ヘルデレ湖の水面の氷上に"あのお方"に仕えるエルダーンと"あのお方"の配下になったレプリカントが現れた時、リブサーナたちは戦闘準備に入る。携帯銃(ハンドライフル)を持ったり、個人武器を手にしたりとする中、エルダーンはマントの中に隠し持っていた紡錘型のカプセルを取り出して空中に放り投げる。 「ライゾルダー!」 するとカプセルから二十人程の白い体の虫亜人型雑兵が出現する。宇宙シラミを改造した量産兵である。 「シ〜ラ〜、シ〜ラ〜」 「うへぇ、久しぶりに見たけど、やっぱ気持ち悪いな」 ライゾルダーを見てヒートリーグが言った。 「だけどこいつらは時間稼ぎのための雑魚だ。とっとと倒してしまうだけだ!」 そう言ってドリッドは自分たちに襲いかかってくるライゾルダーに携帯銃の銃口を向けて放つ。銃口からオレンジ色のエネルギー弾がライゾルダーの体を貫き、ライゾルダーは爆ぜたように散っていく。 アジェンナも剣を振り回してライゾルダーを斬り倒していき、ブリックもやりを使って振るった後に突いていく。リブサーナもライゾルダーを四体倒したと思ったら、エルダーンが小さめの精神波動(スピリットウェーブ)を放ってきたのを目にして、咄嗟にうつぶせに避ける。 「やるじゃねぇか、リブサーナ」 エルダーンがクツクツと笑いながらリブサーナに言った。 「こんなに骨があるんなら尚更、始末するのが惜しくなるな。今のうちだ、おれの女になれ。そうすれば、こいつらは逃がしてやるよ!」 エルダーンは人差し指を出して、ピストルのように精神波動(スピリットウェーブ)を放ってきた。リブサーナは素早く武器チェンジをして、個人武器の二丁の短剣を腰のベルトにしまって、左腿に巻きつけていた携帯銃を出して、エルダーンが放ってきた精神波動の分だけのエネルギー弾を撃ち放って防いだ。金色とオレンジの弾が当たると二色の火花になって爆ぜた。 「残るはお前だけだ」 全てのライゾルダーを倒したドリッドはレプリカントに視線を向ける。ブリックは敵方についたレプリカントを確かめようとするも、相手の顔がフードで目深になっているのと、何をし出すかわからないことに躊躇っていた。 「ドリッド、相手はわたしと同じレプリカントで、しかも後天性能力で予知能力を持っている。気をつけろ」 ブリックはドリッドに忠告する。 「おい、そんなのいつものお前らしくないぞ。こんなヒョロい奴、銃を使うまででもねぇさ。片手で充分だ!」 そう言ってドリッドはフード付きマントのレプリカントに向けて駆け出して拳をぶつけようとしてきた。だがレプリカントはマントの中から何かを取り出して、ドリッドに投げつけようとしてきたのを目にしたヒートリーグはドリッドを横に突き飛ばした。 「危なぁい!!」 「おわっ!」 ドリッドはヒートリーグに突き飛ばされて氷上の表面を滑って転んだと同時にドォン、という音がして振り向くと、灰色の硝煙に不定型な形に割れた氷、その近くに左腕でわが身を防いだヒートリーグ、そしてレプリカントがいるのを目にしたのだった。 「爆弾を出してきたんだ......。ドリッドが来るのを察して」 ヒートリーグはドリッドに告げ、その様子を目にしていたアジェンナとブリックも引く。 「どうやら予知能力を持っているのは本当らしいな。だけどどうやって戦ったたらいいものか......」 ドリッドが身を起こそうとすると、彼の手首にはめられているブレスレットがほのかに輝いた。アジェンナもアウターの下のブローチがかすかに温かみを帯びていることに気づき、リブサーナもエルダーンと戦っているさなか、彼女の髪を留めているバレッタが反応を示し、湖の割れた所から創造神の反応があることに示し、湖の割れた場所から創造神の反応があることに気づいた。 「まさか、この氷の下に創造神の魂の結晶が......!?」 すでに創造神の依代となった三人は割れた表面に目をやるが、寒すぎるのと敵がいることで躊躇ってしまう。 「ヴィルク、行けー!!」 そう叫んだのはエルダーンだった。予知能力を使うレプリカント、ヴィルクはエルダーンの言葉に従い、フード付きマントをかぶったまま割れ目に飛び込んだ。 「う、くそっ。