7弾・1話 新たなる物語の幕開け


 紫紺の地に金銀の粉を散りばめたような星々に、赤や青や黄色の惑星、白や灰色の衛生群が浮かぶ宇宙空間――。その中に薄青い機体に魚のヒレ状の飛翼を付けた中型宇宙艇が後部から青白い放物線を放ちながら飛んでいた。

 その宇宙艇、ウィッシュッター号の一角の個室でのベッドに一人の少女が眠りに就いていた。少女は人間型異星人(ヒューマンがたエイリアン)でうねりのある糖蜜色の髪に黄色がかった肌に卵に目鼻の顔立ちで、宇宙連合軍からの依頼か次の惑星に着くまでの休眠をとっていた。

「ん〜、んん〜」

 連合軍の依頼で動く雇われ兵団としての安らぎは休暇と眠りが彼女と仲間たちにとっての至福の時であった。

 少女の枕元には緑色の結晶がはめ込まれたバレッタ。結晶には木の葉の紋章が浮かび上がり、眠っている少女の精神内に伝わってくる。

 少女の精神の中に現れたビジョンは、鮮やかな青空の下、広大な薄茶色の大地に建物の屋根が黒い升目状のものばかりで、赤褐色の人間型異星人が暮らしている、という風景であった。そして、赤い炎に包まれた雄々しい神の姿――。

『我が名は......陽炎のソ......ル......』

 ここで赤い神の姿と声が消え去り、少女はまぶたを開けて深緑色の眼を出した。

「い、今のは......」

 少女は半身を起こして、今の夢が遠い惑星での出来事か、それとも創造神からの啓示なのか、定めようとする。

「あ、もしかして......」

 少女は一五〇時間前の出来事を思い出した。連合軍からの依頼で少女たちはオミクロン星域内のキュイズ星で、先住民と移民イバーコ人との戦争で、先ほどのキュイズ兵の援軍をすることになった時、少女たちはキュイズ兵の援軍に回った時、イバーコ兵に占領された町の奪還に行った矢先、少女は宇宙各所の悪しき輩を集めて宇宙支配を目論んでいる〈あのお方〉に仕えているという戦士エルダーンと遭遇し、エルダーンが精神波動(スピリットウェーブ)の使い手でそれによる攻撃で苦戦している中、少女の身に異変が起きた。

 少女の持っていた結晶が輝き出して、少女は創造神の依代となってイバーコ兵とエルダーンを撃退した後、少女は意識を失って三日も眠り続けていたという。

「創造神、か......。何か夢や過去のように思える......」

 少女は呟いた。少女は壁付けのロフトベッドから降りて、寝着から普段着に着替えるためにクローゼットまで歩き、緑色のチュニックと白い七分丈パンツと編み上げブーツを出してそれに着て、髪をとかしてバレッタを後頭部の髪に付ける。

 少女は着替えが済むと、カウンター机の携帯端末を手に取って、画面のアイコンを指先でタッチして、仲間からのメールを確かめる。

「ヒートリーグより、あと一時間でリブサーナが操縦席の番だから、時間内には来てね〜、か......。これが届いたのは一時間前、今は......!?」

 そう思って少女、リブサーナはメールが届いた時間と今の時間を目にする。

「あああ、あと一五分でわたしが操縦席に行く時じゃないか!:

 リブサーナは正気になって自分の部屋を飛び出して廊下に出て、食堂で仲間のブリックが作ってくれた食事のパンとスープとサラダとミルクを口にして、どたどたと走って行って操縦室に着く。

「ま、間に合った〜」

 操縦室はコックピット席が四つ、一段上の司令席と盤状モニターと補助席、天井と上壁は象牙色(アイボリー)、下壁と床は暗銅色(ダークブロンズ)の構造になっており、廊下や個室も同じ床と壁になっている。

