3弾・3話 フリージルドの実力



 闘技場の観客席には様々な人種や融合獣の観客。大型画面には予選を通過した九組の猛者たちの名前と顔。その中にジュナ一行も入っている。闘技場の中には九組の予選通過者と大会主催者のモンク氏とその隣にフリージルドとエグラが立っていた。モンク氏は先日と同じ服装で予選通過者たちの前に立ち、フリージルドも昨日とは違う服装、赤と白の実にドレスと黒いアンクルベルトのハイヒールという格闘家にしては奇抜なファッションである。

『みなさん、おはようございます』

 モンク氏がマイクを片手に全エリア内に朝のあいさつを告げた。と、いっても朝の六時半で太陽は碧空の北東の彼方を照らしていた。もうお昼近い。一日が十六時間というアルイヴィーナは、この大会のような大きなイベントは何日かに分けて行う。

『みなさん、今日から本戦が始まります。悔いのない正々堂々とした試合をしましょう。

 尚、本戦ではくじ引きによって対戦相手が決まり、二人ずつ試合してもらい、価値に乞った二組が決勝戦に上がります。それでは順に名前を呼びますので、スタッフの持っている箱からくじを引いて下さい。では、エルニオ・バディス選手」

「はい」

 薄緑のジャケットと緑のインナーシャツと灰色のパンツとアーミーブーツ姿のエルニオが前に出て、傾向グリーンのジャケットを着た若い女性スタッフの持っている赤ん坊の頭大の箱からくじを引く。くじは四方半ジルク(五センチ)程のプラスチックの板にナンバーが書いてある。

「三番です」

 エルニオがモンク氏に言うと、巨大モニターのシードの三番にエルニオの名前と顔が映し出される。その次が長身の褐色人種(ソルロイド)の男、ガントル・クライアジが呼ばれ、九番のくじを引く。その次がフリージルドで、チャンピオンらしく一番のくじを引いた。彼女の次が最多人種(ノルマロイド)の大男、グラスゴー・ダランで二番、その次が純白の肌に薄緑の髪の寒方人種(ブレザロイド)女性、ティサ・ヘルメリッヒが四番を引き、その次がジュナであった。ジュナは黒字に胸に横オレンジラインのノースリーブシャツと黄色のミニスカートと昨日と同じ靴の姿でくじを引いた。ジュナは十番であった。エルニオとぶつからなくてよかったと内心思った。次がトリスティスで六番、その次が羅夢で八番、トリスティスと羅夢も仲間とぶつからずに済んだ。その次がチャラ男のヒアルト・ゼぺリックが五番を引き、最後に赤茶のボサ毛に冷たい褐色の瞳に浅黒い肌の中肉中背の暖方人種(バルカロイド)の男、バンガルド・ゼヴァイスが残った七を引いた。こうして各々の対戦相手が決まった。

『これで当大会の組み合わせはこのようになりました! おっと、ここで出場選手と会場の皆さんにお知らせです。審判・レフェリー・実況はこの方にさせていただきます! どうぞ!』

 この場にいたジュナたちは何のことだがいきなりのことに驚いたが、エントランスの入り口から一人の男が走って来て、助走のち大ジャンプして、一回転し、選手たちの前に着地した。十八ジルク(一八〇センチ)はありそうな長身、はねのある薄茶色の挑発、切れ長のロイヤルブルーの瞳、中間肌とみて恐らくノルマロイド、右手にマイク、白い半そでシャツに赤い蝶ネクタイと黒のスラックスと黒い革靴、見たまんまノリが好さそうで明るい感じの青年である。青年はマイクを一回転させると、会場の観客、選手たちに言った。

『会場の皆さん、初めまして或いはお久しぶりです! 俺は当大会の司会を務めさせていただきますマーフィー・ファンク!! 審判・実況・解説はこの俺にお任せあれ!!』

 マーフィーは弾けるようなビューティーボイスで会場の観客達と選手たちにあいさつした。

ワアアアアッ、と観客たちの喝采と拍手が嵐のように起こった。

「何だよ、こいつ。世界間違えてんじゃねーの?」

「い、威圧感が……」

 ラグドラグはどん引きし、ジュナもついていけないと苦笑いした。

「毎回こんな感じよ、初めてさん」

 カールショートの薄緑(ミントグリーン)の髪に明黄(レモンイエロー)の瞳に雪白の肌のティサ・ヘルメリッヒがジュナに言った。ティアは背が高く十七ジルク(一七〇センチ)台で、フリージルドと同じようにスリムで、灰色のチューブトップワンピースとピンクのロングベストと白い編み紐のサンダルの衣装である。ティサの隣には相方の融合獣、ヴァズビープがいる。ヴァズビープは蟲翅族で一ジルクはある蜂で体の色はベビーブルーと黒い縞模様であるが背中の四枚翅は透き通った琥珀色で体も肢も丸みを帯びており、大きな目は薄茶色である。

