リブサーナが派遣された部隊のオールセイヴァー号が戦場に出てから 二十四時間単位で五日が経過していた。兵士たちは交代で出撃と待機を繰り返し、負傷者も多数続発していた。 リブサーナのいる部隊のオールセイヴァー号はラムダ星域の最東端の惑星、ホジョに向かい、そこの広大な平地にオールセイヴァー号を着陸させた。オールセイヴァー号の近くには、兵士たちと馬に乗ったゴラスベーノ王が彼らを迎え、オールセイヴァー号の出入口のタラップが開いて部隊司令官と幾人かの将校、そしてリブサーナが降りてくる。 「よく来てくれた、宇宙連合軍の者たちよ。そして、帰ってきてくれたな。エヴィニー村のリブサーナ」 ゴラスベーノ王はホジョ星の標準語で連合軍にあいさつし、リブサーナを見ると、落ち着いた笑みを向けてくる。リブサーナは今日まで自分の星の王に会ったことはなく、ゴラスベーノ王から「帰ってきてくれた」と言われると、かしこまる。 「は、はい。初めまして、陛下。わたしが宇宙盗賊に滅ぼされたエヴィニー村のリブサーナでございます……」 リブサーナは久しぶりにホジョ星の言語を発し、ゴラスベーノ王に恭しく頭を下げる。 「君の住んでいた村が私の知らぬ間に滅ぼされたことは悪いと思ってきていた。もし君が生きていたら、建て直したエヴィニー村の村長の役職を与えようとしていたが、今は他の者にエヴィニー村の村長を委ねている」 「え……」 「まぁ、その話は後で話そう。ところで部隊司令官殿、テーラ星の魔神軍団の制圧による件だが、我々ホジョ星民に兵の増援と兵糧の提供をお願いしたいということか?」 部隊司令官は言語翻訳機でゴラスベーノ王の台詞を聞き取って返答する。 「はい。あつかましいことですが……」 「いや、いい。私の民が生きていてくれて、しかも連合軍の味方入りをしてくれたのは何よりも嬉しいことだ。だがホジョ星民の食糧の取り分もあるから、そんなに提供することは出来ないが」 ゴラスベーノ王は部隊司令官にこう告げてくる。 「ありがとうございます。ホジョ星を含めた星民たちの安全を確保させていただきます」 部隊司令官は深々と頭(こうべ)をゴラスベーノ王に下げた。 ゴラスベーノ王にはホジョ星の各域に兵士募集を開き、兵士として連合軍に加担した者は戦後一般労働の永久義務と引き換えに武器や食糧の無償提供を設けることになった。ホジョ星の若き民はこの条件に惹かれて、戦争に携わるようになった。 「おおっ、これは……」 部隊司令官は集まったホジョ星の志願兵を目にして唸った。ホジョ星の兵士は一万ぐらいで充分だと思っていたのが、実際は一七〇〇〇人の兵士が集まって、三割方が十五歳から二十四歳の女性も来ていたのだ。 「でも女子までが参加するなんて……」 リブサーナが女性兵を目にしてゴラスベーノ王に尋ねてくると、王は答えた。 「いや、戦場に来ている女性は身寄りがなかったり、失職した女性ばかりだ。それに彼女たちが参戦したのは、君のように目指しているんだ」 「わたしを目指す……?」 リブサーナはホジョ星の女性が兵士になった理由を聞いて不思議がる。 「ホジョ星の女性たちは畑を耕したり布を織ったり物を作って売ったりするだけが女としての生き方ではないことを敵軍や異星の者たちにアピールするために志願したのさ。いわば君が戦うホジョ星の女性の開祖だ」 ゴラスベーノ王がホジョ星の女性が戦争に加わる理由をリブサーナにそう教えたのだった。 「わたしのように……? だけど、わたしがホジョ星を出てワンダリングスに入ったのは、親兄弟を喪い他に身寄りもなかったからで……」 「だけど君が教えてくれたのさ。自分の意志で生まれの場所を離れて生きることもある、ってね」 その時、リブサーナとゴラスベーノの前に一人の兵士が現れる・その兵士はホジョ木綿のシャツとパンツの上に黒光りの石の鎧にバイザー付きの鉄の兜、手甲とすね当ても鉄製で、一七〇センチ代の背丈に浅黒い肌の青年であった。 