「操縦席で二時間の待機。大切な役目なんだけど、退屈なんだよなぁ」

 リブサーナは操縦席に一つに座り、コックピット窓のモニターのレーダーや座標に異常かないかチェックするのが仕事だ。

 操縦席は常に二、三時間おきの交代で他の艦員(クルー)は次の番になるまでは基礎体力作りや銃や戦闘の訓練、新薬の開発や次に行く惑星や星域の情報収集に勤しんでいる。

 操縦席に一人ただずむリブサーナはさっき見た夢の内容を思い返していた。

 太陽光で生活する異星人の住む処や様子だけでなく、炎に包まれた赤い神――。リブサーナの身体を依代にして甦ったという宇宙の創造神の一柱、緑土のフリーネスは惑星テーラの魔神が数千年ぶりに封印から復活して、宇宙の悪しき輩を集めて宇宙を掌握しようとしていることをフリーネスから聞いたリブサーナは半信半疑、いや信用七割疑念三割であった。ベラサピアやエルダーンとたちといった〈あのお方〉に仕える者、〈あのお方〉がフリーネスの言っている「悪しき輩」と「復活した魔神」がどこか一致しており、リブサーナは大方正しい方に入れていた。

 そしてフリーネスからは自分以外の創造神を探し出して欲しいと頼まれて、リブサーナはフリーネスから魂の結晶の状態になっているあとの五柱の創造神を探し出す能力を与えられたというが――。

(もしかして、さっき見た夢の内容が二番目の創造神を見つける手がかりなのでは?)

 ただの夢かと思っていたのだが、実は後から本当になったということはよくある。正夢あるいは予知夢。もしかしたらこれがフリーネスがリブサーナに与えてくれた創造神探しの能力なのだろう。

(わたしがさっき見た夢が、ただの夢じゃなく、遠い星の、これから起きる未来なのでは......)

 そう思うと、リブサーナはだんだん次の創造神の場所を探すことにやる気が湧いてきた。それからして私室にいるグランタス艦長に通信を取り、リブサーナの携帯端末の画面に黄褐色の複眼と双眸に黒い体と触角のある昆虫型異星人の顔が立体的に映し出される。

『何用だ、リブサーナ。緊急事態か?』

「あ、いえ。グランタス艦長。あのー、ちょっと調べてもらいたいことがありまして......」

 リブサーナは携帯端末越しにグランタス艦長にお願いする。まずリブサーナが司令室の番になる前に寝ていた時の夢の内容を話し、その夢の中に出ていた人種と生活様式と環境が一致する惑星を調べて欲しいと頼んだ。

『赤褐色の肌の人間型異星人と岩場の環境とソーラーエネルギーによる生活する惑星か? わかった。連合軍の惑星データベースからコピーをいくつか譲渡してもらったから、調べよう。時間がかかるがよいな?』

「ありがとうございます、艦長。では、わたしは引き続き司令室にいますので」

 リブサーナはここで通信を切り、コックピット窓のモニターに再び目を向ける。本当は自分で調べようと思ったけれど、今は司令室のモニターチェックをしなければならないため、幸い艦長が引き受けてくれたので安心した。

それから二時間経って、司令室に長い紺青の髪に白い肌と紫の眼、頭部に細長い銀色の触角、背に銀色の薄翅を持ち、紫色のトップスと灰色のアーミーパンツに黒いアーミーブーツ姿の女、アジェンナが入ってきた。

「リブサーナ、交代の時間だよ。その様子だと何事もなかったようね」

 アジェンナが司令室とリブサーナを見て言った。リブサーナは席から立つと、出入り口の方へ歩み寄る。

「アジェンナ、あとはよろしく。ああ、そうだ。艦長の所に行ってみた?」

 リブサーナはアジェンナに尋ねてくる。

「艦長? 艦長がどうかしたの?」

「あー、その、本当は自分で調べたいことがあったんだけど、さっきまで司令室で手の離せない状態だったから、艦長に代わりにやってもらっていてね......」

 リブサーナはアジェンナに説明した。

「いや、艦長の所には行ってないよ」

「ああ、そうなんだ。ありがと、わたしもう行くよ」

 リブサーナは司令室の番をアジェンナに任せて、司令室を出て廊下に入る。宇宙艇の中は一日二十四時間のタイムラグとして設定され、地上と同じように重力安定装置が設置されている。リブサーナたち宇宙人類は外見や言葉や思考だけでなく、住んでいる惑星の時間や日数も異なるため、年齢も寿命も違う。従ってリブサーナはラムダ星域の最東端にある農業惑星ホジョの出身で、ホジョ星は一年が十六ヶ月あって、一ヶ月が二十五日前後となっている。リブサーナはこの時十六歳であるが、ホジョ星から旅立ったのがだいぶ前のことなので、ホジョ星では何ヶ月経っているのか不明である。

