3弾・3話 二つの”化”


 安里と炎寿がベイタウンモールに行ってきた次の日、保波高校一階の階段下の物置近くで、比美歌は安里がベイタウンモールに現れたヨミガクレのモリタテとの戦いで、ライトチャームが三又槍(トリアイナ)に変化したことを話した。

「わたしと法代ちゃんの知らない間にこんなことが起きていたなんて……」

 比美歌は昨日の安里の身に起きたことを聞いて驚きつつも受け容れる。

「ジザイ殿によれば、アクアティックファイターの何らかの精神作用で武器が現れるらしい。ルミエーラはモリタテが一般人の女の子を人質に取ったために、ルミエーラの正の感情がそうさせた、というが……」

 炎寿はジザイから教えて貰ったライトチャームの武器変化について比美歌に伝える。

「わたしや法代ちゃん、炎寿ちゃんも武器を持つ可能性を待て、ということか……」

 学校の階段下の物置は人気(ひとけ)が少なく、安里と比美歌と炎寿がアクアティックファイターとしての情報を言い交わすのには、うってつけの場所であった。その時、二時間目の授業を知らせるチャイムが鳴って、三人は各々の教室に戻ることになった。安里と比美歌は一年四組、炎寿は一年五組に。


 この日は何事もなく、二時間目、三時間目と過ぎていき、清掃とHRが終わると、倶楽部に入っている生徒は部活動に参加する。クラブ活動は日によって何曜日に何部が学校のどこを使うかと振り分けられていた。

 一年四組の教室でもクラブ活動に参加する生徒と帰宅する生徒に分かれていく。

「わたし手芸部の日だから、また明日ね」

 郁子が安里と比美歌に告げて教室を出て行った。

「うん、またね。安里ちゃん、一緒に帰ろう」

「うん。炎寿は今日体操部あるからね」

 安里は比美歌と一緒に教室を出て、昇降口に向かっていった。二人は昇降口で偶然神奈くんと出会った。

「あっ、神奈くん」

 安里は神奈くんと目があって思わず声をかけてしまう。

「ああ、真魚瀬と宇多川か。お前らクラブに入っていないんだっけな」

「神奈くん、今日はバスケット部ないんだっけ?」

 安里が尋ねてくると、神奈くんは「ああ」と答える。

「バスケット部は火曜日と金曜日、あと月に数回の休日に練習出てな。それ以外は帰宅して洗濯物片付けたり、お袋の帰りが遅い時の夕飯作りとか」

「ああ、そうだっけ……。神奈くんの家、共働きだったんだっけ……」

 安里は三ヶ月前の林間学校の時、神奈くんからそう聞かれていたことを思い出す。

「おっと、バスに遅れる。じゃあ、また明日な」

「うん、また明日」

 神奈くんは安里と比美歌に別れを告げると、学校を出ていった。二人は他の保波高校の生徒に混じって磯貝地区へ向かうバスに乗り、安里は磯貝四丁目で下車して、住宅街の中のマンション『ベルジュール磯貝』の四〇三号室に帰っていった。

「ただいまー」

 玄関に入ると、カモメ姿のブリーゼが居間で安里と炎寿の服にアイロンをかけていた。

「お帰りなさいませ、ルミエーラ様」

「フェルネは今日はクラブの日で遅くなるよ」

 安里はブリーゼにそう告げると、自分の部屋に入って、制服から普段着のTシャツとハーフパンツに着替える。それから机の引き出しの上を開けて、貝殻型通信機シュピーシェルを出して、磯貝五丁目に住んでいる法代に昨日の出来事を話してきた。

『安里さん、何ですか?』

 シュピーシェルの上ぶたの画面に法代の顔が映し出される。

「ああ、実はね……」

 法代は安里はベイタウンモールに現れたモリタテとの戦いを伝える。

『安里さんの持っているチャームが武器になって、モリタテを倒すことが出来たんですってね。後の幹部も倒せば、ヨミガクレとの戦いが終わるんですよね!』

「うん。でも、法代ちゃんたちも可能性があるとしても、いつのことになるか……」

『でもよく考えれば、どんな武器が出てくるかのお楽しみ、ってことにすればいいじゃないですか』

「ああ、そういう見方もあるねぇ」

 安里はこの時、法代がポジティブに言っているのか羨ましさを隠して建前を言っているのかわからなかったが、安里としては前者を望んでいた。法代との通信会話を終えると、夕食時になるまでに明日の予習をすることにした。

