3弾・1話 融合闘士闘技会(フューザーソルジャーズコロッセオ)


 碧空の空に白金の太陽がギラギラと照りつけ、積乱雲が浮かび上がり、ムシムシする暑さのエリヌセウス皇国は真夏に入っていた。街歩く人間たちは皆薄着や半袖やノースリーブの服を着、麦藁帽子やメッシュ布地の帽子を被って日射病を避けたり、商店街や住宅街では店主や家主が門前に水をまいたり、庭やベランダで行水して暑さをしのいでいる。樹木には夏しか見られない虫蝉(シカド)が七年前後の地中内での幼生期間を這い出て、鳴いている。街中の花壇では蝶(ピレクレオ)が花弁のような翅を舞わせ、ストローのような口で花蜜を吸う。

 エリヌセウス皇国の夏の教育機関は七月開始と同時に夏季休暇に入り、二ヶ月後の新学期までお休みである。但し、七月の終わりに登校日がある。夏休みはみんなで国内外の家族旅行に行ったり、家の手伝いや親の家業を助けたりと予定が入っている。もちろん夏休みの宿題もあって、学科ごとに出る宿題が異なるため、苦だったり楽だったりする。

 エリヌセウス皇国エルネシア地方ラガン区五番街の中にある丸いドームと長方形が組み合わさった灰色のブロック造りの施設、ラガン区立スポーツセンター内。その内部のトレーニング室にジュナはいた。

 ジュナはスポーツセンター内では黄色のハーフトップと黒い丈短のスパッツ、ルーズソックス、編み紐運動靴をはいて、ルームランナーを走っていた。明褐色のサラサラの短髪は汗でべたつき、中間肌は汗でぬれ、大きめの金色の瞳は真っ直ぐ向いている。速度を一段階ずつ上げることで足元のロールが加速して、足腰を鍛えられるのだ。とレーニン着室は他にもバーベルや腕力を上げる機器、座って足腰を鍛える機器といろいろあった。羅夢はいつもの和衣ではなく薄桃色のTシャツと青い短パンとジュナと同じ靴下と靴、白群のセミロングヘアをツインテールにし、自転車に似た機器に乗りながら足腰を鍛え、エルニオはプラチナの髪とは対象の深緑色の吸水地のヘアバンドを巻きつけ、黒いTシャツと白い化学繊維のハーフパンツと運動靴を身につけ、他の来訪者と一緒に体を支えるポールが壁に備えられたダンス室でエアロビクスをしていた。トリスティスは青い水着と白い水泳帽を身につけ、競泳用プールでクロールしていた。

 彼らは夏休みに入って間もなく、毎日のようにスポーツセンターに通っている。それには深い理由があったからだ。

 一ヶ月前、謎の組織ダンケルカイザラントが『集いの家』の孤児たちをさらい、そこのボランティアに来ていたジュナたちはみんなを助けるため融合獣と共にダンケルカイザラントの連中と戦い、苦戦を強いられた。その時は謎の融合闘士とジュナの新技のおかげで何とか助かった。その後は臨時秘密基地が爆破を起こしそうになった時、謎のキリが出てきてジュナたちと人質の子供たちは眠りこけてしまい、目が覚めると他地方の病院の中にいたのだ。みんな生きていいて良かったけれど――。

 病院に入院している期間、四人は考えた。四人はダンケルカイザラント連中に目をつけられ、これからいくつも苦難が待ち受けていると想像したのだ。そしたらみんなも強くならくちゃいけない。

「まさか、これから毎日鍛錬しなくちゃいけないんですか? 学校や家の手伝いもあるのに」

 羅夢は桃色の瞳を三人に向けながら言った。羅夢は秋からジュナたちと同じエリヌセウス上級学院に通う。家も反物屋だし、クラブや委員会もある。

「あたしも家が料理店だし、それに結果も出せぬままひたすら訓練ってもな〜」

 トリスティスが肩を落としながら息をつく。

「いや、今日の新聞の広告の中にこれを見て、思ったんだ。訓練の結果はここで出せばいい」

 そう言ってエルニオはその日の新聞の中に掲載されている記事の隣にある広告を出した。

 広告には闘技場と二人の戦い合う融合闘士の写真、真ん中に大きな字が赤く書かれていた。

『融合闘士闘技大会(フューザーソルジャーコロッセオ)』

「何これ? こんなのがあるの?」

 トリスティスが水色の眼をまん丸くしてエルニオに訊ねる。

「わたしも初めて知った」

と、ジュナ。

「わたしもです」

と、羅夢。

「この大会は融合獣と融合適応者なら出られる格闘大会で、老若男女問わずに出場できる。主催地はこのガイアデスの最北部にあるプルデスランドで行われるそうだ。アウローラ号で行って、国外通行証を持っていけばいいさ」

