1弾・9話 テナイを倒せ


 ジュナは息を切らしながら、ラグドラグのいる三番街の上隅の倉庫へと走っていった。

 辺りはすっかり暗くなっていて、外灯だけが頼りだった。街の巡回の警官に気づかれないようにして、暗闇の街を駆けていった。

 そして三番街の上隅の封鎖された倉庫では――。

「うおおおおお!!」

 ラグドラグはテナイによって苛まれていた。融合したテナイが放つ電撃を何度も浴びせられ、両手両足両翼を鎖で縛られ身動きができず、もがき苦しんでいた。

「はぁ……はぁ……」

 どんなに傷を受けても回復の速い体のため、関電の痛みや火傷は数分で治ってしまう。治ったらまた苦しみを受ける。いっそのことひと思いに殺してくれたら、とラグドラグは思った。

「……うう、俺の首を斬り落としてくれ……。もう……痛苦しいのはごめんだ……」

 掠れた声でラグドラグはテナイに懇願した。

「いや、それはつまらない。初代テナイの名を覚えている融合獣は彼を憎んでいる。ただ殺すだけではつまらん。苦しみ、痛み、屈辱……。これらをお前たちに与えて、弱ったところで殺す。この方がご先祖も安心すると思うだろうし。何よりお前は特別だった。ラグドラグ。いや、ラドル・デューク」

 テナイが冷ややかに笑った。

「お前のことは祖父や父から聞かされていた。お前はこの惑星の愛星者で一般人だったにも関わらず、兵士に志願して戦ってくれた。お前のような人間が融合獣に相応しかったそうだ。こんな体になるくらいなら、素直に死んでおけばよかったと思っているか?」

「そんなこと……ない」

「ああ!?」

 ラグドラグの発言にテナイはどういう事だという顔をした。

「俺は確かに……融合獣になった運命を呪ったさ……。でもよ、今は違う。俺を受け入れ、俺を迎えてくれた人間がいてくれたんだ!」

 ラグドラグはそう言って叫んだ。テナイは顔をひきつらせて怒り叫ぶ。

「生意気な口をきくなーっ!!」

 鋭い爪のある手でラグドラグの首を押さえ、残った右手で爪を伸ばして首を斬ろうとした時、バァンという音がした。

「誰だ!?」

 テナイは振り向いて、あと少しのところでラグドラグの首を寸止めした。

 そこに現れたのは、一人の少女――ジュナだった。ジュナは息を切らし、肩を上下に呼吸しながら、やっとラグドラグを見つけられたという顔をしていた。

「ラグドラグを……離して……」

 ジュナはテナイに叫ぶように言った。

「お前の……今の適応者か?」

 テナイはジュナを見ると、ラグドラグから離れ、彼を縛っていた鎖をほどき、ジュナに返すように蹴り飛ばした。

「うぎゃっ」

「ラグドラグ!!」

 ジュナはラグドラグに駆け寄り、ラグドラグはジュナに言った。

「何で……来たんだよ……。お前を傷つけたというのに……」

「そんなものもういいよ。わたしは……、あなたが心配で探しに来たの……。わたしの……大切な……」

「大切な、何だ?」

 ラグドラグがその続きをせがむように訊く。

「仲間……ううん、家族だよっ。ただ一体のラグドラグ……」

「家族……」

 その言葉を聞いて、ラグドラグは一ヶ月間のジュナや母親、そして仲間たちの思い出を思い浮かべた。

「そうだよな……。俺もお前も一人しかいないもんな……」

「うん、そうだよ」

 ジュナは泣きながら答える。どんな生命であれ、代わりになる者なんていない。同じ者なんていないのだから。ジュナはラグドラグにすがりつく。

「感動の再会はそれまでだ」

 テナイがいたことに思い出したラグドラグは、振り向いて奴の存在をジュナに教えた。

「ジュナ、よく聞いてくれ。あいつだよ、融合獣を葬っていた奴。あいつは……、俺らを生み出した科学者の子孫で、先祖の無念を晴らすために次々と融合獣を殺していたらしい……」

