青い屋根に生成りの壁、美しい形の窓枠や柱がテラスに施されたエリヌセウス皇宮。庭園の芝生は深い緑に生い茂り、花壇には白や黄色や赤の花がたわわに咲き乱れ、運河には街に住む小鳥の他に森林地区に生息する赤や黄色の山鳥が水を飲みに来ていた。 季節は春。空は澄み切った碧空で、白金の太陽が照り、白い雲がいくつも浮かんでいた。皇宮の庭園には花の他にも樹林がなり、樹木は白や薄紅色の花を咲かせていた。 その皇宮内の一角にある執務室では、この国を支える若き女皇が他国からの貿易関係書類を読んでいた。執務室は白い地に金のストライプ、出入り口以外の三方の壁は本棚で、哲学書や法律書、ありとあらゆる学問書や辞典が収められており、中心には黒い高級木材の机と椅子、椅子には背と座る部分に赤紫のバーベッタ生地が張られており、高級感を引き出させていた。その執務室の椅子に座る若い女皇、ジュナ=メイヨーは貿易関係書類の内容がどういうものか把握するために次ページをめくったり前ページを読み戻したりと読んでいた。 ジュナは肩まである明褐色の髪を編み込んで更に普段用の銀色のティアラには薄桃色のコンクパールがはめ込まれており、イヤリングやネックレスもティアラと似合う銀細工に半貴石の物を使い、普段用のドレスは季節に合わせており、春の今は淡い水色のドレスで襟が詰まっていて袖が肘の所で白いフレアになっている形で胸やスカートの裾には白いレースのフリルが付いている。 コンコンとドアをノックする音がしたので「どうぞ」とジュナは返事をした。 入ってきたのは外務交易大臣のシュタウスとキュイン宰相であった。シュタウスは六〇代であるがまだ現役であり、ジュナに書類を読むように指示した人物でもあった。 「シュタウス大臣、読みましたよ。パチフィコ国との輸入物交換についての条件を……」 ジュナはシュタウス大臣に書類を読んだことを伝える。 「わたしとしては、他の大臣とも会議で決めたいと思うのですが……」 「わかりました。では空いている日と時間に決定会議を開いて決めましょう。ああ、あとですね……」 シュタウス大臣はジュナの話を聞いて賛同すると、キュイン宰相が話しかけてくる。 「パチフィコ国との輸入物交換に論する会議が終わったら、パチフィコ国との王太子との交流会を開くことを予定しております」 「あ、はぁ……」 キュイン宰相がパチフィコ国の輸入物会議が終わったらパチフィコ国王族との会合を持ちかけてくる。 「でもまだ結婚は……」 ジュナは口ごもった。エリヌセウス皇国では女子は二〇歳、男子は二二歳から結婚可能年齢が決まっている。アルイヴィーナ星では古代からの習慣で一〇代前半で結婚する国もあれば、社会の発達によって結婚年齢が遅い国もある。エリヌセウスは社会文明や学問先進が高度なため二〇代で結婚と決まっていた。 「ですが皇族は一般人と違い、それも女皇ならば早くに結婚する方が良いのですよ」 キュイン宰相はジュナに言った。 「いいじゃないですか。娘の結婚は娘が決めるものなのですよ」 そう言って入ってきたのはジュナの母で皇母になったセイジャであった。セイジャは千歳緑の髪を後ろで丸くまとめてベージュのスタンダードドレスを着ていた。 「陛下は女皇に就任してから二年になろうとしているのに、未だに結婚の気配がないんじゃ……」 「もうすぐ誕生日といえど、まだ一九です。ジュナ、パチフィコ国の王太子様と出会って文通から始めてみれば?」 セイジャはジュナに不快にならないように勧めて、ジュナは肩をすくめつつもパチフィコ王族との会合に参加することにした。 パチフィコ国との輸入物交換についての会議が終わると、ジュナは侍女たちと共に衣裳室へ行き、普段用の春ドレス南国人であるパチフィコ王族との会合パーティーで着るためのドレスに着替えた。 