5弾・10話 ジュナ一行学校を去る……そして四番目の超変化


『へぇ、羅夢はそれで超変化を遂げたのね?』

 セラン区にある宗樹院織物処の二階にある羅夢の部屋、二日前羅夢はダンケルカイザラントに連れ去られそうになった茶道教室での友人を助けるために羅夢の身に超変化が起こり、それでダンケルカイザラントの戦士を苦手の炎属性のながらも撃退したことを羅夢は携帯電話でジュナと話し合ってた。

「はい……。でも体に大きな負担が出ちゃって一日半も学校を休んじゃって……。花道教室もだけど」

『ああ、そうだったね……。でも明日学校に行くんでしょ? じゃ、学校で落ち合おうね。

お休み』

「はい、お休みなさい」

 羅夢は携帯電話の通話を切り、ふぅ、と一息つく。傍らにはジュビルムがいる。

「羅夢。超変化を遂げてとても疲れているというのに、学校に行くんですか?」

「そりゃあ行くよ。入学してまだ三ヶ月しか経ってないんだよ? 学校生は学校に通って勉強して友達付きあいをするのが勤めなんだから」

 そう言うなり羅夢は布団を敷いて消灯して寝入った。ジュビルムも布団に潜って。


 エリヌセウス皇国の空はつい最近までは青緑だったのに、冬の訪れを思わせる灰色が混じったような色をしており、空気も冷たく、街路樹や家々の庭木や芝生の草はすっかり茶色に色あせて風が吹くたびに葉が散って飛んでいき、建物の屋根や枝に泊まる鳥は黒や灰色や茶色の羽毛のものが多く、人々も寒さを凌ぐためのコートなどの防寒具を身にまとっていた。アウターの色は個人によって色も素材も形も異なっていて、寒空の下の色のビーズのようだった。

 羅夢も普段着の和衣の上にえりのないベージュのコートに首には毛織の薄紅色のストールを身につけて通学した。

 筒間列車(チューブライン)に乗ってラガン区のエリヌセウス上級学院に向かい、駅の出入り口でジュナ・エルニオ・トリスティスと合流した。

「おお、おはよう」

 エルニオが羅夢を見てあいさつする。ジュナは黄色のダッフルコート、エルニオは深緑のダウンジャケット、トリスティスは首元と袖口に紺色のボアが付いた瑠璃色のマニッシュコートを身につけていた。

「おはようございます」

 羅夢は三人と合流すると、一緒にエリヌセウス上級学院へ向かう。

「とうとう羅夢も超変化を遂げることが出来たか……。あとはジュナも超変化が出来れば、なんだよな」

「うん……。でもきっかけ、ってのがなんなのかは……」

 エルニオに言われてジュナは苦い顔をして、自分以外の三人が超変化を遂げたことに焦りと羨望を浮かべる。

「にしても、羅夢の住んでいる町の山に火事が起きて大騒ぎになったんだって? まぁ、羅夢が超変化を遂げた時の新しい技で消化してくれたみたいだけれど……」

 トリスティスが数日前にテレビや新聞で入手したセラン区の山火事を羅夢に尋ねてくる。

「はい……。花びらやツルを操る他にも、花の種類によって樹属性以外の技も使えるようになったみたいなんですね」

「そりゃあ凄いな」

 羅夢の話を聞いてエルニオが感心し、四人が学校に通じる階段を下ると、校舎の前に学年や人種、学科の異なる数十人の生徒たちが待ち構えて、ジュナたちを四人をきつい眼差しで見つめていた。

「な、何だ……? どうしてこんなに集まっていて……」

 エルニオは生徒の群れを見て驚くも尋ねる。すると七年生らしい浅黒い肌の暖方人種(バルカロイド)の男子生徒がずかずかと前に出て、ジュナたちに言ってきた。

「何言ってやがんだ。この間、セラン区で山火事が起きて大惨事になった、っていうんじゃないか。山火事起こしの犯人は逮捕されたけど、お前らが関わったために起きたんだろ」

