保波高校に史絵と炎寿が転校してきてから数日が経った。史絵は同じクラスの男子からはモテていたが、女子のうちの三人くらいとしか仲良くせず、大方の女子からは距離を置かれていた。史絵は女子にはいい顔をしているが、史絵によってくる男子には素っ気ない態度を見せていた。そのため大方の女子からはこう囁かれていた。 「鈴村さんて、裏表が多いよね」と。だが史絵は気にしてはいなかった。 一方炎寿は男子にも女子にもいい顔をして、授業態度も良く、勉強面の方は体育が得意で歴史と古典が苦手であった。 炎寿が学校に通うようになってから彼女は同じクラスの女子から運動部の勧誘を受けたことをブリーゼとジザイに話した。 「クラブ活動への加入? フェルネ殿が?」 クラブの誘いがあった日の夜の食事時、炎寿は伝える。 「うむ……。わたしのクラスでは始業式のあった次の日、体育の授業で短距離走の好記録を出してな、そしたら同じクラスの女子から『こんなに運動神経があるのなら、運動部に入ればいいのに』と言われて……」 「そうなんだ。だけど、わたしはクラブ活動はやってないしな」 安里がご飯を頬張る途中で炎寿の話を聞く。するとブリーゼが炎寿に言った。 「まぁ、試しにやってみて、それで通しているかどうか入部すればよいではないですか」 それを聞いて炎寿は答える。 「ああ、そうしておこう」 「それで何の運動部で?」 ジザイが尋ねてくると、炎寿は答える。 「ええと、体操部……」 「ふぅん、炎寿ちゃん体操部に入ったんだ」 炎寿が体操部に入ってからの後日、登校中のバスの中で、安里は比美歌と郁子に話した。体操部に入ってからは炎寿は朝練のある日は安里より早く家を出ていた。 安里は自分がクラブに入ったら他者からひがまれるといってクラブに入っておらず、比美歌は父子家庭で洗濯や買い出しなどのためクラブに入ってなかった。郁子はというと月曜日と水曜日の手芸部に入っていた。手芸部の活動は裁縫や編み物やビーズアクセサリー作りなどだ。ただし郁子のデザインは平凡だが。 それから炎寿は料理や掃除といった家事が得意だった。週三、四回は夕食作りは炎寿が担当し、色々なおかずを作ってくれた。炎寿の作る料理はスパイスやハーブを使った物が多く、人間界でいうアジアや中近東や中南米のエスニックみたいであった。 「ほれ、出来たぞ」 土曜日の夜、炎寿はエプロンを付けて安里たちに自分の作った料理を差し出した。細かく刻んだニンニクにネギ、鶏肉、粉パプリカを入れた蒸しご飯で他にパクチーの入ったコンソメスープや辛味ソースがけの魚のフライサラダ。 「いただきまーす」 安里とブリーゼとジザイは炎寿の作ってくれたご飯を食べる挨拶をして、スプーンで蒸しご飯をすくって食べる。 「フェルネさん、今日は体操部の休日練習があったにも関わらず、わざわざ作ってくれて……」 ブリーゼが炎寿に言った。 「いやぁ、どうしてもこれが食べたくって」 炎寿は蒸しご飯を食べる。 「フェルネはいいね。人間界で生活するための勉強をして、クラブにも入って、料理も掃除もアイロンがけも出来るし……」 安里は炎寿に言った。安里は語学や数学や社会や理科の勉強は得意で、マリーノ王国で暮らしていた時は人間でいう八歳の時には一二歳のクラスにいて、一五歳で大学一年生として生活していた。安里は勉強が得意な反面、調理や裁縫といった家庭科が極端に苦手だった。料理は焦がすか半生、裁縫は縫い目がいびつだったり針で何度も指を刺したり、掃除や洗濯物たたみやアイロンがけも苦手だった。 学校の掃除では毎日の習慣とはいえ水浸しや磨き忘れを起こすし、六月の林間学校ですら野菜の皮むきも食後の皿洗いも上手くできず、男子の手も借りたぐらいだ。 「ああ、そうだアンフィリット。お願いがあるんだ」 炎寿が安里に行ってきたので安里は食事をする手を止める。 「明日は日曜日でクラブ活動もなくて、出かけたいのだが、一緒に来てくれるか?」 「うん、いいよ」 安里は炎寿のお出かけの誘いに付き添うことになった。 