衣装室は季節やTPO、相手国との対面に合わせて種類別に分けられており、靴や帽子やアクセサリーも用途に合わせて保管されていた。 「陛下、このお召し物なんか良いのではございませんか?」 「靴とアクセサリーはこれを」 侍女がパチフィコ国王族と交流するためのジュナにアクセサリーと衣装を選び、ジュナはそれに着替えて、会合の場である大広間へと向かっていった。 皇宮内の大広間は天井が二ゼタン(四メートル)もあり、窓は一度に三〇人が入れるような瑠璃色の天幕が吊るされ、中心にステンドグラスの女神が飾られ虹色に輝いていた。壁紙は白地に青いダイヤ型の模様、床には薄青い絨毯、シャンデリアは金細工と色ガラスの物が七つ釣り下がり、白いクロスのかかった円卓には肉や魚やスープなどの料理が取れるようになっており、BGMとして皇室演奏団がバイオリンやコントラバスやハープなどの弦楽器を演奏しており、活き活きさせるメロディを出していた。 パチフィコ国の王太子と対面するために南国人に好まれる濃いオレンジのベアトップに前後で長さの違うフィッシュテールスカート、白いレースのストールを羽織り、首に日長石のネックレス、耳元に日長石のイヤリング、両手首に日長石の付いた金のリングブレス、髪型は左右にカールをかけ三つ編みを後ろでまとめて、足元はオレンジ色のレースアップパンプスを身につけたジュナが広間に現れた時、広間に来ていた他の大臣やパチフィコ国の来賓客が着飾ったジュナを見て呟く。 「ほぉ……、パチフィコ国の者に合わせてくれるとは陛下……」 パチフィコ国はアルイヴィーナ星の南東にあるマルゼル大陸の中にある国で、この国は農業よりも工業が盛んで、山間へ行けば行くほど、鉄や鉛などの鉱物が採れるのだ。パチフィコ国はエリヌセウスにパチフィコ銅とエリヌセウスの作物を交換する契約を交わし、更にパチフィコ王太子とその側近が来国してきたのだ。パチフィコ人は浅黒い肌の暖方人種(バルカロイド)で南国人がよく着る鮮やかな色彩の服を身につけていた。素材は風通しのいい絹(キルス)や亜麻(リルネ)、繻子(シュティヌ)が多く、パチフィコ国の王太子は一八ジルク超えの背丈に長い黒髪を一つの三つ編みにして垂らし金の紐で編みこみ、額には金細工のサークレット、イヤリングや腕輪も金細工でパチフィコ独特の彫りが刻まれており、身につけている服はケープと丈長のチュニック、膝丈のズボンに高級なめし革のサンダルの姿で、切れ長の琥珀色の眼に高い鼻、口唇は横に細長い顔立ちであった。 「初めまして、ジュナ女皇陛下」 パチフィコの王太子が下部の高い訛りの入ったアリゼウム語でジュナに挨拶する。 「は、初めまして。パチフィコの王太子殿下」 ジュナは緊張しつつも、パチフィコ王太子に挨拶する。すると王太子の近くにいた白髪にはげ頭に口上ヒゲの老人がジュナに紹介する。 「私はパチフィコ国の王太子、バグジャン殿下の側近で執務長官のダッパといいます。もしバグジャン殿下のことでおわかりにならないことがありましたら、私にお聞きください」 「あ、はい……」 パーティー会場はエリヌセウスの大臣やジュナの母やラグドラグはパチフィコ国の来賓客と共に何かを親しんで話している。皇室楽団は別の曲を演奏しており、ジュナはバグジャン王太子と二人きりでいた。バグジャン王太子は楽しそうに自分の国の文雅や行事などで語っているのに対して、ジュナは「はぁ」とか「はい」とか短い返事で相槌を打っているだけだった。 パーティーは終わり、ジュナは肩の荷が降りたように湯殿へ行って湯浴みをし、寝室へ行って、ベッド作りをしてくれたラグドラグが迎えてくれた。 