4弾・5話 脇坂くんからの誘い


「起立、礼、さようなら」

 午後のHRが終わると、保波高校の生徒たちは教室を出てクラブ活動や委員会、アルバイトや予備校、そうでなくても自分の家に帰宅したりとする。今日は水曜日で郁子は手芸部に所属しているため、安里はこの日はクラブのない炎寿と一緒にバスに乗ってマンションへ帰っていった。

 バスが『ベルジュール磯貝』近くのバス停に停まると、安里と炎寿は下車してマンションのエントランスホールで一人の男子生徒と対面した。

 前髪を分けた天然パーマに大きめの眼、男子にしては色白の肌に一七〇センチ台の背丈、紺色のパイピングブレザーに青いチェックのスラックスの制服、ダークグレーのダッフルコートに紺色の学校指定通学バッグ。同じマンションの五〇四号室に住む脇坂迅(わきさかじん)であった。

「あっ、真魚瀬さん、朱堂さん。久しぶり」

 脇坂くんは二人を目にしてあいさつする。

「ああ、脇坂。久しぶりだな」

 炎寿は脇坂くんに軽く返事をした。安里は脇坂くんを見るとあいさつどころか、黙ってそっぽを向いてしまう。

「真魚瀬さん、どうかしたの?」

 脇坂くんが安里を見て尋ねてくると、炎寿がフォローしてきてくれた。

「いや、安里は久ぶりに脇坂に会ったから戸惑っているだけだ」

「ああ、そうなの。そりゃあそうだよな。おれと真魚瀬さんらは学校違うし、同じマンションでも顔もあんまり合わせないしな」

 脇坂くんが安里の自分に対する態度を見て、素っ気なく言った。脇坂くんが通っているのは舟立海岸近くにある舟立工業高校で、安里と炎寿が通学している保波高校とは逆の方向である。三人は四階まで一緒に階段に昇って帰ることにした。四階に着くと炎寿と共に脇坂くんと別れて、四〇三号室の自分の家に入っていった。

「どーも脇坂くん、苦手なんだよねぇ......」

 安里は自室で制服から普段着に着替えようと通学用のコートを脱いだ時、コートのポケットからヒラリと一枚の紙切れが落ちたのを目にした。随分前に買ったお菓子のレシートを入れっぱなしだったのかと拾ってみると、それはメモ用紙であった。掌に入る黄色いメモ用紙には三角ばったボールペンの字が書かれていた。

『真魚瀬さんへ

 今度の日曜日の朝十時半にマンションのエントランスで待ち合わせしよう

脇坂迅』

「えっ、これって......」

 先月に神奈くんとデートしたばっかなのに、脇坂くんからもデートを申し込まれたのだった。

(ああ、そうか。炎寿と一緒にいた時は口で言えなかったから、わたしの服の中にメモを忍ばせたのか)

 安里はメモが入っていた理由を理解するも、脇坂くんの策略ぶりを見てため息をつく。でもデートを断ったりドタキャンしたりなんかしたら失礼だと思い、脇坂くんとのデートに乗ることにした。


 日曜日、安里は朝食を食べ終えるとスウェットワンピースとレギンスから、脇坂くんとデートするための服装に着替えた。といっても神奈くんのデートの時とは違い、ラフでシンプルなものにした。白いニットに灰色のリボン付きサロペット、コートもサーモンピンクのライトダウンジャケットにして、バッグも黒いウェストバッグにして、靴も普段用の紫とピンクのスニーカーにした。

「おや、アンフィリット様。お出かけですか?」

 居間のこたつで体を温めているウミガメ姿のジザイが安里に尋ねてくる。

「うん......。学校の、他の友達と。炎寿は今日クラブ活動に行っているし、ブリーゼはコインランドリーに行って洗濯乾燥に行ってるし」

 そう言って安里は口実を設けて、玄関を飛び出していった。空気は零度近くの寒さで、空も灰色の雲に覆われていたが雨の心配はなさそうだった。安里は階段を下りてエントランスホールへ向かい、そこには私服姿の脇坂くんが待っていた。

