7弾・3話 迫りくる毒気


 エリヌセウス皇国の瑠璃色の東の空に白い朝日が昇り、下から黄色く染めていく。小鳥のさえずりが聞こえ、エリヌセウス首都会館の一室に泊まっているジュナの部屋にもカーテンの隙間から入ってくる光が目に入ってくる。

「うーん……」

 エリヌセウス新大皇選抜の儀の一日目の夜でエリヌセウス各地の貴族や政治家、大企業経営者との交流パーティーで疲れたジュナはシャワーも浴びずに寝着に着替えて、そのまま寝入ってしまったのだ。ラグドラグもジュナの小脇で眠り、コンコンとドアを叩く音で目が覚めた。

「ジュナ=メイヨー様、おはようございます。お着替えと朝食の準備でございます」

 ジュナの世話をするメイドの声だった。ラグドラグはジュナを揺さぶり起こそうとした。

「おい、ジュナ。起きろよ。着替えと朝食だぞ」

「うーん、今日学校ないでしょ……」

 ジュナは寝言で返事をして、ラグドラグは洗面所へ行き、タオルを濡らしてジュナの顔にかける。

「わっ!!」

 タオルの水気と冷たさでジュナは飛び起きる。

「な、何すんのさ〜」

「だってメイドが起こしにきたってんのに、起きないからこうした! 家じゃないんだからよ……」

「あーそうですか……」

 ジュナは寝ぼけ眼でラグドラグを見る。ラグドラグはドアを開けてメイドに入るよう促した。

「すみません、起こすのに手間どっちゃって……。あとジュナ風呂に入ってないんで洗ってやってください」

 ラグドラグは部屋を出て廊下で待つことにした。廊下から見える窓の空は白と青緑と紫が混ざり、庭園には小鳥たちが庭木に泊まっていたり水盤の水を飲んでいた。

 ジュナはメイドによって体と髪を洗浄してもらい、髪を乾かし髪型を整えてもらい、今日着るドレスを着せてもらった。白いワンピース型でフリルとレースとリボンもついていてそれらは青だった。

 ジュナとラグドラグはメイドに案内されて食堂へ向かう。食堂には他の大皇候補やキュイン宰相や大臣たちも来ていた。

「おはようございます」

「あ、お、おはようございます」

 キュイン宰相があいさつをしてきたので、ジュナもあいさつをする。席に座り、まずは食前の茶を飲んでリラックスから始める。

「あれ、そういやファロ=エッドはどうしたんだ?」

 ジャーバンが食堂に来ている大皇候補が一人いないことに気づいて問い出してきた。

「あ、確かに……」

「寝過ごしていたらちゃんと世話係が起こしてくれるんだけどな」

 他の大皇候補が呟いた時だった。バタバタと廊下を走る者の足音がして、若い執事が食堂のドアを激しく開けてきた。

「おや、あなたはファロ様の世話係の……」

 キュイン宰相が食堂に飛び込んできた執事を見て尋ねてくると、執事は血相を変えてキュイン宰相たちに言った。

「たっ、大変です! ファロ様の様子がおかしいんです!」

「なっ、何だってぇ!?」


 すぐ警察が呼ばれ、白と黒の機体の浮遊車(カーガー)が数台首都会館に駆けつけてきて、警備や鑑識などの警察官が出てきて、更に救急病院の白い機体の救急車も来て、ファロを病院に運んだ。ジュナたち大皇候補やキュイン宰相や世話係のメイドや執事はホールに集められて、現場に駆けつけてきた刑事、レオナルド=ロイシュマスから取り調べを受けることになった。

「えー、私が今回の事件の担当を受け持つことになったレオナルド=ロイシュマスです」

 ロイシュマスは四十五歳のベテラン刑事で白い肌からして寒方人種(ブレザロイド)。砂黄色のハネのある髪に水色のつり上がった眼、カールヒゲにカーキ色のトレンチコートに紺色のスーツというオーソドックスな刑事の身なりである。