「この様子だとパーティーで疲れたみたいだな」 ラグドラグはジュナの様子を見て確かめる。ジュナはパーティー用のドレスから湯殿から出る時に白いネグリジェに着替えており、化粧も落として髪も後ろで二又に分けて結んでいた。 「そりゃあそうよ。会合パーティーと称したお見合い会だったんだもの。バグジャン王子って、一方的すぎて話ついていけない」 ジュナは今日のパーティーで起こったことをラグドラグに伝える。 「今日で何回目だ」 「一七回よ。一八になってからキュイン宰相たちはわたしに他国の王子や国内外の帰属とお見合いさせて早く結婚してもらいたい、って思っているのよ」 ジュナは国内外の会議や外国との交流会の他、見合いも受けていることを述べてきた。 「好みの男じゃなかったのか」 「男前で文武両道でも、相手の気持ちが理解できない人とは無理よ」 そう言ってジュナはベッドの布団に潜り込んで寝入り、ラグドラグもジュナが眠るのを見届けると、隣の部屋に入って自分も眠りに就いた。 一七回目のお見合いから一ヶ月後のエリヌセウス皇国のエルネシア地方では祝砲が次々と打ち上げられ、街の人々は露店を出したり広場で円になって踊ったり、また演奏団による楽器演奏が響き渡っていた。 『本日はジュナ女皇陛下、一九歳の生誕祭でございます。国民の皆様、何卒お祝いをよろしくお願いします』 晴れ渡る空の下の晩春の季、テレビやラジオやネット配信といった国民放送によるアナウンスが伝える。 皇宮ではジュナ女皇によって招待された人々が庭園に集まり、ジュナ女皇の誕生祝いを楽しんでいた。 「おめでとう、ジュナ陛下」 オレンジ色のボブカットヘアに青緑の眼の女性と長い紺青の髪に褐色の眼の女性がジュナに挨拶をしてきた。 「どうもありがとう、ダイナ、ラヴィエ……」 ジュナは襟や袖や裾にレースと金縁が施された肘の所でフレアになっている深緑のパフスリーブドレスを着、髪はカールヘアにエレガントシニヨン、エメラルドの付いたティアラやネックレスを身につけていた。ダイナとラヴィエはこの日のためにパーティー用のドレスを着ていた。他にもジュナの母と兄、ラグドラグとペガシオル、キュイン宰相、エルニオとツァリーナ、羅夢とジュビルム、トリスティスとソーダーズも来ており、男性は黒いタキシードで、羅夢は振袖にパニエスカート型の和風ドレスで、トリスティスは背中の空いたタイトマキシドレスである。 「まさか女皇の生誕祭で同窓会やるなんてね〜」 ジュナは苦笑しつつも喜んでいた。彼らの周囲には大臣や各地方の貴族や大企業オーナーも来ており、クロスのかかったテーブルからは酒やオードブルを取って食べたり語り合ったりしていた。 「おめでとうございます、女皇陛下」 ジュナが振り向くと、強面の髭面に長い礼装用軍服と軍帽姿のヘッセボーグ元帥が二人の青年を連れて現れる。 「これはこれはヘッセボーグ元帥」 レシルがヘッセボーグを目にして敬礼する。 「いや、今日はいい。陛下、今日は私の二人の息子を紹介します」 「あ、はい……」 ヘッセボーグ元帥の後ろにいた青年がジュナに挨拶する。一人はヘッセボーグ元帥に似た顔立ちの一九ジルクもある背丈の青年で礼装用軍服を纏っていた。 「長男のアドルフ=ヘッセボーグ陸軍少佐です」 「初めまして」 ジュナはアドルフに挨拶する。もう一人は一七ジルク半の背丈に前髪を分けた灰茶色の髪に垂れ目気味の水色の眼に灰色のスーツと赤いアスコットタイの細身の青年であった。 「は、初めまして。次男のフレデリック=ヘッセボーグといいます。歳は二二歳。職業は現在ミーツ大学歴史学科の大学院生です……」 「初めまして」 ジュナはフレデリックにも挨拶する。