7弾・8話 メスィメルト星


 ワンダリグスがメスィメルト星へ向かっている時、エルダーンは臨時基地の衛星で自分たちの長である"あのお方"に報告していた。基地内の通信室は巨大なモニターやコンソールといった機器が設置され、エルダーンは巨大モニターに映し出される白い画面に赤い鋭い目に大きな口の映像――"あのお方"の通信画面に向かってエイスタイン星での件を伝える。

『エイスタイン星でも、創造神が甦っただと......?』

 モニターのスピーカーから聞こえてくる"あのお方"の声はノイズと地声なのか押し殺した声なのか、それが混ざったような声だった。

「申し訳ございません。折角レプリカントのヴィルクを連れてまで、創造神の魂の結晶を手に入れることが出来ず......」

 エルダーンは深々と頭を垂れて、おめおめと逃げ帰えってきた言い訳をする。ところが、"あのお方"はこう告げてきたのだ。

『創造神の魂の結晶は手に入れることは出来なかったが......、現在我が軍の十三部隊はメスィメルト星で征圧の最中だ。お前も連合軍非加入侵略軍の加勢をせよ』

 それを聞いてエルダーンは制裁を受けるどころか、別部隊の加勢を命じられたことに内心ホッとする。

「はっ、仰せのままに......」

 ここで"あのお方"からの通信は中断され、エルダーンは十三部隊の加勢へと向かうことになった。


 その頃、ウィッシューター号は五番目の創造神の魂の結晶があるという、メスィメルト星へ向かっていった。しかし、彼らにとってメスィメルト星は聞き慣れない星のため、メスィメルト星のあるピー星域の宇宙連合軍の惑星調査部隊にも協力してもらって、メスィメルト星の情報をいくつか得られるようになった。

 エイスタイン星を出発してから二五〇時間後、ウィッシューター号はメスィメルト星の浮かぶ宇宙空間に出たのだった。

 メスィメルト星の緑色は大陸の森や草原、大陸の中の白や灰色は町や都市、海は深い青緑という自然の中に文明を建てたという惑星だった。

「こちらワンダリングス、メスィメルト星の宇宙通信局、応答願います」

 ブリックが操縦席でメスィメルト星の宇宙通信局と交信を試みるが、応答はなかった。

「うーん、拒否なのか席を離れているのか、わかりませんね......」

「連合軍から送ってもらった情報によれば、メスィメルト星は人間型から機械生命型までの多種多様の生命体が住めるという、異種族混合の惑星だっていうのにね」

 アジェンナが宇宙連合軍から送られてきた情報をタブレット端末に出して、みんなに見せていた。端末の画面からメスィメルト星についての環境や人口などのデータが記載されていた。

「異種族混合の惑星ねぇ。外見だけでなく、思考や文化や習慣も違うから、何か帰って争いが生まれそうな気がするんだけどね」

 ヒートリーグが言うと、リブサーナが諭した。

「確かにそうかもしれない。だけど、そうならないようにする為に戒めってのがあるからね」

 宇宙には先住民と移民の共生する惑星もあれば。争い合う惑星もある。移民の受け容れを許してくれる惑星は各星域の全体の五%から八%にすぎないという。ましてや、多くの種族が共に暮らせるのは一%といわれている。


 ウィッシューター号はメスィメルト星の無人地帯の西中央部の雑木地帯に停泊させ、今度はリブサーナとブリックがウィッシューター号に残り、グランタス艦長たちがメスィメルトの町に参ることになった。

「ブリックは創造神の依代になって間もないからね」

 ウィッシューター号に残ったリブサーナがブリックに言った。

「だけど、いいのか? リブサーナが宇宙艇に残っても」

 ブリックに訊かれると、リブサーナは軽く笑って答える。

「艦長がね、ここんとこ自分が若い者に任せるのも気が気でない、って言ってたからねぇ」

 グランタス艦長たちは種子植物や裸子植物の木、ツルや蔦などの植物が生い茂る林の中を歩いていった。植物の他にも目玉模様の翅の蝶や赤銅色の甲虫、嘴や羽毛の異なる鳥、短毛に長い尾のげっ歯類などの動物が棲んでいた。

 林の中を歩いて数百メートル先の地域は、空は薄紅と青紫に染まって白い雲と雲に隠れる太陽、下は白や灰色や茶色などのビルが並ぶ景色だが、間近で見てみると、アスファルトの道路はひび割れて、窓やショーウィンドーのガラスも大きく孔が空き、壁も傷つき、店や事務所の中は盗人が入ったかのように荒らされていた。何より気づいたのは、人の気がないことであった。

