5弾・2話 宇宙戦士武闘大会


 ワンダリングスがバトナーチェ星に到着してから六日後、武闘大会開かれる浮遊岩都市で宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)が開かれた。

 開催先の浮遊岩都市はリブサーナたちの宇宙艇を停泊させている浮遊岩都市の一〇倍お大きさで、五階建ての岩造りの家屋や店、市役所や教会、学校もとてつもなく大きく大学もあって二五の学部と男女数百人の学生が在籍されていた。巨大浮遊都市は王族領で中心に美しい形建造された城、北に大聖堂、西に市庁舎、東に大学、そして南に闘技場が設けられていた。

 闘技場は真上から見ると巨大な横長の円状で、客席はゆうに一〇〇〇人は収容できるのだ。

 大会当日は風のない凪の状態で気候は晴天、空には花火がパンパンと打上げられ、ピンクや青や黄色の煙を弾かせていた。

 非バトーナーチェ星人の異星人(エイリアン)たちは翅や翼のある者は自分で飛んでいって大会先へ飛んでいったが、そうでない者はバトナーチェ星の巨大生物、カークコに乗って移動していた。

 カークコは嘴と蹴爪が黄色い全長一〇メートル程の巨大なカラスのような姿をしているが、羽毛は紫や紺、臙脂といった暗調色であった。バトナーチェ星人はカークコに客を乗せるための大型カーゴを胴体につないで操者の持つ笛の音色に従って客を運搬するのだ。

 リブサーナたちもカークコに乗って巨大浮遊岩都市に向かっていくと、数十羽のカークコがバトナーチェ星人以外の異星人を運んでいる様子が見られ、また飛翔能力を持つ異星人の姿も見られたのだった。

 浮遊岩大都市にカークコが着陸すると客たちはカーゴから降りて、カークコと操者は次の客を乗せるために飛び去っていった。闘技場にはバトナーチェ星人や他の異星人が数え切れないほど来ており、出入り口前の受付で参戦が観戦かで登録されるのだ。

「はい。観戦は右、参戦は左に行ってくださいね」

 リブサーナたちもグランタス艦長・ピリン・ガイディは客席、リブサーナ・ドリッド・アジェンナ・ブリックは左へ行った。


 大会参加者として戦士控え室にやってきたリブサーナたちは大会出場者の数とその姿に目を見張る。男女年齢様々のバトナーチェ星人、獣型や鳥型や魚型などの異星人、人間(ヒューマン)型星人も背の高いのや小さいのや肌の白いのや黒いの角のあるのや翼あるのと多々だった。

「は〜、けっこう色んな種族の異星人(エイリアン)が宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)に参加するのね」

 リブサーナは大会に出場するという異星人を見て呟く。控え室も充分広く、岩を削ったベンチや衝立、闘技場内にはトイレやシャワー室、食堂や弁当屋、土産物店もある。

 リブサーナたちはワンダリングス所属の証である肩パット付きの胸鎧と手甲とすね当てを装着している。防具は全員銀色で胸元に超新星型にかたどられたプリズマイトがはめ込まれており、リブサーナは緑、ドリッドは赤、アジェンナは紫、ブリックは青と分けられている。

異星人(エイリアン)たちも各々の星や所属先特有の鎧や防具を身にまとい、防具や武器を持っていない者はレンタル防具で装備していた。

「だが我々の任務は大会に紛れ込んだという連続傷害罪のお尋ね者を探して逮捕することだ。遊びじゃないんだから」

ブリックがリブサーナに言った。

「はーい」

「にしても、こんなに出場者がいるんじゃ、かえって見つけづらいわよ?」

 リブサーナが返事をし、アジェンナが周囲を見回す。アジェンナは長い紺色の髪を後ろで一括りにし、鎧の下は紫色の背空きのトップスと白いフィットパンツと黒い軍靴を身につけており、彼女の頭部には水銀のように垂れた触角、背には薄い銀色の四枚翅がある。アジェンナはアンズィット星人でこのような姿なのだ。すると幾人かの異星人(エイリアン)戦士がアジェンナに近寄ってきた。