皇宮の庭ではジュナの同級生や適応者仲間、大臣や他の来賓客が語り合っている中、ジュナは一人でドリンクを飲んでいるフレデリックに声をかける。 「あまり他の人と喋らないけど、どうかしたの?」 ジュナに声をかけられたので、フレデリックはびくついて後方に倒れて尻餅をつく。フレデリックの持っているグラスの赤い果実水がスラックスにかかった。 「あっ、大変だわ!」 ジュナは急いでレースのハンカチを出してフレデリックのスラックスを汚れを拭おうとした。 「そ、そんな高級そうなのでふかないで……。自分でやるから……」 フレデリックは遠慮してポケットから安いハンカチを出してスラックスの汚れを拭った。 「ごめんなさいね、驚かす気は……」 「いや、僕は昔から静かなのが好みで、今日みたいなのはどうも……」 フレデリックはスラックスの汚れを拭うと起き上がって顔を赤らめる。 「ああ、そうだったの……」 「……僕は父や兄と違って体育が下手だし、気弱だし、軍事には従事せず学者の道を選んで……。でも無理に変えようとしたら、かえって辛くなるし……」 フレデリックは半ば愚痴を漏らしながらも赤面し、それを見てジュナはつい吹いてしまった。 「正直なのね」 「あっ、すいません。こんな時に……」 フレデリックは顔を俯かせる。 (だけど、こういう人が私の伴侶なら、悪くないかも……) ジュナは思った。 ジュナとフレデリックが初めて会ってから月に一度の軍や地方主との会合で二人は顔を合わせるようになった。フレデリックはジュナが今までお見合いで出会った他国の王族や国内外の貴族や資産家子息と違って、強引な所も一方的な所もなく、受け入れやすい性質であった。 フレデリックとジュナが対面してから四ヶ月が経った頃、ジュナは執務室で他国との外交による資料とその国の王子のお見合い写真を見ながらふと思った。 (フレデリックって、彼女いるのかな……) フレデリックの兄アドルフは軍の将校で妻もいるが、フレデリックは未婚でも恋人の一人はいるだろう、と。 (もうすぐ会合の日だから、それで聞いてみよう) 暑い夏が過ぎ、残暑も微かに残る時季の会合の日の夜――。皇宮内の大広間で多くの貴族と軍のお偉いさんとの食事会が行われた。 豪勢な料理に各所から取り寄せた酒や果物、季節によって旋律も拍子も異なる皇室楽団の演奏によるBGM――。 ジュナはこの時は秋の初めに相応しい朱色の繻子(シュティヌ)素材のドレスを着ていた。ドレスは袖とスカートにドレープが入り、アクセサリーもカーネリアンの付いた物で髪型は後ろ髪を二つの三つ編みにして丸くしていた。 「女皇陛下、今夜も麗しゅうございます」 軍の若き将校がタキシードやイブニングスーツを着て、ジュナを褒め称える。 「ど、どうも……」 ジュナは喧騒と人種の異なる人の群れの中、フレデリックを探した。 (どこにいるのかしら……) ジュナが探していると大きな前奏と共に男女がペアになって踊るダンスの演奏が始まる。 「あら、女皇陛下は誰と踊ろうとしているのかしら」 「女皇陛下はもてるからなぁ」 踊っている来賓客がジュナを見ていると、ジュナは勢い余って前のめりに倒れてしまった。 「あっ……!!」 ジュナが倒れて膝まづいていると、一人の青年がジュナの前に現れる。 「大丈夫、ですか?」 灰茶色の髪に水色の双眸に細身の体躯――。フレデリックだった。 「あ……」 ジュナは起き上がって顔をまじまじさせる。 「一緒に踊ってくれますか?」 フレデリックの優しいエスコートぶりにジュナは彼の手を取る。そして二人で楽団の演奏に合わせて踊り、ジュナはずっとフレデリックに聞きたかったことを尋ねることが出来た。 