7弾・5話 三番目の創造神三番目の創造神


 するとリブサーナとドリッドの持っている魂の結晶が仄かに輝いて、フリーネスとソルトゥーが話しかけてくる。

「リブサーナ、私に替わって下さい。創造神を狙ってくる敵には私が行きましょう」

「ええ、そうね。その方がいいわ」

 ソルトゥーもドリッドに言う。

「彼奴らに仲間を一人でも滅されたら、テーラの魔神は倒せないからな」

「お、おう」

 リブサーナとドリッドは創造神に自分の体を貸し、それぞれ緑と紅蓮の光に包まれて、緑色の外甲と紅蓮の外甲の創造神が現れる。

「おおっ、しょーじょーしんがでてくれるとありがたいぉ」

 ピリンが創造神の登場を目にしてウキウキしだす。

「だが創造神に戦いを任せると我々の立場が薄くなってしまうがな」

 ブリックがこの場の状況の皮肉を言う。

「となると、私たちはどうしたらいいんですか?」

 アジェンナが二人の創造神に訊いてくると、フリーネスが言った。

「そなたたちは現星民の保守をすればよかろう」

「あ、それもそうですね......」

 アジェンナは「確かに」と悟った。

「フッ、これが創造神ですか。まぁ、実体がないため異星人の体を借りておかないと動けないのは困った点ですね。ですが、私の戦いは本気です!!」

 そう言ってトゥイステは二人の創造神に自信が創り出した風の生物を向けてくる。大型猛禽類、オオカミ、ヒョウ、牙のある巨大魚、ワニ、大蛇といった巨大生物の姿の風の獣が襲い掛かってくる。

 しかしフリーネスは長杖を出して円を描いて緑色の光波の盾を出して風の獣を掻き消し、ソルトゥーは片腕を長銃に変えて引鉄を引いて銃の噴射口から出された火炎弾で風の獣を撃ち抜き、風の獣は散っていく。

「なかなかやりますね。ですが私は風があれば、いくらでも下僕を出すことができるんですよ!!」

 トゥイステは次々に風の獣を生み出し、二人の創造神は風の獣に立ち向かっていく。


 一方でアジェンナ、ブリック、ピリンはフィーザ族の住民をなるべく安全な場所に避難させていた。住民を地下室のある家の中に入れて、地下室で待機するようにと忠告したのだった。フィーザ族の家では冷季の備蓄食料を入れておくための家がいくつかあった。おまけに暗くて二畳くらいの狭くて湿っぽい場所であったが、"あのお方"の配下が暴れている今は仕方がなかった。

 アジェンナたちが村人を避難させた後、建物の外に出ると、風の獣が待ち伏せしていたのだ。

「くっ、我々の邪魔をさせるためか......」

 ブリックは風の獣を目にして唸るも、携帯銃(ハンドライフル)にエネルギーパックを装填して銃口を向けた。ドンッ、ドンッと銃口からオレンジのエネルギー弾が撃ち放たれて、風の獣たちが消えていく。

「ナメちゃん、あいちゅらをやっちゅけて!!」

 ピリンがヨツデスネルのナメちゃんに命令する。ヨツデスネルは触手の先から粘液弾を出していき、風の獣を掻き消していった。

 アジェンナは携帯銃のエネルギー弾と個人の武器である長剣を振り回してトゥイステの生み出す風の獣を掻き消していった。

「くっ......。倒しても倒しても、すぐに新しいのが出てくる......」

 アジェンナは気づいた。風の獣を倒せば倒すほど、携帯銃のエネルギーパックと自身の体力が削られていくのを。だがアジェンナは挫けることはなかった。彼女の後ろには逃げそびれたフィーザ族の老人や幼子、女性や親子がいるのだから。

