8弾・1話 大戦の予兆



 緑生い茂る木々のある地に機械的な建物がそびえ立つ景色。人々は近い距離ならば徒歩、遠目の距離なら浮遊車(フロートカー)を使い、それより遠くの町や国ならば人歩道の上に造られたリニア列車で高速で移動していた。空は晴れで薄黄色と薄紅のまじった空で、白い雲と金色の太陽が浮かんでいた。

 ここはカッパ星域の西部にある惑星ウェルズ。主要種族は人間型異星人で、相手の心の中が見える精神読術(サイコリーディング)を持っている。そのため争いやいさかいもない平和な星であった。だが生活技術や文明が高性能であるため、連合軍加入惑星として登録されていた。

 ウェルズ星の首都スティーブン。広大な平地に駅や学校や商業ビルなどが並ぶ巨大都市で、ウェルズ星人の他、異星からの訪問者や旅行者も多々訪れていた。

 スティーブンより北に一五キロ先にある森林地帯近くの土に地建てられた古代紫の三角屋根に白い石壁の二階建ての屋敷、ウェルズ星大統領邸。

「以上でジェンキン星での、生活と政治の報告、了」

 屋敷の一角の部屋で、一人の青年が自分が訪れていたジェンキン星の状況の報告書の作成を終えていた。端末の画面には文章の他に棒グラフや円グラフなども書き込まれ、また誰もが読みやすいようにわかり易く文章表示されていた。

「多すぎず少なすぎずにまとめるの、って手間がかかるな」

 緑がかった黒髪を七三分けにしており、色白の肌、眼は丸みを帯びた薄茶色で三角顔、やせ型の体格に二色の生地を使ったレザーシャツに黒いスラックスの好青年は、現大統領の末息子、ハミルトン。次期大統領候補としては位の低い彼は旧王立学院の情報処理科に入っており、現場リポーターになるための勉強をしていた。端末につないだプリンターで報告書を印刷し、ページ順にまとめて父に見せて合否をもらおうと部屋を出た。

 大統領邸はマス目の多い窓が多く、窓の向こうの景色は緑の芝生と落葉樹の木々が見える。書斎に着くと、ハミルトンはドアをノックして尋ねる。

「僕です。ハミルトンです。報告書を持ってきました」

「入れ」

 ドアの向こう側から父の声が飛んできて、ドアは左右に開く。書斎室は両壁に書物やデータファイルが詰まっており、中心の机にはハミルトンの父、現大統領のロンダン=レイ=フェイバーが背もたれ付きの椅子に座っていた。ロンダンは細身のハミルトンとは違い、大柄で恰幅が好く、黒髪のオールバックに黄色いつり目、口髭と紺色の仕立ての良い赤いネクタイ付きのスーツの男性である。

「お前も二学年とはいえ、大学と公務の両立はきつくないのか?」

「いえ。体力的に疲れるけど、現場リポーターになるためなので」

 ハミルトンは父に自分の現状を伝える。

「ああ、そうだ。ハミルトン、お前には気になっている女の子がいるのか?」

 それを聞いてハミルトンは報告書を落としてしまい、紙がバサバサッと床に散る。

「と、と、父さん。何を……」

「いや、お前。現場リポーターになるための研修先として、連合軍の雇われ兵団ワンダリングスにいたじゃないか。んで、お前と年齢(とし)の近い女の子……リブサーナと仲良くなったんじゃないか」

 父からそう言われてハミルトンは顔を赤らめる。実際口出ししてはいないけれど、精神読術(サイコリーディング)で知られてしまったのだ。

「や……やですね、父さん。あの子は研修先での……ただの同行者ですよ。そりゃあ以前ぼくが宇宙市場(コスモマーケット)で誘拐犯に捕まった時、彼女たちが助けてくれましたけど」

