5弾・10話 マサカハサラの野望


 ヤタガラスのハヤワーンに吊るされたクーレーは失っていた意識を取り戻すと、開いた視界に見たことのある人物を目にして声を出す。

「き、君は法代……。それに父さん! 生きてたんだね!」

 クーレーは法代と父の姿を目にして叫ぶ。だが、自分の真下を目にすると、上空十数メートルある場所にいるとわかると、ヒュウッと冷たい風がクーレーを震わせた。

「クーレー、ごめんね! あなたを取り戻すのまでに時間がかかちゃったけど……。今、助けるからね!」

 法代はクーレーに向かって叫んだ。タマームファーイズは二人のやり取りを目にして軽く拍手をする。

「素晴らしいやり取りだ。テレビドラマのよりもな」

 法代はタマームファーイズに視線を向けて、言い放つ。

「クーレーが妖精だからって捕まえてコレクションにしたり、他の人が飼っている珍しい動物や新種の花、天然記念物を奪ったりするマサカハサラが何を言っているの? 地球の人間として恥ずかしくないの?」

「の、法代くん……」

 秋水がマサカハサラに向かって怒りをぶつける法代をなだめる。法代の台詞を聞いて、タマームファーイズは答える。

「人間? 違うな。我々は百五十年前から存在している」

「……どういうこと?」

 法代、秋水、クーレーがマサカハサラの上層部の正体を聞いてシンとなる。

「我々は今から百五十年前にサウジアラビアの科学者によって誕生した錬金人間ホムンクルスだ。我やカウィキテフら幹部だけでなく、雑員の小男たちもな」

「ホムン……クルスだと? だけど、この時代の人間界ではとっくに古くて後れた存在だぞ?」

 秋水もマサカハサラの連中の正体を聞いてこう述べてきた。タマームファーイズは続けて言う。

「確かに今の時代では古くて後れた存在だろう。ホムンクルスや錬金術は。しかしな、このハヤワーンたちも錬金術によって生み出された存在だし、我々も同じ姿で百五十年間生きているのだ。現にこれを見るがいい」

 そう言ってタマームファーイズは自分の帯に差していた曲刀を鞘から抜き出し、右手で刀を持つと左腕を素早く斬りつけた。服の袖が破れ血が噴き出し、血がタマームファーイズの顔にかかる。

「ひっ……!!」

 法代とクーレーが自分で自分を傷つけたタマームファーイズを目にして悲鳴を上げて引くも、タマームファーイズの左腕の傷が蒸発するようにふさがり、あとかたもなく消えてしまったのだ。

「本当に人間ではないのだな。だけど、〈無〉から造られたホムンクルスが何故、妖精や世界中の珍しい生物や鉱物や植物をコレクションするのかが……」

 秋水がタマームファーイズに訊いてくると、彼はこう答えてきた。

「形あるもの、命あるもの、いつかは滅びる。ましてや美しくて珍しいものは滅ぶのにはもったいない。だから、我々が朽ちることもなく、老いらさることもなく、ありのままの形で収めることにしたのだ。いわばこれは我々の慈悲だ!」

 タマームファーイズの言葉を聞いて法代は怒りを募らせた。

「ありのまま? 慈悲? ふざけないでよ! 望んでもいないのに時の止まった場所で何日も何ヶ月も何年も閉じこめられていた方の気持ちがわからないの? クーレーだってそうよ! 人間界のことは全く知らないのにも関わらず、自分の意志でお父さんを探しに行って、マサカハサラに否応なしに捕まって……。自由を奪うことが慈悲なんて、わたしは思わない!!」

 法代の言葉を聞いてクーレーも秋水も法代の気持ちに同調する。

「人間や妖精は我々の思考に無理解か……。ハヤワーンよ、目の前の緑の妖精を生け捕りにしろ。そしてアザラシの父親よ、我々の本拠先はここより北西へ三キロ先の小山の中にある。そこで我々と妖精たちとの決着をつけようではないか」

「……クーレーをすぐには返してくれないということか。クーレー、すまない」

「父さん……」

 タマームファーイズは自分たちの本拠先を秋水に伝えると、クーレーは捕まったままヤタガラスのハヤワーンによってタマームファーイズも部下の小男に命じて、北西の方へ行ってしまった。