「!!」

 ジュナはテナイを見て声が出なくなったが、ラグドラグに訊ねる。

「ラグドラグ、どうする?」

「俺だったら止めるね。あいつをどうしてでも」

 それを聞いてジュナも頷く。

「わたしもそうする。融合獣を殺すなんて赦さない」

「決まり、だな」

 そしてジュナとラグドラグは融合して、白いオーラに包まれ、融合した姿をテナイに見せた。

「行くぜ、テナイ!!」


 ラグドラグと融合したジュナと融合獣アティゲルと融合したテナイは同時に飛び出して、拳と拳をぶつけ合い、衝撃で後方に吹っ飛ぶ。二人は吹っ飛ばされて、堅い床にすりむく。

「ぐうっ!!」

「きゃああっ!!」

 融合闘士姿のジュナはぶつけた右腹を押さえながら立ちあがる。

「つっ……」

「大丈夫か!?」

 ラグドラグが心配して、ジュナに話しかける。

「だ、大丈夫……っ!」

 前方から電撃が走ってきて、ジュナは大きく左に転がり避ける。電撃の当たった床が、黒く焦げている。テナイが攻撃してきたのだ。

「ジュナ、あの融合獣は雷の力を持っている。電撃を喰らうとものすごく痛いぞ。俺はともかく、お前まで影響するぞ……」

「うう……」

 ジュナはそれを聞くと、身震いした。テナイが攻撃技を出す。テナイは手を上下に重ね、そこから電撃のエネルギーを溜め込み放つ。

「虎牙電撃走(ティーゲル・グリム)!!」

 テナイの手から虎(トッフーガ)型の稲光が発され、ジュナに浴びせられた。

「ぎゃあああああ!!」

 電撃をまともに喰らったジュナとラグドラグは叫び、電撃が弾け散ると、ジュナの体は麻痺した。

「ジュナ……。大丈夫か……!?」

「体が痺れて、手足が、うご、かな、い……」

 ジュナは途切れ途切れに伝える。だがラグドラグの急速再生能力のおかげで、体の痛みと感電痛が治っていった。

「反撃するよ、ラグドラグ!!」

「おう!!」

 立ちあがったジュナは次々に放たれる電撃を避け、大きく宙返りしてテナイの後ろに立った。

 テナイは後方をとられ、ジュナは攻撃技を放つ。

「竜晶星落速(クリスタル・スターダスト)!!」

 ジュナは両手を広げ、次々と結晶を浮かべ、そのつぶてがテナイにぶつけられた。

「うおおっ!」

 テナイは結晶のつぶてを受けて、壁にぶち当たった。テナイは半身を起しながら、ジュナを睨みつける。

「なかなかやるな。だが、攻撃は一つだけとは限らん!」

 そう言うとテナイは立ち上がり、左肩についている契合石に右手をあてた。

「出でよ、我が武器よ」

 するとテナイの左肩の契合石が光り、そこから光の棒が出てきて、テナイが引き抜くと山吹色の曲刀が出てきた。猛虎の牙と同じ形をしている。

「武器が……出た……」

 ジュナはテナイが武器を出したのを見て驚き、ラグドラグが説明した。

「融合適応者が想像した武器を融合獣が具現化させることも可能……。もちろん技と同じで、二度目以降は自由に出し入れできる」

 ラグドラグがそう言うと、テナイは刀から稲光状の電撃を出して、ジュナに攻撃をしてくる。

「虎走雷(ティーゲル・ラッシャー)!!」

 ジュナは左に避け、電撃が鉄の箱に当たり、箱は真っ二つに裂けた。

「ジュナ、お前も武器を出せ! 何でもいいから!」

 ラグドラグが急いたようにジュナに言う。

「そんなこと言ったって……。この状態じゃ武器なんか出せないって!」

 テナイが次々に攻撃してくるので、ジュナは攻撃を避けるのに精一杯で武言なんか出せない。それからラグドラグはテナイとアティゲラの連携を見て、疑問を感じた。

(あの融合獣、いくらテナイ家に仕えてきた融合獣だからって、四代目適応者との男と易々と力を合わせられるなんて……。新しい適応者と慣れるには、前の適応者との情に惑わせないようにしなくちゃいけないのに……)

