8弾・2話 ホジョ星の決意、宇宙連合軍本部


 ラムダ星域の最東端にある青い海よりも広大な陸地の多い惑星ホジョ。麦や米などの穀物や多種多様の野菜や果物が多く実ることで有名なため、農業惑星と呼ばれている。実質ホジョ星は星民の半分が農民で、王の次に偉い貴族や高僧は一割で、一割半が詩人や歌手などの職種の者で、漁業と林業と工業が二割半で構成されている。

 ホジョ星の王は最も広い大陸の三〜四階建ての長屋が多く並ぶ王都を越えた先の岩場の中にある城塞に住み、灰色や茶色の岩の中に氷柱のような岩が屋根で黒光りの壁や床や天井の部屋がいくつもある。王都は町民が商いをしたり、商店や王室の料理人に作物を運びに来た農民が出入りし、またホジョ星の観光に来た獣型や人型などの異星人が訪れていた。

 城の中枢には王座があり、王座には金糸縁の赤いじゅうたんが敷かれ、天井には金細工と高級ガラス玉のシャンデリアが下がり、王座の後ろにはホジョ星の作物の麦や米や豆などの絵が入った緑のタペストリー、王座は高級木材である白光樹(ブラトリズ)を使い更に黒い別珍を背と座位に張ってある立派な物であった。

王座には御年二十六歳になるゴラスベーノ王は緑がかった金髪で金の双眸、肌は赤みがかった黄色で長身に勇ましい体格、着ている服もビロード製の朱色のガウンに黒い水牛の革靴、首には金の王章付きの鎖に指には赤や青や緑の宝石の指輪、王冠も金にルビーとダイヤモンドをはめ込んだ逸品である。ゴラスベーノ王はラムダ星域の連合軍将校が訪問してきたと聞いて、中に入れ更に連合軍からの報告を聞いて仰天する。

「何ということだ……。宇宙の大方で大きな争いが起きていて、食糧や物品の強奪も発しているとは」

 黄色と茶色の毛におおわれて横長の耳と曲角と蹄を持つラムダ星域のメーゴー星人の将校がホジョ星の言葉に設定した翻訳機(ランゲ―ジャー)を使ってゴラスベーノ王に伝える。

「はい。ホジョ星はラムダ星域の辺境の惑星として扱われ、また連合軍非加入惑星であることから、テーラ星の魔人の一味に侵略されるのも問題かと……」

「とはいっても、ホジョ星の民は数百年間土を耕し種をまき作物を育てて生きてきた。王城に兵士がいるのは城及び城下町の警備と不審者退治の役割だけだ。戦争なんか慣れておらぬというのに」

 ゴラスベーノ王は頭を両手で抱える。

「しかしホジョ星は敵の食料資源として狙われるのは確かです。今なら連合軍の加入に……」

「王城の兵士だけでなく、民も戦いに加われというのか!? 敵となるテーラ星の魔神の一味にとって、ホジョ星の作物は奴らの兵糧となる。だが犠牲は出したくないし……」

 その時、黒髪に黒いあごひげに大柄なディアーノ大臣がゴラスベーノ王に小声で話しかけてくる。

「陛下、このホジョ星に幾重ものの戦いを貫いてきた猛者がいるではありませんか。今から五ヶ月前にホジョ星に帰還してきたという……」

「おお、そうか。彼がいたか。ZK―7地区にいる彼を王城に連れてきてくれ!」

 ゴラスベーノ王は五ヶ月前に子供の頃に伝染病ゾットで親兄弟を亡くし、伯父一家に引き取られるも恩をあだで返したために宇宙奴隷として売り飛ばされたが、バトナーチェ星で大会闘士となり、更に歴戦の勝者として生きてきたホジョ星人、ケストリーノのことを思い出す。そしてディアーノ大臣にケストリーノを迎えるように命じた。


 ホジョ星の中にある森と草原と川に囲まれた地域、ZK―7地区。ここは穀物の名産地で、主にサイノメ麦という穀物が多く採れる。今から一年前の秋にZK―7地区が宇宙盗賊のザーダ星人たちの襲撃を受けて、村人も家畜も家々も絶えてしまい、エヴィニー村ただ一人の生き残りの少女は連合軍の命によって宇宙盗賊を捕らえた雇われ兵団に保護されて、ホジョ星には彼女の他の身よりがいなかったため、その雇われ兵団に入った。