「担当は凶悪犯罪捜査課で、四年前までのダンケルカイザラントによる事件の担当もしておりました。まぁ、軍隊が何とかしてくれましたから解決しましたが」

 ロイシュマスは説明を終えると、今回のファロ=エッドの被害の件について語り始める。

「ファロ=エッドさんは今回の新大皇の選抜の儀の候補者でしたね。もしかしたら、他の大皇候補がファロさんを出し抜くためにやったのではないかと思います」

 それを聞いてジュナとボーガ以外の大皇候補は「はあああああ!?」と声を出す。

「い、いくら未来の大皇になるための催しだからって、そんなこと……」

 最年少のヴィティニーが言った。

「そ、そうですよ。だ、第一彼らに競争心があるかどうかは兎も角、相手を出し抜いてまでして大皇になろうなんて……」

 キュイン宰相がロイシュマスに言った。

「ですがねぇ……。あ、ちょうど病院からの連絡が来たようだ。ええと、ファロ=エッドは生命の危険なし。意識不明の昏睡状態となり、いつ目覚めるか不明」

 ロイシュマスは携帯電話の報告文書を見て場の者に伝える。

「ファロさん、助かったんだ」

「良かった」

 マエラとラーズが安堵して言うと、ロイシュマスが続ける。

「何を呑気なことを言っている。君たちには容疑がかかっているというのに。すみませんがキュイン宰相閣下。ファロ=エッドを昏睡状態にした者が見つかるまで、我々もこの会館で張り込みさせてくれませんか」

 ロイシュマスはキュイン宰相に犯人が見つかるまで会館の張り込みを懇願する。

「は、はぁ。わかりました」


 新しいエリヌセウス皇国の大皇を選ぶ儀はレーゼル地方のファロ=エッドが意識をなくして昏睡状態に陥るというアクシデントが出たため、他の大皇候補も世話係も大臣も神経を高ぶらせる状態になってしまった。

 大皇候補たちは食事も昏睡も朝食後に行われる大皇選抜の儀も携帯端末を使ってやり取りすることになった。

「何か、大変なことになっちまったな……」

 ジュナの宿泊室のラグドラグがジュナに尋ねてくる。

「うん。もしかしてこれが、わたしが予感していた嫌な気持ちだったのかな?」

 カウンター机の上でジュナが端末に映し出された情報をシャーペンでルーズリーフに書き写していた。

「お前、署まで来てもらおうか!」

 廊下から声が聞こえてきたので、ジュナとラグドラグは何事かとドアを開ける。ただし片目で見えるくらいの隙間にして。廊下ではキュイン宰相と執事の一人、そして長身の青年のボーガと彼の融合獣と言い合いをしているのを目にしたのだ。

「流石に彼が一番怪しい、ってのはひどすぎませんか!?」

 執事がロイシュマスたちに言った。

「いいや、こいつが一番怪しい。キュイン閣下から聞いてみたが、お前は昨夜の会合パーティーに参加していなかったそうだな!? もしかしたらお前がやったんだろう? 体調が悪いふりをして、ファロの部屋に忍び込んで彼が昏睡状態になるような薬品をばらまいたのなら……」

 ロイシュマスはボーガを責め立てるは、ボーガは何も言わず頑な表情で立っていた。

「で、ですが何を根拠に……」

 ボーガの世話を務める執事がロイシュマスに尋ねてくる。

「昨日のアリバイ、それよりこいつは融合獣――堅鱗(けんりん)族の融合獣と融合してるではないか。堅鱗族の融合獣の中には毒を使う奴がいくつかいて、従ってこの男がファロ=エッドを被害に及ぼした奴だ。連れて行け!」

