リブサーナとピリンはロボット兵たちに捕まってしまったグランタス艦長たちを救助する前に、ユーカンタとシガルナを避難所へ送ってあげた。 避難所は住宅街の中の公民館でドーム状やブロック状などの住宅にまじっており、上円下方の大きな白とベージュの建物であった。主に外見実年齢十六歳以下の子らが、集まっていた。家から布団や本を持ってきてたり、小部屋で勉強をする者もいた。人型、獣型、鳥型、虫型と百人くらいの子らが集まっていた。 「このこたち、みんなパパとママがちゅれてかれちゃったの?」 ピリンが尋ねると、ユーカンタは答える。 「僕らみたいに親がさらわれた子もいれば、孤児もいます。でも自分の家の中にいると、いつかは電気も水道もガスも使えなくなるので、一緒に広い場所で集まって暮らすことになって......」 リブサーナは公民館の中で暮らす子たちの様子を見て体を震わせ、拳を握った。生きているのに親と引き離された様子に同情したからだ。 「ピリン、行こう」 リブサーナはユーカンタ兄妹を避難所に送り届けると、ピリンと共にミニーシュート号に乗って町の北へ向かっていった。 北部の鉱山では大人たちが基地建設のために働かされて、食事は主に非力な者が作っていた。ここでは日に四度の食事があり、囚人たちはブリキのトレーに鉢と皿とマグカップと先割れスプーンを乗せて二列に並ぶ。食事は粗末な物ではなく、囚人たちが長く働けるように野菜も肉も乳製品もあった。 配給係の鳥型異星人の老女が囚人たちにスープを配っていると、体がゆうに二メートル近い獣型異星人の若い男が老女に言った。 「なぁ、おばさん。スープをもっと増やしてくれねぇかな。俺ぁ、いつもより腹減ってんでね」 そう言うと老女は答えた。 「駄目ですよ。みんな平等なんですから」 チッと男は舌打ちをし、今日の分の夕食を持って引くと、牢の中のグランタス艦長たちは耳長尾長の獣型異星人の男女を目にする。 「ん、あれは......。ユーカンタとシガルナの両親か? やはりここにいたか」 「本当だ。あの姿は確かに......」 ユーカンタ兄妹の両親は背丈はしゃんとしているが、目にやる気がなく口もつぐんでいた。ドリッドが目を確かめる。 「子供たちと引き離されて、かわいそう」 ヒートリーグが兄妹の親の様子を目にして呟く。ユーカンタとシガルナの両親も食事を受け取ると、囚人たちの房である岩壁の穴の一つに入っていった。全ての囚人たちの夕食の分配が終わると、配給係の者たちがグランタス艦長たちにも食事を運んできてくれた。といっても、僅かな残りでスープの鉢はそれぞれ半分ずつ、パンの耳のある端っこ、サラダも肉もチーズも一さじと一切れだった。 「まぁ、あんなに囚人がいるんじゃねェ......」 アジェンナがそう言って、囚人の食事の残りを食べた。 日が暮れて空が暗闇に包まれると、囚人たちは房の中に入れられて明日の朝まで休眠に入り、脱獄者が出ないようにガードロボットが岩壁の穴の出入口に電磁状の網を張っていく。囚人たちも逃げ出せば電磁網で感電するかガードロボットに射殺されるかとわかっているので、明日の朝まで眠るしかなかったのだった。 「ヒートリーグ、まだ探知発信は出していられるか?」 ドリッドがヒートリーグに尋ねてくると、ヒートリーグは場にいるガードロボットを目にしてから返事をする。 「う〜ん、流石に長く出し続けていると、あいつらに気づかれちゃうからなぁ......」 「まいったわね......。あ、でもあたしとドリッドは創造神の魂の結晶を持っているから、探知発信しなくてもいいんじゃ」 アジェンナがそう言うと、ヒートリーグ拳を左手で叩いた。 「それもそうだったな」 リブサーナなら自分たちを見つけ出してくれるはずだ。そう信じて、ヒートリーグは探知発信を切った。 