3弾・4話 体育祭の後で


 九月も中旬に入り、残暑も和らぐ頃、保波高校では十月第一土曜日に開かれる体育祭の練習を行(おこな)っていた。

 体育祭では学年ごとに種目が異なり、一年生は借り物競走・百メートル走・玉入れ・大玉転がし・綱引きの種目を行い、またクラスで三人までは個人種目の選手に自薦することが出来るのだ。

 保波高校では体育の時間を体育祭の練習に当てて、主に個人種目でタイムを縮めるために励んでいた。

 安里は百メートル走、比美歌は借り物競走の選手になったが、比美歌は自ら選手になったのに対し、安里は空きがあったために選手になったのだった。

「そこまで」

 記録係の男子生徒が百メートル走の練習をする安里と他の女子と男子に合図する。

「また真魚瀬が一番だ。十三秒十七」

 安里はハァハァ息を切らしながら、腕で顔の汗をぬぐう。

「うちのクラスは体育系のクラブに入っている奴が多いから、勝てるかもな」

「でも、真魚瀬さん。走るのが早いんだから本当に運動部に入ればいいのに……」

 安里と同じ百メートル走の男子と女子が声をかけてくる。

「いや、いいよ。体育祭の選手で充分。百メートル走の選手があと一人だったのは、何となくだし」

 安里が同級生に言うと、授業終了のチャイムが鳴った。次のクラスが使うため平均台やハードルなどはそのままにして、校舎の更衣室に向かって、白い体操着とオリーブグリーンのハーフパンツから制服に着替える。

 安里は比美歌と行くこと共に教室に戻ろうとすると、廊下で更衣室に向かう一年三組の生徒とすれ違った。当然、鈴村史絵もその中にいて、安里は史絵を目にする度、神奈くんと登校している姿を思い出して、頭を振っていた。神奈くんは体育祭の種目選手にはならなかったが、団体競技の練習に励んでいた。

 それからして時間が経過して清掃、HRと済ませて、安里は比美歌と郁子、そして今日はクラブのない炎寿と共に帰宅することになった。帰りのバスの中で、四人は体育祭の話について語り合っていた。

「わたしはお父さんとお母さん、お姉ちゃんも大学休みだから来てくれるんだ」

 郁子が言うと、比美歌が呻る。

「わたしはお父さん、体育祭と出勤日が重ならなければいいのだけれど……」

「そしたら、昼食はわたしたちと食べるか? あと法代も誘うそうだ」

 炎寿が比美歌に訊いてくる。安里はというと、神奈くんに恋をしていると気づいてから、神奈くんの前では自分の本心を見せないように平然と振る舞い、また女友達の前では恋バナでない限り通常に振る舞っていた。

 バスは磯貝四丁目に来ると、安里と炎寿は降車して住宅街の中のマンション、『ベルジュール磯貝』の四〇三号室に帰っていった。

 四〇三号室が真魚瀬家で、今はカモメ姿のブリーゼが居間でアイロンがけをしていた。

「お帰りなさいませ、ルミエーラ様、フェルネさん」

「ただいまー」

 安里と炎寿はうがいと手洗いを済ませて制服から普段着に着替えると、食器棚の中から今日のおやつ、チョコチップクッキーを取り出す。十二枚入りで二人は半分ずつ分けて食べる。

「ブリーゼ、今日はわたしが夕食を作るよ」

「ああ、どうも」

 夜七時半になるとジザイが帰ってきて、人間姿から海亀姿に戻り、炎寿が作った夕食にありつく。この日の夕食はレバニラ炒め、豆腐の中華スープ、白ご飯、バンバンジーサラダと中華メインであった。