 安里より一時間遅れて炎寿が帰ってきて、更に勤め先から帰ってきたジザイと共に夕食を食べたのだった。


 翌日、安里と炎寿は同じ時間に家を出て、バスに乗って比美歌と郁子と合流して保波高校近くのバス停で下車した。

 校門では白とオリーブグリーンの制服を着た生徒たちが次々と校舎に入っていき、また校庭や体育館は火曜日にクラブ活動がある生徒たちが朝練に励んでいた。

 安里と炎寿と比美歌と郁子が昨日の夜の歌番組で人気アイドルグループ『BIG☆STAR』のトークショーが思わず面白くて大笑いしたことで話し合っていると、後ろから声をかけられてた。

「あっ、お前ら。四人そろってなんて珍しいな」

 聞き覚えのある声を聞いて四人は振り向いた。神奈くんだった。神奈くんはいつも使っている灰色のデイパックではなく、エナメル素材のスポーツバッグを持って通学してきたのだ。

「ああ、神奈くん、おはよう」

 郁子が挨拶すると、神奈くんもあいさつする。

「おはよう神奈くん……」

 安里もあいさつしてきた時、思わず沈黙する。神奈くんの左隣には鈴村史絵もいたのだ。史絵は白と紺のストライプのナイロン素材のミニボストンバッグを通学鞄にしており、勝ち気のある笑みを浮かべていた。

「ああ、鈴村さんも一緒なのね。おはよう」

 比美歌が史絵を目にしてあいさつする。

「鈴村さん、あの……神奈くんと同じ町にいるから、一緒に登校しているんだっけ?」

 安里がおそるおそる史絵に尋ねてきた。

「わたし? 今日瑞仁の朝練がないから一緒に登校することになったの。わたし転校してきたばかりで、同じ町に住む瑞仁がいてくれると安心するのよねー。クラブ活動も一緒の日だし」

 それを聞いて安里は軽く心が痛んだ。

「クラブ活動の日が同じっても、おれはバスケット部で史絵はバレーボール部だろ。あ、良かったら放課後見学するか? 今日、おれが試合に出る日なんだ」

 神奈くんは四人に言うと、史絵がせかす。

「もう、早く教室に入るわよ」

 それを聞いて比美歌たちも気づく。

「そうだった。早く教室に行かないと」

 四人は校舎の中に入り、炎寿は一年五組、安里と比美歌と郁子は一年四組に入る。教室に入ると、すでに神奈くんは席に着いており、他の男子と何かを話している。

(神奈くんを見ていると気が安まったり、他の女の子それも鈴村さんと一緒にいるのを目にすると、落ち着かないのってどうかしてる、わたし)

 夏休みに入る前までは単なる同級生だと思っていた。しかし夏休みになってからは町中で神奈くんと関わるようになってから、安里は神奈くんのことを他の男性とは違うと感じるようになっていた。


 放課後になり、安里・比美歌・郁子・炎寿は体育館に来て、バスケットボール部の練習試合を見学することになった。見学者は他のクラスや学年の生徒も十数人来ていて、みんな壁側に体育座りをしている。

 練習試合は神奈くんのいるチームが体操着の上から赤いユニフォームを着用していて、神奈くんは12番。対抗チームは青いユニフォーム。

 試合が開始され、赤チームの一人がボールを手にしてドリブルしながら仲間に渡して青チームがボールを狙ってきたり赤チームの妨げをしたりと活気があった。

「瑞仁!!」

 細身で長身の中島くんが神奈くんにボールを渡す・神奈くんはドリブルして自分チームのゴールにボールを投げ入れる。

「やった、先に点を入れた!」

 比美歌が赤チームの先攻を目にして叫ぶ。

「う、うん。神奈くん、上手かったんだね」

 安里は神奈くんの動作を目にして返事をする。その後、赤チームは二回三回とゴールを決めていき、あと五分で終わる頃だった。神奈くんが巨体の大島くんからボールを受け取ろうとしたその時だった。青チームのメンバーがボールを奪おうとして勢い余って神奈くんとぶつかり、神奈くんは横倒れしてしまった。