「陛下、これから女性兵軍の実践訓練の件ですが……」 リブサーナは青年兵を目にして、声を上げる。 「あ、あなたはバトナーチェ星で出会ったケストリーノ?」 「き、君はリブサーナ?」 二人はお互いの顔を見合わせて口を大きく開く。ゴラスベーノ王はリブサーナとケストリーノが知り合っていたことを知って感心する。 「おお、戦いを知っているホジョ星人が知り合い同士だったとは……。うむ、そなたたちなら星民兵の戦いの方法を教えてやってほしい」 ゴラスベーノ王から星民兵の共感を委ねられて、二人はこの任務に戸惑うも、星民兵の戦闘指導を行うことになった。 ホジョ星は開拓されていない草地がたくさんあるため、そこでホジョ星の志願兵たちは十組に分かれて、実践訓練を開始した。志願兵たちは二手に分けられて敵の兵士と戦うための訓練を行い、それぞれの組に連合軍とホジョ王兵が教官と副教官になって指導した。 志願兵たちは木で出来た剣と盾を持ってかかり合っていた。リブサーナも教官となり、ケストリーノも副教官になった。 日が暮れるとこの日の訓練は終わり、志願兵たちは草原に防水性の布を使ったテントを張り、キャンプで一夜を過ごした。火打ち石と草原の枯れ草と枯れ木で火を起こし、村の住人からもらったいびつな野菜や穀物を調理して食べる。水は湧き水を使って分け合った。 リブサーナがテントに入って女性兵たちと寝ようとした処、ケストリーノに呼び止められた。 「どうかしたの?」 「ああ、十分だけでいい。話を聞いてくれるか?」 リブサーナはホジョ星に戻ってからのケストリーノのそれからを聞いた。 「そう。あなたがゴラスベーノ王が復興させたエヴィニー村の村長になっていたのね」 「ああ。そんなに、じゃないけど村人もいる。鍬や鋤を持って畑仕事をしたのは久しぶりだったから、最初は苦労したけど俺には武術で鍛えた体があったから」 「あのね、ケストリーノ。わたしね、この戦いが終わったら、どうしようか迷っているの」 リブサーナの台詞を聞いてケストリーノは首をかしげる。 「連合軍に入ろうか、ホジョ星に戻って暮らそうか」 それを聞いてケストリーノは沈黙する。 「村がなくなって身寄りもなくって、ワンダリングスに入った身だもの。もう土の耕し方や種のまき方なんて忘れているよ」 「そんなこと、ない」 ケストリーノがリブサーナの悩みを否定した。 「君もホジョ星人なら、また鋤や鍬を持って働くことが出来る。なんなら俺が教えてやってもいい。やり続けていれば、また身に着くはずだ。俺がそうだったんだから……。俺はバトナーチェ星で毒も持った奴のせいで闘士で稼げなくなったけど、もう体に毒素はないし、こうやっていられてるんだし」 ケストリーノの言葉を聞いて、リブサーナは悟った。忘れてしまったのならやればいい。シンプルだが、この言葉は農業だけに限らず、どこの職種にも当てはまるからだ。そしてリブサーナはこう言った。 「テーラ星の魔神たちとの戦いが終わったら、どうするか決めるから」 それから訓練は三日続き、ホジョ星の志願兵たちは五ヶ所の平原で敵の待機をし、また連合軍兵の指揮官とリブサーナもホジョ星担当の戦士となって、兵士たちと共に敵を迎撃することになった。 連合軍兵はホジョ星以外のテーラ星の魔神軍に占領された惑星の救済のためにホジョ星人の兵士たちを二割を他の星の派遣兵として送り、その時のホジョ星人は体力耐久力の優れた者で、彼らは連合軍からの武器や装備や食糧が支給された。 ホジョ星に残った兵士は主に女性や未成年、派遣部隊に選抜されなかった男性兵であった。彼らの武器は北部で採掘された鉄や鋼を剣や弾丸、堅木を弓の柄や槍の柄にして、鎧兜は家畜の皮の下に薄い金属で出来た軽くて丈夫な素早さと防御を兼ねた量産品である。 