「ブリーゼ殿とジザイ殿は十月最初の土曜日の体育祭に来てくれるか?」

 夕食を食べながら炎寿はブリーゼとジザイに尋ねてくる。

「ええ、行きますとも。お弁当を作って、法代ちゃんも呼んでおきましょう。練習は今日からですか?」

「ああ。そういや、ルミエーラがクラスの百メートル走の選手になったと言っていたぞ」

 今日の帰りのバスで炎寿は今日の出来事をブリーゼとジザイに伝える。

「ほぉ、ルミエーラ様がクラスの百メートル走の選手に?」

 それを聞いてジザイは安里に訊いてきた。

「いや……、百メートル走で選手があと一人空いていて、誰もやらないからわたしがやろうと……」

「ルミエーラ様が体育祭の選手になってくださるとは……。マリーノ王国にいた頃は体育祭はおろか、水技祭(すいぎさい)にも出なかったというのに」

 ブリーゼが安里に体育祭で百メートル走に出ると聞いて歓喜する。マリーノ王国の学校では体育祭や水泳・水球などをはじめとする水技祭という行事にも安里は参加したことがなかった。その時期になると飛び級していたからだった。

(体育祭、初めてやるけど、どうなるか……)

 安里はレバニラ炒めを口に入れながらそう思った。


 地下数百メートル下にある地下洞、ヨミガクレの本拠地。サキヨミウラシは時々、女王が女王の間を抜け出して本拠地よりももっと深い場所に行っているという地下の竪穴に足を入れていた。竪穴の入り口は石の扉があり、外側に引く引き戸になっていた。

(女王さまは月に一、二回ここを訪れているそうだが、何があるのか?)

 ヨミガクレの竪穴の扉は女王しか行ったことがなく、サキヨミは数ヶ月前に偶然ここを見つけたのだ。

(流石に全開だとやばそうですからね、指が三本入れるほどに開いてみましょうか)

 占いというより勘でサキヨミは扉の引き戸を指三本分だけ開けてみた。

 すると、

「うおおおお……」

「ここはもうやだ。出してくれ……」

 不気味な声がいくつも出てきて、それが地獄の亡者たちだということがわかった。っそして更に青黒い気体状のエネルギーがサキヨミの体にまとわりつき、サキヨミは慌てて戸を閉めた。

「い、今のは……」

 自分の勘が当たったとはいえ、サキヨミはやがて何かの感情が芽生え、いや広がっていくのを感じてきた。白い紙の上に黒い墨が徐々に広がるよう何かが。


 十月最初の土曜日。保波高校の門前には『第二十三回保波高校体育祭』の看板が立てられており、縁は紅白のビニールテープで施されていた。

 校庭には生徒が組ごとに立ち、校舎の近くには点数の黒板、放送のテント、保健のテントが立てられていた。一組から五組が三学年集まっており、一組は赤、二組は白、三組は青、四組は黄色、五組は緑の鉢巻きを着けていた。校庭の隅には保護者席があるスペースで、みんなゴザやレジャーシートを敷いており、真魚瀬夫妻、比美歌の父、法代が同じレジャーシートの上にいた。

「いや〜、良かったですねぇ。宇多川さん。娘さんの体育祭の日に来られることが出来て……」

 人間姿のジザイが比美歌の父に言う。比美歌の父はタクシー運転手で、仕事は日によって昼帯だったり夜帯だったりと不定期だが、今回は休みになれて娘の学校行事に参加する子とが出来た。

「はい。うちは女房が早くに亡くなりましてね。小中学校の時は娘の授業参観や学芸会にいくことも出来なかった日もありましてねぇ……」

 比美歌の父は濱吉に言った。

「あのぅ、来週の土曜日のわたしの学校の運動会、見に来てくれますか?」

 真魚瀬家に誘われた法代が潮に尋ねてきた。

「ええ、行きますとも。あっ、そろそろ開会式が始まりますよ」

 校庭の台にジャージ姿の校長先生が出てきて、マイクを持って生徒たちに向かってあいさつする。

「皆さん、おはようございます。今日は保波高校二十三回目の運動会です。正々堂々と全力を持って頑張ってください」

 校長先生のあいさつが終わると、用具係の生徒が最初の種目で行う競技の準備をして、最初のプログラムである二年生の棒倒しが始まる。校庭の中心に布を覆った木の棒が立てられ先に倒した方が勝ちというルールである。

「いちについて、よーい」

 ピーッと先生の吹くホイッスルと同時に開始され、五クラスの生徒が我よ我よと押し倒す。先に一組の棒が倒されたので、一種目目は赤組に点が入り、点数表に5の数字が書かれる。