 リブサーナはグランタス艦長の部屋の前に立つと二回ノックして尋ねてくる。

「リブサーナです、艦長」

「ああ、入れ」

 扉が左右横開いて、リブサーナは艦長の部屋の中に入る。

「失礼します」

 グランタス艦長の部屋は質素で、壁付けの机とベッドとクローゼット、ベッドの下の丸窓、他に映像モニターと特別に作ったコンピューター用の机とコンピューターデバイスとプリンターやスキャナー。コンピューター机には柔らかな背もたれ付きの椅子に座っているグランタス艦長がいた。グランタス艦長は両肩に「<」型の突起と背に甲翅と薄翅を持つインデス星人の王族で、王位継承が低かったのと軍事力に長けているためにインデス星を出て雇われ兵団ワンダリングスの設立者となり、連合軍からの依頼が来ると弱小軍の援軍や宇宙客船ハイジャック退治などの任務をこなしてきた。

「おお、リブサーナか。お前に頼まれた特定の人種や生活様式と環境の当てはまる惑星情報を探している最中でな」

 グランタス艦長は椅子に座ってデバイスのキーを叩いていて、更に画像酔防止の眼鏡をかけていた。

「あの、わたし今司令室の番が終わったので、自分で調べようと......」

「ん、そうかそうか。流石にわしの年齢となるとコンピューター作業が目と肩と腰に来るでな。リブサーナ、持っていけ」

 そう言ってグランタス艦長は惑星データベースのUSBをリブサーナに渡した。

「あ、ありがとうございます。後は自分で」

「リブサーナ、戦闘と銃の訓練もしておくように」

 グランタス艦長はリブサーナに私事だけでなく、他のこともしておくようにと言ってきた。

 リブサーナは自分の部屋に戻ると、ノートデバイスを起動させて、惑星データベースのUSBを差して、更に条件付き検索で自分が見た夢と同じ惑星に当てはまる情報を探し出す。

「うわっ、これだけでも一〇〇件近くあるのかー。いや、今ウィッシュッター号はピー星域に入っているから、オミクロンとピーの星域の星を確かめてみよう」

 リブサーナは画面に映る検索結果を調べて自分の夢の内容とマッチする惑星の情報を探し出した。十件程調べた結果、ピー星域内の惑星で、一つ該当するものを見つけた。

「ん〜、ピー星域座標〇二六、サゾーロ星? えーと、そこに住む主要種族は赤褐色の肌の人間型異星人で、四〇〇年前から太陽光による電力発電及び充電電池を開発で生活し、晴天の日が多いため、岩場や荒地が多く水資源は貴重......。ここだ!」

 リブサーナはサゾーロ星の情報内容と自分の見た夢が大方当っているのを目にして叫んだ。そうなると、意気が高ぶって二番目の創造神探しにはまりだした。携帯端末を取り出して、ワンダリングス全艦員に集合のメールを送った。

 それからして、ワンダリングスの面々が司令室に集って、リブサーナの語る話を聞くことになった。

「次の創造神の手がかりがわかったってぇ?」

 そう言ってきたのはドリッドであった。ドリッドは赤胴色の体に三白眼に背に翅と触角を持ち、公私常に軍服を着ている虫型異星人のジーザス星の元軍人で、リブサーナの召集を受けるまでは銃撃訓練室で訓練中だった。

「しょれで、どこにいりゅの? つぎのしょーじょーしんは」

 舌足らずの幼女ピリンがリブサーナに尋ねてくる。ピリンは背に細長の白い翅と長耳を持つフェリアス星のパリゼット族で、若葉色の巻毛に銀色の瞳、ライトグレーのドレスを着ていた。