 アジェンナは右手に剣、左手に携帯銃を持って風の獣を斬り裂いたり撃ち抜いたりしていたが、携帯銃のエネルギーパックが切れた。

「くそっ」

 アジェンナが油断した隙に風の狼がアジェンナの後ろにいるフィーザ族の人々を襲おうとして突進してきたのだ。

「てやっ!!」

 アジェンナは風の狼に剣を投げつけ、アジェンナの剣が風の狼の体を貫いて、近くの岩壁に剣が突き刺さった時だった。

ピカッと紫色の光が岩壁の亀裂から出てきて、崩れると剣と共に親指大の結晶が出てきたのだった。その結晶にはつむじ風の紋章が刻まれていた。

「これって、もしかして......」

 アジェンナは結晶を手に取り、結晶が光りだして、アジェンナを包み込んだのだった。

「これは......!!」

「ここに眠っていたのか、我々の仲間が!」

 フリーネスとソルトゥーも声を揃える。

「なっ、何だと!? 三番目の創造神の魂の結晶に選ばれたというのか?」

 トゥイステも驚愕した。


 アジェンナがいた場所にはアジェンナの代わり、いやアジェンナを依代にして三番目の創造神が甦ったのだ。

 頭部・胸・肩・両腕・両脚は紫玉(アメジスト)の如く紫の外甲に覆われ、頭部と両肩、両手首、両足首、背中には石英のように透き通った羽毛が連なった翼型で頭部には嘴のようなパーツが付いていた。

「まさかアジェンナが......」

「おどろきだぉ」

 ブリックとピリンも目の当たりに仰天する。

「目覚めたのですね、ウィーネラ」

 フリーネスがアジェンナを依代にして甦った創造神・ウィーネラを目にして尋ねてくる。

「ああ、久しいな。フリーネス、ソルトゥー。今依代となっている者の勇志と妾に共鳴して、妾は甦った」

 ウィーネラはフリーネスとソルトゥーに語る。ソルトゥーがウィーネラに言う。

「昔、我々が封印したテーラの魔神が復活して、宇宙全体を自分たちの支配下におこうとしている。そして欲ある者を自分の配下にして、兵を集めている。あの男もな」

 トゥイステは三番目の創造神がフィーザ族の地にいたのは確かだが、先に越されたことに悔しさを感じ、両手を天に掲げて空から無数の風がいくつも集まってきて、巨大な風のドラゴンを創り出す。

「くそぅ、ワンダリングスめぇ!! お前らが創造神の魂の結晶を見つける前に破壊する任務が失敗した!! ならば、お前たちの首を"あのお方"に献上するまでだ!!」

 さっきまでとは上品で落ち着いた口調から激情的で怒りのこもった言葉を発しながら、トゥイステは風のドラゴンを三体の創造神に向けて放ってきた。

 ビュワァァ、と風のドラゴンが前進するだけで強風が起き、建物や獣舎の屋根や壁が剥がれ、ピリンも軽さのあまり飛ばされそうになったが、村の人たちがピリンを地下室に移れていってあげたので助かった。

 三体の創造神も風のドラゴンの強風を受けてフリーネスとソルトゥーが両腕で体をガードしてとどまりつつも、ウィーネラが前に進み出て、更に手から中振りの長剣を出してくる。ウィーネラの剣は白銀の刀身に太陽や月や炎などの紋様が刻まれ、柄は紫で黄玉のような飾り石がはめ込まれていた。

 ウィーネラは剣を持つと、剣先を十字×字と八方に振るい、技の詠唱を放つ。

「悪滅法、ウィズダムゲイル!!」

 すると紫の八陣の風の刃が現れて、トゥイステの出した風のドラゴンを斬り刻み、風のドラゴンは八つに斬れて消え、トゥイステも自身が乗っていた風の獣も斬られて消えて、自分も地面に落下した。

