1弾・8話マリーノ王国での決戦


 

 留美たちは虹色の光と渦潮の空間を流れるように移動し、空間の先に青い一粒の円が見えてくると、空間から出て上も下も左も右も明るい青の世界に着く。灰色のや白い岩には赤や橙などのサンゴが生え、大小のフジツボ、ワカメやコンブなどの海藻が群れて自生しており、白い砂で埋め尽くされている海の中にいた。

「ここが留美ちゃんたちの出身地のミスティシアの海の中? よく思ったら、水の中なのに呼吸ができる」

「ほんとだ。何ででしょう?」

「わたしも水の中にいるのに全然苦しくない……」

 歩歌・法代・フェルネは自分たちが水の中にいながら会話も呼吸もできて、火を使うフェルネに至っては水には弱いはずなのに平気なのかと不思議がる。

「水の妖精の力に目覚めた者は人間であれ、火の力を持つ者であれ、水中活動に適した能力を得られるのですぞ」

 ジザイが歩歌に説明する。

「わたしもマリーノ王国に戻るから人魚の姿に戻ろう」

 そう言って留美は自分の脚に変化自在法をかけて、二本の脚から紫のウロコと尾ひれの人魚姿になる。

「ここはマリーノ王国の外れにある無住民域。ここから北へ進めばマリーノ王国です」

 ブリーゼが歩歌と法代とフェルネに言うと、留美が先頭に立つ。留美は尾ひれをくねらせ、歩歌と法代、フェルネも足を上下に動かして泳ぐ。マリーノ王国に着くまでの経路は地球では見慣れないものがたくさんあった。

 大樹のようなサンゴ、法代と同じ背丈の海藻は陸上の葦のようで、小さな二枚貝や小エビ、ハギに似た魚が大海藻の茂みに棲んでおり、二メートルはあるシャコ貝が上貝をパクパクさせていたり、白いウロコに金のヒレのウナギ、ミントグリーンのスズメダイの群れ、縞模様やまだら模様の大きな魚……と神秘的であった。

 大海藻の茂みが終わると、留美たちの前に貝殻や土砂やサンゴを寄せ集めた丸みを帯びた家屋がいくつも並び、その中心に巨大な巻貝の形をした建物のある国――マリーノ王国に着いたのだった。

 道や円状に造られた広場、家屋の窓からは半透明の水晶に閉じ込められていたマリーノ王国の住民である水の妖精たちがいた。留美と同じ下半身が魚の人魚、歩歌と同じく背中に海鳥の翼を持つセイレーン、アザラシの皮をかぶったローン、紫や深緑などの海藻模様の衣服を着ているのは法代と同じウィーディッシュ。他にもラッコのような妖精、エビやカニなどの甲殻類を人型にしたような妖精と多種多様だった。どの妖精も目を大きく見開いて何があったかというような表情をしていた。

 留美は他の家屋よりふた回り大きい家屋のある域に入る。そこは貴族の住まいや商家などの大きい店がある城下町だった。店の前や軒先には布や靴、鏡や装身具、数珠繋ぎの貝や小魚などが置かれていた。海賊団が来るまでは活気があふれていたと留美は懐かしく思った。

 やたらと静かなマリーノ王国の町中を通ると、ドレッドハデスの声が脳内に響く。

『ルミエーラ及び他の水の妖精の勇士よ。わたしたちはマリーノ王国の王城、女王の間にいる。早く来るがいい』

 留美たちは王国の中心の城に目をやり、そこへ向かう。

 マリーノ王城は鎧かぶとに手槍を持つ男人魚の門番がやはり万年水晶に閉じ込められており、門の戸は開いており、中に入ると真っ白な天井と壁、床は青がかった白で、中は王城仕えの学者や従者、女官や軍兵たちが万年水晶に閉じ込められていた。壁には夜になると光を発する海ゴケが透明な球体の中に入っていて、それがランプの役割を担っていた。

 王城はらせん状の造りで、中心が吹き抜けで図書室や衣装部屋などの石の扉があり、留美たちはらせん状に昇っていく。途中で留美は二人の人魚を目にする。一人は男で金髪に紫の眼で下半身が銀色のウロコとヒレで暗い灰色の長衣をまとっていた。もう一人が女の人魚で深いピンク色の長いウェーブヘアに水色の眼、薄紫色のウロコとヒレを持つすみれ色のドレスを着た留美によく似た人魚であった。

