日本列島より高度数千メートルの上空を飛ぶマサカ=ハサラの本拠点の巨大飛行戦艦。飛行戦艦の城内の長(カリフ)の間には透明な板状の檻の中に閉じ込められたクーレーがいた。クーレーはアザラシの皮を中途半端にかぶっており、まぶたを閉ざして口も閉ざされている状態であった。 「こやつの他にも、日本に妖精が四人もいたとはな......」 長の青年はクーレーを見つめ、クーレーを捕らえてアクアティックファイターの件を報せたカウィキテフに言った。 「はっ。しかも彼女たちは捕らえた妖精と違って、ハヤワーンと戦えるほどの能力の持ち主でして、長のコレクションに収まるかどうかは......」 長は首を横に振って答える。 「妖精の女たちは今すぐ捕らえる必要はない。また手を打つさ。日本にはアメリカやヨーロッパやオセアニア程ではないが、多種多様な動植物や鉱石化石がある筈だ。妖精のコレクション化はその後だ」 長はカウィキテフに伝えた。 日本をはじめとする地球の先進国では、赤と白と緑に包まれ、街中では雪だるまやモミの木、白ひげと赤い服のサンタクロースやトナカイなどの飾り。十二月二十五日はクリスマスで、人類の救世主といわれるイエス=キリストの生誕祭で、年末最高の催しである。クリスマス当日の十日前である現在でも、商店街やデパートやアウトレットモールはクリスマス期間ということで、おもちゃ屋や雑貨屋ではクリスマスツリーにつけるオーナメントの販売やプレゼント用のおもちゃの売り出し、パン屋ではヨーロッパに食べるシュトーレンやパネトーネを焼き、ケーキ屋ではクリスマスケーキの予約に持ちきり、とどこもかしこもクリスマスに満ちていた。 安里と炎寿が住むマンション、『ベルジュール磯貝』のエントランスホールにも、二メートル丈のクリスマスツリーが置かれ、雪の代わりの綿や小さなリースに雪だるまやサンタクロース、プレゼント箱などのオーナメントで飾り付けられている。 「人間というものは、祝い事や季節の催しが好きな生き物だな」 高校からマンションに帰ってきた炎寿がエントランスホールのクリスマスツリーを目にして呟く。二人ともオリーブグリーンの制服の上から学校用のコートを着ていた。安里は灰色のピーコートで、炎寿は茶色のキルティングジャケットである。 「何でもクリスマスは大人も子供も男も女も誰もが楽しんで祝う催しよ。二十世紀以前ではキリスト教の人だけが祝っていたみたいだけど、今は国も宗教も問わず祝っているからね」 安里が炎寿にクリスマスの内容を教えていると、後ろから二人を呼びかける声が飛んできた。 「あっ、真魚瀬さん、朱堂さん。奇遇だねぇ」 安里と炎寿が振り向くと、そこには紺色のダッフルコートを羽織り、紺色のパイピングブレザーの制服に校章入りのスクールバッグ、一七〇センチ超えの背丈に真ん中で前髪を分けた天然パーマの少年が立っていた。 「あ、ああ......。脇坂くん、こんにちは......」 安里は同じマンションの五階に住む舟立(ふなだて)高校に通う脇坂迅(わきさか・じん)にあいさつする。 「二人とも、何話していたの?」 脇坂くんが尋ねてきたので、炎寿がすんなりと答える。 「日本人は行事や催しが好きなんだとわたしが言ったら、安里がクリスマスはキリスト教だけの催しだと教えてきて......」 それを聞いて脇坂くんはキョトンとなって首をかしげる。 「え? 二人ともクリスマスのことをよく知らなかったの?」 脇坂くんが訊いてきたので、安里は急いで弁解する。 「あ......。わたしは一月に炎寿は八月から日本に住み始めたから、日本でのクリスマスは初めてやるの。言い方が不足だったわね」 安里は乾いた笑いを脇坂くんに向けながら誤魔化した。 「ああ、そういう意味ね。