 ハミルトンはそう言いながら報告書を拾う。

「そうなのか……。結構お似合いだと思ってたんだがなぁ」

 大統領が呟くと、卓上の通信モニターにコール音が鳴り、更に中老の将軍の姿が映し出される。

「どうしたベーマン将軍」

『大統領閣下、大変です。我が星に数十隻の黒い宇宙戦艦が向かってきます!』

「な、何だってぇ!?」

 ウェルズ星の上空では赤黒い鋭角な戦艦がいくつも現れてきたのだった。

「星軍、全員出撃要請せよ。一刻も敵を追い払うんだ! あとそれと、同盟星軍に援軍を……」

 大統領はベーマン将軍にそう下した。ウェルズ星の住民は突如現れた軍艦を目にして恐れだしてパニックになっていた。


 ある日突然、数十隻の赤黒い宇宙戦艦が出現したのはウェルズ星だけでなく、宇宙の三分の二の星域にある惑星で赤黒い戦艦が現れ、連合軍や星の戦士たちが立ち向かっていったが、宇宙シラミを改造したライゾルダーの群れや武力・超能力に猛けた宇宙人たちの襲撃を受けて衰退していった。

 メスィメルト星で惑星テーラの魔神の封印が解けて、数千年ぶりに復活した六大創造神の魂の結晶を見つけたワンダリングスの面々も宇宙各域や連合軍の危機を知って、ためらった。

「くそっ、テーラ星の魔神の一味め。勢力を一気に広げやがった」

 体の色が赤茶色で筋肉質でガタイがあり、頭部に長い黄色の二本の触角、眼は鋭く赤と黒の三白眼で、背に黒地と赤斑の上翅と透明赤銅の下翅を生やしている。口から二本の牙がはみ出ているドリッドがウィッシュター号の操縦席のモニター画面で連合軍の宇宙艇がテーラ星の魔神の一味の襲撃を受けているのを目にして唸る。

「といっても、最後の一人の創造神の魂の結晶はどこにあるか……」

頭部と腕脚と胴体が赤く、顔と二の腕と大腿が白いロボット型生命体のヒートリーグが気弱そうに答えた。その時、ウィッシューター号の司令席近くの盤状モニターに通信が入り、体の表面が黒くて堅い皮膚に覆われ、頭部に黄褐色の二本の触角と黄褐色の複眼、複眼の下に鋭い黄褐色の瞳、口吻には老人の証のホウレイ線とあごひげ、体型はガタイがあり、節のある黄褐色の両腕と両足は丸太のように筋肉質で、背中に黒い堅い上翅と黒透明の下翅、更に肩に「>」の黄褐色の長い突起、象牙色(アイボリー)のローブを着たこの船の艦長グランタスが颯爽と出る。

「はい。こちらワンダリングス。応答願います」

 すると盤状モニターの画面から立体的に連合軍の青と白の軍服軍帽に全身が銀色の毛におおわれた赤ら顔に鋭い目とギザ歯の宇宙連合軍現総帥が映し出される。

『私は宇宙連合軍総帥ヴォーザーだ。ワンダリングスに救援を要請する。宇宙連合軍本部に来てくれ。敵の目的は連合軍全ての壊滅だ。本部をもし落とされたりしたら、敵の思うツボだ。どうか頼む』

 ヴォーザー総帥はしゃがれ声を出しながらグランタス艦長に求めた。

「宇宙連合軍本部が攻め落とされたら、連合軍の弱体化は確実、だな」

 スリムな長身に肩まであるストレートの銀髪、白い肌と水色のつり目、有機合成人のブリックがレプリカントならではの知能を使って計算する。

「といっても、れんごーぐんほんぶとここかりゃじゃ、だいぶきょりがありゅよね。いしょいだって……」

若葉色の巻き毛に綺麗な銀色の瞳を持ち、耳の先が尖っており、背中に細長く透き通った四枚の翅がついており、戦士ではないので子供用のドレスを着たピリンが言う。

「一二〇時間かかる。何せ連合軍本部はプシー星域とオメガ星域の間にある衛星を基地にしたのだからな」

 グランタス艦長が連合軍本部の現在地点を伝える。

「確かに最後の六番目となる創造神を見つけ出すのも大事だけど、連合軍本部に向かうのが先だと思う。本部をテーラ星の魔神たちに落とされたら……」

 肩まであるうねりの入った糖蜜色の髪を緑のヘアバンドで飾り、肌は中間肌、大きな深緑の眼に卵型の顔、背丈も普通で体型はやや細い人間型異星人のリブサーナが言った。

「元も子もないものね。本部を守り通してから、最後の創造神探しに行った方がいいかもね」

 長くてサラサラの紺色の髪と切れ長の深紫の瞳、色白の肌にシャープな顔立ちに高い背に均整のとれたグラマー体型、頭部に銀灰色の二本のピンと張った触角、背には透明銀色の四枚の薄翅がついているアジェンナがうなずく。