次の日、日曜日は曇天の空に覆われていたが、雨の降る心配はなさそうだった。 保波駅より南からバスで一五分行った先にある千葉ベイタウンモール。三階建ての巨大な建物にはファッション・グルメ・ホビーなどの店が合わせて五〇もあり、日曜日の今日は学校休みの中学生から大学生、親子で来ている者、カップルや夫婦などの客が来店していて騒がしかった。 安里と炎寿はベイタウンモールに訪れており、安里は薄紫のタンクワンピースで炎寿は赤いカットアウェイのトップスとデニムのハーフパンツの服装。 「比美歌ちゃんと法代ちゃんにも来てもらいたかったんだけど」 「昨夜連絡したら、比美歌は父親が仕事の日で溜まっていた服の洗濯やアイロンがけをしないといけなかったし、法代はすでに小学校の友達との誘いを受けていたしな」 安里は今日の外出に比美歌と法代も誘ったのだが、二人とも既に予定があったため一緒に行けなかったことに呟いていた。 「次こそは四人で行けるようにすればいいさ。わたしが行きたいのはこの店なんだが……」 炎寿はモール内のマップの一ヶ所を指差して安里に言う。二人はそこへ向かい、老若男女の多くの人びとが行ったり来たりする通路を歩いて、炎寿が行きたがっている店へと足を向けていった。 二階のファッションエリアはフリルやレースの多いガーリッシュ系のブティック、スウェットやジャージなどのスポーツ系の店、甘ったるいケーキのようなロリータ系の店やオーソドックスな柄シャツやジーンズを売っているカジュアル系の店と異なる店舗があった。 「ここだ。この店の服を買いたいんだ」 炎寿が求めている服の店の名は『ホットジャングル』というエスニックファッションの店だった。ジャングルにある樹のような外観に中は滑らかな木材の床や柱、壁にはワニやジャガーなどのジャングルに棲む動物のタペストリーや木彫りの像が置かれており、木の棚やカウンター、木のマネキンには『ホットジャングル』の商品の服や靴やアクセサリーなどが展示されており、店内BGMもコンガやマラカスなどの楽器演奏のエスニック音楽であった。店員もダイダイ染めのスカートや細かい模様のカットソーなどの服装で、安里と炎寿以外の客も数人いた。 「いらっしゃいませ」 若い店員の女性が安里と炎寿にあいさつする。二人は軽く頭を下げて、炎寿は早速店の商品を一着ずつ手に取って確かめる。 「この模様のトップスは赤とオレンジどっちがいいだろうか? この刺繍のスカートもいいな。このパンツの織物の色合いもいい……」 炎寿はトップスやスカートを体に当ててみては安里に尋ねてくる。 「時間はたっぷりあるからさ、じっくり選びなよ」 (それにしても、つい三ヶ月前まではわたしとは敵として現れたフェルネだったけど、アクアティックファイターに覚醒してからはわたしの"仲間"で"家族"としているのが不思議なんだよね) 炎寿ことフェルネはかつては敵同士だった。安里とは数度戦い合い、やがて安里の仲間になってマリーノ王国を乗っ取ったドレッダー海賊団の船長、ドレッドハデスを倒し、マリーノ王国の住人を解放した後、フェルネは安里の実両親のもとで再教育を受けて罪滅ぼしの名義でマリーノ王国に貢献してきた。再教育の後は安里たちのサポートをするために人間界で暮らすことになった。 「そういえばさぁ、炎寿……はここの服でいいの? 他にも見ておけばいいのに」 安里は炎寿に訊いてきた。安里は学校や今日のような公の場所ではフェルネの人間名である炎寿と言う。安里に聞かれて炎寿は手を止めて返事をする。 「エスニックの服や靴が以前住んでいた国の民族衣装に似ているからな……。これがしっくりくるんだ」 以前フェルネはドレッダー海賊団に入る前は二本脚の代わりに蛇の体となっている炎蛇族が住む小島に住んでいたのだが海底火山の影響で島が失くなり、フェルネの両親や兄弟姉妹も亡くなってしまった。その後、ドレッダー海賊団に拾われた。 「ああ、そうなんだ……」 安里は炎寿がエスニックを好む理由を聞いて納得した。