ところでさ、真魚瀬さんと朱堂さんはクリスマスはやっぱ、家族と過ごすの?」 「どういうことだ?」 脇坂くんの質問に炎寿が訊いてくると、脇坂くんがこう返事をする。 「クリスマスってさ、大切な人と過ごすのが多いイベントなんだよ。家族と過ごす人もいればさ、友達と恋人と過ごすこともあってさ。 おれんちは両親が共働きで、母さんもデパートと勤めだから帰りが遅い上にクリスマスの時期はお客さんが多いからさ」 「脇坂くんって、クリスマスは一人で過ごしてきたの?」 安里は脇坂くんの言葉を聞いて、孤独だったのかと訊いてきた。 「あ、おれの場合は学校での友達と一緒にアミューズメントパークでクリスマスを過ごすから。ボーリングやカラオケやりながら、ケーキやチキンを分け合ってさ」 「そっか。それはそれで楽しめそうだな」 炎寿が脇坂くんが送るクリスマスの内容を聞いて、うなずく。 「そういえば、お母さんが今は別の学校に通っているわたしの友達を家に招いてクリスマスパーティーを考えているんだったな......」 安里は昨夜、人間界では安里の母として生活しているブリーゼの言っていたことを思い出して脇坂くんに伝えた。それを聞いて脇坂くんはしばし沈黙するも、軽く笑った。 「何だ、真魚瀬さんとはもう予定あるんだね。それじゃあ、おれは先に帰るよ。またね」 そう言って脇坂くんは安里と炎寿に告げて、五階の自分の部屋ヘ向かっていって階段を昇っていった。 「に、しても」 炎寿は脇坂くんが去ったのを見て呟いた。 「脇坂は安里に気があるのか、わからんな」 「え、そこまでは......」 安里は口をつぐんだ。安里は人間界に来てから、同じクラスでバスケット部員の神奈瑞仁(かんなみずひと)と関わっていくうちに、神奈くんが好きになっていた。だが、振られることを恐れて踏みとどまっていた。しかも、過去に二回、ヨミガクレの幹部が生みだした、付喪神、ヤドリマと戦っていた時に神奈くんはアクアティックファイター姿の安里に惚れてしまったのだった。それが安里の悩みであった。 偶然同じマンションに住む脇坂くんと初めて面した時は、脇坂くんは神奈くんとは違った男子で、だけども安里は脇坂くんのこともどうしたらいいか悩んでいた。 次の日の保波高校。保波高校は校庭の木は枝だけの状態になっており、垣根も茶色くなった葉が僅かに残っていた。校舎の中ではストーブが置かれ、生徒たちの暖房として活躍していた。体育の授業は主に年明けのマラソン大会に向けてのランニングが多く、体育館で行うバスケットボールやバレーボールをやるクラスが羨ましく思えた。 「あ〜、校庭を五周も走らされていると、脚がガタガタ」 郁子が重い足取りで教室の中に入る。体育の授業では更衣室で体操着とジャージに着替えて、体育が終わるとオリーブグリーンの制服に戻る。女子はダブルのブレザーと白いセーラーシャツとからし色のボックスプリーツスカートで、男子は詰襟とスラックス。 「ぼくもはっきり言って体を動かすよりは、頭を使う方が向いてますね」 学年一の秀才でクラス委員の深沢修が言った。一年四組の生徒は各自の席に着き、次の授業の教科書を出した。 昼休みになり、保波高校の生徒たちは教室で弁当や購買部で買ったサンドウィッチや総菜パンを食べて過ごした。安里も郁子と一緒に食事をし、おかずとご飯を食べていると、席を立ちあがって郁子に言った。 「あ、ごめん。ちょっとトイレ」 「寒いもんね。廊下はもっと冷えるよ」 安里は暖かい教室を出ると、清々しいながらも冷える廊下を出て、トイレに向かった。その様子を男子の一人が見つめていた。 安里は女子トイレを出ると、小走りで教室に戻って暖まろうとし、一年四組の教室の後部出入り口に一人の男子が立っていた。 