6弾・2話 ヒートリーグの宇宙艇生活


 機械生命体テクノイドの調査係、ヒートリーグを新しいワンダリングスの艇員(クルー)に加えてから八十時間が経過した。ワンダリングスは宇宙連合軍からの依頼が来ない限りは宇宙艇ウィッシューター号で待機しているか文明や知的生命体のいる惑星で途中休憩を取るか宇宙空間に設けられた施設、宇宙市場(コスモマーケット)で必要な燃料や生活必需品を仕入れたりと過ごしていたので、忙しさも退屈もなかった。

 ウィッシューター号はオミクロン星域とパイ星域の間(はざま)にある衛生群の一番大きな衛星に停泊させていた。宇宙艇の中ではワンダリングスの掃除が行われた。

 グランタス艦長は司令室に電動クリーナーをかけており、ドリッドは風呂場と武器保管庫の掃除、アジェンナは台所と各訓練室、ピリンとリブサーナは通路と窓の内側の掃除、ブリックは空調機や小型偵察機などの点検、そしてヒートリーグは宇宙艇の窓の外側の掃除を担っていた。

 ヒートリーグはカーテン程の雑巾を使ってウィッシューター号の窓を磨いていた。最初のうちは張り切ってやっていたのだが、半分もくると衛星の地面に座り込んだ。

「あー、一枚ずつ窓を磨いていくの飽きてきたなー」

 ヒートリーグがこぼすと、リブサーナが廊下の窓からその様子を目にしてヒートリーグに注意をする。

『こらー、勝手にやめるんじゃないの』

 リブサーナは左手に電動クリーナー、右手に携帯端末を持ち、端末の通話機能を使ってヒートリーグに言ってきたのだ。ブリックがヒートリーグとメンバー全員と通信できるように携帯端末にテクノイドとのコミュニケーション用の人工アプリケーションをインストールしたのだった。

『地道は苦手なんだよね』

 リブサーナの端末にヒートリーグの声が届く。

「地道とか一発なんて時と場合によるんだから文句を言わないの。ウィッシューター号の窓や機体には色々な惑星のホコリとか菌、泥や水垢とかがいっぱいなんだから、定期的に磨かなくちゃいけないの」

『だからって僕にやらせるのはいい加減すぎない?』

 ヒートリーグが口を尖らせると、リブサーナはハァッとため息を出してヒートリーグに言った。

「あなたがダダをこねてもウィッシューター号の発進がかえって遅れるだけなの。一人の勝手が全員の迷惑になるの。そこんとこはわかってちょうだい」

 リブサーナに言われてヒートリーグは起き上がり窓磨きを再開させる。

「はーいはい。やればいいんでしょ。やれば……」

 ウィッシューター号の掃除は終わり、外も中もピカピカになった。

 ウィッシューター号は衛星から離陸して、青白い放物線を出しながら宇宙の海に入っていった。

 ウィッシューター号の操縦席は衛星や小惑星などの障害物がない場合は一人二時間ごとに交替し、危険時には全員集まるという規則になっていた。

 現在操縦席にいるのはヒートリーグだけで、彼は二メートル超えの体であるため操縦席には座らず、操縦席の後ろの司令官席の台座に座っていた。操縦桿やコントロールパネルも彼の手では小さすぎるため操ることも出来なかった。その代わりにテクノイドは自分たちよりも技術や高度の低い機械なら遠隔操作で操ることができるため問題なかった。