炎寿は一時間かけて店の商品を確かめると、ようやく会計を済ませた。買ったのはエスニック柄のトップス二着、南国の木の葉模様の刺繍が入ったキャミソール一着、ジャマイカ織りの細布が入ったパンツ一着と象の目模様のスカート一枚、エスニック柄の靴下三枚、ダイダイ染めとアフリカン柄のバンダナを二枚。 炎寿は商品の入った紙袋を手に持ち、また昼の一二時半を過ぎていたので、安里と一緒にランチを食べることになった。食事処は三階のレストラン街と一階のフードコート。どこも休日で混雑していたが、二人はフードコートの韓国スナックでランチにありついた。安里は牛肉と野菜入りのチャプチェと白ご飯とわかめスープの定食、炎寿は真っ赤なカルビクッパ。親子や中高生グループなどの客たちに混じって二人がけの席に座って腹ごしらえをする。 「はぁ〜、辛いものは内側から温まるから好きだな〜」 炎寿はカルビクッパを食べ終えると、安里が食べ終えるのを待って一息つく。 「欲しい服は買えたし、わたし好みの食事も口に出来たし、もう少し店をいくつか目にしたら帰ろうか」 「ああ、そうだね。次に来た時の買い物の下見ってことで」 安里はチャプチェ定食を食べ終えると、トレイを持って店の返却口に置いてくる。その後は二人で色々な店を歩き回った。カラフルな食器や細かい模様の箸にローズマリーやラベンダーなどの薬草のアロマオイルに文房具などが売られている大型雑貨店、スニーカーから革靴が置かれている靴屋、無地や花柄やチェック柄の寝具カバーを売る布団屋、本屋、CD店、輸入菓子店と見て回った。午後三時近くになると甘い物が欲しくなって、中庭側に店舗のあるエリアに入っていった。中庭はツツジやカラタチなどの低木、人工のヤシの木が植えられ、屋内は白いマス目状の床に対して中庭及び出入り口のポーチは薄オレンジと茶色のタイル張りだった。ベイタウンモールの建物はライトグレーと赤紫だったから地面との差をはかるためにあえてこの色にしたのだろう。 安里と炎寿はクレープとソフトクリームの店の前に並んで、安里はバニラソフト、炎寿はフルーツミックスカスタードのクレープを食べた。おやつを食べたらベイタウンモールを出て家に帰ろうとした時、安里と炎寿はある気配を感じ取った。 「この気配は、まさか……」 「ヨミガクレという連中のものか!? まさかこんな所で……」 ベイタウンモールの建物の真上にはハガネノモリタテがいた。モリタテは手に黒い地に赤い文字が刻まれた札(ふだ)を持ち、何かの呪文を唱えていた。 「冥府より来たりし闇の力よ、このヨミガクレが幹部、ハガネノモリタテに大いなる力を移したまえ!!」 すると札が暗い紫色の波動を放ち、それは数本の触手のようになり、モリタテの四肢や胴体に絡みついたのだ。 「こっ、これが冥府の力……。なっ、何て測り知れない……」 するとベイタウンモールの周囲が赤黒く染まり、そこにいる人々はこの異変に驚く。 「うわっ、何なんだ、これは……!?」 「一体どうなってんだよ!!」 「うわ〜ん」 男の女も子供も老人も客人も店員もパニックに陥り、安里と炎寿は顔を見合わせて人目のつかない場所に隠れて、首から提げていたライトチャームを取り出して、祈りを込める。 「ライトチャームよ、わたしをアクアティックファイターに変えて……」 安里は淡い紫、炎寿は真紅の光に包まれて、安里は長い深いピンク色のウェーブヘアに紫の眼にシースルートップスとフィッシュテールスカートに編みあげパンプスの姿に変身。炎寿は瑠璃色のハーフアップに赤い眼に赤いロングビスチェと黒いスリットスカートと赤いハイヒールの姿に変身する。 二人は変身すると大きく跳躍して、モリタテのいる建物の真上にたどり着く。 「こっ、これは……!!」 変身した炎寿――フェルネがそこにいる者を目にして思わず口をつぐんでしまう。 モリタテは銅鐸に人間の腕と脚を姿ではなく、銅鐸から四本の腕と六本の脚を生やし、更に金色の六つの眼を持つ異形の姿をしていたのだ。 「どういうことなの――?」 