4弾・4話 ブラックホール管理塔



 艦長とドリッドがウォーテニック星のブラックホール管理塔を乗っ取ったならず者の戦士の相手をしている頃、リブサーナとアジェンナが畜燃料室にとじこめられた管理者達を助けていた。管理達は白い四連のダブルボタンに半袖、緑色の薄手のスラックス、女性はタイトスタートで、爪先とかかと出しの黒い靴を履いていた。

「大丈夫ですか?」

 リブサーナが化学繊維の縄で体を縛られ、布切れで口を塞がれていたミネラー=ルルゥ管理長達を解放していた。アジェンナが人質を拘束している縄を剣で斬り、リブサーナは人質の様子を確かめる。

「ああ……、ありがとう。君達がワンダリングスだね?」

 ミネラー管理長はリブサーナ達にもわかる言語を話し、礼を言った。高音のある訛りだが、みんな無事だった。

「それにしても……」

 ミネラー管理長達は水中活動衣姿のリブサーナとアジェンナを見つめて尋ねる。

「君達、いつもそんな恰好で戦っているのかい?」

「ちっ、違いますよ! ウォーテニック星は海の惑星だからこの水着で水中移動してたんですっ!!」

 リブサーナは頑なに否定した。アジェンナがリブサーナに逃げるよう促した。

「そんな事言っていないで、天井を壊した孔から逃げるよ。私ら罠発動装置(トラップスターター)の解除方法知らんし」


「とりゃあああっ!!」

 ドリッドが手にトンファーを持ちかまえてハーダーの幅太の剣とぶつけ合った。ドリッドが押されるとドリッドは負けずまいと相手の攻撃を防いだり、隙をついてトンファーの先を向けてきたりとやり合っていた。ハーダーは本当にアーマロ星の剣闘士で毎月の塔議会で優勝し、更に三〇〇勝者に与えられる決闘士の称号も手に入れたのだった。

 艦長はシーモア星人のザックと格闘しており、ザックは一見派手なドレッドヘアで理知的だと思っていたが、体力もありグランタス艦長に近づくととびかかってきたのだ。

「ぬうっ」

 ザックはグランタス艦長を仰向けにして取っ組み合いするが、グランタス艦長は戦斧(ハルバード)と銃を使わない戦いは苦手という訳ではなかった。ザックは艦長の上にのしかかると自分の髪――正しくは触手を伸ばしてきて、ザックの髪は艦長の首と両手首を縛り、更に自分よりも背丈も体重もある艦長を鉄の扉に叩きつけたのだった。

「うぐっ」

 艦長は強く叩きつけられ背中を痛めるが、塔の窓ガラスの破片のやつを偶然手にし、ザックが自分の腕よりも大きい黒い光線銃(レーザーガン)を向けてきた。

「おさらばだ、艦長さんよ」

 ザックが銃口の照準を定めていると、グランタス艦長は手にしたガラスの破片を投げつけて、光線銃の銃口をふさいだのだった。

「なっ!?」

 ザックはすでに引き金を引いており、バン! という音とともにガラスが粉々に砕け、ザックは眼と口を両手と触手で防いだ。

「今だ!」

 グランタス艦長は飛び出していって、ザックの銃を手刀で落とし、更に鳩尾に強く拳を入れて、ノックダウンさせたのだった。

「ふぅ……。一かばちのかけであったが、何とかなったか……。今のうちに拘束せんとな」

 そう言って艦長は物質亜空保管カプセルから、犯罪者や悪人を捕らえる電子手錠をザックの両腕にかけて捕縛した。

 ハーダーとドリッドの戦いはなおも続いており、攻守を繰り返していた。

「なかなかやるな!」

「お前もな! 悪に落ちぶれてなけりゃあ、いい戦士になれたものの!」

 そう言ってドリッドはハーダーとぶつかり合うが、ハーダーの剣の方が上でドリッドは斬撃で腕や脚は切り傷だらけで、トンファーも傷だらけになっていた。

(何せあいつの方が武器の質が上……。そして体が甲殻に覆われているアーマロ星人で、剣闘士の経験を持っている……。単純に戦ったらかえって俺が不利に思えるのは当然……。ならば……)