「ここで選手の皆さんに説明しておくよ! 対戦の制限時間は十ノルクロ(十分)、敗北条件は場外負け、降参、相手を戦闘不能にさせるの三つ! 但し眼つぶしや相手の急所を突く攻撃は反則負けとして出場権剥奪、それから大会における使用武器は弓や銃などの飛び道具の使用は禁止、ビームなどの融合獣の攻撃は含めないよ! 皆、守ってね!」

 マーフィーが軽いノリで選手たちの説明する。

「エルニオ、あんたの銃は使えないよ」

「ああ、だからこそ拳でやってやるさ」

 エルニオはツァリーナに言う。

「では説明を把握できたら、ファンの皆様がお待ちかね! カモン、バトルステージ!!」

 マーフィーが叫ぶのと同時にゴゴゴゴ……という音がして、その場にいたみんなは驚く。

「きゃっ、地震!?」

 羅夢が驚いて叫ぶ。

「い、いや違うよ。床が開いていく!」

 トリスティスが指をさして言う。闘技場の床が長方形にせり上がり、高さ四ジルク、縦十ゼタン(二十メートル)、横が十五ゼタン(三十メートル)、盤上が赤と青のステージが出てきたのだ。

「これが! フューザーソルジャーコロッセオの試合場だ! 仕掛けは特になし! 思いっきり戦ってくれ! それでは第一試合は十ノルクロ後にスタートするよ! 第一試合出場者以外は待機していいてくれ!」

 マーフィーの説明と同時にフリージルドとその融合獣エグラとガタイのある対戦相手のグラスゴー・ダランは短く刈った黒髪に大きく垂れ下がった琥珀色の双眸、最多人種らしい中間肌に袖を引きちぎった灰色の厚手のシャツと黒いタンクトップ、濃緑のワークパンツと茶色い革靴をワイルドに着こなした男で、その融合獣ナメタダスは体は十五ジルクはある四本爪がある四肢と背中がの筋肉が隆起し、しっぽは長くて女の髪のようでフサフサ、だが頭部は細長い顔につぶらな瞳と小さな耳、口も細長で貧歯獣(アンティータ)のような姿で、体の色は青銅色(ブロンズ)、目はカーマイン、左腕にカーマインの契合石がついている。

 さて試合場に残されたフリージルド組とグラスゴー組以外の融合獣と適応者たちは観客席へ行ったり、スタジアム内のロビーにある大型テレビでチャンピオンの戦いぶりを観ることにした。

 ジュナたちも観客席に行き、フリージルドの実力を観るために一般客に混じって客席に座った。客席は階段式で十段とあり軽く五〇〇人以上は座れる。ジュナたちは下から三番目の客席に座り、感染の準備に勤しむ。周りを観てみると、どの観客も小型の撮影カメラやデジタルカメラを持ったりして、フリージルドの活躍を収めようとしている。フリージルドの名が入った幟を持つ者、『ガッツだ、フリージルド!!』の垂れ幕を持った者たち、中には「フリージルド命」の鉢巻きと法被姿の男たちの群れもいた。ワイワイガヤガヤと騒がしいが、フリージルドは人気者だとジュナたちは把握した。ジュビルムは耳が長いせいか、騒音でくらくらしており、前足で耳をふさいでいた。

「大丈夫、ジュビルム?」

 羅夢がジュビルムに話しかける。羅夢は黒いハーフトップとスパッツの上に軽い白地に桃色の風車模様の衣姿で、白群の髪を結い上げ矢車のカンザシをさしている。

「う〜、頭がガンガンしますぅ」

 ジュビルムは呻るように言う。

「そしたらジュビルムは中に入った方がいいんじゃないですかねぇ? 耳のよすぎる融合獣にぁきついでしょう」

 ソーダーズが尾びれでたった状態で言う。

「ん、いや。何とか頑張ってみせます。みんなで……みましょう」

 ジュビルムはみんなに言う。

「そうか? 辛かったら教えろよ。無理することねーし」

「遠慮しなくていいのよ」

 ラグドラグとツァリーナも気遣う。

「ありがとうございます……」

「ねえ、みんな、試合が始まるよ」

 トリスティスがみんなに言う。トリスティスは群青色と白のボーダーブラウスとひざ丈まである薄水色のスカートの姿で、むき出しの二の腕には水棲人種(ディヴロイド)の証である青い三本線が走っている。ジュナたちは客席に座り、ジュビルムは羅夢のひざの上に座らされた。

「レディース&ジェントルマン!」

 マーフィーの声がコロッセオ中に響き渡る。

「皆さま、お待ちかねのフューザーソルジャーコロッセオ、本戦の第一試合、今宵開幕!!

