3弾・7話 対決!! ジュナ対バンガルド



 ジュナたちは医療室を出て、大会支給の弁当を選手たちの控え室で食べていた。新家畜メヒ―ブの肉を薄切りにして醤油と数種の薬味と香辛料を使って焼いて米(リッケ)の飯の上に並べた辛味焼き肉弁当である。中には炒めた野菜や卵焼きや甘渋の瑞々しい手と間も入っている。飲み物もペットボトルの天然水である。

「ジュナ、しっかり喰っとけよ。食べないと力が出ないからな!」

「うん!」

 ラグドラグに言われてジュナは弁当のおかずを全部食べ終えた。弁当箱やペットボトルは種類別の廊下のゴミ箱へほうり込まれる。紙とアルミホイルの箱は可燃ごみ、ペットボトルや缶はリサイクルごみという風に分けられている。

「ジュナ・メイヨー選手。そろそろ出番ですよ」

 ジュナとラグドラグはゴミを捨てている時、蛍光グリーンのジャケットを着たスタッフに呼び掛けられて、「はい」と言った。

「行くぜ、ジュナ! 俺たちの力を……!」

 ジュナはラグドラグと共にステージのエントランスホールへと向かった。


 闘技場の観客席では食事やトイレなどの用を済ませてきた観客たちがベンチに座り、エルニオ、トリスティス、ティサ、ヒアルト、その融合獣が観客席の見はらしいのいいところに座り、試合開始の様子を待っていた。羅夢もバンガルドに痛めつけられて医務室のベッドにいたが、ジュビルムと一緒にジュナの活躍を医務室内のテレビモニターで視聴することに。

「さぁーて、会場の皆さん、これより大会準決勝の始まりです! 準決勝に勝った者が三回連続チャンピオンのフリージルド・クロム選手と試合することができます!!」

 飛行円盤に乗ったマーフィーが右手にマイク、左手を観客席より上等のVIP席にいるフリージルドに向ける。VIP席は巨大モニターの真下にあり、ガラスで覆われた個室でそこにいる大会主催者のモンク氏、フリージルドと融合獣エグラがいた。フリージルドはノースリーブの赤いスカートスーツの姿で長い明緑の髪を赤いバレッタで留めている。

「フリージルド様、どちらが勝つと……」

「決まっているじゃない。ジュナって娘(こ)よ」

「あの大会初出場の……十三歳の子ですか? そんなことは。同じ大会初出場のバンガルド選手の方が……」

「そんな女子相手に蛮行する男が準決勝で勝ったとしても、私の心は満たせない。あの男が勝てば、私はあっさりと勝ってしまう。それはつまらないわ」

 フリージルドはモンク氏に自己予想を語る。

「赤コーナー、バンガルド・ゼヴァイス選手と融合獣ガチリーザ〜!!」

 赤コーナー側のエントランスホールからバンガルドとガチリーザーが出てくる。両者とも相変わらず堅い表情である。そしてバンガルドを目にした観客たちも顔をしかめているし、、歓声もあげずに黙っている。

「どうやら彼、観客たちからも好かれてないようね」

「ああ、ジュナって子の仲間を野蛮に押したからな」

 フリージルドとエグラがステージに上がるバンガルドとガチリーザーを見て言う。

「青コーナー、ジュナ・メイヨー選手と融合獣ラグドラグ!!」

 マーフィーの選手紹介と共に青コーナー側のエントランスホールからジュナとラグドラグが出てくる。観客たちはジュナを見ると、歓声を上げる。

「何で準決勝に進んだだけでも……、こんなに歓迎されるなんて思ってもいなかった」

「それ程、お前を応援したいんだろう。相手と違って……」

 客席の様子を見てジュナが照れ笑いし、ラグドラグが観客応援の理由を付ける。二人はステージに上がり、バンガルドとガチリーザーを見つめる。

「ジュナちゃーん、頑張ってー!」

「俺らも応援するよー!」

 ティサやヒアルトが客席からジュナに呼び掛ける。

「バンガルド選手は二戦、同じ初出場者との戦いで勝利し、ジュナ選手はシード権とはいえ、準決勝にまで昇ってきた初出場者。

 決勝戦でチャンピオンと戦うのは誰か!?」

 マーフィーの解説を聞いてVIPのフリージルドも観客席のエルニオたちもこの戦いは見ておかないと、という風に緊張を張りつめる。

「融合発動(フュージング)!!」

 ジュナとラグドラグ、ガチリーザーとバンガルドは融合し、前二者は白い閃光、後二者は砂塵に包まれ、融合闘士(フューザーソルジャー)となった姿を現す。

「熱闘開始(ファイティング・オン)!!」

 マーフィーの掛け声とゴングが鳴り響いたところで、準決勝戦が始まった。

 ジュナもバンガルドも両手を拳にして構え、相手の動きが来るのを待つ。

(どうせなら、相手の行動パターンを読んでから攻撃した方がいいよね……)