 エルニオが広告を見て説明する。

「エルニオ、もしかして三年前に出場したことあんの?」

 トリスティスが訊くと、エルニオは首を横に振る。

「いや、三年に一度だよ。今年がその二十五回目で七十五年間続けられてるんだ。まあ、全国の夏季と冬季のオリンピックは四年に一度だけど、融合闘士のオリンピック版だね」

「そうか、ここで訓練の成果を発揮すればいいんだね!」

 ジュナが叫んだ。そして四人は格闘大会への出場を決め、八月半ばの出場機関に間に合わせてそれまでのスケジュールを決めた。

 夏休みの午前中は宿題や家の手伝いをし、午後からはスポーツセンターの各所で体力訓練。水泳やトレーニングマシンの他、アスレチックや室内グラウンドでジョギングといった設備があるため、訓練には困らなかった。

 でも、訓練ばかりだと疲れてしまう。週に二、三回だけ休日を設けて、映画を見に行ったり、買い物に行ったり、家でゲームや昼寝をしたりなどといった息抜きも必要である。ジュナも学校での友達、ラヴィエネックとダイナ・タビソとも買い物に行ったりスイーツを食べ放題や遊園地にも行った。

 週末では融合獣との共同訓練もあった。ピーメン川の土手で組み手である。組み手をすることで融合獣との共鳴を高め、能力を上げるというメリットもあった。

「ただいま〜」

 ジュナは夕方には必ず帰宅し、母親の作ったご飯と自分とラグドラグの三人で食し、その後は入浴、そのままベッドに直行である。

 お風呂から出て、自室に行こうとするジュナを見て、母親は声をかけた。

「ジュナ、あなたがラグドラグと融合しているからって、別に大会に出る必要はないんじゃないの? もう三年待った方がいいとママは思うわ。まだ十三歳だし……」

 仕事用のビジネスドレスから部屋着のゆったりしたロングワンピースに着替え、千歳翠の髪を無造作にアップした母親が白とオレンジのパジャマに着替えたジュナに言った。

「ママ、これはあくまで挑戦だから。もし予選で終わったら、すぐ帰ってくるから」

 ジュナは笑って居間を通じてダイニングにいる母親に返答すると二階の自室に戻っていった。部屋に入ると、そのままベッドにダイビング。

「ジュナ、お疲れさん」

 ジュナの相方で白い竜の融合獣、ラグドラグがブランケットをかぶせてくれた。

 瓦屋根と障子の家が多い和仁族居住区セラン区の反物屋の二階にある畳と床の間と押し入れのある羅夢の自室。羅夢は特訓のあった日の夜は寝る前に小さな桃色の長耳長しっぽの融合獣、ジュビルムにマッサージしてもらっていた。

「あ〜、気持ちいい〜」

 簡素な寝間着に着替え、布団の上でうつ伏せで寝ている羅夢の背中で、ジュビルムが踏んでくれていた。

 ピーメン川のほとりにあるアガン区のトリスティスの家の料理店『潮風』の一番上の階はトリスティスの自室。壁に設置された本棚とロフトベッドとクローゼット、壁の上半分は白くて下半分はこげ茶色、こげ茶色のフローリングには極彩色のラグが敷かれ、トリスティスはロフトベッド、相方の水色の剣魚(ソルディッシュ)型融合獣ソーダーズはそのしたスペースで寝ていた。