 ロイシュマスが警察官にボーガとその融合獣を警察署に連行しようとした時だった。

「ちょっと待って下さい! こんな理由で疑って連行するなんて!」

 ジュナが部屋から飛び出してきて、ロイシュマスを止めた。

「な、何だね君は!?」

 ロイシュマスはジュナを見て驚くも、顔を向けてくる。

「こんな単純な理由でボーガさんを犯人扱いするなんて、どうかしてます!」

 ジュナはきっぱりとロイシュマスに言った。

「だけど……」

 ロイシュマスが言い換えそうとした時、キュイン宰相がロイシュマスに言った。

「刑事さん、確かにジュナ様の言っていることは正しいと思います。どうせなら、犯人がはっきりしたところで捕らえれば良いではないですか」

「キュイン閣下、事件の火種が大きくならないように止めるのが我々警察の役目です」

 ロイシュマスはキュイン宰相に言ったが、キュインは首を横に振った。

「いいえ、議会はこのまま大皇選抜の儀を続行させます。大皇候補の一人が出られなくなったとしても、議会の者たちは未来の大皇が見定まるのを待つという義務があります!」


 その後、警察と議会の話し合いで首都会館の外と庭園、会館内の警備は固くなり、大皇候補が会館内を歩く時は世話係か他の大皇候補と一緒に行動するという決まりが出された。

「お食事でございます」

 ジュナとラグドラグが個室にいると、メイドがカートに食事のトレイを乗せて運んでくる。

「ああ、そうだった。朝ごはん、食べ損ねたからなぁ」

 ジュナは朝食を食べられなかったことを思い出して呟く。ファロが意識不明になったために食べられなかったのだ。

 トレイには冷めないようにクロッシェがかぶせられており、ジュナとラグドラグのいるカウンター机にトレイが置かれ、クロッシェが外されると、おいしそうな昼食が出てくる。ジャポネ芋の酸味クレメがけ、豚(ピゲン)の塩漬け厚焼き、有機野菜サラダ、旬の魚のスープ、リゴルの茶のポット、モグッフも数切れあり、付け合せの乳脂もある。デザートはラズベとブルベのプディレ(プリン)。

「それでは……いただきます」

 ジュナとラグドラグは両手を合わせて、出来たての昼食をほおばる。空きっ腹のため、とってもおいしく感じた。

「ん〜、し・あ・わ・せ〜」

 ジュナが満悦していたその時だった。

「どっ、どうなされましたか!?」

 他の大皇候補の部屋から世話係の声が次々と出てきて、ジュナとラグドラグは何事かと気づく。

「こ、今度は誰がやられたんだ!?」

 ラグドラグは立ち上がり、ジュナは他の大皇候補の叫び声を聞いて背筋がゾッとなった。

「い、一体次は……?」

 ジュナも立ち上がり、自分の目で確かめに行こうとしたところ、メイドに止められた。

「い、いけません。勝手に部屋から出ては……」

「だけども……」

 廊下からバタバタと何人かの走る音がして、ジュナはハッとなった。

「おい、現状はどうなっている!?」

 ロイシュマスの声が聞こえてきたので、ジュナは足を止めた。


 やがて救急車が来て、昼食を食べて食あたりを起こした大皇候補が運ばれていった。

「うーん、うーん」

「苦しいよ〜」

 昼食を食べて食あたりを起こしたのは、ヴィティニーとマエラとケティだった。三人とも担架に乗せられて、胸や腹を手で押さえて苦しんでいた。

「ケティ……!」

 ジュナは扉の隙間からケティたちが苦しんでいるのを目にして、ショックを受ける。三人は病院に運ばれて治療を受けることになった。

 ロイシュマスはまたしても大皇候補や大臣たちを集めて、事件の聴取をしだした。

「一人だけにとどまらず、次は三人と大皇候補が……。私は三〇年も大皇様に仕えてきたというのに……」

 キュイン宰相は両手で頭を抱えて、次世代の大皇候補が四人も被害に遭うとは予想していなかったとはいえ、悩ませた。

「閣下の責任ではありません。我々にも責任があります」

 大臣たちも口を合わせて、ロイシュマスは今日の昼食を作った料理人たちを集めて尋問していた。

「あなたたちは料理を完成させた後は持ち場を離れていたんですね?」

 白い円筒型の帽子に白いエプロンを身につけていた三人の料理人たちは尋問に答えていた。一人は二〇年前から大皇に仕えているベテランで、もう二人は一〇年勤めの男である。

「はい……。他の二人は買い出し、私はお腹の具合が悪くなったので、お手洗いに行ってました。ですが、腐りかけの食材は使ってはないし、調味料以外の混入はしておりません」