折角創造神の魂の反応がしたと思ったら水の中なんて......」 ドリッドがくやしがっている中、ヒートリーグは呟いた。 「僕が水中活動型だったら、取りに行けたかもしれないのに......」 「何を言っているの。あんたは確かに寒いのは平気なんだろうけど......。水の中に入ったら、エンジンがしけって走れなくなるでしょ」 アジェンナがヒートリーグに言った。 「......私が行こう」 そう名乗り出たのはブリックだった。三人はそれを聞いて、思わず狼狽してしまう。 「い、いくらお前が人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)より優れたレプリカントとはいえ、無茶だぞ!」 「あんたはかまわないかもしれないけど、敵の方は予知能力を持ってんだよ!?」 「ブリック、君の気持はわかるよ。でも、君の今のスペックでどうにかなる、ってかは危険すぎる......」 ドリッドたちが反対するにも関わらず、ブリックは入水時には水を吸ったら重たくなるアウターを脱いで、氷の表面が割れた水中に潜ることにした。 「大丈夫だ。私はレプリカント。どんな暑さや寒さに耐えられるように造られたか体だから気にするな。それより、創造神の魂の結晶を敵に奪われないようにするのが先だ」 そう言ってブリックは水の中に飛び込んでいった。 ブリックは水の中に潜っていった。創造神同士が共鳴する発光を頼りにし、水温はマイナス十度以上を超えており、刺すというより痛みの走るような冷たさであった。ヘルデレ湖の水中はわずかだか冷水でも活動できるよう魚が何種類かおり、それが指程の大きさの小魚だったり、ウナギのような細長い魚だったり、尖った頭のカマスのような魚だったり。黒や茶色の岩から生えている水草は平べったい手のようにゆらゆらと揺れているのが不気味だったが、今のブリックには魂の結晶を見つけることを専念していた。レプリカントといえど防寒対策なしで冷たい水中に長く入っていると、耳やつま先などがヒリヒリと痛み出す。だがブリックは湖の中の青い光を見つけようと探っていた。 『お前も来たのか......』 ブリックは自身の頭の中に初めて聞く声が入ってきたので、思わず止まってしまった。声は男とも女ともつかない中世的な声だった。右、左と辺りを見回すと、巨大な水泡に包まれたヴィルクがいたのだ。 (彼奴も魂の結晶を探しているんだった。だけど、水泡のバリアも使えるとは......) ブリックがそう思っていると、ヴィルクの声がブリックの脳内に再び伝わってくる。 『私が使えるのは予知能力と意思通信(テレパシー)だけだ。私が水泡の膜に包まれているのは、我が同属の科学技術によるものだ』 ヴィルクはブリックに教える。 『いくらお前も私と同じレプリカントといえど、この冷たすぎる温度では身が持たないだろう。下手すれば凍傷になってしまうぞ』 (私は決めたんだ。何としてでも、創造神の魂の結晶を手に入れて、お前たちの言う"あのお方"の野望を阻止すると!) ブリックは視線でヴィルクに伝え、ヴィルクもフードの下の眼をブリックに向けてくる。 『ほぉ、まだ百年も生きていないレプリカントに超能力持ちの私に勝てる訳がない。どうしてもいうのなら、行くぞ』 「うおりゃあ!!」 エルダーンは自身の両掌から精神波動を出して、金色のエネルギーの波動がリブサーナに放たれる。 (フリーネス、出てきて。わたしじゃ、エルダーンに勝てない) リブサーナは意思でフリーネスの魂の結晶に呼びかけ、フリーネスの結晶が緑の光を発する。 『わかりました』 リブサーナの呼びかけにフリーネスは応えて、リブサーナの意識が眠らされると、フリーネスがリブサーナの体を依代にして、リブサーナの体が緑の光と装甲に覆われて、緑土の創造神フリーネスが姿を見せる。 フリーネスはエルダーンの放ってきた精神波動のエネルギー弾を右手から放つ、緑色の粒子状の盾を出してきて、エルダーンの攻撃を防いだ。 「はははっ、いい度胸じゃねぇか、リブサーナ! 創造神に戦いを押し付けて自分は逃げ隠れするとはなぁ!!」 エルダーンが挑発をかけるかのように嘲笑った。