「よう姉ちゃん、あんたも出るのか?」

「この後お茶でもしねぇか?」

 異星人戦士はアジェンナには訛りや方言に聞こえる言葉でナンパしてきた。リブサーナも人間(ヒューマン)型星人の青年が数人やってきて取り囲まれる。

「君、かわいいね。どこから来たの?」

「君みたいな美少女は鎧よりもドレスの方がお似合いだよ」

 リブサーナはナンパされて戸惑い困り果てる。

「あ、あの……。困ります……」

「二人共何やってんだ。他の男からナンパされるなんてよ」

 ドリッドが異星人の男たちからナンパされているアジェンナとリブサーナを見て呆れる。


 観客席では家族や友人が大会に参加するので戦士たちの親子兄弟や友人、また大会を楽しむ為に来ている異星人(エイリアン)やバトナーチェ星人が集まっていた。グランタス艦長・ピリン・ガイディは北側の上から三番目の席に座っていた。

「はやくたいかい、はじまりゃないかな〜」

 グランタス艦長とガイディの間に挟まって座るピリンがソワソワしていた。

「まぁ、そう焦らずに。あっ、リングにレフェリーが現れましたよ」

 ガイディが艦長とピリンに言った。闘技場の中心には長方形のリングがあり、南エントランスからレフェリーの青年が出てきた。

 レフェリーは身の丈一八〇センチ程のやや細身の中年男で右手に赤い旗、左手に白い旗を持ち、黒いスカーフをのどの真ん中で結んでいた。レフェリーが出てきた南エントランスホールの真上の席には実況役のバトナーチェ星人の青年、青年の左隣には解説役のバトナーチェ星人の初老の男が座っていた。実況役は右手にハンドマイクを持っている。

「さぁ、今回も始まりました。バトナーチェ星開催の第六〇回宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)! 会場にお越しの皆様、今回も観戦に来訪してくださってありがとうございます。

 実況はわたくしジム=バルヴァで、解説はガロ=リッツォです。今大会はいつもより少ない七二名という出場者ですが、戦いは数よりも質。熱く盛り上げてくれるでしょう!

 まず予選は時間制限内で戦い合うバトルロイヤルです。制限時間の一三ロム(二五分以内)に七名が勝ち残れば本戦に出場の権利が与えられます。

 それでは選手、入場!!」

 実況役のジムの台詞と共に南のエントランスホールからこの大会の出場者たちがぞろぞろと出てくる。人間(ヒューマン)型、獣型、鳥型、魚型、虫型、爬虫類型、中には三メートルの身の丈の大型異星人(エイリアン)やブリックと同じ人造人間、多種の異星人がリングの上に集まる。

「あっ、サァーナたちだ。おぉーい、サァーナー、みんなぁー!!」

 ピリンがリングの上の仲間を見て大声で叫ぶ。するとピリンの声に気づいたブリックが手を振り、リブサーナもピリンたちのいる方角に笑いながら手を振った。

「続いては大会一〇連続優勝者のケストリーノ選手です。ケストリーノ選手は前大会優勝者のため、予選の出場はありません。

 それではケストリーノ選手のご来場です!!」

 ガロが説明を終えると同時に、南エントランスホールの出入り口からケストリーノが現れる。ケストリーノは他のバトナーチェ星人よりも一五センチほど低い一七〇センチ半ばの背丈に緑がかった茶色の髪はレイヤーが入り、灰色がかった緑の眼、赤や黄色がかった肌が多いバトナーチェ星人としては磁器のように白い肌で、細身ながらもしなやかな体躯、黒いマントをまとい、マントの下は黒いインナーシャツとレギンスとベージュのチュニック、足元は輪をいくつも連ねたサンダル、腹部にはチャンピオンの証である金細工と赤と白の宝石のついたチャンピオンベルトを身につけていた。

「初めまして及び久しき選手のみんな。宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)に来てくれてありがとう。

 僕がチャンピオンのケストリーノだ。僕は子供の頃からこの大会に出場し、チャンピオンの座を保ってきた。

 選手たちよ、このベルトとチャンピオンの座が欲しくば、僕と戦え。己の手で栄光をつかみとれ!!」

 チャンピオンのケストリーノのスピーチが終わると、ワァァァッと観客席が盛り上がった。特に若い女性や子供のバトナーチェ星人にとって、チャンピオンのケストリーノは憧れの的であった。

「きゃ〜、ケストリーノ様、素敵〜!!」

「ケストリーノ、格好いい!!」

 自分たちの周りにいるバトナーチェ星人の女性や少年たちの熱狂ぶりを見て、グランタス艦長とピリンは呆気にとられる。

「何という人気ぶりだ……」

「チャンピオンってしょんなに、しゅかれるものなの?」

 ピリンが尋ねてきたのでガイディは艦長とピリンにチャンピオンのケストリーノの小情報を伝える。

「まぁ、ケストリーノ殿は十三歳で大会デビューして、今に至りますからねぇ……。ただケストリーノ殿は育ちはバトナーチェ星ですが、生まれは全く別の星の者だそうで……。どこ星域の何の惑星出身までかは……」