「え、セ、セラン区の山火事の件はわたしだけで……」

 羅夢が遮って止めようとしたが、他の男子生徒が別の件のことで主張してきた。

「あとその前のレメダン区で夜に街の照明灯の故障でもないのに、やたらと眩しい光で近くの住民が何日か目が見えなくなって大事になったんだ。僕の父さんも会社の帰りでその光を見たために五日も目がつぶれていたんだぞ」

 それを聞いてトリスティスが口ごもる。トリスティスが超変化を遂げた日に戦っていた光属性の融合闘士(フューザーソルジャー)で、自分の知らない所で同じ学校の学校生の父親がしばらく目をいためていたことを今知ったからだ。もしかしたら超変化の発生の光は融合適応者でない人間にはきつかったのかもしれない。

「もしかしたらいずれ、悪い融合闘士(フューザーソルジャー)がこの学校にやって来て、俺たちを襲うかもしれない。この学校には融合適応者が四人もいて、それがお前たち四人だっていうじゃないか。

 悪い融合闘士(フューザーソルジャー)が来たらきたで、お前たちが戦うんだろううけど、融合適応者でない俺たちを巻き込むに決まっている。

 そうなる前にこの学校から出て行け!」

 先にふっかけてきた男子生徒がジュナたちに向かって罵ってきた。他の生徒たちも男女学年学科人種を問わず、ジュナたちを糾弾してきたのだ。

「そーよ、学校に悪者が来たら、あんたたちのせいよ!」

「周りのことを考えていない愚図が!」

「出ていけ!」

「もう戻ってくるな!」

 中には石を投げつけてきた者もいて、ジュナたちは後ずさりし、非融合適応者のエリヌセウス上級学校生の非難と糾弾に恐れをなして逃げていったのだた。

 四人は学校から見えなくなると場所までに来ると、顔を見合わせた。

「あんなに責められたんじゃ、あの学校にはいられないよ……」

 トリスティスがさっき石を投げつけられた左肩を押さえて言った。

「確かにダイナをダンケルカイザラントとの戦いに巻き添えにしてしまったのはすまいよ。だからって、そんなに非難を僕らに浴びせるのはどうか、って思う」

 エルニオが他の三人に言った。

「だけども、他の学校の人たちがわたしたちを追い払ったのは、危険な目に遭いたくない、ってのもわかるんですけど……」

 羅夢が半ば諦めたように呟いた。

「でも、みんなの目はとても本気だった。恐怖と憎しみのこもった目だったよ。

 もうエリヌセウス上級学院には行けない。これからどうしたら……」

 灰色の混じった碧空に冷たく吹きつける風の下の街中でジュナたち四人は迷った。


 結局ジュナたち四人の融合適応者は家に帰って自室に閉じこもって過ごすしかなかった。

 自分たちが不老長寿の人口生物、融合獣の適応者になったのは、人間よりも長く生き人間と違って家庭を持つことのない融合獣の友であり家族になったからだ。中には融合獣と共に犯罪を起こす融合暴徒もいたけれど。融合獣や収監された犯罪者や身寄りのない人間を集めてアルイヴィーナ星を支配しようとしているダンケルカイザラントははっきし言って"私利私欲"である。ジュナたちは決して融合獣をいいように利用している訳でも、誰にも取られないように独占している訳でもなかった。

 そもそも融合獣は二〇〇年前のアルイヴィーナ人が強国の惑星軍を撃退するために造られたアルイヴィーナの最終手段で、融合獣を動かすには高知能の頭脳が必要だった。融合獣の開発者であるテナイ博士は負傷したアルイヴィーナの兵士を溶解して、その動力液で融合獣を動かすことに成功した。……だが、融合獣になったアルイヴィーナ人は急速再生組織などの人口生体の塊となり、また不老長寿となったため、彼らの家族や友人はこの世を去り、融合獣となったアルイヴィーナ人は自分の居場所を求めて流転してきたのだった。

 融合適応者になった人間は融合獣の命ともいえる契合石の欠片が体内に入って共鳴するため、一生を融合して生きるのだ。

 ジュナたちがダンケルカイザラントと戦うことになったのは決して自己満足でも英雄祈願でもなく、家族や友人や無関係の人々を守るためであった。

 ……しかしたった一回の友人の巻き添えでジュナたちは同じ学校の者たちから避難され糾弾され追放された。

 学校を追い出されたこの日、ジュナもエルニオも羅夢もトリスティスも自分の部屋に閉じこもって間食もせず、一杯の水も飲まずにうずくまっていたのだ。彼らの融合獣たちはパートナーである適応者のふさいでいる様子を見て、そっとするしかなかったのである。

