オメガとユープシロン星域を除く全ての星域からテーラ星の魔神軍を退けた連合軍派遣部隊はオールセイヴァー号に搭乗して連合軍本部のある星域にワープしてから、全速前進で連合軍本部基地に向かっていった。 「テーラ星の魔神軍団め! 他の星域の主要惑星に自分の尖兵を送り込んで侵略させている間に本部基地を狙うとは……!」 アジェンナと同じ部隊の司令官が吐き捨てるようにくやしがった。それと同時に操縦席のモニターの一つにブリックと同じ舞台の司令官の顔が映し出される。 『ですが、本部基地には歴戦の勇士でワンダリングス艦長のグランタス殿がいるではありませんか。彼がいるなら総帥は無事なのでは?」 「だが、グランタス殿は武人とはいえ、老齢の身。生き延びれたとしても戦士たちの指揮が限度……」 アジェンナの部隊の司令官が呟いた。宇宙空間では六機のオールセイヴァー号、ヒートリーグたちにテクロイドの宇宙艇が連合軍本部へと進路を向けていた。 リブサーナたちワンダリングスの面々がいるオールセイヴァー号の中では傷の軽い兵士たちも参戦して、創造神の依代であるリブサーナたちも出来れば連合軍本部の増援に出ようと考えていた。 「艦長、連合軍本部基地のみんな、まだ無事でいて……」 リブサーナは両手を合わせて祈っていた。自分の星の主神でも、全宇宙を司る神でも。 連合軍本部基地内では、灰白色の硝煙と特殊合金のシャッターや壁や床や天井には引っ掻いたような傷がいくつも走り、青と白の軍服姿の連合軍兵がテーラ星の魔神軍の侵略兵を打ち取り、誰もが傷つき不動になっていた。 グランタス艦長はスピリットウェーブの使い手であるエルダーンに苦戦しており、エルダーンもスピリットウェーブを使う度に自身の体にガタがついてきていて息も荒くなっていた。 「やるな、歴戦の勇士、グランタス=ド=インデス……! あんたの故郷も支配したが、結局は連合軍兵とインデス星の軍隊の共同戦線のため、侵略に失敗してしまったが……。あんたの首をインデス星王家に見せたら、どうなるか……」 エルダーンは精神エネルギーを無駄に浪費しないために指先にわずかなスピリットウェーブを作動させて、右人差し指をグランタス艦長の左二の腕に細い光線状のスピリットウェーブが当たり、グランタス艦長の左肩の表面が刃物で切れ目を入れたように焦げたのだ。 「うぐっ」 グランタス艦長の左腕が傷ついたことでグランタス艦長は持っている戦斧を落としてしまい、金属の落下音と同時にグランタス艦長はひざまづく。 「軽いケガを負わせれば、俺に反撃しなくなるからな……。俺も、それそろ休まないとヤバいしな……」 エルダーンが傷ついたグランタス艦長に歩み寄ろうとした時だった。エルダーンの後ろにあるシャッターにガン、ガンと音が入り、誰かが特殊合金のシャッターを破ろうとしているのがわかった。 「チッ……」 エルダーンはグランタス艦長の戦斧を拾い、これでグランタス艦長を斬首しようとし、グランタス艦長の首を"あのお方"に見せようとしたところ、グランタス艦長が目にした時まぶたを固く閉ざしていた。 その時、ギュインッという金属の鋭い音がしてエルダーンは持っていた戦斧の刃に孔が空いてそこが砕け、左胸にレーザーが当てられたのを察すると、幸い急所が外れていて胸の装甲に孔が空いているのを目にした。 「お前は……!」 エルダーンは自分を撃ってきた者を目にして呟く。総帥の守衛をしていたヘスティアが総帥室から様子を覗いて、グランタス艦長の危機を目にするとグランタス艦長を救うため、携帯銃を向けて撃ち放ったのだ。 「やるな、姐さん。ただの裏方業務の役回りかと思っていたら……」 エルダーンはヘスティアを目にして軽く笑うも、近くに自分の軍の宇宙艇が来ていることを察すると、左手首につけていた万能通信機のワープ装置を作動させて、影のように消えたのだった。 「ぐ、グランタスさん!」 ヘスティアは負傷したグランタス艦長に駆け寄る。それと同時にシャッターが割れるような音を立てて、赤い装甲の創造神ソルトゥーに体を貸したドリッド、青い装甲の創造神スプレジェニオに体を貸したブリックがそれぞれの炎熱と流水を使って、金属のシャッターを破壊したのだった。 「か、かんちょお?」 若葉色の巻き毛に薄翅を背に持つフェリアス星の幼女ピリンがグランタス艦長に駆け寄る。 「わしは大丈夫だ、ピリン。流石にこの体だとこたえたわい……」 ドリッドとブリックは創造神と意識を入れ替えると、元の赤い体の虫型異星人と銀髪のレプリカントの姿に戻る。それからリブサーナとアジェンナもシャッターの孔から入り込んでくる。その時だった。五柱の創造神の依代となったリブサーナたちワンダリングスの艦員は最後の創造神、雷心のブリツァールの気を感じ取ったのだ。