 赤コーナー、フューザーソルジャーコロッセオ、三大会連続チャンピオン、フリージルド・クロムと融合獣エグラ〜〜!!」

 マーフィーの紹介と共に赤いステージエリアのフリージルドがさわやかな笑みを浮かべ、観客たちに手を振る。隣のエグラも愛想よく振り撒く。

「青コーナー、グラスゴー・ダランと融合獣のナメタダス〜〜!!」

 青いステージエリアにはガタイのいい大男と貧歯獣の融合獣ナメタダスが「よっ」というようにリアクションをとる。スリムなフリージルドとガタイのあるグラスゴーをパッと見では一ゼタン近くもあるグラスゴーが強そうに見える。グラスゴーとフリージルドは自分の融合獣に近づき声を発する。

「融合発動!!」

 赤いエリアのフリージルドとエグラは炎の渦に包まれたかと思うとオレンジの炎はすぐにはじけて消えた。青いエリアのグラスゴーとナメタダスも地面から出てきた銀色の無数の触手っぽいものに包まれ、グラスゴーとナメタダスを包んだ金属の触手は昆虫のサナギのようになったかと思うと、金属は弾け散ってナメタダスと融合したグラスゴーが出てきた。


 エグラと融合したフリージルドは頭の上半分と胸部と腰が明橙の鷲と化し、両手と両足は猛禽類の鋭い蹴爪となり、頭部の嘴と同じく淡黄色で、背中に明橙と白の大きな翼、腰にはピンと張った尾羽、頭の下半分は人間の口と明緑の髪の毛が出ている。そして右胸には氷(こおり)色(いろ)の契合石がきらめく。

 ナメタダスと融合したグラスゴーは鋭い爪がついた貧歯獣の四肢になり、両腕と両脚と胴体部分と頭の上半分が青銅色の獣型装甲で覆われ、二の腕と両腿は白く、頭部には貧歯獣の毛皮をかぶったようになっている。左腕にはカーマインの契合石が煌めく。

「どっちも強そうだ」

 エルニオが融合闘士姿のフリージルドとグラスゴーを見て言う。

「……でも見てみると、チャンピオンがスピードとテクニックに優れていて、グラスゴーさんが防御と攻撃に優れていそう」

 ジュナが二人の予想スペックを言い述べる。

「流石だな、ジュナ。融合闘士の何のスペックが優れているかわかるなんて。まあ、いろんな融合闘士と戦っていたおかげかな」

 ラグドラグが褒めるように言う。

「夏休みに入る前にダンケルカイザラントの三幹部の能力が一人一人によって違う、って感じたから。例えばユリアスは攻撃と素早さはあるけど、テクニックは今一つかなと思えたから」

「凄いですね、ジュナさん。ジュナさん、融合獣関連の仕事できそうじゃないですか」

 羅夢が口をはさむ。

「どんな仕事よ、もーちょい詳しく……」

 トリスティスが苦笑いした所で、試合開始のゴングが鳴り、マーフィーの「激闘開始(ファイティング・オン)!!」の声が会話に鳴り響いた。それと同時に観客の声も猛る。

「さーあ、始まりました! 三大会連続チャンピオンのフリージルド・クロム対グラスゴー・ダランの対戦です!

 チャンピオン、フリージルドと融合したエグラは炎属性の飛翔族融合獣! 対するグラスゴー選手と融合しているナメタダスは鋼属性の平温族融合獣! 属性だけ見ればフリージルド選手が有利。テックスペックだけ見ればグラスゴー選手が有利。それもその筈、グラスゴー選手は老舗鍛冶屋〈ダラン〉の十八代目なのです! 鋭い爪と鋼属性の攻撃と防御を持つナメタダスと融合したグラスゴー選手の毎日金属を鍛えた体力と同戦略するか、チャンピオン・フリージルド〜〜!!」

 マーフィーのハイテンションな実況と解説で会場はますます盛り上がり、「チャンピオン」の言葉だけで熱くなる熱狂者(ファン)を見て、ジュナたちはフリージルドの魅力と人気がどれほどのものなのか、と改める。