 ドリッドは何を思ったのか、立ちあがって管理室を飛び出していった。

「!? 逃げるのか? 戦将のくせに!」

 ドリッドが先ほどのグランタス艦長とザックの取っ組み合いで少し凹んだ鉄の扉を開けて廊下に出た。

「腰抜けめ。お前から血祭りにあげてやる!」

 ハーダーはドリッドの後を追いかける。廊下を出ると、床には三階の天井から壊された孔、人質が救出されたばかりの畜燃料室は誰もいず、エレベーターはロックされて動かす事は不可能で、非常階段には罠発動装置(トラップスターター)が仕掛けられており、発動した後もなかった。

「あいつ、どこへ……」

 ハーダーがドリッドを探している時だった。その時、ドリッドが畜燃料室から飛び出て、ドリッドが後ろからハーダーを羽交い絞めにした。

「お前っ……! どうして……」

 ハーダーが両腕と剣を持った手をドリッドによって押さえつけられつつも横目でドリッドを睨みつける。

「フン、甘かったな。俺は畜燃料室の扉の真上の天井に隠れていたんだよ。お前からみれば死角だったという訳!」

「おのれぇ〜っ!」

 ハーダーはドリッドから抜け出そうとしたが、ドリッドはさっきのお返しというように、ハーダーを非常階段に投げ飛ばしたのだった。非常階段の壁にハーダーは勢いよく叩きつけられて床に落ち、起きあがろうとした時に罠発動装置(トラップスターター)が作動して、一瞬爆発したのだった。

「どわっ!!」

 罠発動装置(トラップスターター)の小型爆弾でハーダーは吹き飛び硝煙が舞い、ハーダーは煤と傷だらけになって倒れたのだった。

「ふぅ……。危なかったな」

 ドリッドは肩から腰にかけての全身の力が抜けて、床に着いた。


 一方、人質にされていたブラックホール管理塔の管理者達は、リブサーナが二階のレストランの厨房にある道具で作った爆弾で空けた孔をつたって下へ降りていった。孔は不定形な状態のため、冷蔵庫に吊るす大きな肉や魚を下げるための硬い岩のフックと丈夫な繊維の縄で上がっていたのだった。管理者達が全員二階のレストランと土産店のある二階へ茶駆使すると、リブサーナ、最後にアジェンナが下りてきた。

「どうもありがとうございます。ワンダリングスの皆さん」

 ミネラー管理長達はリブサーナとアジェンナに礼を言う。

「だけど、みなさん達を助けるためとはいえ、レストランの厨房の道具を使って爆弾を作って塔に孔を空けてしまいました……」

 リブサーナが申し訳なさそうに謝罪すると、管理者達はまた自分達で直す、と言ってきた。

「この人達を助けるためとはいえ、気にしない方がいいわよ」

 アジェンナがそう言ってくれたけれど、リブサーナは気がもやついていて仕方がなかった。

 その時、アジェンナの携帯端末が鳴ってアジェンナは防水バックから取り出すと、携帯端末の画面から、艦長の姿が立体的に映し出された。

『お前達、人質は全員無事か?』

「はい、全員助け出しました」

 アジェンナは捕まっていた管理塔の面々を見てから返答する。

『こちとらならず者を二人退治して、宇宙連合軍を呼んでおいた。ミッションクリアだな』


 艦長達がならず者を退治してから数時間後、青と白のボディカラーで丸みを帯びた連合軍の護送船がやってきて、青い軍服のオミクロン星域の様々な種族の連合軍の隊員がハーダーとザックを連行していった。

 連合軍の護送艇が去った後、空は濃い紫色に変化しており、銀粉のような星が瞬き、更に永久円の月が浮いていた。ウォーテニック星の月は決して満ち欠けしないからという事から、永久円月と呼ばれていた。

「はー……、また海の中を泳いでウィッシューター号を泊めている島まで行かなくちゃいけないのか……」

 リブサーナがぼやいていると、アジェンナが肩を叩いてきた。

「何言ってんのよ。海の惑星に来たからには水中移動なんて当たり前なんだから。さ、行くよ」

 アジェンナが水中ゴーグルと酸素棒(オキシジェンバー)を装着して海の中に入ると、リブサーナも海に入っていった。

 夜の海は言うまでもなく、黒みがかった青で視界に悩まされると思いきや、そうでもなかった。島の洞を住居にしているウォーテニック星人の家々の窓からオレンジ色の灯りがともされ、昼ほどではないけど照らされていたのだ。

