6弾・5話 カムサ星での任務


 オーロリウムの採取にアクシデントが起きたものの、リブサーナたちワンダリングスは鎧を直すための材料を手に入れ、パイ星域の宇宙製鉄所に戻ることができた。

「こんなにオーロリウムを手に入れることができたのか! サービスとして、安く修理しておいてやるよ!」

 製鉄所のラーヴァ星人の職人がワンダリングスが手に入れたオーロリウムを見て言った。オーロリウムは軽く五〇キロはあり、リブサーナの修理に取り掛かった。

 鎧が完成するまで一同は宇宙製鉄所の出入り口近くに泊めてあるウィッシューター号で鍛錬や休息を取ることにして、リブサーナはオーロリウムを手に入れた星でついでに入手した緑の結晶を見つめていた。

(ホントにこれ、何なんだろうな……。あそこの星の人たちは原始人だからこんな物を作れる訳がないし、他の星から転がってきたのかもしれない。隕石が落とした物なのかも)

 見れば見るほど、美しくエメラルド色の輝きを放つこの結晶はリブサーナを魅了させた。するとリブサーナの携帯端末に着信音が鳴り、画面のアイコンを叩くと、グランタス艦長の姿が映し出される。

『さっき製鉄所から連絡が入った。鎧の修理が終わったらしい』

「本当ですか? じゃあ、行きます!」

 リブサーナは自分の部屋を出て、結晶をシャツのポケットに入れて宇宙艇を出て製鉄所に向かっていった。


 リブサーナの直った鎧は跡形もなく新品のようになっていた。

「ありがとうございます。あ、お金出さなきゃ」

 リブサーナがラーヴァ星人の職人に修理代を出そうと服のポケットを探っていると、コインの他にもさっきの惑星で手に入れた結晶もあったことに気づく。リブサーナはコインの他にも緑の結晶を出した。

