4弾・6話 ハミルトンを救え!


 リブサーナとハミルトンが衛星丸ごとを宇宙市場(コスモマーケット)にしたフードコート内のベンチで休んでいると、黒い羽毛に覆われたナップ星人のスナッチがリブサーナとぶつかって、リブサーナの飲んでいた紙容器に入ったドリンクを床にこぼした。

「きゃっ」

 リブサーナの服にドリンクの飛び散りはかからなかったが、ドリンクが床に広まってしまった。

「ああ……、びしょびしょ」

 リブサーナがかがんでこぼれたドリンクをセルフサービスの紙ナプキンでぬぐい、ピンクに染まった紙ナプキンは紙容器の中へ入れられる。それを見ていたハミルトンが尋ねてくる。

「あの……」

「ごめんね。大人しく座ってて」

 リブサーナはハミルトンに言った。

「お嬢さん、すみません。おわびにこのドリンクをあげましょう。あ、あとこのアトマイザーもあげます。わが社の新製品です」

 スナッチは懐から掌大の細ビンを出す。黄色い透明な液は柑橘系のコロンのようだった。スナッチは手に持っていた紙容器をリブサーナに渡す。

「わざわざお詫びの品も渡して下さってありがとうございます」

 スナッチはにっこりと不敵な笑みをリブサーナに向けると、スタスタと人混みの中へ入っていった。そして上手く人混みの中を抜けると、柱の一本の後ろに隠れていた巨体のナップ星人のテイクンに話しかける。

「上手くいったか?」

「ああ。俺のしびれ薬を疑いもせずに受け取った。あの女はウェルズ星人じゃないようだ。特殊能力のない非ヒューマン型星人(エイリアン)みたいだ。好都合だぜ」

 スナッチとテイクンはそのまま柱に隠れてリブサーナとハミルトンの様子を窺うことにした。


「ねぇ、リブサーナ。さっきの人、何か怪しかったよ。わざわざ自分の持っていたドリンクをリブサーナにあげるなんて……」

 ハミルトンがリブサーナに尋ねてきた。ハミルトンはスナッチの心が読めていたそうで、リブサーナにドリンクを飲まないでと促してきた。

「うん。でも……」

 そう言ってリブサーナは服のポケットから小さなカプセル剤を出し、カプセル剤の中の液をドリンクに入れる。ブリックが作った飲食物の毒を確かめる反応剤である。ドリンクは薄紫色の透明な果汁(ジュース)だが、色が濃くなれば毒などが入っていて変色する。……が、ジュースの色が変わることはなかった。

「良かった。普通なようね」

 リブサーナは安心してジュースを飲み、スナッチがお詫びの品として渡してくれたアトマイザーを吹きかけてノズルを押したその時だった。

「うっ!?」

 アトマイザーの噴出口から液状のコロンを浴びたリブサーナは口や鼻にコロンが入ると、次第にしびれを感じてその場に倒れた。

「りっ、リブサーナ!? リブサーナ!」

 体が痺れ出してきて痙攣を起こしているリブサーナを見て、周りにいた数人の異星人(エイリアン)の客たちが視線を向けた。

「だ、誰か……。リブサーナが急に体が……」

 パニックになっているハミルトンを見て、誰もがざわついた。ヒューマン型星人(エイリアン)はたくさんの種族がいて、どう接したらいいかわからなかったからだ。その時、黒い羽毛に覆われた鳥型星人(エイリアン)が駆け寄ってきた。一目で見ると、丸々としたペンギンのようだった。

「君、その子は俺が医務室に連れて行くから、君はここで待っていなよ」

「す……すみません。あと、彼女の仲間にも連絡をお願いします……」

「ああ」

 そう言って巨体のナップ星人はハミルトンをなだめて、リブサーナを抱えてこの場を去っていった。

(う……。本当にわたしを医務室に連れて行くのかしら……)

 リブサーナは手足がしびれて声も出せない状態のため、目と耳で確かめるしかなかった。だがナップ星人はリブサーナを全く別の場所へ連れていったのだった。明るく賑やかなモール内から静かで仄暗い廊下、そして車輪付きにリフトや段ボールや木箱がいくつも並ぶ倉庫に連れて行かれたのだった。

「!?」

 リブサーナは空いている木箱の中に入れられ、更にナップ星人が他の木箱でリブサーナの入った木箱の真上をふさいだったのだった。

(え!? ちょ、どういうこと!?)