「大地震とかあったのかな?」

 ヒートリーグが町の景色を目にして呟く。

「それにしても車の損傷はそんなに激しくないぞ。これなんて、中古だけど綺麗だし」

 ドリッドが道路にある車――重力装置で動く浮遊車(フロートカー)が多く、どの浮遊車も色や形は違えど、建物や道路と違って、無傷に近い状態であった。

「かんちょお、きづいたんどね、あしょこ。たべものやさんっぽいけど、たなやれいじょーこには、たべものがないお」

 ピリンが建物の中の食料品店を指さす。

「災害でもないのに、建物や道路は傷だらけで乗り物の損傷は少なく、食糧はない......。どういうことよ?」

 アジェンナが首をかしげていると、グランタス艦長が一つの建物の陰から人影があるのを察した。

「ん? 誰かいる......」

 他のメンバーが艦長の声に反応して振り向くと、人影はサッと隠れてしまった。

「まさか、てきなの!?」

 ピリンが呟くと、ヒートリーグが言った。

「いや、僕の中にある生命体サーモグラフィデータには、さっきのは敵の反応じゃなかった。今のは、おそらくこの星の一般民......。しかも大きさからして子供だ」

「子供? 戦災か天災の孤児か?」

 ドリッドがそれを尋ねると、建物の陰からさっきの人影――この星の住民であろう、獣型異星人の幼い兄妹が出てきたのだ。二人は耳と尾が長く茶色の毛におおわれていて、兄は一三〇センチ程で、妹は二〇センチ程低い。二人はこの星の民族衣装と思われる光沢の化学繊維のジャケットとボトムを着ていた。兄は青の上と黒のパンツで、妹は赤の上と灰色のスカートである。

「ペ、ペシュガモト、パレルナ......」

 住民の兄がこの星の言葉と思われる台詞を発し、グランタス艦長は現星の言葉に耳を傾ける。

「みんな、言語翻訳機(ランゲージャー)を」

 グランタス艦長がメンバーに言い、ドリッドたちはメスィメルト星に入る前に首に装着した言語翻訳機をメスィメルト星使用にする。ヒートリーグも体内のCPUを操作して、メスィメルトの言語に変換する。

「さっきは怪しまらせてしまってすまなかったな。わしは宇宙連合軍の雇われ兵団、ワンダリングスの艦長、グランタス=ド=インデスだ。わしらは宇宙盗賊や宇宙各所を回る"奴ら"の仲間ではない」

 それを聞いて兄妹はグランタス艦長たちを怪しむのをやめて、おそるおそるながらも尋ねてきた。

「僕はユーカンタ。こっちは妹のシガルナ。僕と妹は他の子供たちの為の食糧を探しに、ここに来た」

 ユーカンタはグランタス艦長たちに自分たちの事情を説明した。

「他の子供たち? て、ことは君たち孤児なの?」

 アジェンナがユーカンタに訊いてみると、シガルナは首を横に振る。

「あたしたち、孤児じゃないよ。パパもママもいた。けれど......」

「どったの?」

 ピリンがユーカンタ兄妹に尋ねる。

「僕たちはこことは違う町で両親たちと共に平穏に暮らしていた。住んでいた町では人型(ヒューマン)や魚型、鳥型、虫型といった異星人(エイリアン)と分け隔てなく学校に行ったり、同じ職場で働いていた。もちろん差別や迫害もない。それはこの星の法律だから。

 僕たちはいつものように暮らしていると、巨大な戦艦がいくつもやって来て、各町を襲ってきて、大人たちを捕らえて連れて行ってしまった。僕の両親や学校の先生、多くの大人たちが連れてかれた」

「連れてかれた、ってどこへだよ?」

 ドリッドが連れて行かれた大人たちのことを尋ねると、ユーカンタは続ける。

「この星の北の方。だけど、どこら辺までかはわからない。残されたのは十七歳以下の子供たちばかり。実年齢外見だけならの。

 僕たちは同じ場所でまとめて暮らすことになって、日替わりで食糧や薬、使える道具を探して町に来ている」

「そんなことがあったのか......」

 ヒートリーグが理由を聞いて理解する。

「ところで、町の様子を見た所、そんなに日が経ってないと見た。いつだったか覚えているか?」

 グランタス艦長が兄妹に尋ねる。

「えっと......、確か三週間前」

「さんしゅーかん、ってなんにち?」

「ああ、そっか。ワンダリングスは今日来たばかりだもんね。この星では九日で一週間だから......」

「二十七日前か」

 ヒートリーグが言った。

「にしても、ウィーネラが感じ取ったとはいえ、本当に五番目の創造神の魂の結晶がこの星のどこかにあるのか? 連れてかれた大人たちの救出だけでなく、魂の結晶探しまでにどれ程かかるのか......」

