にプールの誘いを持ちかけてきたので安里は尋ねる。

「プールってどこの?」

「海神町の公園の中にある屋外プール。七月と八月に開かれているんだ。郁ちゃんと法代ちゃんも誘ってさ」

「プールかぁ」

 安里はプールと聞いて思い浮かべる。保波高校でも体育館の地下にプールがあり、そこは雨の日でも泳げる室内プールで主に水泳部の活動場所でもあった。体育の授業では六月から九月に行われ、生徒たちは紺色のスクール水着と白い水泳帽を身につけて受ける。

「それじゃあ決まりね」

 安里はこうして隣の海神町にある公園のプールへ行くことになった。


 プール当日は太陽がまぶしく照りつけセミの鳴き声がうるさい程響き渡り街中に陽炎が揺れ動いている快晴日であった。

 安里と比美歌、それから郁子と法代も誘って海神町の公園のプールに出かけていった。

 海神町に行くにはまず保波駅へ向かい、バスターミナルの海神町へ行くバスに乗り込む。海神町へ行くバスは今は夏休みのためか乗客が少なく、安里たちは座席に座ることが出来た。バスが十五分走った処で海神公園近くの停留所で下車して、その後は住宅街と低層ビルのある町中を歩き、木々に囲まれた海神町の公園にたどり着く。

「ここが海神町の公園かー……。プールはどこにあるの?」

 安里が尋ねると比美歌が公園案内図を目にしてプールを探す。

「ここは出入り口ですぐ近くが管理人局でまっすぐ行った先が左がアスレチック、真ん中が展望台、右がプールだって」

「早く行きましょう」

 法代は興奮して安里たちに言った。海神公園はクスノキやブナ、シイやカシワなどの木々が植えられた雑木林で、上は木の枝や葉で天が遮られていてその隙間から木漏れ日が道を照らしていた。また公園の木に泊まる鳥や虫も多く、セミに至ってはミンミンゼミやアブラゼミなどの種類のセミが鳴いていた。

 三叉に分かれた道の右に入ると、周囲をフェンスで囲まれ、親子が小学生のグループ、大学生などの大人が公園のプールで泳いでいる様子を目にしたのだった。

「やっと着いた〜」

 郁子がプールを目にして喜び、安里や比美歌や法代も喜ぶ。

「じゃあ入場券買って入ろっか」

 比美歌が安里たちに言う。


「公園のプールってこんなんなんだー……」

 安里が公園のプールの様子を目にして呟く。プールは乳幼児が入るための浅いプール、水中ウォーキングや自由遊泳のための二十五メートルプール、それから中心に噴水の出るプールもあった。

「わぁ、安里ちゃん、その水着素敵!!」

 郁子が安里の水着姿を見て言った。安里は肩紐と胸と腰にフリルの付いたラベンダー色のワンピース水着であった。

「い、郁子ちゃんの水着もかわいいよ」

 安里が郁子の水着を見て褒める。郁子は上がマルチボーダーのホルターネックのタンキニ水着であった。比美歌は胸元にリボンの付いた白いモノキニ水着で、法代は白地に緑の木の葉模様ハーフトップビキニであった。

 水中で足首がつらないように準備体操をし、四人は二五メートルプールの中に入る。郁子はプールのへりに掴まってバタ足から始めて体を慣らし、比美歌はクロール、法代は犬かき、安里は背泳ぎでプールを泳いだ。

「わぁ、安里ちゃんって泳ぎが凄い上手なんだね〜」

 郁子が背泳ぎとスイスイ泳ぐ安里を見てはしゃいだ。

「え、ま、まぁね……。小さい頃から泳ぐのは得意で……」

 安里は返事をするが顔を少し引きつらせた。今は人間の姿だが、本当は人魚で生まれた時から泳げるのは当然なのだが、郁子に人魚とバレたのではないかとヒヤヒヤした。

「そんなに泳ぎが上手いのなら水泳部に入ればいいのに。体育の授業でも良かったでしょ?」

 郁子が安里に言うと安里はそれを聞いてドギマギさせる。学校の体育の授業で行った水泳は確かに優秀だった。五〇メートルを一分四〇秒で出し、素潜りでも五分も出したのだから。

「だ、だけど、わたしが水泳部に入ったら、他の水泳部の人からひがまれるし……」

 安里は泳ぎが上手いのに水泳部に入らない訳を郁子に伝えた。

「でもさぁ、安里ちゃんだけでなく、法代ちゃんも泳ぎがうまいよね。比美歌ちゃんだって、いつの間にか泳ぎが上手くなってたし……」

 それを聞いて比美歌と法代もびくついた。比美歌はアクアティックファイターとして目覚めるまで水泳は普通な方で、亡き母から受け継いだ水妖精セイレーンの血が覚醒してから水泳が上手くなっていた。法代も海藻の妖精ウィーディッシュの遺伝子が覚醒するまでは運動に得意苦手の分野があって水泳は普通な方であった。