 他にも様々な魚が眠りながら泳いでいるし、白い半透明のリブサーナほどもあるクラゲや頭が三角形の細長い体に触手が十本もある青白イカが墨を吐きながら泳ぎ、更には海の生物の残骸が真冬の雪のように舞うマリンスノーを目にしたのだった。

 ブラックホール管理塔からウィッシューター号の停泊先までの道のりはブリックが記憶していたので、一同はブリックを先頭に泳いでいったのだった。

「はーっ」

 リブサーナ達が水中を出ると、見慣れたウィッシューター号があり、みんなは今日の戦いと水中移動の疲れ、髪や肌にも染みついた海水を洗い流すために順々に入浴したのだった。リブサーナはピリンと一緒に入浴して、湯気が漂う熱めの湯が入った浴槽に入っていた。

 ウィッシューター号の入浴スペースは合成防水素材の浴槽と床と天井と壁、シャワーがついていた。ドリッドと艦長はシャワーだけで済ませ、最後にリブサーナとピリンが入ったのだった。

「ずっと水着を着ていたから、肩とか脚の付け根とかがくいこんで痛かったよ」

 リブサーナは肩や背中やらに浮く赤いあとを見つめる。

「でもサァーナはしゃ、トリャップシュターターをうけないように、レシュトリャンのちゅーぼーかりゃどーぐちゅかって、ばくだんちゅったんだよね? サァーナにちてはだいたんだぉ」

「うん……」

 リブサーナはピリンの台詞を聞いて、口ごもる。ハーダーとザックが仕掛けた罠発動装置(トラップスターター)の回避するためとはいえ、レストランの厨房から電動ミキサーやらオーブンや冷蔵庫の部品やらで爆弾を造り、一つ目は二階の天井にドリッドの背を借りて取り付け、二つ目は三階の天井に勢いよく投げて爆破させたのだった。おかげさまでレストランと厨房はめちゃくちゃになってしまったが。

「いちゅばくだんちゅくりかたをおぼえたの?」

「うん。以前レプリカントの脱走兵をさばく裁判所の待合室で連合軍の応急品マニュアルを偶然手にして読んで……」

 リブサーナは苦笑いした。


 リブサーナとピリンは入浴を終えて、ゆったりとしたルームウェアを着て、食堂に来た。食堂は床と一体化したテーブルと椅子が数脚、上座には艦長が座り、テーブルには今日は人命救助に当たっていたブリックが晩食を作った。

「今日は海の幸をいくつか使った」

 お碗には大きな黒い貝やイカの輪切りや海老が入った赤いシチュー、皿には赤味魚ト白身魚の刺身、緑や紫や白の海藻サラダ、あと肉食のドリッドのためにと以前のミスティアーノ星で手に入れた山鳥の蒸したのがあった。他には水差しと雑穀パンの山積み。

 海の幸のシチューはブイヤベースといって、海辺や島国の住民にとっては定番のおかずで赤い汁はプラネットトマトとモーニンニオンとアンコクリックと獣骨の出汁で味付けさてていた。刺身は酸味のあるしずくレモンとアンコクリックとスカルオリーブのオイルで味付けされており、海藻サラダには白く細切れにしたコンニャクも入っており、これも酸っぱく味付けされていた。一方、山鳥の蒸したやつにはソースも味付けもなく、ブイヤベースの残った汁や塩で味付けして食べた。


 入浴と食事を終えると、皆それぞれの自室に戻るものの、リブサーナは管理塔の床と天井を壊し、塔内の厨房の機器を壊した弁償をどうしようか考えていた。

 リブサーナの部屋は壁に備え付けの机とクローゼットとロフトベッドの他、金属フレームの本棚、それから故郷のホジョ星の景色を思い出せるようにと森や草原や川辺の写真や降り立った惑星の珍しい植物や景色の写真がフレームに収められていた。

 リブサーナは床に備え付けられた回転椅子の上に座り、机の上の紙幣と小銭を見つめていた。宇宙で使えるお金、コズム貨幣である。超新星の絵が入った一〇〇〇コズムが四枚、正方形白金貨の一〇〇コズムやひし形の五〇コズム銀貨、三角形の一〇コズム白銅貨、六角形の一コズム青銅貨が数枚ずつであった。リブサーナの所持金は二四五九六コズムである。

