4弾・8話 宇宙廃城大爆破



 その頃、ウィッシューター号の司令室で一人待機しているグランタス艦長は艦員(クルー)の報告と帰りを待ち続けていて司令席に座っていた。


 ビーッ ビーッ


 宇宙服の中に施されている艦員(クルー)の身の危険を知らせてくれる危険発信機が盤状モニターから発せられ、グランタス艦長は立ちあがってコントロールパネルを操作し、みんなの身に何があったか調べる。

「ドリッドたちに何が起きたんだ!?」

 盤状モニターから位置レーダーやバイタルデータやらが立体的に映し出されて、ノイズに混じってドリッドの声が聞こえてくる。

『こ……こちらドリッド。応答願います、艦長!! 現在ブリックと共に危機に陥っています! 目と口と手足のある植物が俺たちを襲ってきて……』 

「何だと!? 今どうしている!?」

 グランタス艦長が通信機越しにドリッドに尋ねると、ブリックの声が聞こえてきた。

『わ、私が医学と医薬の調査、ドリッドが兵器の調査をしていたらいつの間にか……』

 ブリックの声にまぎれて、シュルッ、ビタッという音が聞こえてきたが宇宙服にはライブ映像を宇宙艇に伝える機能がないため、ドリッドたちがどんな宇宙植物と戦っているのかグランタスはわからずじまいだった。

『こ、こちらアジェンナ、応答願います! しょ、植物が私とピリンに襲いかかってきて……!』

「アジェンナもか!」

 グランタスはアジェンナに尋ねてきた時、アジェンナが問い返してきた。

『アジェンナも、って……みんなも宇宙植物と戦っているのですか? ああっ、ピリンが!!』

アジェンナが叫んだが、ピリンの身に何があったのかわからず、今度はリブサーナからの連絡通信を受け取り、グランタスはリブサーナに問い詰めた。

『艦長、大変です! わたしが宇宙廃城の庭園を探索していたら、この廃城の植物の生き残りが目と口と手足を持っていて、更に庭園から逃げ出して宇宙廃城のあちこちに飛び出していったようなんです!』

「何だと!?」

 リブサーナからの連絡を受け取ったグランタスは何故ドリッドたちが宇宙怪植物の群れに襲われていたかようやく理解できた。仲間を助けに行くか、それとも仲間が来るのを信じて待つか迷った。仲間を助けに行ったら動く怪植物にウィッシューター号を乗っ取らるかもしれないし、待っていたら仲間が宇宙怪植物にやられてしまうかもしれないと思ったからだった。


 ドリッドとブリックは宇宙怪植物を携帯銃(ハンドライフル)のレーザーで少しずつ倒していったが、一匹倒せば二匹、二匹倒せば四匹と出てくるので、ドリッドは体力、ブリックは銃のエネルギーパック、それぞれの消費に頭を悩ませていた。エネルギーパックの予備は三つしかない。なくなってしまえば敵の好きなようにさせてしまう。

(流石の人造人間(レプリカント)も宇宙怪植物にはお手上げか?)

 ブリックが宇宙怪植物の群れを相手にそう思っていると、ドリッドが叫んだ。

「ブリック! 俺、当分野菜は喰いたくねぇよ。こいつらを思い出しちまうから」

「そんなことはこの状況を片付けてからにしてくれ。あと携帯銃(ハンドライフル)のエネルギーパックはガンガン使うなよ」

 ブリックはややきつめにドリッドに返事をした。


 ピリンはアジェンナに守られながらも携帯銃(ハンドライフル)で燃えて破裂していく宇宙怪植物の様子を目にしていた。

「ったく、一体誰が庭園の扉を開けっ放しにしたのさ!? 異星人(エイリアン)たちが棄てたとはいえ、植物が我が物顔ではいつくばっていていたにも程があるわよ。終わったら注意しなきゃ!」

 アジェンナは携帯銃(ハンドライフル)の引金を何度も引きながら愚痴をこぼしまくっていた。アジェンナの後ろに隠れているピリンは何も出来ない自分の状況を悔んでいた。

(ここがうちゅーくーかんじゃなかったりゃ、じゅーりょくもくーきもりゅばしょだっかりゃ、ピリンがよーじゅーちゃんたちをフェリアスしぇいからよびだして、ぱーっとやっちゅけられるのに……)

 ピリンの故郷、フェリアス星にも自立活動する植物はあった。だがその植物は日照りなどで環境が悪くなったら、水資源や土壌の良い場所に移動する習性を持っているだけで、廃城の怪植物のように目も口もなく、またその他の生き物を襲ったりすることもなかったから驚かないが、宇宙怪植物は小さいのに恐ろしく感じられるのだった。