「ああっ!!」

 安里は神奈くんが倒れたのを目にして、思わず声を上げてしまった。

「今のは相手のミスとはいえ、わざとじゃない。落ち着け」

 炎寿が安里に言った。神奈くんにぶつかった部員は立ち止まってうろたえていたが、審判を務める主将(キャプテン)が割って入ってきた。

「瑞仁!」

 見学の生徒が立ち上がって神奈くんに駆け寄ってきた。史絵だった。史絵はバレー部から来たのか体操着だった。

「鈴村さんも来ていたんだ……」

 郁子が史絵を目にして呟き、安里は神奈くんを支えようとする史絵を見て、頭の中がサッとなった。神奈くんは転んだがケガはしておらず、そのまま試合は続行。ピーッと終了のホイッスルが鳴り、八対四で赤が勝った。

 試合が終わると、見学者は体育館を出て行き、安里たちも教室に戻って通学バッグを取りに行く。

「神奈くんのチームが勝って良かったねぇ」

 郁子がデイパックを背負いながら安里と比美歌に言った。

「うん。神奈くんが相手とぶつかった時はびっくりしたけどね」

 比美歌が答えると、安里もどぎまぎしながら返事をする。

「う、うん……」

 安里は神奈くんが相手とぶつかったことよりも、史絵が神奈くんに駆け寄った時のことを思い出していた。

 その後は炎寿と一緒にバスに乗って帰宅し、マンションの自室で制服から普段着のワンピースに着替えて、勉強しようと机に向かうが、今朝の神奈くんと史絵の同時登校と放課後のバスケット部見学のことで、手が動かなかった。


 土曜日、保波市立図書館。神奈くんと史絵が一緒にいたことがここ数日気になった安里は家にいる時も学校で授業を受けている時も集中力が弱っており、神奈くんと史絵のことを紛らわせるため図書館に訪れていた。

 保波図書館は保波駅から歩いて十分の所にある三階建てのモダン風の建物で、周囲にはコンビニやファーストフードなどの店がある。

 安里は二階の一般図書のコーナーにおり、『思春期の心情』という本を開いて読んでいた。他にも若い男や主婦、老人が来ており、本を読んでいたり借りたりしていた。

 安里はその項目の一つ、「男女のやりとり」を目にして、読んでみることにしてみた。


「あなたの通う学校や習い事先、近所の人や親族に気になる男の子がいるとしたら、それは間違いなく好きな男子ということになります。男の子と女の子では性格はもちろん、思考や育ち方も異なるため理解しづらいかもしれません。

 親の教育が勉学中心だったり、厳しいものなら気づくのが遅いのは当然のことですが、決して悪いことではないのです。

 ただ物事には順序やタイミングというのがありますから、そこは注意しておくようにして下さい」


 その項目を読んで、安里は少し理解がほどけたような気がした。神奈くんが好き――……。友人としての好きではなく、異性として好きなことを。

 安里は今までに男の子を好きになったことがなかった。ミスティシアのマリーノ王国にいた時は、安里は賢明さを同世代の妖精から男女ともに妬まれていたからだ。

 だから自分は男の子と恋をすることもなければ、女の子の友達も出来ることはないと思って生きていた。アクアティックファイターとして覚醒するまでは。

 そして次に「好きな異性が出来た時」の項目を読んで、記憶した。つきまとったり束縛したりせず、特に他の女子に対してのやきもちを焼かない。それに気をつけて、神奈くんに対してのこれからを保たせるようにした。

 本を棚に戻し、家に帰ろうとして階段に入った時だった。

「安里さん?」

 上の階にある児童書コーナーから降りてきた女の子に声をかけられて安里はハッとなった。二の腕まであるストレートの黒髪、丸みを帯びた眼、緑色のチェーンプリントのシャツと灰色のサスペンダー付きショートパンツの女の子はキャンバス地のトートバッグを肩に提げていた。

「法代ちゃん」

 小学生ながら安里と比美歌と炎寿と同じアクアティックファイターの根谷法代だった。


 その後は、安里と法代は近くの町中広場でくつろぐことになった。空は晴れていて雲は少ないが風が涼しく、広場の木は枝が揺れる度に葉をこすり合わせ、中央に噴水、ベンチに座るおばあさんやスケートボードをする男子中学生がいた。安里と法代は広場近くのお店でドーナツを買って噴水のへりに座って食べていた。安里はハニーチュロスとプレーン生クリーム。法代はチョコレートアーモンドといちご。