変身した安里――アンフィリットが不思議に思った。 地下数百メートル中のヨミガクレの本拠地でも、他の幹部が女王の間の行灯の火から浮き出る地上の様子を目にして驚いていた。古墳時代の武人のような姿のタケモリノイクサが女王に尋ねてくる。 「これは一体なんなのですか!」 四つの仕切りで姿を隠している女王が答える。 「これは〈切り札〉だ」 「切り札?」 頭が勾玉で人間の胴体を持つマジカケタマツグが呟く。 「我々ヨミガクレは冥府に近い場所に住まう者。冥府の闇は我らの力を増幅させる。モリタテは〈切り札〉として、冥府の闇の力を使ったのだ」 女王は幹部たちに教える。 「それにしても、ちょいと前にモリタテの運命を占ってみたのですが、水晶玉に白き光と黒き闇が半分に映し出されていまして。はっきりしないものです」 銅鏡を顔にかざした女幹部、サキヨミウラシが女王と他の幹部に言った。 「光と闇が半分だと!?」 タケモリがサキヨミに尋ねる。するとマジカケが言った。 「この場合だとモリタテの勝利と闇が半分ずつという可能性になるということか……」 「ウゴアアアア!!」 冥府の闇の力で強化されたモリタテはアンフィリットとフェルネに襲いかかって、鉄柱のような腕を二人に向けてくる。二人はジャンプしてよけ、フェルネは指先を弾いて炎を起こすバイパー=ヒートエクスプロードを出して、モリタテの周囲に数箇所の炎が発生して爆ぜる。しかしモリタテは怯んだだけであった。モリタテは六本の脚を動かしてアンフィリットの方へ向かってくる。アンフィリットは水の玉を出して礫にしてぶつける、マーメイド=アクアスマッシュを出してモリタテを押し出した。 「何て頑丈なの……」 アンフィリットがモリタテの様子を目にして漏らす。 「比美歌と法代にも来てもらいたかったとはいえ、この空間のせいかシュピーシェルが使えん」 フェルネはアンフィリットに言う。返信する前に貝殻型通信器具、シュピーシェルで比美歌と法代にも助けにきてもらおうとしたのだが、冥府の闇の影響か使えなかった。するとモリタテは太い腕をアンフィリットとフェルネに向けてきて、ふたりはジャンプして避けるがモリタテは地面に落下して、中庭に着地する。 「ばっ、化物だーっ!!」 モールの中庭にいた人々はモリタテを目にして逃げ出し、五、六歳の女の子がつまづいた時、モリタテは腕を伸ばしてきて四又の指を広げて女の子を捕まえた。 「きゃーっ!!」 「ナナコー!!」 女の子はモリタテに掴まれ、女の子の母親が叫ぶ。モリタテは女の子を連れて六脚を動かして一階の中庭にいる人々を驚かせながらモールと繋がる駐車場へ逃げていった。アンフィリットとフェルネもモリタテの後を追いかけて駐車場にたどり着いた。 駐車場は薄暗く、何台ものの車型や色の異なる自動車が停まっており、モリタテは自動車五台分の空きスペースの所で止まった。 「その子を離しなさい!!」 アンフィリットはモリタテに向かって叫ぶ。しかしモリタテは人質を掴んでいる以外の腕をアンフィリットとフェルネに向けてくる。二人は避けて、アンフィリットはマーメイド=アクアスマッシュを撃ち放ち、フェルネもバイパー=ヒートエクスプロードを放つ。二つの技が同時にモリタテに当たったことにより、モリタテの腕から人質の女の子が離れた。 「おおっと!」 フェルネはスライディングして落下した女の子を受けとめる。 「良かった、助かって」 アンフィリットは助かった女の子を目にして安堵する。 (それにしても、わたしたちがいたとはえい、多くの人たちを闇の空間に閉じ込めて、小さい子を人質に取るなんて赦さないわ。 いいえ、強すぎる力のせいで自我を失ったモリタテ。暴れることしか出来なくなって哀れだわ……) その時、アンフィリットの首から提げていたチャームが紫の光を放ち輝きだしたのだ。するとチャームがアンフィリットの首から離れて、一つの形に変化したのだ。 それは銀色の三叉の矛先に紫の柄の槍、トリアイナであった。 「これは一体……」 フェルネと彼女に抱き抱えられている女の子も唖然とする。