2弾・8話 救出!!


 エリヌセウス上空二〇〇ラヴァン(三〇〇キロメートル)――。上空から見たエリヌセウスの街並みは木や山は黒く見え、その中に赤や黄色や白の街灯がともっており、地平線と水平線の間から見れば、星空が二つあるように見える。とはいっても、下は地上の星空に対し、上の空は厚い黒雲に包まれ、月も星も人工月も見えない。その中を走る一体の小型機動船アウローラ号が速く飛んでいた。生成りと臙脂の機体は十人までが乗れる機動船で、中のコクピットにはエルニオとツァリーナ、トリスティス、羅夢が操縦している。

「ねえ、もっと速く出せないの!?」

 後ろの席に座っていたジュナがせかした。

「わかっているよ! でもこの速度が精いっぱいだ!」

 エルニオが操縦しながら言う。ダンケルカイザラントに連れ去られたケティや『集いの家』の孤児たちを助けるため、ジュナたちはアウローラ号でダンケルカイザラントのあとを追っていた。

「それにしても……、どこにあるんだ? 奴らの隠れ家は」

 アウローラ号はピーメン川を越え、国境の草地と平原を超え、東隣国ラムデウス国へと入っていった。といっても国境には町も民家もない数種類の木々とそこに棲む鳥や獣ぐらいしかおらず、面々も半ば諦めかけていたが、目の前に大きな岩山の絶壁を見つけた。

「うおっと!」

 エルニオは絶壁に危うくぶつかりそうになるのを免れ、高く上昇した。岩山の頂にアウローラ号を浮遊停止させ、レーダーとホログラフィと暗視カメラを作動させる。その時、三つとも全て反応をつかみ、レーダーには人物の現在地を示すオレンジの点が輝き、ホログラフィで姿をカモフラバリアで保護して夜空に溶け込み、暗視カメラで周りの様子を調べる。カメラモニターを見て、エルニオとジュナたちは怪しい者がいないか調べた。

「おや」

 エルニオが画面の左端に映った謎の細長いものを見つけて呟いた。すると次には二枚の翅を生やした虫のようなものが出てきた。大きな複眼、ほそっこい六本の手足、蠅(ブーリ)のようなロボットである。

「ははあ、こいつは見張り役なんだ。ってことは、この近くにケティ達がいるってことね」

 トリスティスが言った。

「みんな、行くよ」

 ジュナがみんなに言った。

 

その岩山の中の洞窟内。高さも広さも十ゼダン(四十メートル)はありそうな広い洞窟には上や下に尖った岩がいくつも連なり、その奥に巨大生物用のオリ、更には二十四ゼタン

のモニターとモニターの操作盤がある。そのモニターの前にいるのはダンケルカイザラントの幹部、ユリアスガルヴェリア、マレゲール、その融合獣のヴォルテガ、レノアリス、マレゲールと融合する融合獣オーガジェ。オーガジェは左巻きの乳白色地に赤紫の斑が入った殻と古代紫の無数の触手と縦に裂け目状の口、灰色の眼と額に灰色の契合石を持った甲殻生物型融合獣である。更に彼らの後ろには十人ほどの男女が立っており、顔や身長や体格は違うものの、全員黒いアンダースーツに白い兜と鎧の防具を身につけ、左手に光線長銃を持っている。