「お父さま、お母さま……」

 その二人は留美の両親だった。

「えっ、この二人が留美ちゃんのお父さんとお母さん!? そういえば留美ちゃんに似ている……」

 歩歌が留美とその両親を見比べて納得する。

「ルミエーラさまの両親のムース伯爵とエトワール夫人です。わたしとブリーゼはルミエーラさまが生まれる前から伯爵さまに仕えていた」

 ジザイが歩歌と法代とフェルネに教える。留美は久しぶりに両親を見ると、みんなに言った。

「女王の間へ早く向かおう!」

 留美たちは再び城の中を昇り、上部にある扉の前へ着く。城の中の扉は下部は銅色、中部は銀色、女王の間は金色だった。留美は観音開きになっている扉を押すと、天井が高く扉の真正面に琥珀を散りばめた白石の玉座にはマリーノ王国の女王が玉座に座ったまま万年水晶の中に閉じ込められていた。

「女王さま……」

 女王は尾ひれまである青緑の巻き毛に真珠色の肌、背は一八〇センチを越えて大きく、尾ひれとウロコは瑠璃色、眼も深い青で小高い鼻と細長の唇であることから美人であり、真珠とオパールを散りばめた水色のドレスをまとい、頭にはダイヤモンドをはめ込んだ金の冠を頂いていた。やはり女王も目を大きく開いて口を開けていた。

「何ていうか、恐ろしいものを見た形相って感じですね……」

 法代が女王の表情を見て呟く。その時、留美・フェルネ・ジザイ・ブリーゼが気配を感じ取り、すると女王の間の中心に闇のひずみが浮き出て、そこから白い衣服と銀色の義手の男、大きな口に男よりも大きな背丈の巨漢、赤と白のドレスの女、そして青いウロコ模様の衣服の青年が現れる。ドレッダー海賊団がそろって出てきたのだ。

「ドレッドハデス船長……」

 フェルネは白い衣服の長身の男を見て呟く。歩歌と法代も身構える。

「お前が妖精側に寝返ったのならば、わたしの部下ではない。お前には他の者とここでくたばってもらう。そして……」

 ドレッドハデスはフェルネにそう告げると、留美・歩歌・法代の方に目を向ける。

「初めまして、セイレーンとウィーディッシュの勇士よ。わたしはドレッダー海賊団長の船長、ドレッドハデスだ。そして久しぶりだな、ルミエーラ」

 ドレッドハデスは留美たちにあいさつをする。品のあるあいさつがかえって恐怖をまさせた。留美はドレッドハデスを見るとキッと見据えて発声する。

「女王さまやお父さまやお母さま、国のみんなを元に戻して!」

 留美はドレッドハデスに言った。ドレッドハデスはそれを聞いて鼻で笑う。

「それはならぬ。マリーノ王国は女王も国民もわたしに反する者だから万年水晶に閉じ込めた。わたしはいずれマリーノ王国、いやミスティシアの支配者になるためにだ。ほんのわずかでも反する者がいれば最後まで潰すだけだ。お前たち……」

 ハデスはグロワーたちに命じ、三人が前に出る。

「わたしはルミエーラを。お前たちも裏切り者と人間界の出を倒せ」

「御意」

 ジザイとブリーゼは女王の玉座の方に隠れて四人揃った水の妖精の勇士とドレッダー海賊団の戦いを見守る。

 グロワーは青白い光の波動を両手から出して歩歌に向けて放つ。歩歌は音符型のエネルギーのセイレーン・ビューティーサウンドを発して四分や八分などの音符がグロワーの放った光の玉とぶつかって弾ける。

 シェラールは背中からクラゲの触手を法代に向けて伸ばしてくる。法代はエメラルド色の波動を出して盾にするウィーディッシュ・エナジーバリアを出して防ぐ。シェラールは触手を弾かれると法代の真上から触手を向けて絡みつこうとしたが、法代は気配を察してシェラールの触手を両手でつかんで勢いよく力を出してシェラールを放り投げてシェラールは天井近くの屋根に叩きつけられる。

 フェルネはトラッパーと戦い、トラッパーは水色の針型エネルギーを出してフェルネに向けて放つ。フェルネは水の妖精の勇士に目覚めてからは口から火の玉や毒息を出せなくなってしまい、トラッパーの技をジャンプでよけて新しい技を思い浮かべて反撃する。