 ジュナはそう思ってこの戦法でいくことにした。ハ虫類の冷たく堅い鱗の装甲に覆われたバンガルドは脇腹の契合石に手を触れ、契合石から巨大な反りのある籠手が出てきて、バンガルドの両腕を覆ったのだ。左腕の籠手は大きめの銃口があるもので、右腕の籠手は四本の鉤爪である。

「え……。ちょ、ちょっとバンガルド選手、本大会では銃や弓などの飛び道具の使用は禁止されているんですよ?」

 マーフィーがバンガルドの左腕に装着された左の籠手を見て咎める。だがバンガルドはお構いなしに左腕の銃口籠手をマーフィーのいる方向へと向け、ズンと銃口から大型の薬きょう型の岩石を撃ち放ち、マーフィーの肩をかすめて、岩石砲は観客席の方へと飛ばされる。

「うぅ、うわーっ! 逃げろーっ!!」

 バンガルドの撃った岩石弾が自分らのいる側に向かってくるのを見た観客たちは逃げまどう。ドゴーンという音と同時に観客席は崩れてくぼみ、粉塵を出していた。幸いみんな逃げていたから良かったものの、観客の幾人かがこの惨状を見て逃げだした。

「ななな……何てことを! バンガルド選手、これは流石にやってはいけないことを! 退場!! バンガルド選手反則による退場……!!」

「待って、マーフィー! このまま試合をさせてやってあげて!!」

 マーフィーの耳に装備された小型通信機からフリージルドの声が飛んできた。

「せめてこの試合だけでも飛び道具の使用を許可させるわ。危険は承知の上だとわかっても」

 VIP席のフリージルドがマイク付きヘッドホンを使ってマーフィーに伝える。

「しかし……」

 マーフィー、フリージルドと同じ席にいるモンク氏がためらった。

「スタジアムの修繕代は私が払うわ。こうなってしまったからには二人を戦わせるのが一番だと思うの」

 フリージルドの指示を受けてマーフィーは一も二もなく承知した。

「はい……。わかりました。試合続行させます……」

 マーフィーは心配そうにしながらも、この試合の危機を受け入れることにした。

「主催者とチャンピオンの討事により、この試合のみ飛び道具の試合許可が下りました!

 そして試合はこのまま続行! どちらかの降参か場外負けかKO負けまで送ります!!」

 マーフィーは残った観客たちに伝える。だが残っているとしても、一〇〇人いるかいないかだ。

「そんな無茶苦茶な」

 トリスティスが顔をしかめる。

「楽しい思い出になる筈がこんな惨状になるなんてよ……」

 ヒアルトも呟く。ティサも一たん逃げようとしたが、ジュナの戦いを最後まで見守ることにした。

「ジュナ……」

 エルニオがステージ上のジュナを見つめる。


 融合闘士のジュナは胸の契合石に手を当て、一振りの剣を出した。白金に紺の柄の長剣である。

「あんな武器を使ってくるのなら、武器と技で戦った方がいいと思ったの」

「そうか。その判断はそれでいいと俺は構わないぜ」

 ジュナはラグドラグにそう言うと、両手で剣を持ち、刃の先をバンガルドに向ける。

「おい、お前。俺が今までにどうしてこの籠手を出さなかったと思う?」

 バンガルドがジュナに訊ねてくる。

「!? ……わかりません」

 ジュナがバンガルドが何を言っているのかという風に首をかしげる。

「左籠手が大型砲なのは、さっき知っただろう?」

「じゃあ右だけ出せばいいじゃないですか」

 ジュナは口を尖らせる。

「この籠手は両方出せないと立派な使い道がないんでね」

 そう言う也、バンガルドは尻尾を強く地面に叩いて跳躍し、鉤爪籠手をジュナに向けてきた。ジュナは相手の動きを見て、前転して避けた。ズガン! というけたたましい音が響き、ジュナのいた所に四本の鉤爪がステージに刺さり、亀裂が入っていた。