 次は三年生の飴食い競争で手を使わずに小麦粉の入った箱の中から飴を探す競技で白組が一番になった。

 三種目めは一年生の借り物競走で比美歌が三人目として参加し、指定の紙に書かれた物を借りてゴールする。

「比美歌ちゃん、がんばれー」

 応援席の郁子が比美歌に向かって叫ぶ。

「一週目と二週目は鈴村さんのいる三組が一番になったけど、最後の三週目でどうなるか……」

 安里は借り物競走の様子を目にして、ハラハラしていた。一週目と二週目は四組がビリだったからだ。

 ピーッとホイッスルと同時に全員が駆けだし、走った半分の場所に指定書が置かれており、ひっくり返してみんな探しに行く。

「カメラ、カメラはありませんかー」

「誰か水筒を貸して下さーい」

 比美歌も指定書を目にして駆け出す、比美歌が向かったのは用具倉庫で、用具係の人に声をかける。用具係の人は次の障害物競走で使うハードルを持ってきて比美歌に渡した。

「えっ、これなの!?」

郁子も安里も比美歌の借り物を目にして仰天する。他の選手は片手で持てるカメラや水筒、腕時計やサッカーボールに対し、比美歌は両手で持たないといけないハードルで、当然ビリになってしまった。

「あ〜あ、負けちゃったよ」

 比美歌はとぼとぼと応援席に戻っていった。

「指定通りの物とはいえ、分が悪かったようですね」

 クラス委員の深沢くんが比美歌に言ってきた。

「でも、よくやったよ」

「運んだだけでも偉いよ」

 安里と郁子が比美歌を励ました。

「うん、ありがと……」

 競技は次々と過ぎていき、やがて昼食時になった。安里と比美歌と炎寿は自分の家族の所へ向かい、潮夫人の作ってくれた弁当にありついた。味の異なるおにぎりに卵焼き、唐揚げにフライドポテトにサラダ、デザートもりんごやオレンジとたくさんあった。比美歌の父も弁当を作ってきており、こちらはのり弁とゆで卵とソーセージとポテトサラダだった。

「いやー、運動した後の食事は旨いなー」

 炎寿がおにぎりを食べながら言う。

「そういえば昼食後の最初の競技は百メートル走で安里さんが出るんでしたよね」

 法代が安里に尋ねてきた。

「うん。ちゃんと走れるかどうか……」

 安里はそう答えながら別方向をチラ見する。少し離れた所に神奈くんが両親と兄、それから史絵が両親とおぼしき人たちと楽しそうに食べていたのを目にした。距離があるため会話は聞こえなかったが、安里は史絵と話し合っている神奈くんを見ていると心が痛んだ。

『午後一時になりましたので、競技を再開します。次は一年生の百メートル走です。選手の方は準備して下さい』

 放送席から流れるアナウンスを聞いて、選手は校庭に向かう。安里も行こうとした所、郁子と比美歌、それから炎寿に話しかけられる。

「安里ちゃん、ファイト」

「あんなに練習していたんだもの。出来るでしょ」

「対抗しているけど応援するぞ」

 仲間たちの応援を受けて安里は気持ちを切り換えて、うなずく。

 選手たちは位置に着き、係の合図と同時に駆け出す。一組目、二組目の走行が終わり、安里の番になった。

「位置について、よーい」

 ピーッとホイッスルの音と同時に三組目が駆けだした。一組と三組は男子で、二組と五組が女子で、安里は五組と二組を追い越していき、一組の長身の男子も追い抜いて、三組の女子と同時になる。

「同じになったよ」

「安里ちゃん、どうか……」

 郁子と比美歌だけでなく、深沢くんや他のクラスメイト、五組にいる炎寿、保護者席の真魚瀬夫妻、法代と比美歌の父も安里の走りを見守る。あと三十メートルでゴールの所、安里は〈声〉を聞いてハッとなる。

「真魚瀬―っ、負けるなー!!」

 その〈声〉で安里は熱意を出し、見事ゴールテープを切ったのだった。続いて三組、一組、五組、ビリが二組となった。

『百メートル走、一位は四組です』

「やったー!!」

 それを聞いて四組の生徒は歓喜を上げる。競技を終えると安里は応援席に戻り、比美歌と郁子が迎えてくれた。

「安里ちゃん、一位になれておめでとう!」

「安里ちゃん、よくやってくれたよ」

「あ、うん……」

 安里は辺りを見回して、先生もクラスメイトも安里が一位になってくれたおかげで喜んでおり、神奈くんはというと、他の男子としゃべっていた。

(確かにあれ、神奈くんだよねぇ……)