「うん、ピー星域の座標〇二六にあるサゾーロ星。そしたらわたしの見た夢と星の状態が見事に似ていてさぁ」

 リブサーナはみんなに語るが、二メートル越えの背丈に赤と白と黒の機体の機械生命体、ヒートリーグが疑わしそうに返事をする。

「夢と調べた惑星の情報が似ていた? ただの偶然でしょ? そこに行ったって、創造神の魂の結晶があるのかどうか」

 ヒートリーグはリブサーナの言葉が何かうかがわしいと思った。

「まぁ、待て。話は最後まで聞くものだぞ。それでリブサーナ。お前はそこに行きたいのか?」

 グランタス艦長がヒートリーグに注意した後、リブサーナに尋ねてくる。

「はい。次の創造神は陽炎だって、夢の中に出てきたんです」

「リブサーナがフリーネスから与えられた能力とは、千里眼と予知を組み合わせたものなかのか? いくら宇宙各所には特殊能力持ちの種族もいるとはいえ」

 そう言ってきたのは、眺めの銀髪に青い眼に白い肌の青年、ブリックであった。ブリックは有機合成生体の人造人間レプリカントで、三〇〇年の寿命と超人的な知能の持ち主で、

ブリックはワンダリングスでは医療と薬学の役目を担っていた。

 ワンダリングスはこれまでに多くの宇宙人種と関わっており、敵であれ味方であれ超能力種族と会ったことも多々だ。

「多分......そうだと思う。みんな、お願いがあるの。サゾーロ星に行って、二番目の創造神を探しに行きたいの!」

 リブサーナはブリックと交わすと、艦長たちにお願いする。リブサーナの夢の話を聞いて信じられ難くおもっていた者も、しばし考えてから答える。

「リブサーナがああ言っているのならな、行くしかないだろう」

「ピリンもしょーじょーしんがみてみたいぉ」

「わしや連合軍が探っている"巨悪"と"封印から甦った魔神"と同じならば協力しよう」

「だよねぇ」

「サゾーロ星に行けば、いい話なのだろう」

 ドリッド、ピリン、艦長、ヒートリーグ、ブリックがリブサーナの意見に賛成する。

「アジェンナ、これからサゾーロ星に向けて出航する。目的先をサゾーロ星に合わせてくれ」

「了解」

 グランタス艦長が操縦席のアジェンナに指示を出す。

 こうしてワンダリングスは、二番目の創造神を見つけだすためにサゾーロ星へ向かうことになったのだった。

 ところ変わって、ある星域の中にある小惑星基地――。その小惑星は突起が三つ有り、表面には宇宙艇の発進到着のための穴が六つあり鬼の頭の形をしていた。キュイズ星で移民のイバーコ兵の援軍となり、またリブサーナに敗れた青年、エルダーンはキュイズ星での戦いの後撤退し、小惑星基地に戻ってきたのだった。

 エルダーンは浅黒い肌に長めの暗緑の髪、切れ長の琥珀色の瞳、細身ながらも筋肉質の体つき、背丈は一八〇センチ代で紺色のアンダースーツの上から胸と肩と腰を覆う銀と青の装甲、両腕と両脚にも装甲が施されている。

 司令室は巨大モニターとコンソール。画面に映る不気味なつり上がった赤い目と大きく裂けた口から恐ろしさと威厳さを持つ低い声が流れてくる。

『エルダーンよ、キュイズ星での戦いではワンダリングスの妨害を受けたためにイバーコ軍が敗れたのだな』

「はい。あと一歩の処で、ワンダリングスのリブサーナが変化して、緑色の装甲に覆われて〈緑土のフリーネス〉と名乗っていました。それが尋常でない攻撃でして......」

 エルダーンはキュイズ星での行動を画面の"あのお方"に報告する。

『緑土のフリーネス......!? まさか、創造神が、いや......創造神も復活したというのか!!』

"あのお方"は創造神フリーネスと聞いて驚くも平静さを取り戻す。

『エルダーン、我が軍の派遣戦士たちに伝えろ。「創造神の魂の結晶を見つけ次第、破壊せよ」と』

 ウィッシュッター号がサゾーロ星に向かうことを決めてから九〇時間後、ウィッシュッター号はサゾーロ星に着いた。

 宇宙空間から見たサゾーロ星は青緑が海と川と湖と現しており、薄茶色の表土の中に緑色のしみのようなのは森や草原を現しており、何よりサゾーロ星で思ってもいなかったのは、小さな太陽が四方を囲っていたことであった。

「サゾーロ星は小型の恒星、小太陽が四つあることで有名で。別名『万年朝の惑星』と呼ばれている。天候は主に快晴で、雨が降るのは二〇日に一度で、住人は町や村や雨水の貯水タンクを作ったり地下水を汲み上げて水資源を保っている。岩場や荒地が多く、作物は他の惑星から手に入れた苗や種を品種改良して自分たちが食べやすいようにして、また太陽光エネルギーによるシステムが盛んで、電気代が極端に安いのが特色。

 また岩場の多い星のため、貴金属の資源が盛ん――」

 ブリックがサゾーロ星についての文明や生活様式を一同に伝えて教える。この九〇時間はサゾーロ星についての言葉や常識を習得し、ウィッシュッター号はサゾーロ星に突入して、ある岩石地帯にウィッシュッター号を着陸させる。