 前の適応者が死んですぐに新しい適応者と融合するには、長い期間の精神訓練が必要だった。融合獣が前の適応者をまだ引っ張っているようならば、融合時間はそれ程短くなる。

 ラグドラグは全て置いてきた。今の適応者(ジュナ)と一つになれるように。

(だが、こいつは今の適応者と息がぴったり合っている……いや、合いすぎている。まるで、同じ性格や考え方の人間と一つになっているみたいだ)

 融合獣も人間も一人ずつ性格や考え方や何もかも違う。中には相性の悪い組み合わせだってあるのだ。

 テナイの攻撃から逃げている間に、ジュナは力が尽きてよろけて左足に電撃を受けた。

「ああっ!!」

 ジュナはその場に倒れ、テナイが近づいてきた。

「もう終わりか? ならば、ここで死ぬがよい!」

 テナイの刀が振り下ろされてくる。ジュナはもうダメだと思ったその瞬間。

 キュイン!!

 風を切るナイフのような音がして、テナイの剣が跳ねとんで床に突き刺さった。

「ぐあっ」

 テナイは攻撃の当たった右手を押さえ、ジュナはその隙に逃げ出す。そして撃ってきた方向だと思われる方角を見てみると、入り口にツァリーナと融合したエルニオが両手に二丁の銃を持って現れたのだった。


  
「エルニオ!! 何故、ここに!?」

 ジュナは突如現れたエルニオを見て叫んだ。

「どうもね、眠っている間に胸騒ぎがして起きちゃってね。窓を開けてみてみたら、南の方角が激しく光っていて、ツァリーナに見にいってもらったら、君たちがピンチになっていたから、

助けにきたのさ」

 そう言いながらエルニオは先端に鳥をかたどった銃を回した。

「あ、ありが……」

 ジュナはお礼を言おうとした時、エルニオは「待った」と制した。

「お礼を言うのは、こいつを倒してから! 僕が引きつけておくから、君は武器を考えてな」

 エルニオはそう言うと、銃口をテナイに向ける。

「ふん。仲間が来たところで、武器を考える余興はないぞ。ならば、お前から始末してやる!」

 テナイは刀を拾い、再び攻撃をしかける。

「虎走雷(ティーゲル・ラッシャー)!!」

 エルニオも銃の引き金を引き、テナイに攻撃を向ける。銃口から鮮緑の光弾をいくつも撃つ。

「エルニオが頑張ってくれている間に、武言を考えておかなきゃ。え〜と、え〜と……」

(何とかしなきゃ……。武器を……)