「安里さんが図書館に来ていたのって、調べ物ですか?」

「うぐっ」

 チュロスをかじっていた安里は法代に訊かれた時、思わず喉につっかえそうになった。

「だ、大丈夫ですか!?」

「ゴホッ、へ、平気……。家にいるのもなんだしと図書館に……」

「ああ、そうだったんですか。わたしは面白そうな本を探しに」

 そう言って法代はトートバッグの中に入れている本を安里に見せた。三、四冊入っており、どれも日本の創作だった。安里も人間界に来た時ばかりの頃は人間たちの常識をなじませるために、日海外の物語を読んだ。

 バーネット、デュマ、モンゴメリ、リンドグレーン、宮沢賢治、太宰治、芥川龍之介などと、多くの本を読んだ。物語の中には教訓や心理、作者の思いなどが詰まっていると、感じたこともあったが、恋愛に関しては疎い方だった。

「家に帰ったらじっくり読もうと思いまして」

「ふぅん」

 その時だった。安里と法代のいる場所から南東に数百メートル先に悪しき気配を感じた。

「ヨミガクレ!!」

 安里は立ち上がり、法代も後に続く。


「うわーっ!」

「キャーッ!」

「助けてくれーっ!!」

 現場では川原で町内バーベキューに来ていた人たちが突如現れた怪物に驚いて逃げ出していた。額に銅鏡を持ち古代の巫師の装束姿の先読占師(サキヨミウラシ)がバーベキューコンロにヤドリマ誕生の符を貼り付けて、バーベキューコンロはヤドリマと化し、それはまるで口から火を吐き出し背中から熱気を出す四足獣のようであった。逃げ遅れた人たちは道路の柱辺りに追い詰められており、しかも三体もいるので逃げられなかった。

「うえ〜ん」

「怖いよ〜」

 幼い姉弟が父親にしがみつき、父親は棒を持ってヤドリマを追い払おうとした。

「うわっ!!」

 ヤドリマが口から火を出してきたので、木の棒に火が着き、父親は手放した。三体のヤドリマが親子や他の人たちに近づいてきたその時だった。

 斜め方向から水の玉が飛んできてヤドリマと人々の間の火の着いた棒に当たり、じゅわっと音を立てて火が消えた。

「来ましたね、アクアティックファイター」

 サキヨミが察知する。川原の土手には二人の少女が立っており、一人は深いピンクの髪に紫色のフィッシュテールスカートの衣装、もう一人は小柄な少女で、灰茶の髪をツインテールにし、アームカバー付きの薄緑のレイヤーワンピースに緑の足首ベルトパンプスの衣装。アクアティックファイター姿の法代であった。

「あなたたちが来ることは読んでいましたよ」

 サキヨミが変身した安里と法代を目にして薄笑いを浮かべる。ヤドリマもアクアティックファイターが現れると、方向を変えてきた。一般の人たちはその隙に逃げ出した。

 ヤドリマは安里と法代に突き進み、安里は水の玉を礫にして敵にぶつけるマーメイド=アクアスマッシュをヤドリマに向けて放ち、法代も海藻型エネルギーの綱を出す、ウィーディッシュ=エナジーバインドを出してヤドリマを二体拘束する。だが、ヤドリマは体の熱を上げて、海藻型の綱を乾かして固くなった海藻は細い糸のように切れてしまったのだ。

「ええっ、そんなぁ」

 それを見て法代は仰天する。

「あっはっは、浅はかですねぇ。海藻を乾かしたら水分がなくなって砕けやすくなるのは、わたしも知ってのことです。ヤドリマ、二人を倒すのです」

 サキヨミはヤドリマに命令して、安里と法代の前にヤドリマが立つ。

「マーメイド=アクアスマッシュ!」

「ウィーディッシュ=エナジーバインド!」

 安里は水の礫、法代は海藻型エネルギーの綱を出すが、ヤドリマは背中の網から熱気を出して、水の礫を蒸発させて、海藻型エネルギーを乾かして一枚の布のようにさせて防いだ。

「同じ手は二度と受けたりしませんよ」

 サキヨミは二人に言った。安里と法代が追い詰められた時、空から四分や六分などの音符型エネルギーの群れが飛んできて、ヤドリマの前に当てられて、ヤドリマはそれに驚いて跳んで避けた。