「気をつけろ、アレに串刺しにされるな……」

「わかっている……」

 ラグドラグにそう言われながらもジュナはこの様を見て、青ざめる。体の表面なら痕は残ってしまうが内臓や骨に貫通したら……とそう思ってしまう。するとジュナの前に鉤爪を抜き、またバンガルドが攻めてくる。ジュナはバンガルドの鉤爪を剣で防ぎ、バックステップし、またバンガルドが攻めてきた時、跳躍して空中一回転するもバンガルドの長くて堅い尾がジュナを叩きつけ、ジュナは地べたに転がる。場外から出ずに済んだものの、体の表面がすれて傷つく。

 だが再生能力の強い融合獣と一体化している時は直ぐに傷が塞がり、切り傷なら二リノクロ(四秒)で治ってしまう。ジュナは右手で左手や胴体、両足を触りながら骨が折れてないか確認する。

(どうしよう。どうすれば……)

 ジュナはけた外れに強いバンガルドの能力に恐怖を覚えた。


「おい、大丈夫なのか……。ジュナちゃん、かなり苦戦しているぞ」

 観客席のヒアルトがエルニオとトリスティスに言う。

「そんなこと言われましても……」

 エルニオは焦るようにうろたえる。

「見てられないよ。この試合。十三歳と三十代じゃ差があり過ぎて……。ジュナより年上の私だって苦しんだのに……」

 トリスティスが弱音を吐く。その時だった。

「頑張れ、ジュナちゃーん!!」

 ティサが立ちあがってジュナを応援した。

「ティサ……さん?」

 エルニオとトリスティスとヒアルト、彼らの融合獣がティサを見て、はっとする。

「ティサさんは……ジュナがあんな乱暴者に負ける筈がないと信じているんだ……。そうだよ、ジュナは色々な悪者と戦ってきたんだ。そして全力で頑張ったんだ……。望みを失っちゃいけない……」

 エルニオも会場のジュナを応援する。

「ジュナ、負けるなー!」

 ジュナは客席から飛んできた声を耳にして、全体を見回した。

「ジュナ、頑張れ、負けるなー!!」

 トリスティスも応援している。

「ジューナ! ジューナ!」

 融合獣たちも声援を上げる。他の観客もバンガルドの恐ろしさにおののいていたものの、ジュナならあの蛮行者を倒してくれると思うようになって、ジュナを応援した。

「ジューナ! ジューナ!」

 それは十人、二十人、三十人と増え、観客たちはジュナを応援していた。

 そしてバンガルドの岩石砲に驚いて闘技場の中に避難してロビーなどの映像画面でジュナ対バンガルドの試合を見ていた観客たちも観客席に引き返した。

「頑張れー! あいつを倒してくれー!」

 見ず知らずの観客の青年がジュナに向かって叫んだ。

「頑張れー! あいつをやっつけろー!」

 観客席にたくさんの観客たちが押し寄せてきてジュナを応援する。

「ジューナ! ジューナ!」

 そして会場はジュナへの声援に包まれていた。

「フリージルド女史、これはどういうことでしょうか!?」

 この様子を見ていたVIP席のモンク氏がフリージルドに問いただす。

「正の可能性よ」

 フリージルドは言った。

「両者の戦いぶりを見て、最後まで客も選手も両方が良い大会になるかどうかはこの三日間でわかったわ。バンガルドは危険因子、ジュナは善の因子……。本能で気づいたようなものよ」

 フリージルドは目を輝かせて、ジュナの戦いを見守った。


「そうだ……、わたしたちはここで負ける訳にはいかない……。ダンケルカイザラントの幹部よりも強くなって、ダンケルカイザラントの被害を防ぐためにこの大会に出たんだ……。この一ヶ月の訓練を無駄にするもんかっ!!」