「バイパー・フレイムスターター!」

 フェルネは指を弾いてトラッパーの周囲をに火を起こし、トラッパーの服の袖やすそに火がついて燃える。

「うわぁ!」

 トラッパーは床を転がって火を消し、トラッパーの服に黒い焦げ穴と煙が残る。

「水の妖精の勇士になっても炎が使えるなんて……。ますます始末する気が湧いてきたよ!」

 トラッパーはフェルネに怒りを向けて目つきを変える。

 留美はドレッドハデスと戦い、ハデスは留美の周囲に泡を発生させて、その泡はドレッドハデスの意志で弾けると衝撃を起こすものだった。留美はその勢いで床に叩きつけられる。他にもドレッドハデスは懐から何の変哲もない石ころを出してそれを自分の口元に持ってきて紫色の息を吹きかけた。すると石は一匹の白がかった灰色の多足生物グソクムシのような形に変化した。

(ただの石が不思議生物に変わった。シデーモはファンタトレジャーがドレッドハデスによって姿形が変わっていたんだ)

 留美はドレッドハデスの能力を目にして仰天していると、グソクムシが留美に飛びついてきた。複数の脚で留美の右腕につかまりギザギザの口で留美の腕を噛み付こうとしてきた。

「ルミエーラさま!!」

 安全な場所に隠れていたジザイとブリーゼが叫ぶ。だが留美は思いがけない行動をとったのだ。留美は空いた左手でグソクムシの背をつかんで無理やり引っペがした。無理にはがしたため右腕にいくつかの引っかき傷が出来てしまったが、そのグソクムシをドレッドハデスの胸になげつけたのだ。

「ぐあっ!!」

 ドレッドハデスは自身が生み出したグソクムシによって噛まれて唸る。

「ドレッドハデス船長!!」

 グロワーがドレッドハデスの様子を見て歩歌から目を離してしまい、歩歌は音の攻撃と音波を同時に放つセイレーン・クレッシェンドシンフォニーをグロワーに向けて、グロワーは音の攻撃と音波を受けて柱にぶつかる。グロワーだけでなくシェラールやトラッパーもドレッドハデスに目を向けてしまい、法代はエメラルド色の波動を海藻型の拘束具にして出すウィーディッシュ・エナジーバインドを出してシェラールを縛り更に海藻型拘束具をつかんでシェラールを振り回して壁に叩きつけた。

「おのれ、ルミエーラ

 トラッパーがフェルネから留美に視線を向けた時、フェルネが先程の技とは別の技をトラッパーに向けて放つ。

「バイパー・ヒートエクスプロード!!」

 フェルネは相手の周囲の音頭を上げて熱気を放って吹き飛ばす技を発動させ、トラッパーはフェルネの技を受けて熱さのあまり転がり倒れる。

「うわあああ!!」

 影から留美たち四人と海賊たちの戦いを見ているブリーゼとジザイは留美たちが海賊たちを押しているのを見て安心する。

「ルミエーラさまとお仲間があんなにお強く……」

「強くなったのは四人そろったからではない。ルミエーラさまのマリーノ王国を取り戻したい意思、歩歌殿と法代殿のルミエーラさまの願いを叶えてあげたいという思いやり、そしてフェルネの償いの情……。それらが全部、水の妖精の勇士の源となっているのだ!」

 部下たちが水の妖精の勇士に押されているのを目にしたドレッドハデスは冷たい眼で留美たちを見つめる。

「ルミエーラ、出来が良すぎたために他の妖精からひがまれ妬まれていたお前がここまでやるとはな……」

 法代は先程のグソクムシによって傷ついた留美の腕を自身の治癒能力で治し、留美はドレッドハデスに向かって言った。

「わたしだって、人間界に逃げてそこで暮らしたってひがまれて妬まれて友達なんて持たないだろうって思っていたわ。でも水の妖精の勇士になってから、歩歌ちゃんや法代ちゃん、そしてフェルネと出会って仲間が出来た!」