ミニーシュート号に乗って、さらわれた艦長たちのいる場所へ向かっているリブサーナはピリンの持っている携帯端末のレーダーの発信が消えると、首をかしげた。 「あれ、きえちゃったぉ。どうしたのかな?」 「もしかして妨害電波かしら? もう暗くなったし、今晩は安全な場所で寝てからにしよう」 リブサーナはミニーシュート号を近くの森の平地に着陸させると、ピリンと共に一夜を越すことになった。幸いミニーシュート号の中で夜露を凌げるので、獣に襲われたり虫に刺されたりする心配もなかった。時々夜行性の鳥や獣の声もしたが、気には留めなかった。 翌朝、建設中の基地の囚人たちは夜明けと共に起こされ、朝食が出来るまでの一時間は各々の持ち場で働かされた。グランタス艦長たちも両手に鎖付きの手かせを着けられて、鉄材を運んだり土嚢を作ったり、溶接したりと働かされた。グランタス艦長はガードロボットの死角になっている場所で、杭を打ち込んでいるユーカンタ兄妹の両親を見つけると、わざとツルハシを落としたそぶりを見せて、ユーカンタ兄妹の父母がグランタス艦長を目にして駆け寄った。 「だ、大丈夫ですか!?」 「いえいえ、大丈夫ですとも。あなたたちとコンタクトが取れて良かった」 グランタス艦長は没収されることはなかった言語翻訳機(ランゲージャー)を使って、夫婦に言った。 「昨日、ここに来る前にお二人のお子さんらしきと対面しましてね」 「......それってもしかして、ユーカンタとシガルナですか!? あなたたちはもしかして......」 と、父親が言いかけるとグランタス艦長は夫婦に「ピー星域の言葉で話せる言語はとありますか」と小声で尋ねてくると、夫婦は返事をした。 「え、えーと私たちの故郷のジョーイ星の近くの......ウルム星の主要語なら」 「おお、そこなら昔わしも来たことがありますぞ。では、その言葉で」 グランタス艦長とユーカンタ兄妹の父母はウルム星の主要語で内緒話をし始めた。 「ユーカンタとシガルナに会ったということは、私たちや他の人たちを探しに来てくれたんですか?」 「ああ、まあ......。ユーカンタくんたちは無事です。親や成人の兄姉を連れ去られた子供たちは一ヶ所に集まって暮らしているということです」 「ああ、そうですか。なら良かったわ......。ですがグランタスさん。どうやって私たちを助け出してくれるのですか?」 ユーカンタの母に訊かれると、グランタス艦長は元気づけるように言った。 「わたしたちの残っている仲間が救援を呼び、探し出してくれます。それまでの辛抱です」 一方ウィッシューター号で待機しているブリックは念には念を入れて、ピー星域の宇宙連合軍に連絡を入れて、メスィメルト星に少なくてもいいから応援を要請した。 「ありがとうございます」 ブリックは通信を終えて、盤状モニターのある司令室から自分の研究室のある場所に戻り、携帯端末から何の連絡が来ないことを確かめる度にイライラソワソワいていた。 森の中で一夜を過ごしたリブサーナとピリンは再びミニーシュート号を動かして、北部へ向かっていった。移動中、リブサーナはある反応に気づいて、後ろ髪を留めているバレッタが温かみを帯びていて、森を越えた所の岩場に他の創造神の反応――仲間たちの今いる場所へ全速前進していった。 「お前ら、ここで何をしている?」 冷徹な声がユーカンタ兄妹の父母とグランタス艦長に向けられてきた。そこには銃口を向けたガードロボットが立っていたのだ。 「愚図愚図するな、持ち場へ戻れ」 夫妻はガードロボットを見て怯えて自分たちの持ち場へ戻り、グランタス艦長もツルハシを持ち直して作業に戻っていった。 太陽が真昼に昇る頃は二度目の食事で、囚人たちは配給係の老人や非力な女性たちが作ってくれた食事にありついた。 