「虎走雷(ティーゲル・ラッシャー)!!」

「翠風銃線弾(シルフィード・ブラスター)!!」

 テナイの稲光とエルニオが出した二条の鮮緑の光線がぶつかり合った。だが両者の技は押し合うばかりで、お互い譲れない。

「うおおおお!!」

 エルニオはそれでも力を込めて、攻撃を押し出す。

 ドォォーン

「うおっ!!」

「きゃあっ!!」

 テナイとエルニオの攻撃が耐えきれず暴発して、ジュナもエルニオもテナイもその勢いで吹っ飛んだ。

 翠と山吹色の煙が混じって、視界が見えない。

「あいててて……」

 エルニオは腰をさすりながら、起き上がる。

「エルニオ、どこー?」

 ジュナの呼ぶ声がしたので、エルニオは翼をはばたかせて、煙を吹き飛ばす。幸い二人とも体はススで汚れていただけで助かった。

「けっこう派手にやったね……」

 ジュナはガレキだらけの背景を見て呟く。

「ああ。僕がやっつけてしまったのは仕方ないけれど」

 エルニオがそう言った時、ガレキからアティゲラがはいずり出た。アティゲラの傷ついた体はたちまち治っていく。ジュナとエルニオを見て、アティゲラは言う。

「これで終わったと思うなよ。我々はまだ戦える」

 すると他のガレキから服は破れ、頭や腕や脚からは血を流したテナイが出てきたのだ。

「えっ……! うそっ!」

 傷ついても立ち上がってきたテナイを見て、ジュナたちは驚いた。

「行くぞ。ならば、適応者や割り込んできた融合獣も殺すとするか……」

 アティゲラはテナイに声をかける。傷だらけのテナイは頷く。

「お、おいっ! ちょっと待てよ! 適応者は凄いケガをしてんだぜ! このまま戦ったら、死んじまうぞ!」

 ラグドラグはアティゲラを止めた。いくら自分を殺そうとしている者でも、そこまではやり過ぎだと思った。だが、アティゲラは冷ややかに笑った。

「今の適応者がいなくなっても、代わりはいくらでもいる。所詮、この体は使い捨てだ」

「なっ……!」

 アティゲラの言葉を聞いて、ラグドラグは激怒した。

「てめぇっ、適応者を何だと思ってやがる!」

「ラグドラグ、落ち着いて!」

 エルニオとツァリーナがジュナと融合したままのラグドラグを抑えた。すると、アティゲラは語り始める。

「君たちは、初代テナイは逮捕される前に自害して、息子や孫が初代テナイの無念を晴らすために融合獣狩りをしていると思っているだろうね」

「? 何のこと……?」

 ジュナはアティグルの言っていることがよくわからなかった。何故テナイ家に仕える融合獣がこんなことを言うのかを。

「カルセドル・テナイはまだ生きていたらどうする?」

「はぁ? 何言ってんの。二〇〇年前の人間がまだ生きているなんて、そんなこと絶対ないって! 二〇〇年も生きられる人間がいる訳ないだろう!」

 エルニオがくだらないと言うように叫んだ。

(そうよね。まだ人類の寿命を今より延ばすのはまだ研究中だし、死者蘇生術も不完全……。いくらアルイヴィーナの科学技術でも、まだできない。だとしたら……)

 驚いているジュナたちを見て、アティゲラが言った。

「君たちはまだわからないようだから教えてあげよう。このテナイは初代テナイのクローンだ」

「クローン!?」

 四人が同時に叫んだ。

「じゃ、じゃあ、このテナイがクローン技術で造られたなら、肝心のカルセドル・テナイはどこにいるのよ?」

 ツァリーナがたまげながら、アティゲラに訊いた。

「君たちはまだわかってないようだな。私が、カルセドル・テナイ自身なのだよ!」

 アティゲラはジュナたちに向かって発した。

「ええーっ!?」

 そしてアティゲラもとい初代テナイは語り始めた。


  

「数百人のアルイヴィーナの重傷の兵士たちを使い、融合獣を生み出した私だが、反融合獣製作派に知られて、軍法会議で裁かれて死刑になると知った時、私は奴らから捕まる前にある試みを企てた。それは自殺に見せかけて、世間の目を騙すことだった。私は自分と同じ背格好と体格の兵士の死体を盗んで歯などを加工し、研究室を爆破させて自殺したかのように起こし、その後は研究所の地下シェルターへ行き、自分のクローンを造り、そして私は一体残った素体で融合獣となった……」