「そんじゃ、行くか。そぉ〜れ、っと」

 グラスゴーはがに股で駆け出し、野太い声を出しながら突進してくる。ドッシンドッシンと聞こえてきてもおかしくない走り方をしながらフリージルドに迫ってくる。なのにフリージルドはそこから動かない。

「ああっ、早く逃げないとやられちゃうよ!」

 羅夢が試合の様子を見て思わず叫ぶ。

「いや、それはないと思うね。ちゃんと攻略法があるんでしょうよ、チャンピオンには」

 トリスティスが言う。グラスゴーがあと半ジルクでフリージルドに指の付け根から先までが黒耀の爪になっている手を向けてきて殴りかかろうとした時だった。

「遅いね」

 フリージルドが呟くと同時に軽く半回転してグラスゴーの突撃を避けたのだった。

「うおっとっと!!」

 攻撃を避けられたグラスゴーは左脚でケンケンパの状態になり、ステージから足を外しそうになったが、何とか両腕で踏みとどまって両手を震わせながら起き上がって姿勢を直した。

「い、今のはほんの小手調べだ! こっからは本気を出すぞ!」

 グラスゴーがフリージルドにそう宣言すると、グラスゴーが両腕を伸ばし、更にその爪を釣り竿のリールのように伸びてきて、フリージルドに向けてきた。

「お〜っと、出ました! グラスゴー選手、いきなり技を出してきました! 爪がまるで生き物のようです! しかも高熱で溶かした金属のように自由自在に曲がったりしています! 鋼属性の技、変形鋼爪(メタモルメタルス)です!!」

 マーフィーが実況と技解説で叫ぶ。フリージルドは伸びてくる爪をステップを踏むように避ける。

「出せるのは両手だけじゃないよ」

グラスゴーとは違った声、ナメタダスがガラガラ声を出しながらフリージルドとエグラに言う。

「な、なんですって!?」

 フリージルドがナメタダスの台詞を耳にして油断する。すると、太い足の爪からも伸びてきて、計二十本の金属の縄がフリージルドに向かってきた。フリージルドは飛んでかわそうとしたが、左脚に爪の縄が絡まった。

「しまっ……」

 フリージルドは右手と左足を思いっきり引っ張ったが、グラスゴーによって勢いよくステージに叩きつけられた。ドスン! と鈍い音がし、更に左手と右足の爪がフリージルドをぐるぐる巻きに包んだ。手も足も背中も翼を縛られて。

「グラスゴー選手、チャンピオンを絡めとった! チャンピオンのフリージルド、どうするか」

 マーフィーの実況で会場が静まる。ジュナたちも素早さはないが意外な技を持っていたグラスゴー&ナメタダスの戦法にぼうぜんとしていた。ところが観客たちやグラスゴー&ナメタダス、ジュナたち他の選手たちに思いもよらないことが起きたのだ。

 グラスゴーが放った変形鋼爪(メタモルメタルス)に包まれたフリージルドが体から高熱を放ってやがて明るいオレンジの炎に包まれ、グラスゴーの爪を溶かし出そうとしていた。グラスゴーの爪はだんだんと赤みを帯び、その高温がグラスゴーとナメタダスはあまりの熱さに爪を引っ込め戻した。

「うおっあっちぃ!!」

 引っ込めたといっても爪は何ゼタンも伸びており、フリージルドを絡めとっているため、もつれた糸玉のようになっている。だがナメタダスは高温で溶けた爪を切り離し、残った部分を高速の巻き戻し映像のようにした。ナメタダスは体の大部分が人工再生生体でできた融合獣。どんな傷を負っても爪が折れてもすぐに治ってしまう。ナメタダスだけでなく、どの融合獣も持っている。

 さてフリージルドは体から高音を発したのち、全体が炎で包まれ、絡めとっていた鋼縄の束縛を溶かし、鋼縄の破片は落下した岩が地に当たって砕けたように散り、空中で少しずつ冷えていってステージや観客席下の壁に当たってばらばらと落ちた。

「チャンピオン、炎属性融合獣エグラの能力を使って、危機を回避した――っ!! 炎の融合獣は鋼に強い! グラスゴー選手このままいくか!? それともチャンピオンが勝つか! 勝利の女神はどっちに微笑む!?」

 マーフィーのムードで静まりかえっていた会場は熱気を取り戻し、グラスゴーはしり込みをしながらフリージルドの威圧に立ち向かおうとする。

「こ、こうなったら先手必勝!! やっぱり力での攻撃だ!」

 グラスゴーはやぶれかぶれになったようになり、フリージルドに向かってきた。フリージルドは炎を消し去り、鋭い爪付きの手足でキックやパンチを仕掛けてくるグラスゴーを華麗に避ける。そのうちグラスゴーの息遣いが荒くなり、体力も精神力も段々消耗してきている。力と防御はあっても、やはりスピードとテクニックには欠けていた。