「お姉ちゃん、怖いよぉ」

「おうちに帰りたいよぉ」

 子供たちはめそめそと泣きながら、ケティにすがりついている。

「だ、大丈夫よ、みんな。きっと警察の人や軍の人が助けてくれるから……」

 オリの中で子供たちが泣いているなか、ユリアスはモニターに向かってダイロス総統と話していた。但し、モニターでもシルエットと声しかわからず。

「ダイロス様、マレゲールとわが軍の人間(ゾルダ)兵士(ロイド)が見事、孤児を回収してまいりました」

『うむ、御苦労。今そちらに孤児を回収させる運搬機(カーガー)を送らせておいた。お前たちは暫く待っていろ』

「御意」

 ここで通信アウトされ、モニターに波が入ったのち、画像が消えた。

「さーてと、子供たちを連れ去ることにできたのはいいけど、うるさいわねぇ」

 ガルヴェリアが背伸びをしながら、ユリアスとマレゲールに言った。

「仕方がない。安全な孤児院からこんな場所に連れてこられたのだからな」

 ユリアスが岩柱によっかかりながら言う。

「……暫く、ってどれくらいだ?」

 マレゲールが少し間をおいてから言った。

「暫く……って、どーせ半日いないでしょ。んな、細かいこと言うことないじゃん」

「そうだぞ。世の中の数字はあくまで平均や一定だ。少しぐらいの前後のずれなんか」

 ガルヴェリア、ユリアスがマレゲールに言う。その時、ヴォルテガがユリアスに言った。

「それよりもユリアス、俺ぁ、暴れたいんだよなぁ。ヒマでヒマで、どーしようもねぇ」

「ヴォルテガ、あんた喧嘩好きは治らないの? まあ、牙獣族なったからかもしれないし」

 レノアリスが言った。

「同意」

 オーガジェが重い死体を引きずるような声で答えた。幹部たちが駄弁しあっている時、モニターの隣にあった警報が激しく鳴った。

 ビーッ ビーッ

「な、何だ!?」

「ユリアス、様子見てちょうだい!」

 ユリアスがガルヴェリアにせかされて、モニターで外の様子を見てみると、見張り役のダンケルカイザラントのロボット兵、インスタノボットの数体が破壊されていたのだ。インスタノボットは地をはう蟲の多足蟲型と翅虫型の二種複数体を見はらさせており、体はモノトーンで、翅蟲は足が六本、地はい蟲は足が一〇〇本あり、みんな翅がもげ、体をバラバラにされ、千切れた足からはコードが出て、バチバチと火花を立てていた。

「い、一体、誰がこんなことを……!?」

 幹部たちが驚いていると、ザッという足音がして、洞窟の入口に幹部たちは目を向けた。

「見つけたよ、みんなを返して!」

 それは融合獣と融合したジュナたちであった。みんな武器を持っている。

「来たのはお前たちか……、たった四人、いや四組で何ができる?」

 あざけ笑うようにユリアスが言った。

「悪いけど、この子たちはダンケルカイザラントの人材にするの。簡単には帰さなーい」

 ガルヴェリアがガキ大将風に言う。

「お前たちは、どうして助けに来た。こいつらとは何も関係ない筈だが」

 固い表情のままマレゲールが言った。

「確かに……、わたしたちは『集いの家』のみんなとは関係ないよ……。でもケティにはお父さんと離れて暮らしていたお母さん、その二人の間に生まれた弟と妹、他の子たちには少し先の未来に新しい家族。みんなから帰る家や親兄弟、自分で決めた悔いのない未来を奪わないでほしいんだもの!!」

 ジュナはユリアス達に叫んだ。

「フフッ!! 父親っても、継父で弟妹ても異父姉妹なんでしょ!? 〈血のつながりよりも心のつながり〉なんて、そんな綺麗事はくだらないわよ!」

 ガルヴェリアが吹いた後にあざけ言う。

「自分の目的のために何人ものの人間を傷つけ殺したりするあんた達が言えることじゃないよ!」

と、トリスティス。

「ジュナの言っていることは正しい! お前たちのいう理想や幸福がどんなものかは知らんが、他人に強要させんな!」

と、エルニオ。

「わたしも……シンボーたまりません!」

と、羅夢。

「フンッ、我々ダンケルカイザラントに四度も刃向かうとはな。少し痛い目にあわせた方がいいかもしれぬな。ヴォルテガ!」

「おう、ユリアス」

「レノアリス」

「はいな」

「オーガジェ」

「承知」

 三人の幹部とその融合獣が歩み出てきて、ジュナたちの前に立ちふさがった。

「融合発動(フュージング)!!」

  ユリアス、ガルヴェリア、マレゲールが言うと、ユリアスとヴォルテガは闇に包まれ、ガルヴェリアとレノアリスは砂塵に包まれ、マレゲールとオーガジェは凍り風に包まれ、融合した姿を見せた。

 黒と白の割合が七対三で爪と牙と瞳と左肩の契合石が血のような赤さを持つ獣人姿のユリアス、触覚と複眼を頭部に持ち、白い素肌の下に赤銅の鎧をつけたような姿をしたガルヴェリアは背中の契合石と複眼と下の眼は深緑で腰に蟻(ティノピア)の腹のようなパーツをつけている。マレゲールは古代紫の素体に頭部と腕と腰と胸に白地装甲、両肩に丸い貝を二つに割った装甲がついており古代紫の無数の触手、額に灰色の契合石が輝いている。

