そして二十数時間――、ワンダリングスは惑星リズンにやってきた。 「ほわ〜、きれぇだねぇ〜」 ピリンはウィッシューター号の操縦席の窓からリズンを見て声を上げる。リズンは乳白色に桃色と水色の斜線が走った惑星である。 「ほとんど白いけど、寒いって事はないよね?」 リブサーナがリズンを見て少し不安になる。 「そんなのないって。では突入!!」 アジェンナが操縦桿を動かし、ウィッシューター号はリズンの中へ入っていった。 惑星リズンは白い空と薄藍の海とあと数百年すればいくつかの大陸になる無数の縞の惑星で、陸地には大きなトカゲみたいなのが草をかじっていたり、茶色い大きなネズミが地をはいずり回ったり、大きなトンボやカゲロウみたいな蟲が空を飛び、更に細かな歯列を持った鳥が白い翼をはばたかせ、水の中に飛び込んでいって魚をとらえて食べていた。 太陽がどこにあるか見えないけれど、暖かく酸素も豊富で、重力も+−0で、様々な木々や花が咲き誇る美しい惑星であった。ウィッシューター号は草の少ない平たい岩場に停泊させ、ワンダリングスの面々は水着の姿で岩場の近くの干潟に降りて、白い空と広大な藍海と緑の島々が浮かぶ景色を目にしたのだった。 潮の匂いが鼻をくすぐらせ、風が熱気と混ざり合って素肌に触れる。アジェンナはリブサーナが宇宙市場で買ってくれた水晶のカンザシを後ろで結えて刺し、バッククロスの薄紫の水着を着て足首を海中に入れる。ピリンはスカートのついた白い水着を着て白い砂浜でお山を作り出す。浜辺では二枚貝や巻き貝などの空が打ち上げられており、更には灰茶の掌大のカニが群れを作って砂浜を歩いていた。 リブサーナも緑と白のストライプのビキニ水着を着て、束の間の休暇を楽しんだ。ドリッドもバミューダ水着でアジェンナやリブサーナと水のかけっこをし合い、ブリックもフィットタイプの水色の一分丈水着と白いビニールパーカーを着てピリンの砂山作りの手伝いをする。もちろん艦長も素潜りをしてリズン星の海を泳いだ。インデス星のグランタス艦長は空も飛べて陸でも過ごせ、水中では陸より早く動けるのだ。リズンの海中は長さも太さも違う海藻や岩場の赤や紫のサンゴ、生きている二枚貝や大きさや触手の数も違うヒトデ、艦長の指先よりも小さくて透き通った身体の稚魚の群れや細い体の魚や木の葉型の彩りの魚が生きていた。 (この星の生物がこれからどのような進化をし、どんな人間が出現して、どんな文明を築いていくのか……) 艦長は海から出て、肩の突起と背中の翅を器用に動かしながら、みんなのいる浜辺へと戻っていった。 「あっ、艦長、お帰りなさーい。どこ泳いでいたんですか?」 ドリッドが尋ねてきて、艦長は適当な島の目の前に指をさす。 「艦長、見てください! これ、綺麗な貝殻と石を見つけました! これ、持ち帰ってもいいでしょう?」 リブサーナは浜辺で拾った貝殻と石を艦長に見せた。右手の貝殻はリブサーナの指三本分の大きさで、二枚貝の片割れで表面が黄色の真珠のように光っていた。左手の石は粗削りの白い半透明の石で、透明石膏(セレナイト)のようである。 「ああ。これだけならいいだろう」 リブサーナは喜んで二つの宝物を手に入れてくるくる回る。 「かんちょお、みて。お山、トンネルもつくれたぉ」 ピリンがブリックと一緒に作った砂山を艦長に見せる。 「上手いじゃないか」 と、艦長は砂山を見る。その時、空がゴロゴロ……と呻り、さっきまでゆっくり打ち引きしていた波が激しくなり、風の強く吹き出し、ヒュオオ……という音を立ててきた。 「艦長……これは……」 ドリッドが海と空の様子を見て艦長に言う。 「リズンは生まれたばかりの星で海と島しかないから天候が変わりやすいのだろう。しかも半端ない。もうそろそろ艦の中に戻った方がいいのでは?」 ブリックが艦長に言う。 「そうだな、入るか。それなら嵐がこれから来るであろうから、嵐が治まってから出航した方がいいだろう」 艦長がみんなに言った。 「お山が……」 ピリンはがっかりするが、アジェンナが肩を持つ。 「またどこかの星の海岸で作ればいいさ」 そして一同はウィッシューター号の中へ入り、嵐が治まるまで艦の中で過ごした。 バスルームで一人ずつ体を洗い、普段着に着替え、それぞれ自由に行動した。 ドリッドは訓練室で筋トレ、アジェンナとピリンは自室で昼寝、ブリックはエンジン室に行ってウィッシューター号のメンテナンス、艦長も操縦席の司令席でタブレット端末でミュー星域連合軍配布の新聞を読んでいた。そしてリブサーナは……。 『銀河暦二五九年 十二月十八日 エクセター星の本星を出て四日目。今日は艦長が未開の惑星の海でのバカンスの案内をしてくれた。 空は白くて空気は潮風と混ざっていたけれど白くて空気が澄んでいて、海も透明で綺麗で鳥も虫も魚もカニもいた。 わたしもみんなと一緒に遊んで、アジェンナやドリッドと一緒に水をかけっこしたり、たまたまよろけた先に綺麗な貝殻と真っ白い石を見つけて宝物にした。 ホジョ星にも海があったけれど、わたしの住んでいたエヴィニー村は陸地の真ん中にあってという場所で、海に行きたくても何日もかかるから行けなかったから、川辺の沢で水遊びするぐらいだった。 エヴィニー村の襲撃を受けてわたしだけ生き残ったけれど、どこにも属しない雇われ兵団になったからこそ、戦いとか争いとかばかりでなく初めて入った星の美しいものや珍しいものを見たり感じとれたりする事も出来た。 天国へ行ったお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんや村のみんなには図々しいかもしれないけれど、わたしはワンダリングスにいる事にした。 ウィッシューター号がわたしの家で、帰る場所で、ワンダリングスのみんながわたしの新しい家族になったから。 辛い事やしんどい事もあるけれど、「家」と「仲間」があれば大丈夫だから』 自室の机でリズン星での出来事をピンクの布地表紙の日記帳に書きこんだリブサーナはペンの蓋をし、ベルトを締めて日記を閉じた。 そしてその時、携帯端末から艦長の呼び出しが着信されてきた。端末の携帯画面から艦長の姿が浮かび上がり、リブサーナ達ワンダリングス艦員(クルー)に伝える。 『ワンダリングス、操縦席に集合せよ! 先程、ミュー星域連合軍将校から依頼が入ってきた。 ミュー星域座標九一五の惑星ビルドスが大国ザナスに押されているとの事だ! 小国家ビルドスの支援をせよ!』 「了解。すぐ行きます!!」 リブサーナは端末の通信を解除し、操縦室へと向かっていった。 操縦席にはワンダリングス全員がそろい、操縦席に着いてウィッシューター号を発進させ、惑星リズンの静かな夜を脱し、宇宙の中へと飛び込んでいった。 生まれも種族も文化も文明も違う異種族雇われ兵団、ワンダリングスは今日も星の海を駆け巡る――。 〈了〉 |
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