創造神の依代に選ばれたワンダリングスと宇宙連合軍の共同戦線のためか、テーラ星魔神軍は次第に衰退していった。だがそればかりではなく、双方の兵士や一般民などの死者も続出し、また異星地の菌やウィルスの感染者も出てきて四苦八苦していた。そういう時は医療にたけたレプリカントや医術の優れた惑星の医師たちが解決していたが、武器や兵士、兵糧の不足している連合軍部隊はヒートリーグたちテクロイドが代わることもあった。 テクロイドは有機生命体の兵士二、三十人分に値し、テーラ星魔神軍にとっては相手が力強い味方を得たことには予想外で、またヒートリーグのような乗り物型の他に四足獣や虫型のテクロイドがいて、水中や密林といった有利な戦場があるためテーラ星魔神軍にとっては手ごわすぎた。 カッパ星域にあるウェルズ星でも、連合軍が次々にテーラ星魔神軍を退けていってくれる情報を星民が見聞きして喜んでいた。 テーラ星魔神軍によって惑星を占領され、星民も捕虜にされてしまったが、ウェルズ星人は宇宙各域に拡散されているスペースラジオを聞いて希望を保っていた。 「おおっ、今度はカッパ星域のラダン星が解放されたぞ!」 「このままウェルズ星や他の星々も救ってくれれば……!」 ウェルズ星の住民はテーラ星魔神軍によって捕虜とされ、老若男女問わず魔神軍の兵器開発やエネルギー製造などの労働を課せられていたが、衣食住は支配以前と同じで早朝には働きに行って夕方には自分の家で眠れるので、ウェルズ星民にとっては数少ない安息であった。 住民たちは夜に放送されるスペースラジオでしか宇宙の現状を知るのが精一杯であったが、連合軍がテーラ星魔神軍を打ち砕け続けているのを知ると、自分たちが反乱を起こさなくても敵はいずれ滅びると信じていた。大統領邸でもハミルトンと父と兄姉がこの情報を耳にして連合軍に期待を抱いていた。 (だけども、各惑星は解放することは出来たとしても、敵のヘッドであるテーラ星魔神が最強なのは確かなんだけど……) 父と兄姉が連合軍の戦いぶりを聞いて喜んでいる中、ハミルトンは気にしていた。スペースラジオを長く聴いているとテーラ星魔神軍の夜間取締部隊に狙われるため、スペースラジオを聞いている人たちは十分以内にラジオを止めて、平和に戻った時の学校に備えての勉強や本職の仕事を寝る前にやっていた。 食糧はテーラ星魔神軍の夜間取締部隊が各家の前に一世帯分のボール紙の箱を置いていく。中身は保存のきく缶詰や乾物、長持ちのする芋類や塩などのいくつかの調味料の小袋が入っていた。 「ええー。またこれかよー。たまには肉や魚を調理したのが食べたいよー」 一般家庭のウェルズ星人の男の子が支給食糧を目にして文句を言う。 「何を言っているの。監獄に入れられたら、もっとひどい食べ物になるのよ。食べられるだけでもましだと思いなさい」 母親が幼い息子に叱る。朝食を済ませた後のウェルズ星人は七歳以下の子供と七十歳以上の老人は働けないとみなされて、家宅に残されるのだが幼子が介護老人の世話をしたり、四、五歳の子供が二歳以下の乳幼児の弟妹の育児をする羽目になっていた。八歳から十二歳までの子供は工場内の掃除や生ごみを畑に埋めたりなどの単純作業をさせられていた。 大統領一家も工場でパーツの組み立てや製造の労働を課せられており、夕暮れまでにひっきりなしで働いていた。兵器工場は黒い体の警備ロボットが常に見張っており、脱走なんかしたりしたら警備ロボットの電気警棒による体罰を与えられるのだ。 ハミルトンも戦艦の機体の組み立てで溶接機で細部をつなぎ合わせて火花が目に入らないようにゴーグルを装着し、ケガをしないように厚手のグローブをはめていた。 『あー、疲れたー』 『いつまで続くんだよ、こんな生活……』 『こんなんなら学校で勉強させられている方がまだましだよ』 口に出さなくてもウェルズ星人の持つ精神読術(サイコリーディング)によって、ハミルトンにはテーラ星魔神軍によって捕虜化させられたウェルズ星人の心の中が見えていた。 「ああ……っ」 ハミルトンがその声を耳にすると、うねりのあるセミロングに細身の少女が荷物を持っていたら疲れなのか重さによるものなのか前のめりに倒れてしまい、彼女が運んでいた木箱も割れはしなかったがガシャンという音がした。周りにいた人々が荷物を運んだり、溶接したりとしていて少女を助けようとはしなかった。 『これはガードロボットくるぞ』 『あの子を助けたら、俺までお咎め受けるし』 精神読術(サイコリーディング)で他の人たちの心の声を読んで、ハミルトンは顔をしかめた。すると本当にガードロボットが来てしまい、ロボットは電気警棒を彼女に向けてきた。 「あ、あ……、やめて……」 少女は後ずさりし、ガードロボットはバチッと電気を走らせた警棒を突きつけようとしてきた。 