「ぐうっ......!!」

 トゥイステは丈夫な鎧に覆われつつも、鎧は所々に大小の傷が入り、また下地の破れた傷から赤い鮮血が流れていた。

「これが創造神の力......。何て、ことだ......」

 そう言ってトゥイステは力尽きて気を失い、ブリックと何人かの村人がトゥイステを拘束した。


「うーん......」

 アジェンナは眠りから覚めると、医療室のカプセルの中におり、また服装もタンクトップとスパッツだけの装いになっていた。

「ああ、アジェンナ。目が覚めたのね」

「よかったぉ」

 カプセルの外にリブサーナとピリンが立っていた。リブサーナはカプセルの蓋を開けてアジェンナを出してトップスとスカートを渡した。

「アジェンナも創造神に選ばれたのよね」

 リブサーナがそう言うと、アジェンナはキョトンとなる。

「しょーじーしん、ウィーネラはアジェンナのからだをかりて、"あのおかた"のぶかをやっつけたんだぉ」

 それを聞いてアジェンナはその記憶を引っ張り出した。フィーザ族の村でトゥイステと戦っている中、トゥイステの出した風の獣を剣で刺した岩壁から紫の結晶が出てきて、それからのアジェンナは三日間も眠っていたという。

「まぁ、創造神に体を貸すとアジェンナの精神は眠らされるからね。動ける? 艦長たちにも顔を見せなきゃね」

 リブサーナはアジェンナに言った。

 ウィッシューター号はすでにヴィントル星を出ており、今はヴィントル星を出発して三時間が経過していた。その三日間はワンダリングスはフィーザ族の村の片づけを手伝い、落ち着くと村を出たのだった。アジェンナは司令室に行き、艦長たちに自分が三番目の創造神の依代になったことを話した。

「リブサーナとドリッドに続いてアジェンナもか......。創造神はあと三体。

 あと、トゥイステはアジェンナが眠っている間にピー星域の連合軍に引き渡した。今頃は拘置されている頃だろう」

 艦長はアジェンナに言ったのだった。それからしてブリックがアジェンナにウィーネラの魂の結晶がはめ込まれたブローチを差し出してきてくれた。ブローチは盾形の金色の枠にウィーネラの結晶の紫とよく映えた。

「こうすれば持ち歩けると思ってな」

「ありがとう、ブリック」

 アジェンナはブリックからブローチを受け取ると、早速左胸に付けた。

「おっ、これはなかなか......」

と、その時アジェンナの体が軽く痙攣し、首が下に垂れた後、ムクリと顔を上げる。

「むっ、もしかしてぇ」

 ピリンはアジェンナの様子を見て言った。

「ワンダリングスの者たちよ、初めまして。妾は風と智略を司る智嵐(ちらん)のウィーネラ。今はアジェンナの意識を眠らせて、体を借りている」

 ウィーネラはアジェンナとは違った高い声を出して艦長たちにあいさつする。

「ああ、初めまして......」

 艦長がウィーネラに返すと、ウィーネラはワンダリングスに告げてくる。

「妾に続く創造神の気配を感じた。ロー星域にあるエイスタイン星に眠っている」

「えっ、何でエイスタイン星にあるってわかるの?」

 リブサーナがそれを聞いてウィーネラに尋ねてくる。ソルトゥーとウィーネラの時は風景と地表しかわからなかったからだ。

「言ったであろう。妾は風と智略の創造神。次の創造新のいる星の名くらいわかるぞよ」

 そう言ってアジェンナの体からウィーネラが出ていくと、アジェンナの意識が戻ってくる。

「あれ、またか。ウィーネラに体を使わされたの......」

 気づいたアジェンナは艦長に言ってきた。

「アジェンナ、お前がウィーネラの依代になったことで、次の創造神の場所がわかった。エイスタイン星だ」

 アジェンナは何のことかと首をかしげると、リブサーナが言ってきた。

「四番目の創造神はエイスタイン星にいるってさ」

 ウィッシューター号はロー星域にあるエイスタイン星に進路を向けていった。


「......」

 ヒートリーグは一人むくれ顔で操縦席で宇宙艇の操縦をしていたのだが、誰も見てくれなかった。

「僕の出番、どうなんだよ......」

 次の展開で彼の活躍があるかどうかはまたにしよう。