 空が夕焼けに伴って琥珀色に染まり、冷えも深まってきた頃、ジュナの家に勤め先から帰ってきた母が帰ってきたのだ。

「ただいまー。今日は思っていたより仕事があったから、外食にしようかしら。ジュナに相談しないと」

 そう言って母は靴を脱いで玄関に上がり、二階への階段がある居間へと向かい、階段を上がったところ、ラグドラグが渋い顔をしてジュナの母を迎えた。

「あの、お袋さん……。ジュナが大変な目に遭って……」

「……!?」


「ジュナ、入るわよ」

 母は出入り口のドアをノックすると、ジュナの部屋に入る。カーテン、学習机、コンピューター机、本棚、多種の動物のぬいぐるみ、テレビ、ベッド、そして真上に景色が見られる窓付き天井、狭くも広くもないジュナの部屋。部屋の真ん中にはジュナが学校から帰ってきた時に投げ捨てたデイパックとコートが転がり、ジュナはベッドの上で膝立で座っていた。

「ジュナ、ラグドラグから聞いたわよ。ずいぶん前にお友達が悪い人に関わったために学校のみんなから責め立てられて追い出されたんですって?」

 ジュナの母はジュナに寄り添って話しかける。ジュナは少しだけ顔を上げて母に視線を向ける。沈んだような目だった。

「……うん」

「ママはジュナがラグドラグと出会ってから、危ない目に遭うようになったのは偶然だと思った。でもジュナは自分で選んで決めたんでしょ? ママはジュナが危険な目にあってほしくないし、悪い人たちにも絡まれてほしくない、って仕事場でも家にいる時でも思ってしたし考えていた。

 お兄ちゃんは戦争で行方不明になって、パパが事故で死んじゃったから、ママはジュナまでいなくなったらどうしたらいいか、にもなるんだろうけど……」

 兄のレシルが生死不明となり、更に父ゼマンがエネルギー工房の爆破事故で亡くなってから母は過剰にジュナの身を心配するようになった。誘拐されたり学校の通学路で事故にあったり、友達の家に遊びに行く途中で廃屋に閉じ込められてしまったら、と神経質になっていた。

「だけどジュナ、これだけはわかるの。あなたは有名になりたい訳でも、チヤホヤされたい訳でも、英雄になりたい訳でもなく、融合闘士(フューザーソルジャー)になったんでしょ? 確かに融合闘士(フューザーソルジャー)は世界の人口で見てみると、普通の人たちよりとても少ないでしょう。まだ世の中の人たちが融合闘士(フューザーソルジャー)に関する知識や情報が知れ渡ってないのもあるんだろうけど……。

 ジュナは以前、パパの供養期間の時、ママの故郷のエルサワ諸島に現れた悪い融合闘士(フューザーソルジャー)を退治してくれたじゃないの。ジュナが今、本当に大切なのは、自分がどうあるべきか、なのよ。学校はみんなのほとぼりが冷めるまで休んでいなさい。

 しばらくは辛いでしょうけど、ママはジュナが悪くないと思っているわ」

 そう言って母はジュナの背をなでた。少し気持ちが和らいだ。母の言うとおり、自分がどうあるべきなのかが今のジュナにとって大切なことの一つなのだ。多分、エルニオや羅夢やトリスティスもそう思っているだろう。

「ありがとね、ママ……」

 ラグドラグがドアの隙間から母娘のやりとりを見て呟いた。

「うん。学校を追い出されてからのこれからは一先ず解決だな」


 ジュナたちエリヌセウス皇国学校生の融合適応者四人は学校を追い出されてからは家で過ごしていた。学校に行けなくなった今、勉強は自宅の私室でやり、他にも家の中の掃除や洗濯、昼食は自炊かレトルトで済まし、外出は常に下校時間が過ぎてからか休校日の昼にだけという生活になった。