 リブサーナはそう叫びたかったが声は出せず、体も動かぬまま倉庫の木箱の中に入れられてしまった。

 一方リブサーナが帰ってくるまで携帯端末でグランタス艦長と連絡を取ろうとしたッハミルトンは。

「え、え〜と、艦長さんの端末コードは……」

 他にも家族や使用人や友人の端末コードまで入っているので、一〇〇以上もあるデータの中から探すのは一苦労だった。

「うっ!?」

 背中にしびれるような痛みが走り、ハミルトンはその場で倒れて、何者かにつれさられてしまったのだった。


 それからして数十分後、武器や宇宙艇に関する道具の購入に行っていたドリッドとブリック、食糧やタオルなどの生活用品の買い出しに行っていたグランタス艦長とアジェンナとピリンはリブサーナとハミルトンから通信の返事が来なかったのを察して、フードコートにやってきた(買った荷物は既に宇宙艇に置いてきた)。

「い、いない! 二人とも、何処へ行っちまったんだ!?」

 ドリッドがフードコートのベンチにいる筈のリブサーナとハミルトンの姿がないのを目にして声をあげた。

「携帯端末からの返事も返信の文書も来ない……。どうやら圏外になっているようだな」

 ブリックが自分の携帯端末を操作するが、リブサーナからの返答はなかった。

「ピリン、妖獣を召喚しておくれ。ドリッドとアジェンナは引き続きリブサーナを探してほしい」

 グランタス艦長が指示を出し、ピリンも頷く。ピリンは妖獣をフェリアス星から召喚するための紅水晶と宇宙真珠の花でできた杖を振るい、呪文を唱える。

「エステ・パロマ・ダロスワンデ〜」

 ピリンが呪文を唱えながら杖を振るうと、白い煙と共に二つの頭を持つ仔犬が現れた。右の頭は紅い毛で、左の頭が黒く垂れ耳で、尾の先が二又になっている。上半分が赤く、下半分が黒い。鼻の効く妖獣ロスワンデである。

「ワンちゃん、ハミルトンしゃんのにおいをかいでほしいぉ」

 ワンちゃんは鼻をひくひくさせて、ハミルトンの匂いをつかむと、その方向へ駆けていった。

「よし、こっちか。お前たちはリブサーナを頼むぞ」

「了解」

 グランタス艦長・ピリン・ブリックはワンちゃんの後を追ってハミルトンを探しに、アジェンナとドリッドはリブサーナを探しにモール内を廻ることになった。


「すみません。この女の子を見ませんでしたか?」

 アジェンナは端末の中に収録されているリブサーナの写真をモール内の店員や警備員に見せて尋ねる。ドリッドも同じで、フードコートやその近くの店舗の店員にリブサーナがいるかどうか尋ねたが、手掛かりは見つからなかった。

 その時、倉庫を通りかかった時、アナグマに似た異星人(エイリアン)の従業員がカートに木箱を乗せてドリッドとぶつかりそうになった。だがドリッドの方が何らかの拍子で足を滑らせて、木箱とぶつかって、カートごと倒れたのである(従業員は転ばなかった)。

「わわわっ!」

 ドガッシャーンという音とともに木箱が転がって、木箱の中に入っていた缶ジュースや缶詰が床に散らばり、一番下の大きな箱から何とリブサーナが出てきたのだ。

「リ、リブサーナ!? お前、どうしてここに……」

「う、あ……、ドリッド……」

 リブサーナは起き上がってドリッドにしがみついた。ドリッドは従業員を睨みつけ、従業員は「知らない」と言うように首を振り、散らばった缶詰を拾い集めて木箱をカートに乗せて、その場を逃げ去った。

