1弾・5話 三人目の探索


 安里と比美歌が同じ学校の同級生、海賊を撃ち破る水の妖精の勇士同士だけでなく友達同士になってから大分時間が経った。

 安里と比美歌は昼食の時に一緒に食事をするだけでなく、休み時間や科目教室での授業で同じ班になって受けたり、学校のない休日は一緒に遊ぶようになった。若者に人気のお菓子屋さんでアイスクリームを食べたり、歌手を目指す比美歌のためにカラオケボックスで歌唱したり、図書館で本を読んだりと過ごしていた。

(友達と一緒に過ごすのって、こんな感じだったんだなぁ)

 一人でいることの多かった安里にとって友達といる時間は活き活きとしていた。

 話は変わって、安里が住む低層マンション『メゾン磯貝』の右にある駐車場の隣からは住宅街と個人経営の店舗のある地区で、ベージュや灰色などの色の住宅街が規則よく並び、五軒に一軒が店舗になっている街だ。店はハンカチやクッションなどの小物が売られている雑貨店、老夫婦が四十年間続けている和菓子屋、丼ものや定食がメニューの食堂、晴天の時はテラスでティータイムが楽しめるオープンカフェと様々だった。

 合一街に一軒の花屋があった。黒い切り妻屋根にミントグリーンの板壁の二階建て屋根裏付きの花屋、『NEYA(ネヤ)フラワーハウス』である。ナチュラルウッドの看板には緑色の文字で刻まれていた。この店は季節に合わせた花や観葉植物、また水盆アートに使う水草も売られていた。

 店主の根谷(ねや)夫人は合一街の中にあるコインランドリーに通う人間ブリーゼこと真魚瀬潮と顔なじみになっていた。ブリーゼは二、三日に一度は安里の衣服や体を拭くタオルを洗いに合一街のコインランドリー『バブリーランドリー』に通っていた。そして通っていくうちに根谷家の人たちと親しくなっていたのだ。

「あら、真魚瀬さん、おはようございます」

 長い髪を一括りにしてカーディガンとシャツとジーンズパンツ、キャンバス生地のエプロンを身につけた根谷夫人が大きな防水製のトートバッグを肩に提げた潮にあいさつする。

「おはようございます、根谷さん」

 潮が根谷夫人にあいさつを返す。

「引っ越してきたばかりとはいえ、倹約のためにコインランドリーに通っているんですってね」

「ええ、まぁ……」

 根谷夫人と潮が駄弁していると、店先とは別の出入り口から二人の子供たちが出てきて、根谷夫人にお出かけのあいさつをする。

 大きい女の子と小さな男の子だった。女の子は十歳そこそこで男の子は小学一、二年生くらいだった。ただ男の子は紺色のランドセルを背負い、女の子はミントグリーンのデイパックを背負っていた。

「お子さんも元気そうで」

「ええ、下の子は上の子と同じ小学校に入学しましたの」

「そうなんですか。それではわたしはこれで」

 潮と根谷夫人は別れる。根谷夫人は店先に赤や白のチューリップや紫や黄色のパンジーや小さな花を群れさせたようなヒヤシンスやオレンジの星のようなクロッカスを置き始めた。


 地球の太平洋の海底に潜むドレッダー海賊団の戦艦。戦艦内の一角でフェルネはあと一歩のところでルミエーラをドレッドハデス船長に差し出せなかったことに不満を募らせていた。

「ルミエーラを早く捕らえておけばセイレーンと接触せずに済んだものを……」

 フェルネがぶつぶつ言っていると、他の三人の幹部が現れて、フェルネに毒づいた。

「いつまで引きずっているつもりだ、フェルネ」

 真ん中に副官で巨漢のグロワー、両隣には軟派だがしなやかな体つきに青い鱗模様の長衣に長ズボンに灰緑の髪に褐色の目の青年、長い緋色の髪に黄色の眼と紅白の長袖フレアスカートのドレスをまとった女が立っていた。