「あ、神奈くん......」 切れ長の眼に端正な顔立ち、一七〇センチ代の背丈に細身ながらも筋肉質の男子、神奈瑞仁であった。 「なぁ、真魚瀬。今度の日曜日、用事とかあるか?」 「え......」 それを訊かれて安里は静かになる。 「あの、もし良かったら、海浜(かいひん)京葉(けいよう)水族園に行かないか? 今日の新聞広告にペアなら三割引きの券があったから......」 まさか片思いの男子からお出かけの誘いだった。今まで比美歌や郁子、法代や炎寿としか出かけたことのない安里にとっては初めての出来事であった。 「だ、だけど......、鈴村さんや他の友達とかは......」 「男友達と行っても盛り上がらねーし、第一史絵とは姉弟みたいな関係だし。それに史絵はおれの兄貴と付き合ってんだぜ」 「あ、そうなの......」 二ヶ月前の運動会の後に神奈くんが幼馴染の鈴村史(すずむらふみ)絵(え)から告白されたが断った場面を偶然見た安里は、神奈くんに振られた史絵が今は神奈くんの兄と付き合っていることを知ると、緊張が解けた。 「で、来てくれるかな?」 神奈くんの誘いを今ここで断ったらせっかくのチャンスを棒にしたくないため、安里は答えた。 「わたしでいいのなら......」 「何!? 神奈からデートに誘われただと!」 帰りのバスの中で、安里から次の日曜日の出かける理由を聞いて炎寿は思わず声を張り上げた。炎寿の声でバスの乗客の何人かが安里と炎寿の会話に注目していた。 「し、しーっ!」 炎寿が声を上げたことに安里は慌てて止める。一緒に乗っていた郁子が咳払いしてから安里に言った。 「けど羨ましいな。同じクラスの男子からデートに誘われるなんて」 「うん......。だけどデートって基本何すればいいか......」 安里が困っていると、炎寿が余裕のある笑みを見せる。 「デートは日曜日だろう? なら土曜日に比美歌をうちに呼んで、デートの仕方を学ぼうではないか」 そして日曜日。安里は朝の十時半に保波駅で神奈くんと待ち合わせた。冬の保波駅は老若男女がアウターを着て、他所へ出かけたり学校のクラブへ行く様子が見られた。 安里は普段着の上から着るラベンダー色のシングルボタンコートではなく、昨日古着屋で買ったピンクと紫のチェック模様のノーカラーコート、首にココア色の毛織ストール、足元はベージュのレースアップピンヒールブーツに白いニーソックス、頭には白い毛糸ワッチ帽、髪もおろしたセミロングウェーブで、肩には黒い革ポシェット、手にはスウェードのミトンという服装だった。比美歌からなるべく可愛らしい方が男子の気を引かせるから、と選んでくれたのだった。 安里が駅構内の柱に寄り添って立っていると、ホームの改札口から安里を呼ぶ声が飛んできた。 「真魚瀬!」 その声を聞いて安里が振り向くと、私服姿の神奈くんが呼んでいた。 「あ......」 安里は神奈くんを見つけると、バッグの中に入れていた財布からパスモを取り出すと、改札機をくぐって中に入っていった。 今日の神奈くんの服装はカーキ色のミリタリージャンパーに人工レザーの手袋、白いフリンジ付きのニットマフラーを首に巻き、ベージュのワークパンツに灰色のミリタリースニーカー、バッグは黒いヒップバッグというメンズカジュアルだった。 「おお、真魚瀬。いいファッションセンスしてんじゃん」 「あ、ありがと......」 「そんじゃ、行こうか」 安里と神奈くんは目的地のある海浜京葉水族園へ向かっていった。 水族園は電車を西保波で乗り換えてから、京葉線に乗って十一時二十分ごろに水族園のある駅に到着した。