リブサーナたちの持つ魂の結晶はブレスレットなどのアクセサリーにして収め、リツァールの魂の結晶は自分たちの近くにあると感じ取ったのだ。 「あら、これは……!」 ヘスティアが通路の柱の近くにあった小さな小箱を手にした。その小箱は掌より大きめで蓋に孔が空いており、その孔から黄金色の輝きがかすかに放たれていたのだ。 「この気配は……、ブリツァール?」 創造神がリブサーナたちの体を借りて口にした。リブサーナたちの変わり様にヘスティアは驚くも、グランタス艦長がヘスティアに言った。 「ああ、後で説明するわい」 宇宙連合軍の派遣部隊は連合軍本部基地にワンダリングスと負傷した兵士を送った後、各星域の主要以外の惑星の侵略を止めるためにテーラ星の魔神軍を止めるためにオールセイヴァー号をその星域へ飛ばしていった。連合軍の補佐としてヒートリーグたちテクロイドたちも敵陣へ向かっていった。 連合軍本部基地はテーラ星魔神軍団の侵略兵により内部のシャッターや壁は傷ついていたが、自分の体液と身近な粉末で宇宙空間に放り出されないための応急処置をしてくれた軟体型異星人の連合軍兵がいたので助かった。 武器も燃料も食糧も無事であったものの、多くの連合軍兵が傷ついたため、月生のセーンムルゥの依代となったピリンが負傷した連合軍兵を治していったが、ピリンにも体に負担が出るため一日三〇人までと決まっていた。軽傷者や常人は基地の修繕に取り掛かったり、近くの惑星へ食料や医療薬品などの回収に派遣されたりとしていた。 リブサーナはドリッドが派遣された星域にあるウェールズ星で大統領子息のハミルトンも来ていたことに驚いたが、彼も宇宙最大の危機に自分も何かできないかとドリッドに頼み込んで宇宙連合軍本部基地にやって来たのだという。 「え? いいの? お父さんやお兄さんたちに無断で来ちゃって……」 「これは僕自身の判断だ。それに……」 「それに何?」 リブサーナが尋ねてきた処でハミルトンは口をつぐんだ。 「いや、これは僕やみんなに落ち着きが出たら話すよ。ええと、この医薬品をエリアB7に運べばいいんだね?」 ハミルトンが医薬品の紙箱を持ってリブサーナたちに告げて去っていった。どの連合軍兵もセーンムルゥの回復法のおかげで骨が折れていたり傷が膿んでいたのが跡形もなかったように治って、医薬品や食糧の回収、基地の修繕に参加した。 総帥たちはというと、グランタス艦長も含めてワンダリングスを会議室に集めて最後の創造神リツァールの依代になるのは誰かと話し合っていた。連合軍将校の中に金毛に二重円の紋と長い尾を持つ獣型異星人の将校がタブレット端末を持って自分の星に伝わる創造神リツァールの情報を読みあげて報告していた。会議室の巨大モニターにタブレット端末のデータ映像が映し出される。 「我が星リージュ星に三日三晩、空が黒雲で曇り、雲が一度に何十回も起こっていたという記述が古暦三二四年に残されております。四日目の朝に雷が止み、空の雲がなくなって白い晴天が現れたのち、金色の球が空の彼方へ去っていったという当時の住民の記録も残されております」 リージュ星の将校が翻訳機を使ってワンダリングスでもわかる言語で報告する。総帥もワンダリングスの面々も彼の言葉に耳を傾けていた。 「早くいえば、リツァールは創造神の中で物理的な最強の性能を誇っているということです。雷電の他にも心を司る創造神というのは、リツァールの依代に相応しいのは精神力の強き者といわれているようです」 リージュ星将校が語るリツァールのわかる情報を耳にして、会議室にいる者たちは沈黙する。 「最後の六柱目とはいえ、リツァールはテーラ星魔神に立ち向かうための切り札ということか」 ブリックが言った。 「そのリツァールって、よっぽど手のかかる創造神みたいなのかしら」 アジェンナも疑問を口にする。 「ほら、よく言うじゃないですか。『残り物には福がある』って。ですから、リツァールはとても頼れる創造神なんですよ」 会議室でみんなの給湯を担っていたヘスティアが言った。 「だけど、テーラ星魔神軍団は偶然見つけたリツァールの魂の結晶をこの創造神同士の交信を封じる箱の中に入れられていたとは。おそらく先程のテーラ星魔神軍の兵士が所持していた処、戦いのさ中に落としていったのだろう」 総帥は敵方が何故リツァールの魂の結晶を所有していて連合軍本部基地に落ちていたのかのいきさつを推測した。 「わしが追い詰められていたところ、このお嬢さんがエルダーンに銃口を向けていたな。エルダーンが撃たれた拍子にリツァールの結晶を落としていったのだろう」 グランタス艦長がヘスティアに助けられたことを皆に教えると、ヘスティアは照れだす。 「あっ、いいえ、そのう……。わたしも必死だったので……」 「だけど、あなたがリツァールの依代になれたら、創造神は六柱揃ったことになって、テーラ星魔神軍に勝てるわ!」 