6弾・8話 新たなる敵は


 リブサーナたちがパイ星域のカムサ星でエーギルに使われている孤児たちの救済に励んでいる頃、別の星域の宇宙空間に一つの小惑星が浮かんでいた。

 その小惑星は突起が三つ有り、表面には宇宙艇の発進到着のための穴が六つあり鬼の頭の形をしていた。小惑星を移動基地風に改造した物のようだった。

 その小惑星基地の廊下――廊下は四方を強化合金材で型どられ、天井は暗い青の通路に昼白色の電灯がうっすらと光り、長身に赤紫のロングヘアに白い肌に、黒いエナメル材のタイトスカートのスーツ姿の人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)の若い女が歩いていた。カツーンカツーンとブーツのかかとが廊下に響き渡る。

 司令室らしき扉が左右に自動的に開くと、そこには巨大モニターとコンソール、もう一人の人間型異星人がいた。

「ベラサピアです。カッパ星域から戻ってまいりました」

 ベラサピアはモニターに映る者に敬礼をとり、帰還の挨拶を告げる。

『カッパ星域コンマータ星の科学者を我が配下にする手立ては上手くいったか?』

 画面に映る者――実際は不気味なつり上がった赤い目と大きく裂けた口の映像だが、恐ろしさと威厳さを持つ低い声を発してベラサピアに尋ねてくる。

「はい。コンマータ星のヒゲム博士は我が配下につくことになりました。我々が資金源を出してヒゲム博士が兵器開発に携わる形で決まりました」

 ベラサピアは今回の任務についての件を主に報告する。

『フフフ、一人でも多くの科学者や戦士、素質のある者を取り入れろ。私がこの宇宙を統一させるには人材からだ』

 主はベラサピアに向かって告げる。ベラサピアはしばしの間沈黙し、司令室にいたもう一人の

人間型異星人がベラサピアにからかいの言葉を向けてくる。

「フン、仲間が着々と増えていくのはお前の見かけに惹かれているだったりしてな。それともお前は異星の男を虜にするフェロモンを発してでも」

 冷静で瑞々しい声を出す男はベラサピアの交渉能力ではないと冗談めいたように言う。それを聞いてベラサピアは刺すような目つきになって男を睨みつける。

「ふざけるのもたいがいにしなさい」

 ベラサピアは丁寧ながらも怒りの混じった声を放つ。

『二人とも罵り合っている場合ではない。宇宙連合軍及び連合軍に縁ある輩は我々に反旗を翻している。決して内乱は赦さぬ』

 主の声でベラサピアも男も固まり頭を下げて詫びる。

「も、申し訳ございません……」

「なるべく慎みます……」

『内乱はかえって敵の好機になる。それを忘れるな。それと……、エルダーン。お前にはパイ星域のキュイズ星に向かってもらう』

 主は男――エルダーンに任務を与える。

「はっ。なんなりと……」


 一方ワンダリングスはカムサ星での依頼を終えた後はパイ星域の宇宙娯楽衛星で七二時間の休暇をとっていた。

 パイ星域の宇宙娯楽衛星は十数種類の温泉浴場、カラオケ場、ボーリング場、ゲームセンターやバーやカフェなど合わせて三〇の設備がある。リブサーナはアジェンナとピリンと共に共同プールで泳いでいた。共同プールは競泳用の長方形、周囲を囲むように造られた流れるプール、ウォータースライダーや飛び込み台などと個人に合わせて用意されており、リブサーナたちは流れるプールで水中ウォーキングを楽しんでいた。彼女たちの他にも人間型や鳥型、主に魚型の異星人の客が来ており、水泳や水中スポーツを嗜んでいた。一時間ほど泳ぐと充分に気が済み、プールを出て更衣室で着替えてグランタス艦長らのいる温泉エリアに行こうとした時、大きめのロボットのためどちらにも行くことが出来ず娯楽場の待合室で過ごしていたヒートリーグがリブサーナたちを見つけて駆けつける。

「ああ、みんな。連合軍からの依頼だよ。今、端末に送るね」

 そう言ってヒートリーグはリブサーナとアジェンナの携帯端末に連合軍から受信した依頼内容を自身の電子頭脳から送信する。リブサーナとアジェンナの端末の画面からパイ星域の連合軍からの依頼内容が画面に映し出されて更に立体的に表示される。文字はグランタス艦長の出身惑星のインデス語で翻訳されていた。