「比美歌ちゃんて高校に入るまでは水泳もランニングもダンスも同じようなレベルだったのに、水泳が極端に良くなったよね。毎週スイミングに通っていたわけじゃないし」

 郁子が比美歌の運動スキルが以前とは違うと言い出してきて、安里と比美歌と法代は更に動揺する。

「あれ、宇多川と田所じゃねーか。お前らもここに来ていたのか?」

 比美歌と郁子がその声を聞いて振り向くと、四人の男子高校生がプールサイドに立っていた。

「あ、神奈くん。それに大島くんも中島くんも小島くんも。ここに泳ぎに来たの?」

 比美歌が四人の男子に声をかける。神奈くんと同じバスケットボール部員である大島くん、中島くん、小島くんも海神公園のプールに遊びに来ていたのを。四人ともバミューダタイプの水着を着ていた。

「うひょー。宇多川ってスタイル良いなぁ」

 長身細身の中島くんが比美歌の水着姿を見て鼻の下を伸ばす。

「あっ、真魚瀬さんも来ていたのか。その子は……」

 巨体の大島くんが安里と法代を目にする。

「わたしの近所に住む小学生の法代ちゃん。誘ったんだ」

「根谷法代です。よろしく」

 法代が大島くんに挨拶をして頭を下げる。

「田所の水着、何かだせーな。中学生が着る水着みたいだ」

 釣り目にそばかす顔の小島くんが郁子の水着を見てからかう。

「別にいいでしょ。好きで着ているんだから」

 郁子はむくれる。神奈くんは学校では制服かジャージ姿の女子しか知らないので、レジャー用の水着を着ている女子に見とれていた。

「ねぇ、良かったら一緒に泳がない? 折角同じプールに来たんだから」

 比美歌が男子たちに尋ねると、大島くんたちは「さんせ〜い」と声を揃えて、神奈くんも軽く相槌を打つ。


「うひゃー。宇多川って五分も素潜りできるのかよ。おれ、もー、こーさーん」

 中島くんが比美歌と素潜り勝負で負けたのを目にして呟く。安里たちと男子たちは素潜り勝負の他、クロールや平泳ぎなどの競争で勝負して楽しんだ。ピーッ、と監視員の笛が鳴り、五分間の休憩の時間になり、男も女も子供も老人もプールから上がってパラソルの下や客席したのベンチに座って身を休める。

 安里もプールサイドに座ってぼんやりとし始める。神奈くんは学校では三つ編みで今は左右の髪の束を結い上げたツーサイドアップの髪型にフリル付きワンピース水着の安里を眺めていた。

(何か真魚瀬って、この姿だとなんか別人に見えるな。制服姿かどうか出ないというよりは……)

 神奈くんが水着姿の安里を見つめていると、視線を感じて振り向いた安里と目があった。

「あ」

 神奈くんは無理やり愛想笑いを作り、安里に話しかけてきた。

「……追試の勉強、教えてくれてありがとな。親父もお袋も褒めてくれたよ」

「良かったね。でも神奈くんの追試への合格したい気持ちもあったからだと思うよ」

 安里は神奈くんから追試合格のお礼を言われると、謙遜した。

「真魚瀬、勉強の教え方上手なんだから学校の先生になればいいのに。それか学習塾の講師になるとか」

 神奈くんは勉強を教えるのが上手い安里に先生になればいいと言ってきた。それを聞いて安里は首を横に振る。

「でもわたし、そういうことはまだ考えてないし……」

 安里は気弱そうに呟いた。その時、ピーッと休憩の終わりを告げる笛が鳴って、中島くんが神奈くんに声をかけてくる。

「おい、瑞仁。バタフライやろうぜ」

「おう」

 神奈くんは立ち上がってプールに入り、他の男子と共にバタフライで泳ぎだした。

「安里ちゃん、三時になるまでもうひと泳ぎしよう」

 比美歌が安里に声をかけてきたので、安里は我に返って立ち上がる。

「うん、そうだね」


 安里たちは三時近くになるとプールを出て家に帰ることにした。更衣室でシャワーを浴びてプール水の塩素を流してロッカーの服を着て、出入り口の係員にチケットを渡して海神公園のプールから出て、このまま保波駅行きのバスに乗って帰ろうとした。

「思ってたより公園のプールっていいものね」

「安里ちゃんに気に入ってもらえて良かったよ。また来る?」

 安里が公園ないのプールでの感想を述べて比美歌も喜んでくれていると、公園内で悪しき気配を感じた。すると広場の方から騒ぎが聞こえてきたので、安里・比美歌・法代は顔を見合わせて、比美歌は郁子に言った。