リブサーナも指揮官の一人となったケストリーノや他の兵士と共に、王城近くの平原で待機していた。 「まさか機能の朝にテーラ星魔神軍団からの宣戦布告が届くなんてね」 リブサーナは連合軍から以前もらったレオタード型の防護服と全身を覆うボディスーツと軍靴、それからワンダリングス共通の鎧と手甲とすね当てを装備していた。昨日の朝半ば、連合軍のオールセイヴァー号にテーラ星魔神軍団からの宣戦布告の通信文が送られてきた。 『ホジョ星時間の十三月十四日十時にホジョ星に侵攻を向けてくる』 その布告文はゴラスベーノ王と王兵軍にも伝えられ、志願兵のホジョ星ジンもテーラ星魔神軍のためにホジョ星人の本気を、見せてやると活気を上げた。 「来るならこい、テーラ星魔神軍ども!」 「俺たちがただの農業民族でないことを教えてやる!」 「私らでも戦えるってことを証明してやるわ!」 男も女も少年も中年も、ホジョ星の志願兵たちは恐れなど平気だと主張しているのを見て、ゴラスベーノ王もケストリーノもリブサーナも平和な時代を生きていた同族が宇宙最大の危機に立ち上がったことに感服していた。 その時、連合軍の指揮官やリブサーナの通信機器に司令官からの連絡が入ってくる。 『みんな、ホジョ星にテーラ星魔神軍の宇宙艇が来た。場所はそれぞれ五ヶ所!』 白い雲が多い秋の青空の彼方から赤黒い大型宇宙艇がホジョ星兵のいる五ヶ所の地域の近くに出現する。 「来たぞ……」 ケストリーノがテーラ魔神軍の宇宙艇を目にして、リブサーナやホジョ兵に告げてくる。幸い爆弾が投下されたり、ミサイルが乱射されたりといった物騒な事態はこなかったが、敵の宇宙艇は無人地に着陸した頃、ハッチから白い体の宇宙シラミを改造した量産兵、ライゾルダーが出てくる。 「シ〜ラ〜、シ〜ラ〜」とライゾルダーは不気味な声を上げてぞろぞろと出てくる。 「みんな、ライゾルダーは数が多いだけで能力は低い。かかれーっ!」 連合軍の指揮官がホジョ星志願兵たちは号令を出し、ホジョ星兵はライゾルダーの群れにかかってくる。ホジョの兵士たちはこの数日で連合軍の教官から訓練された武術や武器を駆使してライゾルダーと戦う。 ホジョ星の兵士たちは鍛冶屋に造ってもらった剣や斧、槍や長銃を使ってライゾルダーを斬り刺し撃つという攻撃をしてくる。 「うわ、そんなに訓練していないのに、押し倒している」 リブサーナが戦うホジョ星民を目にして口にする。 「俺も思っていなかった。平和な場所と時代を生きていたホジョ星民が敵の侵略を知った時、誰もが武器を持って立ち向かうなんて。戦いで稼いできた俺とは違い、ホジョ星人の戦いぶりは激しいものだな」 ケストリーノがその様子を目にしてリブサーナに伝えてくる。ホジョ星兵がライゾルダーと戦っていると、魔神軍の宇宙艇から一機の小型艇が発進されるのをリブサーナは目にする。その小型艇は王城に向かっていくのを見て、ライゾルダーの群れは囮で陽動作戦だと気づいた。 「しまった! 王が危ない!」 テーラ星魔神軍の小型艇は王城へ飛んでいき、更に艇頭の左右から散弾状のエネルギー弾を連射してくる。王城の外壁にいた兵士たちはその攻撃に恐れて逃げ出した。ズドドド、とホジョ星の王城の上部に孔が空き、ガラガラと壁が崩れて一人の戦士が入ってくる。長い赤紫色の前髪に切れ長の眼に白い肌、黒いレザータイトスーツの人間型異星人の女であった。 「く、曲者!」 王城の番兵になった女性兵が敵の女に槍の先を向けてくる。 「あなたたちに用はない。どいて」 敵の女は胸元につけた言語翻訳機(ランゲージャー)をホジョ星標準語で女性兵に言い、更に特殊な籠手で武装された手で兵士の槍の先を上に向けて曲げてしまった。 「うわっ」 女性兵は女が金属の矛先を片手で曲げてしまったのを目にして、自分も両腕をへし折られると恐れて侵入を許してしまった。 