「これがダンケルカイザラントの幹部の融合闘士(フューザーソルジャー)の姿……」

 ジュナは三幹部の姿を見て、恐れおののく。


 幹部たちの前に先程の十人の白い機甲の人間たちが現れた。みんなジュナたちの方に光線長銃を放ってきた。レーザーは真っ直ぐ薄黄色い光を放ち、ジュナとエルニオは羅夢とトリスティスを持ち上げて上によけた。その時、レーザーの当たった岩盤が大きな塊から粉々の掌大の石に砕け散ったのだ。

「おい、マジかよ……」

 ラグドラグはレーザーの威力を見て震える。また下からレーザーが放たれて、今度は天井の岩柱が当たり、ばらばらと降ってきた。グワラ、グワラという音と共に、土煙が発生した。

「フフフ、どうだ我が兵士、人間兵は。体に支障がある者たちをダンケルカイザラントノ科学力でサイボーグ化し、戦闘力と感覚を上げたのだ。あっさりとやられるとは……」

 ユリアスが言った時だった。岩の瓦礫の中から丸い太い糸玉が出てきて、その塊がほぐれて、中からジュナたちが出てきたのだ。

「数多蔦の壁(ヴァンティンス・ウォール)で防御しました。大丈夫ですか?」

「ありがと、羅夢……。さっさと倒して、帰るよ!!」

 ジュナが言うと、三人は頷く。その時、ゾルダロイドが奇襲をかけてきて、両腕の機甲からナイフを出し、四人に斬りかかる。

「くっ!」

 トリスティスの頭部からはみ出た髪の毛の先が指一本分ぐらい切れてハラハラと舞った。

「なんてことすんのっ!」

 トリスティスが両腕に着いた剣でゾルダロイドを突いて後ろに飛ばし、突き飛ばしたゾルダロイドは後ろの二人に当たり、更に岩壁にぶつかって伸びた。

 エルニオも奇襲をかけてくるゾルダロイドに襲われ、尾羽と翼の羽先を切られ、ひらひらと金色と翠玉色の羽毛が舞うのを見て、体をひねり叫んだ。

「邪魔だっつーの!! こうなりゃ、密かに編み出した技だ、ツァリーナ!!」

「ええ、行くわよ!」

 エルニオは体を回転させ、旋風のように動き、そこから四方八方に羽の矢を飛ばした。

「旋風羽矢陣(ウィンディーズ・フェザーダスト)!!」

 放たれた矢はゾルダロイドの鎧や兜、腕や脚に刺さり、喉や額や目などの致命傷になる部分には当てず、そのまま倒れた。

 羅夢はというと、ゾルダロイドのスクラム攻撃を受けるも素早さを活かしてジャンプして脱出、そして両腕から蔓の鞭を出し、残りのゾルダロイドを束縛し、更に花びら爆弾、梅花爆弁(ブルーメン・ボンバティエ)で攻撃し、動きを制止した。

 ジュナはというと剣を出し、ユリアスと対峙していた。白い両刃と黒い蛮刀がぶつかり合う。

「ジュナ、今行くぞ!!」

 エルニオが鳥頭の銃を出して、助太刀しようとしたが、氷のつぶてが無数飛んできてケティ達のいるオリにぶつかった。

「ぐあっ!!」

 ガシャーン、という音と共にこの光景を見ていた子供たちが怯えた。

「ジュナちゃん!」

「ジュナさん、今……」

 トリスティスと羅夢がジュナを助けようとした時、二人の足が地面に沈んだ。

「な、何……!?」

 よく見てみると、両足首が乾いた砂と化した地面に埋まっていた。

「うふっ。お嬢ちゃんは私が相手してあげるわよぉ」

 頭部からはみ出たオレンジの髪をなびかせて、ガルヴェリアがたちふさがったのだ。

 ユリアスはジュナを猛攻しまくり、黒い蛮刀を何度もジュナに叩きつける。ジュナは白い剣で押さえるばかり。

「くっ……、どうすれば……」

 ジュナが困っていると、ラグドラグが語りかけてきた。

「ジュナ、こうなりゃ奴が剣を振り上げてきた時、後方に回るんだ。一か八かだ」

「うん」

 そのうちジュナは追いつめられ、岩壁に当たった。ユリアスが蛮刀を振りおろした時、見事に横に飛び避け、後方に回ることに成功した。

「何!?」

 ユリアスが驚いていると、ジュナは横に跳びながら竜晶星落連(クリスタルスターダスト)を放って、結晶のつぶてはユリアスの体全体に攻撃された。

「うおおおっ」

 ユリアスは大きく飛ばされて、後ろ大きな岩に激突した。

「くそっ、動かない……」

 エルニオはマレゲールの氷結攻撃によって右手は銃を持ったまま氷漬けにされ、両足首も凍らされて地面から離れなくなっていた。マレゲールの額の契合石から個人の武器であるツララの様な槌矛(フレイル)を出してきた。