 エルニオも羅夢もトリスティスも学校の友人からの携帯通話もメールも封鎖され、ジュナにいたってはダイナとラヴィエに通話やメールを送りたくても送れないという状態になっていた。

 ジュナたちが学校を追い出された日、ダイナとラヴィエはジュナたちを庇いたかったのだが庇ったら庇ったら自分たちも非難されると思って教室の窓から見ているしかなかったのだ。携帯電話の通話やメールしようかとしたが彼女たちの母親が厳しくチェックするため、やむを得ずジュナの携帯ナンバーとメールアドレスは消去して、だけども携帯ナンバーとメールアドレスの記述の紙切れはこっそりととっておいたのである。

 あくる日、ダイナとラヴィエは教室で自分たちの座る席の間にいる人物の虚無感を伝っていた。

「ジュナやエルニオくんたちがエリヌセウス上級学院を追い出されてから七日目よ」

「ジュナの家に行きたいけれど、お母さんが許してくれなさそうだし、黙って行ったとしても絶対に聞き出そうとするからねぇ」

 他の生徒たちには聞こえないようにダイナとラヴィエは小声で話し合い、ダイナはこう言った。

「けどね、ジュナやエルニオくんたちは悪者じゃない、ってのは確かなのね。どうせならこう考えようよ。ジュナたちは悪者と戦いに行っていて学校に行きたくても行けない、って」

「うん、そうよね。そう考えていた方が私たちも気が楽になるしね」


 その日の夜だった。晩秋の空が琥珀色から紫、そして紺色に染まり雲が自然の月と人工月、星々を覆い冷たい風が吹き抜ける時――家々の灯りや公共私営問わずの建物、街の該当の灯りが消え、筒間鉄道(チューブライン)も終電になり浮遊車(カーガー)も夜はわずかしか走っていない、人も鳥も獣も虫も寝入っている頃だった。

 自宅の部屋のベッドにジュナが寝入り、ラグドラグもベッドに寄り添ってブランケットをかけて夢の世界にいる時、誰かを呼ぶ声が脳の中に響いていきた。

『おいで、おいで。ダンケルカイザラントに逆らう融合闘士(フューザーソルジャー)。今から私のいる場所にくるんだ。私がいるのはエリヌセウス上級学院の庭園。来なければどうなるかわかっているだろうね』

 その声を聞いてジュナは目が覚めた。相手の精神に自分の声を飛ばすテレパシーに気づいて。ベッドの近くにはラグドラグが起きて立っていた。

「ジュナ、今、俺の頭の中に声が聞こえてきて、『エリヌセウス上級学院に来い』って」

「わたしも……聞こえた。今は夜で誰も学校にいない。行かなきゃ」

「ああ、だけどもこのまま玄関に行かず、融合してから学校に行こう。十三歳の子が夜の街を歩いているのは御法度だからな」

 ラグドラグに言われてジュナはラグドラグと融合して、二人は白い光の柱に包まれ、ジュナは白竜(ヴィッテドーリー)の頭部・両腕・両翼・両脚・尻尾を持つ融合闘士(フューザーソルジャー)に姿を変え、天井の窓から外に出て翼を羽ばたかせてエリヌセウス上級学院に向かった。


 ジュナは徒歩なら十五ノルクロで行ける学校をわずか半分の時間で到着して、エリヌセウス上級学院の庭園に入った。ジュナたちにとっては八日ぶりに見た校舎は美しい造形を保っていた。その時、同じく相棒の融合獣と融合してやってきたエルニオ・羅夢・トリスティスが現れた。

「みんなも学校に来たの!?」

「ああ、家で眠っている時に声がしてな……」

 エルニオがジュナに返事をする。

「わたしもです」

「私も……」

 羅夢とトリスティスも答え、四人の融合闘士(フューザーソルジャー)が顔を見合わせていると、声の主が現れる。月明かりでかすかに見える一人の融合闘士(フューザーソルジャー)だった。