「は〜、やっと腹を治めることが出来るぜ」 ガタイがあるため、他のワンダリングスメンバーよりも働かされているドリッドが土砂の運搬で痛んだ肩を押さえつつも、食事にありついた。 「それにしても艦長、」 アジェンナが小声で次のようなことをグランタス艦長に尋ねてきた。 「やっぱ奴らの基地って、多くの捕虜や奴隷を使って造り上げていたっぽいですよね。こういうのが宇宙各所にあると、どれ位の異星人たちがこんな目に遭っているのかしら」 「確かに、な」 グランタス艦長たちが小声で話し合っていると、もめごとが聞こえてきた。 「ちょっと、やめて下さい!」 昨日の巨体の獣型異星人の男が他の囚人から食事を巻き上げていたのだ。巻き上げられていたのは、植物型異星人の若い兄弟のようで、巨体の男と違って細身であった。 「俺ぁ、他の奴らと違って体がでかいから腹の減りも大きいんだ。お前ら植物型異星人は光合成や吸水だけで充分だろ? なら分けろや」 「それは弟のだ! 返せ!」 兄が訴えると大男は大口を開けてパンやサラダや肉を口の中に放り込んでしまった。他の囚人も怯えつつも、大男が相手じゃ適わないと思っているのか黙って見ているだけであった。囚人たちの中で大男を止める者が二人だけいた。ユーカンタとシガルナの父母であった。 「君、よさないか。食事は平等って言っているだろう」 「けっ、うるせーな。欲しいものは力づくでも欲しいんだよ!」 大男がユーカンタの父に殴りかかろうとしたその時だった。ヒートリーグが大男の肩を指でつまむように止めて、グランタス艦長たちが大男に言った。 「同じ囚人とはいえ、自分より非力な者の食糧を奪うとは、個人としても囚人としても恥ずかしくないのか」 それからアジェンナとドリッドが男を睨みつけるも、男はその眼差しに耐えきれず、そそくさと去っていった。 「あなた、大丈夫?」 ユーカンタ兄妹の母が植物型異星人の若い兄弟に話しかける。 「だ、大丈夫です。ありがとう......」 植物型異星人の兄は弟を担いで自分の持ち場へ戻っていった。胴体も腕も脚もか細いので、軽くあしらわれただけでも倒れそうだった。他の囚人たちもいざこざがなくなると、自分の持ち場へ戻っていった。 「すみません、グランタスさん」 夫妻がグランタス艦長たちに頭を下げた。 「いや、どう見ても悪いのはあいつじゃないか。まぁ、追っ払えたけどさ」 ヒートリーグがさっきの兄弟から食事を巻き上げようとした男のことを言うと、アジェンナとドリッドが持っている創造神の魂の結晶がかすかな温かみを帯びだしたのを察すると、ユーカンタ兄妹の母の胸元が白い光を発したのだった。 「おい、ソガルサ。あれが光っているぞ」 「えっ......」 そう言ってソガルサは首から提げている銀色のロケットペンダントをシャツの中から取り出して、ロケットの蓋を開かせる。中には白銀の透明な結晶には、三日月とハートの紋章が浮かび上がっていたのだ。 「そっ、それは創造神の魂の結晶!!」 アジェンナとドリッドが声を揃えて叫ぶと、ガードロボットが彼らの様子を察して近づいてきた。 「い、今は話せる状況じゃないみたいですね。次の時にお話いたします」 そう言って夫妻はワンダリングスの前から去っていき、作業の続きを始めたのだった。 リブサーナとピリンは森を過ぎて岩山に着くと、敵にばれないようにミニーシュート号を三角状になっている岩の突起の後ろに隠してそこからは自力で移動した。 「ううっ、寒い」 北部は高地であればあるほど寒く、リブサーナもピリンも半袖に膝出しの服装のため寒さに震えたが、マントを取りに行く暇なんてなかった。 岩場の高台から巨大な金属製の建物――建設中の基地を目にするとリブサーナとピリンもあそこに行けばユーカンタ兄妹の父母やグランタス艦長たちがいるのはわかっていたが、二人だけ、いやピリンがフェリアス星から妖獣を召喚できたとしても、敵のガードロボットたちに適うはずがないと判断して立ち止まってしまったのだった。 