「やぁ、来てくれたんだ」

 脇坂くんは安里を目にすると軽く笑う。脇坂くんは黒いニットのブルゾンにベージュのハイネックインナー、赤と黒のチェックのスキニーパンツに紺色のトレッキングブーツを身につけており、背には合皮革製のダークブラウンのリュックサックをしょっていた。

「う、うん。まさかデートの誘いのメモを服に忍ばせておくなんて......」

 安里は顔を赤らめつつも脇坂くんに憎まれ口を叩いてくるも、脇坂くんは起こることも傷つくこともなく安里に言った。

「仕方ないだろ。真魚瀬さんの周りにはいっつも友達や家族がいて言えなかったんだから。いいから、行こう」

 そう言って脇坂くんは安里を連れてエントランスを出たのだった。

「ところでさ、脇坂くんはどこへ行きたいの? まさか後で決めるんじゃないよね?」

 安里は脇坂くんと街中を歩きながら尋ねてくる。休日の保波市は出かけ先の車が数はそんなにではないが車道を走っており、やたらと寒いためか出歩く人も少なかった。駅行きのバスは次の時刻までに二十分もあったため、二人は歩いて駅に向かっていったのだった。

「あー、ごめん。これ真魚瀬さんが好きかな、と思って」

 そう言って脇坂くんはブルゾンの胸ポケットから一枚のチラシを開いて見せた。

『ヨーロッパ珍植物展』と書かれたチラシにはバラやユリやナデシコなどの花の写真が印刷されており、場所は京葉幕張にある幕張シティホテルの二・三階で開催と書かれていた。

「父さんが同僚からチケットを貰ったんだけど、他の友達は植物に興味ないと思って、真魚瀬さんなら喜びそうだと」

「ああ、そうだったの......。なら今のうちに行っておかないとね」

 安里は脇坂くんがデートに誘ってきてくれた理由を聞いて胸をなで下ろした。


 京葉幕張に着いたのは一時間後で、京葉幕張駅は商業都市のため、保波市よりも高くて立派なビルがいくつもあり、バスターミナルも広く休日の今は多くの人が駅に出入りしていた。安里は普段来ない場所と人の多さに酔ってしまったが、脇坂くんが呼びかけてくれたおかげで迷子にならずに済んだ。

 幕張シティホテルは白い二十五階建ての高層ビルで、一階のエントランスホールや待合室、軽食店だけでも一目で立派で多くの人たちが『ヨーロッパの珍植物展』に来ていた。展示会に来ている他の人たちはジャケットなどのフォーマルやフェミニンワンピースなどの上品な服装が多いのに、安里はカジュアルな服装で来てしまったことに引き目を感じた。

「気にするなよ。真魚瀬さんはデートの場所がどこだか知らずに、この服装にしちまったんだろう?」

 脇坂くんがフォローしてくれた。

「うん、まぁ......」

 二人は二階と三階の大広間で開催されるヨーロッパ植物展に足を踏み入れる。会場は多くの老若男女で賑わい、赤や白や黄色の花が生け花やフラワーアート状に展示され、デジタルカメラや一眼レフカメラを持ったカメラマンが撮影したり、花の出品者が他の客人から褒め称えられたりと騒々しいけど、明るい様子であった。展示品の花も二色の花びらのシクラメンや白いグラデーションの入ったジャーマンアイリス、〈星の花〉と呼ばれるドイツのエゾギクといった植物が展示されていた。

「ヨーロッパ限定に絞られていても、こんなに種類があるのね」

 安里は展示されている植物を見て意見を述べた。脇坂くんは花を見て夢中になっている安里に声をかけてくる。

「えっ、そ、そうだったの!?」

 安里が脇坂くんに訊こうとした時だった。会場司会者の眼鏡をかけた若い男性が会場来賓者に向かって挨拶する。

「当会場にご来賓の皆さま、本日の大目玉である世界最初の青いスイートピー、〈ヘブンズロマンス〉のご紹介です。どうぞ!」

 すると会場の布のかかったショーケースの布が取り払われると、ガラスケースに入ったスイートピーの鉢が姿を現す。普通のスイートピーはピンクやや黄色や白や紫が主なのに対し、〈ヘブンズロマンス〉は白と青の花びらだったのだ。