リブサーナはヘスティアに機体の視線を向けるが、ヘスティアは口をつぐんで沈黙する。 「だけど、創造神の依代になる宇宙人種がいたら魂の結晶が反応するはずよ。どう見てもこの子は……」 アジェンナがリブサーナに創造神の依代の適合者についてを教えてきた。 「あ、そうか。となると……、他に誰がいるというの?」 一方でテーラ星魔神軍の戦艦の一室では。昆虫の繭にも似たエネルギーポッドが一列に一〇台も並ぶリフレッシュルームではエネルギーポッドから出てきて新しい服に着替えたエルダーンが先程の宇宙移動と戦闘の疲労を癒すために一時休眠を終えた所であった。 「くそっ、最後の創造神の魂の結晶を敵陣に落としてしまうとは……」 リフレッシュルームに入った時に気づいたがもう戻れなかった。宇宙連合軍本部基地から数万光年先の宇宙空間にいるとはいえ、取りに行きたくても行けない状況であった。 「だが、宇宙には一生が千年あっても、数え切れることの出来ない宇宙人種がいるってんだ。創造神の依代なんて、そう簡単に見つからないさ」 そう呟いてエルダーンは通路を歩いて、司令室に足を踏み入れる。左右開閉式の扉をくぐり、大画面のモニターのあるそこにはベラサピアとリークスダラーとテーラ星魔神軍所属するレプリカントのヴィルクがそろっていた。 大画面に白い背景につり上がった赤い眼と大きな口の映像が出てきて、左右のスピーカーから恐ろしくも威厳のある声が流れてくる。 『各星域の主要惑星の侵略に失敗した……。折角、創造神の依代になった者たちを分散させられたと思いきや……。戦わぬ星民たちも銃と剣を持って取るとは予想外のことだ……』 "あのお方"は画面越しに主要惑星の侵略の失敗に唸る。 「も、申し訳ありません。民も戦ってきたのには我々にも思ってもなかったことでして……」 ベラサピアが謝罪する。 『それと、エルダーン。貴様、リツァールの魂の結晶を連合軍本部基地に失くしてきたな?』 "あのお方"に問われて、エルダーンはぎくりとなるも、動揺しないようにと言い訳をする。 「すみません。戦いのさ中に落としていったようで……」 エルダーンの様子を見てリークスダラーとヴィルクは静かに横目で見て、ベラサピアが軽く口を吊り上げる。 『だが、リツァールの依代となる者はまだいない。ならば、我が自ら創造神たちのいる所へ行く。我が創造神の依代となる者を滅しておけば、宇宙は我の物になる』 "あのお方"の自己進撃を聞いて誰もが耳を疑う。 「い、いくら我が軍が追い詰められているとはいえ、あなた様自身が連合軍本部基地へ向かうのですか?」 リークスダラーが思わず口に出すも、"あのお方"は淡々と答える。 『我を誰だと思っている? 宇宙の最果てと呼ばれるアルファ星域のテーラ星といえと、我も神の一柱。我はそこへ向かう。我についてきたい者だけ、来るがよい』 そこで"あのお方"との通信が切れて、リークスダラータたちはそのまま突っ立っていた。 宇宙連合軍本部では、テーラ星魔神軍団に占領された主要惑星を取り戻すために派遣されていた連合軍兵やテクロイドたちが戻ってきて、損傷だらけだった連合軍基地も九十六時間でようやく元通りになった。セーンムルゥの依代になったピリンも一日に三十人も回復で、今日の最後の一人を治したことで連合軍基地内の仮眠室で眠っていて、リブサーナとアジェンナも付き添っていた。 だけどワンダリングスにとっても、連合軍兵にとっても、誰が最後の創造神リツァールの依代になるかが問題であった。連合軍兵の回復した者は自分の出身星域に戻って故郷の復興に励んでいたりとしていたが、魂の結晶はこの四日間反応がなかったのだ。 このままではリツァールの依代が現れないままテーラ星魔神軍と戦うのかと思っていた時だった。 ビーッ、ビーッと基地の外に危険が起きた時の警報が鳴り、誰もが察した。 「な、何事か?」 モニター室にいたグランタス艦長、ドリッド、ブリック、ハミルトンはオペレーターの女性に尋ねてくる。 「れ、連合軍本部基地に巨大なエネルギー声明をキャッチしました。だんだんとこちらに向かってきています……!」 モニター画面には巨大なシミのような生命レーダーが映し出され、別の画面には巨大な影のような物体が映し出され、影にはつり上がった赤い眼と大きな口が浮かび上がっていた。 リブサーナたち創造神の依代は、その影がただのエネルギー生命ではないことを察し、創造神の意識が彼らに伝える。 「この気は……、テーラ星魔神だ!!」 ソルトゥーがドリッドに教えると、ドリッドは思わず叫んだ。 「な、何だってぇ?」 テーラ星魔神が自ら連合軍本部基地に出向してきたのには、誰も予想していなかった。 |
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