「えーと、何々……。パイ星域座標四七五にあるキュイズ星の原住民と移民の戦争有り。原住民の援軍要請」

 アジェンナが依頼内容を読み上げてピリンが頷く。その時、温泉エリアに行っていたグランタス艦長、ドリッド、ブリックも駆けつけてきた。

「おい、依頼内容見たぜ。うしっ、久しぶりに戦うぜ!」

 ドリッドが女子群とヒートリーグに声をかける。


 ワンダリングスは集合のち娯楽衛星を出発して、ウィッシューター号はキュイズ星へ向かっていく。キュイズ星に着くまでは三〇時間もかかり、その間にキュイズ星の主要言語の学習と戦闘訓練、必要な栄養補給と休眠を採って、キュイズ星に到着した。

 宇宙空間に浮かぶキュイズ星は一つの巨大な大陸に青い海、大陸は山や岩地を現す赤茶色と森や草地を現す緑が混じった惑星であった。

 司令室のメインモニターにはキュイズ星についての情報が映し出されていた。

「キュイズ星、生活文化レベルは近代、原住民は人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)で古代からの習慣や文化を受け継いできている。

 移民は虫型異星人(エイリアン)イバーコで、元々は森林惑星バルトーの支配種族であったが、自分たちが起こした食料飢饉のために荒廃化、イバーコ人は緑地を求めてバルトー星を捨てて宇宙に進出し、うちのイバーコ人がキュイズ星に移星し住み着いた」

 ブリックがキュイズ星の移民情報を読み上げて他の面々は耳を傾ける。

「いくりゃ、じぶんたちのほしがききんでしゅめなくなったかりゃって、ほかのほしにくりゅなんて、せんじゅーみんにとってはめいわくにきまってるぉ」

 ピリンがイバーコ人の話を聞いて呆れる。

「はっきり言えば横取りだよね。キュイズ星人が怒るのも当然だよ」

 ヒートリーグも賛同する。

「だがここ最近、イバーコ人に味方する者が現れて、キュイズ星人が苦戦しているとのこと。連合軍の依頼はイバーコ人の連行とイバーコ人に味方する者の逮捕」

 ブリックが依頼内容を伝えると、グランタス艦長はワンダリングスに号令を出す。

「キュイズ星の治安と均衡のために、ワンダリングス出動!!」

 

 キュイズ星人とイバーコ人の戦争の舞台となっている荒野。空は赤に近い橙で常に白いもやが出ており、気温は涼しげ、黒い大地には枯れ草や枯れ木で他に岩が転々と散らばっていた。

 荒野には茶色や灰色の石灰ブロックを使った砦があり、砦の壁には四角い穴が不規則にあり、そこから攻撃が出てくるという仕組みになっていた。

 砦の数キロ後ろには石灰ブロックで出来た家屋や建物があることから町であり、砦は敵軍が町に入ってこないように建てられた物であった。

 砦にいるのは主に青年や戦い慣れしている中年の男、中には女性や十代後半ぐらいの少年もいて、敵との攻防に集中していた。キュイズ星人は色白や中間肌の人間型異星人で厚手の布を使った簡素な形の民族衣装の上に鉄や鉛を使った額守(ヘッドギア)や鎧を身に付け、武器は連射式のホイールロックのライフルや銃身に刃のついたマスケット銃。接近戦用の短刀や中振りの軍刀を用いていた。

「イバーコの奴らは何でも強力な助っ人を呼び寄せていて、その助っ人がどこかの高度文明の星の兵器を持ってきたもんだから、他の砦は壊されていて町も占領されて住人も捕虜にされた。残っているのはここだけだ」

「この町は老人や赤子、身重の者や病人もいて避難所には戦えない者が我々戦える者よりも多いというのに!」

 キュイズ星人の砦守衛部隊は焦りと不安に隠せなかった。今から一ヶ月前に移民のイバーコ人がキュイズ星人の定めた配給地の暮らしに耐え切れず宣戦布告を投げつけてきた時、キュイズ星の先住民は恐れおののいた。キュイズ星人は長い平和に浸ってきた種族で農業・工業・漁業・林業・商業で生きてきた。二〇〇年前に故郷のバルトー星にいられなくなったイバーコ人がキュイズ星に現れた時、キュイズ星人は移民による自然の均衡劣化を恐れてイバーコ人に定めた地域を配給した。にも関わらずイバーコ人は配給地では自分の作った作物では量がままならないからと先住民の持つ豊かな穀倉地帯を狙ってきたのだった。