「詰めの甘かった自分と仲間のいたルミエーラに腹を立てている。お前たちにはわからないだろうな」

「うん、わからないよ。君の気持ちなんか」

 青年がフェルネに言い返す。素っ気なくって投げやりな言い方だった。

「正直に言うと、かえってフェルネが苛立つよ、トラッパー。まぁ、あなたはしばらく謹慎していなさいな、フェルネ。次はわたしが行くわ」

 女がフェルネに言った。続いてグロワーがフェルネに言う。

「お前は卑怯を使わないこだわりがありすぎる。次はシェラールに任せる」

「……だってさ。次に水の妖精の勇士と戦う策の時間があるじゃないか」

 トラッパーと呼ばれた青年がフェルネに言う。他の幹部にからかわられたり注意されたことにフェルネは拳を握った。


 ある時、安里と比美歌は駅前近くの薬局に来ていた。比美歌が新しいシャンプーを選んでいる時に待っている安里が、店の中から一人の女の子が若葉色の自転車に乗っていて人ごみを無理して避けているのを目にし、その子はふらついて自転車ごと倒れてしまった。

 ガシャーン、という音と共に周囲の人たちは何人か振り向いた。

(あ〜、無理して避けようとするから……)

 それを見ていた安里は手を顔に当てた。女の子は自転車に挟まれてしまったが、幸い周囲の人たちが起こしてくれたので助かった。女の子の両ひざがすりむいて赤くなって軽く出血していた。

(うわ〜、痛そう。大丈夫かしら……)

 安里は女の子のひざを見て顔を引きつらせるが、女の子の顔を見て気づいた。

(あれっ、あの子……、確か花屋の……)

 自分の家の近くに住む花屋の娘だった、安里はブリーゼに頼まれて丸木屋スーパーに行く時、合一街を必ず通っていたからそこに住む住民や家宅は把握していたから誰がどの家の者か大方理解していた。

 二の腕まであるストレートの黒髪に丸みを帯びた眼、安里より十センチ低めの背丈にやや細身の体格、緑色のボレロパーカーと白いスポーツTシャツ、黒いハーフパンツ、白いハイソックス、緑色のスニーカー。だけど何て名前だったか思い出せない。

(確か、根谷、根谷……)

 安里が自転車から転んだ女の子の名前を思い出そうとするが出てこない。安里が人差し指を額に当てている間に女の子は自転車に乗り直して行ってしまった。

「安里ちゃん?」

 比美歌に呼ばれてハッとなった。

「あ、比美歌ちゃん……。もう買い物終えたの?」

「うん、次のバスが来るから早く行こう」

 安里と比美歌はドラッグストアを出て、自分の住んでいる家の近くへ向かうバスに乗るためにバス停へ向かった。安里は女の子を見た時、かすかにあることを感じて思い出していた。

(気のせいだったのかな、あの子を見た時ポケットに胸ポケットにしまっていたチャームが温かさを帯びていたのは……)


 家に帰った安里はブリーゼとジザイと夕食の油揚げネギの味噌汁と塩サバを食べながら、『NEYAフラワーハウス』の女の子の名前を知っているか聞いてきた。

「根谷さんの娘さんの名前ですか? ノリヨといって今小学六年生で磯貝小学校に通っているって、根谷さんの奥さんがおっしゃってましたよ」

 ブリーゼが翼ではしと味噌汁のおわんを持ちながら花屋の娘のことを安里に教える。

「法代ちゃん、ねぇ……。漢字は?」

「法律の法に代理の代と書いて法代ちゃんというようです」

「あのね、ブリーゼ、ジザイ。法代ちゃんのこと、学校の帰りの駅前で見かけたんだ。自転車に乗っていて、転んだのを目にしたけど行っちゃった」

 安里はブリーゼとジザイに家に帰ってくるまでの出来事を伝え、更に首に提げていたチャームを出して、法代を見たらチャームがかすかに反応したことを教えた。

「そしたら制服のポケットに入れていたチャームがほんのり温かくなって、もしかしてあの子、妖精の血を引いているんじゃないか……って」

「ほう、チャームが……。確かに気になりますね。ですがルミエーラさまは高校生で法代ちゃんは小学生……。高校生が小学生につきまとっていたら間違いなく不審者扱いされますよ」

 安里は法代が妖精の子孫説を伝えると、ジザイは安里が法代につきまとっていたら怪しいからやめるようにと注意した。

「じゃあ、どうやってあの子を調べたらいいの?」

 安里がほおを膨らませると、ブリーゼがあることを教えてくれた。

「四月最後の土曜日に磯貝小学校で校内バザーがあります。そこに行けば小学生だけでなく中学生以上や他校生徒も入場することが可能ですから、法代ちゃんが妖精の血を引いているかどうか調べられるでしょう」