(これじゃあ、オーブンの修理ぐらいだよな……)

 リブサーナは頭を抱えて息をつく。ワンダリングス各クルーの生活費は連合軍からの依頼の一部もしくは狩りで手に入れた動物の毛皮や羽毛、骨や牙、そして未開の惑星で手に入れた宇宙鉱石を売ったお金であった。リブサーナにとって管理塔の弁償は恐らく五〇年かかっても難儀と思った。

 その時、白いシャツと水色のスラックス姿のブリックがリブサーナの部屋がきっちり島ってなかったので、困っている彼女を見て入ってきたのだ。

「どうしたんだ?」

「ブリック、実はね……」

 リブサーナは管理塔の管理者達に塔を壊した事に深く悪びれているのを話した。

「リブサーナが人質を助けるために管理塔を壊したのは一種の正当な手段だ。だけど、償いをするのかしないのかはリブサーナが決めればいい」

 ブリックが真顔で諭すと、リブサーナは苦虫を噛み潰す表情ながらも答える。

「償いはしたい。けど、わたしには……」

「なら以前に手に入れていた古の産物が今使い時になるんじゃないのか?」

「えっ?」

 リブサーナは何の事か疑問に思っていると、ブリックが教える。

「いつかの惑星で手に入れた宝があるだろう?」



 

 次の日、リブサーナとブリックは艦長に暇をもらい、ミニーシュート号でパルバム星へと引き返した。

「サァーナ、パルバムしぇいでわしゅれものちたのかな?」

 ピリンがブラックホール管理塔に行くための水中活動着に着替えて水中ゴーグルと人工気泡ヒレ発生装置(エイリアルフィンスターター)を装着していると、アジェンナが屈伸などの準備体操をしながら答えた。

「さぁねぇ……。昨日の事、随分気にしていたようだし」

 ウォーテニック星の空は昼だが、雲行きが怪しい暗灰色になっており、入道雲もあった。

「昨日は管理塔の人質救助とケガ人の手当てで通行許可の署名ができなかったからな。さて、行こうか」

 艦長がそう言って海の中に入ろうとした時だった。

 ザアアアアアッ

 横殴りの雨が降ってきて、波も荒々しくなり、今水中移動したら危ない状態になって嘘―テニック星人は急いで水中に潜って自分達の家へと入っていった。

「うわー、こんなんじゃ行けねーぞ」

 ドリッドが雨に打たれて急いでウィッシューター号の中へ引返し、管理塔のある島には暫くお預けとなった。

 雨は激しく何時間もたて続けに降っていた。ウォーテニック星は二十八時間あり、夜はその内の八時間だけであった。今はまだ昼で、雨の音を聞いているだけでうざったく思えた。

 その間、グランタス艦長達は戦闘訓練や射撃訓練で時間を潰し、雨がようやく止んだのは六時間も後の事だった。空は灰色の曇天から淡いピンクになり、空の彼方からウィッシューター号を小さくした宇宙艇ミニーシュート号がやってきて、ウィッシューター号の格納庫に入っていった。

 格納庫から出てすぐ廊下に入ったリブサーナとブリックはドリッドと顔を合わせた。二人とも全身を覆うスーツを着ていて、ブリックは青、リブサーナは若葉緑で白い切り替えが腕と胴体と脚に入っていた。

「お前ら、一体何しに行ってたんだよ。こちとら管理塔行こうとしたら、雨が降ってきて時間潰して鍛錬してたんだぞ」

 ドリッドが憎まれ口を叩くと、ブリックが「ああ」と呟くと、リブサーナがおどおどしながら答える。

「昨日壊した管理塔の修膳のお金を手に入れるためにパルバム星に戻ったの。わたしの持っている宝物を王様に買い取ってもらって、金貨を手にしたの」 リブサーナの両腕には三つの皮袋に入った金貨がぎっしり詰まっていた。ドリッドはそれを見て、何を売って金貨三袋にしたのか尋ねる。