「……にしても一人で操縦席にいるっての結構退屈……。ドリッドから戦闘訓練受けた方が僕には向いているよ」

 ヒートリーグが独り言を呟いていると、操縦席の上の司令室と廊下のつながる出入り口が左右に開いて、中に誰かが入ってきた。

「よく操縦室で一人でいられるようになったな。交代の時間だ」

 グランタス艦長だった。グランタス艦長が操縦席にやって来たのを見てヒートリーグは立ち上がる。

「あっ、艦長……」

「お前がここにいた、あるいはお前からの連絡がなかったということは運転中の危険がなかったという証拠だ。もう下がって良いぞ」

 グランタス艦長に促されてヒートリーグは頷くがこんなことを言ってきた。

「……いつになったら、広い大地のある惑星に着くのかな」

「それは連合軍からの依頼が届いてからだ。ただ、どんな環境で何の生物がいるかは依頼の内容次第だ」

「ウィッシューター号はテクノイドでも入れる宇宙艇とはいえ、僕には狭いよ。

 だだっ広い土地で走りたいよ〜」

 ヒートリーグがごねてむくれる。

「走りたい? 何でだ?」

 グランタス艦長はヒートリーグの「走りたい」と聞いて首をかしげる。

「んー……、交代の時間ならここを出るよ。でも真っ平らな広〜い地面のある惑星を見つけたら、僕に教えてよね。失礼しま〜す」

 ヒートリーグはグランタス艦長にそう言うと司令室を出て廊下に出る。出入り口の扉はヒートリーグの背丈より小さいためヒートリーグは頭を下げて司令室を後にした。


 ガション、ガションと足音を立てながらヒートリーグはウィッシューター号内の廊下を歩く。しっかり磨かれた窓と床は天井の照明によって光り、ヒートリーグの姿が反射されて映る。

「……ああ、そうか。こんなに宇宙艇の中がピカピカなのはみんなが掃除したからなのか」

 ヒートリーグは面倒くさいと思っていた掃除の後はこうなるものかと実感した。

「あ、司令室の番、終わったの?」

 リブサーナと廊下で出会った。

「うん、これからドリッドに稽古をつけてもらおうと考えていて」

「うーん、ドリッドに稽古ねぇ……。ヒートリーグってさ、ドリッドより大きいとはいえさ、機械の生き物じゃない。二、三日前の組手の時はドリッドもブリックも打ち負かしたじゃない」

 リブサーナが難しい顔をしながら説く。

「でもねー、僕は動かないと気がすまないんだよねー。掃除は動くとはいえ地味だし」

「それは五〇年間も人工的に眠っていた時の反動?」

 リブサーナが尋ねてくると、ヒートリーグは首を横に振る。

「ううん、そういう意味じゃなくって本当に走り回りたいの。広い大地の上をひとっ走りしたいんだ」

「オミクロン星域の惑星でも走れていたでしょうに」

「小さい生き物がいて、咲きたての花もある場所にひとっ走りなんかできっこないよ。

 僕は真っ平らな地面に生き物も建物もない広いひろーい場所で動きたいんだ。

 流石の僕だって有機生物学は習ってんだからね」

「……ちゃんと考えているんだね。そういうところは」

 リブサーナはヒートリーグが機械でも生身の生物の気遣いもあったことに感心する。

「僕がメタリウム星にいた頃は長い道路もレース場もたくさんあって、他のテクノイドたちと競争していたんだ。スピードは誰にも負けられない」

「スピードねぇ……」

リブサーナはヒートリーグの話を聞いて呟く。

「そーいやテクノイドって人型の姿の他にももう一つの姿を持っているんだって?」

「うん。僕たちは個体によって異なるけれど、別の姿を持っているんでね。乗用車や飛行機のような乗り物、犬や猫のような獣、虫みたいな姿にもなれるのさ」

「ヒートリーグは何になるの?」

 リブサーナが聞いてきたので、ヒートリーグはじらした。

「それはぁ……、広くて障害物のない惑星についたら教えてもいいかなー」

「何それ」

 リブサーナはヒートリーグが機械の生き物でありながらじらすのを見て、思わずおかしくなって軽く吹いた。


 やがてウィッシューター号は宇宙空間に浮かぶ巨大な四つ重ねの円筒形の建物――宇宙市場(コスモマーケット)に着いた。宇宙各星域の宇宙空間には数十箇所に宇宙移動者の中間点として宇宙市場が設けられている。

 宇宙市場の建物は白っぽい外壁に窓や壁を体についたクリーナーで磨く八本足の小型ロボットが何十体も張り付いていた。

 ヒートリーグは宇宙市場を目にして、その造形と神秘さに見とれる。

「これ、誰が造ったの?」

 ヒートリーグは宇宙市場の建物を見てグランタス艦長たちに尋ねる。

「ああ、建物の外観及び内部構造は宇宙各所の建築士が考えて、建設するのに千人ものの建設者が集まって、そして宇宙各所の宇宙市場のオーナーが店を決めて、その店に合った商売人や技術者を集めていると聞いたが」