「ドリッド、わたし……。悪い奴に騙されて、あの中に閉じ込められたの……。黒い羽毛の鳥型異星人(エイリアン)に……!」

 リブサーナはドリッドにこれまでのいきさつを洗いざらい話した。

「リブサーナをハミルトン坊ちゃんから引き離すためにアトマイザーに痺れ薬を仕込んでいたんだな。坊ちゃんは今、艦長たちが追っている」

「うん。急いで探そう」


 スナッチとテイクンは気絶させたハミルトンを連れて、宇宙艇停泊所行きの通路チューブを通っていた。

「なぁ、スナッチ。俺たちの宇宙艇を泊めていた場所、憶えているか?」

「待ってろ。今思い出しているところだ。確か、B108―09だ」

 スナッチとテイクンはB停泊所へ向かい、完全に逃げきれたと思っていたその時だった。

「ちょっと待てぇ!!」

 スナッチとテイクンが振り向くと、ハミルトンの匂いをかがせて二つ頭の妖獣ロスワンデに追いかけさせていたピリン、ブリック、グランタス艦長が通路チューブまで追いかけてきたのだ。

「ちっ、しつこい奴らだ。急ぐぞ、テイクン!!」

「あっ、待てよ!」

 スナッチはハミルトンをテイクンに押し付けて自分は勢いよく駆けだした。テイクンも人質のハミルトンを肩に抱えて逃げ出す。

「お、おいかけてワンちゃん!!」

 ピリンは妖獣に命令し、ワンちゃんはスナッチとテイクンを追いかける。……だが、通路チューブは迷路のように複雑で、誘拐犯が右へ逃げたら左、左へ逃げたと思えば上、その次は下という風に、複雑になっていた。

「もー、みちゅかんないぉ。もちかちて、もういっちゃったあとぉ!?」

「このままではカッパ星域連合軍部だけでなく、ウェルズ星大統領からどんなお咎めが……」

 ピリンとグランタス艦長が弱音を吐いた時だった。

「大丈夫です、艦長。ハミルトン氏には彼の居場所がつかめるトリックを仕込んでおいたんです。ただ、艦長たちが追いかけた時に言いそびれて……」

「えっ!?」

 ピリンと艦長がブリックの言葉に首をかしげる。ブリックはハミルトンの身の危険がわかるようにと、彼の腕時計のベルト部分にある細工を施しておいたのだ。ベルトから持ち主の身に危険が起きると、液体を入れているケースの蓋が外れて液がこぼれるという。そして更にその液体の付いている場所がわかる特殊グラスで見られるのだという。ブリックは懐から一見黒レンズの眼鏡を出して顔にかける。すると通路には蛍光グリーンの染みが浮かび上がっているのだ。

「私は同じ所を通った道を記憶しています。二人とも、私に着いてきて下さい」

「わかった」

 グランタス艦長もピリンもブリックの後を追いかけて、ハミルトンの行方を追った。


 一方、スナッチとテイクンはハミルトンの研修先の団体から逃れることに成功し、自分たちの宇宙艇を見つけて、宇宙市場(コスモマーケット)を脱出したところだった。ナップ星人の誘拐犯の宇宙艇は小型であるが操縦席の他に食糧庫や寝室といった生活層もある快適なもので、だ円状の黒い雛鳥を思わせるツインターボロケット式であった。その操縦席にはスナッチとテイクン、また通路とつながる出入り口の傍らにはロープで縛られ、口もハンカチで塞がれているハミルトンが座らされていた。ハミルトンは目覚めたばかりで、気絶するまでの経緯を思い出していた。

(そうか……。奴らがリブサーナに渡したアトマイザーに痺れ薬が入っていたとは……。てっきり飲み物に仕込んであると思いこんでいた僕のミスだ……。リブサーナはちゃんと助かったんだろうか?)