 そのうち避けてばかりのフリージルドが痺れを切らして、グラスゴーより細身の腕で彼の右腕をひっつかみ、更に左腕でグラスゴーの右手を封じ、右ひじでグラスゴーの背に思いっきりエルボーをしたのだ。

「がっ!!」

 フリージルドに突かれたグラスゴーはその場で倒れ、更にフリージルドは背中の両翼から炎を出し、更に増燃させ、その大きな両翼を羽ばたかせ、グラスゴーをステージから弾き飛ばした。

「フリージルド選手、形勢逆転です! 炎熱で相手の拘束を振りほどき、更に相手の動きを読み、華麗な肘突きと炎熱飛翼(バーストウィンギー)でグラスゴー選手を吹っ飛ばしたぁ 流石です、流石チャンピオン!!」

 マーフィーの実況のさ中、フリージルドの攻撃をまともに食らったグラスゴーはステージから飛ばされ、場外負けとなった。

「フューザーソルジャーズコロッセオ、本日の第一戦はフリージルド・クロム選手です!!」

 ゴングがカンカンカンと三回鳴り打ったのち、一斉に客席にスタート以上の歓声と拍手が鳴り響いた。

「凄い……凄すぎる……」

「これが……チャンピオンの力……」

 ラグドラグとジュナはフリージルドの戦いぶりを見て驚きおののく。場外負けしたグラスゴーだったが、幸い融合獣という防具に包まれていたため、大したケガはしておらず起き上がると融合を解除してエントランスホールへと入っていった。

「次の試合は十ノルクロ後です。その間にトイレなどの御用や次の試合の選手は出場準備を願います」

 アナウンスを聞いて、幾人かの観客がぞろぞろと立ちあがり、エルニオとツァリーナも立ちあがった。

「次は僕らだから。行ってくるわ」

 客席から離れ、一階にある選手の控室に向かうエルニオとツァリーナを見て、ジュナたちは見送る。

「うん、わたし達見ているよ」

「頑張ってくださいね」

「その次はあたしよ」


 選手用の控室に戻ったフリージルドは融合を解除し、エグラと分離して室内の長椅子に座る。選手の控室は学校の教室と同じくらいの広さで、白い壁と柱、床は灰色のラバー製、木製の長椅子が二脚、更に壁の片側に大型モニターが備えられているシンプルな部屋である。その椅子の一脚にフリージルドは座っていた。試合に勝ったのにその表情は無である。

「どうしたんだ、ジル? 勝ったのに嬉しそうじゃないな」

 正面にいたエグラがフリージルドに訊いた。

「決まっているじゃない。この戦いは楽しめなかった」

 フリージルドは淡々と答える。部屋は二人の他、エルニオの対戦相手となるティサとその融合獣ヴァズビープが長椅子に座っていて、電子パッドでサイバネットのニュースなどを閲覧していた。電子パッドは携帯電話よりも大きめの端末で、指でタッチするだけで画像が動く。そしてフリージルドの近くには今日届いたと思われるファンレターが荷物箱に三つ分積まれており、花束や丸や四角などのカラフルな包装紙やリボンで飾られたプレゼントがファンレター箱の三倍以上置かれている。

 フリージルドは不満だった。フューザーソルジャーコロッセオの三大会連続チャンピオンで、若くして自分の会社〈クロム・ファクトリー〉の社長にもなれて、名誉も収入もあり、信奉者も有能な部下もいて、相方の融合獣もいるのに、フリージルドの心はいつも隙間があった。子供の頃からの夢、社長さんになって有名になってお金持ちになるという夢は叶った。それでもフリージルドは我慢できなかった。

「私って欲の深い人間ね」

 フリージルドは自分の気持ちが空しかったり我慢できなかったりすると、こう呟いていた。もうすっかり口癖と化していた。

(だけど)

 フリージルドはジュナ一行を見つけた時、彼女たちに融合闘士としての才覚があると感じ取った。

「あの子たちなら、私の願望(ねがい)を満たしてくれる筈だわ。あの子たちは、まだまだ強くなれそう。お願い、勝って、必ず勝ってちょうだい。私の所に一人でもいいから……」

 フリージルドは思いふけながら、ジュナたちの勝利を願った。フリージルドがふけっている最中、とっくにティサとヴァズビープはすでに退室していてステージに向かっていた。