「ねぇ、あなたって賢くって親切だから、恋人の一人くらいいるでしょう?」 それを聞いてフレデリックは一瞬沈黙するも、返事をする。 「い、いえ、通学と研究と論文作成に手間取りやすいタイプでして、交際は……」 「そう。わたしはあなたに会いたかった。気づいた日からずっと……」 「ジュナ様……」 二人は見つめ合いながら踊り、周りの声や視線なんて入らないようだった。 「僕も……、ジュナ様が今まで出会った女性たちと違って、別世界の住人に思えてきました。妖精か女神のような……」 「そんなこと言わないで……」 二人とも夢中だった。一国の女皇と一般民の大学院生の身分だが、ジュナは一人の女、フレデリックは一人の男であった。 この会合の宴で二人は踊った時からジュナとフレデリックは交際した。 一週間のうちの木曜日と海曜日に二人は逢瀬した。エルネシア以外の地方で登山して湖でボートをこぎ、冬には聖夜祭と新年の宴で一リノクロでも多くいられるように過ごし、雪のある地でスキー旅行へ行き、春の平和祭の期間にはエクート共和国でバカンスを楽しんだ。 ジュナの二〇歳の誕生日には全国民に婚約宣言をし、エリヌセウス中を驚かせるも、母も兄もラグドラグもペガシオルも、ジュナとフレデリックの仲を認めた。 ジュナの誕生日から一ヶ月後のある日、女皇陛下の結婚式が行われた。空は雲で白く覆われていたが、雨の降る心配はなさそうだった。 エリヌセウス皇宮から北にあるペルミエーレ聖堂。ジュナが戴冠式を行(おこな)ったローメル寺院よりも大きく東西南北の塔を合わせた緑色の屋根に白い壁、金の柱や窓枠のこの聖堂の中の礼拝堂でジュナとフレデリックの結婚式が行われていた。 フレデリックは白と金縁のガウンに水色のモーニングスーツをまとい、ジュナは絹(キルス)のウェディングドレスをまとっていた。ドレスは襟や袖や裾に金糸レース、花嫁の清らかさを現す水色のフリルも施され、ベールはジュナの膝まであり、袖は三段のティアード、スカート部分は綺麗な縦長台形のエンプレスライン、両手の手袋も金糸レース、ベールと一つになっている白金(プラチナ)のティアラはダイヤモンドと赤青黄緑黒紫の真珠がはめ込まれ、胸元のネックレスは白金の鎖にハート型のエメラルドと小さな無数のダイヤがはめ込まれており、白と青の礼服姿の司祭が二人の前で誓いを語る。 「汝らはすこめる時も病める時も夫婦であることを誓いますか?」 「誓います」 一方席では母と兄、ラグドラグとペガシオル、キュイン宰相、ヘッセボーグ元帥、アドルフ、そしてジュナの許可で礼席に座ることが出来たエルニオ、羅夢、トリスティス、彼らの融合獣がジュナとフレデリックの結婚を見つめていた。 ジュナの母に至っては涙をこぼしながら娘の晴れ姿を喜んでおり、兄は父が生きていれば誰よりも喜んでいただろうと呟いた。 「ジュナさんの花嫁姿、素晴らしいです。わたしも花嫁衣裳着たいです」 「羅夢の国や人種って、白無垢ってやつじゃなかったっけ?」 エルニオが羅夢に質問した。 「はぁ〜、ジュナも結婚したか〜。私んとこの婚礼の服はやたらと派手だったから、白いのは羨ましいわ〜」 トリスティスが呟いた。トリスティスはジュナより五ヶ月早く、エクート共和国のヒアルト=ゼペリックと結婚しており、エクートでは花嫁の祝服は目立つように鮮やかなものという決まりがあった。白やベージュといった薄い色は気迫負けするらしく、トリスティスも白いドレスが羨ましかった。 この結婚式で誰よりも幸福だったのはジュナ自身であった。自分の恋が実って叶い、フレデリックと永く続いて欲しいと願っていた。 |
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