 ドリッドがぶつくさ言うと、アジェンナが睨みつけてくる。

「そんなこと言わないの」

「だけども、連れて行かれた大人たちの場所さえわかればなぁ......」

 ヒートリーグが呟いた時だった。するとユーカンタとシガルナの表女医が一機に代わり、「あ、あれ......」と指をさす。

「ん? いったいなにがあったっていうの?」

 ピリンが二人に尋ねると、後ろに何と十体の人型ロボットが立ち並んでいたのだ。ロボットの容姿は全員同じで、黒鉄色の体に赤いバイザーアイで、腕はエネルギー弾を連射できる銃と一体化されており、全員ワンダリングスに銃を向けている。

「お、お前らはいつの間に......」

 ドリッドが突如現れたロボットたちを目にして言うと、ロボットの一体が冷たい機械音の入った声を発する。

「生命体データ確認、成人二人、老人一人、機械生命体一体、子供三人を発見。子供以外、直ちに捕獲」

 すると他の九体がグランタス艦長たちに銃口を向け、エネルギー弾の代わりに青白い線状のレーザーを放ってきた。

「うおっと、危ねぇ!!」

 ドリッドが素早く腰のホルスターに提げていた携帯銃(ハンドライフル)を出して引き金を引いた。携帯銃の銃口からオレンジ色のエネルギー弾が三発放たれ、レーザーと相撃ちになって爆ぜて消える。

「気をつけて! 今のは生命体を麻痺させるショックビーム。この子たちの親や大人たちはこれで捕まったんだよ」

 ヒートリーグが敵の攻撃を目にして、ドリッドたちに教える。

「ピリン、この兄妹と共に安全な場所に隠れていろ!」

「わかったぉ!」

 グランタス艦長がピリンに指示を出し、ピリンはユーカンタとシガルナを連れて近くのビルの中に隠れた。

「さてと、始めるか」

 ドリッドが携帯銃を構えて、アジェンナ、グランタス艦長も携帯銃を出して、ヒートリーグも戦闘態勢に入る。

 ピリンはユーカンタ兄妹と共に無人ビルの中に避難して、ビルの中の事務所の窓から両者の戦いを目にしていた。

「だ、大丈夫かな」

 ユーカンタが戦いの様子を目にして呟く。

「なーにいってんの。かんちょうはなんどもせんじょーをかけぬけてきたゆーしなんだぉ。うちゅーれんごーぐんかりゃも、いちもくおかれているんだぉ」

 ピリンが兄妹に教える。

「そうだったの? でも、あたしたちの星には連合軍がいなかったから、パパとママもあいつらに捕まって......」

「れんごーぐんがいない、ってことは、メスィメルトしぇいは、よっぽどへーわだったんだね。だけど、"あのおかた"はなんでメスィメルトしぇいをねらったんだりょ......」

 ピリンがシガルナの言葉を聞いていると、呻き声が聞こえてきた。

「うわぁぁっ」

「!!」

 ピリンたちが建物の窓から下の様子を覗いてみると、艦長たちが四方から黒いロボットたちが放つショックビームを受けてドリッドたちの動きを拘束していたのだ。六体は体に孔が空いたり、腕や脚がもげていていることから倒せたのだが、残りの四体によって捕れてしまったのだ。

「そんなっ......」

「しっ、しじゅかに」

 シガルナが声を上げそうになった時、ピリンが止めた。ショックビームを浴び続けていた艦長たちはビームの効果に耐えきれず、失神してしまった。更にロボットたちは背中のシャッターから鎖を取り出して、艦長たちを拘束した。一体はアジェンナと艦長を抱えて、一体はドリッドを担ぎ、残り二体がヒートリーグの頭と脚を持って運び出していった。

「どうしよう、捕まっちゃったよ......」

 ユーカンタがピリンに言うと、ピリンは兄妹にこう言った。

「だいじょうぶだぉ、かんちょーたちは。これをみて。ピリンのたんまちゅにちずのレーダーがうちゅしだしゃれているの。ちゅまり、ヒートリーグのなかのはっしんきがピリンとうちゅーていのなかまたちにとどくの」