「よしっ。となると進路を連合軍本部に向ける。燃料と食糧の補給以外は寄り道せん! 出発進行、全族前進!!」

 グランタス艦長が指揮をとり、メンバーは操縦席のコンソールを動かし、ウィッシューター号はプシー星域とオメガ星域の間にある連合軍本部へと向かっていった。


 ワンダリングスが宇宙連合軍本部に向かっている頃、ユープシロン星域の宇宙空間に浮かぶ小惑星があった。その小惑星は突起が三つ有り、表面には宇宙艇の発進到着のための穴が六つあり鬼の頭の形をしていた。小惑星を移動基地風に改造した物で、ユープシロン星域だけでなく、宇宙の三分の二の星域に小惑星基地が設けられており、細かい衛星軍に遮られており、肉眼では見つかりにくくなっていた。

 小惑星基地はテーラ星の魔神の一味に所属する者の基地であり、彼らは自分たちの長であるテーラ星の魔神を"あのお方"と呼んでいた。

 基地の中は廊下は四方を強化合金材で型どられ、天井は暗い青の通路に昼白色の電灯がうっすらと光り、宇宙艇のメンテナンスや修理、所属者たちの仮眠室や食堂といった設備があり、小惑星基地の上部は巨大モニターや通信機器がある司令室をはじめとする設備が整えられていた。そしてこの小惑星基地には、

長身に赤紫のロングヘアに白い肌に、黒いエナメル材のタイトスカートのスーツ姿の人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)の若い女のベラサピア、浅黒い肌に長めの暗緑の髪、切れ長の琥珀色の瞳、細身ながらも筋肉質の体つき、背丈は一八〇センチ代の人間型のエルダーン、赤茶色の伸ばした短髪に青緑のけだるそうなめつきに小高い鼻に尖った顎のレプリカントのヴィルク、そして宇宙兵器商人で黒いケープ付きのスーツに禿げ頭のような紫色のうろこ状の頭部と尖った耳に細長くつり上がった紺色の眼の異星人であるリークスダラーが集まっており、巨大モニターに映し出される不気味なつり上がった赤い目と大きく裂けた口の映像に向かってかしこまっていた。