 ゴラスベーノ王は王都から馬と荷車でも四日はかかる場所の村の壊滅には気づかず、生き残りがいたらこの償いとして、その人物に再建したエヴィニー村の村長の座を与えようと考えていた。

 今から五ヶ月前に連合軍の宇宙艇に乗って七年ぶりにホジョ星に帰ってきた青年が現れた時に、ゴラスベーノ王は驚いた。連合軍がホジョ星に来たと聞いた時はてっきり連合軍加入惑星の交渉かと思っていた。ラムダ星域の連合軍兵がゴラスベーノ王を訪ねてきたのは、ワンダリングスメンバーの嘆願による異星育ちのホジョ星人のホジョ星在籍であった。

 ケストリーノは緑がかったレイヤーの金髪に、つり上がりの灰緑の眼、逞しい腕っぷしとバトナーチェ星での歴代闘技会のチャンピオンの肩書き持ちと聞いた時は城の王兵にスカウトしようと考えたが、思い切って復興したエヴィニー村の村長にならないかと問い尋ねてみた。

「僕でいいんですか……?」

 ケストリーノはそれを聞いてゴラスベーノ王の申し出に従った。

「うむ。本当ならリブサーナに復興したエヴィニー村の村長の役職を与えようと考えていたがのだが……、彼女はいつホジョ星に戻ってくるかわからぬ。ケストリーノ、お主も一度は故郷を追い出された身。伯父の元に戻るにはさぞかし複雑だろうと」

 ケストリーノはゴラスベーノ王の意見を聞いて、その寛容さに喜び、かしこまった。

「ありがたき幸せ。このような者の母星在籍だけでなく、わたくしめに村長の役割を与えてくださって……」

 エヴィニー村の新村長となったケストリーノは復興されたエヴィニー村を目にして、その風景に取りつかれた。

 新しい漆喰とレンガ造りの家々が建ち、どの家にも枝角牛(ブランチカウ)や三毛羊や馬などの家畜を入れる小屋に豆などの小畑が造られており、村長邸に至っては、一般の家の三軒分の建物に広い庭と家畜小屋があり、屋敷内の家具や調度品も設置されていた。

 両親と兄が死してから伯父一家の下で農業も勉強もせずに好き放題してきたケストリーノは十三の時に宇宙奴隷として売り飛ばされ、バトナーチェ星で新し主人の元で馴染めず逃げ出した後はバトナーチェ星の闘技大会で自分の食い扶持を手に入れるために大会闘士となった。最後に出た大会でお尋ね者の策略によって負傷した時、彼は戦えなくなってしまった。しかしバトナーチェ星で出会った同じホジョ星人のリブサーナの連合軍とのつてで七年ぶりにホジョ星に戻り、新しいエヴィニー村の村長として生きることになったのだった。

 村長となったケストリーノはベテランの農夫から土を耕して種をまいて水と肥料を与えて作物の栄養を横取る雑草むしりを学び、森の老木を伐採して薪にしたり、家畜のえさやりや毛にブラシをかけたりと農学を覚えていった。大人は子供と違って物覚えが早く、慣れも良かった。

 今ではエヴィニー村は麦や米やキビなどの穀物、三叉ニンジンや白甘豆などの作物や四季のメイン果実を育てられるようになった。秋の今は森の葉や草原は萌黄と山吹色が混ざり合った色合いをしており、ケストリーノたち村人も麦わら帽子やホジョ木綿や麻のシャツやズボンやスカートを身につけ、足元は野獣や家畜の短靴やブーツ。エヴィニー村の今の住人は五十人ほどであるが、今の住人は前の居住区の畑が天災でダメになったり、出稼ぎのために妻子や親兄弟と別れた別地の住人だったり、ケストリーノのような孤児もいた。ケストリーノはそういう人たちを自分の村の住人にして、皆から慕われる村長となっていった。

 村人たちが枝角牛の乳搾りや畑の水やりや果樹園で今が旬の黄金梨(こがねなし)の熟れたのをもいだりしている中、ケストリーノも村の畑で麦の脱穀をしていると、ジャケットとシャツとズボンだけの城の兵士たちがケストリーノの所にやってきたのだった。