アンフィリットはトリアイナを両手で持ち構えると、モリタテに矛先を向ける。 「冥府の闇にとらわれし者よ、光の名を持つアンフィリットが浄化する」 アンフィリットは技を使うための言葉を詠唱すると、矛先に水と紫の光が集まって三つに分かれた水と光の線になってモリタテに放たれた。 「マーメイド=トリアイナスラスト!!」 水と光の三本線がモリタテに当たると、紫の光の柱がモリタテを包んで、紫紺の闇のエナジーが煙のように放出されて、光が弾け散ると、モリタテのいた場所には一つの鉄器――釣鐘に似た古代物、銅鐸が転がっていたのだ。 「これがヨミガクレの幹部の本当の姿か?」 フェルネが銅鐸を目にして呟く。 「多分、そう……。だけど、わたしとしてはこっちの方が驚きだよ……」 アンフィリットは自分が持っている三又槍を見て言った。モリタテが倒されると同時にベイタウンモールを包んでいた紫紺の闇は消え去り、人々は安心した。 「ナナコー!」 「ママだ」 人質にされた女の子の母親がやって来て女の子を抱きしめた。 「ああ、ありがとうございます……」 女の子の母親はアンフィリットとフェルネに礼を言い、二人は駐車場から去っていき、変身した場所と同じ人目のつかない所で変身を解除した。そこには炎寿の買った衣類の紙袋が置いてあったからだ。 ヨミガクレの本拠地。女王の間にある行灯の火気で映し出された地上の様子を目にした他の幹部や女王はモリタテがアンフィリットに倒されたのを目にして呆然としていた。 「女王さま、モリタテがやられただけでなく、妖精があんな力を使えるとは……」 タケモリがうろたえつつも女王に告げる。 「落ち着け、タケモリ。モリタテは全力を尽くした。妖精たちの力も侮ってしまったが、今後の侵略には充分な情報となった。それを忘れるでない」 女王はタケモリたちに言った。 ベルジュール磯貝に戻った安里と炎寿は、今日ベイタウンで起きたことをジザイとブリーゼに話した。 「ヨミガクレの幹部の一人を倒しただけでなく、アンフィリット様が武器発動能力を使えるようになったとは……」 ジザイは安里が武器を使えるようになったことを知ると、感激する。 「わたしだって思ってなかったよ。アクアティックファイターとはいえ、武器がチャームから出てきたのには」 安里は首からチャームを外して振ってみせる。戦いの後、トリアイナはチャームの形に戻り、その後は何の変化もなかった。 「アンフィリットのチャームが武器になったということは、わたしや比美歌や法代にもその可能性はあるのだろうか?」 炎寿が疑問に思った。 「それは……、それなりの強い意思がないと武器が発動しないと思いますよ。可能性があったとしても、それはいつのことか……」 ブリーゼが炎寿に言った。 「ところで、ハガネノモリタテを倒したら、古代の器具、銅鐸になったとおっしゃってましておりましたな、アンフィリット様」 「あ、うん。ヨミガクレの幹部も魂を持った道具だったのには驚いたけど……」 安里はジザイの問いに返事をする。 「つまりこういうことでしょうなぁ。ヨミガクレは器物をヤドリマにして人間を襲うように、ヨミガクレの上層部もヤドリマで、しかも昔は別の名前で呼ばれていたんでしょうね」 「別の名前って?」 「昔の日本では九十九年の間、形を保ってきた道具には霊が宿って付喪神(つくもがみ)と呼ばれていたそうですぞ。例としては布の一反木綿、障子の目目連、塗り壁……。道具の形をした生き物は付喪神として扱われていたようですぞ」 ジザイは安里と炎寿に付喪神の説明をする。 「てことは、ヨミガクレも付喪神なのね。何百年も形を残してきた古代物に霊が宿るのもおかしくはないわね」 安里はこう思って言った。 ヨミガクレが付喪神の一団ならば彼らはどうして命を持ち、また人間世界を侵略しようとしているのか。 それはだいぶ後のことになる。 |
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