 キュイズ星のイバーコ人配給地近くの町は九割占領され、残るはここだけになってしまった。

「イバーコ人が来たぞ!!」

 砦の見張り台に立っていた少年が他の守衛兵に伝える。砦の向こう側から黄緑色の体に触角と縦長の翅を持つイバーコ人は薄そうだが頑丈な装甲をまとい、肩から連弾式や散弾式などのライフルを持ち構えていた。

「銃撃用意! ここを決して壊されるな!!」

 砦にいたキュイズ兵がライフルを持ち、持ち構えて砦の窓や上からイバーコ人に銃口を向ける。

「撃て!!」

 指揮官の掛け声でキュイズ兵は引金を引いてイバーコ人の群れに銃弾を撃ち放つ。銃弾の激しい音がフィールド内に響き渡り、鉛や鉄合金の弾丸の雨がイバーコ人に降り注ぐ。イバーコ人はキュイズ兵が攻撃してくると、自分たちも砦に向かって散弾銃や連弾銃を向けて撃ち放った。

 ドドドドド、ダダダダと轟音が鳴り渡り、イバーコ人の攻撃が自分たちよりも強力だと知ったキュイズ兵は砦に立てこもり、イバーコ人の銃弾が砦に放たれ、弾丸が石灰ブロックに埋まって亀裂が入る。

「リーダー、このままではここもおしまいです! しかも我々より敵勢の方が武器が強力です!」

 砦から青年兵が指揮官に向かって言う。

「くそ、イバーコ兵め。あいつらいつの間に強力な武器を作ってたんだ!?」

 指揮官が悔しがっているのと悩み留まっている処で町の広場に一機の薄青い機体の宇宙艇が降りてくるのを目にした。

「ん? おお、救援が来てくれたか!」

 宇宙艇から降りてきたキュイズ兵の救援部隊は皆、鎧をまとって武装して砦のキュイズ兵の元に駆けつけてくる。

「遅れてすまない。わしがワンダリングス現艦長のグランタス=ド=インデスだ。キュイズ軍の戦況はどうなっている?」

「もうイバーコ人配給地近くの町の砦はここ以外全部攻め落とされました。どうか我々に助太刀を!」

 指揮官はグランタス艦長に救いを求めてくる。グランタス艦長は他のメンバーに戦闘準備の確認をしてくる。

「今回の使用武器はいつもより大型の光線長銃(レーザーライフル)です。予備エネルギーは一人につき五つまでです」

 ドリッドが連合軍の武器支給部より渡された武器情報を伝える。

「他に消毒包帯、火傷や切り傷など用途に合わせた薬品も支給されました」

 ブリックが医療品の詳細を報告する。

「よし、ワンダリングス、戦闘開始!!」

 グランタス艦長の指揮でワンダリングスの面々は砦の屋上に昇り、一番体の大きい機械生命体であるヒートリーグは体内の護身用武器であるショットガンの発射口を出して砦の前に立つ。

「エナジーストライク!!」

 ヒートリーグの両腕から黄金色のエネルギーの銃弾が現れてイバーコ軍を退ける攻撃をしかけてくる。

「うおおっ!」

 イバーコ軍はヒートリーグの攻撃に怯むも、体勢を整え直して銃口をヒートリーグの後ろにいる砦の中のキュイズ兵に銃口を向けてくる。

「ワンダリングス、一斉射撃!!」

 グランタス艦長の指示で砦の屋上のワンダリングスは光線長銃(レーザーライフル)をイバーコ軍に向けて撃ち放つ。銃口から白金の光線が連射されてイバーコ軍の光線の雨が降り注ぐ。