「この攻撃は、比美歌ちゃん!!」

 安里が斜め上の方に顔を上げると、背中に海鳥の翼を生やしてト音記号と五線譜をあしらった白いタイトドレスにグラディエーターサンダルにアームカバーと翼型フリル付きヘアバンド姿の比美歌がいた。変身した比美歌はオレンジ色のショートカールに青い眼に変化していた。

「今、駆けつけてきたぞ」

 瑠璃色のハーフアップヘアに赤と黒のドレス姿にハイヒールの炎寿も現れる。安里と法代は川原に行く途中、比美歌と炎寿にシュピーシェルで連絡したのだった。

「これで四人揃いましたか。だけどヤドリマを倒せるでしょうか」

 サキヨミがアクアティックファイターに訊いてくると、安里が言った。

「さっきまでとは違う!」

 ヤドリマが二体、四人に襲いかかってきた。だが炎寿が指をはじいて発火のち爆破を起こすバイパー=エクスプロードを放ち、ヤドリマは炎寿の爆風で軽く飛ばされて比美歌が声を発しながら特殊音波を放つセイレーン=フォルテッシモシンフォニーを放ち、白い音波を受けてヤドリマの体の呪符が剥がれて、コンロが地面に落ちた。残りの一体が安里に向かってくるが、安里は光を帯びた水の竜巻を出すマーメイド=スプラッシュトルネードを手から放ち、水の竜巻がヤドリマの動きを封じ、水が弾け散ると、ヤドリマは地面に放り出される。

「止めはわたしが。人が作りし物に宿りし悪しき生命よ、繁茂の勇士ウィーディッシュが清浄させる!」

 法代の頭の中に技を放つ詠唱が浮かび上がり唱えると、海藻型エネルギーが地面から幾つも出てきて、更にヤドリマの体に巻き付いてくる。

「ウィーディッシュ=バインドリフレッシュ!!」

 エメラルド色の海藻型エネルギーに巻きつかれたヤドリマの体がエメラルド色の光を発し、呪符が剥がれて後にはコンロが一台転がっていた。

「今のは……新しい技?」

 法代は自分が使った技を目にしてキョトンとなる。

「流石に四人いると厄介ですね……。女王様に報せなくては」

 そう言ってサキヨミは地面に呑みこまれるように消えていった。


 四人は変身を解いて普段の姿に戻り、各々の家に戻っていった。

 商店と住宅が混同する磯貝四丁目は合一街で、その黒い屋根にミントグリーンの壁の花屋『NEYAフラワーハウス』は法代の家で、そこの二階の一室、ロフト付きの五畳間が法代の部屋で、法代の部屋に祖母の鞠藻(まりも)が来ていた。毬藻は七〇代の老女をしているが、海藻の妖精ウィーディッシュで、ミスティシア出身であった。

「新しい技が使えるようになっただと?」

 毬藻は法代に訊いてくる。

「うん……。学校に行ったり家のお手伝いや友達と遊んでいるだけなのに、今までより強い技が使えるようになったのは、何でかなー、って」

 法代が呟くと、毬藻は手をあごに当てて考える。

「お前は四分の一とはいえ、わたしと同じウィーディッシュの血が流れている。水の勇士アクアティックファイターに覚醒してから、ウィーディッシュの遺伝子が成長していって、外見の変化はなくても知らぬ間に進化しているのだろう」

「進化?」

「ようは法代やルミエーラ嬢たちが戦えば戦うほど、強くなっていくことだ。これは自然なことで大した問題じゃない」

 毬藻は法代に言った。生まれた時から病気やケガの治りが早い法代にとって、自分の中のウィーディッシュの遺伝子はミスティシアの神様からの贈り物と思った。


 その日の夜、安里は自分の部屋の中の机の上で自分が神奈くんに対する感情は恋だということがわかって、ぼんやりしていた。

(だけど、神奈くんはわたしのことをどう思っているんだろうか……)

 神奈くんは安里のことはせいぜい友人ぐらいで、幼なじみの史絵のことが好きなのかもしれないし、史絵でなくても他に好きな女の子がいるかもしれないと思っていた。

(今はこのことは閉まっておこう。神奈くんと学校にいる時は何事もないようにしておけばいいだけなのだから……)

 安里はベランダの窓から見える十三夜の月と周囲の星々が煌めいているのを目にして、明日からのことを決めた。