「おい、これ卑怯なんじゃないか?」

 エルニオは槌矛(フレイル)を出してきたマレゲールを見て、寒さで震えながら言う。言葉を放つ度に息が出て、歯がカチカチ鳴る。マレゲールは無言で歩み寄り、エルニオに近づいてくる。

エルニオは自身の左手を見た。銃はない。だがまだ凍ってはいない。拳を握り、エルニオは思った。

(あれを使おう。あいつは見たまんま防御はありそうだが、何もできないよりは……)

 エルニオは風を手にため、マレゲールが降りおろす槌矛(フレイル)の動きを観察してから、タイミングを見計らう。

「覚悟」

 マレゲールともオーガジェともつかない声が槌矛と共に振り下ろされてきた。

(今だっ!!)

 そしてエルニオは風をこめた拳を突き出し、竜巻を発生させた。

「竜巻昇拳(テンぺスターブロークン)!!」

 翠の竜巻がものすごい勢いでマレゲールを押し出したが、マレゲールは自身の足元を凍らせ、吹き飛ばされぬように固定した。しかも体が大きく、大きな殻を持っているため、動かない――。と、思いきや、真上の岩柱が竜巻で壊れ、マレゲールの真下に降ってきたのだ。

「ぐわあああ!!」

 マレゲールは岩柱の下敷きとなって埋もれた。

「いやあ、何これ……。沈む……」

 羅夢とトリスティスはガルヴェリアが作った砂地獄によって身動きが取れなくなっていた。もがけばもがくほど沈み、腰まで埋まってしまった。

「ウフフフフ、どう? 私の作る砂地獄は? それにこんな事も出来ちゃうのよ」

 そう言って自分の身の丈ほどもある赤銅で先端に蟻の顎のような銀の突起に契合石と同じ色の石がついた杖を地につけ、砂地獄を高速回転させた。

「ああああ〜」

 二人ともぐるぐる回され、更に砂粒が素肌や目や口に入るため、痛くてたまらない。

「おほほほ、愉快愉快♪」

 ガルヴェリアは高笑いする。

「くっ……、姉さん、こうなりゃ反撃しやしょう……」

「ど、どうやって?」

 トリスティスがソーダーズに訊いた。

「水を出しやしょう。そうすれば固まります……」

「そんなこと言ったって、ああっ!!」

 羅夢とぶつかったが、トリスティスはこの隙を突いて、両腕の剣先から水を放出し、砂地獄全体に降り注がせた。砂漠から湧水が出るように、砂地獄は濡れて固まり、回転を止めた。