 ガイディがピリンと艦長にわかる言葉でケストリーノの情報を伝えた。するとリングでは制限時間十二ロム内に勝ち抜くバトルロイヤルが始まっていた。

「うおおっ」

「りゃあああっ!!」

 選手たちは自身の拳や武器で目の前の相手と次々にぶつかり合っていき、倒された者は場外負け、相手を負かしていった者は次の相手に攻撃という形で戦っていた。

 大会に出場したワンダリングスの面々も何としてでも本戦に出場するために選手たちを倒していった。ドリッドはトンファーで相手の攻撃を防いだり回転させて突いたり、ブリックも三又槍(トライデント)を持ってなぎ払ったり矛先に相手を引っ掛けて場外に出したり、アジェンナは長剣を持って峰打ちや斬撃で相手を倒していき、リブサーナもスライディングやジャンプを駆使して他の選手をぶつけさせ合ったり、すねを払ったりと相手をなるべく傷つけさせまい様にと勝ち抜いていった。

「予選終了まで、五、四、三、二、一……。終了!!」

 レフェリーの声でリングに残っているのは七人だけになった。リブサーナ、アジェンナ、ドリッド、ブリック、他の三人の異星人選手が残った。三人とも非バトナーチェ星人である。倒されていった者は場外で失神、もしくはリング上で横になっていた。

「バトルロイヤルで終了!! 本選出場者はこの七名に決定いたしました!!」

 ジムの実況で観客席がもりあがりって歓声を上げた。客席にいるピリンもグランタス艦長とガイディに仲間が予選を全員勝ち抜いたことに大はしゃぎする。

「や、やったぉ〜! サァーナたちがほんせんにでられるぉ!!」

 ピリンが喜んでいるとグランタス艦長が突然叫んだ。

「あっ、しもうた! もしかしたら予選敗退者の中に宇宙犯罪者が紛れていたかもしれん! 何ということだ……」

 艦長がぼやくと、ガイディが言った。

「それもそうでしたね。ですが敗退者の中には観客席の閲覧者として残っている可能性もあるので、流石にお尋ね者が予選敗退を利用して逃げることはないと思います。

 何ぜプロの武闘家ですから負けることはないと思いますよ」

「む……、そうか。そういえばわしらが探しているお尋ね者は元武闘家だったっけな。

 まぁ、それはそうと四人とも本選に参加が決まって良かったわい」


 本選に進出できたリブサーナたちは四人揃って闘技場の中には入り、闘技場の食堂で午後の本選に向けての昼食を採ることにした。

 食堂は二〇のカウンター席と三〇人が座れるテーブル席があり、テーブルは長方形で一度に六人が座れることができる。やはりカウンターもテーブルも椅子も岩を削った物である。厨房から油の爆ぜる音や野菜を炒める音が聞こえ、肉の焼ける匂いや魚のスープの匂いなど漂い、料理人や客人の声が混ざって聞こえる。食堂の席はリブサーナたちの他、予選敗退者が観客として残るために来ていたり、他の観客が来ていたりと騒がしかった。

 リブサーナたちに運ばれてきた料理は塩と香草の粉で味付けされた青菜炒め、大きな器に入った魚と雑穀団子のスープ、猪肉と野ネギと鳥卵入りの炒め米飯、そして陶器の水差しに入った茶である。

「は〜、十二人くらいとやり合っていたから、腹減って腹減ってたまんなかったんだよな〜」

 ドリッドが山盛りの炒め米飯とスープを器から自分の小皿や小鉢によそおって食べる。

「私も十人ほどのしてきたからなぁ〜」

 アジェンナも木さじで炒め米飯をすくって口に入れる。

「午後から本選ってやつに入るからスタミナつけておかなきゃ」

 リブサーナが箸で青菜炒めをつまんで食べる。

「じゃあ私もちょっとだけなら……」

 ブリックが小皿と小鉢に米飯と青菜、スープを一杯分だけよそう。レプリカントは有機生命体よりも優れた体力と知能、寿命と回復力を持っているため四十日に一度だけ摂取するレプリカント専用の栄養剤注入だけで睡眠も食事も微量で済むのだが武闘大会となると流石に食べた。

「ん……?」

 リブサーナはスープをすすっていると、誰かからの視線に気づいた。

(まさかお尋ね者が、この食堂に……?)