「それでクローンの自分を息子や孫と偽らせて、世間を欺いてきたのか」

 ラグドラグが続きを言うように悟った。

「そうだ。クローンの寿命が近づくと、新しいクローンを造り、クローンを代替えて適応者にして続けてきたのだ。誰もこのアティゲラが初代テナイと気づかずにね。

 さて、話は終わりだ。そろそろ行こうじゃないか!」

 アティゲラはテナイと融合し、再び融合闘士となった。稲妻並みのスピードで、ジュナとエルニオを惑わせる。

「翠風銃線弾(シルフィード・ブラスター)!!」

「竜晶星落速(クリスタル・スターダスト)!!」

 二人は同時攻撃を浴びせるが、テナイは瞬く間の速さでかわし、二つの攻撃が壁に当たって大きな音を立てて崩れる。

「遅い!!」

 テナイは虎雷走(ティーゲル・ラッシャー)を出し、ジュナとエルニオにダメージを浴びせた。

「ぐわあっ!!」

 二人はその場に倒れ崩れる。感電攻撃でジュナの白い体とエルニオの翠の体が焦げた。

「うう……。卑怯なまでに強い……」

「こいつ……本人同士だから……、息が合いすぎてんだ……」

 ジュナとラグドラグが苦しみながら呻く。

「もう、お終いか?」

 テナイがジュナに近づく。そして太刀を振り上げる。

(ジュナ……!)

 ジュナとラグドラグの危機を見て、エルニオは銃を取ろうとしたが、大ダメージを喰らったため、上手くつかめなかった。

 その時、ビキッビキキッという音がして、床のコンクリートから植物の蔓が生えてきて、テナイを捕まえ締め上げた。そして更に、激しい水流がテナイを攻撃したのだった。

「この攻撃は……!」

 ジュナは突如生えてきた蔓と突如出てきた水流を見て、ハッとした。そして入り口を見てみると、ジュビルムと融合した羅夢、ソーダーズと融合したトリスティスがいたのだ。羅夢は床に手をつけ、蔓を出したのだった。

「ジュナさん、大丈夫ですか?」

「間に合ったようね」

 羅夢とトリスティスがジュナの危機を救ったことを確認する。

「羅夢ちゃん、トリスティス先輩! どうしてここに?」

 ジュナは二人を見て訊ねる。

「夜中に胸騒ぎがして外を出てみたら、ここが目立って凄いことになっていて、来てみたらジュナたちがピンチになっていて……」

「縛っていれば大丈夫です! この蔦縛封(アイビー・シール)で大人しくさせます!」

 羅夢が蔦縛封(アイビー・シール)でテナイを締め上げる。そしてトリスティスが空中の水粒子エネルギーを集めて技を発動。

「はああああ――」

 トリスティスは両腕を上げて、水柱を生み出し、それを巨大な剣へと変える――。

「激流斬波(マリニード・カリバー)!!」

 勢いよく水の大剣を振り下ろし、水飛沫をあげながら、倉庫の壁と床が半分割れた。

「やったか?」

 ラグドラグがトリスティスの攻撃を見て、呟く。だが、そこにいたのは蔓に縛られ、びしょ濡れになったテナイだった。

「どいつもこいつも……、私の邪魔をしおって!」

 テナイは怒り叫ぶと、蔦を引きちぎり、トリスティスを睨む。

「水は雷に弱いからな、お前から始末してやろうか……」

(しまった!!)

 トリスティスは水属性の自分は雷には弱いことに動きを止めた。テナイが右手に電撃を溜めて、トリスティスにぶつけようとした時、後ろからエルニオ、前から羅夢が飛びかかって押さえる。

「させるかっ!」

「邪魔だ! 雑魚ども!」

 テナイは二人を振りほどき、エルニオと羅夢は床に叩きつけられた。

(エルニオも、羅夢ちゃんもトリスティス先輩も、みんな戦ってくれている……。わたしを助けてくれている……)

 エルニオたちの手助けを見て、ジュナは思った。

(わたしは……、小さい時から周りから仲間外れにされていて、そのくせお人好しで、いじめられていた。エリヌセウスに行くことが決まった時は、意地悪な人から離れて嬉しかった。そして「新しい学校では、周りを様子見ながら生きよう」と。でもそんな必要なかった。「自分一人だけに冷たくする人間」なんていなかったことを。ラヴィエちゃんもダイナちゃんも、引っ越ししちゃったけどケティ、エルニオ、トリスティス先輩、羅夢ちゃん、ラグドラグのような融合獣――。みんないい人だったよ)