 ウィッシューター号内のグランタス艦長は盤状モニターのコントロールパネルを操作して、宇宙廃城の内部構造のデータを入力し、あるものを調べていた。モニターの画面から立体的に廃城の構図や構造、艦員(クルー)たちの現在地を確かめ、ついに城の下層の中心部に動力中核室があるのを見つけ、そこを爆破させて脱出しようと思いついたのだった。宇宙怪植物が暴れていたら、仲間を助けるために廃城の調査を中止にして破壊した方が良いと出たグランタスの艦長としての判断だった。

「ええと、動力中核室に今一番近いのは……」

 グランタスはモニターの艦員(クルー)たちの現在地を確かめる。ブリックとドリッドは動力中核室から四〇〇メートル離れた場所にいて、アジェンナとピリンは動力中核室から二〇〇メートル上の位置にいた。

「となると……」

 グランタスは通信機を動かし、動力中核室から一番近い所にいるリブサーナに連絡した。

「こちらグランタス。リブサーナよ、応答を願う」

 その時、ハミルトンを連れて宇宙廃城の中を移動していたリブサーナの通信機にグランタスからの指令が入ってくる。

「はい、こちらリブサーナ。艦長、どうしました?」

『うむ、リブサーナよ聞いてくれ。この城を爆破する。何しろ敵である宇宙怪植物の数が数百もいるんじゃ、わしらがやられてしまう。散々迷ったが、皆の命を助けるには城を壊してしまうしかないと決断した』

「艦長……」

 リブサーナは艦長の命令を聞いて、調査は諦めて敵の群れを倒すために廃城の破壊を選んだ艦長の意見はそうかもしれないと思った。

「わかりました。動力中核室へ向かいます。どうやって爆破させたらいいですか?」

『リブサーナ、この城の機械廃品を使って時限爆弾を作って、動力中核室の仕掛けてほしい。以前、ウォーテニック星のブラックホール管理塔が乗っ取られた時、お前は人質救助のため爆弾を作ったことがあっただろう。連合軍の武器マニュアルを読んで覚えたお前ならできる。頼んだぞ』

 艦長から通信を聞いて、リブサーナは艦長が自分に廃城の爆破を委ねたのは他の艦員(クルー)は怪植物を相手にしていて委ねられないからだと悟って、拳を握った。

「リブサーナ、僕も手伝うよ。みんなを助けるためにも……」

 ハミルトンがリブサーナに言って元気づける。


 リブサーナとハミルトンは宇宙廃城を爆散させるため、宇宙廃城の機械部品をかき集めて爆弾を作った。リブサーナとハミルトンがいる場所は薄暗い下層で、そこは壊れた機械を集めて宇宙各所のリサイクルセンターに運ぶ部品を置いておくスクラップ場であった。

 宇宙怪植物の多くは星の輝きがとどく明るめの中層や上層に行っており、リブサーナは爆弾を作った。大きくなくていい、小さくて運べることができて威力が大きいもので充分だった。

 一方、宇宙怪植物たちと戦っているドリッド、ブリック、アジェンナ、ピリンは次第に衰退していった。

「ハァ、ハァ。もうエネルギーパックが一つしかねぇ……」

「こっちもだ。特殊な進化を遂げた宇宙怪植物は尋常でない生命力を持っているからな」

 その時、ブリックとドリッドの宇宙服メットにグランタス艦長からの通信が入った。

『みんな、大丈夫か』

「グランタス艦長ですか!? 俺たちは植物の化け物に苦戦してんすよ! 艦長がウィッシューター号を出たら襲われる可能性があるのはわかってますけど!」

 ドリッドが早口で宇宙艇に待機しているグランタス艦長に毒づくように返した。

『残りのエネルギーパックで怪植物を蹴散らして、ウィッシューター号に戻ってきてくれ!。 リブサーナが今、爆弾を作ってこの城を吹き飛ばすことにした! 宇宙怪植物を倒すにはこれしかないのだ!』

「えええ!? リブサーナのやつ、何てことを……」

 グランタス艦長の話を聞いて、ドリッドが叫んだ。

「いや、どう考えてもこの城を吹き飛ばすのを思いついたのは艦長だろうが……。この城を動かしていた動力中核室の近くにいるのがリブサーナしかいなくて、彼女に命じたんだろう」