 ゴリラハヤワーンは法代に向かってくるも、法代もフレイルを持ち直してハヤワーンと戦うことに気を集中させた。


 保波市の北の公園でウシガエルのハヤワーンと戦っている比美歌はハァハァ、と肩を鳴らしまた〈音〉を使って戦う妖精のため声を発するたびにだんだんとかすれていくのを感じていた。

「ふふん、歌妖精セイレーンといえど、肝心の〈音〉が出なければただの口無し女じゃな。ハヤワーン、その娘を捕らえろ!」

 アサダハヤドがハヤワーンに命令し、ハヤワーンの長い舌が比美歌の方へ伸びてくる。

(捕まる!)

 比美歌は自分の危機を察する。その時、比美歌が以前ロケーション先で手に入れた〈進化の装具(エヴォリュシオン・ガジェット)〉のイヤーカフとフルートステッキが白い光を発し、その小さな光が重なって比美歌を包んで、ハヤワーンの舌が弾かれた。

「ゲグォァァ!!」

 ハヤワーンはその瞬時に自分の舌を通じてダメージが走り、ぐわんと仰向けにひっくり返ったのだった。

「あわっ、わああああ……!」

 アサダハヤドはハヤワーンがひっくり返ったのを目にして逃げようとしたが、ズウゥゥン……とハヤワーンが地べたに叩きつけられて地面が揺れた。

「今だ" 異形に化えられた生命よ、かつての姿に戻れ。セイレーン=クリアパッション!!」

 比美歌がフルートステッキの先端でト音記号を描いてト音記号をから白い光の波動が発せられて、ウシガエルのハヤワーンとハヤワーンも両脚を挟まれたアサダハヤドはセイレーン=クリアパッションを受けて白光に包まれて光が弾けると、比美歌は予想もしていなかったものを目にして仰天する。

 ウシガエルのハヤワーンは比美歌の攻撃を受けて元のウシガエルになったのに対し、アサダハヤドは体が塵と化し、服だけを残して風化していったのだった。

「……どういうこと? マサカハサラの幹部は人間じゃなかったの?」

 比美歌はアサダハヤドの最後を目にして疑問に思うも、亡き母と父の〈想い出場所〉から手に入れた〈進化の装具〉のイヤーカフがピンチになった自分に力を与えてくれたと確信したのだった。


 保波市の東の総合公園の駐車場でハネカクシのハヤワーンと戦う炎寿はハヤワーンの毒気のある体に触れまいと攻めと回避を繰り返し続けてきたために体力が浪費し、また左ひざをケガしたために追いつめられるのも時間の問題と察していた。

(くっ……。左ひざさえケガしてなければ……!)

 発火攻撃を発動させてもハヤワーンはすぐに攻撃を避けてしまうので、どうしたらいいものかと剣を杖にして左手でひざを抑えていた。するとハヤワーンが炎寿の上にのしかかろうとしてきた。

「やばっ……!」

 炎寿は両手がふさがっていたため、攻撃が出来ないと目にして思わずまぶたを閉ざした。だが、炎寿の左足首のアンクレットが赤い光を発して、その光に押し出されてハヤワーンがひっくり返った。

「何だと?」

 アーキルラースも目の当たりの状況を見て光によってまぶたを閉ざし、赤い光に押し出されたハヤワーンが仰向けになって手足をジタバタさせた。炎寿も一度はこの形勢に目を丸くするが、今のうちにハヤワーンを倒すと決めた。

「バイパー=ヒートパージング!!」

 炎寿が剣に力を込めて緋色の炎を出し剣を天に掲げて円状に振るって、赤い波動がハヤワーンを包んだ。ハヤワーンは炎に包まれて燃えつきると黒い燃えカスと化した。

「次はお前がわたしとやるのか?」

 炎寿が離れていたアーキルラースに視線を向ける。

「ぐぬぅ……」

 アーキルラースは一歩下がるも隠し持っていた煙玉に火をつけて炎寿の目の前に叩きつけて、煙玉から白煙が盛大に噴き出す。

「うわっ」

 炎寿は白煙に包まれてけむたさのあまりまぶたを閉ざしてしまい剣を振り回して煙をかき出すが、アーキルラースの姿はなかった。

「逃げられたか……」

 その後で炎寿は以前ミスティシアの自分の〈想い出の場所〉で手に入れた〈進化の装具〉のアンクレットを目にして、さっきの自分のピンチに〈進化の装具〉が力を貸してくれたのか、と確かめたのであった。