 レメダン区の中にある大きな敷地内の研究所の片隅にある屋敷のエルニオの家。エルニオはバスルームでうつらうつらと眠りそうになって、目を覚ました。

「強くなる、って決めたけど……、もう少し訓練時間へらさにゃ……」

 そして八月に入り、大会当日の早朝になるとみんなは家族と別れて、エルニオが操縦する小型機動船アウローラ号に乗って、大会のあるプルデスランドへ旅立っていった。上空にはアウローラ号の他、様々な形や大きさや色の機動船が飛んでいた。みんな旅行やイベントなどで出かける者たちだ。

「……何かみんな、わたし達と同じ方向に向かっていない?」

 生成り色とえんじ色の丸みを帯びた小型機動船、アウローラ号の機内のジュナが窓からおびただしい数の機動船を見て呟いた。ジュナはリゾート地に行くような服装、黄色いノースリーブワンピースと紺の七分丈パンツと革サンダル、明褐色の髪には幅太の黄色いヘアピンという大会の出場者というよりは観客の雰囲気である。

「そういやあ、そうねえ」

 コックピットの左席に座るトリスティスも言う。トリスティスも観客を思わせるような服装で、長い薄紫の髪をコバルト色のシュシュでポニーテールにし、同じ色のきゃみドールチュニックと白い薄手のパンツと紺色のサンダル、むき出しの肩からは水棲人種(ディヴロイド)の証である白い肌と青い三本線が入っている。

 さて、融合闘士闘技会(フューザーソルジャーコロッセオ)だが、オリンピックや各スポーツの公式大会や主催地は電脳情報(サイバーネット)網の公式ホームページに載るのが普通だが、融合闘士闘技会(フューザーソルジャーコロッセオ)では公式ホームページというものがなく、アナログ的に新聞や情報誌の広告として発表される。これは公の噂だが、融合獣の存在そのものが稀有だからと云われている。もしかしたら十年近く前までは公式ホームページがあったけど、ダンケルカイザラントのせいでアナログ発表したのかもとも四組は思ったが実際のところは不明である。

「えーっと、パンフレットによりますと、融合闘士闘技会(フューザーソルジャーコロッセオ)では賞金はトロフィーと優勝二十ヴィーザが与えられるそうです。五位までは賞品と副賞が来て、敗退者でも三シュアの金券がもらえるそうです」

 メンバーの中で一番幼く、和仁族の宗樹院(そうじゅいん)羅夢(らむ)が言った。羅夢はくせのある白群の髪を後ろでシニヨンにし、背中が大きく空いた薄桃色と濃紅色のグラデーションのノースリーブ和衣と明るいピンクのチューブトップと同じ色の半丈袴と若葉色の足首帯の草履といういつもより少し大人っぽい姿である。尚パンフレットは出場申込みの返信書類の付属である。

 申し込みの方法は至って簡単。出場者の顔写真と融合獣の写真と身長や体重などの個人の記録を記入漏れされてなければOK。但し、持病や重病や薬物や酒の中毒と言った者があれば参加は出来ない。

「ここにいるみんな、通れてよかったですねぇ」

 羅夢のひざの上でジュビルムが言った。プルデスランドへ向かっていくアウローラ号や他の機動船はいろいろな街や田畑や森林や山や川や湖を越えて、西に伸びた半島に街が建てられた国、プルデスランドへとやって来た。

「みんな、着いたよ。ごらん、あれが闘技場だ」

 アウローラ号を一時間以上操縦していたエルニオがみんなに言った。上空から見た街の中に慎円状の白い建物。中心が大きく空いており、白い輪のようである。ここで大会が開かれる。


 アウローラ号はコロッセオ近くの巨大機動船停泊スペースに泊めた。アウローラ号の他にも大中小様々な型や色の機動船が停泊しており、中からぞろぞろと獣型や鳥型や魚型などの融合獣や寒方人種や暖方人種などの融合適応者とその身内が停泊場の真っ白い天然瀝青の地に足をおろした。