「ケストリーノ殿はおりますか」

 村人は城の兵士の来訪を目にして何事かとつい作業をする手を止めてしまう。

「何か御用ですか? ちゃんと税は納めているんですが……」

 ケストリーノは畑から出てきて兵士たちに告げてきた。

「いえ、そういうことではありません。ゴラスベーノ王からのご命令でして……」

 ケストリーノが首をかしげると、兵士は丸めた伝令を彼に渡した。ケストリーノは伝令の文書を広げると、目を丸くした。

「エヴィニー村現村長のケストリーノへ

 現在宇宙では大いなる異変にふりかかっている。テーラ星の魔神が数千年ぶりに復活し、着々と配下を集めて、宇宙各域を襲撃して占領下にした星では兵器や食糧の資源先とし、また科学技術の秀でた惑星ではテーラ星の魔神一味の武器兵器開発工場として使われている。

 連合軍が束になっても戦力が足りず、連合軍かにゅうわでないホジョ星も敵の食糧資源として狙われるだろう。

 私は奴らに従い星民の糧を奪われるくらいなら戦う方を選ぶ。バトナーチェ星で戦闘経験が豊富なケストリーノに戦場指揮官を委ねたい」

 伝令分を目にしてケストリーノは茫然とした。自分がホジョ星で作物を育てているさ中に星外でこんな大事(おおごと)が起きているなんてちっとも知らなかったのである。

「強制は致しません。ケストリーノ殿、どうしますか?」

 兵士がケストリーノに尋ねてくる。ケストリーノは思わず伝令文を握りしめると、こう言ってきたのだった。

「今の平穏をテーラ星の魔神に奪われるくらいなら、再び剣を取る」


 ウィッシューター号はオメガ星域にある宇宙連合軍本部に着くまでに、燃料と食糧のある惑星や宇宙市場でウィッシューター号の燃料や食糧を補給して、あとは全速力で連合軍本部へと向かっていった。その途中で小惑星群や隕石を避けたりの障害もあったが、何度も宇宙の修羅場を潜り抜けてきたワンダリングスによっては当たり前であった。

「みんな、あれがれんごーぐんのほんぶなの!?」

 ピリンがコックピット窓から見える巨大な衛星を目にしてみんなに訊いてきた。その衛星はとてつもなく大型で球状で、表面のクレーターには衛星の上を走るキャタピラ状の小型タンクやカーキャリアが走り、白と青の機体の連合軍の宇宙艇も何台か内部の出入り口に入っていくのが見られ、その規模の大きさに誰もが目を見張った。

 グランタス艦長は司令室のコンソールを動かし、宇宙連合軍本部の通信係との連絡を試みる。

「こちらワンダリング。応答願います」

 艦長がコンソール近くの盤状モニターが動き出し、映像が立体的に映し出される。映像には四つの眼に蛍光緑と黄色の体の軟体型異星人の姿が映し出される。

『こちら宇宙連合軍オメガ本部です。ワンダリングスの通信を承りました』

「ヴォーザー総帥の依頼を受けまして、ようやく宇宙連合軍本部に着くことが出来ました。入場許可を願います」

 すると、衛星基地の一部が長方形に開いて、あそこから入れると知ると、ウィッシューター号は機体を動かして、衛星基地の中に入っていった。

 衛星基地の中は銀色の特殊合金の素材の壁や床に埋め尽くされ、天井には月光色の電燈が三十歩おきに設置され、通路だけでも人型や獣型などの異星人が歩いていた。

 ウィッシューター号は衛星基地の中に入ると、下のレールに沿って移動して宇宙艇停泊場の空きスペースに停泊させて、更に出入口と本部に入るための接続通路と連結し、ワンダリングスは本部の中に入る時、赤外線センサーで護身用の携帯銃(ハンドライフル)以外の武器を持っていないかのチェックを受け、更に他星で拾った菌を滅菌するための消毒ミストをかけられた。

 連合軍本部本部内は格納庫から宿泊室までアリの巣状に蔓延っており、初心者は案内人か通路内のマップを見ないと迷子になる程の広さであった。

 リブサーナたちが本部の通路に入ると、目の前に白いベレー帽に青と白の軍服にタイトスカート姿の人型異星人の女性隊員が現れる。その隊員は淡い緑色の髪をショートにして純白の肌に細面の顔と楕円型の藍色の瞳で背丈が一五〇センチあるかないかの細身であった。