 おおーっ、っと会場にざわめきが起こり、安里と脇坂くんも〈ヘブンズロマンス〉の美しさに魅了される。

「スイートピーはバラやランやチューリップのように青い色のない花なんだ。これを人間が何年もかけて品種改良してきたんだから」

 脇坂くんは安里に教える。安里はミスティシアにいた頃の記憶をたどって、ミスティシアの地上にはどんな花が咲いていたか思い出す。マリーノ王国は水中だったから花はそんなになく、あったとしても地上の三分の一の種類しかなかった。

 マリーノ王国の学校の遠足や陸妖精との会合の時、安里はミスティシアの陸の北の方には青い花が多くみられ、また青いバラやユリやランもあったことも思い出した。

「ええ、そうねよね。本当に珍しいわ」

 安里は脇坂くんに自分が妖精だと覚られないように返事をした。それから〈ヘブンズロマンス〉は珍しい花だから、マサカ=ハサラが奪いに来るかもしれないと睨んだのだった。

 脇坂くんと安里は花の展示会場での観賞を終えると、昼食を採りに飲食店の多いエリアに向かい、どこで食べようか話し合っていた。

「やっぱり割り勘よね?」

「うん。だとすると、おしゃれなカフェやレストランはやめて、ファストフードやファミレスになっちゃうよな......」

 何せ保波市と京葉幕張は距離も時間も交通費もかかるため、二人はランチはなるべく安くておいしい店を探すことにした。二人はショッピングセンターの中のフードコートを選び、ケバブ店の品を注文して食べた。安里はミックスケバブライスセット、脇坂くんはチキンケバブ丼とサラダ。親子や地元中高生のグループなどの客が来ている中で、二人は空いている二人席で向かい合って食べた。

「あのさ、真魚瀬さん」

 安里が食事を堪能している中、脇坂くんが尋ねてきた。

「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「えっ、何......」

 安里は食事する手を止めて、脇坂くんの質問に耳を傾ける。

「真魚瀬さんって、気になっている男子とかいる?」

 それを訊かれて安里は思わずフォークを落としてしまった。

「あ、いや。決してやましい意味で言ったんじゃなくって......、もしさ良かったらおれとつき合わないか、と訊いてみただけで......」

 安里は脇坂くんからの問いかけに動揺した。まさか男子から、それも人間から告白されたのは初めてだった。脇坂くんが自分のことを好いていたなんて思ってもいなかったのだ。

(そんなことって......。だけどわたしは......)

 安里は戸惑った。安里が好きなのは神奈くんだ。だけど神奈くんが好きなのは普段の安里ではなく、アクアティックファイターの安里であった。安里はそのことが言えず、うつむいてしまった。

「あの......、真魚瀬さん?」

 脇坂くんが安里に尋ねてくるが、安里も自分も食べかけだと知ると、こう言ってきたのだ。

「まだ残っているよ。ご飯、もったいないし......」


 その頃、幕張シティホテルのヨーロッパ植物展では一人の男性客が〈ヘブンズロマンス〉の出品者であるフランス人女性に質問していた。

「イヴォンヌ=スーさん。あなたが生みだした〈ヘブンズロマンス〉は素晴らしい。誰もが欲しがるのは当然でしょうね」

「メルシィ。でも新しいのはまた生み出せるかどうか......」

 するとその男性客は顔を上げて、スー女史にこう言ったのだった。

「ならば、今のうちに我々が手に入れるまでだ」

 そう言ってターバンにスーツ姿の男性客はフィンガースナップを鳴らし、何かがホテルの窓ガラスを突き破って会場に現れたのだった。


 脇坂くんと安里はショッピングセンターで昼食を終えた後、距離を置きながら駅に向かっていった。昼食中の会話がまずかったのか、さっきから黙ったままだった。

(どうしよう、さっきから真魚瀬さん何も言わないぞ......)

 脇坂くんは数分おきに安里の様子を目にして、いつ台詞を言おうか迷っていた。

(脇坂くんに告白されるなんて思ってもなかったし、だからと言って断ったらこれからどうなるか......)