 もしかしたら他の男子だったのかと、安里は思い返してみた。


 百メートル走の後も競技が次々と行われていき、閉会式となった。今年の優勝は二組で、二位が三組、三位が四組、四位が一組、五位が五組となった。

 閉会式の後は係の者は用具を片付けたり、テントをたたんだりし、生徒たちも体操着から制服に着替えて帰宅する。

 安里も比美歌と郁子と炎寿と教室に戻ろうとした時、神奈くんと史絵が第二校舎の非常階段の下に入ろうとする所を目にした。

「あの、みんな。先に行っていて。わたし、校庭でハンカチ落としちゃって」

 そう口実を設けて、神奈くんと史絵に気づかれないようにモミジの木の陰に身を寄せて、二人の会話を立ち聞きした。

「一体何だよ、こんな所に呼んできて」

 神奈くんはばつが悪そうに史絵に問いかけてきた。

「今まではさ、学校の友達や家の人に囲まれていることが多かったじゃない。わたしも瑞仁も。二人きりで、しかも周りに誰もいないチャンスが欲しかった訳よ」

 史絵は神奈くんに第二校舎の階段下に誘った理由を話す。

「どういうことだよ……」

「決まっているでしょ。わたしさ、台湾で瑞仁や他の友達と文通でやりとりしているうちにさ、気づいたのよ。

 そりゃあ、台湾でも男の子や女の子の友達もいて、二年前には先輩と付き合っていたけど、半年で別れたのよ。『この人じゃない』って。

 わたし、瑞仁が好きなんだって」

(!)

 安里はそれを聞いて言葉が出なかった。史絵はやっぱり神奈くんのことを異性として好きなことを。

「初恋は実らない」

 何かの本で読んだけど、自分にとっての初恋が神奈くんだったことに気づいたのは、安里にとってつい先月のことだった。

「もう十六年になろうとしているんだから、わたしと付き合ってよ」

 史絵くんは神奈くんに告白した。

(どうしよう……。本当にどうすれば……)

 木の陰に隠れているとはいえ、安里は神奈くんと史絵の様子に心を痛める。一瞬で砕かれそうな感じだった。

「あの、おれ……」

 神奈くんは史絵に返事をする。

「おれは史絵とは付き合えない」

(え!?)

 場所は違えど、安里と史絵も神奈くんの返事を聞いて、耳を疑った。

「おれは史絵のことは姉弟みたいな関係だと思っている。悪いけど史絵とは付き合えないし、せいぜい対等な友人としか見られない。これがおれの今の気持ちだ」

 そう言って神奈くんは第一校舎へと向かっていった。木の陰見ていたとはいえ、神奈くんが史絵からの告白を断っていたことに安里は砕けそうになっていた思いが消えていたことに胸をなで下ろしていた。

(神奈くんは鈴村さんのことは姉弟や友人としか見ていない……。じゃあ、わたしの恋は無駄にならなかったんだ……)

 一方で史絵は何かをこらえつつも、神奈くんより遅れて第一校舎に向かっていった。そして安里も史絵に気づかれないように第一校舎に戻っていった。


 安里は体操着から制服に着替えると、昇降口に行くと炎寿がいた。

「え、どういうこと」

「どういうことって……。安里がなかなか教室に戻ってこないから、わたし一人が待っていたんだ。比美歌や法代たちは比美歌の父親の車に乗って帰っていった」

「ああ……、ごめんなさい……」

 安里は炎寿に謝る。

「ああ、あとそれと、神奈瑞仁が逃げるように帰っていったのと、少し遅れて鈴村史絵が、二人も校庭でなくし物をしたのか?」

「え……」

 それを聞いて安里は一瞬黙る。

「さ、さぁ、わたしも知らないし……」

「とにかく帰るぞ」

 安里と炎寿は校舎を出て歩いた。空は日の光が西に傾いており、ギラギラ照っていた。やがて磯貝行きのバスが来て、二人がけの空いている席に座って安里は景色の家屋や低層ビルを眺めていた。