 グランタス艦長はヒートリーグに教える。

「他にも衛星をまるごと使った宇宙市場もあって、そこは宇宙船も売られているんだぜ」

 ドリッドも教える。

「ここで少し宇宙艇を停泊させて、食糧や燃料の買い出しに行くとするか。ヒートリーグの社会勉強もなるしな」

 グランタス艦長がみんなに言った。

「艦長、私は新しい薬品の調合に取り込みたいので留守番します」

 ブリックがグランタス艦長に申し出る。

「じゃあ残った者は三組に分かれて買い出しだ」

 宇宙市場の役割分担が決まったので、ウィッシューター号は最下層の宇宙艇停泊場へ進んでいき、宇宙市場の出入り口から大きさも色も異なる宇宙艇が出入りするのを目に見られた。

 ウィッシューター号も市場の停泊場に入り、市場の中に入るための移動チューブが伸びてきてウィッシューター号の出入り口と接合し、グランタス、ドリッド、アジェンナ、ピリン、リブサーナ、ヒートリーグが移動チューブをつたって宇宙市場の中へ入る。二階から四階は商店・飲食店のエリアで、中には美容院や歯医者もあった。

 宇宙市場の中は天井がマス目状の電灯、壁には虹色の鉱石の浮き彫り、床は平らに磨かれた鉱石でこの市場は白と赤茶色の市松模様に施されていた。

 客人や従業員も外観や言語、文化も文明も異なる種族が多様で、人型・鳥型・獣型・魚型・虫型異星人(エイリアン)の他、ブリックと同じ人造人間(レプリカント)もいた。男の従業員は緑の制服をまとい、女はクリーム色とピンクの制服を身にまとっていた。

「わぁ、市場には色んな知的生命体が来ているんだねぇ」

 ヒートリーグが宇宙市場の様子を見て呟く。何人かの客がヒートリーグを目にしてはチラ見をしたり、面白そうに見つめたりと、変則的な大きさと外観のヒートリーグは注目の的だった。

「さてと、これから武器・燃料・食糧及びその他の買い出しに行く訳だが、誰が何を買うか決めておかんとな……」

 グランタス艦長が艇員に言った。

「ああ、そうですね。リブサーナの鎧の修繕の件もありますからね。どうしましょうかね」

 するとヒートリーグが答える。

「あのさ、燃料と武器は僕に行かせて」

ヒートリーグの言葉に一同が一瞬しずまる。

「フーム。機械であるヒートリーグに武器と燃料の買い出しか……。よし、いいだろう。ヒートリーグに燃料と武器の買い出しを任せる」

 グランタス艦長もこう考えて賛成する。

「俺もついていきます」

 ドリッドも申し出る。

「それじゃああたしは生活の必需品を」

「わたしもアジェンナについていく」

 アジェンナとリブサーナは生活用品の買い出しを申し出る。

「そんじゃー、ピリンとかんちょーがしょくりょーのかいだしだね」

 こうして宇宙市場の買い物分担は決まり、買い物を終えたら通信し合って報せることを決めた。

 ドリッドとヒートリーグは三階にある武器燃料売り場へ行き、ヒートリーグはやはり他の客や従業員の注目の的となっていた。

「おい、見ろよ。ロボットだぜ」

「本当だ。結構イカスデザインじゃね?」

 武器燃料売り場の異星人たちはヒートリーグを見て口々に言う。武器燃料売り場は金属製の棚に長銃や剣、槍やハンマーなどの武器が展示されており、どこの星の何という職人が造り上げて何の素材かによる電子表示が設置されていた。他にも弾丸やエネルギーパックのカートリッジ、サビ止めの油や塗料の缶、刃物を研ぐための砥石、使用済みの弾丸の薬莢やエネルギーパックを入れるリサイクルボックス、他にも武器メンテナンスコーナーもあり、武器職人の異星人が突き出た三つの眼と六本の手で短剣の柄を溶接させたり、弾丸の薬莢を組み立てたりと作業していた。