「これは?」

 リブサーナが持っている結晶を見てラーヴァ星人は尋ねてくる。

「この結晶……、気に入っているんで、これをアクセサリーにしてくれませんか?」

 リブサーナはラーヴァ星人にお願いした。

「わかった。これくらいならすぐに終わるよ」


 リブサーナは宇宙製鉄所を出た後、ウィッシューター号に戻っていった。

「おお帰ったか。それじゃあ出発するか」

 グランタス艦長が帰ってきたリブサーナを見て艦員(クルー)を司令室に集めた。

 ウィッシューター号は宇宙製鉄所を出発して、後部から青白い放物線を放出させながら、紫紺の地に金銀の星屑や赤色青色などの惑星のある空間の中に入っていった。

 ウィッシューター号の運転が落ち着くと、操縦席のある司令室の担当をアジェンナに委ねて、他は訓練室や研究室へ向かっていった。

「アジェンナ、二時間経ったらわたしと交代ね」

「あいよ」

 リブサーナはピリンとヒートリーグと共に司令室を出て廊下に入っていった。

「おりょ? サァーナ、こんなのもっていったっけ?」

 ピリンがリブサーナの様子がいつもと違うことに気づいた。

「そういえば何か…て、コレか」

 ヒートリーグもリブサーナを見て気づく。リブサーナは宇宙製鉄所に行っていた時は髪を下ろしていたのに対し、後ろ髪のふた束を銀色のバレッタで留めていたからだ。

「ああ、これね。製鉄所に行っていた時に作ってもらったの」

 リブサーナはバレッタを二人に見せる。バレッタの中心には緑色の結晶がはめ込まれていた。

「あっ、それ……かみどめのかざりにしたんだ」

 ピリンが結晶を見て言った。ヒートリーグはリブサーナの髪留めを見つめはじめる。

「ど、どうしたのよ、いきなり見つめだしちゃってさ……」

 リブサーナはヒートリーグに言った。

「いや、さぁ。この結晶、どこかで見たような気がするんだけど……」

 それを聞いてリブサーナとピリンは首をかしげる。

「それって、いちゅどこ!?」

「えー、なになに? 気になっちゃう」

 するとリブサーナとピリンの携帯端末、ヒートリーグの体内通信機に司令室のアジェンナから連絡が入る。

『みんな司令室に来て! 連合軍から依頼が届いたわよ』


 ワンダリングスの艦員が司令室に全員揃うと、アジェンナは盤状モニターのコンソールを動かして、モニターの画面に今回の依頼内容が映し出される。

「依頼はパイ星域座標〇一三にある惑星カムサ。この星は金銀や鋼や鉛などの鉱物資源に恵まれた惑星で、住民は惑星の金属を異星人に売って生活しているそうよ。

 ただ近年では未発掘の鉱脈を見つけた輩が牛耳るようになって、貧富の差が出ちゃってるのよね。んで、私たちが頼まれたのがある男の逮捕」

 画面に一人の人間(ヒューマン)型異星人(エイリアン)の顔が映し出される。長いボサボサの髪と髭は黒く、やぶにらみの赤茶色の目、肌は浅黒く痩せぎすである。

「フェリシオ=エーギル。カムサ星の大都市ティルシーの貧困街に住む男で、自分と同じ身分の子供たちに富裕者の食糧や金品を盗ませて生活しているの。

 連合軍はこの男を児童虐待材と窃盗罪で逮捕してと」

 エーギルのプロフィールを見てリブサーナは青ざめて気落ちする。

「ひどい……。子供たちに盗みをさせるなんて……」

 いくら貧しいからって子供たちを犯罪に走らせるのはあんまりだと思った。実際、子供も宇宙奴隷の商品として扱われることもあり、穴掘りなどの狭い場所の労働力として使われているのだ。リブサーナは宇宙奴隷児を何度も救っていた。

「そうなる前にエーギルを捕まえておかないとね」

 ヒートリーグも賛同する。

「よし、今すぐ惑星カムサへ向かう」

「ラジャー!!」

 ウィッシューター号は進路をカムサ星に定めて、ウィッシューター号は宇宙空間をかけていった。その間にカムサ星の語源の習得と常識などを学び、銃や体術の訓練を施す。

 依頼を受けてから十三時間後にウィッシューター号はカムサ星に到着。カムサ星は灰色や茶色の地形に緑が所々点在し、脈のような川や不定形な型の池湖が青く現されている。カムサ星は大陸が東・北・西南の三つに分かれ、ティルシーは東の南部にあった。

 ウィッシューター号は東大陸の北部にある岩の平地に着陸させて、リブサーナたちがウィッシューター号から降りると、鮮やかな青空に扇状に広がる白い雲、太陽は白金に輝いていた。地表は灰茶色の広大な堅い地に都市の近くには山がいくつもあり、それが鉱山であることがわかった。

 カムサ星は鉱物には恵まれているが植物は非常に脆弱で、カムサ星人は古来から自分の星の鉱物と他星の草木や作物と交換して生活を成り立たせていた。

 山の近くの都市はビルや建物が生えるようにそびえ立ち、街の周囲には他星の針葉樹や落葉樹の木々を植えて、自然を保っていた。

「今回はわしとブリックが待機組であとは任務実行を任せる」

「了解」

 リブサーナ・ドリッド・アジェンナ・ピリン・ヒートリーグは携帯端末や救急キットや携帯銃(ハンドライフル)などの必需品を持ってティルシーの街へ入っていった。街に入るには街の周りを囲む植林地帯を抜けることだった。

「ホントにいりょんなきがうえられているぉ」

 ピリンが木々の外壁を見て呟く。堅い木柔らかい木、幹の白い木黒い木、甘い果実の木毒の実の木、花を咲かせる木葉だけをつける木といった木々がカムサ星の地面に根付いて茂らせていた。