「来たね、お前たち」

 黒い毛に覆われ、爪と牙を持ち、牙獣族の融合獣と融合した女の適応者であった。三角形の耳に長い尾、目と左肩の契合石は金茶色でスラっとした細身にむき出しの口と二の腕と太腿は白い肌で毛色とは対照的になっている。いや正しくは黒い毛というより紫紺の毛色である。

「ようこそ。夜の学校へ。私はターニャ。融合しているのはトムファム。あなたたちを呼んだのは私。私の目的は言わなくても、わかるけど……何故学校(ここ)を選んだかわかる?」

 ターニャはからかうようにジュナたちに言う。するとエルニオが答える。

「学校を壊そうとしているのか!?」

「ご名答! ここはあなたたちの学校でしょ? 学校がなくなれば……、街中大騒ぎになるわよね。そしたら、あなたたちのせいよ」

 ターニャは四人に言う。ダンケルカイザラントはアルイヴィーナ星のどこにでも現れるが、本拠地は不明だ。ジュナたちが学校のみんなから糾弾されたことも知っているのもおかしくはない。

「だめ、学校は壊させない!」

 ジュナたちは契合石を手を当てて武器を取り出す。さらにターニャはフィンガースナップさせると、三体の白灰色の機械兵――インスタノイドを呼び寄せる。複眼と翅を持つ空中兵、上半身は人型で下半身が多足虫のように脚のある地上兵、両手にハサミ頭に触角を持つ甲殻類を思わせるような水中兵である。

「さぁ、やっちまいな!」

 インスタノイド三体はターニャの命令に従い、ジュナたちに襲いかかる。

「ジュナ、君は融合闘士(フューザーソルジャー)を!」

 エルニオがジュナに言った。それを聞いてジュナは頷いた。

「う、うん」

 エルニオは空中兵、羅夢は地上兵、トリスティスは水中兵と対決し、ジュナはターニャと対決することに……。


 ジュナは剣を持ち構えて、ターニャが出した三日月状の斬撃の群れから防ぐために彗星状の盾、彗星防壁(コメットバリアー)を出して防御する。しかしターニャは斬撃の群れに混じって気配を消してガラ空きのジュナの背中を狙い強く引っ掻いてきた。

「ああっ!!」

 その時ジュナは崩れ、ターニャはジュナに平手で殴り、更に両足飛び蹴りでジュナに攻撃してきた。ジュナは工程の地面に叩きつけられる。

「痛っ……。あの人と融合しているのは特殊型の融合獣みたい。素早いだけでなく、特殊能力も高いみたい……」

 ジュナはターニャと戦っている時にトムファムがスピード戦だけでなく特殊能力も高いことに気づいたのだった。

「ご名答。トムファムは猫(キテン)の融合獣で一般的な猫のように感覚が鋭いのよね。でも、もっと凄いのはコレ」

 そう言ってターニャはトムファムと波長を合わせて、近くにあった金属製のゴミ箱を宙に浮かせてそれを勢いよくジュナに向けてぶつけてきたのだ。

「ジュナーっ!!」

 エルニオ・羅夢・トリスティスはインスタノイドを何とか倒した後、ゴミ箱に叩きつけられて階段にぶつかったジュナを見て叫んだ。ジュナの体にゴミ箱が横転し、中身のプラスチックボトルや缶がコロコロと転がる。ジュナは仰向けの状態でけいれんする。

「あら、もう倒れちゃったの? 仕方がない」

 そう言ってターニャはインスタノイドのそれぞれのまだ使える部分を念力で集めて、身の丈一ゼタン半(三メートル)はありそうな機械兵を出す。

「ええっ、そんなの聞いてませんよぉ〜」

「どうやら彼女は幹部並みの強さを持つ融合闘士(フューザーソルジャー)だ。危ないっ、よけろ!」

 羅夢が合体機械兵を見て腰を抜かし、エルニオが踏みつけようとする合体機械兵から逃れようにと、他の二人に言った。ズシーン……、と合体機械兵の足音が響いて、砂塵が舞う。

「さぁーて、どうやって止めを刺そうかなー」

 ターニャが動かないジュナを見て考えていると、ジュナは起き上がろうとしたが、中々動かなかった。

(もしかして……、このまま負けちゃうのかな……。いや、学校にみんなにはいずれ、わたしやエルニオたちがダンケルカイザラントと戦っている理由を話して誤解を解かなければ……。そして、また学校に行って、そしてお兄ちゃんを探す。ここでとどまる訳にはいかない!!)