「うおおっ」

 イバーコ軍が武装している肩や腕や脚の装甲に傷や孔が入り、六、七〇にイバーコ兵は次々に負傷する。

「お〜、しゅごいよ。てきがどんどんへっていくぉ」

 ピリンだけは装備も武器も持つのは危険とみなされて、宇宙艇ウィッシュッター号のコックピット窓のモニターで戦いの様子を目にしていた。

「うう、おのれぇ……。キュイズ軍に戦争のプロフェッショナルとなる援軍がいるのでは我々の命がいくつあっても足りない……。ひけ! 撤退だ!」

 イバーコ軍の兵隊長が戦況を把握すると兵士たちに命令し、砦の前から去っていった。

「やった! イバーコ軍を追っ払えたぞ!!」

 キュイズ兵はワンダリングスという救援のおかげで自分たちの町が攻め落とされずに済んだことを喜んだ。

「ありがとうございます。グランタス殿。あなたたちが来ていなかったら今頃は……」

 指揮官がワンダリングスに礼を言ってくると、グランタス艦長はキュイズ兵に言ってくる。

「安心するのはまだ早い。他に占領された町もあるでしょ。そこを乗っ取ったイバーコ軍を排除しなければ」

「ああ、そうでしたね。では何組かに分かれて出撃しましょう」


 ワンダリングスによって追い返されたイバーコ軍は配給地内の自分たちの戦場基地に戻っていった。戦場基地といっても油を塗った厚手の布に木材の枠を使ったテントがいくつもあるだけの簡素な物で、だだっ広い平原で周囲には黒や茶色の岩場だらけの辺鄙な場所であった。

 戦場基地の一番大きいテントでは。

「な〜るほどねぇ。あのワンダリングスが来ちまったために、お前ら追い返されただと?」

 テント内に置かれた立派な椅子に座る人物が脚を組んでワンダリングスに追い返されたイバーコ兵に言う。イバーコ人が使う言語にしては所々訛りがあり、しかも浅黒い肌の人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)だとわかる。

「はい。折角あなた様の仲間のリークスダラー殿から購入した武器も使おうとした矢先に先制攻撃されてしまって……」

 イバーコ兵の一員が椅子に座る人物に報せる。

「リークスダラーねぇ……。俺と奴は確かに"あのお方"に仕えている者同士だが、あいつは主に私欲の為に動いている。俺はリークスダラーとは違う」

 人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)の男は椅子から立ち上がり、イバーコ兵に伝える。

「俺も行く。切り札兵器も持っていけ。俺がワンダリングスを全員捕らえる」

 すると偵察に行っていた若いイバーコ人の兵士が他のイバーコ兵と"あのお方"の部下の男に報告してきた。

「エルダーン様及び上官閣下、ワンダリングスとキュイズ兵は我々が占領した町の奪還に出向いております。このままでは我々の完全敗北に至ってしまいます」

「何だと!? え、エルダーン殿、即刻出撃致しましょう! 先住民から制限されるのは精一杯です!!」

 口上にヒゲを生やしたイバーコ人の将校が異星の男――エルダーンに告げる。


 その頃、ワンダリングスとキュイズ兵たちはイバーコ人に占領された町の奪還に勤しんでいった。ピリンは宇宙艇で留守番のままで、グランタス艦長は最後の砦の町で攻防し、ドリッド、ブリック、アジェンナ、リブサーナ、ヒートリーグが占領された町を取り戻しに数人のキュイズ兵と共に出陣していった。

 町を乗っ取っていたイバーコ人は先住のキュイズ兵が戦争のプロフェッショナル、ワンダリングスという助っ人を送り込まれていたことを知ると勇敢に立ち向かうも、戦いなれているワンダリングスには敵わなかった。

 ドリッドは少年時代から戦場に度々出ており、アジェンナは女ながらも武術に猛ており、ブリックは元々戦闘系でないが学習能力高さと再生の早さを持つ有機合成人間(レプリカント)であり、グランタス艦長は老兵ながら故郷のインデス星では戦闘指揮官を担っていた。ヒートリーグも機械生命体の調査係ながらも武器を所有し、しかもバイクに変形できるので、イバーコ人にとっては彼らの諺である「虫の群れは一つの太陽で滅ぶ」であった。

 リブサーナはというと、七人程のキュイズ兵と共に占領された町に足を踏みれていた。そこの町は一軒の家につき一ひろの畑を持っている農業地区で、石灰ブロックを積み上げた家屋の周りには芝生の庭と黒い土の畑があった。しかし今は畑の作物はイバーコ兵によって踏み尽くされていたり、食い荒らされたりと大惨事であった。

「来たな、ワンダリングス!!」

 イバーコ兵がキュイズ兵と共にやって来たリブサーナを見て叫ぶ。住民は別地に避難しているとはいえ、リブサーナは何日もかけて育てた作物が移民のイバーコ人によって台無しにされたことに怒りを感じていた。