そして更に女は王間へきて、玉座に座るゴラスベーノ王と護衛兵たちと対面する。 「初めまして、ゴラスベーノ王。辺境の惑星とはいえ、王の住まいは豪勢なのね」 女は城内の様子を目にしてゴラスベーノ王に尋ねてくる。 「貴様はテーラ星魔神軍の所属だな?」 「王に手を出すな!」 王の護衛兵は女に槍の先を向けるが、ゴラスベーノ王は護衛兵を止めてくる。 「待て。テーラ星魔神軍の所属者は宇宙各所の猛者をかき集めているだけでなく、超科学の技術や兵器も持っているそうじゃないか。無暗に立ち向かってはならぬ」 「し、しかし……」 兵士がゴラスベーノ王に止められてきた時、二人の若者が王間に飛び込むように入ってきた。 「王――!!」 ケストリーノとリブサーナであった。そしてリブサーナは女の顔を見て口にする。 「ベラサピア……!」 「おや、あなたもいたのね。まさか故郷の星に舞い戻って、攻防戦に加わっていたのには知らなかったけれど」 ベラサピアはリブサーナを目にして嫌味をかけてくる。 「あっ、お前はバトナーチェ星で俺に毒を刺してきた奴の援助していた時の……!」 ケストリーノもベラサピアを見て、自分がバトナーチェ星を出る切っ掛けを思い出して声をかけてくる。 「あなたもいたのね。まさかバトナーチェ星にいた時の経験で、兵士に取り立てられていたのね」 ベラサピアはケストリーノを目にして呟く。 「親兄弟がいなくても、故郷や居場所に恵まれているのって……、本当にムカつく」 それを言うとベラサピアは左手首の装置を起動させて、赤紫色の閃光に包まれて黒いタイトスーツの上から赤紫色のメットやプロテクターなどの装甲をまとった姿に変わる。ベラサピアの武装を目にしてゴラスベーノ王と兵士、ケストリーノがどよっ、となる。 「以前の時とは違って、改良がなされ完成したパワードスーツよ。防御も加速も攻撃も上回っているわよ」 「……!」 リブサーナはそれを聞いて油断できないと察した。その時、リブサーナの髪を留めているバレッタの緑の結晶が光りだして、リブサーナの精神に呼びかける。 『リブサーナ、私に代わりなさい。敵はテーラ星魔神の配下で、以前よりも強さの他に悪の気も上がっています』 数千年前にテーラ星魔神を宇宙の小惑星に封印した六大創造神の一柱、緑土のフリーネスが自分の依代となったリブサーナに声をかけてきたのだ。 「フリーネス、それはやらないでほしい。ベラサピアはテーラ星魔神の配下だけど、彼女は一人の異星人なのよ。ここは、わたしが一対一でつけさせて……」 リブサーナハフリーネスにお願いする。ゴラスベーノ王や兵士、ケストリーノから見てみると、リブサーナはぼんやり突っ立っていて、独り言を言っているように見えた。 『いいのですか? テーラ星魔神軍はあなたの星を奪おうとしているのですよ。悪はすべて根絶やさないと』 フリーネスがリブサーナに言うと、リブサーナは否定した。 「絶やすだけが正しいとは限らないよ。悪いのはテーラ星魔神だけで、ベラサピアやエルダーンのような異星人たちはテーラ星魔神に従っていて、本当は仕方なくだったら、どうするの。わたしは、そういうのはしたくない」 リブサーナの言葉を聞いて、フリーネスはリブサーナに委ねた。 『わかりました。あなたが決めて着けなさい』 リブサーナは顔を上げると、ベラサピアに向かって告げてくる。 「……わたしが相手よ!」 それを聞いてベラサピアがほくそ笑んてきた。二回も自分に立ち向かってきたリブサーナがどういう風に戦ってくるのかを――。 「いいわ。あなたがどうしても、というのなら」 それを見てケストリーノや兵士たちは女同士の戦いに男である自分たちが口や手を出してきたら、かえって障りになると悟って何もせずにしたのだった。 |
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