 お互いギクシャクしながら帰ろうとしている中、幕張シティビルの方角で騒がしい音が聞こえてきて思わず振り向いた。

(! もしかしてマサカ=ハサラが!?)

 やっぱり〈ヘブンズロマンス〉をはじめとする植物を奪いに来たのかと察すると安里は気持ちを切り替えて、脇坂くんにハッキリ言ったのだった。

「脇坂くん、悪いけど先に帰ってて! わたし〈ヘブンズロマンス〉がどうなったか見てくる!!」

「え、あの、真魚瀬さん?」

 脇坂くんが止めようとするも安里は既に、駆け足で幕張シティホテルへ向かっていったのだった。


 安里が幕張シティホテルに来ると、ホテルの来賓客や従業員は既に全員避難した後で、ホテルのエントランスホールには何と大型犬と同じ大きさのガの大群がいたのだ。ただでさえ麦の穂みたいな触角と複眼と目玉みたいな模様の翅鱗粉が不気味だというのに、一メートル超えの大きさになると不気味さが増す。

「ひえ〜、こんなにいるんじゃ一人で倒せるかどうってか、こないだ観た映画が蛾人(モスマン)が出てくる作品だったから、モスマンに似ているんだ」

 そう思っていた時だった。ガの周囲にいくつものの炎が爆ぜて、ガたちが気勢を上げてもがきだした。

「ピギャアアア」

 ガたちが燃えたのを目にして安里が振り向くと、アクアティックファイター姿の炎寿、比美歌、法代がいたのだ。

「みっ、みんな、どうしてこんな所に......?」

 安里が駆けつけてきてくれた仲間を目にして驚くも、比美歌が答える。

「ああ、炎寿ちゃんがクラブ活動から帰る途中に安里ちゃんが男の子と一緒に保波駅に入るのを見かけて、それから駅の広告で京葉幕張で『ヨーロッパの珍植物展』をやることからマサカ=ハサラが狙ってくるんじゃないか、と来たのよ」

「えっ、てことは......」

 炎寿は自分と脇坂くんのデートを目撃したのか、と覚ると顔を赤らめる。

「安里さん、何赤くなってんでしょう?」

「いいから早く変身して、マサカ=ハサラを追い返すぞ」

 法代が安里の様子を目にして首をかしげ、炎寿が安里に声をかける。

 安里もアクアティックファイターに変身すると、二階の展示会場に来てみると、窓ガラスが割られ、椅子やテーブルがひっくり返り、展示の花も踏まれてたり花びらが無造作に散ったりとメチャクチャになっていた。

「もう逃げちゃったのかな?」

 法代がそう思っていると、安里が天井から音がしたのを聞いて叫んだ。

「敵はまだいるよ。上の階だわ!」

 安里は急いで階段を昇って三階の会場へ向かっていった。三階の会場では変装を解いたカウィキテフとガのハマヤーン数体がスー女史と数人の植物学の関連

者とホテルオーナーを捕らえていた。三階の会場もいくつかの花がマサカ=ハサラによって特殊な透明なオリの中に入れられ、ガのハマヤーンに運ばせようとしていた。

「ああ、〈ヘブンズロマンス〉が......」

 スー女史が自分の花を奪われるのを目にして呟くと、カウィキテフが言った。

「マサカ=ハサラの長(カリフ)に仕えていれば、新種の花の研究が出来たものを......」

「何を言っているの! わたしの生み出す花はあなたの長の一人のためではなく、世界中の万人に見てもらいたいためなのよ。わたしはあなたたちに従うくらいなら、研究資料と共に散る方を選ぶわ」