「ワンダリングスのみなさんですね? 初めまして、わたしは宇宙連合軍本部の内部案内係のヘスティア=ミリオと申します」

 ヘスティアは軍服の襟につけた翻訳機(ランゲ―ジャー)をワンダリングの面々がわかる言語にして挨拶する。

「ああ、こちらこそ初めまして……。わしがワンダリングス現艦長のグランタス=ド=インデスです」

 グランタス艦長はヘスティアに挨拶をすると、ヘスティアは一同に向かって言う。

「皆さん、総帥の元へご案内しますね。はぐれないようについてきて下さいね」

 ワンダリングスはヘスティアの案内を受けて、何人かは初めて入る連合軍本部の中を移動する。どの異星人も青と白の軍服をまとい、ブリックのようなレプリカントもいた。どの連合軍兵も違う言語で話し合っているけど、テーラ星の魔神軍に立ち向かうための会話をしていることなら理解できた。

 連合軍本部内はとてつもなく広く、主要都市一つ分のような区域でしかも食堂と隊員寮は三キロ離れていたりとの問題もあったため、そういう距離短縮問題のためにワープ装置も各所に設けられていた。

 ワープ装置は巨大な円筒形の機械で、中の行き先を決める計算機を使えばわずか数秒で目的地に着いてしまうのだ。ワープ装置起動は一瞬でエメラルド色の幾何学的な光に包まれるが、眩しさで瞼が閉ざされてもわずか三秒で総帥の部屋の前に着いたのだった。

「総帥閣下、ワンダリングスの皆様をお連れしにまいりました。失礼します」

 ヘスティアが総帥室に声をかけると、扉が横に開いて銀色の長机が置かれ、高級そうな布地の長椅子に座った銀網に赤ら顔のヴォーザー総帥が座っていた。

「どうも。グランタス=ド=インデスです。ごきげんよう、総帥閣下――」

 グランタス艦長はヴォーザー総帥に恭しく敬礼し、ヴォーザー総帥は翻訳機(ランゲ―ジャー)をインデス星系の言葉に変訳して、ワンダリングスの来訪を受容する。

「よくこのオメガ星域まで来てくださった、改めてグランタス殿とその参謀のドリッド殿は久しぶり。初めての方は初めまして。私が宇宙連合軍現総帥ヴォーザーだ」

「は、はい初めまして……」

「こちらこそ」

 リブサーナとピリン、アジェンナとブリック、そしてヒートリーグはおそるおそるヴォーザー総帥に頭を下げる。

 総帥室は一般家庭の居間の広さではあるが、テクノイドであるヒートリーグも何とか入れることが出来た。

「さて、議題に入ろう。宇宙各域で連合軍がテーラ星の魔神軍団と戦っているのはご存じであろう。テーラ星の魔神軍団は連合軍全体の三分の一であるが、特殊能力を使う異星人や武力・知力にたけた異星人が傘下に加わっており、連合軍も小部隊は衰退はしている。そななたちもこの戦いに参戦してもらう」

 ヴォーザー総帥はワンダリングスの面々にこう告げてきた。こうなることは誰もがわかっていた。

「でも、ピリンたちにはテーラしぇいのまじんを一どたおしたしょーじょーしんのたましーのけっしょーがあるんだぉ。ピリンたちはしょーじょーしんにえりゃばれて、つよくなったんだぉ」

 ピリンは総帥にこう告げ、リブサーナたちも口角を軽く上げて動じないようにした。

「ああ、テーラ星の魔神を一度は封印した宇宙の六大創造神か……。まさか君たちが選ばれたのはこちらにとっても好機だが、全員揃った訳ではないだろう?」

 それを訊かれてワンダリングスは沈黙する。

「はい。あと一柱なのですが、最後の創造神は他の創造神でも察することが出来ないのです」

 グランタス艦長が告げてくると、ヴォーザー総帥は一度考えてからこう言った。

「君たちには六手ずつ分かれてもらって、被害の大きい星域に行ってもらう。そして一人はこの宇宙連合軍本部の護衛を委ねる。この宇宙連合軍本部が攻め落とされたら、一貫の終わり! 宇宙全体はテーラ星の魔神の、いや悪しき者たちの思うツボじゃ! 強く賢い者が弱者や愚者を虐げ、暴動も争いも当たり前になってしまう。

 だからこそ、多くの宇宙民族が共闘する時だ!!」

 ヴォーザー総帥はワンダリングに告げてきた。宇宙が悪しき者たちが徘徊する世界になることは、平和や平穏が失われることを誰もが理解していた。