水族園の駅は休みのためか来訪客が多く、親子やカップル、高校生のグループ、大学生や休日の社会人と様々で、水族園はガラス張りのドーム状の建物で、そこから七百メートル離れた場所には遊園地もあり、虹色のゴンドラの大型観覧車やジェットコースターなどのアトラクションが見えた。 「あ、そうだ。入る前に腹ごしらえしないか」 神奈くんがそう言ってきたので、安里はためらいもなく賛成した。二人は駅前のカフェに入り、早めの昼食を採ることにした。昼食を食べ終えた安里と神奈くんは水族園の中に入り、陸上なのに水の中にいるような建物の中に入っていった。 水族園の中は壁はアクリル製の水槽、薄暗い通路の中に蛍光色の電灯で照明が水槽を明るくさせ、エリアによってカラフルな熱帯魚やグロテスクな深海魚、巨大水槽にはマグロやマンタなどの大型の魚が泳ぎ、安里は故郷のミスティシアの東の海の中にあるマリーノ王国を思い出した。 (マリーノ王国ほどじゃないけど、人魚になってなくても海の中にいるみたい) 安里は神奈くんを横目で見て、神奈くんは普段は行かない水族園の不陰気に浸っていた。安里は髪の毛が深いピンク色の安里に惚れていた。安里の今の髪は茶色だ。妖精は人間界で過ごすために変化自在法を使っているため、姿が異なる。でも本当のことは言えなくて、安里は胸に秘めていた。水族園の来訪客の中には楽しくしゃべり合うカップルもいて、安里はその人たちが羨ましく思えた。 一方、安里たちがいる水族園近くの沖合で一台の赤いウツボのようなメカに乗った老人が同じ服装と姿の小男たち数人を率いて、水族園に近づいていた。ウツボメカの中はパイプや炉のような機械で構築されており、老人は深緑のドライバーキャップ にゴーグル、皮手袋とブーツ、白い長そでのシャツに深緑のサルエルと上着の服装で長い鷲鼻に灰色の顎髭を生やしていた。 「あそこに行けば、多くの海の生き物がおるんじゃったな。二時の方角に前進!」 老人は金属製の操縦桿を握り、ウツボメカは水族園へ向かっていった。 安里と神奈くんは今日の水族園で行われるシャチのショーを見に広場に来ていた。中心に舞台付きのプールと段状の客席があり、多くの観客がシャチのショーを見に来ていた。 「シャチのヘラクレス、ジャンプ! 輪くぐり!」 長い背びれに黒と白の体のシャチがインストラクターの女性の指示通りに直線状や半円状にジャンプをしたり、輪をくぐったりと芸を披露する。ショーを見ている子供たちははしゃぎ、若いカップルも感心する。 「すげーよなぁ、シャチって海のギャングって呼ばれてるけど、人間に長く買われていると、懐くもんなんだな」 「そうね」 神奈くんの様子を見て、安里が返事をする。 ショーが盛り上がっている中、ズゥゥンという音がして、建物全体に地響きが起こる。 「な、地震!?」 神奈くんが変動に気づくと、するとヘラクレスの上から投網が降ってきて、ヘラクレスが囚われる。広場の真上は屋根がないため、そこからウツボメカが現れてきたのだった。ウツボメカの口にはヘラクレスが喚いてジタバタしていた。 「もしかすると......」 安里はヘラクレスが捕らえられたのを目にして、珍生物を捕らえるマサカ=ハサラの仕業なのか、と察した。 さらにプールから一メートルほどの大きさのグソクムシのような白い体にとがった甲殻の生き物が飛び出してきたのだった。 「うわーっ」 「ここにいたら危ないぞ!」 「逃げろーっ!」 観客たちはパニックなって広場から逃げ出し、安里と神奈くんも人ごみで紛れてしまうが、安里はドサクサを利用して、人々の反対方向へ進んでいった。 そして広場に誰もいなくなると、安里は首に提げていたライトチャームを出して、祈りを込めて変身する。 『お前か、長が求めているという妖精は』 ウツボメカから老人の声がスピーカー越しに聞こえてきて、変身した安里に言う。 