 料理人の年長者がロイシュマスに答えた。

「別にあなたたちが犯人だと決めつけている訳ではありません。あなた方と世話係以外に怪しい者が厨房を出入りしていなかったかと聞いているだけです」

「え? それはいなかったと思いますが……」

「あ、あの〜、ちょっといいですか?」

 ジュナがロイシュマスに尋ねてきた。

「何の用だ?」

 ロイシュマスは割り込んできたジュナに眉間のしわを寄せながらも振り向く。

「あっと、その……、食あたりを起こした人たちって、大皇候補だけなんでしょ? わたしやボーガさんたちは何ともないのに」

「あ、そういえばそうだな」

 ジュナの発言を聞いて、ジャーバンが呟いた。

「確かに、最初のファロ=エッド、次の三人は融合適応者ではなかったということか……。だがなぁ……」

 するとキャップと上下の作業着のマスクと手袋を身につけた鑑識担当の警察官がホールの中に入ってやってくる。

「警部、病院に搬送された三人の紅茶のポットの中に薬物が混入されてました。カップやフォークなどの食器、料理の中には薬物反応はなかったようです」

「そうか。それで三人の様態と薬物の種類は?」

「三人の様態は命に別状はありませんが、昏睡状態に陥ってます。薬物はまだ調査中です」

 鑑識の報告を聞いて、ロイシュマスはホール内の者たちに伝えた。

「四人の大皇候補を危険な目に遭わせた者たちの逮捕のため、警備を更に厳重化させます。必ず二人以上で行動を取ること。これ以上、被害を出す訳にはいきませんからね」

 ロイシュマスからの警告を聞いて、大皇候補や大臣、世話係たちは沈黙する。

 誰が味方で誰が怪しいのか。不穏な空気が首都会館を覆った。


「どうしてこうなったのやら」

 自身の世話係と融合獣と共に宿泊室に戻ったハイネン地方出身のラーズ=クェーパーはベッドに転がって呟いた。

「でもさ、ラーズ。刑事さんたちの言う通りにした方がいい。敵はどこにいるか、わからない」

 ラーズと融合する深流(しんりゅう)族の融合獣、ピッキーディが言った。ピッキーディは白と黄色と黒の体に頭が角のようになっている南方の魚、角出魚を模した融合獣で、眼と尾ひれ近くの契合石は深藍色

であった。

「もしかしてアレか? 四年前にエリヌセウス軍に滅されたダンケルカイザラントの生き残りがいて、腹いせのために世話係に変装して大皇候補を襲っているってこと? 冗談じゃないよ」

 ラーズは口を尖らせて呟いた。ラーズはハイネン地方にある水棲人種(ディヴロイド)の集落の生まれで、そこは農業と漁業と林業が生活の糧であった。自分が大皇候補に選ばれたことは出身地や一族の名誉であり、誇りでもあった。しかし……。

「棄権はできないし、大皇候補ばかり狙う犯人は怖いし……」

 ラーズがベッドから起き上がると出入り口のドアに小さな封筒が置いてあった。どうやらドアの隙間から入れられたようだ。

「なんだこれ?」

 ラーズが紙袋を開けると、角張った文字で『今日の夕方一一時頃に窓の方に立ってください』というアリゼウム語が書かれていたのだ。ラーズは自身のデジタルウォッチを見て確かめる。

「今は……、二時半だからまだか。でもなんなんだろう?」

 ラーズは不思議に思いながらも、部屋に戻るまでにキュイン宰相から渡された国内問題の書類を目に通す。

「ん?」

 ラーズが書類を読んでいると、かすかなある反応をつかんだ。

「どうした?」

 ピッキーディが尋ねてくると、ラーズは首をかしげる。

「いや、さっき窓の方から僕以外の融合適応者の気があったような……」

 融合適応者は融合獣と長く融合していれば長いほど、融合適応者とそうでない人間の区別がつく。体内の契合石のおかげで気配が異なるのだ。

「あっと……、もう一一時か。窓の方を見ろ、って指示に従わないとね」

 ラーズはそう言って窓の方に近づく。すると、窓の一マスが割れて中に尖ったもの突き破り、ラーズに刺さったのだ。

「うわあああっ!!」

 ラーズの声で首都会館にいた大臣や世話係、警備員がラーズの声を聞いてハッとなる。

「くそっ、また被害者が……!!」

 ロイシュマスも悲鳴を聞いて、ラーズの部屋に駆けつけてくる。ラーズの部屋の前にいた見張りの警官と警備員がラーズの部屋のドアを蹴破り、ロイシュマスと共に中に入ると、窓の近くで仰向けに倒れているラーズを発見した。ラーズは左肩に尖った細長い串が刺さり、衣服と肌は血で赤く染まり、周囲には砕けたガラスの破片、体は痙攣して目を大きく見開いており、口をパクパクさせていた。