(わたしは神奈くんに振られなかったけど、鈴村さんが振られちゃったからなぁ。鈴村さん、あんまり気にしていなければいいのだけれど)

 安里は史絵の様子を目にした時、寂しそうに見えた。


 一方、町中では比美歌の父が運転するワインレッドの乗用車が他の自動車に紛れて磯貝地区に向かっていた。比美歌の父は運転席、比美歌は助手席、真魚瀬夫妻と法代は後部座席に座っていた。

 自動車用の信号は赤になっており、宇多川家の自動車は前から六番目にいて、一番前のミッドナイトブルーの自動車に乗っている四人の若い男女が高層ビルの上にいる何かを目にする。

「ん? 何だあれ? 人形か?」

 ドライバーの青年がふと目にするが一瞬で消えてしまった。

 高層ビルの屋上にいたのは人間でも人形でもなく、サキヨミウラシだった。だが目は狂気に陥り、青黒い波動が体にまとわりついていた。

「う……うう……。アクアティック……ファイター……!」

 サキヨミは呻る。それからビルの屋上から飛び降りて、青黒い波動がサキヨミの体を包み込み、ズドーンという音と同時に道路がヒビ入って、青黒い波動の中から、巨大な銅鏡に両眼がつき、腕と脚が分離浮遊している姿として出現したのだ。

「うわーっ、化け物だーっ!!」

 自動車に乗っていた人々、町中を歩いていたり自転車に乗っていた人々は怪物を目にして逃げ出す。

「あれは……ヨミガクレのサキヨミウラシ……!?」

「以前と全く違う姿……。まさか安里さんと炎寿さんがこないだのベイタウンでのモリタテと同じパターン?」

 比美歌と法代が変貌したサキヨミを目にして呟き、比美歌の父の父も怪物を目にして目を見開いて震えており、真魚瀬夫妻は声は出さなかったが、場のピンチを読んでいた。

「ちょっと失礼」

 そう言って濱吉は比美歌の父の首後ろに手刀を入れて気絶させて自動車から引きずり出す。潮と比美歌と法代も自動車から出て、比美歌と法代はシュピーシェルを出して、安里と炎寿に連絡する。安里と炎寿は現場から数百メートル離れたバスの中からサキヨミを目撃して、シュピーシェルの連絡を受け取った。

 サキヨミは左手から放つ青黒い光線を出して、近くの建物や道路、自動車が破壊される。バスの運転手と他の乗客もこの光景を見て逃げ出し、安里と炎寿もバスから出て駆けだして、制服の胸ポケットからライトチャームを出して、薄紫と赤の光に包まれた後に変身する。

 安里と炎寿が現場に来ると、同じく変身した比美歌と法代もおり、サキヨミに立ち向かう。


 地下洞数百メートル下のヨミガクレの本拠地では、マジカケとタケモリ、そして仕切り越しに女王が行灯の火から映し出される地上の様子を目にしていた。

「これは、どういうことですか!?」

 タケモリがサキヨミの変貌を目にして女王に尋ねる。

「サキヨミは冥府の端に入ったために、冥府の闇を受けて、あの姿になった。まぁ、わらわが定期的に冥府の闇を受けて力を保つように行っていたのを真似たのだろう」

 女王は自分が冥府の闇を浴びに行っていた理由をタケモリとマジカケに話す。

「ですが、あまりにも変わりすぎです……」

「冥府の闇は生命の負の念を大きくさせる。サキヨミは知らなかったとはいえ、冥府の闇がサキヨミを変えた」

 女王の言葉を聞いてマジカケとタケモリは引く。


 サキヨミは左手から光線、右手から青黒い波動を無数の粒子にして四人に向けては鳴ってきた。法代はエメラルド色の波動の盾、ウィーディッシュ=エナジーバリアを出して防ぎ、炎寿が爆破する炎、バイパー=ヒートエクスプロードを出して闇の粒を爆ぜさせる。