「ヘラクレスを離して!」 安里はヘラクレスを捕らえた相手に向かって叫ぶ。 『このシャチは長のコレクションにする。どうしてもと言うのなら、ハヤワーンを倒してからにしろ!』 ウツボメカの乗り手の命に従ってか、安里に四体のハヤワーンが襲い掛かってくる。安里はチャームをトリアイナに変えて、振り回したり、突いたり、水の礫を飛ばすマーメイド=アクアスマッシュを出したが、ハヤワーンの硬い甲羅によって効かなかった。ハヤワーンは口から紫色の液を出してきて、安里のスカートのすそが溶けてしまう。安里は攻撃を避けてジャンプし、マーメイド=アクアスマッシュとトリアイナに合わせて、新しい技を放った。 「マーメイド=アクアウェッジ!!」 水の礫はトリアイナの先端によって水の楔に変化し、ハヤワーンは口から液ヲ吐くが、水の礫よりも早くて鋭い楔によって掻き消され、更に水の楔の衝撃でひっくり返ってしまい、腹部の方は薄いため水の楔によって貫かれて、倒されてしまった。 『う......。ハヤワーンをよくも......。せめてこいつだけでも、長に献上しなければ!』 そう言ってウツボメカの乗り手はヘラクレスを捕らえたまま引き下がろうとした。 「待ちなさい!」 そう言って安里は水の楔を飛ばし、投網が切れてヘラクレスはプールの中に落下して、水飛沫がはねる。 『くそ! 一人でもこんなに強いとはな、妖精め! わしはマサカ=ハサラの長に仕える、アハザダヤドだ。今回はお前に邪魔されたが、次こそは必ず!』 ハヤワーンを倒されただけでなく、長への献上品も手に入れられなかったアハザダヤドはウツボメカに乗ったまま撤退した。 安里はマサカ=ハサラがいなくなると、プールの方へ行ってヘラクレスの様子を目にする。ヘラクレスは高い鳴き声を出して、「ありがとう」と言っているように見えた。 「そうだ。神奈くん、どうしているかな」 神奈くんのことを思い出した安里は、元の姿に戻り、広場を出て建物の中に入っていった。 水族園に異変が起きたことで、園内の客や従業員は外に出ていた。安里は神奈くんを探していると、一人の青年と目が合った。 「真魚瀬、いたのか!」 神奈くんは安里を見つけて駆け寄る。 「ごめんなさい。逃げ遅れて、出入り口が見つからなくって......」 安里は言い訳をし、それを聞いて神奈くんは息を吐く。 「ったくよぉ、心配かけさせやがって......。でも無事で良かったよ。水族園で地震が起こるわ、化け物海老は出てくるわ、散々だったな」 神奈くんは頭を掻くと、もう空が薄紅色に染まっているのを目にして言った。 「もう今日は帰るか。後でみんな、この出来事で心配するだろうし」 安里は神奈くんと共に駅へ向かい、電車に乗って車窓から見える水族園の建物やビルなどの景色を見つめていた。車内には居眠りする老人やスマホ画面を見ている人などが座り、安里と神奈くんは立っていた。 神奈くんは彼が住む海神駅で別れることになった。電車が着く前に神奈くんは安里に言った。 「あのさ、真魚瀬。今日はアクシデント起きたけどよ、楽しかったぜ」 それを聞いて安里はこう言われて、動揺するも、かすかに喜びを感じた。 「う、うん。誘ってくれてありがとう......」 電車が海神駅に着くと、神奈くんはホームに降りた。 「じゃあ、またね」 電車のドアが閉まっても、神奈くんは安里を見送ってくれた。 電車の中で安里は思った。本当のことは言えなくても、神奈くんはいつか安里の本当の姿に気づいて、告白するかもしれない。 そんな想いを抱いて、安里はほほえましく感じた。 |
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