「しっかしこんなに種類が異なる木がたくさんあると、枝が長かったり短ったりするから危なく感じるよ」

 ヒートリーグは枝をおらないように頭を下げたりかがんだりと移動していた。カムサ星人以外がカムサ星の木の枝を折ったり木を切ることは犯罪になるからだ。

「ありゃー、ヒートリーグは一度バイクに姿を変えておけばよかったわね」

 リブサーナがヒートリーグを見て言った。

「街が見えてくるぞ」

 ドリッドが他の艦員に言ってきた。植林地帯を終えると、ミラーガラス張りのビルや高層住宅や街の地面から高く離れて走るレール電車、平たく舗装された道路、街の住民も華やかであった。人々は皆、髪や目や肌の色も異なり、光沢性のあるシャツやスカート、スパンコール入りのジャケットやラメを使った靴を身にまとい、細身や巨体や毛長や短毛や大型や小型の犬を連れている人々も見かけた。

「ほ〜、ずいぶんとにぎやかだねぇ〜」

 ピリンが年の様子を見て感心する。

「うん、でもわたしたちは異星人とはいえ、ここにいる人たちとは場違いな服装でいるからな〜」

 リブサーナは自分たちとカムサ星の都市の人々を見比べて気にする。リブサーナは緑色のチュニックと白い七分丈パンツと茶色のアーミーブーツという都市の住民から見れば地味な服装で、ピリンも白いえりとスカートの黄色いレイヤードワンピースでアジェンナも紫のタイトワンピースとガータータイツと黒いブーツに革のボレロジャケット、ドリッドも軍用のシャツとジャケットとカーゴの姿であった。そのため周囲のカムサ星人はもの珍しげにリブサーナたちをチラ見したり、小さい男の子なんかはヒートリーグを見てはしゃいでいた。

「見てー、ロボットだよ!」

「はいはい、さぁ行きましょう」

 男の子は母親に手を引かれて行った。

「まぁ、俺たちはエーギルを探しにこの惑星に来たんだ。ここは三手に分かれてエーギルの情報の収集だ。見つけ次第、連絡するように」

 ドリッド、ピリン&アジェンナ、リブサーナ&ヒートリーグと三手に分かれて、ヒートリーグはバイクに姿を変えてリブサーナを乗せて街中を駆けていく。街中は人間や犬、その他の乗り物があるためスピードは弱くしなくてはならなかった。

「にしても、本当に平和そうね」

 リブサーナはカムサ星のティルシーの都市の様子を見て呟く。一階が店になっているビルのショーウィンドーにはドレスやスーツが飾られ、他にもデスクトップ端末やテレビ、バッグや靴、飲食店のカフェテラスは羽根付き帽子をかぶった婦人がお茶をしたり、ガラスケースに商品のケーキやクッキーが置かれていた。

「ヒートリーグ、ちょっと喉が渇いたから、あそこの店で買わせて?」

「うん、わかった」

 リブサーナはデリカテッセンの前でバイク姿のヒートリーグを停めて、中に入る。扉は自動ドアで、デリカテッセンの中は両壁は冷蔵棚になっていてハムや魚の燻製などが置かれ、店の真ん中の棚は瓶詰めや缶詰や袋詰めの食品が置かれていた。どの客も店の買い物かごに商品を入れていた。

「良かった。コズムは使えるんだ」

 リブサーナはカムサ星でもコズムが使えると知ると、缶ジュースとザラメビスケットの小袋を持ってレジスターに進んだ。

「八六コズムだよ」

 眼鏡をかけた店の店主がリブサーナの買った商品の値段を言ってきたので、リブサーナはその額の高さに驚いた。

「ちょ、高くないですか!?」

 レジ打ちをする店主は四角眼鏡を直しながらリブサーナに言った。

「高くない、って……都市では物価が高いのは当たり前だよ。あんた、さては異星人の観光客のようだね。嫌なら買うのをやめるかい?」

 主人が言ってきたので、リブサーナは財布からコズム貨幣を出してジュースとビスケットを買って店に出た。

 店の前で待っていたヒートリーグがリブサーナに言ってきた。

「リブサーナ、この通りを右に曲がった所にこの都市の地図の看板があるのを見かけた」

「あっ、そうなの? じゃあちょっと待って」

 そう言ってリブサーナはジュースを飲み、ビスケットを五枚とも食べると再びバイク姿のヒートリーグに乗って通りの右に曲がった。通りの右には確かに地図の看板と習い事や求人募集の電子掲示板の隣に地図があった。