 四月最後の土曜日。この日の空は白くて厚い雲に覆われていたが雨の降る心配はなさそうだった。磯貝小学校は合一街と商店街の間に挟まれた敷地に建てられた小学校で真上から見た凸型の三階建ての校舎に体育館とプール、遊具も鉄棒にうんていにジャングルジム、大型の滑り台と多く、校庭にはバザーのため『磯貝小学校』や『磯貝小PTA』と書かれた白い簡易テントの屋台がいくつもあり、古着やおもちゃや鏡などの調度品、保護者会の親御さんが作った豚汁やカレーライスや袋詰めのクッキーの食べ物も売られている。

 校内バザーに来ている人たちも磯貝小の生徒の他にも中高生や磯貝小生徒の親兄弟、他所の町からやってきた大人たちも来ていてにぎやかだった。

「学校でバザーなんて久しぶり〜」

 比美歌が校内バザーの様子を見て呟く。

「比美歌ちゃん、わたしのお願いとはいえ、土曜日は家事をしなくちゃいけないのにわざわざ来てくれてごめんね」

 安里が比美歌に言った。

「ううん、大丈夫。今日お父さんは夜勤だから昼ごはんは一人で食べるから、って許してくれたから。それよりも安里ちゃん、この学校に水の妖精の血を引いている子がいるって本当なの?」

 昨日、安里は比美歌にそう電話で伝えた。安里の家には電話はなく、家の向かいのコンビニにある公衆電話で比美歌にそう言った。

「磯貝小学校の子に水の妖精の血を引く子がいる。明日その子の学校の校内バザーをやるから一緒に来てほしい」と。

「でもさ、磯貝小の子が水の妖精の勇士だったらそれはそれでいいと思うな。どういう性格で、何の妖精の力を持っているかも気になるし」

「だけど……、いるかな。校内バザーだけど、その子が来ているとは限らないし……」

 安里は自分が探している法代をみつけようと辺りを見回した。ストレートのセミロング、丸みを帯びた眼、細身の女の子を……。しかし似たような女の子が結構いて、首に提げているチャームも反応を示さないかと思われていたその時だった。

「法代ー、早くしないとカレーが売れ切れるよー!」

 二人の元気そうな女の子がカレーライスのテントに向かって走っていて、その二人についていくようにストレートのセミロングに若草色のシャツ、白地に黒のヒッコリーサロペットスカートの女の子が二人の後を追いかけるのを目にした。

「ちょっと待ってよ、冬子ちゃん、織絵ちゃん!」

「あっ、あの子だ!」

 安里は法代を見つけて比美歌が振り向く。法代は急いで走っていたためか前のめりに倒れて両手とひざを擦りむいた。

「あっ、あの子!? 安里ちゃんが探している、子って? ああーっ、転んだわよ」

 比美歌が法代を起こしてあげようと駆け寄ったら、安里と比美歌は法代の体を見て沈黙する。擦りむいて血が出た筈の法代の手とひざの擦り傷が治るのを目にした。ケガをする前の状態に一瞬で戻ったのだ。そして法代は何事もなかったかのように友達の後を追いかけていった。

「今の見た? あの子のケガ、数秒で治ってしまったわ」

「うん、わたしも見た。やっぱり妖精の力のおかげなのかしら?」

 安里と比美歌は顔を見合わせて法代の様子を観察することにした。


 法代は二人の友達と一緒にカレーライスを食べていた。白い発泡スチロールの器には白いご飯とスパイシーなカレーが湯気を立てており、三人はプラスチックのスプーンで昇降口近くの段差に腰をかけて座って食べていた。

 一緒にいる女の子、冬子は中学生と見間違われる程の身長でポニーテールにレース付きジージャン、織絵はショートボブに中肉中背でワークパンツの服装だった。

「法代、あんたまた転んだでしょ。小学校入学からしょっちゅう転んでいるじゃない」

「大丈夫だよ。ケガもしてないし。もう慣れっこだよ」

 法代は笑いながら冬子に言い返す。

「確かにね。法代ってしょっちゅう転んでいるのにケガがないなんて不思議だよね。そんなに頑丈なの?」

 織絵が他の店で買ったウーロン茶のペットボトルを飲みながら尋ねる。

「ケガだけじゃなく病気の治りも早いんだよね。二ヶ月前にインフルエンザになったけど、普通なら一週間かかったところ、わたしは三日で治ったんだよね。パパとママとおばあちゃんが言うには赤ちゃんの頃から治りが早かったみたいなんだよね」