 ブリックが通信越しにドリッドに言う。

「でも、そしたらリブサーナが……」

「いや、大丈夫だ。リブサーナもやる時はやれる子だ。彼女がこの城を破壊して宇宙怪植物を倒し、そしてリブサーナが戻ってくることを信じてやるんだ、ドリッド」

 ブリックのお堅いながらも意志の強い理論を聞いて、ドリッドも頷いた。

「ああ、そうだな……。俺も信じているぜ、リブサーナをな!」

 ブリックとドリッドは携帯銃(ハンドライフル)のレーザーで宇宙怪植物を撃ち倒していきながら、ウィッシューター号のある場所へ向かっていった。


 アジェンナとピリンも携帯銃(ハンドライフル)で宇宙怪植物を倒していきながら、ウィッシューター号のある場所に進んでいった。レーザーで怪植物が破裂して爆ぜる中、通路の床に大きな孔が空いて、アジェンナとピリンはいきなりの異変に驚いた。

「ほわっ」

「あまりのボロさに老朽化で崩れたの!?」

 アジェンナがピリンを引っ張って亀裂に落ちるのを防いだ。その孔からは、ハミルトンが出てきたのだ。

「は、ハミルトンくん!? 何でここから……」

 アジェンナがハミルトンに尋ねてくると、ハミルトンは通信機越しに答えた。

「えと、リブサーナちゃんが先に行かせてくれたんだ、僕を爆発に巻き込まないために、って……」

「えええ!?」

 アジェンナとピリンは声をそろえて叫んだ。

「てことは、この孔はリブサーナが携帯銃(ハンドライフル)で空けたものなの!? でもリブサーナはどうしたのよ?」

 ハミルトンは言った。

「爆弾は今から三〇分後に爆発する。三〇分もあれば自分も逃げられるのに間に合う、って……」

 ハミルトンが弱々しそうに言うと、アジェンナが唇をかみしめ、ピリンは泣きそうになった。

「リブサーナ、あんた何という無茶を……」

「シャ、シャ〜ナが……」

 その時、アジェンナとピリンのメットに艦長からの通信が入った。

『アジェンナ、ピリン。聞こえるか!? わしだ、グランタスだ。リブサーナによるとあと三〇分で爆発するとのことだ。お前たち、早くウィッシューター号に戻ってこい! 待機していれば、リブサーナはきっと来る!』

 艦長の声でアジェンナとピリンはこの三〇分の有余にかけて、ハミルトンを連れてウィッシューター号に戻ることにきめた。

「行くよ、ピリン。ハミルトンくん」

「う、うん!」

「リブサーナちゃんは今度は僕を助けてくれた。彼女が帰ってくるのを信じよう」

 そう言って三人は迫りくる宇宙怪植物を携帯銃(ハンドライフル)のレーザーで倒しながらウィッシューター号に向かっていった。


 ウィッシューター号では爆発二〇分前にドリッドとブリックが到着し、その五分後にアジェンナとピリンとハミルトンが戻ってきた。ドリッドとブリックとアジェンナは操縦席に座り、艦長は司令席、ピリンとハミルトンは司令室の補助席に座る。

「艦長、リブサーナはどこら辺にいるんでしょうかねぇ。あと七分で爆発するってのに……」

 ドリッドが艦長に尋ねてきたが、艦長は黙っていた。

 その頃リブサーナは廃城のスクラップ場で宇宙怪植物を倒すための爆弾を作り、動力中核室にセットした。動力中核室は巨大な円筒型のコンピューターがいくつも並び、両壁には燃料を通す透明なパイプが迷路のように組み立てられていた。長いこと放っておかれていたために埃とパイプの破片と塵が重力で舞っていて灰色の霧の中にいるようだった。

 リブサーナは巨大コンピューターの真ん中の場所に爆弾をセットした。爆弾は基盤とコードとデジタルタイマーがむき出しになっているが、大切なのは爆弾をセットしたらリブサーナもウィッシューター号に戻るということだった。

 リブサーナが動力中核室から出ようとしたその時だった。リブサーナがハミルトンを逃す時に空けた孔から宇宙怪植物の群れが現れたのだ。

「うそぉっ!!」

 宇宙怪植物はリブサーナを見ると、一斉に襲い掛かってきてリブサーナは自分に向かってくる怪植物を携帯銃(ハンドライフル)のレーザーで粉砕した。怪植物は内側から赤く膨張して破裂して木端微塵になり、怪植物は仲間の死を見ても恐れずにリブサーナに向かってきた。

「くっ!!」

リブサーナは携帯銃(ハンドライフル)のレーザーを撃ち放ち、床を強く蹴って上の階へと移動し、自分に襲ってくる怪植物はレーザーで倒していった。

「あと少ししかない。時間もエネルギーパックも。わたしは怪植物の餌食か怪植物と一緒に爆炎に巻き込まれるか。運が良ければみんなの所へ……」

 あと七分のところでリブサーナは諦めそうになった。

(絶対に生きて帰るんだ!)