 席から立ち上がってピリンや他の面々が驚くも、リブサーナは辺りを見回す。

「ど、どうしたの、サァーナ?」

「急に立ち上がって、何があったのですか!?」

 リブサーナの行動を見て驚いたピリンとガイディが尋ねてくるも、リブサーナは正気に戻って着席する。

「えっ、いや、その、む、虫がいて、つい……」

 リブサーナは苦笑いしてみんなに言った。

「何だよ、おどかしやがって……。大げさな」

 ドリッドが呆れて言い返した。しかしリブサーナはどうしてもさっきの気配が一体誰からのものだったのか気になったままであった。


 食事を終えた観客たちは会場の客席に戻って午後からの本選に備えて待機する。実況のジムがマイクを持ち直し、観客に午後の本選を開始を伝える。

「さぁ、予選で本選出場者が七名決定致しましたところ、本選の試合を開始します。

 本選に勝ち残った七名の選手の入場です!」

 南エントランスの出入り口からリブサーナ、ドリッド、アジェンナ、ブリック、二メートル超えの恐竜型異星人(エイリアン)の男、耳長尾長の獣型異星人の青年、そしてツルンとした肌の魚型星人の男が入ってくる。そして北側エントランスの出入り口ケストリーノが出てくる。

「あの三人の中にお尋ね者がいるんだよね?」

「ああ。でも誰なのか観察する必要があるからな」

「だけど俺たちゃ、何度もテロリストや宇宙艇ハイジャック犯や犯罪者たちと戦ってきたワンダリングスだぜ。油断さえしなけりゃ、それでよしだ」

「おっと試合決めが始まるよ」

 リブサーナ、ブリック、ドリッド、アジェンナは自分ら本選出場者の三人を見て話し合う。試合決定はくじ引きで行い、レフェリーの用意した小箱からくじを一つずつ引いて当たった数字の近い者同士が初戦の相手となるのだ。

「ではまずチャンピオンのケストリーノ選手」

「はい」

 レフェリーに呼ばれてケストリーノはくじ箱に手を入れ、中から「U」の数字が入った薄い石板を引く。

「次はドリッド選手です」

 ドリッドが呼び出されて彼は「W」の数字を引く。

「次、ヌーメ選手」

「ああ」

 ツルンとした肌の魚型星人の男が指の隙間に透明な水かきのある手で「Y」のくじを引く。

「次、アジェンナ選手」

「はーい」

 アジェンナが引いたのは「T」であった。

「あら、あたしあの子と試合なの? でも他の同属と面するよりはいっか」

 アジェンナはケストリーノを見てドリッドたちに言った。

「それでは次、ブトール選手」

「おう!」

 軽く二メートルは超える鋭い黄色い目に紫と藤色の皮膚と鋭角な牙と爪を持った恐竜型異星人(エイリアン)の男がくじ箱に手を入れる……が手も大きすぎるため爪でくじを引っ張り出した。

「俺は『X』だ」

 ブトールはレフェリーに自分が引き当てたくじを見せる。

「ブリック選手」

「はい」

 ブリックが引いたのは「V」だった。

「次、ボリン選手」

「はーい」

 耳長尾長に茶色い体毛に覆われた獣型異星人(エイリアン)の青年がこれまた細長い手でくじを引いて「[」を引き当てた。

「最後、リブサーナ選手」

「はっ、はい!」

 リブサーナは自分の名を呼ばれてくじ箱に手を入れる。引いたのは残った「Z」であった。リブサーナはほっとした。仲間やいきなりチャンピオンとぶつからなくって、と。

「それでは対戦の組み合わせが終わったので、すぐに第一試合を行います。奇数の選手は左に、偶数の選手は右に行って待機してください」

 リングの上には西側にはケストリーノ、東側にはアジェンナが立つ。

 ワァァァッ、と観客席が盛り上がり、本選第一試合が始まる。

「ケストリーノ、ケストリーノ!」

 客席の観客たちがケストリーノに声援を送る。

「さぁ、皆様お待たせいたしました! 第六〇回宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)本選第一試合です。今大会では新人選手(ルーキー)が四人も予選を勝ち抜いたことが注目の鍵となるでしょう。どうでしょうか、解説のガロさん?」