 武器売り場の異星人は主に軍人、賞金稼ぎ、狩人と多く、ドリッドとヒートリーグもその中にいた。

「今日買うのはサビ止め油、三元素化合燃料(トライエレメント)を五、六つか……」

 ドリッドがグランタス艦長から渡された買う物のメモを見つめて呟く。メモは携帯端末のメモランダム機能の中に入っていた。

「サビ止め……といっても各星によって素材も値段も異なるからなぁ〜」

 ドリッドが値段と生産と素材別に陳列されているサビ止め油の缶を見て呟く。缶は円筒形や立方体、四角柱の容器で色も商品名も底に表示されている素材名も異なる。

「ドリッドはどれがいいの?」

 ヒートリーグが尋ねてきたのでドリッドはうーんと唸る。

「できればな生身にやさしくて、長持ちして匂いのキツくないのがいいんだよな。この条件となると、一つ諦めることになるんだよ」

 するとヒートリーグが缶を指先で一つずつつまんで素材の成分を確かめる。するとその一つをドリッドに見せる。

「僕としてはコレをオススメするけど」

 ヒートリーグが選んだのはパイ星域ネール星産の一缶で二四五〇コズムの高級サビ止め油で、しかも一缶五〇〇ミリリットルという小さいものだった。

「ちょ……、これ一つで三元素化合燃料(トライエレメント)三つ分の値段じゃねーか! 今までのは一リットルで六〇〇コズムぐらいが多かったんだから、お前が良くても俺らには無理! 連合軍からの依頼料もマチマチなんだぞ!」

 ヒートリーグの選んだサビ止め油の値段を見てドリッドが反対する。

「でも僕の星じゃ、常にこの成分のを使っていて……」

「だめだ、だめだ。予算越えだ! ここはメタリウム星じゃないんだぞ! お前には戦闘センスのスキルアップだけじゃなく、経済や簿記も仕込ませないと。ブリックに頼んで一から叩き込ませてやる!」

 ドリッドはヒートリーグに言った。結局四五〇コズムの消費期限一〇〇日のサビ止め油を選んだ。

 ドリッドとヒートリーグは買い物を終えると艦長たちと連絡を取り合って二階の憩い広場で待ち合わせることになった。

 ドリッドとヒートリーグが歩いていると、他の異星人の子供たちがヒートリーグを目にしてはしゃぐ。

「あっ、ロボットだ」

「かっけー。すげーないー」

 子供たちが興味津々でヒートリーグに駆け寄ってきて、ヒートリーグは身の丈一メートル前後の異星人の子供たちに囲まれる。

「ど、ドリッド。どうすれないいの〜?」

「そんなこと、俺に言われても……」

 その時丁度四階の生活用品層から帰ってきたリブサーナとアジェンナはヒートリーグが目立っていたので何かと見てみると、ヒートリーグが周囲の子供たちが群れているのを目にして理解する。

「あんたたちなにやってんのよ」

 アジェンナが買い物の品の入った紙袋を抱えながらドリッドとヒートリーグの元へ歩み寄る。

「おお、アジェンナ。俺とヒートリーグが歩いていたらこの子供たちがやって来てよぉ……」

 ドリッドはアジェンナに状況を伝える。

「ちょっと君たち、このヒートリーグが困っているから、もう帰ってくれないかな」

 アジェンナはヒートリーグの珍しさに駆け寄ってきた子供たちに注意する。

「えー、こんなにカッケーのに」

「もっと見せてさわらせて〜」

 子供たちがワイワイと騒ぐので、ドリッドとアジェンナは呆れてしまう。すると肌の色や目の形は違うけど異星人の子供たちの母親や姉がやって来る。

「ついてこないと思っていたら何をやっているの。はぐれたのかと心配したわよ!」

「あんたがいなくなったら怒られるのは私なんだからね!」

 母親や姉の異星人は子供や弟妹に厳しく叱った。

「ごめんなさい。ばいばい、ロボットくん」

「また来てねー」

異星人の子供たちは母や姉に連れられてヒートリーグから去っていく。

「大変な目に遭っちゃったわね」

 リブサーナがヒートリーグに声をかけると、ヒートリーグは無言だった。

 そして四人そろってグランタス艦長とピリンの待っている憩い広場に到着する。やはり憩い広場の異星人たちもヒートリーグの姿を見て注目する。憩い広場は円状に造られた曲線状のベンチが三重に設置されている。