「ら、ラーズが……」

 ピッキーディがラーズの傍らにいて、うろたえていた。


 ラーズも病院に運ばれ、残った大皇候補はジュナを含めて四人になってしまった。

「何故なんだ!? どうして一体……」

 キュイン宰相は頭を抱えて五人目の被害者が出たことに更に悩ませていた。

 また大皇候補及び世話係や大臣はホールに集められていた。

「このままだと一人ずつまた被害に遭う可能性が高くなります。ここで寝食を大皇候補たちに行わせてやった方がより安全だと思いますが……」

 ロイシュマスがキュイン宰相にこの案を持ちかけてきた。するとそれを聞いて、ジャーバンとハルノも賛成する。

「そ、そうしよう! 一組ずつ個室でいるよりは安全だ!」

「わ、私もこれ以上怖い目はこりごりだわ!」

 ジャーバンとハルノの怯えぶりを見て、ボーガはフッと息を吐く。

「やれやれ。未来の大皇になる人間が一人だけの怪しい者に怯えるとはな……」

「な、何を言っている! 他人事みたいに……」

 ジャーバンがボーガに飛びかかってくる。

「ま、まぁ、落ち着いてケンカはやめて。大切なのは刑事さんの言う通りに単独行動より団体行動にしてってことだよ」

 ジュナがジャーバンとボーガの間に割って入って止める。

「……どうやらあなたがこの面々の中で一番まともなようね」

 ハルノがジュナを見て悔しながらも褒める。

「んでも〜、一番落ちつている人ってのが最も怪しいじゃないの〜?」

 ハルノの融合獣であるナホーシテが言った。ナホーシテは丸みを帯びた赤い甲翅に七つの斑紋がついた蟲翅(こし)族の融合獣で額に仄かな青緑の契合石があった。元となった虫は小型甲虫ディバーレ(てんとう虫)。

「確かに……。思っていれば、この子がやたらと冷静だ。何でパニクらないのかが、おかしい」

 ナホーシテの言葉を聞いてジャーバンが疑いの眼差しをジュナに向ける。

「えっ、そんな」

「おい、ジュナはそんな卑劣なことをしねぇぞ」

 ラグドラグがジャーバンに向かって言うと、ジャーバンの融合獣がラグドラグに吐いてくる。

「どうだが。こういう時ってジャーバンの言葉が合っていることもあるんだぜ?」

 鋭い嘴に首長鳥並みの長い蹴爪の融合獣、アスカッチーがラグドラグにふっかけてくる。嘴と毛付は黄色いがたてがみのような羽冠と羽毛は灰茶色で喉の契合石は砂黄色(サンドイエロー)である。

「ムホン。とにかく、他の大皇候補は財布などの貴重品をホールに持ってきて、ホールで寝食を取ること。他の五人の大皇候補を被害に遭わせた犯人が見つかるまで!」

 キュイン宰相が咳払いをし、ジュナたちに注意する。


 入浴と洗面とトイレは必ず世話係と共に個室のシャワーとトイレで行い、着替えは女子はホールで男子は自分たちが使っていた部屋で世話係と共に行い、食事は厨房から運び込まれた物、夜は敷マットレスとブランケットと枕の上で過ごした。

 そして三日目の朝となり、ジャーバンとボーガは執事に連れられて別室で着替え、ジュナはハルノはメイドから着替えをさせてもらう。

「あの、ハルノさん。本当に大皇になりたい人がやるようなことでしょうか? そんなんだったら汚い手段を使ってまでなろうとやらないだろうし……」

 ジュナは隣でメイドに髪をとかしてもらっているハルノに尋ねてきた。

「そうよね。悪質すぎるわよね」

「犯人としては何か別の目的があるんじゃないか、って気がして……」

 ジュナは一日目の夜から感じている不安らしきものを抱いたまま、そしてその不安が他の大皇候補を蝕む毒気になってきたことに的中したことを呟いた。

 ジャーバンから疑われるものの、不安を顕にしたってどうにもならないから、と平静を見せていたのだ。

 ケティたちにかかってきた毒気が自分にも来そうなのを感じて……。