ジュナたちが乗るアウローラ号はプルデスランドの待ちも田畑も森も川も越えて、エリヌセウスへと向かっていった。中ではエルニオが操縦しており、他の席ではジュナがみんなに言った。 「バンガルドがダンケルカイザラントと契約してトロフィーを狙ったのってのは、融合獣の秘伝の強化を欲しがっていた。 融合獣強化の秘伝、ってのが胸につっかえていて気になって……」 「融合獣の……?」 「強化……?」 ジュナの話を聞いて。トリスティスと羅夢がオウム返しに言ってきた。 「何十年か前に一体の融合獣が暴れ巨獣を倒したとか……言ってたような気がする。 融合獣……って、ああすれば強くなる、っていう秘密があるのかな、って」 ジュナは隣の席のラグドラグに視線を移す。 「さぁなー…て、その話は聞いたこともないし……。それに俺ら融合獣は二〇〇年前の戦争の産物だ。二〇〇年よりもっと前に融合獣の存在がいればともかく」 ラグドラグは言った。そして、アウローラ号はエリヌセウス皇国エルネシア地方エルゼン区のバディス研究所の格納庫に入り、一同は解散した。 「また……学校でね」 「来月からわたしも、みなさんと同じ学校に通いますから。その時に」 「じゃあ残りの良い夏休みを!」 ジュナとラグドラグはみんなと別れて、母親の待つ家へと歩き出していった。 エリヌセウスに着いた時には日は西に傾いており、空気も清々しいプルデスランドと違って、熱気がこもっていたが涼風が吹いていた。四角や円筒などのカラフルな住宅が並ぶ住宅街、様々な店の並ぶ商店街、仕事や塾から帰りゆく人々、空中を飛びゆく浮遊車、草の茂みで鳴く虫、街路樹の枝や家の軒下に止まる鳥たち、頭上を走る管通列車(ライナー)、騒がしいけれど見慣れたジュナとラグドラグの帰る場所。 「大会中止になったうえ、賞金もなしとはね。おふくろさん、がっかりするかもな」 帰り道は、ラグドラグがジュナに訊ねる。 「うん。でも、色んな人と仲良くなれたし、大変でもいい思い出になったから」 ジュナは顔を上げて笑い、そして手首に付けた兄レシルからの贈り物の腕輪を見つめた。ガーネットが日光の反射できらりと光る。 * 台形の屋根が半分開閉式になっている家と小さな庭のある敷地、その家の主は台所で夕食のおかずとなる野菜を刻んでいた。 「ただいまー」 玄関から飛んできた声を聞いて、家主は手を止め、玄関に立つ少女と白い融合獣の所へ駆けつけた。 「ママ、ただいま」 ジュナはシンプルなカジュアルツーピースの上から紺のエプロンをつけた母親にあいさつする。 「ジュナ……お帰りなさい」 「おふくろさん、実はその、アクシデントがあってよ、賞金が手に入らなくなってよ……」 ラグドラグがジュナの母親に言った。 彼女にとって、一人だけになってしまった娘の無事が一番のお土産であった。 空はすっかり琥珀から紫に染まり、星々が輝いていた。 これからの未来を知らせるように。 |
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