 地図は夜でも見える電子掲示板で、ティルシーの街がよくわかるように表示されている。

 リブサーナたちがいるのは街の北部で貴族や資産家の住む地域で、西南は一般人の住む街で農業と工業が盛んで、東は貧民街として表されていた。

「北区と東区、西南区は川で区切られているのかー……。もしかしたらエーギルという人は東区に住んでいるんでしょうよ。東区の真上は北区と唯一繋がる橋があるみたいよ」

 リブサーナは街の地図を見てエーギルのいそうな場所を確認すると、ヒートリーグに乗ってそこへ向かっていった。


 一方、ドリッドはブラブラと平和そうなティルシーの街を歩いてはエーギルの情報を人々に聞いて回っていたという。

「エーギルかぁ……。この男は七日に一度は質屋や宝石再利用店に来ては一万コズム前後の現金と換えているようだ。ただなぁ……」

 ドリッドに尋ねられた巡査が答える。カムサ星人の警官は白い帽子とジャケット、紺のスラックスの制服で白は潔白、紺は誠実を現しているという。

「エーギルはこの北区には住んでいない。別の区に住んでいるよ。ただ僕は隣の市から転任してきたからよく知らないんだ」

「ああ、そうか。じゃあ、わかりやした。後は自分で探します」

 ドリッドは巡査と別れると再び通りを歩く。道路の真上はレール電車が走り、人々は歩くか反重力で動くスクーターや小型カーに乗って移動している。

「腹減ったから何か食おうかな……」

 ドリッドはフードストアの前に止まり、腰ポシェットの中を探ると、いつも持っている黒い蛇鱗の財布がないことに気づく。

(お、落とした!? いや、バッグのファスナーは閉じていた。そうか、俺が警官に話しかけている間にすられたんだ!)

「……ちっきしょうめ!!」

 ドリッドはほんの数分の間に財布を盗まれたことに台詞を吐き、周囲のカムサ星人がドリッドの大声で振り向き、乳母車の中の赤ん坊は驚いて泣き出す。

「うわーん!」


 アジェンナとピリンはエーギルの情報を確かめに危険を承知で東区の貧民街に来ていた。

 貧民街はおしゃれで清潔な北区、平凡で質素な西南区と違い、家は金属板や木板をつなげた小屋が多く、隙間もあり窓は夜になったらしめるもので、ガラスなんてない。道の舗装道路は割れていたり欠けていたり、家のない場所は草ぼうぼうの空き地で、他にもボロボロのコンクリート造りの家や建物、何世帯が集まって暮らす集合住宅も壁がシミだらけだったり、厚手のテントで住む者もいた。

 住んでいる住民もつぎだらけの服を着ていたり、靴も破れているか裸足、川に出て桶と砧で洗濯する女たち、北区と西南区を分断する川で小舟に住む者、子供たちも活気がなく道の端っこで座っているか家の中でぼんやりする子供も多かった。

「なんか……しゅごいありぇているところだね」

 ピリンが貧民街の様子を見て呟く。

「うん……。でもね、ここに住んでいる人たちって、鉱脈どころか名産品も生み出せなくって稼げなかったり、病気やケガや障害持ちだったり、落ちぶれたりして転がり込んでくる場所だから……」