 自分の不本意とはいえ、誘拐犯に捕まってしまったハミルトンは悔しがった。今のナップ星人はこれからカッパ星域連合軍にて、ウェルズ星大統領の子息を誘拐したことで身代金を五百万コズム出させようとしているのにはわかった。資産家や権力者の子というのは、誘拐の標的(ターゲット)にされやすいものだとハミルトンも承知していた。両手を拘束されているため携帯端末は懐に入りっぱなしで当然使うことはできない。後は天に運を任せるだけかと、ハミルトンがそう思った時だった。

「うん? スナッチ、俺たちを追いかけてくる宇宙艇が来ているぞ」

 テイクンが画面のレーダーを見て、スナッチに尋ねてくる。

「まさか連合軍のやつらか? もうわかったのか!?」

 レーダーを頼りに画面を拡大化させると、それは薄青い魚によく似た機体の小型宇宙艇、ミニーシュート号だった。

「あ、あいつらは……もしかして、ハミルトンのボディーガードの仲間か!? どうしてわかったんだ!?」

 スナッチが驚いて叫んだ。


 小型宇宙艇ミニーシュート号にはグランタス艦長が操縦桿を握り、ブリックが特殊ゴーグルをかけて艦長に指示を出していた。二人の間にはピリンが座っている(妖獣ワンちゃんはフェリアス星に送り還した)。

 スナッチとテイクンが自分たちの宇宙艇に乗り込む時、テイクンがハミルトンの腕を出入り口にぶつけてしまい、そこから液がたくさん付着したため、肉眼では目に見えないが特殊グラスでは大きく液体が広がっているのが見えるのだ。

「そこの宇宙艇に告ぐ! 今すぐ人質を解放して降伏しろ! さもなければ撃墜させるぞ!」

 ブリックがミニーシュート号のマイクを持ち、誘拐犯に告げた。

「どうしよう、スナッチ? この艇には武器なんて装備してねぇぞ?」

「仕方がねぇ。テイクン、ここはお前に任せた。俺が追い払ってくるぜ!」

 そう言ってスナッチは操縦席にテイクンと人質にとっているハミルトンを残し、自分は戦闘型宇宙服を着て出て、その宇宙船の屋根に乗った。


「あ、あれをみて! ゆーかいはんのひとりがめじゅらしーうちゅーふくをきて、でてきたぉ!」

 ピリンが窓モニターを見て、艦長とブリックに言った。

「何!?」

 戦闘型宇宙服――全身を黒い装甲付きの全身を覆う宇宙空間向けの戦闘服で頭部はゴーグルアイと口元を覆うマスク、何より一般的な宇宙服と違って、両腕や両足、はたまた両肩や両腰に武器が付いていることがあるのだ。

「喰らえ!」

 スナッチは左脚に装備させたレーザーミサイルをミニーシュート号に撃ち放つ。

「わわっ!」

 レーザーミサイルの一つがミニーシュート号に当たり、ミニーシュート号は飛行安定がとれなくなる。

「こ、コントロールが効かない!」

「わぁ〜ん、しゃまないたくないぉ〜」

「艦長、あそこの衛星に不時着させて下さい! あそこなら後で見つけてもらえる筈です!」

「よし、わかった!」

 ブリックに促されてグランタス艦長は小さな衛星にミニーシュート号を着陸させた。

「フン、ここを墓場にしよう、っと考えたのか。まぁ、いい。追っ手を始末すればいいだけのこと」

 そう言ってスナッチはミニーシュート号を不時着させた衛星に降下してきた。

「艦長、ここは私に戦わせて下さい。ハミルトン氏の方は残してきたアジェンナたちが連合軍に知らせている筈です」

「ああ、頼んだぞ」

「きをちゅけてね」

 ブリックはスナッチの攻めを防ぐために、宇宙空間に出ても宇宙服が必要ない人造人間(レプリカント)である自身がミニーシュート号から出て、小衛星の上でスナッチと対決する。

 ブリックは腰のベルトに下げていたエネルギーパック装てん式の携帯銃(ハンドライフル)を取り出し、スナッチに銃口を向けてくる。

「宇宙服がなくても宇宙空間を活動できるとは……人造人間(レプリカント)か。ふん、だが宇宙兵器商人から購入した戦闘宇宙服は伊達じゃないぜ?」

(宇宙兵器商人だと……!?)