「初出場四人が全員、流浪の兵団ワンダリングスの出身ですからね。どんな試合(バトル)を見せてくれるか楽しみです」

「ですよねぇ。それでは今大会初出場のアジェンナ選手、出身はアンズィット星、武器は長剣! 二一歳の美女です。どのような戦いを見せてくれるでしょうか」

 ジムがアジェンナの情報を観客に簡潔に説明する。

「続きましては今大会一〇連続大会優勝のケストリーノ選手! 十三歳でデビューし、それから一〇優勝を保っています。今回も優勝なのでしょうか?」

 アジェンナは腰に差している長剣を引き抜き、ケストリーノも背中に背負っていた大剣――ブロードソードを抜いて片手に持つ。

「それでは試合開始!!」

 リングの外に設けられた銅鑼を従業員の少年が叩いてアジェンナ対ケストリーノの対戦を開始させる予告を鳴らした。

「アジェンナーッ、がんばれぇ〜!!」

 客席からピリンが応援する。アジェンナとケストリーノは互の剣を振りおろし、ガキィィィンと刃がぶつかり合う音が響き合う。アジェンナは流石にこのまま進撃したらまずいと思ったのか後退して剣を構えたまま、ケストリーノとの戦法を考える。

(ただの優男かと思っていたら、そうでもなかった。あの子の目、本気だった。宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)で修羅場をいくつも戦い抜いてきたとはいえ……)

 他のワンダリングスメンバーとの組手や幼少期の修行時代の武術の師匠、自分が今まで相手にしてきた宇宙盗賊やお尋ね者、彼らの目つきはこんなに険しいものではなかった。アジェンナより年下の一八歳の青年の目は武闘大会の戦士のためかそれとも武闘大会よりも以前の環境での経験かわからなかった。

 ケストリーノは自身の大剣を縦垂直に振り降ろし、斬撃を放ってきた。アジェンナはその斬撃に気づくと、長剣を横に構えてケストリーノの斬撃を防いだ。

「ん……く、く……」

 ケストリーノが放った斬撃は尋常に強かった。アジェンナはその斬撃でズリズリと後ろに押され、気がついた時にはリングからはみ出そうになっていた。

「あ、アジェンナ!!」

 待機しているリブサーナが声を上げた。

「落ち着け、ここで負けたとは限らない」

 隣にいたブリックがなだめる。ブリックの案の定、アジェンナは斬撃に押されそうになるも、右に転がり斬撃を避け、斬撃は客席の真上の壁にぶつかり、かすかな縦直線の亀裂を残した。

「アジェンナ選手、間一髪!! チャンピオンの斬撃を防いだ〜! さぁて、ここからどうするのでしょうか!?」

 ジムの実況の後、アジェンナは剣を持ち直してケストリーノに向かって駆け出す。だがケストリーノはまた斬撃を、今度は横一文字に振るって剣を出し、アジェンナは斬撃の下の方へよけて、ケストリーノのすねに剣を向ける。

(こうなったら一ヶ所ついて攻めるしか……)

 そう思った矢先だった。ケストリーノは地面に大剣を突き刺してそこから円状の衝撃を出してアジェンナはその拍子で吹っ飛ばされ、リングから落ちてしまった。

「勝負あり、チャンピオン・ケストリーノの勝利!!」

 レフェリーの判断で左手の白旗を上げ、第一試合終了の銅鑼が鳴った。

「ケストリーノ! ケストリーノ!」

 観客はケストリーノの勝利で歓声を上げ、アジェンナは手で背中を押さえて立ち上がる。

「アジェンナ、しっかり!」

「だ、大丈夫よ、これくらい……。だけどチャンピオンのケストリーノは思っていたより強い……」

「ああ、斬撃と衝撃だけで相手を倒してしまうとは……」

 ブリックもケストリーノの強さに評を出す。

「アジェンナ、まけちゃったよぉ〜!」

 ピリンがアジェンナの第一戦で敗退を見てくやしがる。

「あ、アジェンナ殿はいきなりチャンピオンが相手だったこともあって、こうなることも予想できてましたよ……」

 ガイディがピリンに言った。

 一方リングではケストリーノは剣を背中の鞘に収めると、アジェンナを介抱するリブサーナに目を向ける。

(ホジョ星人のリブサーナ、君がどういう子か確かめさせてくれよ……)

 ケストリーノはリングから降りて、選手の控え場に戻った。