 法代は自分の回復力の早さを冬子と織絵に教える。

「何それ。魔法みたい」

 冬子と織絵は法代の話を聞いて軽く笑った。人ごみに紛れながらも安里と比美歌も法代の話を耳にしていた。

「やっぱりあの子、妖精の血を引いているのかしら。治りの早い人間なんてそういないものだし」

「うーん、ジザイから聞いた回復力の早い妖精……。確か……」

 比美歌が不思議がっていて安里が回復の早い妖精の種族を思い出そうとしていると、法代の二人の友達が服のポケットから携帯電話を出して内容を見る。

「ごめん、法代。お母さんが買い物にいくから留守番してくれって」

「あたしも今日ピアノのおけいこがあるんだった。」

 冬子と織絵は法代に言うと立ち上がる。

「うん、また月曜日にね」

 冬子と織絵と別れた法代は一人になったから家に帰ることにした。

「裏門から行ったほうが早いな」

法代は校舎の裏に回って正門とは逆の方向へ行く。その時安里と比美歌もこっそりとついていった。法代が人気のない裏門のある校舎裏にやってくると、悲鳴を上げた。

「キャーッ!!」

 安里と比美歌が法代の声を聞いてかけつけると、何と長い緋色の髪に黄色の眼、紅白の長袖フレアスカートの女が赤紫色の海藻を絡みつかせたような怪物を率いて法代の前に現れたのだった。

「あれは……、ドレッダー海賊団!? 比美歌ちゃん、行くよ!」

「うん、法代ちゃんを助けなきゃ!」

 安里と比美歌は首に提げているチャームを取り出して祈りを込める。

「チャームよ、わたしを水の妖精の勇士に変えて」

 安里は淡い紫色の光、比美歌は白い光に包まれて安里は深いピンク色の髪に紫の眼、パールパープルのフィッシュテールスカートの衣装、比美歌はオレンジのカールショートと青い眼と音符をあしらった白いタイトドレス背に翼の衣装に変化する。

「あああ……」

 法代は怪物の恐怖にすくんで裏門にある柏の木の陰に隠れた。その時、紫と白の衣装に身を包んだ二人の年上の少女が法代の前に立つ。

「待ちなさい!」

「この子に手を出さないで!」

 法代は怪物と怪しい女でなく二人の少女の出現に驚くが、自分を助けてくれると気づいて安心する。

「来たわね、人魚とセイレーンの勇士。わたしはドレッダー海賊団のシェラール。言うまでもなくお前たちを捕らえに来た。ゆけ、シデーモ」

「ブククク」

 シェラールは怪人シデーモに命じてシデーモは二人に襲いかかろうとしたが、比美歌が立ちふさがる。

「シデーモはわたしが。安里ちゃんは海賊を」

 比美歌はシデーモと、安里はシェラールと対峙する。シデーモは体に絡みつかせている海藻を振り回して比美歌をはたこうとするが、比美歌は瞬時に飛んだり跳ねたりしてよける。安里はシェラールと戦うがシェラールは背中や腰からクラゲの触手を出してきて安里を捕らえようとしてきた。安里は手刀やかかと落としでシェラールの触手を叩いたり弾いたりしてよけていた。

(何なの、この人たち……。怪物の方は怖く感じたのに、お姉さんを見ていると何だか安心する……。一体どうしてなんだろう……)

 法代は二人の少女が、いやシデーモが現れてから自分の中の"何か"に感じていてそれがなんなのかわからなかったが、年上の少女が親しみを感じるような気持ちになっていった。


 比美歌は海藻シデーモを相手にしていたが非常に手強く、比美歌は音符型エネルギーのつぶてであるセイレーン・ビューティーサウンドを放つもシデーモは自身の海藻を増殖させて比美歌の攻撃を防ぐ、比美歌は油断してシデーモの放った海藻に巻き付かれて動けなくなってしまった。