 保波市の南で町中に現れたヘビクイワシのハヤワーンに安里は立ち向かうも、ハヤワーンを操るカウィキテフが逃げ遅れたおばあさんを人質に取り、安里は手が出せずにいた。

「どうする? 頭脳力にたけたリーダーのお前でも、人質が目の前にいちゃあ攻撃が出来ないだろう。降参しろ。さすれば人質は助けてやる」

 カウィキテフに言われて安里は三又槍をチャームに戻して、空手の状態になる。

「よしよし、素直にすればいいだけなんだから」

 そう言ってカウィキテフはハヤワーンに人質を地面に下すように指示を出し、おばあさんはアスファルトの地面に下される。

「だ、大丈夫ですか?」

 安里はおばあさんに駆け寄り、おばあさんは「あ、ありがとう」と安里に礼を言った処、カウィキテフがハヤワーンに命令を出し、ハヤワーンが駆け出してきて、安里はそれに気づくとおばあさんを担ぎ上げて走って逃げだした。

「ちょっと、聞いてないわよ!」

「鬼ごっこの方が捕まえごたえがあると思ってな!」

 カウィキテフが安里に言う。アクアティックファイターになれば身体能力は上がるが、無関係の人を巻き添えにする訳には行かないと安里は考えながら逃走する。ふと安里は神社を見つけて、そこに方向転換しておばあさんを境内の中に隠した。

「ここにいて下さい」

「は、はい」

 安里はおばあさんを境内の中に入れると、

保波市の南で町中に現れたヘビクイワシのハヤワーンに安里は立ち向かうも、ハヤワーンを操るカウィキテフが逃げ遅れたおばあさんを人質に取り、安里は手が出せずにいた。

「どうする? 頭脳力にたけたリーダーのお前でも、人質が目の前にいちゃあ攻撃が出来ないだろう。降参しろ。さすれば人質は助けてやる」

 カウィキテフに言われて安里は三又槍をチャームに戻して、空手の状態になる。

「よしよし、素直にすればいいだけなんだから」

 そう言ってカウィキテフはハヤワーンに人質を地面に下すように指示を出し、おばあさんはアスファルトの地面に下される。

「だ、大丈夫ですか?」

 安里はおばあさんに駆け寄り、おばあさんは「あ、ありがとう」と安里に礼を言った処、カウィキテフがハヤワーンに命令を出し、ハヤワーンが駆け出してきて、安里はそれに気づくとおばあさんを担ぎ上げて走って逃げだした。

「ちょっと、聞いてないわよ!」

「鬼ごっこの方が捕まえごたえがあると思ってな!」

 カウィキテフが安里に言う。アクアティックファイターになれば身体能力は上がるが、無関係の人を巻き添えにする訳には行かないと安里は考えながら逃走する。ふと安里は神社を見つけて、そこに方向転換しておばあさんを境内の中に隠した。

「ここにいて下さい」

「は、はい」

 安里はおばあさんを境内の中に入れると、再び三又槍を出して追いかけてきたハヤワーンに矛先を向けてくる。

「マーメイド=スプラッシュトルネード!!」

 安里は三又槍に光と水のエネルギーを集めて矛先から光を帯びた水竜巻を出してハヤワーンを攻撃してきた。バシャーッ、と光の水竜巻がハヤワーンの顔にかかって水圧によってハヤワーンが押されて、カウィキテフはその振動で振り落とされて石段の上に落下した。その時カウィキテフの左ほおと右手の甲がすりむけた。

 水浸しにされたハヤワーンは翼を広げて羽根矢を飛ばしてきた。安里は水の楔を出してきて羽根矢を防ぐも、ハヤワーンは次々羽根矢を安里に向けてきた。安里の腕や脚が羽根矢で傷ついて流血する。

 ハヤワーンが自分の指示がなくても安里にここまで痛手を負わせてくれたのを目にして、カウィキテフは嬉々となる。

「流石にその手負いじゃ無理だろう。潔く捕まってもらおうか」

 傷を負った安里を目にしてカウィキテフは笑い、ハヤワーンが安里に近づいてくる。

(傷さえ負ってなければ……。いや、傷ついても、わたしは戦わないと!!)