「悪いけど郁ちゃん。先に帰ってて。わたしと安里ちゃんと法代ちゃん、用を思い出したから」

「えっ、そんなこと急に言われても……」

 郁子は困り果てるも、三人はすでにアスレチックの方向へ駆け出し、途中で首からぶら下げていたライトチャームを出して、アクアティックファイターの姿に変身する。


 円状に拓かれたアスレチック広場は木製のアスレチックタワーや東屋、木製のブランコや雲底などの遊具のある空間で、そこに来ていた小中学生のグループや親子連れはアスレチックタワーが突然怪物となって暴れだしたのを目にして逃げ出した。

「うわーっ!!」

「怖いよ〜」

 東屋の上からは一人の人物――上半身が太古の日本で使われた鉄器、銅鐸に目と口と両腕をつけた姿に人間と同じ下半身を持つ者が立っていたのだ。

「ハハハ。ヤドリマが暴れて人間たちがうろたえて逃げ出すってのは何とも滑稽で愉快だな。このまま街へ出て人間たちを降伏させるか?」

 銅鐸人間がそうしようと思っていたその時だった。広場にいなくなったはずの人間がまだ残っていたことを。いや、いつの間にか現れていたのだ。それも三人の少女が。

「この前会ったタケモリノイクサとは違う。あなたもヨミガクレの一員なの!?」

 深いピンク色のウェーブヘアに紫色の衣装の少女が銅鐸人間に尋ねてくる。

「おお? お前らがタケモリノイクサが言っていた水の妖精、アクアティックファイターって奴か? おれは鋼守盾(ハガネノモリタテ)だ。まさかお前らがこんな所に来ていたとは意外だな。ヤドリマ、こいつらを叩きのめせ」

 モリタテはヤドリマに命令して自分は引き下がる。ヤドリマはアクアティックファイターに攻撃を仕掛けてくる。アスレチックタワーのヤドリマは左腕を伸ばしてトンネル状の筒を出してきて比美歌を閉じ込め、右腕のネットで法代を巻きつけて動きを封じ、胴体から足場となる木片を安里に向けて飛ばしてきた。安里は飛んできた木片にテンポよく乗ってジャンプして水の玉を集めて放つマーメイド=アクアスマッシュを出してヤドリマの胴体に当ててひるませる。比美歌はトンネルの筒を音符型のエネルギー攻撃のセイレーン=ビューティーサウンドで内部から破って脱出し、法代も巻き付いたネットから抜け出してヤドリマの右腕と両腕を海藻型のエネルギー波動、ウィーディッシュ=エナジーバインドで動きを封じて安里が止めとして光を帯びた流水、マーメイド=スプラッシュトルネードを出してヤドリマを倒した。ヤドリマとしての力を失ったアスレチックタワーはこのまま動かなくなり、元のアスレチックタワーに戻る。

「へへっ、お前らの力、見せてもらったぜ。じゃあな」

 モリタテはアクアティックファイターの実力を目にすると、森の中へ隠れるように逃げていった。

「これは一体何かしら?」

 ヤドリマとの戦いの後、安里がアスレチックタワーの脚にあったある物を見つけた。掌ほどの正方形の紙切れのようである。紙の中には五芒星の中心に目のような模様が描かれていた。

「もしかしてさっきのヨミガクレが残していった物なんでしょうか?」

 法代が紙を見て問いてくる。

「これでヤドリマが出てくるというの?」

 比美歌が首をかしげる。

「これを持って帰ってジザイに聞いてみよう。ジザイは物知りだからわかるはず」

 安里は紙切れを剥がして家に持ち帰って調べることにした。


 この後、安里と比美歌と法代は保波駅行きのバスに乗って保波市まで戻り、その後は自分の家へ帰っていった。

 安里は『メゾン磯貝』の自宅に戻ると、ジザイに海神公園の広場のアスレチックタワーがヤドリマになったことを伝えると、アスレチックに貼られていた紙切れを見せる。

「見たこともない紋章ですな。繊維は粗め。紋章に使われた塗料は粘土を液状化させたもの……」

 ウミガメ姿のジザイは安里が持ち帰ってきた紙を調べて唱えるように言う。

「……しかし、この紙には何の気配も感じませんな。恐らくヨミガクレの幹部がヤドリマを生み出す時はあったのでしょうが、ルミエーラ様がヤドリマを倒した時には効力も消え失せるのでしょう」

「使いっきりか……。だけど、もしヤドリマを生み出すこの紙が人間の街中の道具に貼られたら……」

 安里が想像すると、ジザイが言った。

「大量のヤドリマが生まれるのは確かです。ヨミガクレの目的はそこにあるのでしょう」

 もしそうなったら人間の世界は大混乱になってしまうだろう。そうならないようにするのが安里たちアクアティックファイターの務めなのだから。