「生意気なことを......」

 その時、バァンと扉が開いて、アクアティックファイターが現れる。

「来たか、妖精ども」

 カウィキテフが安里たちを目にして言うと、スー女史たち捕らえられた人たちは謎の少女たちの出現に驚くも、救いの時だと察した。

「やっぱり〈ヘブンズロマンス〉が狙いだったのね。そうはさせない!」

 安里はカウィキテフに向かって叫ぶも、カウィキテフはハマヤーンに命令し、ガのハマヤーンが四人に襲い掛かってくる。

 安里、比美歌、法代はチャームを武器に変えて、トライデントから光を帯びた水の刃のマーメイド=トリアイナスラストを出し、フルートを吹いて聖なる音色がハマヤーンの動きを狂わせて飛べないようにし、フレイルを振るって海藻型エネルギーの綱を伸ばしたりしてハマヤーンの動きを封じる。ハマヤーンが持っていた花のケースが次々に落下し、カウィキテフはハマヤーンとぶつかって〈ヘブンズロマンス〉を落としたはずみで安里が素早くケースをつかんだ。

「バイパー=ヒートピラー!!」

 炎寿が動きを封じられたハマヤーンを倒すために技の詠唱を唱え、赤い火柱がハマヤーンを包み、ハマヤーンは奇声を上げてもだえて、炎が消えると黒こげになったガがいくつも出てきて、それも普通のガの大きさに戻っていた。

「くそっ、アクアティックファイターめ。我々の邪魔をしおって......。覚えていろ!!」

 カウィキテフは窓ガラスを割って、上空に待機させていた小型ヘリから下されたはしごに掴まって逃げていった。スー女史たちはケガもなく無事だった。

 安里は〈ヘブンズロマンス〉をスー女史に渡し、スー女史やホテルオーナーたちは安里たちに礼を言った。

「あ、ありがとう。マドモアゼル」

 そして会場を去り、一階の階段で変身を解いてホテルから脱け出していった。


 京葉幕張駅に向かう間、比美歌と法代と炎寿は安里に尋ねてきた。

「安里ちゃん、男の子って誰と一緒に京葉幕張に来ていたの?」

 それを訊かれて安里はギクッとなる。ごまかそうとしたが、答えが出なかった。

「そ、それはそのう......」

 安里が台詞をつっかえさせていると、駅のある場所から脇坂くんがやってきた。

「あ、真魚瀬さん! 良かった、見つかって」

 安里は脇坂くんを目にして、まだ帰ってなかったことに驚く。

「な、何で!? 先に帰った筈じゃあ......」

「いや、だって女の子一人を残して帰る訳にも......。って何で他の子も?」

脇坂くんが安里の他にも炎寿たちがいることに目を向けるも、三人は軽く挨拶をした。

「あ、どうも」

「ああ、こっちこそ......。でも良かったよ、真魚瀬さんが無事で」

 炎寿たちは気づいた。安里と脇坂くんのやりとりを見て。

 その後は全員で保波市に戻り、安里と炎寿は『ベルジュール磯貝』の四階まで脇坂くんと一緒だった。

「それじゃあ、真魚瀬さん。朱堂さんもまた」

「あ、うん。今日は......ありがとう」

 脇坂くんが一つ上の階に行くのを見送ってから安里と炎寿は四〇三号室に入っていった。

「お帰りなさいませ、アンフィリット様、フェルネさん。さっきテレビでマサカ=ハサラが京葉幕張に現れましたが、アンフィリット様たちが追っ払ってくれたんですってね」

 カモメ姿のブリーゼが帰ってきた安里と炎寿に言ってきた。

「うん。偶然とはいえ、何とか......」

 安里はそう返事をすると、居間のテレビで幕張シティホテルの映像となっており、事件が起きたものの、〈ヘブンズロマンス〉は無事だった報道が伝えられていた。

「わたし、疲れたから夕食まで休んでいるね」

 そう言って安里はブリーゼと炎寿に告げると、自分の部屋に閉じこもってベッドに座って、今日の自分の気持ちがどうだったか覚ったのだった。

(脇坂くんはわたしのことが好き。だけどわたしが好きなのは神奈くん。神奈くんの方はアクアティックファイターのわたしが好き。だけど、本当のことは言えない。今を保つための秘密だから)

 窓の景色は赤い夕日と朱色と紫が染まった空になっていたが、安里は窓を開けて冬の冷たい空気を受けて、あることを決意したのだった。

(必ず言おう。神奈くんに「好き」だと伝えるんだ。神奈くんが普段のわたしのことをどう思っているかまでは知らなくても......)