 アジェンナはピリンに説明する。すると二人の前に色あせた上下の服を着た髪も髭もぼさぼさで褐色の肌でやせこけた背曲がりの老人が出てくる。

「すみませんが、金持ちのお嬢さん方。この憐れな老人におめぐみを……」

 老人はヨレヨレと進み出てきてアジェンナとピリンに施しを求める。

「ええ〜、どうしよう〜」

 ピリンは困りだした。アジェンナは躊躇うが、もしかしたらと思い、老人に自分が持っている非常食のカロリースナックと五〇〇コズムを差し出す。

「恵んでやってもいいけど……、おじいさん。エーギルって男を知っている?」

 アジェンナに聞かれて老人はしばらく考え込んでから答える。

「知っているとも。この街の中心に廃工場を根城にしている男だ。エーギルは貧民街の孤児たちを集めている」

「ありがとね、おじいさん」

 アジェンナは老人にお金と食糧を渡すとピリンを連れて貧民街の中心の工場へ向かっていった。


 リブサーナとヒートリーグはエーギルを見つけるために北区と東区をつなぐ橋へ向かっていったが、何と橋は老朽化で壊れ、ヘルメットをかぶった工事員らが修理をしていた。

「東区へ行くのなら、西南区にある橋を使うんだね。遠回りになっちゃうけど」

 橋は三分の一までができており、工事員たちは火花避けのゴーグルをうけて溶接機を持ったり小型のクレーン車を動かしたりしていた。

「そうですか、わかりました……」

 工事現場の監督の中年男はリブサーナに言った。

「でもねぇ、本当は放ってほしいんだけどね。東区との接しは。でも社長命令だからなー」

「社長命令? 橋って街の人たちが出した税金で作った、物だから公共物なんじゃ……」

「これは社長の提案なんだよ。街の壊れた道や堤などを直す都市再生事業ってやつだよ。まぁ、カムサ星は鉱物が盛んなのもあるんだけどさ」

 現場監督はリブサーナに教えた。リブサーナはヒートリーグに乗り、西南区に向かっていった。

 バイク姿のヒートリーグは豪勢な北区よりも劣るが、平凡で平穏な西南区にやって来た。西南区は二階建ての住宅や三〜五階建てのマンションが多く、街中には三角屋根の白い建物が多く、窓からはそれは野菜や果物を作る施設で、苗や種は土と肥料を混ぜ合わせた地面に植えられ、天井の電熱で光合成をし、施設の職員がホースで水をまき、実ると収穫する仕組みになっていた。

「あっ、バイクだ」

「かっこいー」

 背中にリュックサックを背負ったこの地区の男の子や女の子の六人組がバイク姿のヒートリーグを見てはしゃぐ。リブサーナは一旦停車して子供たちに声をかける。

「カムサ星の農業ってハイテクなのね」

 子供たちはリブサーナの台詞を聞いて、訛りがあることから非カムサ星人だと気づいた。

「お姉ちゃん、もしかして他の星の人?」

 男の子の一人がリブサーナに尋ねてくる。

「うん。わたしはね、ラムダ星域にあるホジョって惑星の生まれなの」

 子供たちはそれを聞いて首を傾げる。

「ホジョ? 聞いたことがないなぁ」

「田舎の惑星みたいね」

 カムサ星の子供たちがホジョ星のことを知らなかったり田舎の惑星だと言われると仕方ないと思ってリブサーナは沈黙する。

「でもね、田んぼや畑が建物の中で作られるようになったのは、スラムから来る子供たちが畑の野菜や果物を盗まれないようにするための策なんだよねー」

 黒縁眼鏡の男の子が言った。

「そうなんだ……」

 リブサーナはそれを聞いて納得する。

「でもスラムの子たちは一ヶ月前までは北区の人たちから財布やアクセサリーを盗んでいたのよね。北区と東のスラム街をつなぐ橋が壊れたために西南区に住む人の家に入って空き巣をしたり、作物所の野菜を盗むようになったんだよね」

 赤毛に薄緑の眼の女の子が答える。

 リブサーナは子供たちから情報を教えてもらうと、迷路のような西南区の街を走っていった。

「何かさ……、この星、治安とかどうしているの?」

 バイク姿のヒートリーグがリブサーナに尋ねてくる。

「うん……。カムサ星に来る前に手に入れた情報ではさ、鉱脈の持ち主が権力者になって、ほかの人たちに金属加工や鍛冶などの仕事を与えて生活しているらしいじゃない?