「な、何ですって!?」

 ガルヴェリアは相手の機転に驚き、その時、濡れた砂地獄から飛び出した羅夢が両手から蔓の鞭を出し、ガルヴェリアの動きを封じた。

「トリスティスさん、今です!!」

 羅夢が叫んだと同時、トリスティスが飛び出し、右腕の剣を突き上げ、ガルヴェリアを押し出して、天井にめり込んだのだ。

 オリの中でジュナチームと三幹部の戦いを見ていたケティは、融合闘士(フューザーソルジャー)姿のジュナを見て、母親に引き取られる前の出来事を思い出していた。

「あの白い人、確かわたしを……」


 右手と両足を凍らせられていたエルニオはジュナの攻撃で、氷を砕いてもらい、動きを取り戻した。

「これで……、終わったんでしょうか?」

 羅夢が三人に訊くと、岩の表面にぶつかったユリアス、瓦礫から這い出たマレゲール、天井の穴にはまっていたガルヴェリアが下りて現れた。

「己……いい気になりやがって……。我ら幹部の本気を見せてやる……」

 ユリアスが真紅の眼を向けてくる。

「今更後悔しても遅いぞ」

 マレゲールが野太い声を出す。

「うふふふふ……楽しいわよ……」

 ガルヴェリアが冷たく笑う。

「み、みんな気をつけて、何が来るか……」

 ジュナが剣を構えてみんなに言う。

「準備はできている」

 エルニオが二丁の銃を幹部に向ける。

「私は大丈夫。この間、怪獣と戦ったばかりだもの」

 トリスティスが両手をクロスさせながら言う。

「こ、怖くありません」

 羅夢が言う。その時、ユリアスの黒い蛮刀を中心にガルヴェリアの杖、マレゲールの

槌矛がそれぞれ闇の波動、大地の砂塵、冷気の風を帯び、その三つを重ねた時、漆黒と赤銅と古代紫の波動が放たれ、四人を吹き飛ばしたのである。

「暗黒三重咆哮(ダンケルトリオノヴァ)!!」

 それは臨時基地の岩壁に孔をあけるほどの威力で、四人はその衝撃で融合が解除され、融合適応者と融合獣に分かれてしまった。

「う……うう……何て力だ……」

 土煙の中、暗黒三重咆哮を受けてダメージを負ったラグドラグが呟いた。ラグドラグ達融合獣は急速再生の人工肉体パーツでできているため、ケガをしてもふさがり、融合闘士の時でも適応者の傷をいやすことができる。ラグドラグ達は治ったものの、ジュナ、エルニオ、トリスティス、羅夢は顔や手足に細かな傷を負い、服もところどころ破れている。

「ジュナ……」

 ラグドラグは起き上がろうとしたが、傷が治ったのに対し、体にはまだ負担があるため起き上がれない。仰向けで倒れ、全体にかすり傷や切り傷、一番酷いのは右こめかみから血が流れ出ていた。仰向けで倒れたジュナにユリアスが近づいてきた。ザリ、という砂粒や小石を踏む音が近づいてきて、ユリアスはジュナの前に立ち止まる。

「我らの任務の妨害をしおって……。だが暗黒三重咆哮を受けたのならば、反撃は怖くない。せめて楽にしてやろう……」

 そう言うなり、ユリアスは蛮刀を振り上げ、ジュナを斬り殺そうとした。

(ジュナ……っ!!)

 ラグドラグがもうダメだと思った時、白光に輝く鞭が飛んできて、ユリアスを弾き飛ばしたのだ。

「おあああ!!」

 ユリアスは後方に飛ばされ、岩壁にぶつかった。

「な、何者!?」

 ガルヴェリアが突如ユリアスにしてきた攻撃を見て、暗黒三重咆哮で空けた穴から入ってきた人物を見た。そこには象牙色の体に抹茶色の両翼を持った融合闘士がいたのだ。翼の他、額にプラチナの一本角、頭部のたてがみも抹茶色で、翼についている契合石は紺色、この姿は聖騎士(パラディン)の如く。

「貴様は誰だ!?」

 マレゲールがその融合闘士に訊いた。融合闘士の口から言葉が紡がれる。


「ダンケルカイザラントに因縁を持つ者さ」

 聖騎士融合闘士は若々しい男の声で三幹部に言った。

「何ですって!?」

 ガルヴェリアが聖騎士融合士に言った。ジュナたちはもうろうとした意識の中で、誰かが助けに来てくれたと悟った。いや、もしかしたらダンケルカイザラントとは別の組織で敵なのかもとも思った。

「貴様らの行為は、数々の刑務所襲撃、囚人無断釈放、障害者誘拐罪、悪徳福祉責任者殺害罪、児童養護施設の破壊罪、児童誘拐罪! 社会の暗躍連中でも娑婆では免れまい!!」 

 そう言うが早いか聖騎士融合闘士は二本のトゲのような短剣を二本翼の契合石から出した。刀身は角と同じプラチナ、柄は翼と同じ抹茶色である。

「ふん、生意気なお坊ちゃん! まずはあんたから始末してくれるわ!」

 ガルヴェリアは手の全指を聖騎士に向け、指先から白い半透明状の液体を飛ばしてきた。液体は勢いよく放出され、液体の一滴がラグドラグの近くにあった岩に付着し、岩の真ん中が泥のように溶けた。

「溶解液! 酸だ!」

 はいつくばりで倒れていたエルニオが叫んだ。

「融合して適応者を守るんだ!」

 ラグドラグがツァリーナ、ジュビルム、ソーダーズに言い放ち、四体の融合獣は適応者と融合して適応者をガルヴェリアの酸から守ってあげた。聖騎士の闘士に至っては、ガルヴェリアの飛ばす酸を上手く防いだ。両手から白金のバリアを出し、ガルヴェリアの酸を消し去ったのだ。