 一行が空を見上げると、空は少し明るい碧色で、雲も山のような入道雲と白金の太陽があり、エリヌセウスより涼しい風が吹くためそれほど暑くはなかった。

「うひゃー、気持ちいー」

 ジュナは両手を上げて風に当たる。

「ほんと、凄い綺麗なとこ! 木や草もいっぱいあるし、建物の白いのが多い!」

 トリスティスが停泊場とコロッセオ近くの街の木々や三角や四角の外観に外の円柱が設けられた建物を見る。

「間近でコロッセオを見るとすごいですよ!」

 羅夢とジュビルムが背伸びと顔上げを同時にし、コロッセオを見る。コロッセオは三階建てで円の外には無数の黒い窓がシールのように付いている。

「アウローラ号のエンジンも切った。施錠(ロック)もしたし、荷物も全部出した! じゃあ、コロッセオへ行くか!」

 そう言ってエルニオは自分の荷物である銀灰色の金属製トランクを持った。エルニオは深緑の軍人(アーミー)ジャケットと黒いアンダーシャツとカーキのワークパンツという軍人靴(アーミーブーツ)という普段のフォーマルカジュアルとは対照的な格好である。後ろからかれの相方融合獣、緑鳥のツァリーナがついてくる。ジュナたちもそれぞれの荷物のリュックやバッグを持って、闘技場へ。

 プルデスランド・リレンル闘技場の中の広さも驚くほどのスペースであった。大人五人が手をつなげられるほどの太さの支柱がずらりと並び、天井も四、五ゼタン(八〜十メートル)はあり、壁は白、支柱も白くて礎が赤く、床は明るい緑のヒスイでできており、天井の灯りは花びら型のシャンデリアがいくつもぶら下がり、たくさんの人間や融合獣が大会出場者と観覧客の列に分かれている。しかもご親切に赤い字で大会出場者、青い字で観客の立て札があった。それもアルイヴィーナ内共通のアリゼウム語だ。四組は赤い文字の立て札のある行列へ行き、大会出場登録をしに。ジュナや羅夢は改めて大会に出場する融合適応者と融合獣を見てみる。ガタイのある大男や浅黒い肌の僧侶、長身でスリムだが鍛えている色白の美女……。融合獣も五ジルク(五十センチ)に満たない小さな融合獣や適応者よりも大きな融合獣、翅のある者、ヒレのある者、角のある者、体の色も契合石の色も個々によって違う。

(これから、ここにいる人や融合獣たちと対戦するのかぁ……)

 ジュナは怖いようなこれを機に仲良くなれそうな相手がいるのかもという興味の感情が合わさって、生唾を飲む。

 するとその時、何台もののテレビカメラとつり下げ式録音マイクなどの機器や、男女のレポーターが幾人も現れて、マイクを出場選手たちに向けてくる。

「あのー、こちらテラノテレビです。一言どうぞ」

「ギガロテレビです。あなたの出場動機は?」

と、ぞろぞろ寄せてくる。出場希望者はカメラに向けてピースサインをしてきたり、手を振ったり、黙々と簡単なインタビューに答えたりとしてくる。すると亜麻色のボリュームウェーブヘアに水色の眼に白い肌、淡い緑色のスーツを着た女性レポーターがジュナにマイクを向けてきた。

「お穣さん、インタビューお願いします!」

「ええっ!? わ、わたし!?」

 突如マイクを突き付けられてしかもカメラがこっちを見ていてジュナはうろたえる。

「ジュナ、落ち着けって。言われた通りに答えりゃいいんだから!」

 ラグドラグがフォローする。

「出場は今回何度目ですか?」

「あっ、あの、今回が初めてです……」

「出場動機は?」

「え、えーと、ここにいるラグドラグとの……特訓成果を……」

「今回はお一人で来訪ですかぁ?」

「え、ええと、他にも友達が……ってアレ?」

 ジュナは前方が約二十人分空いているのに気付き、後ろの参加希望者が「早くしろよ」の目を向けていた。

「すすす、すみません! 後がつっかえているので!」

 ジュナはレポーターと後方の連中から逃れるために、急いで前方に走っていった。もうすでにエルニオたちは大会の出場登録を済ませており、ジュナはカウンターで大会の出場登録を急いでやった。申し込み場のスタッフは女性でベビーブルーのベストスーツに白いシャツ、左腕には藍色の腕章をつけている。

 ジュナは本人を証明する身分証明書である個人保険証と大会出場許可証を見せた。ジュナの住んでいる国、エリヌセウス皇国を初めとする国の多くは、各個人に保険証などの身分証明書が発行される。