 留美のセリフを聞いてドレッドハデスは吐き捨てるように言った。

「ふん、よくもまあ、そんな綺麗事が言えるものだな、ルミエーラ。だが……」

 するとドレッドハデスは右手を高く上げてその掌から紫がかった黒い波動が湧き出る。黒い波動はグロワー、シェラール、トラッパーにまとわりつく。

「せっ、船長、一体何を!?」

 グロワーがドレッドハデスが放った黒い波動に巻きつかれてなぜ自分たちにと言うように叫んだ。

「わたしが与えた力、返してもらうぞ」

 ドレッドハデスはトラッパー、シェラール、グロワーに言うと、三人は黒い波動に包まれて断末魔を上げる。

「せっ、船長ぉぉぉ……!!」

 ドレッドハデスが部下たちを黒い波動に包んだのを目にして、留美たちは呆然する。

「ちょ、何で自分の仲間を……!?」

 歩歌がドレッドハデスに尋ねるとドレッドハデスはせせら笑う。

「仲間? 何を言っている。グロワーたちはわたしの手足となるためにわたしが創り上げた部下にすぎぬ。わたしの力をこいつらにほんの少し与えていただけだ」

 黒い波動に包まれていたグロワー、シェラール、トラッパーは体がしぼむように縮、それぞれ黄土色のチョウチンアンコウ、赤と白のクラゲ、鋭い歯が並ぶ大口の青い魚に変わってドレッドハデスを見ると逃げ出して王城から出て行ってしまった。

「グロワーたちは不思議生物が何かの恐ろしい力で変わっていたなんて……」

 かつて海賊だったフェルネはグロワーたちの本当の姿を見て呟く。さっきまで知らなかったのだから。更にドレッドハデスの体に異変が起こってドレッドハデスの体がだんだん大きくなって手足や頭部も変化していって王城の天井を破って巨大な姿に変貌した。ドレッドハデスの変貌で壊れ、海の景色が見える天井から出た留美たちはドレッドハデスの新しい姿を見て仰天する。

 ドレッドハデスは先程の人間とも妖精とも似つかない姿に変わっており、頭部から腰まで白い外殻に覆われており、二本の脚の代わりにエビやヤドカリを思わせる多脚類の脚にかわっていたのだ。

「これがわたしの本当の姿だ!」

 ドレッドハデスは四人の水の妖精の勇士に向かって叫ぶ。

「ななな、なんと禍々しくて恐ろしい……」

 ブリーゼとジザイはドレッドハデスの姿を見て恐れおののく。

「これがドレッドハデスの本当の姿……!!」

 留美はドレッドハデスを見て溜飲する。

「どう見ても強そうじゃないですか!」

 法代が弱音を吐くように言うと、ドレッドハデスが言った。

「水の妖精の勇士たちよ、来ないのならこっちから行くぞ」

 ドレッドハデスが左手を向けてきて白い光線を放ってきた。

「危ない!」

 留美たちは二人ずる左右に分かれてよけると、泳いでいた一匹のコブダイに似た魚がドレッドハデスの放った光線を受けて透明な結晶に包まれて動かなくなり、そのまま沈んでいった。コブダイが結晶に包まれたのを目にして歩歌が震える声で尋ねる。

「ま、まさかこれで留美ちゃんのお父さんやお母さん、国のみんなを万年水晶に閉じ込めて……」

「そうだ。左手は義手ではなく万年水晶を出す効果を自分に向けないようにするためのカバーだ。お前たちも万年水晶に閉じ込めてわたしの戦艦の司令室に飾ってやろう!」

 そう言ってドレッドハデスは左手から白い光線を放って留美たちに向ける。ドレッドハデスの攻撃から逃れるために留美たちは右往左往に避ける。天井に孔の空いた王城からジザイとブリーゼは当たったら万年水晶に閉じ込められそうになる留美たち四人の様子を見つめる。

 フェルネにドレッドハデスの白い光線が当たりそうになった時、法代がエメラルド色の波動を出して防御するウィーディッシュ・エナジーバリアを出してフェルネを助け、エナジーバリアは結晶化して海底に沈んでいく。

「技でも水晶になっちゃうなんて……」

 法代のエナジーバリアが水晶になったのを見て目にして歩歌は身震いする。留美は平気で私利私欲のために他者を苦しめるドレッドハデスに聞いてくる。

「あなたはわたしの父や母、女王さまや国のみんなを平気で万年水晶に閉じ込め、海底の国や島国の宝を奪っていられるの!? あなたの身に何があったのよ?」

 留美は何故だらけの気持ちをぶちまけるかのようにドレッドハデスに言った。ドレッドハデスは哀しい過去を持っていて、海賊になったのだろうと思った。

「強さと地位だ」

 ドレッドハデスはクスリと笑いながら答える。

「どういうこと……?」

 歩歌と法代とフェルネはドレッドハデスの率直な答えに首をかしげる。

「わたしもグロワーやシェラールやトラッパーと同じ海底に棲む不思議生物の一匹だった。わたしの生まれは暗くて冷たい辺りに生まれたため、妖精たちに仕えたり他の不思議生物と生活するには難しかった。わたしは強さと地位が欲しかった。どんな者にも勝てる強さ、誰もわたしに逆らえない地位が欲しかった。