「わ、私の溶土酸閃(ソイル・メルティング)が……。ならば、これはどうかしら!?」

 ガルヴェリアは杖を持ち、杖の先から赤銅の波動を出し、天井の岩を騎士融合闘士に落してきた。

「あ、危ない!!」

 ジュナは思わず叫んだ。しかし騎士闘士は翼から白金の閃光を放ち、落石を粉々にし、岩は砕け散って小石となってばらばらと地に落ちた。

「な、何を……」

 ガルヴェリアは身じろぎし、マレゲールが前に出た。

「俺がやる。奴の攻撃パターンからすると、光の融合獣……。ならば氷の力を持つ俺が奴に勝てる」

 そう言ってマレゲールは肩の触手から冷気を勢いよく放出し、更に肩の殻を分離させ、飛ばしてきた。冷気を受けた騎士闘士は動きが鈍り、更にマレゲールが放った殻に当た

った。

「ぐわっ!!」

 騎士融合闘士は後ろに飛ばされ、岩壁にぶつかった。

「あっ、あの人が……」

 そしてジュナは飛びだし、騎士闘士のもとへ駆け寄る。

「し、しっかりして……。またあなたに助けられた……」

 ジュナは融合闘士に手を伸ばした。

「僕は……大丈夫さ……。奴らをとらえないと……」

 融合闘士が起き上がろうとした時、ジュナの体が純白に発光し、両手を天にかざし、その掌から白い流星が放たれ、その流星は分裂して、マレゲールの体にヒットした。ジュナの新しい技、昇竜天星閃(ティンクル・スターパクル)である。その攻撃でマレゲールは後ろのモニターと操作盤にぶつかり、機械は火花を上げた。その時、コンピューターが警報を起こした。

『証拠隠滅のための自爆を開始します……』

「なっ、何ぃ!? じ、自爆だとぉ!?」

 エルニオが声を張り上げて叫んだ。

「わーん、みんなお陀仏です〜!!」

 羅夢がうろたえる。

「ちょっと、解除の方法とかないの!?」

 トリスティスが幹部たちに言う。

「ない。だが我々は逃げる。子供たちは連れて行けぬが、機動船があるからな。マレゲール、ガルヴェリア、転送移動だ」

 ユリアスが言うと同時に、幹部たちは薄っぺらいカードのような機械を操作したのち、伸びていたゾルダロイドをと共に淡い紫の粒子に包まれ、姿を消した。

「くそっ、あいつら自分たちだけで逃げたぞ!!」

 エルニオが吐き捨てる。

「何とかして、ここから出ないといけませんよ!」

 羅夢が泣きそうになりながら言った。

「しかし、どうやって……」

 トリスティスが頭を抱える。

「おねえちゃーん」

「うわーん」

 オリの中の子供たちも泣いている。

『爆発まで十ノルクロ(十分)』

「十ノルクロしかない! どうしたら……」

 ジュナが言ったと同時、どこからか白い霧が出てきてみんなを包み、ジュナも仲間もオリの中の子供たちもみんな眠ってしまった。騎士の融合闘士だけは除いて。

 それから十ノルクロ後、エリヌセウス東隣国境近くの岩山が大爆発を起こした。


「……ナ……、ジュナ……」

 自分を呼ぶ声がしたので、ジュナは目を覚ました。白い部屋の天井に清潔そうな空気。ジュナは簡素な白いベッドの上で寝かされているのに気づいた。そして自分のベッドのそばにラグドラグと母親がいたのだ。母親はビジネスワンピースではなく、ベージュのプルオーバーと緑のタイトスカートの姿で目を泣き腫らしていた。

「ママ……? ここは……?」

 ジュナがもうろうとした頭で母親に訊ねようとした時、ラグドラグは「病院だ」と答えた。

「お前は、いやみんなガムリッサの地方立総合病院に運ばれたんだよ」

「病院……」

 よく見てみるとジュナは頭に包帯を巻きつけられ、右ほおにばんそうこう、腕や脚にも包帯やばんそうこうが施され、服も水色の長いガウンの診察着を着ていた。よく見てみ売ると、病室は四人までが入れる共同部屋で、左右にベッドが二つずつ、ジュナは入り口側のベッドで寝かされ、その隣にエルニオ、その反対側の右側のベッドに羅夢とトリスティスがいた。窓は開かれており、碧空と緑地の背景が見られ、カーテンと近くの木の枝が風で揺れていた。ジュナだけでなく、みんなの家族も来ていた。