 そしてジュナの想像世界の中に一本の剣が浮かび上がった。

「見えた! わたしだけの武器!」

 ジュナがそう叫ぶと、胸の契合石から光が出てきて、光は一本の剣と変わる。剣は紺の柄には竜頭、刃は幅広くプラチナのように輝いていた。

「ジュナ、ついに出したな。お前だけの武器を」

 ラグドラグはそう言い、ジュナは剣を右手に持ち、テナイに立ち向かった。


  


「ぐはっ」

 エルニオ、羅夢、トリスティスはテナイの攻撃で、床に叩きつけられた。

「何度立ち向かっても、この私は倒せん。お前たちから一人ずつ始末してやろう。さて、誰がいいか――」

 テナイは三人に太刀を向ける。その時、後ろからジュナが斬りかかってきた。

「うおっ!!」

 ジュナの勢力でテナイは前方の壁に吹っ飛んだ。テナイはドラム缶の山に転がり込み、ジュナの武器を見る。そして三人もジュナの武器に見とれる。

「その剣は――、武器の想像を成功させたのか!」

 テナイの斬りつけられた背中はすぐに塞がり、テナイは虎雷走(ティーゲル・ラッシャー)を出して、ジュナに向ける。

「ジュナ! 危ないーっ!」

 三人がジュナにせまる危機を見て叫ぶ。だがジュナは剣を大きく振るって、電撃を真っ二つにして消滅させた。

「ばっ、莫迦な……! 私の虎雷走(ティーゲル・ラッシャー)が消されるなんて……!」

 テナイは後ずさりした。そしてジュナは大きく飛躍し、剣を白く輝かせて大きく振り下ろした。

「創生竜斬刃(ティアマート・インパルス)!!」

 剣から白き光の斬撃が放たれ、斬撃はテナイの体を斬りつけた。

「うぎゃああああっ!!」

 テナイとアティゲラは創生竜斬刃(ティアマート・インパルス)の光に中に飲み込まれていった。

(まさか、まさか……この私が破れるなんて……っ!!)

 アティゲルの体のカルセドル・テナイは白光の中に包まれ、崩壊した。

 創生竜斬刃(ティアマート・インパルス)の破壊力がとてつもなく強いことを感じたエルニオは、倉庫まで崩壊しそうなことに気づき、みんなに言った。

「みんな、壊れるぞ! 逃げろーっ!!」

 ズドォォォ……ン

 倉庫は崩壊し、見事に影も形もなくなった。

 四人と四体の融合獣は崩壊した倉庫を見つめていた。

「さすがにこの破壊力じゃ、あいつも助からないわね」

 ツァリーナが言った。

「ああ、手強かったよ……。しかし驚いたよ。融合獣の創造者が融合獣になっていたのは」

 エルニオが事情を知らない羅夢とトリスティスに言った。

「そうなのですか? 悪者だとは気付いていたけれど、そこまでは……」

「あいつが融合獣狩りの犯人なんでしょう? ねえ」

 羅夢とトリスティスがエルニオに訊く。

「そうさ。あいつはその時、ラグドラグを狙ってたんだ」

 エルニオはラグドラグが帰還してきたことに喜ぶジュナを見て笑う。

「ただいま、ジュナ」

「お帰り、ラグドラグ。これからもわたしと一緒にいてね……」

 ジュナはラグドラグの頭を抱えて、ギュッとした。

 人間も融合獣も一人で生きていくことはできない。時には誰かに支えられて生きていくことも必要だ。この教えはずっと続いている。

 空はすでに薄暗い青に変わっており、もうすぐ日が昇ろうとしていた。