 スタッフは登録機にジュナの保険証と出場許可証をカードスラッシャーとサイバーコードのリーダーで読み取り、画面にジュナの顔写真と国籍などのデータが映し出され、その後に「OK」の赤い字が出る。それが終わると、ジュナに保険証と許可証を返す。許可証には〈084〉の数字が赤く上書きされている。

「手続き終わりましたよ」

「はい。ぐずぐずしてすみません」

 ジュナは書類を持つと、カウンターから離れ、みんなを探した。探していると、ワンピースのポケットに入れていた携帯電話が鳴り、開いて画面を見た。

『みんなで一階のフードコートにいます。ジュナがもたもたしている中お昼になったので、ご飯を先に食べます』

「……なんじゃそりゃ。みんな、ずるいよ」

「インタビューに答えていたジュナにも落ち度はあるぞ」

ラグドラグが呟くのも耳にせず、ジュナは建物内のフードコーナーへと走っていった。

「おい、ちょ、ジュナ!」

 ラグドラグがジュナを追いかける。

 闘技場内のフードコートは柱の礎に設けられたカウンター席、角が丸い四角の四人席や六人席には観客や大会出場者や融合獣が席について頼んだ食事をとっていた。フードコートには定食屋や和仁料理店や南方料理店などの十の店があり、各々の店の食券を買ってカウンターの店員に渡し、冷凍庫から冷凍された料理を高熱オーブンに入れて高速解凍して作りたてと同じ状態で出してくれるのだ。ジュナはラグドラグに海鮮炒め飯、自分はスナックショップで買ったクタオー(タコ)焼きとソース焼きバオスとストレートティーを買ってきょろきょろとみんなを探した。

「あっ、ジュナちゃん、ここ、ここ」

 トリスティスが柱に席があるカウンターから手を振った。

「や〜っと見つけたぁ。みんな、わたしを置いていくなんてひどいよ」

 ジュナはむくれながらカウンター席の一つに座る。

「めんご。でも先に席取っておいたからと思ってよ」

 ツァリーナがホールだー(サンドイッチ)を食べながらジュナに言う。ジュナはラムの隣に座り、ラグドラグがジュナの隣に座る。ジュビルムは果物サラダと卵サラダを器から野菜や果物をとって食べ、羅夢は和仁料理のひとつ七種の天ぷらバオス(そば)を食べ、芋天と海老(シュリプロ)の天ぷらをほおばっている。トリスティスは透明なめん料理を鳥肉入りスープを食べており、ソーダーズは豆(ビーニー)のホクット(コロッケ)を食べ、エルニオは白米(ヴィッテリッケ)と淡水魚の辛味炒め揚げを食べている。

 ジュナが買ったクタオー焼きには茶色のソースと白いマヨネーズと青のりがたっぷりかかっており、焼きバオスもソースと青のり、赤いコマ切れのジンガがかけられている。

「ジュナさん、どうして地元でも食べられるものにしたんですか……」

ソーダーズがジュナのトレーを見て訊ねる。

「時間なかったのよ。それに今日無性にクタオー焼きが焼きバスオが食べたくなっちゃって……」

「あー、それ何となくわかります」

 羅夢がかけバオスをすすりながら答える。彼女が食べている薄茶色のバオスは羅夢の故郷。暁次国ではメジャーな食べ物で、もちろんエリヌセウスでも食べれることができる。

「さてと、食べて開会式に間に合わせなくっちゃ。いただきます」

 ジュナはプラスチックのエコロジーはしで焼きバオスをすすり、プラスチックのつまようじでクタオー焼きを一、二個刺して食べた。クタオー焼きは球状で粉と水と調味料を混ぜて練って、中に細切れにしたクタオーを入れて丸い型に入れて焼いた食べ物だ。但し、これはジャンクフードで栄養は偏るが、腹にたまる。するとフードコート内の出場選手や融合獣が次々と出ていく。ジュナたちも昼食を食べ終えると、トレーとはしとつまようじを各店舗の返却場において、昼九時半の開会式を行うグランドへ向かっていった。


 巨大な円の中心のグランドには、様々な人種の融合闘士やことなった姿形や大きさや属性の融合獣が集まっていた。客席も彼らの友人や家族や親せきといった人物やその融合闘士のファンも来ていた。中にはおそろいの鉢巻きと法被を身につけた者もいる。