「惑星グルグロブで手に入れた古代グルグロブ王家のコインを売って、そしたら王様が金貨二〇〇枚で買い取ってくれたの。これだけあれば、困らないと思って……」

「ええ!? あのコイン売っちまったのかよ? いくら管理塔の修理の弁償にしたとはいえ……」

 いつかの惑星で手に入れた古代王家のコインが現在の価値で数十万コズムするとはいえ、ドリッドは何か損したような気分になった。

「それにあの管理塔はブラックホールを一時消去する装置は壊れていなかったし、壊れた部分だって、ウォーテニック星人が自分らで直すって主張していたのに……」

「何を言っているんだ、ドリッドは。リブサーナは自分で償いをしたかったんだ。この判断は正しいと思うがな」

 ブリックが諭した。

 何はともあれ、リブサーナは宝と換えた金貨を耐水圧耐弾合金のトランクに入れて、また海を泳いでブラックホール管理塔に来たのだった。警備員は皆軽傷で、管理者達も平気だった。

「これを管理塔の修繕費用として、ですか……!?」

 ミネラー管理長はトランクに入ったコズム金貨二〇〇枚を見て仰天した。

「はい。せめてものの償いです……」

 昨日と同じ水中活動着姿のリブサーナが返答する。管理者達はぼんやりしつつも、リブサーナが自分の持っている宝を他所の惑星に行ってまで換金して弁償してくれたと知ると、感激して深々と頭を下げた。

「あっ……、ありがとうございます! 喜んで受け取らせていただきます! ……それでは明日、ダイチェ星間のブラックホールを消しますので!」


 次の日の真昼前、ウィッシューター号はウォーテニック星の成層圏を抜け出し、ウォーテニック星高度〇メートルの管理塔では、管理者達がブラックホール座標や消滅時間の計算、塔の最上部にあるアンテナを動かし、先端がブラックホールに向けられる。

 宇宙空間では瑠璃色と様々な星々の中、黒い渦のブラックホールが餌となる小動物を待ち伏せする獣の口のように待ち構えていた。

「あれがダイチェ星の星間路を阻むブラックホールか……。上手く消滅するのを祈るばかりだ……」

 司令席に鎮座しながらもブラックホールの恐怖を見て、グランタス艦長が唾を飲む。

「座標確認、エネルギー残量よし。それではブラックホール消滅!!」

 ミネラー管理長の合図で、ブラックホール管理塔の頂から青白い光線が勢いよく放射され、空をつきすすみ、成層圏を抜け、ブラックホールに当たり、一瞬白い光に包まれたかと思うと、ブラックホールはだんだん窄まり、最終的には針穴のように小さくなったのだ。

「せ……成功したぞ!! やったぜぇ!!」

 ドリッドが思わず操縦席を立ってガッツポーズをとる。その時、ウォーテニック星のブラックホール管理塔から通信が入る。

『ワンダリングスの皆さん、応答願います。こちらミネラー。ブラックホールはどうなりましたか?』

 操縦席のコックピット窓の一部からミネラー管理長の声が聞こえ、顔が映し出される。

「こちらウィッシューター号。ブラックホールは消えました、成功です」

 アジェンナが返信し連絡する。

『それは良かった。でもブラックホールの消滅時間は時と場合によって変わりますので気をつけてください。今回の消滅時間は二時間です。通り抜けるなら今のうちです』

「了解」

 ミネラー管理長の忠告を聞いてグランタス艦長が指揮を執る。

「ウィッシューター号、全速前進!! 目標、ダイチェ星王族領無人地!!」

 ウィッシューター号はいつもより速度を上げ、青白い放物線を放ちながらブラックホールが消えた星間区域を飛んでいった。

 そしてウィッシューター号が去っていった宇宙区間には針穴ほどだったブラックホールが徐々に拡大していき、再び黒い渦となった。

 これでウィッシューター号はダイチェ星とウォーテニック星の間のブラックホールから回避できた訳だが、艦長は浮かない顔をしていた。

 ブラックホール管理塔を乗っ取ったならず者の言う"あの御方"、宇宙ピューマをはじめとする宇宙珍獣狩り、星から星へと渡り歩く兵器商人、"あの御方"に仕える宇宙のならず者達――。これらはほんの一部でしかあらず、グランタス艦長はこの試練を解決していくと誓ったのだった。