『よくぞ集まった。我が部下たちよ……』

 スピーカーから低くて恐ろしくも威厳のある"あのお方"の声が聞こえてくる。

「メスィメルト星では連合軍及びワンダリングスに基地を壊滅させられてしまいましたが、他の惑星では基地の建設に着々と進行しております」

 前回メスィメルト星で基地の壊滅を招いてしまったベラサピアが告げる。

「ふん、折角上手くいっていたのにワンダリングスに邪魔されるとは、賢美女(ベラサピア)の名がすたるぜ」

 エルダーンが小ばかにするようにベラサピアに言った。自分とウマが合わないとはいえ、エルダーンにあざけられたベラサピアは言い返した。

「あんただって予知能力を持つレプリカントのヴィルクを連れてまでエイスタイン星で創造神の魂の結晶を手に入れる筈が、間に合わずに失敗したじゃないの」

「よくもまぁ、自分の失敗は仕方がないばかりに答えて、俺の失敗ははっきりと指摘するもんだな」

「私、知っているのよ。あんたが敵の女に惚れてるってことを。それもよりによってワンダリングスのリブサーナだってね」

「ぐ……。お前、どうしてそれを?」

 ベラサピアに突かれるとエルダーンは止(とど)まる。するとヴィルクが答える。

「エルダーン様の携帯端末の画像データにリブサーナの画像が入っていました」

「ヴィルク、てめぇ!」

 エルダーンはヴィルクにとっかかる。

「お前ら、よさんか。"あのお方"とはまだ通信中だぞ」

 リークスダラーがエルダーンを諌めた。

『本題に入る。ワンダリングスが今から数千年前に我を封印した創造神の魂の結晶を見つけ、更に創造神が実体を得るための依代として選ばれたそうだな』

 それを聞いてエルダーンたちが体を軽く身震いさせる。

「も、申し訳ありません……」

「すでに六柱のうちの五柱があやつらの手に渡ってしまいました……」

 エルダーンとベラサピアは"あのお方"に懺悔する。

『だが六柱全員がそろわなければ、我と対等にならぬということだろう?』

「どういう意味ですか?」

 リークスダラーが"あのお方"に尋ねる。

『最後の創造神、雷心(らいしん)のリツァールは我が軍の中に捕らえておる。リツァールの魂の結晶は捕虜となっている』

 エルダーンたちは最後の創造神の魂の結晶が自軍の手の中にあると知ると一旦は目を丸くするが、創造神六柱がそれわなければ、まだ優勢になると理解したのだった。

 雷閃と精神を司る創造神リツァール。彼は"あのお方"の軍に囚われているというが――。


 ウィッシューター号は宇宙連合軍本部に着くまで、全速力で向かっていた。操縦席は四時間おきに交代し、また仮眠や銃撃・肉弾戦の訓練に誰もが励んでいた。

 あと半分で宇宙連合軍本部に着く時、リブサーナとアジェンナは組手の特訓をしていた。拳による打撃、蹴りのかわし方、防御の仕方と衝撃の強いマットの上で行(おこな)っていた。

「はぁ、はぁ……。十分くらい休憩しよう」

 リブサーナは汗まみれで域を荒く吐き、アジェンナも同じようになっていた。

「そ、そうね。これ以上続けてたらケガしそうだし」

 二人はマットの上に大の字になって休んだ。二人とも活動性があって着替えやすいメッシュ材のトップスとスパッツを着用していた。

「アジェンナ、わたしね思ったことがあるの」

「何?」

 アジェンナはリブサーナが尋ねてきたのを横目で応える。

「創造神が全員集まって、テーラ星の魔神を倒すことが出来たらさ、みんなどうなるんだろうと思って……」

 リブサーナの問いにアジェンナがしばし考える。ワンダリングスに加入した理由は誰もが異なる。アジェンナは思い人の宇宙吟遊詩人のティリオを探して再会するためにワンダリングスに入った。彼とはピアエンテ星で再会した後は、ティリオは故郷の星が危機に瀕しているため母星に戻っていた……。

「確かにねぇ。考えてもいなかったわ」

「やっぱりワンダリングスを続けるの?」

 リブサーナの質問にアジェンナはまた考えてから答える。

「そうねぇ。故郷のアンズィット星を離れてから何年も経つんだし、あたしも身を固めて故郷に戻って両親と姉妹に顔を見せておかないとね。そしてティリオとの結婚出来たら、って思った時期もあんのよ」

「あー、そっか……。結婚、かぁ」

 リブサーナの姉・ゼラフィーヌは近隣の村の金持ちの息子と婚約していた。なのに婚約者は他の女と結婚したがり、宇宙盗賊を呼び寄せてリブサーナの生まれ育った村を壊滅させた。リブサーナは両親と兄姉、友達や近所の住民を喪った。

他に身寄りのない彼女は宇宙盗賊を捕らえにきたグランタス艦長たちに発見され、ワンダリングスに入った。

 ワンダリングスに入ったリブサーナは多くの星々をめぐり、多種多様な宇宙民族と出会い、戦うこともあった。

(バトナーチェ星で出会ったケストリーノはホジョ星にちゃんとたどり着いて、そこで暮らしているんだろうか)

 リブサーナは以前に連合軍の依頼でバトナーチェ星に逃げ込んだお尋ね者を探しにバトナーチェ星催し物である格闘大会に潜入参加して、連続チャンピオンのケストリーノが同じホジョ星人だと知った時は思ってもみなかったのだ。ケストリーノはお尋ね者の手によって負傷し、また格闘技も続けられなくなったので、リブサーナは連合軍に頼んでケストリーノをホジョ星に送りかえしてもらったのだった。