 するとジュナの体が白銀に光って、辺りを昼のように眩しく照らした。

「うわぁっ!!」

 当然エルニオたちやターニャもこの輝きにまぶたを閉ざした。しかし光は一瞬で消え、目が慣れてくると、エルニオたちは白銀の光に包まれ、超変化を遂げたジュナを目にしたのだった。

 超変化を遂げたジュナは白竜の頭部・翼・尾・脚・爪の部分に金色のディティールが走り、頭部の角が四本になり四肢の爪先は金色になり、白銀と黄金、どちらも最高の金属を持ったような姿になっていた。

「ジュナも超変化を遂げた……」

「や、やりました! ジュナさんも超変化を遂げる、って信じてました!」

「一時はどうなるかと思ったよ……」

 エルニオ・羅夢・トリスティスはジュナの超変化形態を見て感心し、気を取り直して合体機械兵に立ち向かったのだった。

「これが我々ダンケルカイザラントの求めていた融合獣強化の秘伝の結果……。だが変わったのは見かけだけなのでは、ターニャ?」

 ターニャと融合しているトムファムが彼女に尋ねてくる。

「そうよね、見掛け倒し、ってこともあるわよね!?」

 そう言ってターニャは両手から計一〇枚の三日月状の斬撃を出し、超変化ジュナに向けてきた。一方ジュナは自身の超変化を体や精神で感じ取っていた。

「力が……全身に伝わってくる……。はあっ!!」

 超変化ジュナはターニャが投げつけてきた斬撃を左手から流星のように竜型のエネルギーを飛ばす昇龍天星閃(ティンクルスターパクル)を撃ちはなった。放ったエネルギー弾は白ではなく金色で、竜型エネルギーは上昇して上空で五方に散ってターニャに降り注いだ。

 ターニャは身の危険を感じると念力で石畳を持ち上げて盾にしたが、超変化を遂げたジュナの技は強力でエネルギー弾は石畳の盾を粉砕し、ターニャはこの攻撃を受けて石畳の取れた地面に叩きつけられる。

「ぐはっ」

 闇属性でしかも念力も使える融合獣と融合しているとはいえ、ターニャもファムトムもダメージを受けた。

 そして更にジュナは剣から無数の流星、この時は金色の流星を放ち相手に急降下に向けて放つ、流星群拡散輝(メテオルガナイブライド)を止めとして発動させたのだった。眩しい閃光がターニャに向けて放たれ、ターニャとその周辺の地面や石畳は衝撃を受けて暗闇の夜を激しく照らしたのだった。

 そしてエルニオたちも竜風昇拳・双(ダブル・テンぺスターブロークン)と梅花爆(ブルーメンボンバティエ)弁と渦潮刃撃斬(スクリューイング・ブレッジ)で合体インスタノイドは赤い炎と黒い煙を出して爆ぜたのだった。

「や、やっと倒せた……」

 エルニオたちは体力限界ながらもようやく敵を倒せたことに安堵し、ジュナのいる方向へ目を向ける。そこにははがれた石畳のあった地面に転がる黒い服に紫のソバージュヘアの女と紫紺の毛色の身の丈四ジルク半の猫型融合獣が仰向けに倒れており、ジュナもラグドラグと分離して、ラグドラグがジュナの体を支えていた。

「ジュナ、大丈夫!?」

 エルニオたちがジュナに駆け寄る。

「うん……。結構力の消費が激しくって、疲れただけ……」

 ジュナはみんなに言った。月明かりでうっすら見えるとはいえ、バラバラになったインスタノイドの破片や地面がむき出しの箇所に粉砕された石畳がはっきりと残って見えるのがわかった。

「もう学校には行けないね……」

 ジュナが目の当たりを見て呟く。

「近くの住民や警察が来る前にここを出よう」

 エルニオが判断してトリスティスがジュナの両肩、羅夢が融合闘士(フューザーソルジャー)のままジュナを担いで学校を去っていった。