 そう思った時だった。安里の右腕にはめてあるリングブレスが淡い紫色の光を発し、そのまばゆさにハヤワーンもカウィキテフも境内の中に隠れているおばあさんにまぶたを閉ざした。

「な、何だぁ!?」

 カウィキテフは突然の出来事に何が何だかわからずに確かめることが出来ず、安里の衣服の裂け目や傷がふさがり、更に光を帯びた水流を三又槍にまとわせ、矛先をハヤワーンに向けて放つ。

「マーメイド=トリアイナスラスト!!」

 矛先から光と水の三本線が勢いよく放出され、ハヤワーンを包み込み、ハヤワーンは光と水に包まれて体が縮んで一羽のヘビクイワシの姿になった。

「く、くそ。ここは撤退しか……!」

 カウィキテフはその場から逃げ、安里も〈進化の装具〉のリングブレスのおかげで形勢逆転できたことに一息をついた。

 境内に隠したおばあさんもさっきの光で気を失っていたが、命は無事だった。


 保波市の西では法代がゴリラのハヤワーンと交戦中で、ゴリラのハヤワーンは地面を拳で叩き砕いてその破片を法代に向けて投げつけてきた。法代はエメラルド色の光の防壁、ウィーディッシュ=エナジーバリアで攻撃を防ぎ、ハヤワーンの周囲に海藻型エネルギーの綱ウィーディッシュ=エナジーバインドを無数で出して五つの海藻型エネルギーの綱はハヤワーンの四肢と胴を拘束させ、法代は今のうちだとジャンプして止めとなる技を発動させた。

「ウィーディッシュ=カタルシスオーラ!!」

 ハヤワーンを縛った海藻型エネルギーの綱からエメラルド色の光が激しく発せられ、ハヤワーンは体が縮んでいってゴリラの姿に戻った。

「あらっ」

 法代と秋水はハヤワーンの礎となったゴリラを目にして驚く。ゴリラは一メートル位の子ゴリラだったのだ。

「無理矢理親元から引き離されてハヤワーンにされてたんだわ。かわいそうに」

 法代が辺りを見回してキョロキョロしている子ゴリラを目にしていると、法代の懐に入れてあるシュピーシェルが鳴った。法代はシュピーシェルを取り出して上蓋を上げると、上蓋に安里の姿が映し出される。

『法代ちゃん、わたしと炎寿と比美歌ちゃんはハヤワーンをやっつけたわ。法代ちゃんは?』

「あ、はい。わたしもハヤワーンを元の子ゴリラに戻したところです。だけども……」

 法代は安里にマサカハサラの長であるタマームファーイズはクーレーを連れて、スーパー丸木屋より北方の山で待っていると告げて去っていったと伝える。

『そうか、そこに行けばクーレーとマサカハサラの本拠点があるのね。だけど、今から間に合うかしら……』

 安里がそう呟いた時だった。それぞれ別の場所にいた安里・比美歌・炎寿の体につけていた〈進化の装具〉が個人色の光を発して彼女たちは保波市の東西南北の各所から北西の森林地帯の小山へ飛ばされたのだった。

「きっ、消えた……」

 法代が突然光に包まれた後、姿を消したのを目にして秋水は突っ立っていた。


「ここは……。みんな、何故ここに来られたんだ!?」

 炎寿が自分と同じ場所に仲間たちが目の前にいることに驚く。

「わたしも何が何だか……」

 比美歌が言うと安里がリングブレスを目にして仲間に言った。

「もしかして〈進化の装具〉がわたしたちをここまで運んできてくれたんじゃ……」

 法代も自分の胸元についたブローチをさわってかすかに温かいことを知ると、森の中に一台の城塞のある飛行艇が泊まっているのを見つけた。

「みんな、あれを……。あれがマサカハサラの本拠点なんじゃ……」

 安里たちも小山のふもとの更地に中東風の建物があるのを見て察する。

「みんな行こう。クーレーを助けて、マサカハサラに囚われた生き物や宝を戻してあげよう」

 安里が仲間たちに向かって言い、炎寿も比美歌も法代もうなずく。

 空はいつの間にか灰色の空に覆われており、今にも嵐が起こりそうだった。