 わたしはある時、初代マリーノ王国の女王が災いをミスティシアに起こさないために封印したという『深き悪』の力である黒い珠を禁区である祠に入り、警備が手薄になっているところを狙って呑み込み、生物を万年水晶に閉じ込め、不思議生物を人型に変えて、無生物をシデーモにする力を手に入れ、最終的にはミスティシアとヒューマトピア、いや数多の世界を手に入れる! それがわたしの欲しいものだ!」

 ドレッドハデスの言葉を聞いて、歩歌・法代・フェルネは呆然する。

「なんて人なの……」

「地位と強さを追いかけた故に他の生き物を利用するなんて……」

「わたしは船長に踊らされていたのか……」

 だが留美は違い、ドレッドハデスに言った。

「地位と強さが欲しかったからって、『深き悪』の入った珠を手に入れて、マリーノ王国の自由を奪って、他の不思議生物を部下にして、怪物を創る力を手に入れて、多くの世界を支配しようなんて……。そんなの勝手すぎる!!」

「何だとぉ!? お前だって、わたしと同じように独りだったではないか、ルミエーラ?」

 ドレッドハデスは留美に言い返す。

「わたしだって、最初は仲間を探すくらいなら一人で戦ってファンタトレジャーを全部取り返して、海賊を倒してマリーノ王国を取り戻そうと思っていたわよ。

 だけどわたしはそうじゃなかった」

 留美の台詞を聞いて歩歌、法代、フェルネ、ブリーゼ、ジザイは留美は良い方に変わっていったと感じる。

「わたしは一人でいる留美ちゃんを寂しさから出してあげようと、最初は上手くいかなかったけれど、留美ちゃんはようやく今のようになれた……」

 歩歌が留美と同じ位置に出る。

「わたしが生まれつき傷の治りが早いのは留美さんから妖精の力があったからなのには正直信じられなかったけど、もう今は受け入れています」

 法代も留美と同じ位置に出る。

「わたしはルミエーラと出会ってから、ルミエーラに勝つことばかり考えてきた。しかし、負けてから手に入るもののあったとようやく気づけた……」

 フェルネが留美の隣に立つ。するとファンタトレジャーが四人の周りに集まって、留美たちの体がそれぞれ紫・白・緑・赤の光に包まれ、四人は両手を上に掲げて四色の巨大な光の玉がドレッドハデスの前に現れる。

「アクアティック・カルテット・フォース!!」

 留美・歩歌・法代・フェルネが叫んだ時、四色の光の玉はドレッドハデスを包み込み、ドレッドハデスは断末魔を上げていった。

「ぐおおおおおっ」

 光の玉が爆ぜると、紫・白・緑・赤の光の粒子がマリーノ王国全体に降り注ぎ、壊れた王城が元通りになり、更に妖精たちや不思議生物を閉じ込めている万年水晶が砕けて、マリーノ王国の住民が次々に解放されていく。もちろん王城の中にいる妖精たちも万年水晶が砕けて、留美の両親のムース伯爵とエトワール夫人、女王も万年水晶から解放される。

「これは……どうしたことか?」

「みんな、元通りだわ!」

 ドレッドハデスの力から解放された妖精たちや不思議生物は盛大に喜んでいた。

「水の妖精の勇士だ! 勇士たちが悪を撃ち破ってくれたんだ!」

「水の妖精の勇士、万歳!!」

 男も女も老いも若きもマリーノ王国が恐怖から解放されたことに掲声を上げていた。

「お父さま、お母さま!」

 ムース伯爵とエトワール夫人は振り向くと、そこには水の妖精の勇士姿の娘、ルミエーラが仲間三人を率いているのを目にした。

「ようやく……、元に戻ることができた!」

 ルミエーラは目をうるわせて両親に飛びついた。ムース伯爵とエトワール夫人は娘を抱きしめた。

「よく頑張った、ルミエーラ……」

「仲間も持つことが出来たのね、そこが嬉しいわ……」

 歩歌も法代もフェルネもルミエーラと両親の再会を見守っていた。