 エルニオのベッドにはツァリーナの他にエルニオの姉の祖母と姉が来ており、二人ともエルニオと同じプラチナブロンドと翠玉の瞳をしていた。羅夢にも両親や弟、ソフトジュビルムも傍らにおり、トリスティスにも両親とソーダーズがいた。母親は浅黒い肌である。

「そうだ、ケティはどうした? 『集いの家』のみんなは?」

 ジュナはケティやみんなの安否が気になって叫んだ。

 その時、ジュナたちのいる病室に一人の立派な身なりの壮年の紳士と浅黒い肌の暖方人種の女性と約七歳と約五歳の女の子が入ってきた。紳士は細身で色白で金茶色の髪と銀灰色の瞳、その妻は長い黒髪をアップにし、茶色の眼に恰幅のよい女性で、二人とも高級そうな金ボタンのスーツを着ており、その子供たちも仕立てのよい服とドレスを着ていた。子供たちは父親と同じ髪と目と肌である。

「あの……あなたは……」

 ジュナが一家を見てみると、紳士はジュナにあいさつをした。

「私はケティの新しい父、フォンベルト・カルツェン公爵です。ジュナさん、目を覚ましてくれましたか……。二日も眠っていたから当然ですが、あなたにお礼を言いたくて……」

「二日!? わたし、そんなに寝ていたの!?」

 ジュナが驚いて言うと、隣のエルニオが「そうだよ」と言った。

「二日前のあの夜、僕たちはいつの間にかガムリッサ地方の山林にいたんだ。いつ出たのかわからないけど……。その後は、猟友会の人たちが見つけて、病院に運ばれたそうだ」

 いつの間にこんなことになっていたのかとジュナは思ったが、ジュナはカルツェン公爵の方に顔を戻す。

「誘拐された娘とその友人たちを助けてくれて……ありがとうございます……。何とお礼を申したら……」

 公爵も夫人も目に涙をいっぱい浮かべて、ジュナに礼を言った。

「ケティ……嬢はどうしていますか……?」

 ジュナは公爵に訊いた。すると若い看護婦がケティを病室に入れてやって来た。ケティは入院着を着ていたが、ケガは一つも負ってはなく元気そうだった。ケティはジュナの前に来た。

「ジュナ」

 ケティはジュナに語りかける。

「孤児院に銀行強盗が転がり込んできた時、助けに来てくれたのはジュナだったのね。わたしは……ジュナの普段の顔は覚えていなくって、そこの白竜君(ヴァイス・ドーリィ)と合体したジュナを見た時、銀行強盗が逮捕際に言っていた〈白竜の化け物〉の言葉を思い出したの。あの白い人とジュナは同じだったんだってことを。二回も助けてくれてありがとう。」

 ケティはジュナにお礼の言葉を言った。覚えていないと言われた相手から感謝の言葉をささげられたジュナは涙と嬉しさが込みあがって来て、溢れ流した。

 院の子たちも同じ病院にいて、その後はカルツェン公爵の慈善事業のおかげで子供たちはカルツェン公爵家に引き取られ、住処と学校と仕事を与えられた。ジュナたちは家族から一晩帰ってこなかったことを怒られたが、生きて無事ということでおとがめが許された。

 アウローラ号も無事にみんながいた山林にあったので、エルニオとジュナの家族は一緒にアウローラ号で帰っていった。(羅夢一家とトリスティス一家は地方をつなぐ運搬機で帰っていった)

 

 ダンケルカイザラントの司令室。三幹部は最下層の段に横一列に並んでいた。

「申し訳ありません、ダイロス様。未来の兵士となる子供たちを回収できませんでした……」

 ユリアスが最上段のダイロスに伝えた。

「あの四人は私たちより弱いから何とかなると思ったのですが……、邪魔者が乱入してきまして……」

 ガルヴェリアも伝える。しかしダイロスはスクリーン越しに三幹部に伝えた。

「まあ、他にも種の仕入れは出来た。我が同士、テナイが集めた契合石もある。契合石とサイボーグ人間、これらがあれば、我が組織の理想化実現も夢でない。

 だが、我らダンケルカイザラントに反する者や邪魔する者は容赦させるな、いいな」

「はっ」

 三幹部は声をそろえていった。