フリーネスは両手に緑色の微粒子エネルギーをまとい、ゆっくりと交差させて重ねた後、木の葉状のエネルギーがいくつも出てきてエルダーンに向けて放たれてきた。 「退技法、リーブススキャッター!!」 木の葉の粒子は吹雪のようにエルダーンに向けられ、エルダーンは攻撃を止めて精神波動による金色の壁を作ってフリーネスからの攻撃を防いだ。 精神波動による防壁でエルダーンは傷一つつくことはなかったが、フリーネスの攻撃は想像以上に強く、ズズズ、と後ろに押し出されていく。 「ぐぬぬ......。創造神め......」 精神波動で戦うエルダーンは歯を食いしばる。精神波動による攻撃はどんなに強くても、やはり限界というものがあり、精神波動を長く使えば使うほど、命が削られてしまうのだ。 「くっ......、そぉぉぉぉ!!」 エルダーンはこれ以上精神波動を使うと、自分の命が危ういと思って精神波動のバリアを解除した。バァン、という音と共にリーブススキャッターも弾けた。 「ハァ、ハァ......」 エルダーンはひざまつき、両者の戦いを目にしていたドリッド、アジェンナ、ヒートリーグが近づいてくる。 「精神波動が使えないと、ただの優男になるのね」 「堪忍するなら今のうちだぜ」 「今回の件は諦めて退散する? それとも連合軍に逮捕されるかい?」 追い詰められたと思ったエルダーンだが、自分にはまだチャンスがあると気づいて、不敵な笑みを浮かべてアジェンナたちに言った。 「ふん。俺を捕らえるのも確かだけどよ、水の中に入った仲間はどうすんのか?」 ヴィルクは水泡防膜発生装置(バブルボールスターター)を持っているから、ともかくよ」 「しまった!」 ドリッドたちはブリックが危ないことに思い出したが、冷たい水の中では創造神の依代になるとはいえ、生身の自然生命体でも極寒は持たないと創造神から教えられていた。 「この氷は分厚いからブリックが水中で何をしているかすらもわからない。助けに行きたいけど......」 ヒートリーグがまごつく。誰もが水中でしかも零度以下の中を行きたくても行けない状態であった。 水中ではブリックが水泡の膜に包まれているヴィルクとの追跡に苦戦していた。ヴィルクは武器を持っているが、エネルギー弾でも刀剣でも水泡膜は破れてしまうので、ブリックの体力を削るために水中を逃げ回ることにしたのだ。ブリックもヴィルクを追いかけていくが、次第に速度が落ちていき、腕も脚も寒さでしびれるような痛さを感じ、耳なんか赤くなっていた。 (くそ、ヴィルクは私を弱らせるために逃げ回っていたんだな。私より先に生まれているとはいえ、この智略戦......。疲労こんばいで体が持たない......) ブリックの体がぐらつき、その様子をヴィルクが見つめていた。 (自分が手を出さなくても、あいつは破滅する) ふと思った時、ヴィルクの頭の中に明るい青の光の虚像が一瞬だが映し出された。 (ん? 何だ、今のは) ブリックは体力も気力も耐久力も大幅減っていて限界に来そうになった時、湖の中の一匹の魚が自分に近づいてくるのを目にした。その白と青の腕程の大きさのある魚の腹が青く光っていたのだ。 (何てことだ。創造神の魂の結晶は魚が呑みこんでいたのか。なら、捕まえないと......) ブリックは最後の力を振り絞って、魚を捕まえようとした。 『さ......、させるかぁ!!』 ヴィルクが水泡膜を蹴って魚の方に突進してきた。魚はヴィルクを目にして驚いて、ブリックの方に飛び込んで逃げ込んで、ブリックの指先に魚が触れた。 「しまった......!」 ブリックが魂の結晶を呑んだ魚を手にした時、ヴィルクは男とも女ともわからない声を出し、ブリックは明るい青の光に包まれた。 「い、今のは!?」 氷の上にいるドリッドたちは水の中が明るい青に激しく光ったのを目にした。 「スプレジェニオが依代を選んで姿を現す時です!」 フリーネスが叫んだ。すると氷の割れ目からずぶ濡れのヴィルクが飛び出してきて、エルダーンがヴィルクを目にする。 「ヴィルク、一体何が......。まさか......」 そう思ってエルダーンは氷の割れ目に気づき、氷の下の一部が青く光っているのを目にした。 「まさか、依代になったってのは......」 