「わたし、廊下に出てるね。ここにいるのもナンだし」

 リブサーナは起き上がって実践訓練室から出た。すると廊下でヒートリーグとピリンと遭遇した。

「おっ、リブサーナ。ちょーしはどーお?」

「いや、ボチボチだよ。連合軍本部に着くまでやることは思ってたよりあるし」

 リブサーナはそう言った後、ピリンとヒートリーグにも訊いてきた。

「ねぇ、ピリンちゃんやヒートリーグはさ、テーラ星の魔神との戦いが終わったらどうしようとか考えている?」

 リブサーナが突然今まで言わなかった言葉を発してきたので、二人はキョトンとなる。

「ど、どうしたんだよ、急に……」

「サァーナ、なんでしょんなこときーてくんの?」

 二人に訊かれてリブサーナは答える。

「何ていうかさぁ……。テーラ星の魔神との戦いが終わったら、今まで通りの生活に戻れるのかどうか考えるようになっちゃって。そりゃあ、ワンダリングスのみんなは好きだよ。だけど、戦い後の宇宙って被害が大きそうじゃない? もしかしたら復興まで一〇〇年もかかる星あるんだし」

「確かに、ね。天災であれ戦災であれ、被害の爪痕って凄まじいよ。テーラ星の魔神との戦いの次はみんなの故郷の再建ってのは、おかしくないかもしれない。僕も故郷のメタリウム星に帰るのが大方ずれちゃったし。でもワンダリングスは居心地良かったからなー」

 ヒートリーグは?気そうに言うと、ピリンはうつむく。

「ピリンは、フェリアスしぇいにかえりたくないな。あしょこにもどりゅと、おもいだしちゃうし」

 ピリンはリブサーナと出会う前に故郷のフェリアス星の天災でたった一人の家族である母を亡くした。ピリンにとって故郷は悲しみの思い出と化していた。

「そういうリブサーナはどうなんだよ」

 ヒートリーグが尋ねてきたので、リブサーナは返事をした。

「故郷のホジョ星に戻ったとしても、迎えに来てくれる人はいなさそうだし、ワンダリングスを続けるかラムダ星域の連合軍に入隊するか……」

 故郷のホジョ星から離れていたとはいえ、恋しいとか帰りたいという気持ちは少なく、リブサーナは自分がすっかりワンダリングスの一員に染まっていた。

「三人とも、こんな所で何をしている?」

 ブリックが自分の研究室から出てきて、リブサーナたちに尋ねてくる。

「あ、いやぁ。色々とありましてね……。テーラ星の魔神との戦いは油断してはいけないなと語り合っていてね……」

 ヒートリーグがブリックに言った。


 その後でリブサーナはまた鍛錬に戻り、三度目の食事と入浴を終えると、自分の個室に戻って机上の日記に手を伸ばす。ウィッシューター号の廊下や室内は暗銅色(ダークブロンズ)の下壁と床、象牙色(アイボリー)の上壁と天井でどの個室は壁に備え付けられた机とクローゼットと棚、小さいタラップの付いた柵付きベッド、椅子は背もたれと肘かけの付いた布張りで床と一体化して回転式。ベッドの真下に丸い窓が付いていた。ホジョ星から旅立って、毎日ではないけれどつけていた日記は紙面の手帳三冊分になっていた。楽しいことや嬉しいことばかりではなく、苦しいことやくやしいことも綴られていた。日にちを見てみると、ホジョ星出発から数えてみてみると、一四ヶ月が経っていたことに気づいた。ホジョ星は一年が一六ヶ月でリブサーナは一年の大方をワンダリングスで過ごしていたのだ。

 そういえば背丈も三、四センチ伸びていた。リブサーナの誕生日は初夏の雨の多い時期であった。ホジョ星でのリブサーナの誕生日はもう過ぎていた。リブサーナの一七歳の誕生日は仲間たちが祝ってくれていたが。