 リブサーナの頭の中に声が聞こえてきた。

(えっ、誰!?)

 男の声だった。艦長かドリッドかブリックからの通信かと思っていたら、電子音ではなく地声のような高めの男の声だった。

 リブサーナの前には糖蜜色の髪に浅黒い肌と大きな瑠璃色の瞳、水色のホジョ木綿のシャツと青いズボンと樹皮繊維の靴、体格は中肉中背、中の上の器量の青年が映っていたのだ。宇宙盗賊の襲撃で亡くなったリブサーナの兄・シグワールである。

(お前は死んではいけない! 生きるんだ!)

 兄の幻影を目にしたリブサーナはポカン、と別の声も聞こえてきた。

(そうよ、あなたには生きてほしいのよ、リブサーナ!)

 今度はリブサーナより少し高めの背丈にリブサーナと同じ翡翠色の瞳と中間肌に髪の毛は絹糸のようなさらさらの薄茶色の髪、質素な型の萌黄色のホジョ木綿のワンピースとショールと樹皮繊維の靴をまとい、髪を三つ編みにして更に緑リボン付きの麦わら帽子をかぶった女性の姿も映ってきた。リブサーナの亡き姉・ゼラフィーヌである。他にも働き者の父と優しくて教育熱心な母、村の幼馴染の少年少女や、村の大人たちや老人の姿も映し出されてきた。

「お父さん、お母さん、みんな……」

 宇宙盗賊によって命を奪われたエヴィニー村の住民の幻影がリブサーナを元気づけた。生き延びたリブサーナには自分たちが築けなかった未来を創ってほしくて。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、お父さん、お母さん、みんな……。わたし、生きてみんなのいる処へ帰る!!」

 リブサーナは宇宙怪植物をレーザーで撃ち倒していき、宇宙廃城の床や壁の破片の塊を怪植物に投げつけて押しつぶしたり、ある時は知恵を使って破片の塊を天井に投げつけて逃げ道を作っていった。


「うわぁ、あと二分しかねぇよ!! リブサーナ、頼むから戻ってきてくれよ〜!!」

 ドリッドが助けに行きたくても行けない状態でうろたえ、アジェンナとブリックも苛々しだして、ハミルトンはリブサーナの帰還を祈り、ピリンも艦長に尋ねてくる。

「サァーナをおいていかないよね? ね?」

「も、もちろんだとも……。だけど……」

 あと一分というところだった。

 ウィッシューター号の司令室より後部の所で、ガタン! という大きな音がしてきた。確かめに行きたかったが、ウィッシューター号のエンジンを起動させ、ウィッシューター号は上昇して宇宙廃城を飛び出していった。

 そして――。

 廃城にセットされた爆弾のタイマーの表示が「0」を示し、宇宙廃城は赤い爆炎に呑みこまれて、赤い超新星のように見えた。

 それからして、ウィッシューター号の司令室に宇宙服を着た人物が現れて、メットを外した。それは糖蜜色の巻き毛に深緑の眼、中間肌の人間(ヒューマン)型星人の少女であった。

「リブサーナ、帰還しました」

 メットを左手に抱えて右手で敬礼をとったリブサーナを見て、ウィッシューター号の艦員(クルー)たちは瞬時に緊張が解かれた。

「このヤロー、心配かけさせやがって!」

 ドリッドが操縦席から立ちあがってリブサーナの背を叩いてきた。

「シャーナ、おかえり! まってたぉ!」

「よく帰ってきたよ」

 ピリンとアジェンナもリブサーナに駆け寄り、肩を叩いた。グランタス艦長もハミルトンもリブサーナに歩み寄る。

「よくぞ戻ってきてくれた。リブサーナ……」

「良かったよ、本当に生きていて良かったよ……」

 ハミルトンは思わず泣き崩れてしまい、ブリックも操縦席からリブサーナの帰還を見つめていた。

「お帰り、リブサーナ」

 リブサーナは宇宙服を脱ぎ、いつものチュニックとひざ丈パンツ、網あげブーツの姿になって、司令室に戻ってきた。司令室にはハミルトンと操縦中のブリックがいた。

「家族や村の人たちのおかげで帰ることが出来た……」

 ハミルトンはリブサーナの心の中を覗いて呟いた。

「うん。もうダメかと思った時、お兄ちゃんやお姉ちゃん、村の人たちがわたしの前に現れて、わたしを元気づけてくれたの。『生きるんだ』って……」

「亡くなった家族や人々がリブサーナちゃんを導いてくれたんだよ、きっと……」

 ハミルトンも頷いた。リブサーナに続いてリボンとフリル付きのワンピース姿のピリン、黒いタイトシャツとスリムパンツ姿のアジェンナが入ってきた。アジェンナは手に銀のトレイを持ち、ポットと数個のマグカップ、マグカップと同じ数のケーキを持ってきた。