「折角ここまで来たのになぁ......。フリーネスの魂の結晶だって反応しているのに。どうしたらいいものか」 一方でグランタス艦長とアジェンナはユーカンタとシガルナの父母と同じ場所で働けることになると、ガードロボットや他の囚人たちに内緒話をした。基地内部の床や壁や柱をセメントで固める作業であった。 「やっとあなたたたちといられるようになりましたな。アジェンナ、あれを見せなさい」 グランタス艦長がアジェンナに言うと、アジェンナは自分のトップスの左胸につけているブローチを夫妻に見せた。 「色や中の模様は違うけど、妻が持っているのと同じだ。これは何なのですか?」 ユーカンタとシガルナの父、モーカンティが尋ねてくると、グランタス艦長はテーラという惑星の魔神が宇宙に現れて、宇宙に混乱と恐怖に陥れようとしたが、六柱の創造神に衛星の中に封印されて、数千年ぶりに甦って今度は配下をいくつもつけて、再び宇宙中を騒がせようとしていることを伝えたのだった。 「私たちの知らない所で、こんなことが......」 自分たちの出身惑星のジョーイがなくなってしまったが、メスィメルト星で平和と穏やかな生活を手に入れた時に、宇宙でこんなことが起きているとは、とモーカンティ夫妻はあ然としていた。 「でも、創造神が私たちワンダリングス、というか悪に対する意志の強い者を依代にして甦って、再びテーラ星の魔神に挑むって訳。ソガルサさんが持っているのって、創造神の魂の結晶よね?」 アジェンナがソガルサに尋ねてくると、ソガルサは自分の手元に創造神の魂の結晶が渡った理由を語りだす。 「これは代々私たちの一族がから受け継がれてきたお守りの家宝です。私が聞いたところでは、私の九代前の先祖がある晩に空から降ってきて、九代前のおばあ様の母、十代前の先祖で難産で九代前の祖母の弟を生んで難産で弱っているところ、九代前が自分の持ってきた玉の光が十代前の命を取り留めてくれました。 以来、私たち一族の女がこれを受け継ぎ、現代まで続いたということです。私の次はシガルナです」 その話を聞いてグランタス艦長とアジェンナはやっぱり創造神の魂の結晶だと覚った。一方で外にいるヒートリーグは空からいくつものの点がこっちに向かってくるのを目にして、近づいてくるのを確認した。 「おい、あれって......」 ヒートリーグはカメラアイの拡大機能を使って、その点が白と青の丸みを帯びた宇宙艇――ピー星域の宇宙連合軍のものだと気づいたのだった。 「連合軍だ! きっとリブサーナかブリックが呼び寄せてくれたんだ! ありがたい!」 その時、他の囚人たちも自分たちの方に降りてくる連合軍の宇宙艇を目にして、歓喜の声を上げた。 「やった、連合軍だ!」 「天の助けだ!」 それから高台にいるリブサーナとピリンも連合軍の登場に驚くも、この幸運に喜んだ。 「おおっ、こういうときにきてくれりゅなんて!」 「ブリックが呼んでくれたんだ!」 連合軍の宇宙艇は七基あり、ヘッドギアやプロテクターなどの装備をした外見も種族も違う連合軍の突入兵がパラシュートを使って次々に着陸し、エネルギー弾のライフ ルや伸縮性の携帯剣(ハンドブレード)を駆使して、ガードロボットに立ち向かってきたのだった。 ガードロボットは二、三十体に対し、突入兵は軽くてもその倍はいたのだった。 エネルギー弾の発射される音や爆ぜる音、兵士や囚人の声が取り乱れて、現場は騒々しくなるも、囚人たちのピンチがチャンスになったのだった。 |
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