 安里は迫りくるシェラールの触手をよけつつも、水の玉を集めてぶつけるマーメイド・アクアスマッシュを放つも、シェラールは触手を盾にして防御し、安里が二度目の攻撃を放とうとした瞬間、シェラールの触手が安里に向けられて、安里は左二の腕が傷ついて更にしびれて傷ついた部分が赤く腫れだした。

「わたしの触手には伸縮の毒針がついていてね、少しでも肌に当たるとしびれて腫れちゃうのよ。ふふふ、二人共まとめて戦闘不能にしたわ。さ、シデーモ。この二人を船長の処へ連れて行くよ」

 シェラールの命令でシデーモはうなずき、安里と比美歌に危機が迫る。

(ここでおしまい……?)

 安里も比美歌もそう思ったその時だった。

「ちょ……、ちょっと待ってください!!」

 四人が振り向くと、目の前に隠れていたはずの法代が立っていたのだ。

「と、法代ちゃん!? 何でここに……」

 安里が腫れあがった左腕を押さえながら法代に尋ねる。

「何でか知らないけれど、わたしの中で『この二人を助けなくちゃ』と感じたんです。

 そこの怪物、この二人を放しなさい!」

 法代は怯えつつもシデーモとシェラールに注意した。するとシェラールは法代を見て顔をしかめるもニヤッと笑ってシデーモに命令した。

「お前、まさか……。まぁ、いい。シデーモ、この小娘をやっておしまい」

「ブククク」

 シデーモは比美歌を放すと、自身の腕の海藻を法代に向けてきた。

「法代ちゃん……!!」

 危ない、と安里と比美歌がそう思った時だった。法代の体が激しいエメラルドの光を発し、その眩しさのあまりシデーモもシェラールもまぶたを閉ざした。

「こ、これは……水の妖精の勇士の覚醒か!?」

 安里が法代の異変を見て呟き、光が弾けると、そこには姿が変わった法代が立っていたのだ。法代の髪は灰茶に変わり、髪型がツインテールになり頭部には緑色の海藻型リボン付きの白いヘアバンド、眼もエメラルドグリーンに変化し、深緑のベアトップワンピースと淡い緑のノースリーブワンピースの重ね衣装、後ろ腰に黒いリボン、海藻型の飾りが付いた薄緑のアームカバー、緑色の足首ベルトパンプスの姿に変化していたのだ。

「やっぱり法代ちゃんは水の妖精の血を引いていたんだわ。わたしと同じ世代を隔てて……」

 比美歌が水の妖精の勇士となった法代を見て呟く。法代は言うまでもなく自身の変わりぶりに驚いていた。

「わたし、どうしちゃったの?」

 シェラールは法代の変身を目にし、シデーモに命令する。

「シデーモ、あの小娘も捕えろ! わたしはルミエーラとセイレーンの娘を倒して船長に献上するから」

「ブククク」

 シデーモは法代に近寄る。シデーモが体の海藻を伸ばしてきた時、法代はとっさにシデーモの気配に気づいて両腕を伸ばしてから掌から緑色の板状のエネルギーバリアを出す。法代の張ったバリアでシデーモの触手は弾かれる。

「すごい……。危ないと思ったらバリアが出せるんだ」

 法代が自身の能力に感心していると、またシデーモが背中からも海藻の触手を出してきて法代に襲いかかる。が、法代は今度は半球状のバリアを張って防御する。

 一方シェラールは背中と腰からクラゲの触手を出して安里の四肢に毒針を出して全身マヒにして捕らえようとしたが、比美歌が音符型エネルギーのセイレーン・ビューティーサウンドを発してシェラールの触手を弾き飛ばした。比美歌の攻撃を受けたシェラールは真横に大きく飛ばされて花壇近くの地面に叩きつけられる。

「う……おのれ……」

 左腕がしびれてひざまづいている安里の前に比美歌が立つ。

「安里ちゃんに手出しはさせない!」

 比美歌の威圧を見てシェラールは後ずさりする。一方、法代はシデーモが攻撃を出す度にバリアを張るが、反撃の仕方がわからず防御ばかりに疲れてきた頃、安里が法代に向かって叫んできた。