「おい、やめないか」 ハミルトンが少女の前に立って、ガードロボットを止めてきた。 「関係のナイお前が、ナゼこのムスメをカバウ?」 ガードロボットが片言の台詞を発してハミルトンに尋ねてくる。 「この子は……ケガをしているんだ。左手の甲にすりむいた痕があるだろう? この手で重い荷物を持ったら負荷がかがってしまうんだ」 少女の手には確かに赤くすりむいた痕がある。だがガードロボットは主の命令以外には従わないため、ハミルトンの言葉は受容しなかった。 「ダガ、ココのルールに背いたものをバツするのがワタシの役目。部外者はドクように」 「嫌だ。この子を許してやってくれ」 ハミルトンが少女を庇うのを目にしてガードロボットはハミルトンに罰を与えようと電気警棒を向けてきた。その時だった。 ビーッ、ビーッと工場内に警報が鳴り響き、工場内にいたウェルズ星人やガードロボットたちが反応する。 『ウェルズ星に連合軍の宇宙艇が出現! 至急、工場内のガードロボットたちは敵の侵入を阻止せよ! 繰り返す……』 ハミルトンのいる工場の現場監督となっているテーラ星魔神軍の戦士がガードロボットたちに告げた。ガードロボットたちは現場監督の言葉に従い、工場の出入口や窓やダクトなどへ向かい、警戒体制をとる。 ハミルトンはその様子を目にして、少女や自分に危害が加えられなかったことに安堵する。 「あの、ありがとうございます……」 少女はハミルトンに礼を言う。 「いいや、君が無事なら……」 ハミルトンは少女を目にして、以前自分が宇宙リポーターになるための現場実習として、連合軍に雇われているワンダリングスの宇宙艇の少女を思い出した。 うねりのある髪と丸みを帯びた目と細めの体躯は同じだけど、目の前の彼女は濃いめの金髪に瑠璃色の眼、左の頬と左ひざにはほくろがあった。 (リブサーナとはかすかに違うな) その時、少女が精神読術(サイコリーディング)でハミルトンの思っていることを尋ねてくる。 「リブサーナ、ってハミルトンさんの恋人……なんですか?」 「えっ、それはそのう……」 ハミルトンはそれを訊かれて動揺する。 一方兵器工場の外ではガードロボットたちやライゾルダーの群れがウェルズ星の解放をしに現れた連合軍兵、それもウェルズ星のある星域を担当することになったドリッドがいたのだ。 「目の前にいる敵はみんなガードロボットとライゾルダーばかりだ。構わず倒せ?」 連合軍部隊司令官が他の連合軍兵に命令する。連合軍兵は大型のエネルギーライフルや携帯光線銃(ハンドレーザー)を敵に向けて乱射していく。 ズドドド、バーン、ドォーンという音が工場の中にも響き渡り、工場の少年少女のウェルズ星人はその音におびえて兄姉や親にしがみつく。だが連合軍兵は兵士の入れ替えと指揮を上手くやりくりし、ライゾルダーもガードロボットも次々に倒されていったのだった。ガードロボットの体に風穴が空いて中の配線や基盤がむき出しになったり、ライゾルダーは黒焦げになったり煤だらけになって体から硝煙を出していた。 「うう、くそ……」 大柄な体に朝黒い肌にドレッドヘアの人間型異星人の工場監視官長の男が自分の軍のライゾルダーたちがやられていったのをモニター越しで目にして唸る。そして更に工場で働かされていたウェルズ星人たちが鉄パイプなどの武器を持って、男のいるモニター室に入ってきて扉を破ってきた。 「連合軍が来たぞ! 降伏しろ!」 ウェルズ星人が次々と男に罵倒し、男はやむを得なく連合軍に捕まったのだ。 ハミルトン一家のいる工場以外のウェルズ星の兵器工場が解放されていき、ウェルズ星民は連合軍に感謝した。 工場で働かされていたウェルズ星人は体に異常がない者はケガ人や老人や幼子を支えたり、次々と老親や家にいる子の元へ帰ったり、何よりすさまじかったのは敵軍が管理していた食糧や物資の奪い合いだった。 「うちは子供が六人もいるんだ!」 「ちょっと、その包帯はね私が目をつけていたのよ!」 そういう人たちは連合軍の人が公正に分けてくれたので解決した。 「我々も帰るぞ、ハミルトン」 兄の一人に促されてハミルトンも自分の家に帰ろうとしたが、連合軍兵の中に見覚えのある顔があったので父と兄たちに向かってこう言ってきた。 「みんな、ごめん! 先に帰ってて!」 「お、おい、ハミルトン?」 兄たちが止めたがハミルトンはウェルズ星人や多種多様な連合軍兵の人ごみをかき分けていきながら、その人物を見つけてつかまえることができた。 「ドリッドさぁ〜ん!」 赤と黒の体の虫型異星人の男はその声を聞いて振り向いた。 「ん? お前さんは……、以前ワンダリングスの宇宙艇で宇宙レポーターの研修を受けていた……」 「ハミルトン=レイ=フェイバーです。