「みんな、イバーコ人の銃口に弾丸を撃ち込むのよ! そうすれば武器が暴発して、敵が身の危険を感じて捨てるから!」

 リブサーナは敵の倒し方をキュイズ兵に伝える。イバーコ人は移民で反逆者だが殺すのはさすがに気が引けないリブサーナは敵にも味方にもベストな方法を選んだ。

 町中の家の屋根や壁からイバーコ兵が出てくる。キュイズ兵とリブサーナは敵の武器に銃弾を撃ち放ったりエネルギーパックの装填部分を狙ったりと攻撃する。

「うおおっ

 イバーコ兵は銃口に異物が入ると引金を引いた時に暴発すると悟って武器を手放した。ボワッ、グアッとイバーコ兵の武器が赤く爆ぜる。

「ぐおっ!!」

 キュイズ兵の一人がわめき声を出してリブサーナが振り向くと、イバーコ兵が短刀を出してきてキュイズ兵を斬りつけてきたのだ。

「しまった。刃物も持っているんだった」

 だがキュイズ兵の残りがイバーコ兵に短刀や軍刀を持って向かっていく。銃撃音の次は斬撃音が響き渡る。キュイズ兵は同族を傷つけられた怒りかイバーコ兵を押し出した。

「ヒイイイッ」

 イバーコ兵は武器を落とされると手に負えないと判断して逃げ出していった。

「やったぁ!! イバーコ兵を追い出したぞ!」

 キュイズ兵が逃げていくイバーコ兵を見て喜ぶも、ケガをしたキュイズ兵の男を少女のキュイズ兵とリブサーナが手当てをする。

「止血して医者にみせないと」

 その時、悲鳴が飛んできてリブサーナたちが振り向くと、逃げ出したイバーコ兵が何かを見て怯えているのを目にした。

 それは巨大な尾がハサミ状になっている蟲型の兵器に乗った人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)の男がいたのだ。

「エ……エルダーン様!!」

 イバーコ兵は人間型(ヒューマンがた)異星人(エイリアン)の男を見て叫ぶ。男はリブサーナより四、五歳上に見えた。

 浅黒い肌に長めの暗緑の髪、切れ長の琥珀色の瞳、細身ながらも筋肉質の体つき、背丈は一八〇センチ代で紺色のアンダースーツの上から胸と肩と腰を覆う銀と青の装甲、両腕と両脚にも装甲が施されている。

「エ、エルダーン?」

 リブサーナはイバーコ人が男の名を呼んだのを聞いて思わず尋ねる。

「ああ、お前が連合軍の雇われ部隊、ワンダリングスのリブサーナか」

 エルダーはリブサーナにもわかる言語で訊いてきた。

「そ、そうだけど。あなたは何者?」

「俺は"あのお方"に仕えるエルダーン」

「あのお方!? てことはベラサピアやバトナーチェ星のお尋ね者とかの仲間……?」

 リブサーナはエルダーンが"あのお方"に仕えているというと今までに会ってきた連中の名を零す。それを聞いてエルダーンはムスッとなるも言い返す。

「ベラサピア? まぁ、確かに俺はあの女や他の奴らと共に"あのお方"に仕えている。だけどベラサピアのような女はゴメンだ。好みじゃねぇし」

 エルダーンはリブサーナに告げた後、イバーコ兵を睨みつける。

「お前ら、自分から俺と契約してきたくせに、このザマはなんだ!? 折角リークスダラーから買った武器が全部ダメになってやがる」

「す、すいません! キュイズ兵にワンダリングスという援軍が来たら、あっという間に……」

 イバーコ兵はヘコヘコとエルダーンに謝る。

「ちっ、しゃーねーな。だけどよ、初めて会ったワンダリングスがお前で良かったよ。リブサーナ」

「?」

 それを聞いてリブサーナは何のことかと沈黙する。

「リブサーナ、もし良かったら俺たちの仲間にならないか? 連合軍の言われたままに動く雇われ部隊にいるより、他所の星の珍しい物を奪って手に入れて支配した方がよっぽどいいぞ? どうせなら故郷のホジョ星の女王として今の王族や民をひれ伏すのも悪くはないだろ?」

 エルダーンの台詞を聞いてリブサーナは目を丸くする。今までの"あのお方"に仕えていた連中は敵である自分の勧誘なんてしてこなかったからだ。

(このエルダーンって人、侮ってはいけないわ。そんな気がする……)