「遅かったな。何があったんだ」

 グランタス艦長は曲線状に造られたベンチに座っていると、リブサーナたちが来たので立ち上がりピリンもベンチから降りる。

「えっとまぁ……、その捕まっちまって……」

 ドリッドがしどろもどろに答えるとピリンが尋ねてきた。

「ちゅかまった? だれに?」

「市場に来ていた子供たちだよ。ヒートリーグがあまりにも珍しいもんだから、って……」

 ドリッドが代弁するとグランタス艦長は肩をすくめる。

「戻ってこれたのならそれでいい。帰るぞ」

 宇宙市場で買い物を終えたグランタス艦長たちは一階の宇宙艇停泊場に戻り、待機していたブリックが迎える。

「お帰りなさい。結構長かったですね」

「まぁ、その……色々あってな」

 ドリッドが口をごもらせながら返事すると、ウィッシューター号を起動させて宇宙市場を出発した。

 宇宙市場から出るとヒートリーグは射撃訓練室でドリッドの指導のもと、鍛錬していた。フィールドは都市で立体映像の灰色や白やガラス張りのビルが並ぶ街中にアスファルトで舗装された道、他にも色も形も大きさも異なる自動車や人や車の進路を伝える赤・黄・青のランプの信号機などの障害物もあった。

 ターゲットは防弾チョッキや軽量アーマーで武装した凶悪異星人たちで、武器を持っていない一般人を撃てばマイナス一〇点となる。

 ヒートリーグは機械生命体ながらの正確さと才覚でターゲットを難なく撃ち抜いていく。全てのターゲットを撃ち倒した処で時間記録と点数が表示される。

「五〇体の敵を二十七秒か……。記録も日毎に短縮されているな」

 ドリッドがヒートリーグの結果記録を見て評する。

「へへへ、これならいつ敵が現れても大丈夫だよね」

 ヒートリーグが自分の記録の進歩を見てにやついていると、ドリッドが言ってきた。

「これは立体映像による訓練だから失敗したって自分で悔い改めればいい。だけどな……」

「だけど?」

「実戦ではそういく訳ではない。俺たちワンダリングスの役目は連合軍の依頼による弱小軍の戦闘援助やお尋ね者の逮捕、宇宙船ハイジャック犯の捕縛だ。中には戦うことを知らない一般人だっているんだ。

 流浪の兵団ってのは悪い奴らと戦うだけが役目じゃない。非戦闘者を守ることも俺たちの役目だ」

 ドリッドがヒートリーグに戦う者としての使命を重んじるようにと言った。

「戦わない者を守る……」

 ヒートリーグが呟いて思い出す。ヒートリーグがまだメタリウム星にいた頃、どのテクノイドも平和で楽しく過ごしていた。

 スピードの出しすぎで相手にぶつかったり、建物や像など公共物を勢い余って壊したりしたテクノイドは交通警備隊に捕まって刑罰を受けたりはしていたが、争いも暴動もなく穏やかであった。

 ヒートリーグも生活資源の調査係だったため戦いとは遠い仕事であった。

「まっ、今は言っていることが難しくても、いずれわかるだろうよ」

 ドリッドは射撃訓練の立体映像の電源を切り、訓練室から出ていった。

 ヒートリーグも決して愚かではなく、その答えはすぐには出ないことを理解している。

 その時、艇員の携帯端末とヒートリーグの通信機にグランタス艦長からの連絡が入った。

『ワンダリングス、全員に告ぐ! 今パイ星域連合軍からの依頼が届いた。司令室に集合せよ』

 ヒートリーグはこの通信を受けて射撃訓練室を出て、司令室に向かっていった。