「こんなに来たのかよ! みんな、何が目当てなんだ!?」

 ラグドラグが出場者の多さを見てジュナに言う。

「しょ、賞金とかチャンピオンとの対戦じゃないの? 単純に」

と、ジュナはラグドラグとはぐれないようにしっぽをつかんでいる。ところがエルニオは年上の女性融合闘士に話しかけられていたり、トリスティスは同族らしい水棲人種の若者にナンパされたりとえっちらおっちらであった。

「ぼく〜、かわいいわねぇ? いくつ? どこから来たのぉ?」

「彼女ー、ディヴロイドだね。もし良かったら俺と付き合わない?」

 どうやらこの大会がきっかけで友人同士になれたりカップルが生まれたりするようだ。

 その時、闘技場内のスピーカーが音を発し、開会式の音楽が流れた。アンダンテ調の交響曲である。それを聴くとみんな一斉に黙り、壇上を見張る。その時、大会の主催者らしい薄茶色のふさふさヘアに口ひげ、白い肌に薄青い色の目に黒い礼装の駐労の男性が出てきた。

『みなさま、第二十五回フューザーソルジャーコロッセオ・プルデスランド大会にようこそ。私は四代目大会主催者のガンダンツ・モンクといいます。出場者諸君、君たちが戦うのは金か名誉か己の実績か。それとも三回連続チャンピオンの相手か』

 モンク氏はマイクを持って、格闘大会らしいあいさつをする。

「チャンピオン? どんな人なんだ?」

 エルニオが腕組をする。するとさっきのお姉さんが答える。

「フリージルド・クロムさんよ。十代の頃、最年少で優勝してそれ以来三回連続チャンピオンの座に留まっているの」

「はぁ……」

 するとその時、大会スタッフの若い男性が走って来て、モンク氏に耳打ちする。傾向グリーンのパーカージャケットにデニムと運動靴である。

「は? 何? うむ、わかった」

 モンク氏に耳打ちしたスタッフは報告を終えると、そのまま去っていった。

『あー、ここでアクシデントが入りました。チャンピオンのクロムですが、ちょっとトラブルが起きまして、この開会式に到着が遅れるようです』

 モンク氏が観客と出場者に伝えると、ブーイングやシャウトが出てきた。

「何があったんだろ? 事故……じゃないよね?」

 ジュナが心配そうにする。予定ではチャンピオンのクロムという人物は開会式であいさつするつもりだったらしい。

『えー、静粛に。今回一〇〇組の融合闘士の中から本戦に出られるのはほんの九組。予選で生き残った九組が明日からの本大会に出ることができ、更にチャンピオンを含めた十組が戦い合って、最後に勝ち残った者がチャンピオンになれます』

 モンク氏が大会ルールを説明すると、更に選手たちにグランドの端に寄るようにと呼びかけた。その時、ゴゴゴゴ……という音がしてグランドの内側から大きな穴が開いて、そこから巨大なものが出てきた。

 それは楕円型のドームに西側に入り口、東側に出口がある。

『みなさん、これが予選を決める巨大迷路〈幻惑の迷路(イリュージナル・ラビリンス)〉です! 先に出た九人が予選通過となります!』

 モンク氏は出場者に説明する。

『更に迷路の中には様々なトラップやクイズが出てきます。それを答えられなかったり、乗り越えられなかったら敗退です。

 そして融合獣とのコンビネーションも試されます! 皆さん、融合してください!』

 一〇〇組の出場者たちは各々の相方融合獣と融合し、光や稲妻や吹雪やらが出てきて、一〇〇人の融合闘士が現れた。

 ジュナは白い竜人のような角と翼と爪と尾を持つ姿になり、エルニオは翠玉色の羽毛と金色の翼と尾羽と嘴と蹴爪を持つ鳥人の姿に、羅夢は桃色の長耳長尾の獣人のように、トリスティスは水色のシャープな各部を持つ魚人の姿に。他の融合闘士も翅や職種や爪や牙などの様々な特徴を持つ姿になる。

『それでは……予選開始っ!!』

 アナウンスの声と共に融合闘士たちが〈幻惑の迷路(イリュージナル・ラビリンス)〉の中に入っていった。

 果たしてジュナと仲間たちは、予選を通過できるのか……。