「法代ちゃん、あなたが使いたい技を想像して発するのよ! 水の妖精の勇士になれたあなたになら出来るわよ!!」

「あ、はい!」

 法代はまぶたを閉ざして自分が使いたい技を想像して決まったところで目を見開く。その時六方からシデーモの触手が法代に向けられていたが、法代は掌をシデーモに向けて叫んだ。

「怪しき深海の静寂よ。この繁茂を導くウィーディッシュが強き成長で浄化する。

 ウィーディッシュ・エナジーウェーブ!!」

 法代の左手からエメラルドグリーンの波動が放たれ、更に右手で押し出すようにシデーモは法代のエナジーウェーブを受けて一気にしなびれて粉々になって散った。

「三人目の水の妖精の勇士の件も船長に教えなければ……」

 シェラールはシデーモが倒されたのを目にすると片手から闇のひずみを出してそこから入って消え去った。

「法代ちゃん」

 安里と比美歌が法代に近づく。

「あっ、お姉さんたち……。わたし、どうしちゃったんです?」

 法代は安里と比美歌に自分の異変を尋ねると、安里の左腕が赤く腫れているのを目にして引くも、自身の右手を出して安里の腕に触る。

「ひどい。こんなになっちゃって……」

 すると法代の手から仄かな緑色の光が発せられて安里の左腕の腫れが引いて元の白い肌に戻ったのだ。

「あっ、痛くもないしスベスベになっている! 法代ちゃん、あなたはウィーディッシュの力を引いていたのね」

 安里が法代に向かって言ってくるも、法代は何のことだかわからない顔をしていた。


 法代は安里と比美歌に連れられて学校近くの児童公園に連れ出された。児童公園といっても一般住宅と同じ大きさの土地にブランコと滑り台と砂場のあるだけの小さな場所であった。三方は住宅に囲まれ、前は道路に面していた。

「わたしが悪い海賊と戦う妖精の勇士でウィーディッシュという妖精の力を持っている?」

 水の妖精の勇士からいつもの緑シャツの普段着に戻った法代は同じく普段着に戻った安里と比美歌から法代の異変を教えてもらった。

「信じてほしい、って言われても受け容れづらいってのはわかるよ。でも、戦い終わった後に法代ちゃんがいつもの姿に戻って水の妖精の勇士としての力はそのペンダントに収められたのは事実だから」

 法代の胸元には金色の鎖に緑色の小瓶型チャームのペンダントがかかっていた。

「わたしも法代ちゃんと同じ先祖がセイレーンで世代を隔てて水の妖精の勇士になったのよ」

 比美歌が自分の経緯を法代に教える。

「先祖に妖精がいて、世代を隔てて妖精になった、ねぇ……。わたしが生まれた時から病気やケガの治りが早いのも妖精の血が強かったってのはうなずけるかも……」

 法代は半信半疑ながらも自身の体質と妖精の力に納得がいったように口を一文字にする。

「でも法代ちゃんが海藻の妖精ウィーディッシュの力を持って生まれつき回復が早いのも、わたしのケガを治してくれたのはありがたいかも。ウィーディッシュは特殊能力にたけた妖精だからね」

 安里が法代と同じ能力の種族妖精の名を言ってきたので、法代は下目づかいで安里に尋ねてくる。

「お姉さんが本当に妖精の国からやってきたってのは本当?」

「うん。真魚瀬安里は人間界での名前で、本当はマリーノ王国のルミエーラ。これでも人魚なの」

 安里は苦笑いしながら自分のことを話した。

「で、安里ちゃんとわたしは安里ちゃんの国を取り戻すためにファンタトレジャーという宝物を集めているの。さっき倒したシデーモの中にあったこれがそう」

 比美歌は掌の上にあるものを見せる。それは天草の形をした赤い石――メノウだった。

「これを六つ集めれば安里ちゃんの国を取り戻せるのよ」

 法代はファンタトレジャーのメノウテングサを見つめる。

「これがさっきの怪物とは思えないなー……。あっ、あともう帰ってもいいですか? また会えたらそれで……」

 そう言って法代は公園をかけて出て自分の家の花屋に戻っていった。

「法代ちゃん、これじゃあ普通の女の子よね」

「これから接して続けていれば、わたしたちと仲良くなれるよ」

 安里は家のある方角へと帰っていく法代を見て呟き、比美歌は時間をかけていればいいと悟ってくれた。かけていく法代は途中で転んだが、すぐに起き上がった。