お久しぶりです……」 ハミルトンは息を切らしながらドリッドにわかる言語で話してきた。 ドリッドとハミルトンは町から少し離れた場所の造林地区でその後の状況を語り合っていた。 「ドリッドさんたちワンダリングスは創造神の依代に……?」 「ああ。創造神は何千年も前に宇宙へ飛び出していったテーラ星魔神を封印した後、自身を魂を結晶に変えて宇宙各所に散らばった。 最初に復活したのは緑土のフリーネスでリブサーナが依代になった」 「あの子が創造神の……」 「信じがたいことだが、本当だ。リブサーナは自分の故郷のホジョ星を含めた 星域の戦争へ行った」 リブサーナの現在を着てハミルトンはため息を吐いた。 「リブサーナは強いな。最初は農民だった子が宇宙盗賊の奇襲によって家族を亡くした後はワンダリングスに入って、宇宙災害に遭った人たちを助けたり、宇宙船ハイジャック犯を退治していただけでなく、テーラ星魔神軍にも立ち向かっているのは」 「ああ、最初の頃とだいぶ変わっていったよ。リブサーナは、よ」 ドリッドが呟いた時だった。ドリッドはいつも身につけているブレスレットの結晶が仄かに輝き、ドリッドは軽く痙攣したかともうと、顔つきが変わって創造神、陽炎(ようえん)のソルトゥーの人格が現れる。 「私は創造神ソルトゥー。ドリッドの意識を眠らせて、ドリッドの体を依代にして外に出た」 「ふおおお……、びっくりしたぁ……。まさか創造神がこんな風に出てくるとは……」 ハミルトンがドリッドの変化に仰天するも、納得する。ソルトゥーがハミルトンを目にして尋ねてくる。 「ハミルトン、私には感じる。君にはとてつもない力を持っているのを……」 「どういう、こと……?」 ソルトゥーの言葉にハミルトンは首をかしげる。 「君には創造神の依代としての可能性が満ちている。善悪の分別、正義感、逆境に負けない意志……。君こそ最後の創造神ブリツァールの依代に相応しい」 「ブリツァール……。この創造神がそろったら、テーラ星魔神に立ち向かえられるってことか」 ハミルトンは呟いた。 「だけど肝心のブリツァールの魂の結晶の気配が見つからない。我々創造神は見えない鎖でつながっているようなものなのだが」 ソルトゥーは肩を落とすように言った。その時ハミルトンが思いついたように言った。 「あのう、ソルトゥー。僕がブリツァールの依代に相応しいのなら、僕を連合軍の宇宙艇に乗せてくれないか? 僕も探しに行く。そっちの方がいいだろう?」 ユープシロン星域にある宇宙連合軍本部基地。巨大な衛星を丸ごと基地にしたそれは、多くの連合軍兵が外から突入してきたテーラ星魔神軍の侵略部隊と戦っていた。小隊長は異種族異星人一人に対しライゾルダー一ダース。ライゾルダーは携帯銃やアームブレードのエネルギー弾やエネルギー斬刃で倒せるからともかく、小隊長の異星人が武力だったり超能力だったりサイボーグ化だたtりと厄介で、敵の小隊長一人だけでも連合軍兵十人分の強さであった。 「武器燃料と食糧は敵から守れ!」 「侵入防止のためにA1からM12までのエリアの通路のシャッターを作動?」 どこもかしこも戦闘だらけで、通路のシャッターが次々とおろされていく。 「てやっ、たぁっ!!」 宇宙連合軍本部基地の守衛を委ねられたグランタス艦長は斧槍(ハルバード)を振るって、テーラ星魔神軍の巨体の甲殻型異星人の戦士と戦っていた。 「総帥の所には行かせぬ! この身に代えても……!」 実際グランタス艦長は総帥室のちかくにおり、総帥室の中には総帥とヘスティアが扉の前に机や棚でバリケードして、うずくなっていた。 グランタス艦長は何とか息を激しく吐きながら、巨体異星人を倒すことに成功した。敵の戦士は体の表面に傷がいくつも入り、前のめりに倒れるが失神であった。グランタス艦長は老いのためか体力が大方消耗し、斧槍の刃先は刃こぼれし、動悸も激しかった。 「このまま戦い続けていたらくたばるか、戦い終わってからくたばるか……」 自分は何十年も故郷を飛び出してから、いくつものの戦場を駆け巡り次々に仲間も出来ていき、平凡で平穏な生涯とは遠くなってしまったが満足な人生だった。 その時、シャッタ−が盛大な音を立てて反対側から破壊され、大きな円状の孔が空いて硝煙を立てていた。 「き、貴様は……!」 グランタス艦長はシャッターを破壊してきた人物を目にして叫んだ。浅黒い肌に長めの暗緑の髪、切れ長の琥珀色の瞳、細身ながらも筋肉質の体つき、一八〇センチ代の背丈の人間型異星人の男が左掌を向けて立っていたのだ。 「やれやれ、占領した星を連合軍に取り戻されて、ここに来てみたら何とやら」 精神波動の使い手でテーラ星魔神軍の戦士、エルダーンであった。 |
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