ドリッドがこの様子を見て呟く。すると、割れ目の氷の周囲が激しく砕けて、胸の中心に薄青い水と雪晶の紋章が入った胸の装甲に、頭部・肩・腕・脚が青い装甲に覆われ、装甲の所々に透明なヒレ状のパーツが付き、足元から軽く浮いているブリックが現れたのだ。 「久しいな、フリーネス。我は水雪のスプレジェニオ。このレプリカントの理智と沈着冷静が我と共鳴し、依代となりて我は甦った」 スプレジェニオの声はブリックの声と似ている感じがあり、ドリッドとアジェンナはブリックが創造神スプレジェニオの依代となったことに安堵していた。 「ヴィルク、創造神の魂の結晶を見つけた時の予知はしなかったのか!?」 エルダーンはヴィルクに怒鳴ると、ヴィルクは寒さで震えながらも答える。 「よ、予知はできたのだが、青い閃光だけだったので、そこまでは掴めなかった......」 それを聞いてエルダーンはレプリカントの予知能力は当たることはあっても、その詳細まではわからないことを知ると、歯を軋ませる。 「今回は運がお前らの味方をしたという訳か......。だが覚えていろ! 次こそは必ず......」 そう言うとエルダーンは左手首にはめている装置、瞬間移動装置(ポータブルワーパー)を作動させて、寒さで凍えているヴィルクを連れて一瞬で姿を消した。 「これで創造神が四人になったな」 ヒートリーグが言った。 「ん......」 ブリックは目覚めると、レプリカントが四十日に一度は必要な成分や栄養を補給するためのメンテナンス室の椅子に座っており、しかも下着以外の衣類は脱がされており、体の腕や胸や腹にチューブがつながれていることに気づいた。 「あれ、ここってウィッシューター号の私のメンテナンス室......。まさか、私もリブサーナやドリッドやアジェンナみたいに三日も気を失っていたのか!?」 そう思ってブリックは自分につながれているチューブを一本ずつ外してから起き上がる。レプリカントの体には急速再生組織があるため、軽い傷なら瞬時でふさがるのだ。 ブリックはメンテナンス室を出て、そことつながっている自分の研究室にはドリッドが待っていた。ドリッドはブリックに着せる服を持っていた。 「よぉ、起きたか」 ブリックはまじまじとドリッドに尋ねる。 「ドリッド、私たちがエイスタイン星に来てから何日目だ?」 「三日半だよ」 それを聞いてブリックは研究室の机上に置かれておる物に視線を向け、そこには小型の透明筒に入った明るい青に水と雪晶の紋章が入った小さな球状の結晶があったのだ。 「お前がスプレジェニオの依代に選ばれた後、大変だったんだぞ。スプレジェニオが結晶に戻った後、お前の体は酷い低体温と凍傷になっていたんだから。急いで艦長に頼んでウィッシューター号を呼び寄せて、医療目録の中の治し方を見て、みんな必死だったんだから」 それを聞いてブリックは、みんなが自分を助けてくれたことを知って、「すまなかったな」と言った。 ブリックは着替えると、ドリッドと共に司令室に向かった。 「あっ、ブリック。おきたんだね、よかったぉ」 ピリンが回復したブリックを目にして声をかける。 「グランタス艦長、みんな。心配をかけてすみませんでした」 ブリックが一同に謝ってきたのを目にして、リブサーナたちは気にしていないと答えた。 「これで創造神は四人になって、ブリックも元気になった。アジェンナ、ウィーネラは次の創造神がどこにいるかわかる?」 ヒートリーグがアジェンナに訊いてくると、彼女は自分の夢枕にウィーネラが反応した惑星名を伝える。 「ウィーネラは、五番目の創造神はメスィメルト星にいると言っていたわ」 「メスィメルト......。聞き慣れない名前だな」 グランタス艦長が惑星名を聞いて呟いた。 「だが、"あのお方"の一味は次にどんな刺客を送ってくるか、わからん。常に気を配っておくように!」 グランタス艦長が艦員に告げた。 ブリックが目覚めた後にウィッシューター号はエイスタイン星を出発し、メスィメルト星に進路を向けて、宇宙空間に突入していった。 |
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