「働いた後はお茶とお菓子でリフレッシュよ。宇宙市場で買った惑星メイヤの花茶とセレブスイーツのお店『ツッカー=カイゼリア』で買ったケーキをどうぞ」

 アジェンナがリブサーナとハミルトンにマグカップとお皿を配る。ケーキはパステル系の紅・白・緑のサイケデリック柄のスポンジに岩石イチゴのクリームとチョコレートトッピングのついた見るからに美味しそうなものだった。アジェンナがマグカップにいい香りのするメイヤ=ジャスミンの花茶を注ぐ。

「ん〜、おいし〜? ああ、これが生きている喜びなんだな〜」

 さっきまでに九死に一生の思いをしたリブサーナがケーキとお茶をほおばって言った。

「しょーだ、ハミルトンしゃん。ハミルトンしゃんはあのおしろのしゃしんをとったんだよねぇ? あとでみしぇてくれりゅ?」

 ピリンがハミルトンに尋ねてきた。

「ああ、そうだね。食べたら見せてあげるよ」


 ティータイムの後、ハミルトンはアジェンナ、ピリン、リブサーナを率いて自身が撮った廃城の写真をワンダリングスの端末を借りて閲覧した。ハミルトンの部屋はすっきりしていて(研修生なので部屋は借り部屋だから綺麗にしている)、荷物はトランクと着替えとタブレット端末、一五〇時間分の充分な貨幣だけであった。ハミルトンは電子カメラと端末を繋げて操作し、画面には廃城で撮った室内や道具が映し出されていた。

「ハミルトンさんが撮ってくれたおかげで、廃城の生活ぶりがわかります」

 リブサーナがハミルトンの撮った画像を見て述べる。

「全部集めることはできなかったけれど……、これでも大学のレポートの資料としても充分だし……」

 ハミルトンがおだてられると、突然ピリンが叫んだ。

「ああーっ!!」

 ピリンの叫び声でアジェンナ・リブサーナ・ハミルトンは驚き、アジェンナはピリンに尋ねる。

「どーしたのよ、ピリン。いきなり叫んで……」

「ピリン、しゃっきいま、たいせちゅなことをわすれてたぉ!」

「ええっ、それは何だい!?」

「ま、まさか他にも怪物が……?」

 ハミルトンとリブサーナも深刻なことを言うピリンに訊いてくる。

「お、おたかりゃ!!」

「えっ……!?」

 ピリンの発言を聞いて、アジェンナ・リブサーナ・ハミルトンはきょとんとなった。

「あのおしろのおかたりゃ、もってかえるのわすれてたぉ!」

「あっ……」

 アジェンナとハミルトンは城の探索中の宝物庫で見つけた金貨や宝石の山を思い出して呟いた。

「ピリンちゃん、ごめんね……。怪植物と一緒に宇宙の藻屑にしちゃって……」

 怪植物から身を守るための手段だったとはいえ、リブサーナは苦汁を一気に呑み込んだようにピリンに悪びれた。

「ところで、あの宇宙廃城の扉が開いていたのは何でなの?」

 アジェンナが宇宙廃城を崩壊させた原因となった疑問を思い出した。するとハミルトンが申し訳なさそうに言った。

「……すみません。庭園の扉を開けたのは僕です」

「えっ」

 ハミルトンがそう言ってきたので、三人は何故かと思った。

「ちゃんと閉めたんですけど、老朽化していたのか植物のツルや根っこが引っかかっていたのか閉めが甘かったようなんです。皆さんを危険な目に遭わせてすみませんでした……」

 深々と頭(こうべ)を垂れるハミルトンを見て、リブサーナは言った。

「いや、これでおあいこよ」

「リブサーナちゃん……」

 笑いながら赦すリブサーナを見て、ハミルトンは顔を上げた。ハミルトンが誘拐された時、リブサーナは自分を責め悔んでいた。次はハミルトンがワンダリングスの艦員(クルー)に迷惑をかけ、リブサーナを絶体絶命に追い詰めてしまった。

 しかし、この二人が互いに対する危機を犯してしまったことで、互いの失敗は赦し補うことができたのだ。

 ウィッシューター号の後方では爆破した宇宙廃城が赤々と円状に光っていた。