「も、もしかして、作戦のうち......?」

 シガルナが訊いてくると、ピリンがうなずく。

「しょーゆーこと」

 

 その頃、ウィッシューター号に待機しているリブサーナがピリンからの通信を受け取り、ブリックに宇宙艇の番を委ねて、小型艇のミニーシュート号に乗ってピリンたちのいる現場にやってきた。

「おっ、きたきた」

 ピリンが空の向こうから飛んでくるミニーシュート号を目にして、ミニーシュート号は道路の真ん中に着陸する。

「ピリン、みんなは......」

「このこたちのパパとママをさらったやちゅらにちゅかまったことになって、ちゅれてかれた」

 リブサーナがミニーシュート号から出てきて、ピリンに尋ねてくる。

「お姉さんは、さっきのおじさんたちの仲間ですか?」

 ユーカンタがリブサーナに尋ねてくると、リブサーナは言語翻訳機で返事をする。

「そうよ。わたしはホジョ星人のリブサーナ。君たちはメスィメルト星人よね?」

 リブサーナの問いに兄妹は説明する。

「僕たち、星籍はメスィメルト星だけど、元々はピー星域の北東部にあった惑星ジョーイの住民。ジョーイ星は自然豊かな惑星だったけど、巨大隕石との衝突で僕たちはジョーイ星を去ることになった。

 何ヶ月も宇宙空間を彷徨って、物も食糧もなくなりそうだった頃、メスィメルト星に辿り着いた。メスィメルト星は種族も生まれも関係なく暮らせる。僕たちはメスィメルト星に着いて、住民籍も手に入って、大人たちは仕事に精を出して、子供たちも学校に行けた。争いだけが禁忌の平和な星だった」

 ユーカンタはリブサーナに自分たちは宇宙難民で、メスィメルト星にようやく安住することが出来たと伝える。

「だけど、どうしてこんなことになって......?」

 ユーカンタはリブサーナに一から十まで出来事を話し、更にグランタス艦長たちも連れ去られたことを告げた。

「だけど、ヒートリーグがはっしんしんごうをだして、たんまちゅにうちゅしだしゃれるぉ。だかりゃ、どこにいったかわかるぉ」

 ピリンが艦長たちが敵に捕まったのは故意ではなく作戦だと教えてあげた。

「さて、レーダーで後を追うか。......と、その前に君たちを避難所に送ってあげないとね」

 リブサーナが自分よりも幼いであろうユーカンタとシガルナを見て言った。


 その頃、連れてかれたグランタス艦長は、町から十何キロも北にある、山地にいたのである。町中は気温二十度ぐらいに対し、北の方は十五度ぐらいの寒さだった。

 メスィメルト星の北部は鉱物資源が多く、鉄や鉛などが一五〇も採掘されるという。採掘所はたくさんあり、鉱山で働く者も二メートル以上の背丈の大型異星偉人や体が丈夫な鉱物型星人やヒートリーグのような機械生命体が岩盤処理や鉱物運搬などの仕事を担っていた。

 グランタス艦長たちが連れてかれた場所は広い平地に建設中の青黒い建物が造られている最中だった。若者や男は鉄骨を運んだり溶接したり壁を塗りこめたり、女や老人は大きな撹拌装置でコンクリートを動かしたり鋳方にネジなどのパーツを入れて流したりと作業していた。労働者に枷は装着されることはなかったが、艦長たちが先程倒したものと同じロボットたちが片腕を銃にして監視していた。

「こいつらは特別収監房へ入れておけ。戦闘のプロフェッショナルで、反乱者だからな」

 グランタス艦長たちは鉱石を採掘した後の岩穴の中に入れられ、しかも穴をふさぐ金網には電流が走っていた。

「くそっ。端末を取り上げられたんじゃ、救援できねぇ」

 ドリッドが牢の中でくやしがった。

「幸い創造神の魂の結晶は取りあげられずに済んだけどね。さっきはびっくりしたよ」

 監視ロボットの一人がアジェンナとドリッドが身につけている創造神の魂の結晶を没収しようとした時、ロボットが結晶に触れるとロボットの片腕が吹っ飛んだのだ。

「創造神は自分が選んだ者には、寄せ付けない力を持っているのか?」

 ヒートリーグがそのことに疑問を持つと、グランタス艦長は呟いた。

「だが、今のわしらは囚われの身。残っている者たちが助けてくれるのを待たなければ......」

 果たして、グランタス艦長たちと連れ去られた大人たちは救出されるのか!?