 今までバンガルドに押されていたジュナはひざまづいていた状態から起き上がり、バンガルドに剣を向けた。

「ふん、何度立ち上がったって無駄だ。これで終わりにしてやる」

 バンガルドが皮肉を言うと、両腕に砂塵を渦巻かせ、螺旋状の砂塵がジュナに向かって伸びてくる。

「砂嵐縛鎖(サンディストッパー)!!」

 バンガルドの砂の鎖がジュナに向かってくる。だが声援を受け、精神力でたちあがったジュナは剣に白い光を帯びた剣を突きたて、砂の鎖を突進で打ち破ったのだ。

「おおお〜!! ジュナ選手、先程とは違った勢いでバンガルド選手の攻撃を破っていく〜!!」

 マーフィーが実況。砂の鎖は斬られると、ステージの中や外で砂となって散らばり、風で吹き飛んでいく。ジュナの剣先がバンガルドに向かってくる。もう一歩のところだった。

 ガキィィィン

「えっ……」

 ジュナは音を耳にして視線を真っ直ぐにする。何とバンガルドが両手の籠手を合わせて盾にしていたのだ。

「そっ、そんな……!」

 観客席のエルニオたちも驚く。

「バンガルド選手、ジュナ選手の刃を受け止めた……!! あの籠手は盾にもなるなんて実況の私も知らなかった……!!」

 マーフィーが呻ると防いでいたバンガルドは盾を分離し、右手の籠手でジュナを弾き飛ばした。

「ぐあっ!!」

 ジュナは後方へ飛ばされ、ステージの淵ぎりぎりで倒れた。

「ジュナ選手、どうする!? このままいけるか? それとも終わりか?」

 マーフィーがジュナの様子を見て実況し、ジュナは剣を杖にして立ち上がる。

(ラグドラグ、あの籠手は二つ合わせると盾になるなんて思いもしなかった)

(俺もだよ。となると、籠手を片方外すしか勝ち目はない)

(となるとどっちにすれば……)

 ジュナとラグドラグは相談し合った後、跳躍する。その時、バンガルドはジュナの動きを見て籠手を合わせて盾を作った。だがジュナはバンガルドの後ろに向かって急降下する。

「フン、ぬるい真似を」

 バンガルドは尾でジュナを叩きつけようとした時だった。ジュナはバンガルドの尾が来ると読んだ時、空中で踏ん張りをきかせて後に引いたのだった。その時、バンガルドの尾が左の籠手とぶつかり、岩石砲の籠手が外れて地に落ちた。

「しまった……!」

 バンガルドは自分の能力を相手に逆利用されたことに想像つかず籠手をつけ直そうとした時、ステージの中心に着地したジュナは刃に星の力を込めて創生竜斬刃(ティアマートインパルス)をバンガルドに浴びせた。白い彗星のような斬撃がバンガルドに向かって、バンガルドは斬撃を受けて

ステージから吹っ飛んで地に叩きつけられた。

「す、場外負け(ステージアウト)……。この試合、ジュナ・メイヨー選手の勝利です!! 決勝戦進出決定です!!」

 マーフィーの判断で準決勝の勝敗が決まり、ジュナはステージ上で自身が勝ったことに驚いていた。

 ワアアアッ、と会場の客たちが声を上げ、ジュナの勝利を祝った。

「は……勝った……! わたしたち、勝ったんだ……!!」

 ジュナは大喜びして涙を流す。

「やったぞ、ジュナが勝ったぞ!!」

「私たちの分まで頑張ってくれてありがとー!!」

 エルニオとトリスティスも大喜びする。ティサやヒアルトもジュナの勝利を祝って拍手する。

「ジュナさん、良かった……。勝てたんだ……」

 医務室の羅夢も映像モニターからジュナの試合を見て安堵する。

「フリージルド女史、あの子が勝つなんて奇跡ですよ……」

VIP席のモンク氏がフリージルドに言う。

「ええ。あの子にはやっぱり正の可能性があった。これから先の決勝戦が楽しみだわ……」

 フリージルドは余裕の笑みを浮かべた。


 ジュナとラグドラグがエントランスホールに入ると、仲間たちが迎えに来てくれた。

「みんな……」

 ジュナはみんなの顔を見て、眼をぱちくりさせる。

「ジュナちゃん、決勝戦おめでとう」

「次は三回連続チャンピオンのフリージルドだぜ。最後までやりぬけよっ!」

 ティサとヒアルトがジュナに言う。

「ジュナ、決勝戦は十五ノルクロ後だよ。それまで休んでおけよ」

 エルニオがジュナに言った。

「うん、決勝戦まで来たのなら、全力を尽くすよ……」

 ジュナはみんなに言った。

 その頃バンガルドはジュナとは反対のエントランスホールに戻り、携帯端末で誰かと話していた。

「俺だ。旦那よぉ。一時間後にはちゃんと例のブツを送ってくれるんだろうなぁ? でないと、優勝賞品の中のお宝が入らなくなるわけで……。うん、うん。頼むよ」

 そして電源を切り、ガチリーザーと共に暗き中へと姿を消していった。