 ブリックはそれを聞いて気になったが、次の瞬間にはスナッチは左腕に装備されたエネルギーガトリング銃を撃ち放ってきた。ブリックは携帯銃(ハンドライフル)のエネルギーパックをなるべく消費させないようにと、衛星群の岩壁を蹴って移動しながら避ける。しかし、無重力空間ではレプリカントでも動きづらく、ジャンプのコントロールや上下左右の移動にコツがいるのだ。エネルギー弾が当たりそうになると、ブリックは銃の引金を引いて弾き返し、ぶつかり合ったエネルギーの弾丸は弾けて閃光を出し、勢いよく爆ぜる。

(くっ……、重力安定空間だったら、戦いやすいのに……)

 ブリックがエネルギー弾のぶつかり合いで飛ばされるも、尖った岩を蹴ってスナッチに銃口を向ける。しかしスナッチは右腕に装備された仕込みナイフを出してブリックを貫こうとした。しかしブリックはいち早く気づいて、携帯銃(ハンドライフル)を真下に向けて撃った反動で真上に飛んだ。スナッチも負けておられず、右脚に装備されたワイヤーキャッチャーを出してブリックに向けて、捕らえようとしてきた。

「む!?」

 ブリックの左脚にワイヤーロープが絡まり、スナッチは右脚を引いて、ブリックを地面に叩きつけようとした。だがブリックは叩きつけられる前に自分の脚に巻きついたワイヤーキャッチャーをつかんで、携帯銃(ハンドライフル)を当てて引金を引いて撃った。

「何!?」

 スナッチは少し後方へ転ぶが、ブリックは着地して、ちぎったワイヤーキャッチャーを油断したスナッチに投げつけて、ワイヤーキャッチャーはスナッチに巻きついて、スナッチは動けなくなった。

「やったぁ! ブリックがかったぉ!!」

 ミニーシュート号からブリック対スナッチの戦いを見ていたピリンがはしゃいで叫んだ。

 その時だった。ミニーシュート号とテイクンが乗っている宇宙艇近くの空間に白と青の丸みを帯びた大型の宇宙艇が三台現れたのだ。ニュー星域連合軍の宇宙艇である。

『ナップ星人スナッチとテイクン、ウェルズ星大統領子息誘拐及び過去十七件の誘拐罪で逮捕する!!』

 こうしてスナッチとテイクンは連合軍に逮捕され、ハミルトンも救出された。


 ハミルトンと艦長たちは後からウィッシューター号に乗ってやってきたドリッドたちによって回収され、ハミルトン誘拐事件は大事にならず解決したのだが……。

「……艦長、わたし悔しいです!!」

 ハミルトンと一緒にいたのに、ハミルトンを守れずさらわれてしまったリブサーナが司令席で声を張り上げた。ハミルトンのボディーガードの筈なのに、敵の罠にはまってハミルトンを連れさらわれてしまったことに悲痛を感じていた。

「リブサーナ、そんなに自分を責めるな。自分の詰めの甘さとはいえ、自責は次第に自分を苦しめるものだぞ」

 グランタス艦長が悔し涙を流すリブサーナに言った。誰もハミルトンを守れなかったリブサーナを責めてはいないし、ハミルトンもリブサーナを責めていなかった。

「リブサーナ、僕にだって間違いはあった。敵が二重の罠をしかけてくるのは思ってもなかったんだ……」

 ハミルトンがリブサーナをなぐさめる。

「期限の一五〇時間目になる前にハミルトンくんを助けられただけでも……」

 アジェンナもリブサーナをなだめたが、リブサーナは顔をうつ向かせて司令室を出た。

「……射撃の訓練をしに行ってきます」


 ウィッシューター号内の射撃訓練室。そこは標的設定機でレベルや目標数などを決めることができて、立体映像によって的となる敵宇宙人(エネミー)が出てくるのだ。リブサーナはエネルギーパックの携帯銃(ハンドライフル)を持って、未熟な自分を磨きあげるための訓練に励んだ。

(ワンダリングスに入ってから早五ヵ月。成長していたと思っていたら、そうでなかった自分が腹ただしい……。

 もし、同じようなことがあっても、次は絶対に騙されたりしない!!)

 リブサーナは携帯銃(ハンドライフル)の引金を何度も引いて、立体映像の敵宇宙人(エネミー)を何人も打ち倒していった。

 一人特訓をしているリブサーナを見て、グランタス艦長たちがのぞいていた。リブサーナは未熟ではない。だからといって一人前でもない。だが、自分が未熟だと気づければそれでいいと思った。