 比美歌は音符型エネルギーを放つセイレーン=ビューティーサウンドで攻撃して、安里は水の礫、マーメイド=アクアスマッシュをサキヨミに向けて光線をかき消した。

 サキヨミは攻撃を受けると、腕と脚を分離させて、右手は安里、左手は比美歌、右足は法代、左足を炎寿に向けてくる。四肢は四人に追尾していき、更に右手から闇の粒子、左手からは光線、右足で踏みつけ、左足で突き刺そうとしてきた。

 安里は水の礫で応戦するも、右手は攻撃のぶつけ合いに紛れで安里を掴んで投げつけて安里はビル壁に叩きつけられる。比美歌は超音波攻撃、セイレーン=フォルテシモシンフォニーを出すが、光線は壊れたビルの窓の反射で跳ね返って比美歌の後方に当たり、法代は海藻型の綱ウィーディッシュ=エナジーバインドで踏みつけを回避しようとしたが踏みつけの震動で転倒してしまい、炎寿は火の柱を出すバイパー=ヒートピラーを出して左足を止めようとしたが、左足は横にそれてビルに当たり、ビルの一部が砕けて炎寿に当たる。

「ああっ、みんなが……!!」

 気絶した比美歌の父を無人になった建物の奥の中に避難させて安里たちの戦いを見ていた潮が叫ぶ。四人はサキヨミの攻撃を受けてピンチになるも起き上がって、再び攻撃を仕掛けてきたサキヨミの攻撃を利用して、道路の真ん中に浮いているサキヨミの本体に向かって駆けだし、比美歌は光線が来ると空中一回転して光線はサキヨミの本体の下当たりに当たり、炎寿と法代は追いかけてくる両足を誘導させてお互いの足が近づいたところで法代と炎寿は真上にジャンプして両足はぶつかって横倒れする。

 そして安里は闇の粒子が向かってくると、サキヨミの顔ま近に来て、光を帯びた水竜巻、マーメイド=スプラッシュトルネード出してサキヨミの両眼を閉じさせた所で直降下し、闇の粒子がサキヨミに当たって爆ぜた。

「ウグアアア……」

 サキヨミが怯んだ所で安里はチャームに念を込めて、チャームは三叉槍(トリアイナ)に変化し、安里は三叉槍も持ってサキヨミに向ける。

「マーメイド=トリアイナスラスト!!」

 三叉槍の矛先から光を帯びた三つの水流がサキヨミを貫き、紫色の閃光と共にサキヨミは断末魔を上げて巨大な姿は消え、後には銅鏡が残った。

「やった……。倒せた……」

 安里はモリタテに続いてサキヨミも倒したことに呟く。比美歌と法代は安里の三叉槍を初めて目にし、真魚瀬夫妻も安里たちの戦いを見守って安堵していた。


 その後、逃げていた人々が町に戻ると道路とビルの一部が所々壊れているのを目にし、また自動車も数台が破損していたことに騒ぎになるも、突然の天変地異ということにされた。

 安里たちはあの後、『ベルジュール磯貝』に戻り、比美歌の父も何故真魚瀬家の居間にに寝かされていることに不思議に持っていたが、濱吉が上手くごまかしてくれた。

「宇多川さん、自動車に乗っている途中でめまいを催してしまったんですよ。まぁ、自動車が停まっている時で良かった」

「そう……なのか? ああ、でも自動車は?」

「ごめん。お父さんを運ぶ時、置いてきちゃった」

 比美歌が言うと、比美歌の父は起き上がって真魚瀬家を出た。

「わたしのことはありがとうございます。自動車のことが気になるので、それでは」

 比美歌もついていき、法代は炎寿が家まで送ってくれた。

「今日は高校の体育祭だけかと思っていたら、まさかヨミガクレが出るなんて」

「ああ。だけど、わたしたちのチームワークのおかげで二人目の幹部を倒すことが出来た。あとは、わたしや法代や比美歌の武器発動だけ」

 法代を家に帰すまで、二人はこう話し合った。

 そして安里はというと、自宅のお風呂で人魚姿になって今日の疲れと汚れを落としていた。パールパープルの鱗とヒレを濡らして潤していた。

「今日は思っていたかったことが二つもあったから、それはそれで疲れたな。モリタテに続いてサキヨミも倒した。それから何よりも……」

 神奈くんが史絵からの告白を断って自分には神奈くんと両思いになれるチャンスがある、と安里は心が緩やかになっていた。