 ティルシーの街を治めている人も権力者っぽいし」

 リブサーナがヒートリーグに質問を返して答える。

「んで、仕事を与えられなかった人間は下へ追いやられていく。それで乞食になったり、盗んで生活していく術(すべ)を持つことになるんだね」

 ヒートリーグが続けて言っていると、リブサーナは住宅街でカムサ星人以外の人物を目にした。

「ドリッドだ!」

「本当だ。でもここって乗り物を使わないと、結構体力使うのに……」

 ヒートリーグはリブサーナを乗せたまま、ドリッドのいる方向へ駆け寄る。

「ドリッド、どうしたの? こんな所で」

 リブサーナがヘルメットを脱いでドリッドに声をかける。

「おお、リブサーナか。実は北区にいる時、俺の財布がすられちまってな。目撃者の証言を元にして、走ってきたんだ。街の住民からはみすぼらしい服装の子供って言うから、橋を渡ろうとしたら壊れていて修理中だし、また東区の貧しい住民が稼いでいる川渡しの金もないから、自力でここまで来たって訳だ」

「あらら……」

 リブサーナとヒートリーグはドリッドの話を聞いて気の毒に思った。リブサーナは少し考えてから、ヒートリーグに尋ねる。

「ねぇ、ヒートリーグ。二人乗り出来る?」

「ええ!? 出来ることは出来るけどスピードが……」

「二人も乗せられるんなら乗せろや!」

 ヒートリーグはドリッドに言われて、リブサーナとドリッドを乗せて西南区と東区をつなぐ橋へ向かっていった。そのおかげで速度は低下してしまったが。

 西南区の通りは人々は作物工場で働いていたり、学校の校庭で縄跳びや遊具で遊んでいたりする子供たち、井戸端会議をする主婦たち、庭木の手入れをする老人の姿が見られ、ずいぶんと静かだった。

 走っているうちに西南区と東区をつなぐ橋が見られて、灰白色の質素なコンクリートの橋をヒートリーグは渡っていった。

「着いたよ〜」

 ヒートリーグが二人に言った。

「うわぁ……」

 リブサーナは東区の荒廃ぶりを見て呟く。どの人間も古びた家屋や路上で寝そべっていたり座っていたり、屋根の上にはカラスによく似た鳥が何十羽も泊まっていてギャアギャア鳴き、お腹が空いているのか幼い子供の鳴き声も聞こえた。

「あわれな貧乏人におめぐみを……」

 ドリッドとリブサーナを見て、東区の人間が二、三人寄ってくる。裸足だったり靴が破れていたり、杖をついていたりした。

「ど、どうしよう、ドリッド」

「俺は今、財布ねーんだぜ。さっきの貧民街のガキにすられてよ!」

 ドリッドが困っているリブサーナに言うと、裸足の男が言ってきた。

「ああ、そりゃエーギルがやったんだよ。あいつは孤児を集めて盗みをさせているんだ。旦那が財布をすられたのもエーギルの仕業だ」

 それを聞いてリブサーナとドリッドは耳を逃がさなかった。

「それでエーギルって人はどこに!?」

「教えてもらいたかったら施しを下せぇ。タダでは教えませんね」

 裸足の男が催促してきたので、リブサーナは仕方なく男たちの一人二〇〇コズムずつ与えた。

「エーギルって男はこの街の中心にある廃工場にいるんでさぁ。もしかしてあんたたち地上げ屋かい? 無理だよ。エーギルは俺たちと同じ貧乏人だが頑固でね」

「……地上げ屋じゃねぇっての」

 男たちに〈地上げ屋〉と言われてドリッドはますます気を悪くしたが、リブサーナに促されてエーギルが住んでいる廃工場に向かっていった。

「エーギルって人に子供たちに悪さをさせるのを止めに来たんでしょ、わたしたちは。怒るのはその後」

 リブサーナになだめられたドリッドは少し冷静を取り戻した。

「……しゃあねぇな」