 今回はアジェンナ、リブサーナ、ドリッド、ブリック、ヒートリーグが行くことになり、みんな武器や非常食、救急キット、携帯端末、サビに強い合金の水筒に水を入れて、アジェンナは日焼け止めクリームと制汗剤も持っていった。

「うわっ、暑っ! 眩しっ!」

 リブサーナとアジェンナがウィッシュッター号の外に出ると、鮮やかな青い空に浮かぶ小太陽の眩しさと暑さに反応する。

「小太陽が四つもあるから気温も常に三五度から四〇度になるから当然だ」

 ブリックがアジェンナに言った。空には東西南北に太陽が浮かんでおり、照っていた。

「ここに住んでいる人たちは肌の色が濃いのね。それにしても、どうやって近くの村に行こう」

 リブサーナが呟いていると、ブリックが一つの方向に視線を向ける。

「あれだ」

 数百メートル先の平地にはたくさんの柵に囲まれた敷地があり、その敷地内には二本脚で立つ尾の長いトカゲのような大きい生物が何十匹も入っていた。生物は個体によって模様や色が異なっていた。

「サゾーロ星人は大型の生き物、それも暑さに強い爬虫類を手懐けて家畜や乗り物にしているそうだ」

「成程ね〜。自分で歩くより、彼らに乗った方が楽だもんね〜」

 ブリックが説明し、ヒートリーグが頷く。

「ヒートリーグはバイクになって。その姿だと、ここの人たちが驚くから」

「はーい」

 リブサーナに言われてヒートリーグはバイクの姿になる。

「じゃあ今回はあたしがヒートリーグに乗るよ」

 アジェンナがヒートリーグに乗り、残りのメンバーは牧場へ向かっていく。

 牧場の近くに来ると、敷地の他に屋台と小さな家が建っていた。どちらも岩を削って積み重ねた物である。

「いらっしゃい。おや、お客さん。その肌の色と容姿......。異星人だね。観光かい?」

 屋台の中の男、中年ぐらいのサゾーロ人がブリックたちを目にして訊いてくる。

「え? ええ、まぁ」

 ドリッドは適当に返事をする。屋台の主人は赤褐色の肌に灰色の短く刈った髪に眼も灰色で背丈は中肉中背らしく、民族衣装なのか袖口の広いシャツと裾の広がったパンツに爬虫類の革で作った靴を履いていた。

「うちは貸しパラドンをやっていてね、一日五〇〇トムカ。どれにするかい?」

 主人はドリッドたちに訊いてくる。この大型爬虫類はパラドンといって、サゾーロ星の家畜らしい。

「五〇〇トムカ? コズムだとどれくらいですか?」

 ブリックが主人に訊いてくると、主人は換算レートを思い出してから答える。

「コズム? そうだったね、あんたら観光客だもんね。一トムカは三コズムだからー......、一人七五〇〇コズムだよ。そっちのお嬢さんはイカした二輪車に乗っているようだし、パラドン三頭で、二二五〇〇コズムってことで」

「結構高いな」

 ドリッドが貸パラドンの値段を聞くと、主人は答える。

「何を言っているんだい、お兄さん。我々のような岩地の民は他の惑星から水や作物を手に入れないと生きていけないんだ。パラドンは一日一回十分の吸水だけで三日は持つし、餌も昆虫やキノコやコケで済むから得なもんだよ」

「確かにそうかもしれませんね。では三頭を」

 ブリックは主人と契約し、ドリッド、ブリック、リブサーナはパラドンの柵の中に入る。

どのパラドンも色も模様も様々で、性格も十頭十色であった。主人が三人に鞍と手綱を渡す。

 リブサーナは緑色の小柄なパラドンで、ドリッドは朱色の体に黒い縞模様のパラドン、ブリックは青灰色の体のパラドンを選んだ。

「ご主人、ありがとうございます。ここの近くの村はどこにありますか?」

 ブリックが尋ねると、主人は教えてくれた。

「北をパラドンの歩行、四六〇〇歩行くと、パリン村がある。うちの近くはここだよ」

「ありがとうございます」

 リブサーナたちは主人に礼を言い、パラドンとバイク姿のヒートリーグに乗って、パリン村へと向かっていた。二番目の創造神の魂の結晶があるかどうかを。